俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか?  完   作:ケツアゴ

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俺の宿敵がとんでもない勘違いをして辛いのだがどうすべきだろうか?

「あの、主殿。臣下として恥ずかしいことではありますが、ご褒美を頂戴いたしたいなぁっと思いまして……」

 

 早朝、小鈴との散歩の為にエリアーデの家(シーサーに変わっていた。昨日までは河童の頭部)に向かうとドアを勢いよく開けて小鈴が飛び出してくる。足音や臭いで俺を察したらしいが、それなら家主である馬鹿の実験で発生した悪臭は大変だろうなと思いながら身構えた。だが、今日は珍しく飛びついて来ない。

 

 言いにくそうに目をそらし、指先を合わせて動かしながらチラチラと俺の顔を見ていた。

 

「何だ? お前には苦労を掛けているからな。何でも……は無理だが、可能な範囲なら」

 

 俺の迂闊な行動で植え付けてしまった忠誠心、犬の魂をベースにした精神の為か異常に強いそれは、群れの長と認識している俺の側に居たいとの思いを強めていた。だが、現状は群れの仲間とさえ認識していないエリアーデ(創造主)の見張り。ロボット相手とはいえ、見た目は少女で魂由来の精神が有るのなら無碍には出来ない。

 

「も、勿論何かを買ってくれと我が儘を言う気は御座いません。只、テレビの犬特集を見て羨ましくなった事が……」

 

 その番組なら俺も観たので知っている。膝の上に飼い猫の猫左衛門を乗せて撫でくり回す遥が乗っていて時々画面に集中出来なかったが、飼い犬の芸自慢のコーナーが良かった。この時点で俺は思い当たる。ああ、ボールやフリスビーで遊んで欲しいのかと。確かに此奴ならどんな速度でもキャッチ出来そうだ。

 

 只、光景を思い浮かべたらアウトだった。中身犬の少女(中学生程度)が投げられたボールやフリスビーをキャッチし、男子高校生に渡す、そして投げるの繰り返し。通報物だ、後方部隊に隠蔽を頼まなくては。

 

「……あの、ずっと思っていたのです。散歩中に何度も見掛けて、主と犬との繋がりだと……」

 

 どうやら間違いないようで、小鈴は期待する瞳を向けてくる。負い目とか関係なしに好意を向けられている以上は何かしてやりたいが、犬発言で完全にアウトだ。少女に犬と自称させているとか変態の極みだ。

 

「まあ、お前はよく働いてくれているしな……」

 

「ひゃんっ!? あ、主殿、そんな急に……いえ、別によいと言うか嬉しいのですが」

 

 この発言に小鈴は反応し、尻尾代わりのポニーテールが千切れそうな程に激しく動く。中身だけでなく見た目も犬なら良かったのに。それなら躊躇無く撫で回して遊んでやっていた。思わず頭を撫でてやると目を細めて更に嬉しそうだ。これではもう後には退けない。だが、俺には秘策があった。

 

 キャッチボールやドッヂビー形式にすれば良いし、場所は組織の地下トレーニング広場を使えばいい。何時でも言えとばかりに構えていると、少しお待ち下さいと言って小鈴は家へと駆けていく。どうやら既に用意していたようだな。ボール遊びなど遥以外とするのは久々だと思っていると小鈴が戻ってくる。

 

「主殿ー! お待たせしましたー!」

 

 大声で主殿呼ばわりは少し困るので即座に隠蔽系能力を発動。俺の目の前で小鈴が立ち止まった時には落ち着いて手の中にある()()()()()()を見ることが出来た。

 

「これを御手ずから小鈴めに装着して下さい。何というか、他の犬を見ていて主と一心同体っぽくて羨ましく感じておりまして……」

 

「……ちょっと待て」

 

 目をこすり、もう一度見ても現実は変わらない。真っ赤な色の首輪とリードを手に少女が俺に向かって自分の首に着けて欲しいと言っている。後、たぶんその状態で散歩に行きたいと言い出しそうだ。

 

 これで遥ならコブラツイストからの正座で説教だが小鈴は別だ。悪意も変な欲も微塵もない。期待に満ちた純粋な目で俺を見て、駄目だと言われるのを恐れている様子も見受けられる。これでは断るに断れないが、俺の社会的評判が地に落ちそうだ。

 

 

「……やはり駄目ですよね。。ははは、私は何を思い上がって……」

 

「よこせ、じっとしていろ」

 

 乾いた笑い声を耳にした瞬間、即座に認識阻害系の能力で一般人には分からないようにした後、首輪を小鈴の首に着けてやる。細い首に革のような素材の首輪を巻き、苦しくない程度の所で止める。リードの金具を首輪の金具に引っ掛け、望み通り首輪を着けてやった。

 

「散歩に来てみれば貴様と会う…とは……」

 

 着けた時、背後から聞こえてきた声に反応して振り向けばアリーゼの姿がそこにあった。何時もの軍服ではなく、年頃の女性が着そうな小洒落た服で、肩や足の露出面積が広く、身長に合わせたので胸がキツそうだ。ボタン、弾け飛ばなければ良いが。

 

 だが、その程度は問題じゃない。奴の視線は俺の手元、小鈴の首に巻かれた首輪と、それに繋がれたリードに注がれ、現実を受け入れられないという顔で固まっている。うん、一般人以外が来たときの為に感知系も使うんだったと、現実を受け入れたくない俺は思うのであった。

 

「あらあら、婿殿ったら矢張り。……どうせなら私も参加いたしますよ? 首輪だけを身に付けてリードに繋がれて四つん這いで街中を……姫様もほら、そっちの方が好みのようですし……」

 

