怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 今更ですが、この作品に登場する人物、団体等は全て架空の物であり、現実のいかなるものとは一切関係ありません。


君の名は、

 「ここが・・・大戸島か・・・。」

 「本当に人っ子一人いない、離島ね。」

 

 怪獣娘たちの本隊より一足早く、シンジとSSPのメンバー、それに運転手のチョーさんが大戸島に到着した。あの空飛ぶ車を使って。

 

 「いやぁ~すごい、感激です。未だかつてどこの機関でも開発されていないであろう新式イオンエンジンを体感できるなんて・・・。」

 「お褒めにあずかり、光栄でございます。」

 「ぜひ、これを開発した人とお話を・・・。」

 「ちょっとシンさん、ここに来た趣旨忘れてない?」

 「そうよ、これを逃したら一生無いってレベルの大スクープなんだから!」

 

 そう、この島で、今から史上最大の作戦が始まる。怪獣娘と人類の共存する未来、そしてシンジとアイラの未来を賭けた戦いが。そしてその中心人物がここに・・・。

 

 「・・・。」

 「シンジさん、大丈夫?」

 「・・・酔った。」

 「主役がこれじゃあ、この先思いやられるよ?」

 「大丈夫、大丈夫だから。」

 

 天気は曇り、やや風が強いがこの程度は問題ない。少し風に当たって酔いを冷ます。

 

 『シンシン、状況はどうですか?』

 「・・・問題ない。今からセットアップを行います。」

 『顔色悪いけど大丈夫?』

 「なんの、ただの武者震いさ。」

 『どうせ酔ったんだろ、こっちも何人かそうなってるけど。』

 「心配事があると、船酔いしやすくなるって言いますからね。酔い止め以外にも、胃薬にも意外な効果があったりしますよ。」 

 「そういえばじーちゃんが、乗り物酔いの時はコーラを一気飲みすると効くって言ってたよ?」

 「コーラ、買ってこようか?あそこ自販機あるし。」

 「いや、いい。こういうところのジュースって、高くつくから。」

 

 この期に及んで貧乏が抜けない。

 

 「それにしても、この匂い・・・。」

 「匂いが、どうかしたの?」

 「これは硫黄の匂いですね。長らく噴火はしていないとはいえ、煙は漂ってきているようですから。」

 「そんなの、戦ってる最中にドカーン!とか来たりしないの?」

 「計測上は、向こう10年は噴火の見込みがないそうですが、なにせ相手は大自然ですからね、何が起こってもおかしくはありませんよ。」

 「ちょっと、怖い事言わないでよ・・・。」

 

 かつては人が住んでいた島だったが、火山活動による避難命令が出されて以来、ここに住む者はいない。かつての家屋も、風に含まれる微量の硫黄によって朽ちている。

 

 『それだけ受け答えが出来ているなら、問題ないわね。』

 『エレ、お前は落ち着きすぎだ。』

 「いえ、レッドさん僕は大丈夫です。」

 『そうか、ならいいんだが。』

 『いい?あなたたちの任務を確認するわよ。』

 

 確認されるまでもない、何を隠そう、その作戦立案者が、ここにいる面々なのだが。

 

 

 

 

 話は数時間前に遡る。

 

 「納得がいきません!こんなの!」

 

 SSPとベムラーさんを連れ立って、シンジはGIRLS本部の会議室・・・未確認怪獣娘対策本部(本)に戻ってきた。そこで告げられたのは、残酷な指令であった。

 

 「『アイラの正体を明かすことなく、秘密裏に葬り去れ。現存する戦力の総てをもって、未確認敵性生物として葬り去れ』なんて、そんなの酷すぎる!アイラのことを、忘れろなんて!それがGIRLSのやる事か!」

 「今ならまだ、国連の力を使ってでもすべてを揉み消せる。そういう判断よ。」

 「誰がそんなので納得するもんか!」

 「ここにいる誰も、納得なんかしていないわ!!!」

 

 エレキングさんも声を荒げた。叩いた机の上から、ペンが転がり落ちる。ここには、地球上全てではなくとも、日本中の集まることが出来た怪獣娘がいっぱいいる。

 

 「こんなこと、あっていいはずがないわ・・・。」

 

 幸せは犠牲なしに得ることはできないのか、時代は不幸なしに越えることは出来ないのか。

 

 「怪獣娘であるベムラーさんはともかく、民間人はここにいてはいけないわ」

 「私たちだって、無関係じゃないわ!」

 「もはや全人類に、無関係な人なんていません。これはもう、人類と怪獣娘全てがかかってるんです!最終作戦(ファイナルウォーズ)の用意だってしてきました!最後のチャンスをください!」

 「私は、一介のGIRLS職員よ。私に決定権はないわ。・・・どこへ行くの?」

 「上に掛け合ってきます。」

 「それでダメだったら?」

 「これ(身分証)を返すだけです。」

 

 あの日、GIRLSに入った時にもらった身分証明書。

 

 「もう、GIRLSにはいられなくなるわよ?」

 「思えば、簡単なことでした。GIRLSが全てじゃない。怪獣娘を守るための組織が、1人の怪獣娘、いや、一人の女の子を排除しようというなら、僕はもう・・・組織にはいられない。」

 

 「たった一人で行動するというの?テロリストとみなされるかもしれないわよ。」

 「・・・もう、嘘を吐きたくないんです。自分にも、向かい合う誰かにも。」

 (これって、俺たちも巻き込まれてるのかな?)

 (テロリストはいやですよ!)

