怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 アニメの方も大分シリアスでクライマックスな感じになってきたけど、この作品は平常運転です。というか、シリアスばっかり書いててそれしか出来んのかこん猿ゥ!とか思われてそうですが、本当はお気楽なギャグの方が好きです。好きだけど書けないってだけで。


黒き王の咆哮

 昼下がり。GIRLS本部に併設されている病院は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 

 「どうして・・・こんなことに・・・。」

 

 痛みに疼く腕を押さえ、俯いて己の罪を追想する。

 

 

 

 

 数時間前。まだ辛うじて街が平和だった時。『厄災』は目を覚ました。

 

 オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・

 

 それはもはや、叫び声なんてものではない。弦楽器をめっちゃくちゃに引っ掻いたような、あるいは何もかも薙ぎ倒すチェーンソーの駆動音のようでもあった。

 

 「あっ・・・あっ・・・。」

 「アイラ・・・どうして・・・。」

 

 自分の目が信じられない。目の前にいるものを、同じ地に立つ者として受け入れたくなかった。

 

 全身を覆う獣殻(シェル)は、あらゆる干渉を拒む岩肌のような感触、色は石炭よりも黒い。背中には、剥き出しの骨のような背鰭が並び、鋭利な刃物のようにもなっている。髪は生気を失ったかのように真っ白だ。そして眼は虚ろで、なにか存在しないものを見つめているようだった。やがてはっきりとこちら側の事を視認し、そして『外敵』とみなした。

 

 「暴走してる?」

 「なんとかして、治めないと・・・。」

 「シンジさん、なにか作戦ある?」

 「はぁ・・・はぁ・・・。」

 「シンジさん?」

 

 ヴォアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 「シンジ!さがれ!」

 「うっ!」

 

 危険を察したレッドキングさんに飛ばされて、シンジは道路を転がった。

 

 「とにかく、押さえつけるぞ!」

 「おぉー!」

 

 レッドキングを筆頭に、ミクラス、ゴモラ、アギラと続く。エレキングとウインダムとピグモンはシンジの傍でカバーしている。

 

 「シンシン?怪我はないですか。」

 「大丈夫・・・けど、あれは・・・。」

 

 人間が進化を続ける中で捨てていったはずの本能が告げている。ただの人間、もといただの人間に毛が生えた程度であるはずのシンジにもわかった。

 

 「あの時・・・ミカが、ゴモラが感じた脅威って・・・。」

 

 今更悔やんだところで・・・あの時に何かが出来たわけでもなくても・・・後悔先に立たずか。

 

 「一体どんな能力を持ってるかもわかんねぇ、十分気を付けろ!」

 「はい!」

 

 数で包囲して殴る。人類が、その叡智を手にする以前からとられてきた、もっとも有効な戦術と言っても過言ではない。レッドキングが殴れば、次はゴモラ、その次にミクラスと、矢継ぎ早に攻め手を交代することで、相手に狙いを定めさせない。

 

 「くっそ、どんだけ硬いんだこいつ!」

 「殴られても、全然こたえてない!」

 「なら捕まえる!」

 

 それぞれが両手両足と、尻尾を掴んで地面に組み伏せる。

 

 「ぐぅ・・・すげぇ膂力(りょりょく)だ・・・!」

 「で、こっからどーすんの?」

 「シンジのいつもの作戦で行く!」

 

 体力を失うまでじっと待つ。アイラはソウルライザーを失い、暴走状態にある。となれば、エネルギーを無暗に消費し、先に変身が解除されるのは必然だ。

 

 ただし、相手が抜け出せる能力を持っていなければの話。

 

 ガァアアアアア・・・ググッ・・・

 

 「こいつ、なにをッ?!」

 「うわぁああ!!」

 

 アイラの喉の奥が一瞬光ったかと思うと、全身から強い衝撃波が発せられ、ゴモラたちを引きはがす。

 

 「今の・・・熱線?」

 「いや、ちがう。エネルギーを体内で爆発させたんだ。」

 「じゃあ、熱線も撃てる?」

 「だろうな。今はまだ使ってきていないが・・・。」

 

 ゴフッゴフッと咳払いするように輪っかの煙を吐いて、アイラは立ち上がる。散開して様子をみるゴモラ達を見やり、低く唸る。

 

 「なら次は?」

 「私にまかせて、みんなは技の準備を!」

 「おう、頼んだぞ、ゴモラ!」

 

 頭を下げた低姿勢による突進で距離を詰める。迎え撃とうとするアイラの攻撃を軽く躱し、脛に尻尾の一撃を加える。

 

 「なんだ、結構遅いじゃん。このまま攻める!」

 

