「へー、ゴモたんとシンジさんにそんな関係が・・・。」
「そうなんだよー!ホントびっくりしちゃった!」
「痛いから!」
ベシベシと背中を叩いてくる幼馴染に苦言を呈するシンジと、怪獣娘が4人並んでハンバーガーをかじっている。
「それで?シンちゃんは何しに東京にきたのん?」
「ん、うん。手紙が来たんだ、父親から。」
「お父さん?」
「そう、『遺産』を受け取りに来いって、それだけ。」
「『遺産』!財宝とか山とか満漢全席とか?!」
「最後のはなんか違うと思うよミクちゃん。」
「お金持ち、なんですね?」
「いや、そんなことはなかったよ。裕福ではなかったし。」
今もだけど、と小さく付け足す。実際シンジは今コーヒーしか飲んでいない。本当は水だけでよかったけど、女の子たちのいる手前、そんなみみっちい真似ができない。要するに見栄を張りたかった。高楊枝はくくったが、胃は抗議を求めてキュウと鳴いた。
「ん?シンちゃんお腹すいてる?はい、あーん。」
「いらないよ?」
「いいからいいから、あーん。」
「あっ・・・あー・・・。」
されるがままにナゲットを口に突っ込まれてしまった。そもそもの力に差がありすぎて抵抗すらできない自分が恥ずかしかった。こんなことなら、ご一緒にポテトされておけばよかったと後悔した。
「お?あげる!」
「いらないから!」
「ミクさん、シンジさん困ってますから!」
「ウィンちゃん的には、男の子同士でやってるのがいいのかなー?」
「べべべべつにそういうわけでは!」
牛丸ミク、通称ミクちゃん。この子は恐らくミカと同じタイプの人間だと判断した。ダム子もといウィンちゃんこと白銀レイカ、はそのストッパー、にはちょっと不安が残る。
「じゃあここいらで、再会を祝して一発芸やってみようか!」
「「「アギちゃん(さん)が!」」」
「うひー。」
アギちゃんこと宮下アキは・・・いじられキャラ?とにかく、いい子たちだ。とても先ほどまで戦っていた怪獣娘さんだなんて思えないほど、ごく普通の女の子たちだ。越してきて早々に友達が出来たのは素直に喜ぼう。
「さてっと、僕もうそろそろ行くよ。」
「あっ!そういえばもうすぐ大怪獣ファイトが始まっちゃう!」
「ではこの辺りでお開きにしましょうか。」
「そだねー、行こっかシンちゃん!」
「なんで?」
「なんでって、シンちゃんが行こうって言いだしたんじゃない?」
「それはそうだけど、僕はついてきて欲しいなんて一言も言ってないよ?」
「そこはホラ、私たち友達だし?いつでも一緒じゃん?」
「遺産が手に入っても何もあげないぞ?」
「えー。」
「そのつもりだったのかよ!そもそも、多分金目のものじゃないよ?」
「どうしてそう思うんですか?」
「もしそうだったら今こんな苦労してないはずだし。」
(たしかに。)
おこぼれが目当てだなんて、そういうわけではないというのはわかっている。ミカなりに心配して付いてきてくれるのだろうと。だったら断る理由もないし、連れてきてもいいだろう。決して心細かったとか、そういうのではない。
「それで、どうして君たちまでついてきているのかな?」
「だいじょうぶ!大怪獣ファイトは録画してあるから!」
「ミクちゃんが行こうって言うから。」
「一人で行かせるのも不安なので・・・。」
結局3人も付いてきていると気づいたのは、駅の改札でレイカが引っかかった時のことであった。
(アキバに寄った分の、電車賃のチャージを忘れていました!)
(ひょっとして見た目よりもうっかりさんなんだろうか?)
