怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

19 / 49
 祝☆怪獣娘新シリーズ発表&グリッドマン情報解禁!

 まあ2期以降の内容はこれから書くことになるんですけど・・・。


Echoes of Love

 「シンジ様、朝食はいかがされましょうか?」

 「・・・いらない。」

 

 雪の降るある場所で、お互いの体を温め合うように抱き合う男と女。今、そんな映画のワンシーンを切り取ったような一枚の写真が、ネット上では話題になっている。

 

 正確に言えば、その写真と同時期に上げられた動画と、それを掲載しているサイトが話題沸騰中だ。

 

 「一応当事者なんだけど、すごい反響なってるね。」

 「ええ、よく出来たシナリオ(・・・・)だわ。」

 「なーんか、腑に落ちねえけどよ・・・。」

 

 そのサイトとはSSP。GIRLSと協力して、未確認怪獣娘の真実を公表し、怪獣娘と人類の未来を取り持った立役者。

 

 「あくまで、作られた『真実』だけど。」

 

 そう、全ては『(ショー)』だ。ただスタジオではなく、現場で撮影された、臨場感も衝撃も全てが本物であるだけの、『見世物』だ。

 

 「アイラの潔白と、怪獣娘の信頼を取り戻すためには、どうしてもあの映像を公開する必要があった。」

 「けれど、それはGIRLSが流したプロパガンダではなく、あくまで民間人によって撮影された『衝撃の真実』でなくてはならなかった。」

 「決して嘘ではない、けれど全てが真実ではない・・・。」

 

 曰く、上手い嘘の吐き方は、真実を織り交ぜることだという。

 

 『歴史はスタジオで作られる。』誰が行ったのかは知らないが、それは当たっている。真実を語り継いでいくのは、それを見た大衆に委ねられる。ステージの上のスポットライトを浴びているドラマ部分が真実だと声高々に叫べば、それだけが真実になる。舞台裏や楽屋裏のドタバタ劇になど、誰も目もくれない。

 

 勿論それの煽りを一番受けているのは、公開しているSSPの方だ。

 

 「Not even justice, I want to get truth.」

 「真実は見えるか・・・。」

 「案の定、炎上してるわね・・・。」

 

 よりよい未来を求めて活動していた。だから、この動画の公開にも納得していた。けれど後悔していないかと言われると・・・。

 

 「もうちょっと・・・なんとかならなかったかなぁ?」

 「覆水盆に返らず、後の祭り、吐いた唾は呑めぬ。」

 「今更どうしようというわけではないけど・・・。」

 

 ジャーナリストとして、この行為は果たして正しかったのだろうか?煮え切らないままコメントは増えていく。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「はぁ・・・。」

 

 そして場面は一番煮え切らない人物のところへと戻る。

 

 「何も食べないのはダイエットにはならないぞ?」

 「別に体形は気にしてませんよ。」

 「ならなおさら食べるべきだな。」

 

 サンドイッチのひとつをつまみながら、ベムラーさんが訪ねてきた。

 

 「多少想定外の事こそあったが、概ね万事上手くいっていた。誰も120%の成果なぞ期待していない。それに関してはわかるだろ?」

 「作戦のことじゃないんです・・・それに、作戦はみんなで考えたものですし、実行したのも僕じゃないです。」

 「ではなんだ?アイラが今なお拘束状態にあることか?」

 

 現在、アイラの身柄はGIRLに預けられている。検査・入院という名目で。

 

 「それも・・・あるんですけど、もっと個人的な話・・・。」

 「それは?」

 「僕が、アイラとちゃんと向き合えていなかったってこと。アイラのこと、ちゃんと知ろうとしなかったってこと・・・。」

 

 「前もそんなこと言っていなかったか?」

 「そればっかり、頭の中をよぎるんです。僕がもっとしっかりしてれば・・・こんな事態にもならなかった。」

 「所詮結果論だ。形はどうあれ、どの道ああいう事態にはなっていだろうさ。」

 「それでも・・・。」

 「自分のせいじゃなければよかったか?別の誰かがヘタを掴んでくれていればよかったか?」

 「そんな!・・・ことは・・・。」

 「百歩譲って君が原因だったのかもしれないが、君は治めて見せた。それで十分だろう?」

 「その治め方も、結局最後は・・・力によって得た空しいものでした・・・。」

 「『力』ねぇ・・・。」

 