 弁慶の泣き所を徹底的に叩く。いかに強固な皮膚を持とうと、弱点であることには変わりない。理性のない獣は、怒り狂う。

 

 「おっと!当たらないよ!」

 

 仕返しにとばかりに暴走アイラも尻尾を振り回してくるが、これにはゴモラは当たらない。

 

 「くらえ!バッファフレイム!」

 「爆発岩石弾!」

 

 ゴモラの作った隙をついて、ミクラスとレッドキングが後方から遠距離攻撃を仕掛ける。アイラは少しよろめく。

 

 「少しは効いた?」

 「油断するな!」

 

 ギョロリとその眼にレッドキングたちを映すと、大きく静かに息を吸い込み始めた。

 

 「背鰭が・・・。」

 「光ってる?」

 

 尻尾の先からうなじ(・・・)にまで続いてる背鰭が、尻尾の先から順番に青い光を放ち始めた。

 

 「なんか・・・なんか猛烈にヤバい!」

 

 今度は髪が青く染まり、ストロボのような音をも放ち始めた。

 

 「伏せろッ!」

 

 青い閃光。圧倒的、ひたすら圧倒的パワーの塊。アイラの小さな口から放たれた『暴力』が、ビルを数棟いとも簡単に薙ぎ倒す。

 

 「う・・・あっ・・・。」

 

 そして残ったのは・・・

 

 「なんて・・・破壊力・・・。」

 

 幾多の瓦礫の山と・・・

 

 「・・・原爆・・・?」

 

 ドス黒いキノコ雲であった。

 

 「もうダメだ、おしまいだ・・・。」

 「なにを寝言言ってるの?不貞腐れている暇があったら戦いなさい。」

 

 シンジは完全に戦意を喪失した。それまでに、既に戦う気力を失っていたが、もはや逃げる気力すらも失っていた。

 

 「勝てっこないよ・・・あんなの・・・。」

 「立ってくださいシンシン!このままじゃみんなやられちゃいます!」

 「僕のせいだ・・・僕があの時アイラを置き去りにしなければ・・・こんなことには・・・。」

 「そんな、シンジさんのせいじゃ・・・。」

 「いえ、私たち(・・・)の責任よ。」

 「エレエレ!」

 「今更逃げてどうするというの?!失敗を後悔するよりも、どう役目を果たすのか考えなさい!」

 

 普段冷静なエレキングさんらしくもない、荒々しい語気で言い放った。

 

 「私は行くわ。」

 「エレキングさんも危険です!」

 「それが、怪獣娘の役割よ。」

 「エレキング・・・さん・・・。」

 

 シンジは弱々しく目線を上げた。エレキングさんの手が、震えていた。

 

 「待って、エレキングさん。」

 「なに?」

 「ちょっとだけ、勇気をください。」

 「これが、勇気のある人間の手に見えるかしら?」

 「だったら、僕のひと欠片と、交換しませんか?」

 「ふっ・・・いいわよ。」

 

 足の筋肉は、今にも逃げ出そうとせんばかりに震えている。けど逃げる方向は、アイラへの向きだ。

 

 「なにか策はあるの?」

 「ちょっとだけですが、アイラの動き方は見えました。今のアイラは、『不完全』です。」

 

 ライザーショットを抜いて、黄色のシリンダーを込める。これは麻酔弾だ。

 

 「ウインダムさん、大丈夫?」

 「私にはくれないんですか?勇気。」

 「勇気だけでいいの?」

 「じゃあ、今度ケーキを奢ってくださいね?」

 「コーヒーもつけるよ!ウインダムさんは、アイラの足元だけを狙ってください。当てなくていい。」

 

 飛び出すエレキングさんに続いて、シンジも前へ出る。

 

 「みんな、攻撃しちゃダメだ!」

 「あぁん?なんで?」

 「アイラは攻撃を受けて進化、いや『学習』してるんだ!自分がどんな技を持ってい『た』のか、思い出してるんだ!」

 

 ゴモラの大回転打の後に尻尾攻撃、バッファフレイムや岩石弾の後に熱線を吐いた。最初の全身からの衝撃波・・・体内放射も、単に『熱線の吐き方』がわからなかったからだ。

 

 (アイラは、記憶を失ったんじゃなくて、『消された』んだ。)

 

 きっと父は、どうにかこうにかしてアイラの記憶を消し、その脅威を取り払ったんだ、一時的に。けどそれが限界になってきたから、こっちに寄越したってこと?