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「ここか。」
「ほへー、おっきいお家だね。」
手紙で記された場所には、家と言うには少々大きい屋敷が建っていた。傾きかけた陽に逆側から照らされ、その巨体をより一層影で大きく見せながら、やってきたシンジたちを迎える。
「土地代だけでいくらしてるんだろうね?」
「一坪200万はしてるんじゃないかな?」
「やっぱお金持ちなんじゃん?」
「あー、相当悪い事したんだろうな。」
「えぇっ・・・まだそうと決まったわけでは・・・。」
「悪い事でもしなきゃこんなところに家が建つはずがない。」
全国のいいことをしながら都内に豪邸持ってる人ごめんなさい。
「じゃ、入ろうか。」
そう言い切るよりも早くシンジは門に手を添える。が、帰ってきた反応は全くの『暖簾に腕押し』だった。
「お待ちしておりました、シンジさま。」
「あらっ?」
シンジが戸を開けるよりも早く中から開けられ、思わず肩透かしを食らった。
「シンちゃん!」
「大丈夫、ですか?」
その勢いは止まらず、そのまま前へと倒れ込んでしまった。するとどうなるか。
「あちゃ~。」
「あわわわ・・・。」
自分を出迎えたその人を、押し倒す形となった。これが、相手が女の子だったらまだよかっただろう。(全然よくない)だが男だ。こんな画を誰も求めてはいないだろう。
「ハァ・・・ハァ・・・・コレハ・・・。」
「ウィンちゃん?」
「はっ!いえなんでもありませんよアハハハ・・・。」
一人いたようだ。
「えっと、ごめんなさい。」
「いえ、大丈夫です。お待ちしておりました、シンジさま。」
立ち上がって埃を払うと、澄ました顔で仕切り直しとばかりにリピートした。
「そちらの方々は?」
「友達です、一緒に入れてもらってもよろしいですか?」
「構いません、お茶の用意をします。」
「いいね!お菓子もあるかな?」
「ミクちゃんさっきハンバーガー食べたばっかりなのに・・・。」
後ろが賑やかなおかげで、シンジも気楽でいられた。この気分は後の選択にも影響を及ぼしていた。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
一行は通された部屋でお茶とお菓子を楽しみながら待つこととなった。
「それにしても、人が住んでるような気配が全然ないね。」
「掃除は行き届いてるみたいですけれど。」
部屋の棚には立像のオブジェや、飛行機・車といった模型。それと何かの記念の楯が綺麗に並べられている。埃が積もっているわけでも、チリひとつすら落ちていない。
「あの人だけが住んでるんじゃないかな。見た目執事っぽし。」
「完璧執事ってやつ?アニメみたいじゃん!ねーウィンちゃん?」
「そ、そうですね・・・執事に攻められるうら若きご主人・・・いや、そう見せかけて・・・ゴニョゴニョ。」
なにか戯言が聞こえてくるが無視。どういうわけか、いやどういうわけもこういうわけもないが、この家は丸ごとシンジに譲渡されたのだそうだ。あの執事、『チョーさん』と呼べばいいらしい、がそう言った。家の管理は全て、あのチョーさんに任せられるよう、父・ソウジより命令されているのだと言う。
「お待たせいたしました。」
もう一つ、彼には重大な秘密がある。彼はロボットなのである。ミカが『証明してみてよ。』と言ったものだから、顔のカバーを外して中身を見せつけられてしまった。結果シンジは夜中トイレに行けなくなった。
それはさておき、部屋に戻ってきたチョーさんは、金属製のケースを机に乗せた。
「こちらが、ソウジ様より仰せつかった『大いなる遺産』でございます。」
「この家だけじゃないのか。」
「この『大いなる遺産』と比べれば、この家屋の価値も霞むと、ソウジ様はおっしゃっておりました。」
一坪200万の豪邸よりもすごい、すごい遺産?そりゃすごいけど正直嬉しくない。
「嫌な予感がするなぁ。」
「すっげーじゃん!見せて見せてよー!」
「ミクちゃん、落ち着いて。」
「そうですよ、これはシンジさんの物なんですから。」
