怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 べつなの書いてたら遅れた。(白目)


空の虹に怪獣は踊る

 「・・・。」

 「おはよーシンちゃん?どうかしたの?」

 「・・・うん。」

 

 シンジはベッドの上で違和感を感じていた。昨日は・・・楽しかった。留学に行っている間に、GIRLSに頼もしい後輩も増えて、彼女たちといっしょにしこたま遊んだんだった。

 

 「大丈夫?お腹痛いの?」

 「・・・胃がすごく痛い。」

 「食べすぎ?」

 「どうもそうらしい、動くと痛む。」

 「お腹に優しい物作ってきてもらおうか?」

 「お願い、ホットミルクが飲みたいな。」

 「わかった、ちょっと待っててね。」

 

 シャドウミストに憑りつかれて昨日の今日だが、それにしても色々つらい。何が辛いって、胃よりもむしろもっと別の場所が辛い。

 

 「シンちゃん、元気?」

 「あぁ、元気は元気だよ・・・ありがとう。」

 

 ホットミルク、ハチミツ入り。やさしい甘さが体をいたわる。ミカも同じものを飲んでいる。

 

 「ふぅ・・・あったまるね。」

 「甘くておいしいね。」

 

 こんな大したことのない一幕に幸せを感じられる喜びよ。

 

 「今日は後輩ちゃんたちと遊びに行くんだっけ?」

 「そうそう!昨日紹介したあの子たちね!」

 「マガジャッパちゃんに、マガバッサーちゃんね。」

 

 いつの間にか僕にも後輩が出来たことになる。マガジャッパちゃんは大人しくておっとりな感じのする子で、マガバッサーちゃんは逆に明るくて活発な子だ。全く正反対な性格の二人だけど、とても仲が良いようだ。

 

 「姉妹だっけ?」

 「ちがうよ!」

 

 「さて、ちょっと落ち着いたかな。朝ごはん食べて出ようかな。ミカはもう朝ごはん食べた?」

 「ううん、シンちゃんと一緒に食べたいって思ったからまだだよ!」

 「それ、もしもう僕が先に食べてたらどうするつもりだったの?」

 「細かいことは気にしなーい!先に行って待ってるねー。」

 「うん、すぐ行くから。」

 

 ミルクを飲み干したマグを回収して、ミカは部屋を後にする。さてっとシンジも立ち上がって着替えを始める。

 

 「・・・。」

 

 ちょっと、元気すぎないか?ナニがとは言わないけど。

 

 まあそれはそれとして。着替えて食堂に行くと、既にミカが着席して待ちわびていた。

 

 「おそーいシンちゃん!さっ、食べよー!」

 「うん、いただきます!」

 

 食卓に並ぶ御膳は、白米に味噌汁、納豆とまさに純和風な朝食だ。

 

 「納豆に味噌に豆腐って、ほとんど大豆だね。」

 「向こうじゃ毎日ハンバーガー食べてたから、このあっさりした感じが懐かしい!」

 「なるほどねぇ・・・。」

 「なにがなるほどだ?」

 「いやシンちゃん、太ったなと思って。」

 「え?」

 

 「いや、そんなはずはない・・・むしろいっぱい運動してたから、筋肉が付いただけで・・・決して脂肪がついているわけではないはずだ・・・。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「だから食べるものには気をつけなさいと言ったのよ?」

 「面目ない・・・。」

 

 正直なところ、「やせ気味」だったのが「普通」になった程度なのだが、一度太ると癖が付く。

 

 「米だったところを肉に、お茶だったところをコーラに替えればこうもなろう。」

 「他に食べるものが無かったんです・・・。」

 

 それと同時に、環境の変化によるストレスも一因と考えられる。野生動物も、いきなり別の環境に連れてこられればストレスで早死にするという。

 

 「じゃあ今日本に帰ってきてるから、すぐ体形は戻るってことだね!」

 「そっか!」

 「『そっか!』じゃないわ・・・この際だから、毎日のトレーニングメニューを見直してみるべきね。」

 

 (ねぇ、なんでエレキングさんこんなに僕に構うの?)

 (多分、後輩2人の指導を任されたから、教員魂に火がついたんじゃないかな?)