 

 「せいっ!」

 

 グゥウウウウ・・・

 

 「効いてる?電気に弱いのかな・・・エレキングさんはそのまま攻撃して!レッドキングさんは、アイラの動きを封じて!」

 「お前はどうすんだ?」

 「なんとかして、麻酔を撃ち込みます!」

 

 考えるのは後にして、今は目の前の問題に集中する。怪獣娘の打撃にビクともしなかった表皮に、今の麻酔針が刺さるかはわからない。せめてシェルを剥がせれば・・・。

 

 「念には念を押す!ゴモラ、バディライド!」

 「オッケー!」

 

 カードを取り出して挿入する。機能は問題なく働いてくれる。

 

 「ゴモラ、ゼロシュートだ!そのために・・・レッドキングさん!」

 「あいよ!アースクラッシャァアアア!」

 

 地割れがアイラの足元まで広がり、その動きを封じる。怒る獣は、熱線を吐こうと背鰭を光らせる。

 

 「ミクラスは尻尾を押さえて!ウインダムさん、顔を狙って!」

 「おっけー!」

 「わかりました!」

 

 真正面から攻めれば、たちまち狙い撃ちにされる。けどそこまで織り込み済みだ。

 

 「持っててよかった、煙幕!」

 

 一発だけ試作した煙幕弾を投げ、アイラの視界を奪う。こちらには、はっきり青い光が見えている。可能な限り意識を逸らさせて、一撃を狙う。

 

 「行け、ゴモラ!超振動波・ゼロシュート!」

 「うぉおおおおおお!!」

 

 煙幕を突っ切り、ゴモラのツノが姿を現す。それと同時に尻尾を掴んでいたミクラスも離れる。

 

 「ぐっ・・・ぐぅうううううううう!!!!」

 

 ゴォオオオオオオオオオ!!

 

 アイラは熱線を体内放射に切り替え、ゼロシュートに抗う。だが、いかにその威力が桁違いであろうと、一点集中のゼロシュートには部分的に耐えられない。

 

 「うぅうう・・・うわぁっ!!」

 

 ゴモラの体が、耐え切れず吹っ飛ぶ。しかしアイラの胸のシェルには、僅かながらも孔が開いている。しかしその強靭な生命力を持って、すでに事故治癒が始まっていた。

 

 「孔がもう塞がるぞ!シンジ!」

 「そのために、ボクが・・・!」

 

 ゴモラの突進のすぐ後ろを、シンジを背に乗せたアギラが控えていた。ゴモラの体をカモフラージュに、アイラの死角を突いたのだった。

 

 「当たれぇえええええええええ!!」

 

 アギラに投げられたシンジがライザーショットを構える。ほんの僅かな孔に、麻酔弾が3発吸い込まれるように入っていった。孔から逸れた2発が、表皮に弾かれる。

 

 「やった・・・・!?」

 

 グルルル・・・

 

 アイラの動きが、僅かに鈍くなってきていた。しかし、まだ止まる気配はない。

 

 「おい、麻酔本当に効いてるのか?!」

 「アフリカ象だってブッ倒れる劇薬ですよ!それも3発!」

 「アギちゃん!逃げて!」

 

 アフリカ象に効くものが、怪獣にも効くのかどうかはさておき。再び熱線のチャージが始まった。しかも今度は、光る速度が速い。

 

 「チャージが速くなってる!?」

 「伏せろ!」

 

 再び地獄の釜が開かれる。アギラとシンジはまだ退避できていない。そこにすかさず一つの影が割って入る。

 

 「くっ・・・!」

 「ゼットンさん!」

 「はやく退避・・・して・・・。」

 

 ゼットンさんが来た。しかしゼットンシャッターにもヒビが入っている。

 

 「シンジさん、はやくこっちに!」

 「もう・・・限界・・・。」

 

 

 

 「あっ・・・。」

 

 

 ゼットンシャッターに入ったヒビから、わずかに熱線が漏れ出した。

 

 

 

 「シンジさん!!」

 

 

 

 それが運悪く、本当に運悪く、離れようとするシンジのすぐ傍に着弾した。

 

 

 

 シンジの体が、ボロクズのように宙を舞った。

 

 

 「ゴハァッ!」

 

 肺から空気が叩きだされ、痙攣して呼吸すら危うくなる。

 

 「シンちゃん!しっかりしてシンちゃん!」

 「あっ・・・あぁ・・・ミカ・・・。」

 

 一瞬視界が暗転したが、意識ははっきりしている。死んではいない。

 

 「シンちゃん!すぐに救護がくるから!いや連れていくから!!」

 「ダメだミカ、ミカがいなくなったら前線はどうなる。」

 「ゼットンちゃんが今がんばってくれてるから!はやくシンちゃん!」

 「ダメよゴモラ、動かしては!」

 「エレちゃん離して!シンちゃんが!シンちゃんが!!」

 