 (静かに!シンジさんを信じましょう。)

 

 「たとえ一人でも、僕は行きます。」

 「ちょっ・・・マジ!?」

 「シンちゃんさぁ、落ち着きなよ。」

 「止めてくれるなミカ、僕はもう選んだんだァ!?」

 「まずお前が落ち着け。自分の言葉に酔うのもやめろ。」

 

 ミカと、レッドキングさんに止められた。というか投げられた。

 

 「私もね、シンちゃんと同じ気持ちだよ。私だけじゃない、レッドちゃんも、アギちゃんたちも、エレちゃんも、それに・・・ゼットちゃんも。一人で抱え込んだりしないで?何回も言ってるでしょ、仲間を頼れって。」

 「ミカ・・・。」

 「今更水臭ぇこと言うなよ。その最終作戦っての?説明してからでも遅くはないだろ?」

 「レッドさん・・・。」

 「まったく、少し顔つきが変わったと思ったけど、私の見間違いだったのかしら?」

 「エレキングさん・・・。」

 

 見渡せば、皆が僕に注目していた。その眼には、皆同じ光が宿っていた。

 

 「うん・・・シンさん、ベムラーさん。作戦の説明をします、手伝ってください。」

 「あぁ、まずはシン君からだな。」

 「は、はい!・・・こんな女の子だらけの中での発表なんて、緊張するなぁ。大学でのレセプションとはまた違う・・・。」

 「はいはい、シンさんは私たちのブレインなんだから、もっとしっかりして!」

 

 「・・・以上のように、この『太平風土記』に描かれた『呉爾羅』こそ、アイラさんの正体だと推測されます。したがって、この伝記に従う形に、本作戦はなります。」

 「具体的には、どうすればいいの?」

 「次は僕が。伝記に従うとすれば、必要となるのは『秘蔵の附子』。大戸島の風土から推測された、この附子の正体は、『カドミウム』だと結論付けました。」

 「『カドミウム』?水銀コバルト?」

 「そう、高度経済成長期に、亜鉛鉱山から流れ出た廃水に含まれるカドミウムによって『イタイイタイ病』が蔓延したことが有名です。大戸島にも、僅かながら亜鉛の鉱脈があることがわかりました。カドミウムは亜鉛鉱に含まれていることが多いんです。」

 

 詳しい説明は省く。作者の頭がそこまで追い付いていない。

 

 「そうして開発されたのが、この『カドミウム弾』です。これを伝記のとおりに、口の中に撃ち込めば、間違いなく『ころす』ことは出来ます。」

 

 シンジは黒いカートリッジを取り出して見せた。ざわざわと会場内がざわつく。

 

 「もうひとつ、ゴジラの能力について知るべき、恐るべき事実があります。ゴジラの発する熱線の温度は、50万度から高くて100万度程度。これは、みなさんの火炎攻撃や熱線と比べれば『低い』部類に入ります。」

 

 元が人間だった怪獣、ジャミラの火炎は100万度。ミサイル超獣ベロクロンの火炎は1億度。ご存知、ゼットンの火球は1兆度。昔見た怪獣図鑑のビデオだと、ベロクロンの火炎は100万度だって言ってたけど。どういうことなの戦闘のプロさん?

 

 「そして背鰭からも発せられる、あの青い光。ここから、ゴジラの熱線の正体、ひいてはエネルギー源は、『核融合』だと推測されます。」

 

 会場内はさらにざわついた。

 

 「ちょ、ちょっと待てよ?核融合だと!?じゃああいつの体内には原爆があるってことか?!」

 「『核融合』と『原爆』は、直接的な繋がりはありません。この辺りは・・・シンさんの方が詳しいかな。」

 「はい、簡単に言うと、原爆には『核分裂』が、水爆には『核融合』が使われています。原爆は、ウランやプルトニウムといった放射性物質の原子核が起こす、核分裂反応に伴う莫大なエネルギーを使用しています。対して水爆は、重水素がヘリウムに融合する核融合反応に伴うエネルギーを用います。ただ、その核融合を起こすことそのものに、莫大なエネルギーが必要になり、水爆の起爆には原爆が必要となります。水爆による放射能=起爆装置の原爆の放射能、という認識でもらって間違いはありません。」

 「核融合そのものには、放射能は伴わないということ?」

 「決してゼロではありませんが、そういうことです。ゴジラが行っているのは、その核融合なんです。」

 「けれど、ゼロではないのだとしても、あの現場から放射線は検出されていなかったわ?」

 「ゴジラが行っているのは、人間の科学力や常識を上回る、さらに進んだ核融合・・・おそらく、爆発してから数秒で半減期に入る、特殊な評者性物質が作られているとしか考えられません。・・・こんな不思議に直面するのは、生まれて初めてかもしれません。」

 

 ちなみに、起爆に原爆を使用しない水爆の、純粋水爆というものもある。当然こちらも残留放射線などは少なくなる。つまり、これを使っているんだと思っていただきたい。

 

 「カドミウムは、原子炉の制御にも使われています・・・が、これはほぼゲン担ぎです。カドミウムの毒性にかけるしかありませえん。」

 「そんな、ふわっとした理論でいいのか?」

 「こっちは本命じゃありませんから。本命は、もっと辛くて険しくて、丸く収められる方法ですから。」

 「本命?」

 「ならそれを早く聞かせて頂戴。もう時間も無いのだから。」

 「はい、いいですか・・・。」

 

 

 冒頭に戻る。

 

 

 「で、俺たちは記録して、拡散させる。」

 「アイラさんが、怪獣娘さんたちと和解する、決定的瞬間をスクープするのよ。」

 「ジェッタ君、カメラのバッテリーは大丈夫ですか?この前みたいなことは御免ですよ。」

 「大丈夫、チョーさんがいっぱい持ってきてくれたし。」

 

 SSPには、戦いの様子を記録してもらう。カメラは2台あり、ひとつはSSPが、もうひとつはシンジが持っている。録画、録音されたデータは、チョーさんが車で保管してくれる。

 