 (結構面倒見がいいですからね、エレキングさんは。)

 

 エレキングさんの熱血指導に多少期待はしたものの、その後テキストとしてスポ根漫画を持ってこようとしたことはまた別の話。ともあれ今日は後輩2人と親睦を深めるのだ。

 

 「せんぱーい!」

 「お、おはようございましゅっ!・・・はうぅ・・・。」

 

 と、そこへちょうど後輩2人がやってきた。マガバッサーちゃんはラフながらセクシーな格好を、マガジャッパちゃんは落ち着いた雰囲気の恰好をしている。こういうところでも性格の対照さが際立つ。

 

 それにしても、2人とも年下とは思えないスタイルのよさだ。こうしてみるとミカが本当に可哀想でならない。

 

 「シンちゃ~ん、今なんか失礼なこと言った?」

 「いいえ。」

 「・・・すけべぇ。」

 

 じとーっとした目でミカは抗議してくるが、気にしない。それより今日は、2人のリクエストで行く場所を決めるんだ。

 

 「はいはーい!わたし、大怪獣ファイトを体験してみたいです!」

 「よしやろう!シンちゃん!」

 「なに?」

 「いっしょにやろう!ジャッパちゃんも!」

 「ふぇえ?!」

 「昨日の今日なんだけど?」

 「シェイプアップにもなるよ!」

 「よしやろう。」

 「よっしゃー!」

 「えぇええ?!」

 

 困惑するマガジャッパちゃんをよそに、マガバッサーちゃんの要望で大怪獣ファイトの模擬戦がと行われる運びとなった。シンジはこの展開の速さと言うか強引さにもう慣れたけど、マガジャッパちゃんはまあ我慢してくれ。ミカと付き合ってたらこれぐらいのことは日常茶飯事だ。あとでジュースを奢ってあげるから。

 

 「ってことで、先輩後輩タッグ対決を提案しまーす!」

 「先輩後輩タッグ対決?」

 「そ!私とシンちゃんと、バッサーちゃんとジャッパちゃんで組むタッグマッチ形式がいいなって!」

 「先輩からの洗礼ってことっすね!やりますやります!」

 「ジャッパちゃん、パワハラを感じたらすぐに訴えてくれていいからね?ミカはいつもこんなんだけど。」

 「い、いえ、大丈夫です・・・。」

 

 とはいえ、その遠慮のなさがミカのいいところでもあるのだけれど。後輩相手にもなにかと気に掛けてくれる、いい先輩なのだ、基本的には。ただそれが行き過ぎて、無茶振りさせすぎることもまれにあるのが玉に(キズ)

 

 さて、いつものアリーナへ移動し、いつの間にかギャラリーも増えていた。最初の場にいたのは、ミカやかぷせるがーるずを除けばエレキングさんだけだったが、今はピグモンさんにレッドキングさんにガッツさん達がいる。

 

 この場にはいないが、少し前の事件(アニメ2期)ではキングジョーさんやノイズラーさんも協力したらしい。アメリカにいる間、何かとキングジョーさんの話は耳にしていた。一応以前にも顔合わせ程度にはお話したこともあったが、結構すごい人だったんだなと改めて実感した。すごくフレンドリーというか、気さくというか、パワフルな人だったけど。

 

ノイズラーさんのことはあまり知らない。聞けば、ザンドリアスとバンドをやっているそうだ。それにしても、今はマガちゃんたちがいるからザンドリアスも先輩になったわけだな。喧しい妹みたいな子だからそういう風に見てたけど、知らないうちに成長しているものなんだな。

 

 「さーて、シンちゃんの修行の成果を今度こそ見せてもらうよ!」

 「昨日はちょっとアレだったからね。今度こそ見せたいな。」

 

 ガッツさん達にも安全なところを見てもらえば、ちゃんと信頼を得られるし。こういうところがあるから、ミカはいい子なんだよ。

 

 「で、シンちゃん負けたら一発ギャグね!アメリカでの修行の成果を見せてよ!」

 「別にお笑いの修行に行ってたわけじゃないんだけどなぁ?」

 

 アメリカのコメディは、シットコムみたいに観客の笑い声が入ってないと笑いどころがイマイチつかめない。それに、笑うにいはユーモアを感じ取るセンスというものも必要になる。総じて難易度が高い話だ。例えばピエロのパリアッチみたいな。

 

 「シンジさん、ルチャ・リブレの特訓してきたんだって?」

 「うん、『ハーキュリーズ』って人達と一緒に特訓したんだ。」

 「『ハーキュリーズ』って、あの『ハーキュリーズ』?すげーじゃん!」

 「知ってるんですかミクさん?」

 「うん、日本で一番のプロレスチームだよ!いいなー!」

 

 あらゆる困難は気合と根性で乗り切る。それがハーキュリーズだ。アメリカへ遠征がてら修行に来ていたところを出くわして、一緒に特訓させてもらった。たまたま一緒に居合わせた高山博士もそれに巻き込まれてヒイヒイ言っていた。今は仲良くしているらしいが。

 