「ちなみに、受け取らないって選択肢は?」
「あります。」
「え?受け取らないの?」
「だって、絶対なんかあるだろうし・・・。」
「じゃあアタシがもらう!」
「いやいやここは私が!」
「・・・じゃあボクも。」
「あっ私も立候補します!」
(この流れは・・・。)
知っているし、アピールもされている。
「じゃあ僕が。」
「「「「どーぞどーぞ。」」」」
長いものに巻かれてしまった。これがひいては後々に尾を引くこととなる芸人魂であると知る者はいない。
「まあまあ、一目見てから決めてもいいんじゃないかな?」
「そうそう!まずは当たって砕けろだよ!」
「砕けたくないなぁ。」
そう言いつつケースに手を伸ばす。それは見た目よりも軽かった。多分中身よりもケースのほうが重い。
「じゃ・・・開けるね。」
「ゴクンッ・・・。」
(ゴクンって口で言う人初めて見た。)
ケースの中から、目の眩むような光が漏れだしてきた。シンジは、その『光』を確かに掴んだ。
それは『運命の光』だった。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「で?」
所変わってGIRLS本部、その談話室。
「その『大いなる遺産』とやらを持って、ソイツも連れてきたってわけか。」
「はい、今検査されているところなんです。」
「怪獣娘に関わるアイテム・・・か。」
ふーんと顎に手を添える彼女は、鍛え抜かれた両腕と尻尾のリボンがチャームポイントのレッドキング。大怪獣ファイトの初代王者にしてアギラ達の頼れる先輩である。かわいい。
「お待たせー!おっ、レッドちゃんもいたんだ!」
「おうゴモラ、そいつが例のミラクルマンか?」
「ミラクルマン?」
「東京タワーから落ちて生還したんだって?聞いたぜ。俺はレッドキングってんだ、よろしくな!」
そういえばそんなこともあったなぁ、ミカとの再会の衝撃が大きすぎて忘れかけてけど。握手を交わしながらぽつりと思い出す。
「それで、そのアイテムってのは?」
「あっ、これです。」
シンジは左腰のホルダーから、手のひらサイズの機械をとって見せた。
「これか・・・なんかソウルライザーに似てるな。」
「ソウルライザーよりちょっと厚いですけど。」
ソウルライザー、それは怪獣の魂(カイジューソウル)を呼び覚まし、怪獣娘へと変身させるアイテムだ。
「父の研究書類によると、これの名前は『バディライザー』と言うそうです。」
「『バディライザー』・・・。他には?」
「何も、名前しかわからなかったんです。」
レッドキングの手から返されたバディライザーを左手に、右手はは反対側のホルダーをまさぐる。
「それと、わからないことがもう一つ。」
「なんだそりゃ?カードか?」
「何も描いていないカードです。これがついていました。」
絵のついていないカードが数枚。触ってみると、それは紙ではないと思えた。プラスチックよりも固く、金属より軽い、不思議な物質だった。
「多分バディライザーで読み込むんだと思うんですが、やってみても何の反応もないです。」
「ふーん。」
ライザーの読み取り機と思わしき場所にかざしてみるも反応はない。そもそもどうやって電源を入れるのか、どうやって動かすのかもわからない。
「仮にソウルライザーのそっくりさんなんだとするとよ、どうすればいいのかもその内わかるんじゃないのか?」
「ソウルライザーはどうやって動かすんですか?」
「説明しよう!・・・アギちゃんが。」
「ふぇっ!?え、えっと・・・。」
「アギちゃんがんばー!」
「変なプレッシャーかけないで!」
「私たちが怪獣だったころの記憶や本能が、今の私たちに影響を及ぼすことがあって、それが『カイジューソウル』。そのカイジューソウルが高まった時に、自然と体がソウルライザーを動かして、怪獣娘に変身できる・・・かな?」
「そうそう!あたしの場合は『もっと強くなりたい』って思いで、ウィンちゃんの場合は・・・。」
「ウィンちゃんは『おまピト』だったのかな?」
(おまピト?)
「『知識欲』!知識欲です!あは、あはははは・・・。」
(何故焦る?)