 「シンジさん、S.G.M(Solid Graphic Monitor)の調子はどうですか?」

 「問題ない、シンさんが調整してくれたおかげで、予定より前倒しに出来た。」

 「それがもうひとつの(カメラ)にもなっていますから、壊さないようにしてくださいね。」

 「わかってる。こっちの情報も、後々そちら側に回すからね。」

 

 カメラ機能や、赤外線モード、昨今のビデオカメラやスマートフォンに備わっている機能が、大体この片目ゴーグルに入っている。

 

 「今僕たちがいるのは、島の北側。ここから南西方向が波止場で、みんながここから上陸する。僕たちは、ここから南東方向へ行って、場所を確保しておきましょう。」

 「戦うのにちょうどよくて、収録現場(ベストショット)にもいい場所ね。」

 「そう、皆さんの安全の為にも、いい場所をとっておかないと。」

 「ビーコンは、島の南端を示しています。アイラさんはそこでしょう。」

 「よし、聞こえましたか?今の。」

 『聞こえているわ、今あなたたちの姿が見えた。アギラたちをそちらに回すわ。私たちは島中の捜索を行ってから合流するわ。』

 「了解。じゃ、行きましょうか。」

 「SSP、出動!」

 「「了解!」」

 「了解。」

 「了解しました。」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「それにしても、廃墟だらけだねこの辺りは。」

 「島の観光客も、この辺りには来ないのね。」

 「廃墟に入るにも管理者の許可が必要になりますし、いつ崩れるかもわからないから危険なんです。元から立ち入り禁止なのかもしれませんね、この辺りは。」

 「ここも、忘れられた場所なのかな・・・。」

 

 先行しつつ、戦うのにうってつけの場所を探す。ここら辺は物陰が多く、狭いので戦うには向かないだろう。

 

 「衛星写真では、この先に広場があるみたいですね。そこへ行ってみましょう。」

 「こういうところも、いつかは取材に来てみたいって思ってたけど・・・そんな場合じゃないよなぁ・・・。」

 「そうね、せっかく小笠原に来るなら、ゆっくり観光にでも来たかったわね。けど今は仕事集中しなくっちゃ。」

 「この島の目玉は、火山を始めとする自然と、温泉みたいですね。」

 「温泉かぁ・・・たまには骨休めもしたくなりますね。」

 

 全部終わったら、温泉に寄ってみるのもいいかもしれない。などとあらかじめフラグを立てることによって、本命の死亡フラグを折っておくのだ。

 

 「まさにゴーストタウンって感じだな・・・あれ?」

 「ジェッタ君、なにか見つけましたか?」

 

 カメラのモニターと、実際の風景を見比べてよく確認したが、どうやら見間違いではないと悟った。

 

 「シンジさん、あれ見てあれ?」

 「なんですか?」

 「なんです?」

 「いやシンさんじゃなくて・・・あの家の表札。」

 「表札?」

 

 廃屋のひとつ、もう何年も手入れされていない生垣が生い茂り、林のようにもなっている家。その門に掲げられた、その家の主を示す名前。

 

 「『濱・・・堀』?」

 「ここ、シンジさんと関係あるのかな?」

 「どうだろう・・・濱堀姓は父のものなんですが・・・それも偽名の可能性があるので・・・。」

 「って、入っちゃって大丈夫なんですか?」

 「ちょっと、ちょっと覗くだけ。」

 

 ギィ・・・と門を開けて、中を見てみる。朽ちた物干しや、草の伸びきった庭、雨戸が締め切られていて、中の様子は見えない。

 

 「玄関も・・・開いてないか。行きましょうか。」

 「シンジさんのお父さんって、どんな人だったんですか?」

 「古生物学者・・・だったかな、怪獣を研究をしてたんだって。あの家の研究室とかも、そのための物だった。」

 「そうじゃなくて、人柄とか、その出身とか。」

 「・・・僕も全然知らないです。けど・・・ひょっとしたら。」

 「ひょっとしたら?」

 「いや、また今度に。先を急ぎましょう。」

 

 シンジが先導して、坂を上って広場を目指す。この廃屋群、かつては住宅地だった場所の先に、目的地はある。それがなんとなくわかった。

 

 「ここか、結構広いな。」

 「ここなら十分じゃない?見通しもいいし、傾斜もない。」

 「風もあまり強くありませんね。」

 

 果たしてその先にあった。衛星写真で見るよりも、それは広く見える。片方は崖に、もう片方は森と、さらにその先に海に面している。

 

 「あの崖、崩れてるわね。ひょっとして、アイラさんが?」

 「いや・・・あの崩れ方を見るに、台風で崩れたんでしょう。それもかなり前に。」

 「戦闘中に何かの拍子で崩れると危ないし、こっちの岩場に潜伏しましょうか。」

 「そうだね、よっしシンさん手伝って。」

 

 剥き出しの土と、その麓に積もった土砂。元々ここも開発の途中だったのかもしれないと推測できる。新しく家か何かが建つ予定だったところで、避難命令が出た・・・。それ以来手付かずのまま放置。

 

 「ここ、お願いします。僕はもうちょっと先の様子を見てきます。」

 「一人で大丈夫?」

 「大丈夫です、無線はONにしておくので、なにかあったらすぐ伝えます。それじゃあ。」

 

 シンジは一人、広場のさらに先の丘を登っていく。

 

 『シンちゃんどこ行くの?』

 「ちょっと、気になることがあって・・・。」

 『単独行動は危険よ?』

 「わかってます、ちょっと確認するだけ・・・やっぱりそうか。」

 『知ってるのか?ここのこと?』

 『じゃあ、やっぱりさっきの家も?』

 「来たことがある・・・なんか見覚えが・・・ある。」

 

 ぼんやりとおぼろげな記憶で、ただ『来たことがあるような気がする』という思い違いかもしれない。森ばかりで、こことよく似た景色が、日本中のどこにでもありそうだった。

 