 「じゃ、ボクたち観客席の方に行ってくるから。」

 「うん、後でね。」

 

 反対側のマガちゃんたちのところには、今頃レッドさんやエレキングさんが行って檄を飛ばしているところだろう。

 

 「でも、新人ちゃん2人にミカ充てるなんて荷が勝ちすぎるんじゃないかな?」

 「そのためのシンちゃんだよ、ハ・ン・デ♡」

 「僕は重荷になるつもりもないよ?」 

 「頼もしいじゃん!」

 

 このこの~と肘で突っついてくるのをいなして、バックパックの中身を確認する。スーパーガンRの弾頭として使用するアタッチメントが主だが、他にも様々な小道具や非常食なんかもごっちゃに入っている。それらを一旦纏めてひっくり返して整理する。

 

 「またなんか色々増えてるね。」

 「色んなものを試作してたからね。」 

 「どう見てもおもちゃみたいなものもあるんだけど?なにこのヨーヨーは?」

 「振り回して使う。」

 「子供が真似して危ないからダメだよ。」

 

 どこぞのスケバン刑事や超電磁ロボやおとなもこどももおねーさんも使うヨーヨー武器。とりあえず作ってみたはいいが、上手く扱える自信が無い。せいぜい振り回してフレイル(鎖付き鉄球)のように使うしかない。

 

 「ま、要は組み合わせなんだけどね。」

 「なにか考えがあるんだ?」

 「まあね。」

 

 ミソとなるのはバックパックに入っている物ではなく、その外に持っているものだ。

 

 「これ使うのもなんか久しぶりになるな。」

 「バディライザーね、向こうでもカードは増えたの?」

 「うん、ちょっとだけね。」

 

 全員が全員キングジョーさんのようにフレンドリーだったというわけでもないが、本当にいろんな人たちと仲良くなった。一番衝撃的だったのは、パワードゼットンさんの存在だろうか。僕らの知っているゼットンさんと似て非なる存在。それによく手合わせをしてもらったパワードバルタンさん。一番仲良くなったのは、日本文化に興味があるペギラさんだろうか。

 

 「なるほどねー、色々あったんだねー。」

 「うん、どれも貴重な体験だったよ。」

 

 思い出すのもほどほどに、今は戦いに集中するとしよう。今回の相手は新進気鋭な後輩ちゃんたち。しかもエレキングさんの指導付きときたもんだ。今回の対戦は、2人の成長を見るための物でもあるのだろう。

 

 「シンちゃん作戦はある?」

 「まずは相手の実力を測りながら、様子見かな。」

 

 軽く準備運動をして、アリーナの入場ゲートへ。反対側のゲートを見れば既にマガちゃんたちはスタンバイしていた。マガバッサーちゃんはやる気満々だが、マガジャッパちゃんはまだ少しオロオロとしている。2人とも落ち着きが無さそうだという点については一緒だが。

 

 「みんなあんな感じなんだよねぇ、初めてのファイトの時ってさ。」

 「そうなの?」

 「そうだよ、シィちゃんもだけどシンちゃんもそうだったよ。」

 「シィちゃん・・・シーボーズさんだっけ?」

 

 そうだよ、とミカは短く答えた。シーボーズさん、ミカが最初の対戦相手を務めた大怪獣ファイター。決して戦闘向きの怪獣ではなかったかもしれないけれど、最後までミカに喰らいついていったという。僕もそれぐらい出来ていただろうか?

 

 「先輩方、今日はおねがいしまーす!」

 「お、おねがいします!」

 「うんうん!胸を借りるつもりで、ドーンとおいでよ!」

 「貸せるほどの胸もない癖に。」

 「なんか言った?」

 「いいや。」

 

 ビターンっと大きな衝撃が背中を襲うが、すぐに立ち直って対戦相手に向き直る。既に全員戦闘態勢(ソウルライド)済み、いつでも行ける。

 

 「よっし、行くよジャッパ!」

 「うん!バッサーちゃん!」

 

 カーン!試合開始のゴングが響く。まずは様子見・・・のはずだったのにミカは突出していくし、後輩ちゃんたちも構わず突っ込んでくる。作戦なんてなかった。

 

 「そーれっ!」

 「はっ!」

 

 低空飛行しながら突進してくるマガバッサーちゃんに、ゴモラはお決まりの尻尾攻撃で迎え撃つが、マガバッサーはひらりと躱してノーダメージ。

 

 「とぉー!」

 「うわぉ!」

 「油断するなよゴモラぁ!」

 

 ひらりと躱したマガバッサーの影から、マガジャッパのマガ水流が飛んでくる!シンジはそれを素早くライザーショットで撃ち落とす。

 

 「シンちゃんいい腕してるぅ!」

 「技術(テクノロジー)のおかげさ。」

 

 そのまま続けてマガジャッパを狙い撃つが、その銃弾の全てがマガジャッパの腕から出てきた大きな泡に阻まれる。

 

 「ふぬぬぬ・・・ぱぅっ!」

 「なんっ!?」

 

 銃撃を防ぎ続けていた泡が弾けて、それまでに吸収していたエネルギーが衝撃波となって返ってきた!

