『お電話ありがとうございます、国際怪獣救助指導組織『GIRLS』東京支部です。』
「あ、あの!」
『大変申し訳ございませんが、ただいま大変回線が混雑しております。お手数ですが、時間を置いて・・・』
「ダメだ、通じない・・・。」
「きっと、苦情や問い合わせが殺到しているんですよ。この大騒ぎですから無理もありませんね・・・。」
「こんなすぐ目の前にいるっていうのに、手が届かないなんて歯がゆい・・・。」
彼らの言う通り、GIRLS本部はてんてこ舞いであった。次々に寄せられる問い合わせに、電話回線もメールフォームもパンク。エントランス前は人だかりでごった返し、完全に立ち入り禁止状態であった。
「あーっもう、邪魔な野次馬だなぁ。こんなところで
「真実を知らない者ほど、大騒ぎしたがるという言いますしね。」
「私たちは違うっていうのに・・・。」
彼らがここにいる理由はただ一つ。『真実』を伝えること。しかしどれだけ声高々に叫ぼうと、愚鈍な群衆の前にはまるで無力だ。
「どうしますかキャップ?」
「このままここで待ってても、埒が明かないと思うけど?」
「そうねぇ・・・。ん?」
「いっそ、裏口から侵入する?」
「そんなことしたら僕たち掴まっちゃいますよ、不法侵入ですよ不法侵入!」
「でも話せばわかってもらえるかもしれないじゃん。そうだ、シンさんの発明でなんとかならない?透明になったりとか、催眠術とか?」
「ありませんよ、僕の発明にそんな
「ねぇちょっと二人とも、アレ見て?」
「なに?」
「なんですか?」
雲一つない青空に、一つの影が見える。それに気づいたのは、この場においては彼ら三人だけだ。
「鳥か?」
「飛行機ですか?」
「いや、違う。」
「「「自動車だ!!」」」
乗用車が空を飛んでいる。夢でも幻でも、吹っ飛ばされて飛んできているのでもない、紛うことなく『空を飛んでいる』!
「あだぁ!」
「ご、ごめんシンジさん・・・。」
「おっはよーシンちゃん。」
時を同じくして、GIRLS本部屋上。いきなり地面に叩き落されて、シンジは目を覚ました。
「あれ・・・ミカ?なんでここに。」
「なんでもなにも、シンちゃんを探しに来たんだよ。アギちゃんのことも。」
「ほとんどボクが目的だったんじゃないの・・・?」
「?」
「しーっ。それよりシンジさん、怪我してない?」
「怪我ならしてるよ、左腕が。」
「その、左腕の事なんだけど。さっきはごめんね、シンちゃん・・・。」
「ミカは心配してくれただけでしょ?僕がこうして生きてるんだから、平気だよ。」
「ボク、シンちゃんのことが心配で・・・そのせいでシンちゃんが余計に傷ついて・・・本当になんて言ったらいいのか・・・。」
「怪我を負ったのは、僕がドンくさかっただけだから、ミカのせいじゃないよ。」
「でも・・・。」
「大丈夫・・・・大丈夫だから、さ?」
アギさんが、ジェスチャーでなにかを伝えようとしている。手を回して、抱き寄せる?マジですか。
(まあ、やっちゃうんだけど。)
「シンちゃん・・・。」
「ミカ・・・ミカが無事でよかった。」
「うん・・・。」
「で、これからどうするの?」
「どうって?」
「アイラのこと。あのままにはしておけないでしょ?」
「うん・・・けど、なにが出来るんだろ。また暴れたとして、今度も力尽くで抑えられるとは限らないし・・・。」
「そうだよねー・・・。」
遠くに見える氷塊は微動だにしていない。けど、いつ動き出すかもわからない。GIRLSはその対応に追われている。・・・はずなのだが実際のところ、クレームへの対応にひどく手を取られ、調査も思うように進んでいない。後手に後手に回っている。
「それに、アイラをどうにかしただけで解決するわけでもない。」
「そうだね、GIRLS、いや怪獣娘全体が苦境に立たされてる。」
