俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか? 完 作:ケツアゴ
観覧車よりも巨大な人型の土塊、それが俺の前に立ちふさがっている敵の姿であり、原作において主人公、つまり焔が一度心を折られるエピソードに関わっている。土砂が絶え間なくこぼれ落ち、足元からせり上がって補完を続ける巨体の胸部、心臓の部分が核であり、中には生きた人間が入っている。
原作では知らずに弱点だとだけ思って吹き飛ばした焔が自らを人殺しだと責め立て、慰めた轟との仲が進展する。戦闘中には劣勢で仲間が死にかけた事でレベルアップを果たすなど、焔にとって主人公としての成長イベントという訳だ。
「あはははは! 今此処で此奴を倒せば私の主人公としての地位は盤石だっ!」
つまり、オリ主を自称する遥なら絶対に介入するイベントであり、それが向こうから舞い込んできたのならば見逃さない筈がない。根は善良だから人殺しをさせて責め立てる様な真似はしないが、主人公の成長フラグを積極的に折ろうとする労力を、何故他に回さないのかが甚だ疑問である。
「おい! あの胸部からは人の生体反応がする。まだ生きているから絶対に壊すな」
何故此奴が此処に現れたのか、それは不明だ。もしかしたら同じ種類の別個体かもしれないし、俺たちがこの世界に来たことで何かが変化したのかもしれない。つまり、今回出た犠牲は俺達の責任かもしれないということだ。
「なら、最善を尽くすだけだ……」
もう原作だの何だのというべき時はとうに過ぎている。今確かに生きている世界の住人として、何かをどうにかする力を持つ者の責務として、自分に出来る事をする。そうすべきだし、そうしたいと思った。
「よしっ! このまま駆け上がってくれっ!」
「了解っ!」
遥の指示の下、俺は一気に巨体を駆け上がり頭部を目指す。尚、彼女は俺に肩車をされている状態だ。飛ぶ道具を持ってはいるが、使えるのと使いこなせるのは別なので、周囲を気にしながらの戦闘は難しいので空を走れる俺に乗っているのだ。背負うのは腕が使いにくいから却下され、俺の頭を足で挟み、俺が更に足を掴んで固定させて腕が自由に使えるようにしていた。
「私の腿の感触はどうかな? 癖にならないかい?」
「いや、別に? お前の足に挟まれているよりは抱き締めてやってる時の方が心地良い。どうも受け身は性に合わんのだ」
振り下ろされる腕を蹴り上げ、遥が雷を纏った槍を投げる。頭部に着弾した瞬間、耳を劈く様な雷鳴が響き雷光が周囲を照らす。土塊の巨体が崩れ、赤い核だけが残された。
「むむっ! これはカーミラの仕業なんだねっ!」
「へぇ、やっぱり」
遥の馬鹿がつい口を滑らす。此奴は本当に馬鹿だと心では慌てながらも顔は平静を装う。奇行は平常だ、俺が知らない振りをすれば大丈夫だ。
「……やっぱり? 君、彼女を知っているのかい? まあ、どうでも良いか。ふふふ、燃えてきたんだねっ! 仲間だった時には無理だったけど、今は存分に研究できるんだからねっ!」
後方部隊に連れられてやって来たエリアーデは巨体が復活しないように軽く封印を掛けている核をべたべた触りながらご満悦だ。直径三メートル程の球体の中からは未だに生体反応が確かにしており、助けられるのなら助けたい。……それはそうとエリアーデに怪しまれる所だったな。前世で漫画としてこの世界を知った、など頭がおかしいと思われる……いや、変わらないか?
