俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか? 完 作:ケツアゴ
桃も桃、李も桃、桃にも色々ある。この様な早口言葉を知っているだろうか? それと同じように海に関係する怪物として有名なのがクラーケン。巨大な烏賊のモンスターで、日本でも同じような怪物の言い伝えはある。
まあ、俺が前までいた世界ではダイオウイカやらミズダコが妖怪として伝わったのだろうが、この世界では普通に存在する。……神話の立ち位置は無視して欲しい。大体の作品で、ギリシャ神話では女神の血を引く王妃から生まれた怪物の筈のミノタウロスが何匹も居たりするだろう?
さて、話が逸れた。海に関する怪物といえば他に有名なのはやはり人魚ではないだろうか? 人の上半身と魚の下半身を持ち(日本のはまさに人面魚と呼ぶべきなのが伝わっているが)、八尾比丘尼で有名なように肉を食べれば不老不死になると伝わるアレだ。尚、この世界の人魚を食べても腹を下すだけらしい。
「ええい! 下がれ下がれ! 主殿は貴様らなどの伴侶にならぬっ!!」
その人魚だが、俺と小鈴の前に群れで現れていた。絵本のようにヒトデや貝殻で胸を隠した人魚達だが、姿を見せるなり興味深そうな視線を送り、俺にある交渉を持ち掛けてきた。
自分達と交わらないか、とな。
「ここ数年、巨大化した生物が増えてきて、強そうな貴方の血が欲しいのよ」
それを聞いた瞬間、小鈴は腕の内部に収納されていた刃を出して威嚇したのだが……非常に拙い。誤解しないで欲しいのだが、誘いがご破算になると心配したのでは無いぞ? 温厚で浪漫的なイメージを持っている者も居るだろうが人魚の中には人を食うとされる種族も存在する。
「……お前達はセイレーンだな?」
セイレーン、歌声で誘い出した船を座礁させるとされる人魚。ハーピーのような半人半鳥の場合もあるが、人魚の時もある。歌声を使って捕らえた人間の男を誘い……断れば食い殺す。
俺の半ば確信した上での質問に対し、誘いを掛けて来た人魚、おそらく群れのリーダーらしい一体が口を開く。美人と言えるだろう姿で妖艶に微笑むが、覗かせた八重歯は鋭く尖っていた。
「ええ、そうだけど……私達と楽しむかお昼ご飯になるかどっちが良いのかしら?」
「はっ! どうせ要求を呑んでも食べるのだろう? 大体、元居た世界に戻れば全て解決するだろう。断る」
俺はそう宣言するなり『神器招来』を発動させて刀を呼び寄せる。水中だが既に発動している能力によって動きの制限はそれ程無い。問題は数が多い上に奴らのフィールドだという事だ。
「馬鹿な男ね。強くても馬鹿は駄目よ、馬鹿は。もう少し賢ければ死ぬ前にいい思いが出来たのに」
「まぁ此処は適当に乗った振りをして隙を突くはずだったんだが連れが余計な事を言ったしな」
「うっ!? も、申し訳ありませぬ……」
嘲笑して来る人魚達に俺は肩を竦ませ、小鈴は肩を落とす。まぁ此奴は目覚めたばかりで子供のようなものだ。俺は気にするなとばかりに頭に手を置くと刀を構える。それにあのままでも誤魔化そうと思えば誤魔化せた。だが、俺は我儘なんだ。
「生憎、お前達に嘘でも口説き文句を垂れるなら、先に口説くべき相手が居るんでな」
まあ、今は別に口説く気はしないが彼奴に言いもしない言葉を此奴らに言うのは嫌だった。そんなしょうも無い我儘だ。
「……そう。なら死になさい。肉の一片たりとも残しはしないわ」
人魚のリーダーは目をすっと細め、手を振り上げる。下した方の片手は屈辱で震えている所を見れば自分の美貌に自信があったのだろうな。
「お前達、俺の幼馴染に比べれば……」
一斉に向かってくる人魚達。大きく開けた口の中には収納されていたのか鑢状の鋭利な歯がビッシリ出現し、爪も鋭利に伸びている。人間の男を誘う為の擬態から本来の姿に戻ったのだろうが……うん、残念だったな。
突如海が割れ、人魚達は水中から空中に投げ出される。重力に従い落ちていく時の顔は困惑と驚愕に染まり、場の空気を支配するかのように高笑いが響いた。
「ははははははっ!! 主役は遅れて登場するっ! 故に遅れてきた私は主人公の中の主人公という事さっ!!」
さて、モーセの杖かポセイドンの槍でも出したかは知らないが何にせよ助かった。流石に無傷で全部倒すのは骨が折れそうだからな。
「ぐっ! 貴様、何も……」
「……煩い、消えろ」
遥を睨んだ人魚の首を轟の刀が串刺しにする。
「委員長、全部倒して良いんだよな?」
「小鈴から送られて来た信号で敵襲って分かっているだろう? ったく、これだから……」
焔が数匹纏めて炎で包み込めば、ここぞとばかりに馬鹿にした口ぶりの遥が態々炎を出す剣で数倍の数を灰に化す。さて、俺も参加するか。人食いの怪物を放置は出来ないからな。
「取り合えずそこの一体はボスだから他の群れの情報を聞き出すとして……エリアーデ、助かった。小鈴もだ。お前達のおかげで早く増援が来たのだろう?」
褒めるなり上目使いで無言の要求をしてくる小鈴の頭を撫でてやる。本来なら頭を撫でられても嬉しいと思うのは多くはないのだろうが、此奴は嬉しく思うタイプみたいだからな。……犬とのスキンシップで撫でるのと同じなのか?