今までの平和は、怪獣娘が積極的にその安全をアピールすることで成り立ってきていた。けどそれも今は崩れた。世論は、怪獣娘を排除しようとする方向に動くかもしれない。
「・・・本当に、とんでもないことをしてしまったんだ・・・。」
「シンちゃん、元気出してよ。シンちゃんは怪獣娘と人間の架け橋になるんでしょ?シンちゃんがそれじゃあ始まらないよ。」
「何か手はない?バディライザーを使って、とか。」
「そうだな・・・。」
おもむろに、カードを取り出して眺めてみる。今考えられる最強の手札、それは当然、
「ウルトラマン・・・。」
「それ使ったら、アイラにも勝てるかな?」
「わからない、どんな効果があるのかも知らないし、勝てるかどうかもわからない。それに・・・。」
「それに?」
「力で解決しても、それだけじゃダメだと思う。」
「そうだね・・・。」
銀のカードを見送って、さらに進めていく。もしも、怪獣の怒りや興奮を抑える能力を持ったカードがあれば、それが有用な一手になれただろう。けどそれは今無い。基本的には怪獣は『破壊者』だ、攻撃的な存在が圧倒的多数を占める。
「殴れば、殴り返される・・・ん?」
「どうしたの?」
「いや・・・見覚えのないカードが。」
それは不気味なほど真っ黒なカード。黒く塗りつぶされ、何も描かれていない。描かれていたとしても、読み取ることは出来ない。試しにバディライザーに挿入してみるが、なにも反応しない。
「ひょっとして、アイラのカードなんじゃないかな?」
「アイラの?・・・アイラの、心なのか?」
なにもかも拒絶し、何色にも染まらない、黒。それが今のアイラなのか。
「ここでジーっとしててもドーにもならないけど、なにをしても空回りしそうだな、なんか。」
「ならもうちょっと休んだら?案外降ってくるかもよ?」
「答えが降ってきたら苦労しない。・・・と?」
携帯が鳴っている。マナーモードにしていて気が付かなかった。発信者は・・・チョーさん?珍しい。
「もしもし?チョーさん?」
『シンジ様、ベムラー様がお待ちしております。』
「なにか進展があったってこと?わかった、すぐ帰る・・・って、ちょっと外に出るのも時間かかるかも・・・。」
『ご心配なく、只今お迎えに参っております。』
「迎え?」
「シンちゃん、降ってきた。」
「降ってきた?なにが?」
ズキュゥウウウン!と轟音響かせ、それは舞い降りた。
「車。」
「見りゃわかる。なんだこれ、ウチにあった車じゃん。」
「シンジ様、お乗りください。」
「はぁ・・・これ、飛ぶんだね。わかった、一旦帰ろう。」
「シンジさん。」
「シンちゃん!」
「うん、行ってくる。なにかあったら連絡ちょうだい。」
グッと親指を立てて、後部座席に乗り込む。
「シートベルトを着用ください。」
「わー、こわい。たかい。」
ふわっとした浮遊感を味わい、お尻がムズ痒くなる。以前の東京タワーの事件以来、少し高所恐怖症のが気が出ていたのを思い出した。
「うわっ・・・本当に人がいっぱい集まってるな・・・。」
「それでは
「そんなに飛ばすな・・・」
言い切る前にエンジンに火がついて、Gで舌が引っ込んだ。
「シンちゃん・・・がんばって。私たちもがんばるから。」
「うん、行こうゴモたん!」
「アギちゃんも、随分頼もしくなったね。先輩として嬉しいよ。」
「ゴモたんのおかげかな、それにシンジさんも。」
「じゃあ、さっきの続きも聞かせてくれるかな?」
「うぐっ、もー早く行こう!」
一体なにを話していたのかは、2人だけの秘密。
「あぁあああキャップ見てください、飛んでいきましたよ!」
「すっげぇ・・・空飛ぶ車なんて初めて見た・・・。」
「レトロフューチャーに描かれた、エアカーのようですね・・・あのエンジン音は、おそらくイオンエンジンの一種ですね、ぜひ開発者とも話し合ってみたい・・・。」
「もう、それよりどうやって中に入るか考えないと!」