 『感傷に浸るのはほどほどにして、早く持ち場に戻って欲しいわ。アギラたちは、既に到着している頃よ?』

 『私たちも、もうちょっとしたら合流に行くから、それからアイラを迎えに行こう!』

 『お前が作戦の立案者で、要なんだからな!・・・おい、聞いてんのかシンジ?』

 「ああ、聞こえてますよ。ただ、ちょっと問題が・・・。」

 『何?』

 「今目の前にいる。」

 『・・・あ!な!!た!!!なにやってるの!』

 

 今シンジのすぐ目の前、アイラがいる。時間としては24時間も経っていないが、別れる前見た時と同じ格好で。ビーコンは島の南を指していたが、磁場の影響で実際の位置とズレていたのかもしれない。

 

 『すぐに引き返せ!!オレたちも急行する!』

 『シンちゃん逃げてー!』

 『聞こえているの?シンジ!返事をしなさいシンジ・・・』

 

 プツッ、とゴモラ達の声が聞こえなくなる。無線機のスピーカーだけを切った。波が岩場にぶつかり、砕け散る音だけが今は聞こえる。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「アイラぁ!!」

 

 波音に負けないぐらい大きい声で叫ぶ。ゆっくりとアイラは振り返り、その顔を向ける。相変わらず不愛想、というか無表情だったが、少し安堵の表情にも見えた。

 

 「アイラは・・・自分が誰なのか、知っている?」

 「・・・。」

 「僕は、知ってる。」

 

 あれはそう、ミカがいなくなってすぐの頃。家の周りが事件のゴタゴタで騒がしくなり、ほとぼりが冷めるまで実家を離れることとなった。それで来たのがこの島。父の故郷だ。

 

 「そこで君と初めて会った。・・・そこで会った女の子が、君じゃないか?」

 「・・・。」

 

 コクン、とゆっくり頷いた。シンジは頬を緩ませ、アイラも同じ表情をした。

 

 「僕と君は、初めから従姉弟(キョウダイ)だったんだな。・・・それなのに、父は君を・・・。」

 「パパは、私を助けてくれたの。」

 

 「昔の事、何もかも失くして、暗闇の中にいた私に、外の世界の光をくれた。」

 

 「地平線に沈まない太陽や、満天の星空を覆うオーロラ。色んなものを見た。世界には、綺麗なものがいっぱいあるんだって、教えてくれた。」

 

 「でも・・・それも消えてしまう。私の中の、黒い私が・・・、私の知らない色んな私が、すべてを飲み込もうとする・・・。」

 

 紐が千切れたストラップを、アイラはギュッと握りしめる。

 

 「そうなる前に、私を、『私たち』を止めて?」

 

 悲願するように訴えてきた。物事には、かならず終わりが来る。アイラはもう、『疲れた』のかもしれない。埋まることのない、自分の『孔』に。

 

 シンジは、腰のホルスターに手を這わせる。カートリッジは付け替えてある。今なら狙って、トリガーを引くだけで全てを終わらせられる。

 

 「それは、できない。」

 「・・・どうして?そのために、ここに来たんでしょ?」

 「なぜなら、君自身がまだ諦めていないから。」

 「私が、諦めていない?」

 

 「そうだ、君はあの時だって人を守ろうとしていた。それがなによりの証拠じゃないか?」

 「私は・・・守ってなんかいない。勝手なことを言わないで。」

 「いくつもある君の力(ゴジラ)の中の、本当の自分の力をコントロールしようとした。そうじゃないのか?」

 「それは今まで、なんどもやって来た。けど、その度に上手くいかなかった・・・。私に出来るはずがない、ミカやアギみたいに・・・光になれない。」

 「『出来ないなんて、言わないで。』諦めなければ、最後にはきっと勝ち取れる。」

 

 丘の向こう側に答えがあるなんて思っていない。ただ、沈んでいく夕陽を見たいだけ。

 

 「必ず君を救って見せる。だから、君が諦めないで!」

 

 アイラの体から黒いオーラが漂い、その様に世界が色を失う。いよいよおいでなすった、この世の終わりか?それとも新たな時代の始まりか?

 

 「・・・来い。」

 

 はたまたそのどっちでもないのか?ジリッと足に力をこめ、来た道を駆け出す。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「来た!」

 「カメラOK?」

 「OK!」

 

 ゴモラたちは既に集合を終えている。カメラもバッチリ、最終作戦の準備は整った。その場に、丘の向こうからシンジが駆け下りてくる。

 

 「来た来た来たぁ!」

 「シンちゃんはやくぅ!」

 

 やや遅れて、厄いの獣が見を乗り出してきた。纏うオーラが、その姿を何十倍もの大きさのように見せながら。

 

 

 グゥワァアアアアアアアアアアアアォオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 腹の底から響くような咆哮、揺れる大地、まさしくそこにいるのは『怪獣王』。

 

 「みんな、いくよ!」

 「「「「「「「「「「「「「「ソウルライド!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 この場に会した全ての怪獣娘が、一斉にその力を解き放つ。

 

 「新たな時代の幕開けの為に、怪獣娘の力、お借りします!!」

 

 ホルダーからバラ撒いたカードが、シンジの掲げるバディライザーに吸い込まれる。

 

 「バディライド!」

 

 そして、最後にもう一枚。いつの間にか持っていた黒いカードを取り出す。

 

 「アイラ、君が闇を抱きしめられないなら、僕たちが半分持つよ。」

 

 バディライザーに入れられたとたん、そのカードは黒い火花を放ち始めた。そしてカードの表面が一枚ずつ剥がれていくように、いくつも重ねられた絵が散らばっていく。そしてその一枚一枚が、怪獣娘のゴジラの姿へと顕現(リアライズ)する!