 首が右を向いて動かせないので、ミカの声しか聞こえていない。しばらくして、レッドキングさんやミクラスもやって来たのを感じた。

 

 「おいシンジ、しっかりしろ!」

 「大丈夫です、大丈夫・・・大丈夫・・・。」

 「シンジ・・・さん・・・。」

 「大丈夫・・・だから・・・。」

 

 全然痛くないから、本当に。全然、『痛くない』んだ・・・。

 

 「ねえ、誰か・・・ミカ・・・アギさん・・・エレキングさん・・・。」

 「シンちゃん!」

 「シンジさん!!」

 「・・・っ!」

 

 

 

 「僕の左手・・・どうなってるの?」

 

 左腕が、動かせない。それどころか、感覚もない、痛みがない。

 

 「シンちゃん、大丈夫だよね?!本当に大丈夫なんだよね!すぐ病院連れてくから!!」

 「動かしちゃいけない!!」

 

 ミカが、エレキングの腕を振り切ってシンジの体を起こす。今のシンジに目が釘付けになっていた一同は、その制止が遅れた。

 

 「ダメ!!」

 「あっ・・・あぅ・・・?」

 

 体が起き上がって、やっと気が付いた。今まで必死になって、理解しようとしなかった事実がわかってしまった。

 

 「あっ、あぁ・・・ああああああ!!ああああああああああああああああ!!!!!!!」

 「いけない、押さえて!!」

 

 理解した途端、痛みが襲ってきた。痛みと恐怖がシンジの脳を食い潰そうとしてきた。心臓が激しく鼓動する。たちまちパニックになり、ビチビチと陸に上げられた魚のように手足をバタつかせ、暴れる。

 

 「マズい!出血が酷くなってきた!このままだとショック死するぞ!」

 

 シンジは、出鱈目なことを口走った。

 

 「止血しないと、ゴモラどいて!」

 

 シンジは、誰かに向かって謝り始めた。

 

 「ダメ!すぐ連れてかないと!」

 

 シンジは、正気を失っている。

 

 「シンジさん!シンジさん聞こえる?!」

 「こうなったら・・・離れて!」

 

 エレキングさんは、尻尾を振るってシンジの体に電流を流した。

 

 「あびゃあばばば・・・あぁ・・・?あれ?」

 「シンジさん?意識戻った?」

 「あぁ・・・はぁ・・・。」

 

 「今の内に止血を、ピグモン!」

 「わかってます!」

 「あぁ・・・?・・・ピグモン・・・さん?」

 「そうです、ピグモンですぅ!シンシンは大丈夫ですよ!」

 「そ、そか・・・そっか・・・。」

 

 一瞬気を失ったことで、正気と落ち着きを取り戻した。左腕はジンジンと痛むが、それがかえって正気を保たせた。正気を取り戻せば、すぐに冷静なシンジが帰ってくる。

 

 「今、アイラは?」

 「ゼットンさんが戦ってるよ。けど、それでも厳しいかも・・・。」

 「今のうちに、シンジさんを病院に!」

 「待って、まだやらなきゃいけないことが!」

 「その体じゃ無理よ、どんな無茶だって出来ないわ。」

 「わかってます、体が無理でも、頭は動いてます。僕の銃は?」

 「えっと・・・あった、あそこ・・・。」

 

 少し離れたところに飛ばされたライザーショットを、アギラが拾いに行く。

 

 「これを、どうするの?」

 「麻酔がダメなら、冷凍弾を・・・。片手じゃ無理か。アギさん、シリンダーを引いて、カートリッジの下のボタンを押して。」

 「えっと・・・こうか。外れたよ。」

 「じゃあ、この・・・こっちを詰め替えて、シリンダーを戻して。」

 「これでいい?」

 「それでいい。」

 

 青いカートリッジが冷凍弾。-200℃まで一気に冷却にできる。

 

 「それを、アイラの背鰭に撃ち込むんだ。表皮よりも、エネルギー器官に直に届くと思う。」

 「・・・どうやって?」

 「そんなの、狙って引き金を・・・。」

 

 突然、視界が揺らぎ始め、頭も急に重くなってきた。貧血だ。

 

 「ごめん・・・これ以上は僕もう無理だ・・・。」

 「・・・わかった、なんとかするよ。だからシンジさんは。」

 「ありがとう・・・ごめんね。」

 

 アギラへ伸ばした手が離れていく。ようやくこの戦場から離れられるという安心感からか、シンジは少しの間気を失っていた。気が付いた時には、既に決着はついていた。

 

 

 

 

 ここで冒頭に戻る。病院の一室を当てがわれていたが、眠る気にはならなかった。いてもたってもいられずに、GIRLS本部の方へと足を進めようとする。左腕に巻かれた包帯を擦りながら。

 

 「なんか、騒がしいな。」

 

 街は混乱している。あちこちで煙が上がり、遠くにサイレンも聞こえてくるが、もっと騒がしいことはすぐ近くで起こっているようだった。

 

 「デモか、あれ?」

 

 騒ぎが起こってまだ半日も経っていないというのに、もう反怪獣団体や、マスコミが動き始めた。今までも話には聞いたことがあったが、実際に見るのは初めてだ。マスコミも、こんなところで出待ちするよりやることがあるんじゃないの?