「ねぇ、今の車に乗ってた人・・・どっかで見たような・・・そうだ、前に雑誌のインタビューで見た・・・。」
キャップと呼ばれた女性が、携帯の画面を弄って、その答えを導き出す。
「これよ!『怪獣娘とつながる少年』。この人になら・・・!」
「よーしそうと決まれば、シンさん、あの車どこ行くか分かる?」
「まかせてください!僕の発明したこの新式レーダーでなら、火星まで居場所を・・・。」
「はいはい、時間は待っちゃくっれないんだから、急ぐわよ!」
「
「「了解!!」」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「ただいま!」
「おかえり、さっそくだけどデータベースへアクセスできた。こっちへ来てくれ。」
家に帰れば、ベムラーさんが出迎えてくれた。さっそく成果があったようで、重畳重畳。
「その前にシンジ君、一つ確認しておきたいことがある。」
「なんですか?」
「本当に、見ても大丈夫だな?踏み出したことに、後悔しないな?」
「・・・はい。」
「そうか、なら。」
データベースに繋がったパソコンの前に来た。
「今の状況に、最適だと思われる情報だけを
「・・・。」
それは実験の経過を記録した、日記のようなものだった。他にもある膨大なデータの内の、ほんの一部。一番最後、『26番目』の、実験データだ。
「カイジューソウルの、製造実験?」
簡単に言うと、カイジューソウルを人為的に生み出す計画だ。それまでの実験で、怪獣娘一人ひとりが引き出せる力には限界があり、それは先天的に備わった、一種の『法則』。『怪獣は必ずどこかで「負ける」』という『運命』のようなものだ。その運命を乗り越えうる、究極にして無敵の怪獣を作り出すという計画だ。
「アイラは、生まれついての怪獣娘じゃなかったの?」
「薬物や、過度なストレス負荷による怪獣娘の実験が、それ以前から行われていた。その中で、アイラに使われたのは、一種の降霊術らしい。」
「降霊術?コックリさんとか?」
イタコのように、伝説上の怪物や妖怪の類を、アイラの体に降ろした。そういうことだ。
「これとは別の、ソウジ氏の手記によると、降ろされた怪獣は、『別の宇宙』の存在だと言われている。それも、複数の宇宙から。」
「別の・・・宇宙・・・。」
別の宇宙に、別の自分がいるように、別の宇宙に同じ名前の怪獣がいたりする。例えばレッドキングは、どくろ怪獣と呼ばれて、多々良島や日本アルプスに生息していたと言われるが、はたまた、ギアナ高地や、次元の境目を漂う幻の島に住んでいるものもいたという。どちらも間違いなく『レッドキング』ではあるが、その生態は大きく異なる。
「複数の宇宙に存在する、同じ名前の怪獣を集めた・・・。」
「『破壊神』『虚構』『最終兵器』『自然バランスの調停者』『教育パパ』、そして『怪獣王』・・・様々な呼び名があったと、手記には記されている。」
「なんかひとつ変なのが混ざってません?」
「とにかく、同じ名前であっても、全く役割の異なる存在が、一堂に集められた。もはや残っているのは、『名前がもつ概念』だけだろう。『最強』という概念・・・。。」
原初にして、頂点、怪獣の中の怪獣、怪獣王。アイラという少女に与えられた運命は、あまりに重い。
「名前・・・。」
「名前か、研究者たちは、26番目の実験体ということで、『ブネ』と呼んでいたらしい。ソロモン72柱の26番目の悪魔で、悪霊を操る竜の悪魔だという。」
「ブネ・・・。」
「だが、ソウジ氏は違う名をつけていたようだ。研究者たちが口々にしていた『
と、いいところでチョーさんに呼ばれた。
『シンジ様、来客のようです。』
「来客?怪獣娘の誰か?」
『いえ、怪獣娘とは関係のない人たちのようです。』
「誰だろう?とりあえず出るよ。」