 

 

 

 

 「アイラの中のゴジラが目覚めたあの時と、時を同じくしてこのカードが現れました。」

 

 場面は、会議場での発表会(ブリーフィング)に遡る。

 

 「最初はこのカードは何も描かれていない、真っ黒なだけのカードだと思っていました。」

 

 パッと、場内全員に表裏を見せる。

 

 「しかし解析してみた結果、このカードにはいくつもの絵が『重ねられている』状態であるとわかりました。何枚もの絵を透過処理して重ねられた結果、全てが混じって真っ黒で何も描いていないように見えていた、ということなんです。」

 

 スクリーンに、立体的なモデルが提示される。解析された結果、一枚一枚に『違う』ゴジラの絵が描かれているのが確認できる。

 

 「これが全部『ゴジラ』なの?」

 「うん、データベースには詳しい情報は載っていなかったけど、大よそ特徴は一致する。」

 「でも、細部まで見たらかなり違うぞ?」

 

 体色が微妙に違ったり、背鰭の形が違ったり、はたまた骨格からして別モノなやつもいる。特に違うのが『顔』だ。目が大きいヤツ、白目剥いてるヤツ、耳が無いヤツ、歯並びがいいヤツ、明らかに『眉』があるヤツ。大別しても15、細かいバリエーションで30はあるかもしれない。

 

 「そんな無茶苦茶なバリエーションのソウルが、アイラ1人に集中させられているんです。」

 「ソウルに向き合おうにも、ソウル全てが『オレもオレも』と自己主張が激しいから、一人ひとりと向き合って、制御することも出来ない・・・。」

 「だから、その荒ぶるソウルを、僕たちで止める。」

 「そんなこと出来るの?」

 「そのための、バディライド。」

 

 「バディライド中は、皆の心とリンクした状態になります。それは、同時バディライド中の怪獣娘同士にも当てはまります。」

 「じゃあ、みんなで一斉にバディライドした状態で、さらにアイラとバディライドすれば、ゴジラのソウルとも『対峙』できるってことか。」

 「そう。」

 

 なんか、あらかじめ用意して隠されてた方法にたどり着かされた、って感じが否めないですが。結局父の掌で踊らされているのか。

 

 「けれど、百歩譲ってその方法があっていたとして、私たちはゴジラに勝てるの?」

 「・・・正直、かなり厳しいかと。一体一体が一騎当千クラスの強さを持っていて、実質それらを同時に相手取ることになります。それでも、アイラ一人を相手取るより幾分温情なレベルですが。」

 「何の慰めにもならないわね。」

 「アイラの中のゴジラに、僕たちの味方に働いてくれる個体がいることを願うしかありません・・・。」

 

 怪獣王とは言っても、個体ごとに性格だって異なるはずだ。中にはイイやつだっているだろうし、我関せずなやつもいれば、逆にメチャクチャ凶悪なやつだっているだろう。

 

 というか、むしろ同時に顕現したら、勝手に喧嘩を始めるんじゃないかとも思う。『今の自分』を一番邪魔しているのは、紛れもなくすぐ隣にいる『自分自身』なんだから。

 

 

 

 

 「予想通りというかなんというか。ここまで来るともはや滑稽だぞ。」

 

 島のあちらこちらで熱線の嵐がレーザー演出のように吹き荒れ、怒号の重奏が鳴り響く。

 

 「ライブ会場かなにかか!」

 

 心なしか勇ましいマーチが流れてくるような感じだ。だがまあ勝手につぶし合いをしてくれているなら助かる。

 

 「物凄い光景です!まさにこの世は怪獣大戦争!」

 「ジェッタ君!身を乗り出すと危ないですよ!!!」

 「キャアアアア!」

 

 SSPも命がけの実況をしている。編集が大変なことになりそうだ。

 

 ギャアアアアアアアン!

 

 「あっ、このアイラいい子だ。」

 「あっちのはアイラは寝てる・・・。」

 「あっちは笑ってますよ。」

 

 ある程度予想していたことであったが、驚くべきことに、人間や怪獣娘たちの為に戦ってくれるゴジラが多く存在した。まさしく彼ら・彼女らも『正義の味方(ヒーロー)』なのだろう。

 

 ともかく、作戦は順調に進んでいる。既に半数以上の『ゴジラ』が『満足』し、それらが粒子となってカードに還元されていく。カードには、新たな『ゴジラ』の絵が現れ始めている。

 

 「このカードが完成したとき、アイラは完全に開放される・・・!」

 

 個体ごとに差はあるものの、冷凍攻撃や電撃に弱いものが多いということもわかっていた。そういった能力のある怪獣娘を筆頭に、果敢に攻めかかる。

 

 「特に強いのは・・・こいつか!」

 

 グワォオオオオオオオオオオオン!

 

 高い格闘能力に加え、体内放射などの技能にも優れた、最初に戦ったアイラに一番近い、ゴジラの中でも屈指の強さを持つ個体。恐らく、多くの強敵と対峙(VS)してきたのだろう。その相手となるのは、

 

 「レッドキング!」

 「エレキング!」

 「キングジョー!」

 「ブラックキング!」

 「ライブキング!」

 

 (キング)のファイブカード!!

 

 「戦法は変わらねえ!アースクラッシャー!」

 

 まずレッドキングが足を掬い、

 

 「エレクトリックテール!」

 

 エレキングが痺れさせ、

 

 「デスト・レイ!」

 「ヘルマグマ!」

 

 キングジョーとブラックキングが攻め、

 

 「わはー!」

 

 ライブキングが踏みつぶす!

