俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか? 完 作:ケツアゴ
新作も要因・・・
瞼を通して入ってくる朝日に覚醒した俺は、身体に乗った重さから何時もの事だと呆れ果てる。大抵遥が下着姿だの裸Yシャツだので俺を誘惑して楽しんでいるからだ。
「やあ、良い朝だね。ご主人様?」
ほら、この通り。今日は仰向けになった俺の腹を挟む形でベッドに膝を付き、俺の腹に尻を乗せての前傾姿勢。服装は下は黒い下着とニーソのみで、上は俺のYシャツだけだ。俺の方が大きいが、胸の辺りが布を圧迫している。呼吸の度に揺れる上に汗で湿って少し透けていた。
「おい、今日はどうした? いや待て、言わなくても良い……」
この馬鹿がこの様な真似をするのは日常茶飯事だが、今日は特に酷い。俺の胸に置いた左手で体重を支え、右手は顔の側に持って行って手首を少し曲げている。そう、招き猫の如くな。後、何故か犬耳カチューシャを着けて首にはリード付きの首輪を巻いている。流石の俺も反応出来なかった。取り敢えず理由は聞きたくないし知りたくもない。
「おや、こういった趣向は嫌いかい? 昨日の一件で目覚めたかもって思ったのさ。今だけは君専用の雌犬になってあげようじゃないか!」
「俺は聞きたくないと言った筈だ。……いい加減俺も我慢しきれん」
「ひゃうっ!?」
この至近距離で遥の甘い香りが漂ってくるだの、サイズが合わないために今にもボタンが弾け飛びそうな胸が目の前だの、少し照れる。知られれば調子に乗るので絶対に内緒であり、あっちのペースに乗るわけにはいかない。俺は判断するなり即座に遥の手を掴んで引き寄せ、間近に迫った顔をすんでの所で片方の手で受け止める。俺の行動に面食らって余裕がなくなった遥の顔と俺の顔は息が掛かる程に近く、手を離せば勢いでキスしてしまう位置にある。
「あ、あの、やっぱりシャワー浴びて来て……」
「その必要はない。十分いい香りだぞ? 嗅いでいたい程だ。……なんてな」
どうやら緊張に伴う発汗や寝汗で匂うと思ったようだが俺は気にしない。嗅いでいたい、というのは勿論冗談だが、俺は此奴がどんな臭いだろうと気にしないからな。それだけの絆が有る。
「うひっ!? わ、分かった。じゃ、じゃあ今から……あれ?」
何やら覚悟を決めた様子の遥だが、本棚から厳選したハードカバーの本が浮かんで引き寄せられたのを見て固まっている。直ぐに気付いて逃げ出そうとするだろうから顔の位置を少しずらして頬がくっつく位置に持って行き、両手で強く抱き締めた。胸が押し付けられ形を変える。強く遥の存在を感じてやや緊張するが、どうも遥も同様らしい。目を逸らして耳まで真っ赤だ。
「俺はノーマルだ。首輪だのリード付きだのといった趣味は談じてないっ!!」
只でさえ轟に見られたんだ。知り合いに変態趣味だと思われるのがどれだけストレスになるか理解せず、あまつさえそんな趣味に目覚めたかもと見当違いな結論に達した馬鹿めがけ、俺は『念動力』(持ち主は砂漠での遭難時に目覚めた)で操った本を遥の頭に殺到させた。
「あばっ!? あべしっ! しぐまっ!? ごばっ!?」
相変わらず奇声の悲鳴をあげる遥。この後、俺にそんな趣味はないと理解するまで語るのであった。
「いや、分かってたよ? 君がどんな奴でも受け入れるって意思表明じゃないか」
「既に分かっているから不要だったぞ。俺が困っただけだ」
「それでも言いたいんじゃないか。君は乙女心が分かってないな。何度も好きだ、君は大切な存在だ、君が欲しい、そう言っているだろうに」
乙女心……遥がっ!? 少々理解不能な組み合わせに戸惑い固まる俺であった……。まあ、遥に対して大切だの何度も言いたいかどうかで言えば肯定だから気持ちは分かるが……乙女? 乙女って何だろう。何時もの行動に悩まされている俺は本気で戸惑った……。
日の光が届かない洞窟の中を俺は進む。時折水滴の音に混じってカサカサと無数の脚が蠢く音が聞こえ、壁を黒い物の群が横切った。目の前では天井から垂れ下がった糸にくっついた葉っぱが揺れ動き、炎で焼いて進めば此方を伺っていた影が慌てて逃げ去っていく。どうも明かりが苦手な様だ。土竜がそうであるように、暗い場所で生息しているから光に鈍感かと思ったが違うらしい。いや、熱に反応した可能性もあるのか……。