研究室から出て、インターホンを代わる。モニターには、女性が一人と男性が二人、皆大学生ぐらいの年齢の人たちがいる。
「はい、濱堀です。」
『ごめんください、私たち、『SSP』というものです、濱堀シンジさんのお宅で間違いないでしょうか?』
「そうですけど、マスコミは遠慮させてもらってます。」
『違います!マスコミ・・・とはちょっと違うんです!お話をさせていただきたくて・・・。』
「SSPってなにかわかる?」
「たしか・・・インターネット上で活動してる・・・オカルト研究チームだったかな?よくガセ情報とか掲載して炎上してるのを見たことがある。」
「マスコミより酷くない?」
「そうかもな、なら断ったらどうだ?」
「あの、すいません、やっぱり今日のところはお引き取りを・・・。」
『あの怪獣娘さんについて、知って欲しい事があるんです!あの時暴れていたのには、わけがあったんです!』
「えっ?!」
僕の知らない、アイラの情報。ひょっとすると、とんでもない情報じゃないのか・・・?良くも悪くも。
「ベムラーさん、どうしよう?」
「君は、どうしたい?」
そんなの決まってる。
「・・・中へどうぞ。あっ、車だけはガレージの方へ移してください。路駐だと邪魔になりそうなので。」
『・・・ありがとうございます!!』
3人を迎え入れ、応接室へと通す。リーダーのキャップと呼ばれる女性は、ちょっとおっちょこちょいだけど、明るくて誠実な人。ジェッタという青年は、やかましいけど、根はしっかりしてる人みたい。シンさんというメガネの人は、変な機械を持ってるし、言い回しが周りっくどいけど、かなり真面目な人だ。
「私『夢野ナオミ』です。」
「濱堀シンジです。」
「さっそくですが、これを見てください。」
挨拶もほどほどに、タブレット端末の動画を提示される。いきなり爆音から始まって面食らったが、その中心にいる人物はよく知っている。
「アイラ!」
「この怪獣娘さんが、暴れた・・・いや戦っていた最初の頃の時間です。突然、黒い影・・・シャドウが現れて、人を襲い始めたんです。」
アイラが戦っている相手は、たしかにあのシャドウだ。あの時、僕たちが行った場所以外にもシャドウは現れていたんだ。その戦い方は、お粗末にも上手とはいえず、無我夢中で手足を振り回しているようであった。
「この戦いの中で、彼女は明確に人間を守ろうとしています。この人たちへのインタビューも、僕たちは行いました。」
「アイラが、守ってたんだ・・・。」
その内に、シャドウはアイラへと狙いを定め、数で一斉に取り囲み始めた。途端に苦しみだすアイラ。
「アイラ!」
そしてシャドウに覆いつくされ、アイラの姿が見えなくなった時、突然青い光がシャドウを吹き飛ばした。そして、その次の瞬間に映っていたのは、理性を吹き飛ばされた、あの状態であった・・・。ここで動画は途切れた。
「アイラ・・・暴走してたんじゃなくて、守ろうとしてたんだな・・・。」
タブレットの向こう側の、物言わなくなったアイラに指を添え、涙交じりに呟いた。本当は怖かったろうに、自分を喪ってでも、必死に戦おうとした。
「このことを、GIRLSへ伝えたかったんですが、生憎どこにも繋がらなくって。」
「それで、濱堀さんの姿がたまたま見えて、濱堀さんなら聞いてくれるだろうと思ったんです。雑誌のインタビューで見た、怪獣娘と人間の架け橋になる濱堀シンジさんなら。」
「ありがとう・・・ありがとうございます・・・!」
なんて、なんていい人達なんだ。無駄な喧騒や根も葉もないデマで埋もれてくだけだった真実を、ここまで真摯に訴えてくれた。人間、捨てたもんじゃないなと、心からそう思った。
「本当にありがとうございます。アイラのこと、本当に信じていいんだって思えました。」
「よっし、これで、
「これでアクセス数稼げれば、家賃も払える!」
(やっぱ間違いだったかな?)
