俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか? 完 作:ケツアゴ
多少低評価食らっても高評価くれたので何とか8以上キープ ギリだがね
昨日日刊三位でした やった
知り合いの結婚式に出席したらナメタケの瓶で作った首飾りをした敵が現れ、純粋な好意を伝えられたら幼馴染みに濃厚なキスをされた。脈絡のない怒濤の展開の中、ディープキスの刺激に耐えかねたアリーゼが顔を真っ赤にして倒れる。……あのような純情さでよく初対面の俺にキスが出来たものだ……。
「本日はアリーゼ様が気絶いたしましたので失礼いたします。あっ、これ一応婿殿のためにとお作りになられた鳥の唐揚げですのでお受け取りください」
「ギトギトのベタベタで食えたもんじゃないけど、一応頑張って作ったんだ。……味の感想は適当で良いから言ってくれよ、旦那」
動揺からか俺がタッパーを受け取るとアリーゼを担架に乗せたエトナ達は去っていく。あの担架、予め用意していたのか……。本来なら此処で捕らえるべきなのだろうが行動が遅れてしまい逃げられる。……さて、問題は此処からだ。今までベッドに下着姿で潜り込んできたり、風呂場に乱入してきたり、キスされたりは有ったが今日の事ほど過激なスキンシップは無かった。
「……と、取りあえず戻るか」
パクパクと脈打つ心臓の鼓動を感じながら緊張と気まずさを誤魔化すように話を振る。返事の代わりにムシャムシャと何か食べる音が聞こえ、見てみれば何時の間にか俺の手から唐揚げが入ったタッパーが消えていた。
「塩気が強いし油っこい。調味料のキツい味しか感じないよ」
「……有り体に言えば不味いですね」
「轟!?」
先程までこの場に居なかった轟と遥は手掴みで唐揚げを口に運びながら文句を口にする。いや、クリスも遠回しに食べないで良いと言っていたし、見ただけで失敗料理だと分かる出来映えだ。揚げる温度も油に入れるタイミングも出す時間も調味料も間違えているのだろうが……。
「遥、流石に俺が貰ったものだし食べなくては失礼なのだが……」
「相手は敵だよ? 無礼で結構じゃないか。それとも彼女に礼儀を通したい訳でもあるのかい?」
「……いや、それは」
敵である事を指摘された以前に遥の態度は普通ではない。むくれた顔でもなければ不機嫌顔でもなく、真顔なのだ。声からは何の感情も感じられず、この様な遥など俺は知らない。それに対する動揺が俺から思考力を奪っていった。
「兎に角君は君と自分の家族と私が作った物だけ食べていれば良いんだ、分かったね?」
「いや、急だな……」
「分かったね?」
有無を言わせぬ強い態度に思わず頷いてしまう。その間にも轟の胃袋に唐揚げは吸い込まれていき、後には油でベタベタになって洗うのが大変そうなタッパーのみが残った。揚げた後で油を切ってなかったな、これは……。
「……じゃあ私は先に戻るから」
「お前がか!?」
「別に良いだろう? じゃあ」
あまりのことに絶句する。あの遥が特に用もないのに俺と別行動をしようと言い出すなど、一体何が起きたのだと呆然とする俺は咄嗟に救いを求めて轟を見る。だが目を合わせてくれなかった。
「……人前で舌を絡めるとか不潔です」
「いや、あれはどう見ても……」
そこは断固抗議させてもらう。俺は急にキスをされ、挙げ句の果てに舌をねじ込まれたのだ。抵抗はしなかったが唖然として行動が遅れたからであって……。
「不潔です……」
だが、思春期の彼女には言い訳など通じないようだ。プイッと更に顔を背けると足早に去っていく。ああ、非常に気まずいな……。
「あの者は何を考えているのでしょうかっ! 主殿も一度怒るべきです」
夕食時も遥の態度は直らず、散歩中に何があったか訊ねて来た小鈴は憤慨している。俺のために怒っているのだろうが……。
「気持ちは嬉しいが怒るな、小鈴。撤退させるのに役立ったし、ああ言えば今後は言い寄って来ないかもしれないだろう?」
「ですが……主殿、此処は拙者が一言ガツンと……いえ、放置しておきましょう」
拳を振るわせていた小鈴だが何時も何をされているのか思い出したのか途端に涙目になって小刻みに震えている。完全にトラウマになったな。あのセクハラが……。流石に今度は注意をキツメにしておくか。