「ふふん! 私の頭脳ならイザというべき時の為に準備は抜かりないんだねっ! さて、お礼に少し実験に……」
「所で巨大化した生物が増えているらしいな。俺も何度か遭遇したが……お前の仕業だ」
仕業か? ではなく、仕業だ。実際、俺が断言するなり目を逸らして口笛を吹きだしたのだから間違いない。俺が指を鳴らせば即座に小鈴が羽交い絞めにする。さて、どうしてやろうか……。
「出来心ー! 出来心なんだねー! この辺は私のプライベートビーチだし問題ないと思ったんだよっ!」
「なら、俺と小鈴が海中散歩をすると知っていて教えなかったのは? どうせデーター取りだろう?」
「そ、それも出来心で……」
さて確か落語にこんな感じのオチがあったな。確か『出来心』だったか?
「おい、皆。バカンスは中止。巨大生物の処理を開始するぞ」
「……仕方ないですね、では、幾人かに別れましょう。取り合えず委員長は私と……」
「じゃあ別荘に残ってる二人に連絡しないとな」
流石に人間より大きいシャコ貝やらは危険だし放置は出来ん。皆も仕方なさそうにしているな。……エリアーデは後で反省文や研究予算の大幅削減などの罰則フルコースだが……俺も諸々の書類を提出すべき必要が出来た。今夜は徹夜か……。
気が重くなった俺はガクリと肩を下す。終わり良ければ全て良し、と言うが、終わりが駄目なら全部駄目だな……。
「やあ、お疲れ様。リラックスするお茶を持ってきたよ」
この日の夜、家に戻った俺は提出する書類を何とか徹夜せずに書き上げたのだが、それを見計らったかのように遥がお茶を持ってきてくれた。さて、何も仕込んでいないようだし頂くとしよう。
「美味いな。それにリラックスしたおかげか眠くなってきた」
「君は頑張り過ぎだからね。もう少し肩の力を抜くべきだよ」
散々苦労を掛けてくる奴が何を言うかとは言わず、ここは素直に頷いておく。流石に此奴が受けに回ると純情になるのを利用したのは気が咎めているしな。我慢だ我慢。
「そうそう。一つ聞きたいんだけど」
俺がもう寝ようとした時、珍しく素直に出ていこうとした遥が足を止めて振り返る。何を聞く気のだろうか。俺は少し身構えたが、聞かれた内容は他愛もない事だった。取り越し苦労という奴だな。
「あの種族って男を誘ってくるそうじゃあないか。少しは心を動かされたのかい?」
「あのなぁ。たとえ冗談だと分かっていてもお前の口説き文句に拒否で返す俺だぞ? 奴らに動かされる程度なら俺とお前はとっくの昔に恋人だ」
「……そっかっ! ねぇ、今日は一緒に眠ろう。そんな気分なんだ」
俺が拒否する間もなく布団に潜り込んできたり、お茶のコップを水に漬けておかないと色素が沈着するとか色々あるが今日は疲れたので口にするのを止めておこう。
「変な事はするなよ」
「いや、男の君が言うのはどうなんだい? ああ、君はしても良いよ」
まったく、馬鹿者が。仮にお前とそういった行為に及ぶ場合はちゃんと段取りを踏むに決まっているだろうに。俺は呆れながら布団に潜り込んで目を閉じる。
「明日は朝から書類を提出に行くぞ。事情説明に一緒について来い」
「面倒だなぁ。……行く代わりに抱き着いて良いかい?」
既に抱き着きながらの言葉ではないだろうに。さて、寝るとしよう。本当に此奴には苦労させられるが……不思議と落ち着くな。俺は目を閉じて直ぐに意識を手放した。
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