これだから人の本音というものは聞きたくない。けど、上っ面だけ綺麗ごとを並べて甘い汁をすするような連中よりも、こんなに裏表が無くてわかりやすい人物のほうが好感が持てる。嘘がつけないんだろう、この人たちは。
「ともかく、この真実が公開されば、怪獣娘やGIRLSへの信頼を取り戻すことが出来るかもしれない。」
「こちら側としても利益になる。Win-Winなところだろう。」
「じゃあさっそく、サイトにアップロードして・・・!」
「・・・通信?ピグモンさんから?」
ジェッタが意気込んでいるところで、シンジのビデオシーバーが鳴った。
『大変なんですシンシン!』
「はい??」
「いや、シンさんのことじゃないから・・・・どうしましたピグモンさん?」
『アイアイが、アイアイがいないんですぅ!』
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
もぬけの殻、まさにその言葉通りだった。アクアラインに浮かぶ氷塊を調査したところ、水面下の部分には穴が開き、そこから既にアイラは抜け出していたのだった。
「抜け出したって、どこに!?」
『わかりませぇん!今大騒ぎで探しているところなんですぅ!』
「もし、見つからなかったら?いや、見つかったとして、どうなるの?」
『わからないわ、現在GIRLS上層部もその対応に追われているの。』
「エレキングさん・・・GIRLSはなんて?」
『・・・彼女は不安定な状態なの。もしも再び暴れだすことがあれば・・・最悪の手段もとらなければならなくなるかもしれないわ。』
「そんな・・・せっかく、アイラの無実を証明できる手がかりがあるのに!」
『手がかりがあっても、決定的な証拠が無ければ無意味よ。それを、彼女自身が摘んでしまうかもしれない。』
「・・・そんな。」
『とにかく、私たちも大急ぎで捜索するわ。あなたの力が必要になるかもしれない、それだけは覚えておいて。』
「・・・わかりました。」
プツッと通信を切った。
「わかったもなにもないよ、どうするの!?」
「状況が変わってしまった。今この動画をアップロードしてもなんの意味もないだろう。この混乱の渦に飲まれるだけだ。」
「・・・せっかく、ここまで来たのに・・・。」
アクアライン付近の埠頭では、緊急避難命令が敷かれ、SNS上にも不安の声が上がっている。アイラへの、怪獣娘への不信感は増す一方だ。
「アイラさん・・・どこへ行ってしまったんでしょう?」
「アイラが見つかっても、今アイラがどんな状況なのかもわからない。海底でエネルギーを蓄えているのかもしれないし、全然違うところへいってしまっているかもしてれない。」
もしも違う場所で暴れ始めれば、被害はますます増えるばかりだ。そうなれば、もうカバーしきれなくなる。
「アイラぁ・・・。」
「シンジさん、アイラさんを信じてあげて。アイラさんを一番信じられるのは、シンジさんだけなのよ。」
「そうだけど・・・。どこへ行ってしまったのか・・・。」
ふと、自分の言葉に思い当たる節があった。そしてそれは次に確信に変わった。
「キャップ、これ見てください。」
「なに、シン君?」
「今、東京湾の三浦半島沖の辺りに、微弱な電波が発せられているんです。」
「漁船の無線かなにかじゃないの?」
「民間の無線やビーコンに使われるている周波数とも違う、特殊な電波のようです。」
「これってもしかして、怪獣娘が発してるとか?」
「いえ、これは生物の発するエコーなどとも違う、周期的なシグナルです。」
「ひょっとして・・・。」
バタバタとシンジは自分の部屋の机の上の機械を引っ張り出してきた。
「これじゃないかな?迷子用のGPSを試しに作ってみたんだけど?その試作品をアイラにあげたんだ!」
「この周波数、間違いありません!これです!このシグナルを追えば、向かう先も割り出せますよ!」
「やったねシンくん!シンジさんも!」
「さすが名前が似てるだけある!」
「それ関係あるかなぁ?」
アイラにあげたあのストラップ、あれがこんな形で役に立った。なにより、アイラがあのストラップをまだ持っていてくれていた、それが嬉しい。