 その力も今は手元に無く、机の上に置かれている。持ち主の指示が来るのをじっと待っている。

 

 「ウルトラマンのカードは、消えてしまいました・・・。使い方が悪かったのか、それとも、ウルトラマンに愛想を尽かされちゃったのか、どっちにしろ、僕が持つべきではなかった・・・。」

 「まるで、お気に入りのおもちゃを取り上げられた子供のようだな。」

 「そう・・・僕は、浮かれて舞い上がっていたんだ。自分が、なんでも出来るように錯覚していたんだ・・・。」

 

 代わりにゴジラのカードが残った。

 

 「ウルトラマンの力を発揮したとき、物凄い高揚感もありました。けど同時に、色んなものに鈍感になっていくようにも・・・痛みとか、恐怖とかがどんどん薄れていって・・・。」

 「それはアドレナリンのせいだ。興奮すると息が荒くなったり、心臓が激しく拍動したりする生理現象だ。特別珍しい事でもない。」

 「知ってます。気に入らない相手を叩き潰すのだって、人間の本能の一部分、『業』だっていうのも理解できます。けど、もっと穏便に、理性的に解決がしたかったんです、僕は。」

 「そんな理想や常識が通用しない相手もいる。怪獣がその最たる例だ。」

 「だからこそ、僕がやるべきことだったんです。なのに、僕まで力を振り回してたら一体どうなる?怪獣娘と人類の間に立っているべきなのに・・・。」

 

 「ちょっと背負いすぎだ、お前は。人類の業とかを語るに、お前は若すぎる。そんな硬い使い方してると、その頭脳が泣くぞ。」

 「不都合なことを飲み込んで、乗り越えていくのが大人なんでしょう?そう言ったのは、あなたですよ?」

 「確かに言った。だがな、身にふりかかる現実を、有り余る勢いで押し切る事を『青春』と言うんだ。お前は、そこまで老けちゃいないだろう?」

 「青春?」

 「そうだ、最後まで決してあきらめず、不可能を可能にして見せる。そんな勢いがお前にはあるだろう?こんなところで、膝を抱えている場合ではないだろう?」

 「僕は・・・何をしたらいいんだ?」

 「するべきことなら、いっぱいあるだろ。考えなくったって。」

 「例えば?」

 「飯を食え。」

 「いただきます。」

 

 喝を入れられると、急にお腹が空いてきたのを感じた。

 

 「まあ、悩むのもダイエットするのも人生だが、何事もほどほどにな。」

 「そうですね。あっ、メロンがある。」

 「それにな、力を持って振るうことに、お前はそんなに悩まなくていい。」

 「いざという時は止めてくれる仲間がいるから?」

 「そうだな。それに、君は心に思ったことを素直に実行すればいい。そうすれば自然と上手くいく。そんな星の下に生まれているよ。」

 「それって、占い?」

 「いや、探偵の勘だ。」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「こんにちはー!」

 「おっ、シンジさんにベムラーさん!元気でしたか?」

 「ええ、まあ。協力していただいた感謝の挨拶が遅れて申し訳ないです。あとこれお土産です。」

 「なになに?桐の箱?メロンだ!」

 「ウチの父が、ミカンの次はメロンを送ってきました。」

 「一体これにはどういう意味があるのかと勘ぐったがな・・・。」

 「ミカンは、『あぶり出し』の暗喩だったんですよね。」

 

 あぶり出し、皆も子供の頃作ったことがあるだろう?(「ねーよ。」)ミカンを絞って、その汁で紙に文字を書くと、裏から火であぶった時に文字が宇浮かび上がるのだ。

 

 「それが、あの手紙に施してあった。そしてそれがデータベースへのアクセスコードだった。」

 「『1954113』でしたっけ?何かの日付でしょうか?」

 「当時、大戸島は季節外れの台風に見舞われ、それでソウジ氏の父親の妹、つまりソウジ氏の叔母が命を落としたそうだ。それを忘れないために、その日付をコードにしたんだろう。」

 「つまり、僕の大叔母さんか。あの島で生まれて、あの島で育った・・・。」

 

 それが、今回の件とどう関係があるのかはさておき。

 

 「あっ、今お茶淹れてきますね。ちょっと待ってて。」

 「じゃあ俺も、特製シフォンケーキをご馳走しちゃおうかな!」

 