 

 「裏口から出入りさせてもらうか。」

 

 GIRLS本部はすぐ目の前だというのに、とんだ遠回りを強いられる。

 

 「おっと。」

 

 裏口を出て角を曲がったところで、いかにもな一団がこっちに歩いてくるのが見えた。捕まったら面倒だと思い、一旦引き返そうかと思ったが、今度は来た道の方向からマスコミがやってきた。おそらくその両方に、シンジの顔が割れていることだろう。

 

 「しまった・・・。」

 

 両手が空いているなら、塀を乗り越えてやり過ごすことも考えたが、生憎左腕はまだ完治していない。多少無理をしてでも、ジャンプして飛び越えられるか試そうとした、その時。

 

 「こっち。」

 「えっ?」

 

 ピシュン、っと路地からシンジの姿は消え、デモ団体とマスコミはただすれ違って終わった。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「えっ?」

 「大丈夫?シンジ。」

 「ぜ、ゼットンさん??どうしてここに?ってか、ここは?」

 「GIRLSの屋上。」

 

 気が付けば、見覚えのある場所へと移っていた。何度かミカとも2人でえ夜景を眺めたりもした場所の、昼の時間に今はいる。ゼットンさんと一緒に。

 

 「これを、あなたに。」

 「これ、ライザーショット・・・。どうしてゼットンさんが?」

 「私が借りた。役に立った。」

 「え?あれは・・・。」

 

 すっとゼットンさんが指さした方向・・・東京湾、アクアラインの辺りに、巨大な氷塊が浮かんでいた。

 

 「あれを、ゼットンさんが?」

 「テレポートであそこまで運んで、あなたの銃を使った。」

 「この銃、そんな威力があったんだ・・・。」

 

 自分で作って、使用を促しておいてこの言いようはないと思うが。ともかく、海水ごと凍らされたおかげで、溶けきるまで時間が稼げそうだ。そのころにはある程度は麻酔も効いているかもしれない。

 

 「みんなは、今どこに?」

 「もうすぐ作戦会議がある。そこで集まっている。」

 「僕らも行きましょうか。」

 「あなたは、平気なの?」

 「・・・大丈夫です。行かないわけにもいきません。」

 「そうなら、いいのだけれど・・・。」

 

 平気なのかと言われると、そうでもない。後悔や後ろめたさに押しつぶされそうになっている。けど、ここで歩みを止めるわけにはいかない。

 

 「今は一分一秒も惜しい状況ですから。」

 「・・・。」

 

 作戦会議、いつもの会議室を使って対策本部が作られている。

 

 「『未確認怪獣娘対策本部(仮)』か・・・。」

 

 本当に大事になってきたな・・・まあそれも仕方ない。

 

 『現在、対象の未確認怪獣娘は、アクアライン周辺にて凍結中。氷の大きさ、使用された麻酔薬から、48時間は動かないことが計算されています。』

 

 壇上で、ピグモンさんがブリーフィングを行っている最中だった。適当に席に着くと、配られていた資料に目を通す。

 

 (暴れた結果、ビルが6棟全壊、13棟半壊、怪我人が十数名と、死者は無しか・・・。)

 

 すごい被害だが、死者が出なかったことだけが幸いか。それでも、怪獣娘への社会的なダメージは免れない。今すぐ外でやっているデモがそれだ。

 

 「ソウルライザーで制御できないカイジューソウルを、どうやって治めるんですか?」

 『それも現在は調査中です。ともかく今は、すべての怪獣娘の活動を停止し、いつでも万全の態勢でいられるよう心掛けていてください。』

 

 つまり、『なにもできない』ということだ。会議室の中では不満の声も上がっているが、別にピグモンさんが悪いわけではない。

 

 「シンジさーん。」

 「アギさん、ミクさん。ウインさんは?」

 「ウインちゃんは調査中。って言っても、どこで何を探せばいいのかわからないって言ってたけど・・・。」

 「そう・・・。」

 