 

 「即興にしちゃあ、なかなか合ったチームプレーじゃねえの?」

 「安心するにはまだ早いわよ?」

 

 この程度で負けるゴジラではない。怒り狂ってさらに攻撃は苛烈になる!熱線は赤みを帯び、全身も燃え滾る様に赤く光る。

 

 「すごいパワーだ・・・。まるで本物のマグマのよう・・・。」

 「本当の戦いはこれからだってか?やってやるぜ!!」

 

 キングたちが戦う一方で、また別の戦いが起こっている。目つきがかなり鋭く、体形もスマートで、速さと破壊力を兼ね揃えた個体。幾多の怪獣たちをすべて薙ぎ倒し、最終戦争(ファイナルウォーズ)すらを生き残った絶対的強者に立ち向かうのは、大怪獣ファイトの絶対強者と、全ての始まりの怪獣娘。

 

 「すもも漬けいる?」

 「・・・あとでもらう。」

 

 かかってくるなら、相手をしてやる。それがこのゴジラのスタンスであろう。他を寄せ付けない圧倒的な強さを持っている。

 

 「『球体変化(ブルーコメット)』!」

 

 ベムラーが、青い光の球となってゴジラへと突進をしかける。しかしそれを見越したゴジラは熱線で迎撃する。

 

 「くっ!そう簡単に当たっちゃくれないか!」

 「ゼットンシャッター!」

 「ナイスキャッチ!」

 

 ゼットンが、光球化したベムラーを撃ちかえす。すかさずゴジラ、何を思ったのかゴールキーパーのようにベムラーを拾いに行く。

 

 強さの中に、どこかユーモアを持ち合わせている。

 

 「あんたにそっくりだね。」

 「そうかな?」

 「そうだよ。先輩の事はもっと丁寧に扱おう、ね?」

 「わかった。」

 「わかってないだろ!」

 

 戦場の最中、白熱の怪獣バレーボールが開始された。

 

 「もうやめて・・・。」

 

 さて、ベムラーさん命が尽きようとしているのと同時、これもまたひときわ異彩を放つゴジラがいる。全身血走るような赤みを帯び、目がどこを向いているのかわからない。なにより、何を考えているのかすら読めない。この地球上の、あらゆる生き物と言う生き物を超越(シン化)した、完全なる生命体。それに立ち向かうは、無限の進化の可能性を秘めたタッグ。

 

 「ゴモラ!超振動波!」

 「いっくぞぉ!!オルァアア!!」

 

 シンジとゴモラの、シン・ゴモラコンビ!

 

 グォオオオオオオ・・・

 

 「効いてる!?自分でやっておいてなんだけど驚き!」

 「耐久力には難があるのかも・・・その代わり、カバーできるように適応能力が高いのかもしれない、気を付けて!」

 「オッケー!どんな相手でも油断はしないよ!」

 

 超振動波を受けたなら、口を大きく開いて反撃しようと試みる。ならこちらは、その手をつぶすだけ。

 

 「冷凍弾をくらえぃ!」

 「よく噛んで食べろぉ!」

 

 口を氷漬けにされた、ならば今度はと、なんと背中から熱線のシャワーを浴びせてきた!

 

 「くっ、本当に予想の一手上を行ってくれる!」

 「ならこっちは、二手先を行くだけだよ!」

 「よし!ゴモラ、EXだ!」

 「ウォオオオオオオオオオ!!!」

 

 EX化したゴモラの硬殻で、熱線のシャワーを身をもって防ぐ。

 

 「「見せてやるぜ、人と怪獣娘の可能性(ボクたちのキズナ)!」」

 

 『何がしたいか』はわからずとも、『どうするつもりか』ならある程度予想が付く。最後には、人間の叡智が勝ってみせる!

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「こっちは終わったぜ!」

 「こっちも、終わった。」

 「遊んで満足して帰っただけじゃないか・・・。おかげで私がボロボロだけど・・・そっちは大丈夫だった?」

 「こっちも、戦いに満足して帰っていったわ。」

 

 長い戦いにもようやく終わりが見えてきた。どの個体にも総じて言えることは、すごくワガママだということ。

 

 「暴れたいから暴れて、戦いたいから戦う。こんなに怪獣らしい怪獣もいねえのかもな?」

 「まあ、例外的に目的が一切不明なのもいるようだけど?」

 「それも含めて、ゴジラの魅力なんじゃないのかな?」

 

 つまり、ゴジラとは『怪獣』なのだ。あらゆる世界、あらゆる時代に存在し、常に人間と共にある、時に仲間、時に敵、不変であり、変わり続ける存在。

 

 「けど、これでもう終わりだな?」

 「はい、カードの絵もすっかり出来上がりました!」

 「どれどれ・・・カッコいいじゃねえか?」

 「ええ、ホントに・・・。」

 

 強靭な手足に、長い尻尾、特徴的な背鰭。実にシンプルながら、これ以上に魅力的な要素はない。黄金比的な美しさすら感じる。

 

 「よっし!これで最後じゃないかな?・・・みんな満足してくれたんだね。」

 「うん、みんなお疲れ様!」

 

 ここにゴジラのカードは完成した!そしてアイラも元の一人に戻った。

 

 「シンジ・・・!」

 「アイラ!やったね!もう大丈夫だ!」

 「うん・・・もう、大丈夫・・・。」

 

 「視聴者の皆さん、見てください!今ここに、新しい怪獣娘の仲間が加わりました!その名はゴジラ!」

 「やったんですね・・・厄いの獣を退けたんですね!」

 「うん・・・これで!!」

 

 アイラは自らの運命に打ち勝ち、世界に可能性を示せた。最高のシナリオだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だが、無意味だ。」

 「は?」

 

 皆の気が緩んだその一瞬、アイラの口から放たれたのは、吐き捨てるような言葉と、青い炎。

 

 「うわぁああああああああ!!!」

 「みんな!アイラ、なぜ?!」

 「なぜ?」

 

 「敵を「ころす」のに、理由がいるの?」

 