 それぞれ台所へ取りに行った2人を見送って、今度はシンジとシンさんが科学話に花を咲かせる。

 

 「そうそう、S.G.Mのレーダー機能を少し見直してみたんですけど、ちょっと見てみてくれませんか?」

 「どれどれ・・・ほうほう、生体探知機の応用ですね?」

 「うん、主にカイジューソウルや、シャドウに反応するように色々試作してみたんです。」

 「なるほど、あまり感度が高すぎると、よけいな物にまで反応しそうですね・・・もう少し周波数を絞ってみては?」

 「私も機械いじりは好きだが、君たちはそれ以上だな。」

 

 「シンさん、ひとつ気になっていたことがあるんですが。」

 「なんでしょうか?」

 「気分を害されてしまったら申し訳のないことなのですが、シンさんほどの腕なら、どこか有力な研究機関や、会社から声がかかったりとかはないんですか?」

 「確かに、君ほどの頭脳の持ち主はなかなか見ないな。それこそ、引き抜きとかありそうなぐらいだ。」

 「・・・確かに、僕の子供のころの夢は、3位が獣医で2位がタイムマシンの開発者、1位は人の役に立つ災害救助用ロボットの開発でした。今も変わりませんが。」

 

 シンさんは、しばし目を伏せて考えるように話し始めた。

 

 「大学にいた頃は、ひたすら勉強漬けの毎日で・・・よく1人でいることが多かったです。」

 

 「けど、そんな僕に声をかけてくれたのが、キャップとジェッタ君でした。」

 「あの2人への、恩返しのために一緒にいる、ってことですか?」

 「それもありますが・・・それ以上に、あの2人のことが好きなんです。キャップはそそっかしいし、ジェッタ君はやかましいけど・・・あの2人でないと、なんだか始まりません。」

 

 「機械には温度は測れても、心の熱さは測れない。頭じゃなくて、心で物事を見ろ。僕の恩師の言葉です。僕は、自分の心に正直でいることを選んでいるんです。」

 「自分の心に、正直にか・・・。」

 「ごめんなさい、ちょっと説教っぽくなっちゃいましたね。」

 「いえ、僕もその言葉に賛成です。かけがえのない仲間は、どんなにお金を積んでも手に入りませんから・・・。」

 

 心や思いやりを、綺麗事だと罵るものもいる。しかし綺麗事だからこそ実現する価値があるとも言う。

 

 「おまたせ!紅茶でよかったかな?」

 「シフォンケーキおまたせー!なんの話してたの?」

 「なにも。お2人がいい人だって話。」

 

 と、いいところで帰ってきた。

 

 「そうそう、要件はもう一つあって。先日の戦いで必要になった費用を経費で落とせるんですが、SSPの皆さんの分も僕が立て替えておこうかと思って。」

 「いえ、それには及ばないわ。私たちはあくまで、私たちの取材で行ったんだから。」

 「でも、壊れたカメラの分ぐらい。」

 「いいの、十分元がとれるぐらい、アクセス数も稼げてるんだから。」

 「まあ、途中でカメラが壊れたおかげで、肝心のシンジさんの激闘のシーンは逃しちゃったけどね・・・。」

 

 幸か不幸か、アイラが白目のゴジラに乗っ取られて再び牙を剥いたシーンから先は撮影出来ていなかった。ギリギリ最後の瞬間だけはシャッターに収められたおかげで、十分に『綺麗』な画が撮れていたが。

 

 「うーん・・・でもなぁ、これ(メロン)ぐらいじゃ足りないくらいの恩があるしなぁ・・・。」

 「まあ、そう言うなシンジ君。彼らが必要ないと言っているのだからお金(マネー)はいいだろう。それより、もう必要ない機材を引き取ってもらうとかはどうだ?」

 「あっ、そうか。じゃあ、撮影の時に使ったデータの送受信機はいりませんか?あれならGIRLSではなく、元々ウチの家にあったものなので。」

 「あっ、それ助かるな。いざって時に容量が足りなくなるとか無くなるだろうし!」

 「でもいいの?あんな高そうな機械。」

 「いいんです。改造してくれたのはシンさんですし、それにもしもそういうのが必要になったときは、またSSPさんに撮影をお願いできますし。」

 「Win-Winな関係ということだな。」

 「じゃあ、お言葉に甘えて・・・。」

 