 現状、アイラのことを一番知っているのは僕だ。だがそれでも不十分だ。その義務もある。

 

 「僕が、行かないと・・・。」

 「シンジさん、大丈夫?顔色悪いよ?」

 「あぁ・・・そういえば、昨晩はよく寝れなかったんだったな・・・。」

 「その上怪我までしてるんだよ、無理しちゃだめだよ。」

 「でも、僕にしか出来ないから・・・。」

 「だからこそ、無理しちゃダメなんだよ。休もう、ね?」

 

 アギさんに促され、とりあえず場所を移すことにした。それなら最初から病室にいればよかったのに、一体何をやっているんだろうと心の中で呟いた。外に出ることも出来ないし、どの部屋も空いていないだろう。なら屋上に戻るとしよう。

 

 「騒がしいな・・・。」

 

 下ではイカれた群衆がやいのやいの言っているし、上はヘリコプターがバタバタ言っているが、それは自衛隊やGIRLSのものではない。

 

 「あんなに飛んでたら邪魔になるだろうに・・・。」

 

 そのヘリコプターの向かう先は、アクアラインの氷塊。バディライザーの望遠機能で眺めてみると、近くの埠頭や展望台にも人が集まっている。観光でもしてるつもりか。

 

 「・・・狂ってる、何もかも。」

 「どうして?」

 「アギさん、いたの?」

 「シンジさん、休まないつもりかとも思って。」

 

 すぐ後ろにアギさんが来ていて、悪態をついていたことを見られてしまった。

 

 「何が狂ってるの?」

 「狂ってる、というか矛盾してる。」

 「矛盾?」

 「怪獣娘が危険だっていう主張は、たしかに間違っちゃいない。あ、ごめん、アギさんたちがそうだって言いたいわけじゃないんだけど。」

 「それはわかるよ、それで?」

 「危険だ危険だって言ってる人間が、その危険の最前線に自分から入ってきている。下にいる連中も、あそこで写真撮ってる連中も。」

 「そうだね、マスコミの取材も病院の前でもやってて、搬入の邪魔になってるみたい。」

 「ついでにあの報道ヘリの数もね。」

 

 まるでお菓子の山に群がるアリや羽虫のようにブンブンと飛んでいる。

 

 「壊れたビルだって、みんな保険に入っているし、当人以外が文句を言える筋合いはないはず。」

 「今のご時世、怪獣保険に入っていないところなんてないもんね。」

 

 『ニコニコ保険』のパンフレットなら、どの建物にでも置いてある。今や火災、災害に次いで怪獣保険は無くてはならないものだ。勿論お金の問題ではないのだけど。

 

 「それに何より、なんでこんなに怪獣娘のことを責めるの?自分達とは違うから?そんなこと全然ないのに、みんなただの(・・・)女の子なのに。」

 「こうして被害が出てるんだから、それも仕方がない事だよ・・・。」

 「でも守ったのも怪獣娘なんだよ?!GIRLSのみんなが頑張ったのに・・・なのに、『ありがとう』も言えないの!?」

 「それは・・・。」

 

 涙が出てきた。悔しさや怒りと、哀しみで。

 

 「本当に悪いのは違うのに、みんなでもアイラでも・・・僕のせいなのに・・・。」

 「そんな!・・・そんなこと・・・。」

 

 これが一番の本音だった。慰められるよりも、ただ怒ってほしかった。なのに皆、僕に優しくしてくれた。それが何よりも堪えた。

 

 「誰か、僕を叱ってよ・・・!」

 「・・・そうだね、ボクはシンジさんの事嫌いだ。」

 「・・・。」

 「今みたいに、ウジウジして甘ったれてるシンジさんなんて嫌い!」

 「アギさん・・・。」

 「シンジさんを裁く権利なんて、ボク達にも、誰にもないよ。自分自身で立ち上がって、自分の手で見つけないと。シンジさんになら、出来るでしょ?」

 「僕に・・・出来る?」

 「シンジさんも、アイラのことも救えるのはシンジさんだけなんだよ、ボクはそう思う。ボクたちは、その手助けができるだけなんだ。だから、立って。」

 

 アギさんが、手を差し出してくれた。こんな時にも、僕の肯定してくれた。

 

 「そうか、そうだね・・・わかったよ。僕がやるんだ。」

 「ボクたちが、ね。」

 「うん、ありがとう、アギさん。」

 

 ひとしきり泣いて清々した。立ち止まっているわけにはいかないんだった。大事なことなのに、すぐ忘れる。1人じゃないっていうのが、本当にどういうことなのかも。

 