 その目は白く、まるで生気を感じさせないほど冷たかった。息を吐くように命を奪い、あらゆるものを破壊する、悪魔とよぶべきほどの冷酷さ。

 

 「みんなは敵じゃない!アイラ、君の仲間だ!」

 「仲間?貧弱、貧弱ゥ!おれ(・・)にとっての敵とは、この世に生きるもの全てだ!」

 

 「厄いの獣とは・・・お前か!?」

 

 その問いかけに応えんと、再び熱線を発する。異常とも言えるほどの威力と危険性を孕んでいる。成すすべもなく吹き飛ばされるシンジ。

 

 「ぐわっ!」

 「シンジさん大丈夫?」

 「どうなってんの、これで万事解決なんじゃ?!」

 「いや・・・見てくださいこのカードの絵・・・。」

 「カード・・・もう完成なんじゃ!?」

 

 そうしてSSPの下へと飛ばされてきた。そしてシンさんが指摘する。

 

 「まだです、よく見てください。目が描き込まれていません。まさに『画竜点睛を欠く』、大事な一手が未完成なんです!。」

 「未完成!?ってことは、まだアイラさんの中に?!」

 「潜んでいたんだ・・・まさか、このタイミングを窺っていたのか!?」

 

 異質だ、シンジとゴモラが戦ったゴジラもそうであったが、今アイラを支配しているゴジラは、『ゴジラ』の中で、最も邪悪で、最も恐ろしい存在。この世を呪うためにいる『悪霊(ゴースト)』。

 

 「こんな・・・こんなことって・・・。」

 「シンジさん・・・。」

 

 『シンジ、どうした。皆が戦っているんだぞ?』

 

 「・・・誰?」

 「どうしたの?」

 「今、誰かの声が?」

 

 『シンジ、わからないのか!』

 

 「誰だよ?」

 

 心の折れたシンジの背中を押す声の正体は、一体誰なのか。

 

 「・・・いや、そうだ。もう、止まってちゃダメなんだ。」

 「シンジさん?」

 

 意を決したシンジが、銀のカードを手に取る。

 

 「どんな理由があろうと、暴力を振るうものを放っておくわけにはいかない。」

 

 そう言い聞かせながら、バディライザーに挿入する。

 

 「光の力・・・お借りします。」

 

 眩い光が、シンジの体を包んだ。

 

 グルル・・・

 

 ゴジラもその輝きに目を覆う。

 

 「この・・・力は・・・。」

 

 S.R.Iスーツが赤と銀に彩られ、胸の中心には命の灯火が宿る。顔は柔和な笑みを蓄えたフェイスガードに保護される。そして光り輝く視線が、『悪』を射抜く。

 

 「あれが・・・ウルトラマン?」

 

 その姿は、たしかにウルトラマンに似ている。誰も見たことはないが、誰もがそう直感した。

 

 (与えられたこの力を、こんな形で使わせていただくことをお許し願います。ただこの一度、一度だけのワガママをお許しください。)

 

 分かり合うはずだった。ぶつかり合い、励まし合い、哀しみのない世界を作る為の力だったはずだ。なのに、今自分はなにをしようというのか。

 

 (けど、泣くのは後だ!)

 

 『ヘァッ!』

 

 掛け声高らかに、捨て身の戦いを始める。

 

 「あれが、伝説の巨人の戦い?」

 「なんか・・・荒々しいね。」

 

 お世辞にもスタイリッシュとは言えない泥くさい戦いだった。掴んで、殴って、投げて、

 

 『ショウワッ!』

 

 グワォオオオオオオ!

 

 蹴って、絞めて、撃つ!シンプルを極めた、究極の『戦い』がそこにあった。光の力を帯びた攻撃に、ゴジラの黒い怨念のオーラも剥がされ、着実にダメージが加わっていく。

 

 「ヤベェ・・・なんか・・・ゾワゾワしてきた。見てるだけなのによ・・・。」

 

 その戦いざまに、皆戦慄を覚えていた。しかし不思議と畏怖感はなく、心の底に眠る闘争心をくすぐられるものが多かった。

 

 黙ってやられているゴジラでもない。伸ばされたパンチを喉で受け止め、逆に噛みついて掌を破壊しにかかる。

 

 ならばとシンジも、ゴジラの背後に回り、首絞めで脱出を試みる。しかしその瞬間を待っていたのはゴジラの方だ。至近距離からの体内放射で一気に仕留めようと、シンジの首に尻尾を回して動きを封じる。

 

 ガガガガッ!

 

 『ドァアアア!!!」

 

 まんまと目論見は成功し、もろに攻撃を浴びるシンジだったが、吹き飛ばされる衝撃を逆手にとって、尻尾を掴んで投げ飛ばす。

 

 お互いにボロボロになるほどのダメージを負っているが、それでも倒れようとはしない。

 

 『ええい、何故戦う!?何故ころす!?』

 『この世全てに生きるもの全てが憎いからだ!』

 『何故!?』

 『憎しみに意味などあるものか!』

 

 吐き捨てるように熱線を撃ってくる。ガッチリとガードを固めることで防ぐ。

 

 『だんだんこの体にも慣れてきた、これ以上はお前の好きにはならないぞ!』

 『そうか・・・ならば!』

 

 ゴジラはそっぽを向いて熱線の準備に入る。その視線の先には・・・

 

 「ちょっ、こっち向いたよ!」

 「はやくはやく逃げて!」

 「む、無理ですぅ!」

 

 SSPの、生身の人間たちがいる。すかさずその前にアギラたちが割って入るが、その前にシンジが攻撃を阻止しようと走り出す。

 

 ニヤリッ

 

 『何!?』

 

 しかしそのすぐ背後まで迫った時、ゴジラは反転して無防備なシンジに向かって撃った。ズルズルと地面を引きずられながら熱線に焼かれる。

 

 『シュワァ・・・』

 

 胸のランプが青から赤に変わり点滅を始め、危険信号の合図だ。それをわかっているのか、ゴジラがトドメを刺そうと近づいてくる。

 

 『そうまでして、人間が憎い?なんで?』

 『誰にもわかるまい、わたしたち(・・)がどれだけ苦しめられたのか。生きるもの全てが、どんなに憎らしいか!』

 『わたし・・・たち?』

 

 他人にはどうやってもわからない苦しみが、ゴジラと、アイラの中にはあって、そのことをシンジすらも知らなかった?