 商談成立。ベムラーさんはこういう手合いにも慣れているのか、スッとフォローしてくれる。

 

 「それから、もうひとつ気になっていたことが・・・。」

 「あぁ・・・それって、報道の真理について?」

 「はい、真実を公表することが使命であった皆さんのポリシーを曲げてしまうことになってしまったんじゃないかと・・・。」

 「たしかに、今は炎上してるけど、それが全てじゃない。」

 「アイラさんっを含めて、怪獣娘さんたちと手を取り合っていくことが、僕たちの求める『真実』ですから。」

 「だから、私たちは嘘を吐いたつもりはないわ。だって、アイラさんは本当は優しい人でしょう?そしてあなたは、それを救った。」

 

 彼らなりに、そう飲み込んだんだと思う。いつまでぐじぐじとしていられない。賽は投げられた、The show must go on.(ショーは続けなければならない)だ。

 

 「大人なんだな、皆さん・・・。」

 「まあ、私たちもたまにはバカだってやるよ?」

 「それこそ、今まで鳴かず飛ばずの炎上続きだったけど、今回の件で注目されてるし、これから巻き返せる。」

 「いい機会をくれたんですよ、シンジさんも。」

 「「「本当に、ありがとうございました。」」」

 「えぇっ!?いやいや、こちらこそ本当にありがとうございました!」

 「「「いやいやいやありがとうございました・・・。」」」

 「あっあっあっ、ありがとうございました・・・。」

 

 お互いに深々と頭を下げては、また頭を下げるループを繰り返している。それを失笑しながらベムラーさんは眺めていた。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「ん?通信だ。はいこちらシンジ。」

 『シンシン!ピグモンですぅ。シンシンとアイアイに会いたいという人が本部に来てます!至急来てくださぁい!』

 

 「ということで、来ました。SSPさんと。」

 「一応、今回の件の関係者ですし・・・。」

 「まあでも、これ以上のスクープは期待できないと思うよ?」

 「あっ、ゴモたんさん・・・サイン貰っていいですか?この前はそういう雰囲気じゃなかったので・・・。」

 「ジェッタ君?」

 

 「会いたい人って、どんな人ですか?」

 「アメリカから来た、シラガミ博士って人だってさ。」

 「シニガミ博士?」

 「イカ。アメリカからの遣いじゃなくて、個人で来たみたいだよ。

 「白神博士・・・聞いたことがあるような。」

 「たしか、遺伝子工学の権威だったかと。以前論文を発表してましたね。」

 

 パパッとそのニュース記事を出してくれる、さすがシンさん手が早い。

 

 「なになに?『花が環境に与える影響』?枯れない花による、砂漠などの緑地計画・・・なんかすごくキナくさい。」

 「まあそう言わないで。シンちゃんのお父さんとアイラとも知り合いらしいよ。」

 「じゃあ、何故父本人が来ない?こんな大変な事態を放置して、代わりの遣いを寄越すなんて言いご身分だ。」

 「何度此方から呼びかけても応答しないあなたが言えるのかしら?」

 「エレキングさん・・・。」

 「全く、いくら辛いからと言って、連絡の一つも寄越さないなんて失礼だわ。報告書も書いてもらわなければいけないというのに。」

 「すいません・・・ご迷惑を。」

 「そんなこと言ってー、一番心配してたのエレちゃんじゃないのー?仕事中もそわそわしたりため息ついたりもがが・・・。」 

 「だまらっしゃい。あなたもフラフラしてないで仕事のひとつを手伝いなさい。」

 「ゴメンゴメン。私はみんなのケアしてたんだってば。」

 

 グリグリと音を立てながらエレキングがミカを締め付ける。

 

 「心配、してくれてたんですね・・・ありがとうございます。」

 「別に、普通の事でしょう?」

 「照れちゃってもーあだだだ。」

 「だから普通のことだと言っているでしょう?」

 「じゃあなんでこんなに隠そうとしているのかな?」

 「あの、その辺でやめてあげてください・・・それで、白神博士ってのは今どこに?」

 「この先の部屋よ。あなたには会って話をしてもらわなければならない。」

 「わかってます。そのために来ましたから。」

 「そう、なら行って。アイラも迎えに行くわ。」

 「がんばってねーシンちゃん。」

 「僕一人だけ?」

 「一人じゃ不安か、シンジ君?」

 「全然!」

 