「おい、小鈴」
「はっ! もしもの時は小鈴めが此奴の首を切り落として御覧に入れて見せましょうっ!」
エリアーデの護衛である小鈴は俺が名を呼ぶと同時に膝をつき、命令をしなくても言いたい事を理解してくれた。目が明らかに期待しているので頭を撫でてやると本当に嬉しそうで顔がにやけてしまっている。だらしのない蕩け方だな。
「それにしても私と主殿は以心伝心、まさに理想に主従で御座いますね、ここは景気づけにエリアーデめの首を跳ね飛ばして、護衛任務は終わったとしてお傍に……」
「いや、此奴は馬鹿で厄介だが必要だ。一応護衛なのだから首は切るな、首は」
「なら腕をっ!」
……だから此奴はどうして此処まで物騒なんだ。胃がキリキリ痛むのを感じつつ、涎を垂らしながらキラキラした目で核を調べるエリアーデと小鈴の間に入る。心底惜しそうに刀を握るな。
「……今度遊んでやる。だから我慢しろ」
「はいっ!」
小鈴は人型のロボットだが基本は犬の精神で、俺を群れのトップだと認識して好意を向けてくる。だからエリアーデのせいで俺と引き離されているって認識なのだろう。とりあえず定期的に頭を撫で、遊んでやろう。
……それにしても金田は災難だったな。藻武と進展したと思ったら今回の事件だ。事後処理の為に記憶をいじるし、下手すればデート自体がなかった事になる。俺が遥と遊んだ時の記憶が消えるとなると気落ちするな。
「まさか事故が起きるとはな。やれやれ、ついていない。藻武もすまんな。俺様の責任だ」
「別に良いわよ。あんた、私を守ろうとしたじゃない。少しは見直したわ、お坊ちゃん」
記憶改竄によってWデート中に事故が起きた程度になったようだが、二人の仲は進展しそうで何よりだ。俺には相手がいないから羨ましいと思うのと同時に微笑ましく思う。二人の仲が無事に進展するには紆余曲折の末に艱難辛苦が待ち受けているだろう。余計なお世話かも知れんが頼られれば力になろう。交際相手もいないから暇だしな、と自虐ネタを交えつつ二人と別れた。
「今日は楽しかった……だが」
金田達と一緒に遊んだ時間は確かに楽しかった。大勢でワイワイ騒ぐのは好きだ。だが、どうも物足りない気がしてモヤモヤする。いったい何がと思いながら歩いていた時、横で手を繋いで歩いていた遥の言葉で何か気付いた。
「やっと二人っきりだ。うん。とっても嬉しい」
忘れかけているが遥は元々引きこもりで対人能力が低い。今回金田達との行楽につきあわせたのは軽率だったな。
「飯でも食って帰るか? 奢るぞ」
「大勢の友達への誕生日プレゼントとかで金欠の君がかい? さて、何が良いか」
少し思案した遥だが、良い店があったのか俺の腕を引っ張って遠くを指さす。派手な色彩の建物の外壁が目に入った。
「彼処のルームサービスが良いな」
「ラブホテルではないか馬鹿者っ!」
「……私を食べて良いんだぜ」
腕に抱きつき上目遣いに誘惑してくるが応じない。ノリで此奴を抱きたくはないからな。腕を掴んで引っ張り足早にこの場を去る。取りあえず適当な店に入ろう。
「さっきの店、カップルが多かったな」
「傍目から見れば私達もカップルだぜ? それも美男美女のだ。はは、嬉しいかい?」
「悪い気はしないが……ないな。うん、お前とカップルとか絶対にない……とまでは言わないが、想像出来ん」
少々こじゃれた洋食屋から出た頃、既に暗くなっており俺達は並んで帰路に就く。空には雲に少し隠された満月が浮かんでいた。
「今日は我が儘に付き合って貰って助かった」
「おいおい、君だって何時も私の世話を焼きっぱなしじゃないか。おあいこさ、おあいこ」
「そうか。……しかしだ、こうしてお前と一緒にたわいもない話をしている時の方が楽しいな。どうやら俺はお前と二人っきりの時の方が好きなようだ」
「……私も君と一緒なのが一番好きだ。一緒にいてくれるなら何だってしてあげられる程にね」
そろそろ家が見え出す頃、もう一度空を見上げる。月を隠す雲が消え、綺麗な月が輝いていた。その月明かりに照らされた遥も綺麗だと素直に思う。
「見てみろ。月が綺麗だぞ」
この言葉の後、遥が少し照れた様に見えたのは気のせいだろうか? ……うん? 確か月が綺麗云々の話を何処かで聞いて、遥に教えた様な気がするのだが……。
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