 

 (いや、知ろうともしなかったんだ。)

 

 アイラのことを、心のどこかでは避けていた。そのせいでこんな事態にまでなった。自分の事を、ますます許せなくなる。

 

 『君のことを知りもしないで、ただ「誰かを傷つけるのをやめろ」とか、「本当の自分を取り戻せ」とか言ってたんだな・・・。』

 『・・・。』

 

 大変な思い違いだ。結局は、自分もネットの向こうから攻撃している人間とそう変わらない。それを『人類全体の業』だとか、適当な理由を見つけて見ないふりをしていた。

 

 『そんな自分に、腹が立つ!』

 

 吠える。全身に気を滾らせ、立ち上がる。もう何もかもから目を逸らすのは御免だ。

 

 『これが、最後の・・・八つ・・・裂き・・・!』

 

 グォオオオオ・・・

 

 胸から後部へかざした掌が、まばゆい光を放ちながら高速回転する輪を形成する。それに合わせて、ゴジラも最後の一撃を放とうと息を吸う。

 

 ガァアアアアアアアアア!!!

 

 『こォう・・・りィん!!』

 

 寒空の空気を切り裂いて、断罪の光の輪がとぶ。しかし所詮は『線』の攻撃、その後ろにいる相手もろとも『面』の攻撃で焼き尽くそうとする。

 

 『憎しみは憎しみを呼ぶだけだって、わかれ!!』

 

 光輪が90度横を向き、熱線を防ぐ盾となる。激しい光輪の回転により、熱線も渦を巻く。その中心、リングが見通す先は無風だ。

 

 『スペシウム・・・光線ンン!』

 

 腕を十字に組み、思いっきり力を籠める。放たれた閃光が、リングと熱線を貫き、厄いの獣をうつ。

 

 ガァアア・・・グゥウウウウウ・・・ッガァアアアアアア!!!!

 

 数秒間照射され続ける光線に無敵のゴジラもたじろぐ。その視線が未だ相手を捕え続けているのは、怪獣王の意地がそうさせているのか。

 

 その視線も、自らの胸元で起こった爆発に遮られる。次こそ、次の一撃にこそ全てをかけて、すぐさま反撃の体勢に移る。

 

 『ウルトラ・・・』

 

 しかし、それでは少し遅かった。光線が当たった時、既にシンジの行動は終了していたのだった。

 

 『かすみ切りィ!』

 

 すれ違う瞬間、シンジの左手がゴジラの胸を切り裂く。一瞬反応が遅れて、ゴジラのラリアットがシンジの首を捉える。

 

 「シンちゃん!」

 

 仰向けに倒れ込むシンジ。その場にカランッ!と乾いた音が響き、シンジのスーツが変化したヘルメットが落ちてくる。

 

 「うっ・・・いってぇ・・・。」

 

 呻きをシンジあげたのはシンジだった。

 

 「ぐっ・・・。」

 

 遅れてゴジラは、アイラはついに倒れた。

 

 「シンちゃん!大丈夫?怪我してない?」

 「あぁ・・・ヘルメットが無ければ即死だった・・・。」

 

 額から垂れる血を拭いながら立ち上がる。スーツの変身も解除され、飛んでいったヘルメットも粒子化して消えていく・・・。

 

 「それよりも、アイラは・・・ぐっぅ・・・。」

 

 一歩踏み出した途端、激痛が全身を襲う。アドレナリンが切れたせいか、急に意識を失いかける。

 

 「あっ・・・。」

 「アギちゃん?・・・おっ・・・。」

 「雪・・・。」

 

 曇り空から、ちらちらと白い粒が降ってた。熱の籠っていた戦場が一転して、一気に冷やされていく。まるで幕切れ(カーテンコール)を告げるように・・・。

 

 「・・・うっ・・・。」

 「アイラ・・・。」

 

 目を覚ましたアイラに、シンジは一歩ずつ向かって行く。その途中、バディライザーや、ライザーショットを落としたことにも気づかず、一心不乱に・・・。

 

 「カードが・・・。」

 「完成・・・したんですね。」

 

 一枚のカードが、風に乗せられてくる。そこにあったのは、邪悪に満ちた厄いの獣ではなく、一匹の怪獣の絵であった。

 

 「シンジ・・・わたし・・・。」

 「いいんだ・・・アイラは何も悪くないんだ・・・。」

 

 ひしっ、とただの人間に戻った二人が抱き合い、動かなくなった。

 

 

 

 痛みと、様々な感情に火照った二人の体を冷ますように、しんしんと雪が積もっていく・・・。




 途 中 で 力 尽 き た。どこぞの奇機械宇宙人には「もっと熱くなれよぉ!」と檄飛ばされそうだけど。ユルシテ 来週の自分がなんとかしてくれると思ったけど、そうはいかなかった。

 今更な話、どこかの先駆者様とかのネタと被っていたりしたら申し訳ないです。何せゴジラは人気コンテンツなので・・・。だからこそ、自分なりの解釈や意見を含ませたかったのに、こ☆の☆始☆末。起承転結の『転』で満足した自分を殴ってやりたい。

 エレキングさんに「あなた!」って呼ばれたい人生だった。


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