 知らない人と会うのは、ちょっと心細いけど仕方がない。少しは大人になろう。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「失礼します。」

 「やあ、はじめまして。濱堀シンジ君。」

 「あなたが、父の知り合いの白神博士?」

 「いかにも、私が遺伝子工学会の鼻つまみ者で、古生物学会の異端児こと濱堀ソウジの友人。『花屋』の白神だ。よろしく。」

 「異端児の息子です。」

 

 ちょっとよれた(・・・)コートを着た、ヒゲ面のおっさん。だらしねえな。やはり科学者というのは変人なのか?それがシンジの第一印象だった。

 

 「父はどこですか?」

 「落ち着け、そんな剣幕ですごまれ(・・・・)ちゃ、ビビッて話もできねえ。居所が聞きたければ、俺たちに協力しろ。」

 

 「OK?」

 「OK!」

 

 ズドン!

 

 「待て、本当に撃つな。悪かった、悪ノリした私が悪かったから、さぁさ、銃を収めたまへ。」

 

 何故撃ったのか?お約束には誰も逆らえないからだ。お遊びもほどほどに、本題に入る。

 

 「父はどこに?」

 「うむ、君の父は生きているよ。まだ怪獣についての研究をしている。主にアメリカの、ある場所でな。」

 「ある場所、とは?」

 「言えないのだ。極秘の研究であるから。私はその通達役(メッセンジャーボーイ)でしかない。」

 「それじゃあ死んでいるのと変わりませんよ。二度と会えないのなら・・・。」

 

 「近いうち、ソウジは君と会うだろう。そこでどんな会話をするのかは、私にはわからない。ただひとつ言えることがあるとすれば、君は少々父を誤解しているだろうということだ。」

 「「誤解?」

 「ソウジは、君が思っているほど冷酷な人物ではないよ。確かにこと研究、いや『自分の世界』の事となると、ものすごーく偏屈になるが、家族のこと、アイラのこととなると物凄く甘いぞ。メープルよりも。」

 「つまり、家族やアイラのことは『自分の世界』じゃないんですね。」

 「あぁ、言い方が悪かった。家族と自分の世界以外の事には無関心な男だ。それこそ、人里離れた場所に居を構えるぐらいにな。私は・・・偏屈同士気が合ったんだがな。」

 

 ハハハ、と自嘲するように笑って、白神は別の話を切り出す。

 

 「私にも娘がいる。娘、ローズは私の研究も手伝ってくれている。ソウジもそうして欲しいんだろう。だから君に手紙を送った。」

 「父の手の代わりということで?」

 「違う、自分の子に、自分の夢を継いで欲しいんだ。」

 「夢?」

 「そう、夢だ。人間が己の限界を超えて挑もうとするのは、そこに夢があるからだ。だが人間には限られた時間がある。その限られた時間の中で、何を残し、何を伝えていくのか。それが人生の意義だ。」

 「僕が父の夢を継ぐとでも?」

 「継いでいるさ、既にな。」

 

 さっと取り出したのは、雑誌の1ページ。シンジには忘れもしない、あのインタビューの記事だ。

 

 「この記事を見て、ソウジはアイラを送ることを考えた。そしてあの動画を見て、迎える決心をしたんだ。」

 「試した・・・ってこと?」

 「信じていたんだよ。」

 

 少し、気にくわない。シンジは自分で道を選んだつもりだった。けれどそれは父の誘導に乗っただけだったというのは悔しい。

 

 「それに、もしもこの道に乗らなかったら、一生放置するつもりだったってこと?」

 「いずれ君は乗っていただろうさ。それはきっと、君の『運命』だ。」

 「『運命』・・・。」

 「シンジ・・・。」

 「アイラ!もう大丈夫なの?」

 「うん、大丈夫・・・おじさん、久しぶり。」

 「ああ、久しぶりだなアイラ。」

 

 その場へアイラも合流してきた。声にも張りがあるし、顔色もよさそうだ。

 

 「そういえばアイラと白神さんって、知り合いなんだっけ?」

 「うん、知り合い。」

 「アイラとローズは仲が良いんだ。本当の姉妹のようにね。」

 

 見せてくれとも頼んでいないのに、写真を見せつけてきたところを見ると、白神博士は相当な親バカと見える。青々と生い茂る森のような緑の髪と、パッと艶やかに咲いた花のような赤い目が特徴の美人だ。