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「つまり、自分の好きな事ややりたい事が鍵ってワケだ。」
「そんなこと言われてもなあ。」
一人河原で物思いにふけるが、また一雨来そうな空模様である。
(好きな事ややりたい事・・・ってなんだろう。)
趣味と言えば、プロレスとか好きだけど?けれど決してケンカっ早い性格ではない。いささか短気なところがあると自覚はあるが。
「こんなところにいたんだ。」
「ん?宮下さん。」
「アギラでいいよ。」
宮下さん、もといアギさんがいつの間にか背後にいた。
「どうすればいいのかわからない、って顔してるね。」
「そんな顔してた?」
「いや、そうじゃなくて・・・。ボクもそうだった。」
「?」
「自分が何をしたいとか、何に夢中になればいいのかとか、わからなかった。」
シンジの隣に腰かけ、思い出すように語りかけてきた。遠くで子供の声だけが聞こえている。
「シンジさんは、ボクと似てる気がする。」
「え?!」
「あっ、嫌だった・・・かな?」
「いえいえいえ、どこが?どうして?」
「その掌の傷。」
「・・・?これ?」
タワーの事件でついた傷。まだ包帯は取っていない。
「あの時、ボクがシンジさんの立場だったとしても、同じことをしてたと思う。それが、ボクのカイジューソウルだったんだ。」
「ふーん・・・。」
「シンジさんの場合、ボクと違って答えが見つからないんじゃなくて、もう持ってるんじゃないかなって思う。自分が気づいてないだけで。」
「そう・・・かな。」
「ボクの気のせいかもしれないけどね。それだけ言いたかった。」
それを言うために探しに来たの?とシンジが言いかけたところで、アギさんから音が鳴る。
『アギアギ!シャドウがあらわれましたぁ!』
「わかった、すぐに行くね。」
「シャドウって、昨日の・・・。」
「うん、人類の脅威。ボクたち怪獣娘にしか倒せない敵。行かなきゃ、じゃあね。」
「あ、アギさん!」
走り出した背中を、思わず呼び止めてしまった。
「えっと、その・・・ありがとう!それから、が、がんばって!」
「・・・うん!」
拳を握りしめ、エールを送った。今のシンジにはそれしか出来なかったけど、アギラは笑顔で応えてくれた。
戦いに向かう背中を見送り、再び一人となったシンジ。違いがあるとすれば、今は立っているということ。
「答えはもう、持ってる・・・。」
包帯の巻かれた掌をじっと見つめる。ふと、腰に震えを感じて目線を移すと、バディライザーが光っていた。
「こいつ、動いてる!のか?」
タッチすると、ぐるぐると画面が切り替わって声がする。
『バディライザー・スタンダードモードの起動を確認しました。』
「その声は、チョーさん?起動を確認したって、やっぱりこれ動いてるの?」
『そうです、来るべき時が来た、ということです。』
「来たのはいいけど、どこに行けばいいのさ?」
『マップをご覧ください。』
パッと表示された周辺の地図に、点滅している場所がある。ここに行けということだろうか。
「なんか釈然としないけど。」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「もうちょっとだな・・・。」ゼェゼェ
何か乗り物でも携帯できればという感想が沸き上がったが、それはさておき。この先に一体何があるのか、肝心なことを機械は教えてくれない。目的もわからずに走らされるのはかなりしんどい。
「ちょっと休むか・・・ん?」
日陰に腰かけようとしたその矢先、たまたま目に入ったのはモゾモゾと動く黒い影。野良猫かな?それとも宇宙から来た殺人昆虫?それだったらどんなによかったものか。モーターを持っていなければ襲われないから。
「あれは・・・あっ!」
シンジが記憶を掘り起こすよりも先に、影は立ち上がってぐわっと来た。昨日出くわしたばかりで記憶にも新しい、シャドウだ。
「逃げろっ!」
口がそう動くよりも速く走りだした!が、既に体力を消費している以上、いつまで持つかわからない。道を曲がって撒くか、それとも隠れるか。いずれにせよ焦ると失敗する。高いところでバランスを崩さない秘訣は、手の力を抜かずに、下を見ないこと。シンジは後ろを向いてしまった。
「あっ。」
そして背筋が凍り付いた。シャドウは目前、スレスレのところにまで迫っていた。運が良かったのは、転んだ拍子にシャドウの突撃を躱せたこと。
「いってぇー、けどラッキーだった・・・?」
次は足を捻挫した。寿命が少し伸びただけで、運命は変わらないか、シャドウは再び狙ってくる。
「やっぱりアンラッキーだった!うわぁあああ!」
「とぃやっ!」
「あああああ・・・あぁ?」
「シンジさん、大丈夫?」
神の助けか?地獄に仏か?いいえ、彼女は怪獣娘。
「アギさん・・・。」
「どうしてここに?ここあぶないよ。」
「実は・・・バディライザーが反応して、ここに。」
「ホントだ・・・と、話をしている場合じゃないね。」
わらわらとシャドウが沸いて寄ってきた。応戦するアギラに背を守られ、シンジは足を引きずりながら物陰に隠れる。
「てやぁ!」
「すごい・・・。」
素早い身のこなしと、ツノのパワーであっという間に片づけていく。これがあの寝ぼけ眼で大人しそうな女の子の力なのか?