「さっさと見付けて帰るとしよう」
空気が淀んでおり、腐臭も時折漂う。気体操作や解毒系能力が無ければ重装備で来なければならなかっただろう。そもそも、だからこそ俺一人で来ているのだが。では、事の始まりを思い出すとしよう。
「治癒崎が連れ去られた?」
後方部隊の仕事は事後処理や実行部隊のサポートであり、現地調査も含まれる。今回も捜索中のターゲットが潜伏している可能性がある怪しい場所の様子を探りに行ったのだが、その際に全く別の化け物に襲撃を受けたらしい。父さんから話を聞かされた俺は今動けるメンバーを思い浮かべるが、父さんから遥は駄目だと告げられた。
「確かに社交性が乏しく常識もないが……いや、そういう事か」
「ああ、そういう事だ。攫った化け物の姿の報告は受けていてな……蜘蛛だ」
傲岸不遜な遥だが、蜘蛛だけは大の苦手で、小さいのを見ただけで使い物にならない。なら今回は仕方ないな。
「しかし未来の嫁さんに少し失礼じゃないのか? 結婚後は大切にしてやれよ?」
「結婚する気はないぞ? 彼奴は大切な存在だが、幼馴染みでしかないからな」
何故か呆れられたが問題ない。しかし父さんが失礼って言うくらいだ。詫びとして今度どこかの店で何か奢ってやるか。
「キシャアアアアアアアアッ!!」
金属がこすれ合う音のような耳障りな鳴き声をあげながら、大型犬ほどの巨体を持つ蜘蛛が向かって来る。蜘蛛の背後にはモゾモゾ動いている蜘蛛の糸の繭があり、治癒崎の髪の毛がはみ出している。
「さて、どうすべきか……」
この蜘蛛だが普通に斬り殺したならば体内の卵から一斉に子蜘蛛が孵化して鬱陶しい。だが先ほど倒した同族は焼けば鼻が曲がるほどに臭いし、淀んだ空気がさらに減ってしまう。俺は兎も角、弱っているかも知れない治癒崎には危険だ。考えている最中も溶解液を吐き出しながら迫る蜘蛛。俺はそっと右手を突き出した。
「凍れ」
『氷神の加護』。アリーゼの能力だ。焼いても斬っても駄目ならば凍らせるまで。床や壁は無事なので気温はさほど代わらず、先ほど連絡があって他の被害者の救出は完了している。そして今、最後の一匹を倒し、最後の一人の救出を今終える所だ。俺は中の彼女に傷を付けないようにしながら繭を切り裂く。
「……ふぁっ!?」
「あっ! いいんちょーだー!」
繭の中の治癒崎は全裸だった。小さい体格に反し遥程の胸が丸出しで、そんな状態にも関わらず俺を見るなり嬉しそうに抱きついてくる。彼女にも羞恥心は無いのだろうか? いや、きっと助かった事で興奮しているだけで直ぐに悲鳴を……。
「ありがとね、いいんちょー」
「あのだな、治癒崎。離れて欲しいのだが……」
「えー? 今離れたら裸見えちゃうよ? いいんちょーなら平気だけどねー」
信用されて居るのだろうが、流石に今の状態は拙い。俺は目を瞑って離れるように言い、上着を差し出した。後で知った話だが、あの蜘蛛は可食部でない服を剥がして獲物を保存するらしい。直ぐに見つかった服だが、上は下着すら無惨な状態だったのだが、下はどっちも無事で助かった。
「いいんちょー速ーい! 凄ーい!」
治癒崎以外の全員の救出を確認。一応生命探知系の能力を使い他に被害者がいない事を確認した俺は彼女を背負って出口を目指していた。どうも疲れて歩けないそうだ。怪我なら治せるが疲労は無理なので仕方がない。俺の肩に両手を乗せ、少し体を離して居る治癒崎には安心だ。
「神野さんなら体をギューッてくっつけてたかもねー? 私も助けて貰ったお礼にくっつけた方が良いー? いいんちょーは好きだし、別に良いよー?」
「俺も治癒崎は大切な友人だから好きだが、そういった真似は止めておけ。誤解されるぞ?」
「……ちっ」
今、舌打ちが聞こえた気がしたが水滴が落ちる音音を聞き間違えただけだな。遥と違って純粋で天然な治癒崎がまさかな……。
「いいんちょー、ちょっと眠くなっちゃったー」
有無を言わさず俺に体重を預ける治癒崎。当然、豊満な胸が背中に押し付けられる。……急いで戻るとしよう。俺は背中に意識を向けないようにしながら足を速めるのであった。
(うーん、反応はイマイチ。でも、委員長の服が着れたし、オブって貰ったから良いかな?)
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