 

 「へぇ・・・。」

 「娘はやらんぞ?」

 「何も言ってませんよ?」

 「シンジ、浮気ダメ。」

 「しないよ?」

 「色恋沙汰かな?どんな話だい?」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「お、戻って来たね。」

 「おかえりー、どんなこと話したの?」

 「んー、色々。」

 

 30分ほどして、皆が待つ談話室にシンジとアイラが戻ってきた。お茶を一杯注ぐとそれぞれも席に着いた。

 

 「そうだな・・・まず、アイラはアメリカに行くみたい。」

 「なんで?!」

 「父がアメリカにいるから。今はちょっと騒ぎになってるから、ほとぼりが冷めるまで父のところへ戻るんだって。それに、元々アイラは父のところにいるのがいいみたいだし。」

 「えー、そうなの?せっかく友達になれたのに・・・。」

 「また、会いに来るから・・・。」

 

 「他には?」

 「他?うーん・・・白神博士に娘さんがいるとか、家族のこととかかな。」

 「家族か・・・。」

 「他には他には??」

 「他ぁ?」

 

 うんうんと唸るが、シンジはなかなか口を開かない。

 

 「まあいいや!それよりシンちゃん、約束。」

 「約束?なんの?」

 「とぼけちゃって!今度こそ二人っきりでお出かけの約束だよ!」

 「あぁ・・・そうだね。けど、今外は出歩きたくないな。」

 「シンジさん、有名人だもんね。」

 「ここに来るまでも顔隠しながら、結構ビクビクしてたんだよ?」

 

 今は見つかったら無断で写真を撮られてSNSに挙げられる時代だ。

 

 「じゃあ・・・シンちゃんの家でいいから!」

 「ミカ、今日じゃなきゃダメ?」

 「ダメ!すぐがいいの!」

 「しょうがないなぁ・・・なら、ウチに来る?」

 「行く!レッツゴー!」

 

 後ろでエレキングさんが呼んできているが、それを跳ねのけるようにミカはシンジを連れて走り出した。

 

 「あの2人、幼馴染なんですよねたしか。」

 「羨ましいなぁ・・・俺の幼馴染なんてキャップだし・・・。」

 「ジェッタ?」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 ズルズル、ガチャッ、バタンッ、ドスン!

 

 「うおっ!もうちょっと丁寧に扱ってよ・・・。」

 「さぁシンちゃん観念しなよ?」

 

 自室のベッドの上で、ミカに馬乗りにされながらシンジは呻く。

 

 「なにが?なにを?」

 「まだ言ってない事あるんじゃないの?」

 「なんの?」

 「かくしごと。それぐらいわかるよ?」

 

 言っていないことは確かにある。言うべきか言わざるべきか、けどいずれ言わなきゃいけないこと。

 

 「わかってるの、ホントに?」

 「わかるよ、シンちゃんのことだもん。」

 

 シンジの頬に手を添えていつになくマジなトーンで語り掛けてくる。いつだったか落ち込んだシンジを励ましに来た時も、こんな声をしてきた。

 

 「ミカに隠し事はできないってことか・・・。」

 「そうだよ!さあはけ・・・っとうわぁ。」

 「そうだな、じゃあ言うよ。」

 

 ミカの脇をとってグルリと上下を入れ替える。

 

 「僕・・・アメリカに行くよ。留学する。」

 「・・・そっか。」

 「向こうなら、色んな事を学べると思うし、それに父にも・・・父と、ちゃんと会って話がしたいから。」

 「そっか。」

 「止めないの?」

 「止めないよ。」

 

 右へ左へ、上へ下へ。言葉は少なくとも、お互いの心をキャッチボールのように体位を入れ替える。

 

 「それが誰かの思惑でも、決められた運命だったとしても、そこを歩いていくのはシンちゃん自身なんだよ。途中で迷ったり、回り道するのは、シンちゃんが決めていいことだよ。」

 「今一、納得は出来てないけど。父の掌の上でさ。」

 「なら、最後に見返してやればいいじゃん。お父さんの思ってた以上の、すごいことやりとげちゃったりとか?」

 「そうだね。鳴くまで待とうホトトギスってか。」

 「私は、ううん、ボクたちは待ってるから。だから、いってらっしゃい。」

 「うん、行ってくる。止めてくれた方が、それはそれで嬉しかったけど。」

 「そう?じゃあ今度は止めてあげるよ。」

 

 「ただし、ひとつだけ約束して?」

 「それは?」

 「向こうに行っても、浮気しないこと。向こうにもいっぱい怪獣娘はいるだろうしね。」

 「じゃあこっちだって、他のかわいい怪獣娘に(うつつ)を抜かしちゃやだよ?」

 「そんなことしないよ~、だってボクは・・・。」

 

 

 

 

 

 シンちゃんのこと、大好きだもん!