「おぉおおおおおお!そいやぁ!」
「あれが『怪獣娘』・・・。」
最後のシャドウを仕留めたアギラに抱えられながら、シンジは退避する事となった。怪獣娘のその力をまざまざと見せつけられ、自嘲するように言葉を漏らす。
「一体なんの為に来たのか・・・。」
「今は危険だから、落ち着いたらまた来よう?」
「何もできないなんて・・・。」
「シャドウは怪獣娘にしか倒せないから、仕方がないよ。」
人には向き不向きがある。そして可能なことと不可能なことがある。シンジは不可能な人間だ。決して二次元人の血を引いていたり、地底から使命を帯びて来たわけでもないし、宇宙人に力を授けられたりもしていない。
ただ一つ、違うところがあるとすれば。別な『光』を持っているということ。
「うわっと!?」
「この揺れは・・・!」
『ギキキョアアアアアアアアアアアアアアアン!!!』
突如、地面が揺れはじめた。普通の地震とも性質が違うそれは、道路に大きな穴を開けて、正体を現した!
「でかっ!」
「シャドウ・・・ビースト!」
今度の敵はデカすごだッ!大木のように太い四つ足に、2人が見上げるほどの巨体をもたげ、シャドウビーストは迫ってきた。
『ギャアアアアアアアアアアアアン!!!』
「危ない!」
「ギャッ!」
寸でのところでシンジはアギラに突き飛ばされ、ゴロゴロと転がりながら離れて行った。
「てってて・・・アギさん・・・?」
『ギョォオオオオオオオオオオオオ!!!』
「ぐぅうっ!」
「アギさぁん!」
シンジを逃がした結果、アギラはシャドウビーストの足に捕まってしまった。ギリギリと体重をかけられ、道路にもヒビが入っていく。
「うぅっ・・・逃げて・・・早く・・・!」
「アギさん!」
「ボクのことはいいから・・・行って・・・あぁっ!」
アギラをいたぶるようにじっくりとシャドウビーストは力を込めていく。でも今なら、足を怪我していても逃げられる。そうすれば助かる。そうするしか出来ない。
(僕は・・・ただの人間なんだ。戦いようがないんだ、逃げたって仕方がない・・・。)
ここに来たことを心底後悔した。こんなに辛い思いをすることも、その必要もなかった。
(けど・・・。)
その時、シンジは足元に転がっていた空き缶をシャドウビースト目がけて投げつけていた。自分が何をやっていたのかわかったのは、甲高い音を立ててシャドウの顔に当たった時だった。
「ただの人間でも、これぐらい出来る・・・こっちだこっちぃ!」
『ギュルルル・・・。』
「うっ・・・どうして・・・。」
興味の対象が移ったのか、のしのしとシンジの方へと歩みを進めてきた。啖呵を切ったはいいけど、その先の事は何も考えていない。そうか、ミカが言っていた『一発ギャグ』とは、アドリブ力を鍛える訓練だったのかと現実逃避を始める始末である。
「逃げろっ!」
『ギュォオオオオオオオ!!!」
激痛が走る足に鞭打ち、必死で駆ける。やがて追い付かれて踏みつぶされようとした時、アギラがシンジをさらって横っ飛びに跳ぶ。
「大丈夫?」
「なんとか・・・。」
今は、お互いに生きていることを確かめ合った。もう残された時間はあとわずかだ。アギラにシンジを連れて逃げられる余裕もない。
「行ってくる・・・ね。」
それでも、アギラは立ち上がる。
「アギさん・・・。」
この絶望的な状況にあって、シンジは言葉に詰まった。胸の内には様々な感情がこみ上げてきた。
「ありがとう、がんばって・・・!」
その中で、シンジは『心からの言葉』を口にした。
そしてそれは、これから起こる奇跡の鍵だった。
「!これは?!」
「なんの光?」
「バディライザーが・・・。」
光を放ちだした。もう一つ、右腰のホルダーが暖かさを感じた。
「白紙のカードに・・・絵が!」
「AGIRA・・・!」
大きなトサカを持った、トリケラトプスのような怪獣のカードが入っていた。すぐに理解できた、これが『アギラ』だと。
「やってみよう、一か八か!」
「うん!」
2つのアイテムを手にした時、体が勝手に動いた。バディライザーの前面にカードをセットし、トリガーを引く!