「出ました、気流や海流を計算した結果、小笠原諸島の方に向かっているようです。」
「小笠原?そんな長距離泳いでいくつもりなの?」
「いや、アイラはこの家に来た時も、『泳いできた』って言ってた。泳ぐのが得意な怪獣だったのかも・・・。」
「でも、小笠原のどこだろう?ひょっとしたら、そのさらに南にまで行っちゃうかも・・・。」
「いや、小笠原だとしたら、心当たりがある。」
「どこです?それは!」
「大戸島だ、かつてソウジ氏と一緒にいるところを目撃された場所。そこに向かう可能性が高い。」
生物には、生まれた場所へと帰る本能がある。アイラにとっての始まりの場所、それが大戸島なのか。
「大戸島、って?」
「小笠原の端の島ですね。何年か前に火山活動が活発化して、人は住めなくなっていましたが、最近は観光としての入島は許可されているはずです。」
「じゃあさっそく、大戸島に行って・・・!」
「キャップ、いくらなんでもそりゃ無理だよ。船もないのに。」
「それに、居場所が分かったところで、アイラになにをしてあげればいいのかわかってないし・・・。」
一歩進んでは立ち止まる、けど着実に前進して行っている。流れが、追い風が今吹いている。
「大戸島について調べてみよう。ベムラーさん、データベースに大戸島に関する資料が無いか調べてみてください。キャップたちも、お願いできますか?」
「もちろん!任せておいて!SSP、調査開始よ!」
「「おぉー!」」
「おー!」
それぞれが調べ始めたところで、シンジも自分がとれうる手立てを考える。
「アイラ・・・そこにいるんだな?」
ビーコンの点滅が、応えてくれる。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「ありました!大戸島の伝説の怪物!」
数時間後、タブレットに張り付いていたシンさんが声を上げた。
「伝説って?」
「はい、『太平風土記』という古文書によると『
「人魂・・・青い炎?」
「それに、この姿、まるで・・・。」
黒い体表に、白い背鰭、そして口からは青い炎を吐いている。まさにアイラのあの姿そっくり。
「森羅万象乱れし時?」
「おそらく、環境の変化のことを指していると思われます。火山の噴火や、寒波の襲来、あるいは太陽の黒点の移動。それに伴う災害や飢饉を、『
「日本では古来から、怪物や妖怪なんかの邪悪なものも、神様として祀ることでその怒りを鎮めた、っていう話がいくつもある。厄いの獣も、
厄いの獣の絵の隣に、大きな漢字が3文字書いてある。
「この、漢字は?」
「おそらく、名前だと思われます。呉爾羅・・・『ゴジラ』と読めます。」
「ゴジラ・・・それがアイラのもう一つの名前。」
「ゴジラか・・・偶然か、それとも運命か。」
ベムラーさんも来た。手には資料を持っている。
「そちらもなにか発見が?」
「ああ、先ほどシンジにも言ったが、ソウジ氏はアイラのカイジューソウルに独自の名前を付けていた。『God』、『Z』そして『Illa』。綴れば『GodZIlla』・・・。」
「ガッズィーラ?いや、こっちも『ゴジラ』か!」
「そうだ、ゴジラという名前で呼ばれる、そういう運命を背負っているんだ、この怪獣は。」
「逃れられぬさだめ・・・。」
ますます信憑性が増す。少なくとも、SNSで呟かれているゴミのような憶測よりもよっぽど信頼性が高い。
「それで、その古文書の続きは?」
「あ、はい。『獣の暴虐に立ち向かわん幾多の
「附子?ぶしってなんだ?」
「毒草のトリカブトのことで、ブスとも呼ばれます。古くから暗殺などにも使われ、『武将の兜をとってしまう』という意味で、トリカブトと言われています。」
「つまり、毒薬を自分ごと飲み込ませて、退散させたってこと?随分野蛮な方法ね・・・。」
「けど、あの表皮にはどんな注射針も刺さらないと思う。毒を盛るなら飲ませるしかないと思う。」
「『薬は注射より飲むのに限る』とも言うしな。」
「いえそんなはずはありませんよ、飲み薬は胃で消化されて、吸収されるまでのタイムラグがありますが、血中への注射ならすぐに効果が現れるもので・・・。」