 

 

 

 

 ああ、僕もミカのことが好きだ。

 

 

 お互いの熱を感じられるほど、近く、そして強く今はいる。

 

 「ん?」

 

 通信機が鳴っている。多分エレキングさんだ。

 

 「ダーメ。」

 

 通信に出ようとシンジが手を伸ばそうとしたところで、一足はやくミカに取られて遠くに放り投げられてしまった。

 

 「今は、ボクだけを見てて・・・。」

 「うん・・・。」

 

 このあと、通信に出なかったことを怒られそうだが、そんなことはどうだってよかった。今はこうしていたいという感情が勝った。

 

 

 

 

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「それじゃあ、行ってきます。」

 「おう、しっかり勉強してこいよ!」

 「体には気を付けてくださいね~!」

 

 数日後、空港にシンジ達はいる。レッドキングさんやピグモンさん、エレキングさんとベムラーさんが見送りに来てくれた。

 

 「向こうの支部でも、粗相のないようにね?それから食べる物にも気を付けて。」

 「わかってます、しっかり勉強してきます。」

 「旅はいいものだ。けど、帰る場所があればもっといい。君の帰る場所はここだということを、忘れるなよ?」

 「はい、色々指導でしてくれてありがとうございました、ベムラーさん。」

 

 夢は大きく、けど荷物は軽く。旅は身軽な方がいい、旅を楽しくするのは最低限のカバンと、少々の冒険心。

 

 「父と会えると良いな。」

 「はい、なにを話したらいいのか、まだ決まってないですけど。」

 

 もう時間が来る。名残惜しいが別れの挨拶はそこそこに済ませ、搭乗ゲートへ向かう。

 

 「では、行ってきます!」

 「「「「行ってらっしゃい!」」」」

 

 

 

 「ゴモたん、見送りに行かなくってよかったの?」

 「いいの、こっから見えるから。」

 

 GIRLS本部の屋上で、ミカとアギが佇む。雲一つない空には、一筋の飛行機雲が線を描いている。

 

 (これは、お別れじゃないんだ。ちゃんと帰ってくるなら、バイバイは言わないよ。)

 

 何も言わず、ただ右手をかざす。それだけで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、俺だ。お前の息子に会ったぞ。」

 

 「なに?ああ、元気だよ。ありゃまさしくお前の息子だ。まごうことなく。」

 

 「どこがって?即断即決、お前の得意分野だよ。」

 

 「なにより、あの眼だ。ここではない、もっと未来を見据えるような眼。あんな綺麗な眼をしている奴は、他には1人しか知らないよ。」

 

 「ああ、そうだ。共にアメリカへ渡ることとなったよ。お前の望んだとおりだろう?」

 

 「なに?・・・はぁ?!正気か、お前?」

 

 「・・・そうだな、お前は一度決めたらすぐそうするもんな。即断即決。」

 

 「わかった、わかった。説明は俺がしておくから、イッテヨシ。」

 

 プツッ、通話を切って白神は大きなため息をつく。

 

 「おじさん、どうしたの?」

 「ん?んー・・・とな、あいつ、フィリピンの方で新種の化石が見つかったって言って、出て行っちまった。」

 「いつ、戻るの?」

 「わからん、おかげで入れ違いだよ。シンジになんて説明しようかな・・・。」

 「元気出して。ローズに会わせたら機嫌直すよ。」

 「娘はやれん・・・しかしなぁ・・・。」

 

 それは出国の1日前のことであった。




 もうすぐノベル発売になるけど、ベムラーさんが果たして本家ではどんな口調や性格なのか。最初は原作との剥離を恐れて、あまり出番を作らない予定だったのに、このポジションが気に入ってしまった。

 感想お待ちしております。次話の投稿はノベル発売以降になるかな?はやく30日になーれ。

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。