「「バディライド!」」
「「アギラ!!」」
リードされたカードは、光のフレームとなって『もうひとつの世界』の戸を叩く。
「「おぉおおおおおおおおおおお!!!」」
『向こう側』から呼び起こされた怪獣の本能が体にみなぎり、叫びとなった!
「で、どう変わったんだろ?」
「力が・・・みなぎってくる!」
「それだけ?」
「うん・・・でも、これなら!」
『ギャアアアアアアアアアアン!!!』
ようやく標的を見つけたシャドウビーストが襲い掛かってくる。それに立ち向かうべく構えたアギラの体から、一瞬オーラのような光が迸ると、シンジはアギラの姿を見失った。
「えっ?!」
「速い・・・今までにないくらい!」
アギラはシャドウビーストの背後に一瞬で移動していた。シャドウビーストは尻尾を振り回して応戦するが、アギラはそれらを見切って突貫する。
「でぇえええい!」
『ギャワアアアアアアアアアアアン!』
腹に突撃を喰らったシャドウビーストはもんどりうって倒れた。今までの苦戦が嘘のような攻撃だ!
「パワーもすごい・・・。」
「アギさん、次で決めちゃって!」
「うん!」
昂る力が、バディライザーを通して『指令』となって伝わる。アギラはパスコードを開けるように、その技名を叫ぶ。
「『ダイノダイッシュ!!』」
強く地面を蹴ってアギラが走り出すと、その間にシャドウビースト体勢を立て直し、大口を開けて迎え撃ってきた。
「「いっけぇえええええええええ!!」」
しかしアギラは止まらない!光のような速さでシャドウビーストの向こう側にまで突っ込んだ!
「やったか・・・!」
ズン・・・ズン・・・と数歩歩いたところで、シャドウビーストは活動を停止した。どうやら自身の頭部が吹き飛ばされたことに、最後まで気づいていなかったようだった。
「勝った・・・!」
「・・・助かった。」
シュタッとアギラは地面に着地し、対照的にシンジはその場にへたり込んだ。バディライザーの光も消えた。
「シンジさん、大丈夫?」
「うん・・・なんとか。」
へたりこんだまま、自分を心配する声に応える。そして今できる限りの精一杯の笑顔を忘れない。
「おーい!アギちゃーん!」
「すごく光ってましたけどー!」
遠くから声が聞こえてきた。事はもう済んだんだろう。心なしか澄んだ気持ちで寝転がり、右手に携えた機械を見つめる。そこにはアギラのカードがある。
「これが・・・僕にできること。」
手の向こうに広がる空は曇っていた。けれども切れ間からは光が差し込んで綺麗に見えた。だからシンジも信じることにした。困難を乗り越えた先に見える、向こう側の光を。
「・・・おもしろい。」
しかしその時、その様子を見つめていた青い存在に気づく者はいなかった。
そこで問題だ!この捻られた足でどうやってあの攻撃をかわす?
①ハンサムのシンジは突如逆転のアイデアがひらめく
②誰かがきて助けてくれる
③かわせない。現実は非情である。
本当は入れたかった
くぅ疲!自分の遅筆さに泣く。もうこれで完結していい?2話の時点でこんなペースじゃあこの先思いやられるよ・・・でも、行きつくところまでは行きたい所存。