「俺は大丈夫だ。……さて、お前の忠誠心に応えるために何か買ってやろう。何が食べたい?」
「焼き鳥でお願いいたします!」
瞬時に元気になった小鈴は遠くに見える焼き鳥の屋台を指差しながらポニーテールを激しく振るう。ネギは……大丈夫だったな。魂に刻まれた本能からか苦手意識が有るらしいが……。
「おい、入るぞ」
何時も遥は勝手に俺の部屋に入ってくるので今日も文句を言ってスッキリして終わりかと思いきや一向に来ない。このままではモヤモヤして眠れないので少々遅い時間だが遥の部屋のドアをノックすれば返事が返ってきた。
「……勝手に入れば?」
少し機嫌が戻ったのか感情が戻っている。酷く拗ねた様子だが、昼間よりはずっとマシだ。帰る途中も帰ってからも感情を一切出さなかったからな。
「こんな時間に何用だい? 夜遅くに乙女の部屋に来るなんて常識がないよ」
「……すまん。だが話がしたくてな。昼間の件だが……」
上目遣いに睨んでくる遥に何も反論できず俺が口ごもるとベッドの端に座っていた彼女はスペースを空けてやや乱暴に手で叩く。此処に座れと言うことだろう。当然俺は素直に座るが遥は目も合わせようともせず、俺は気まずさから腕を組んで黙り込む。沈黙が続いた時、不意に遥が口を開いた。
「……最近、私の居場所が侵されてると感じたんだ。身勝手でも何でも君の隣は私の物なのに小鈴やらアリーゼやら君の隣に居ようとする。挙げ句の果てに君はアリーゼの想いを僅かでも受け入れるような発言だ。……だから私は悪くない」
「そうか。なら、悪いのは俺だな……どうすれば許して貰える?」
遥は女子校に通うというのに俺に同じ学校に通いたいと言ったり転生特典に家族をそのままにするというのを選んだりと寂しがりやだ。だからかこの世界に来てから俺への依存が強くなっていると分かっていたのに、僅かでも自分の側から居なくなるのではと誤解を与える発言をしてしまったからな。
見つめること数秒、長く感じた間をおいて遥が口を開いた。
「……添い寝。今日添い寝してくれたら許す」
「……分かった」
返事を聞くなり遥は布団に潜り込み手招きをする。そういえば昔は一緒に寝たものだ。別に意識し始めた訳ではなかったが、この年頃なら一緒に寝ないものだと知った頃から一緒に寝なくなったがな。最近たまに潜り込んでくるのも寂しさからだったか。
「悪かったな。思い返せば最近他の者に構う時間が増えていた」
小鈴が一緒に散歩に行きたいと言い出したので夕食後に散歩が日課になり、エリアーデのラボに不定期に視察に行ったり、焔や轟と修行したり、治癒崎を始めとするクラスメイトに勉強を教えたりと、同じ高校なのに一緒じゃない時間が増えていた。特に最近はエトナが夢に出てきて疲れてたりしたしな。
「……気にしなくて良いよ。私の我が儘なんだからさ」
俺の首に手を回して密着してきた遥は珍しく照れた様子で俺に視線を向ける。うん。こうしてるだけなら美少女なのだがな。改めて残念だと感じるぞ。
「ねぇ、昔みたいに頭を撫でてくれるかい? 慰める時は手を繋いだり撫でたりしてくれただろう?」
別にその程度ならと撫でてやると嬉しそうにはにかむ。釣られて俺もつい笑ってしまった。いや、本当に此奴と居る時が一番楽しいな。苦労も多いがそれ以上に楽しさがある。
「もう一つだけお願いがあるんだけど……ほっぺで良いからキスしてくれないかい? 君って私やアリーゼからされたことはあっても自分から誰かにしたことないだろ? 君の初めての相手だって思うと安心できそうなんだ。……駄目かな?」
不安そうにしながら目を閉じて頬を近づける遥。少々気恥ずかしいがこの状況で断るに断りきれんな。断ったら泣かれるパターンだ。
「……今回だけだぞ」
深呼吸をして遥の頬にキスをする。ああ、恥ずかしい。もういっそのこと本当に恋人にでもなれば楽に……危ない!? しっかりしろ、俺。流されては駄目だ。もう寝ろ。寝て全部忘れてしまえ。
遥も寝ているので俺も目を閉じて睡魔に身を任せる。さてさて、どんな夢を見ることやら。予知夢でないと良いのだが……。
「これがフラグという奴か……」
この日、またしても始まった予知夢に俺は深い溜め息を吐くしかなかった……。