「んなっ!? そ、その様な真似が出来るかっ!? せ、せめて初めては野外ではなくベッドでだな……」

 

 顔を赤らめ嬉しそうに胸元をはだけさせるエトナに対し、アリーゼは初対面で子供を作るのを要求したにも関わらず、俺に対しての誤解で耳まで真っ赤になってプルプルと震えていた。非常に遺憾であり、即座に誤解の解消の機会を要求したい。俺は頼まれたから中身犬の美少女型ロボットに首輪とリードを着けただけであって……文章にすると最低過ぎた。

 

「と、兎に角今日は散歩で遭遇しただけだっ! 野外露出羞恥プレイについて勉強せねばならんから今日は退いてやる!」

 

「俺はお前に引いている」

 

「あらあら、でしたら私は此処で婿殿の鬼畜さをこの身で計ってから帰りますわ。それで服は自分で脱ぐのと、脱がされるのと、どっちが好みでしょうか? 更に言うなら喜々として脱ぐか屈辱に耐えながらか、抵抗せずに脱がされるか抵抗の末に脱がされるか……想像しただけで濡れて参りました」

 

「誰が鬼畜だ、さっさと帰れ。ゴーホム、エターナルグッバイ」

 

 テンパった表情のままアリーゼは逃げていき、エトナは興奮しきった表情で熱を帯びた視線を俺に、特に下半身を中心に舐め回すように向けてくる。怖い、凄く怖い。

 

 

「小鈴、助けてくれ」

 

「ななな、なんとっ! 主殿に頼られるとは感涙の極みっ! では、リードをしっかりとお持ち下さい!」

 

 精神的に追いつめられた俺はどうにかしていたのだろう。小鈴に助けを求めると張り切った様子で胸をドンッと叩き、俺がリードを握り締めたのを見るなり全速力で走り出す。この時、俺は浮いた。エトナを置き去りに風景が矢のように去っていく中、俺はある事に安堵していた。

 

 

 

(認識阻害、使えて本当に良かった)

 

 でなければ首輪とリード着けた少女に引っ張られて宙に浮く男子高校生の姿が近所の人に目撃されていたのだから。

 

 うん、大丈夫。途中、両手で抱えなければ持てない大きさのメロンパンに嚙り付きながら歩く轟と目があった気がするが、きっと大丈夫だ。取り敢えず食べかすが落ちるから歩きながら食べるのは止めるように言っておこうと思ったが、何処で目撃したとかの話になると拙い気がするので心に仕舞う事にした俺であった。

 

 

 

「も、もう止まれっ!」

 

「はっ!」

 

 町外れの道路を疾走し、路地裏を駆け抜け、商店街を超高速で通り過ぎ、全力で走り抜いて辿り着いたのは俺の家。家のドアを蹴り破き、俺がようやく止まるように命令を下す。即座に急停止する小鈴、浮かんでいた俺は慣性の法則に従って前に飛んでいき、褒めて欲しそうな顔でこっちを向いた小鈴に向かって飛んでいく。巻き込んでで転がること数度、柔らかい感触を顔で感じる。

 

 

 

「主殿……どうぞお好きになさって下さい。私の純潔をお捧げしますっ!」

 

 これがラッキースケベという奴なのか、俺は小鈴を押し倒した格好で胸に顔をうずめている。しかも服がめくれて肌が露出しているのだ。完全に興奮というか発情というか兎に角ヤバい状態の小鈴が照れながらも器用に服を脱ぎ捨てていく中。俺は先程までの空中散歩で三半規管が狂って上手く動けそうにない。

 

「ま、待て……」

 

「何を今更。では、来ないのでしたら私が、いや、それをお望みなのですねっ! 自ら純潔を捧げ、誠心誠意ご奉仕せよと、そう申すのですねっ!」

 

 言っていない言っていない、俺は何も言っていない。だが、もう聞く耳がない。エリアーデの奴、ロボットにどこまで機能を付けてるんだ、あの天才馬鹿。そして血走ってさえいる眼で舌なめずりをする小鈴がショーツに手を掛けた時、背後から鋭い蹴りが放たれて小鈴を蹴り飛ばした。

 

「ひきゃんっ!?」

 

 俺の隣を通り過ぎ、壁に激突する小鈴。特別丈夫な我が家の壁は彼女の激突の衝撃に耐えきり、ずり落ちた小鈴は目を向いて気絶していた。……本当に高性能な奴だ。

 

 

 

 

「さぁて、助けてお礼をして貰おうか。君、覚悟は良いかい?」

 

 前門の虎、校門の狼、一難去ってまた一難、小鈴を蹴り飛ばした遥は俺を見下ろしながらニヤニヤと笑う。何を要求されるか本気で怖かった。

 

 

 

 

 

 

「……本当にこれだけで良いんだな?」

 

「ああ、勿論さ。私に二言はない。……ほら、あの言葉忘れずに言ってよ」

 

 ベッドの中、抱き寄せた遥の髪の香りが鼻を擽る。俺の両手は彼女の細い腰を抱き締め、遥の両手は俺の首、足は俺の足に絡みついて密着する。これが助けたお礼の要求内容。昼寝をするので添い寝して欲しい。ああ、それと、ある言葉を言って欲しいらしい。少し拍子抜けだ。

 

 

 

 

「月が綺麗だな」

 

「……うん。もう私は死んでも良いよ」

 

 拍子抜けで怖いくらいだが、この時の本当に嬉しそうな遥の姿を見る事が出来たのだから良しとしようか。俺はそんな事を思いながら瞼を閉じる。少し疲れたし、こうして此奴を抱き締めていると心の底から安堵して、眠気が襲って来た……。




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最近アブソリュートデュオって作品に興味持って二次も書いています

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