「はいはい、ただのたとえ話だから・・・。」
「毒殺か・・・でもただの毒じゃ効き目なさそうだな。」
「秘蔵の附子と書かれていますからね、特別な製法を用いられた秘薬か・・・あるいは鉱毒かもしれません。大戸島は火山島ですから、そういうものが昔からあったのかも。」
「ヒ素や、鉛?」
「あるいは、『放射性物質』か。」
自ら悪魔の口へと飛び込む捨て身の戦法というのも納得がいく。そんな危険なものを扱えば、扱った当人もただでは済まない。
「ベムラーさんの方は、なにか?」
「ああ、ゴジラは、絶対に負けることのない無敵の怪獣として生み出された。平行宇宙を観察し、あらゆる兵器、あらゆる外敵、そしてあらゆる『事象』にも
「あらゆる、事象?」
「そうだ、おそらくその毒物にも勝ちうる『ゴジラ』の要素も備えている、ゴジラの中でも最強のゴジラ、それが今のアイラだ。ひょっとすると、『時間』ですらも『ころす』ことができないかもしれない。」
「『時間』・・・。」
「そして実験の最中、アイラは暴走し、GSTEもフリドニアも壊滅した。そのアイラを止める方法を、ソウジ氏は実行したんだ。」
「そ、それは、どうやって!?」
「それは・・・『忘れる』ことだ。」
「『忘れる』・・・?」
「そう、忘れること。ソウジ氏はアイラの首筋に、特殊なコントローラーを埋め込んでいた。それを使って、アイラの中の『ゴジラ』の『記憶』の一切合切を『消した』んだ。『忘れる』・・・いや、『忘れられる』ことによって、『ゴジラ』も一時的に消えた。」
「人は、思い出の中で生きている・・・。」
「そうだ、逆に言えば、思い出の中から消えてしまえば、その時本当に人は死んでしまう。ゴジラもそれには逆らえなかった・・・。」
「じゃ、じゃあ、そのコントローラーを使って、もう一度アイラさんの記憶を消せば?!」
「『止める』ことは可能だろう。」
「けど、それじゃあ・・・。」
「そうだ、人間は一歩も進歩していないということだ。同じ過ちを繰り返す、愚かな人間という証明だ。」
「それに、ゴジラの中には、《どんな兵器も一度受けたら耐性ができる』個体がいたかもしれません。同じ手が通用するとも限らない。」
「『私は好きにした』・・・。」
「え?」
「父の手紙に、そう書いてありました。『私は好きにした、君らも好きにしろ』、と。きっと、このことだったんでしょう。だから、父とは違う方法探さなければいけません。父とは違う道を・・・。」
それが、シンジがとるべき道。父を超えるという証明。
「でも・・・できるかな、そんなこと?」
「シンジさん・・・。『ネバー・セイ・ネバー』!」
「?」
「出来ないなんて言わないで!シンジさんならきっと出来る!だってシンジさん、怪獣娘全員と仲良くなるんでしょう?」
「・・・そうか、そうだった。ありがとう、ナオミさん。」
「どういたしまして!」
諦めたら終わりだ、僕の未来も、怪獣娘の未来も閉ざされる。
「よっし!じゃあ取れるだけの可能性を探そう!ベムラーさんは、もうちょっとデータベースを探ってみて。SSPの皆さんも、協力してください。僕は・・・可能な限り、自分の限界に挑戦してみます。」
「ああ、まかせておけ。」
「ええ、ここまで来たら乗りかかった船よ!!」
「俺たち、もう仲間だし!」
「最後まで一緒ですよ!」
ここにきて、頼もしい仲間が増えた。とても頼もしい『人間』が仲間になった。
出会えてよかった。心の底からそう思えた。まだ安心するには早いが、希望が見えた。
まさか1日でこんなに書けるとも思っていなかった。それほどまでに筆が乗った。まあ、ほとんど会話ばっかりで場面が全然動いていないけど・・・。会議ばっかりの映画が面白いわけないだろう!?(2016年7月29日までの前評判)
初めて予約投稿を使ったけど、上手くいくかちょっと不安。次回で最終決戦の予定。
引き続き、感想・評価お待ちしております。日に日にお気に入り登録者がジワジワ伸びていることが、嬉しく思っています・・・。
そうそう、モン娘は~れむもよろしくね。怪獣娘の次はモン娘は~れむがアニメ化する番だ!