 「安心したら、なんだか眠くなってきた・・・。」

 「寝てないんでしょ?少し休もう。また、膝枕してあげるよ。」

 「いや、それは・・・お願いしちゃおう、かな?」

 「うん、どうぞ。」

 

 ちょっとぐらい、甘えさせてもらってもいいかな?季節は冬だけど、今日は日差しもあったかいし、お昼寝日和だ。

 

 「けど、ちょっとうるさいな・・・。」

 「じゃ、じゃあ・・・こうしてみる・・・?」

 「おっ?おぁっ!?」

 「あんまり、動かないで・・・。」

 「あっ・・・あぁ・・・。」

 「変な声も出さないで・・・。」

 

 アギさんが、上体を折り曲げて耳を塞いでくれた。より柔らかい感触のサンドイッチ・・・暖かさも倍。

 

 (胸の音が・・・心地いいな・・・。)

 

 その鼓動に耳を傾けている内に、夢の世界へと入っていった・・・。

 

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 「・・・っはぁ!?」

 

 時計は2時を指している。しかし外は暗いので、午前の2時だ。自分の部屋の自分のベッドで、汗をかきながら目が覚めた。遊びに行く約束は今日の昼からだった。起きるにはちょっと早すぎる。

 

 「あんまり、よくない夢・・・だった・・・な。」

 

 枕元に置かれた水差しを傾け、一杯煽る。GIRLSに所属するようになってから、こういった夢をよく見るが、予知夢の能力にでも本当に目覚めたんじゃなかろうか。それならもっと楽しい夢が見たいけど。

 

 「・・・はぁ・・・。」

 

 しばし考えて、携帯に手を伸ばす。電話帳の中から『天城ミオ/ベムラーさん』の項目を選ぶ。こんな時間に電話をかけるなんて非常識、とエレキングさんになら叱られそうだけど、今はすぐにでもベムラーさんと話がしたかった。数回のコール音の後、明るい声色のベムラーさんが出た。

 

 「もしもし、シンジです。夜分遅くに失礼します・・・。」

 『もしもし、構わない。今も仕事中だったから。徹夜はいい仕事と美容の敵だけどね。』

 

 いつもと変わらない口調に安心感を覚えた。気を使ってくれたのか。

 

 「その・・・今日のことなんですが・・・。」

 『ああ、彼女の処遇についてかい?こんなに早く結論を出してくれるなら嬉しいよ。』

 「いえ、本当はあの時に言うべきだったと・・・。」

 『冗談だよ、どうしたんだい、こんな夜更けに?』

 

 一呼吸おいて、喉の奥から言葉をひねり出す。

 

 「・・・怖いんです、本当は『知る』ことが。」

 『怖い?』

 「アイラの過去のことも、父たちがアイラにしたことを知るのが怖いんです。アイラだけじゃない、父たちの実験の犠牲になった怪獣娘さんたちのことを考えると・・・。」

 『・・・どんなことをされたのか、想像することが?』

 「いえそうじゃないんです、いやそれもあるけど・・・『向き合うこと』が怖いんです、父の所業に、罪に向き合って、背負うことが・・・。」

 

 「今までずっと・・・ほんの半年ほど前までは、父とも関係ない場所で過ごしていたのに、今は『ここにいる』。それがどうしても・・・。」

 『飲み込めない?』

 「そう、飲み込めないんです。みんなと出会えたことは、とても嬉しいことだけど、父の所業を思うと、後ろめたさに潰されそうにもなる。それを今、アイラの隣にいて実感してるんです・・・。」

 『・・・そうか。』

 

 ただ気楽に、仲間たちと一緒に過ごしていたかった。けどそれを、父は許してくれなかった。父だけじゃない、父の実験の犠牲になったものたちに・・・。

 

 『以前私が、シュレディンガーの猫について言ったことを覚えているか?』

 「本当の父は、どっちなのか開けてみるまで分からない、ってことですか?」

 『そうだ、今の君はまさに、その箱の蓋に手を添えているんだ。そして「開けない」と言う選択肢が無い。』

 

 『世の中には、不都合な真実がいくらでもある。目を背けていられないようなことが、生きている内にいくつも出会う。けどそれを乗り越えていくことが、「大人になる」という事なんだ。』

 「大人になる・・・。」

 『そしてもう、君は「選んだ」んだ。そのバディライザーを手にした時、この運命は決まっていることだったんだ。それを「わかっていた」ハズだ。』

 「・・・。」

 『大丈夫だ、わかっていても、現実に直面すれば立ち止まってしまうということもある。それを助けるために、私たち「大人」がいるんだ。私に頼ってくれればいい。・・・これが聞きたかったんだろう?』

 「・・・はい!ベムラーさんには、かないませんね。」

 『私の方がずっと大人だからな?それで、どうして欲しい?』

 「僕は、父のことに直面することを避けていました。そのせいでアイラについての調べ事が遅れていました。」

 『例の、データベースのことだな。』

 「そうです、それ以上に、僕の頭ではパスワードを解けないようです。」

 『だから私に依頼したい・パスコードの入力と、中身の調査を?』

 「はい、お願いできますか?」

 『いいとも、ちょうどこっちも行き詰まっていたところだ。新しいパズルが出て来たなら、そっちに手を出そうとしているところだった。』

 「では、お願いします。チョーさんには、ベムラーさんがこの家のあらゆる物に手を出してもいいように言っておきます。」

 『ベッドの下もかい?』

 「そこはやめてください。」

 『ははは、冗談だよ。わかった、任せてくれ。』

 「お願いします、それから、ありがとうございました。」

 『いいさ、報酬には期待しておくよ?」

 「はい、ではまた。」

 

 少しだけ、安心が出来た。これで枕を高くして眠れる・・・という時間でもないか。

 

 「少しでも休眠しないと・・・明日も大変だぞ。」

 

 正確に言えば今日になるけど。どんなところへ行くだろう?色々遊んだけど、こんどはなにを・・・。

 

 

 

 

 

 「シンジ様、お目覚めください。お客様がお見えです。」

 「ふわぁ・・・お客?ベムラーさん?」

 「そうです、お召し物と、何か温かいスープはいかがですか?」

 「いや、今はいい。すぐ済むはずだから、着替えだけ。」

 「かしこまりました。」

 

 時間は午前6時。いくらなんでも早すぎじゃないか?いや、深夜に電話した僕に言えることでもない。

 

 「お待たせしました。」

 「いや、平気だ。今日君の予定は?」

 「アイラと一緒に、みんなと遊びに・・・。その荷物は一体?」

 「ああ、しばらく厄介になるよ。住み込みで隅々まで調べさせてもらうからな。構わないね?」

 「いいですけど、デザートは当分ミカンですよ?」

 「はは、3食までつけてくれるならありがたいよ。」

 

 チョーさんに説明し、一部屋もあてがってもらう。つくづく、一人暮らしには広すぎる家だと思った。

 

 「でもくれぐれも、」

 「わかってるベッドの下だろう?」

 「ベッドの下が、どうしたの?」

 「ヴぇっ、アイラ、起きたの?!」

 

 寝間着姿のアイラが起きてきた。

 

 「ねえ、ベッドの下にはなにがあるの?」

 「えっと・・・その・・・。」

 「ベッドの下には怪物が潜んでいるんだよ。」

 「怪物?」

 「そう、夜明かりを消す前には、戸締りを確かめて、ベッドの下には何もいないことを確認するんだ。そうしないと、明日の朝日が拝めなくなるかもしれない。」

 「・・・怖い。」

 「そうだろう、だからこの話はおしまいだ。もっと楽しい話をしよう。」

 

 アイラはシンジの後ろに隠れた。

 

 「アイラ、今日はどこに行くんだっけ?」

 「みんなと一緒に遊びに行く・・・楽しいところに。」

 「そうだね、でもその前に、朝ごはんを食べて支度をしようか。ベムラーさんもどうですか?」

 「構わないかな?ちょうど朝食はまだだったが。」

 「アイラもいいかな?」

 「うん、一緒がいい・・・。」

 「じゃあチョーさん、お願いできるかな、三人分。」

 「かしこまりました。」

 

 しばらく後。

 

 「じゃあアイラ、準備はいい?ソウルライザーは持った?」

 「うん、これも・・・。」

 「つけてくれたんだね、そのストラップ。ありがとう。」

 「ううん、シンジがくれたものだから。」

 

 「じゃあ、行ってきます。」

 「いってきます・・・。」

 「行ってらっしゃいませ。」

 「ああ、楽しんでおいで。」

 

 ガチャリと開けた玄関から、眩しい朝日が入ってくる。

 

 今日も、いい一日になればいいな・・・。




 モン娘は~れむ怪獣娘コラボきったぁあああああああああああああああ!!でも、若干シナリオがネタバレになってはいませんか?気になる人はいますぐにプレイだ!!ログインボーナスでアギちゃんとジャッパちゃんがもらえるよ!

 思ったよりも長くなりそうだ。前後編を予定していたけれど、エピローグ含めて全4話か5話ぐらいになりそうな予感。

 感想、評価もお待ちしております。感想は、乾いた大地に降る恵みの雨のように、活力になります。(感想(乾燥)だけに。)作者は評価を待っているのよ・・・新着通知が来るのを、今か今かと窺っているの。

 

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