 

 「わたたっ!思ったよりもやるじゃん!」

 「とーぜんっすよ!なんたって『魔王獣』ですもんわたしたち!」

 「魔王獣?なんだそれ。」

 「わたしたちにもよく・・・。」

 

 魔王獣、それは大魔王獣の眷属にして、存在するだけで災いをもたらすとされる。

 

 「わたしマガバッサーは、嵐を起こすことが出来るんすよ!」

 「へー、そりゃスゴイ。マガジャッパは?」

 「わ、わたしは・・・その・・・。」

 

 シンジの問いかけに言葉を濁すマガジャッパちゃん。魔王とつくからには、どんなすごい能力なのか気になる。

 

 『あなたたち、口を動かしてないで体を動かしなさい。』

 

 「おっと、ギャラリーから苦情が飛んできたぞ。」

 「よーっし!ならわたしもやっちゃうぞー!」

 「うわっ!すごい風だ!」

 

 エレキングさんからのブーイングに、マガちゃんたちは立ち直って攻撃が再開される。マガバッサーがその大きな翼で羽ばたけば、たちまち嵐が巻き起こる。対峙する2人は飛ばされないように地面にしがみつくのがやっとだ。

 

 「シンちゃんどうすればいいの?!」

 「竜巻の時は地下シェルターに避難するんだよ!」

 「そうか!超振動波!!」

 

 ズドドドッと地面に大穴を開けて、そこに身を隠す。だが隠れてばかりいても敵には勝てない。

 

 「で、これからどうするの?」

 「ちったぁ自分で考えろよ!空を飛ばれちゃどうしようもなくなるからなぁ。」

 「シンちゃんだって飛び道具持ってるじゃない?」

 「物には限界があるんだよ。」

 

 黒鉄の城だって空を飛べるようになるまで様々な苦難があったのだ。おいそれと克服できるほど甘くはないのだ。

 

 「一応、方法は無きにしも非ずだけど。」

 「どんな?」

 「それはねぇ・・・ん?なんだこのニオイは・・・。」

 

 作戦会議中の穴の中に、フローラルな香りが漂ってきた。

 

 「なんかクセになりそうな・・・。」

 「すごく・・・イイにおい・・・。」

 「しかもリラックス効果つきだこれ・・・ねむい・・・。」

 

 これはイカン、と慌てて穴を掘り進めて出口をつくる。

 

 「こ、これでよかったかな?」

 「待ってましたぁ!ジャッパちゃんナイス!」

 「えぇいまたしても!シンちゃん!」

 「おう!」

 

 穴から飛び出して、攻撃がとんでくる前に体勢を立て直す。ゴモラの角にシンジは脚をかける。

 

 「そーれっ!」

 「うぉおお!!」

 「なにぃ!そうきたか!」

 

 あとはゴモラのツノかち上げの要領でシンジは飛ぶ、いや跳ぶ。滞空しているマガバッサーの元へ一直線だ。

 

 「あらよっ!」

 

 しかし単純に真っ直ぐ飛んでくるだけでは当たるものも当たらない。簡単にマガバッサーは避けてしまうが、そんなことを想定していないシンジではない。

 

 「リストビュート、伸びろ!」

 「うわっ!?」

 

 S.R.Iの手首の部分からワイヤーが伸びて、マガバッサーの脚をとらえる。ヒーローの本場アメリカで学んだワイヤーアクションをスーツの機能に取り入れてみたのだ。

 

 「これは使い勝手が良いな!」

 「離せー!このー!」

 「うわぁ!!」

 

 捕えたはいいものの、その状態でマガバッサーは全速力で飛び回るから、シンジは揺られるジェットコースターだ。

 

 「ぬわぁああああああ!!」

 「落ちろやぁあああ!」

 「なんとぉおおおおお!!」

 

 調子づいたマガバッサーがシンジの体を地面に叩きつけようと、急降下を開始するの直前、ワイヤーを解除して空中に留まる。続いて、空中で体勢を立て直してからもう一度ワイヤーを引っかける。まるでイルカの背に乗って跳ねるアクロバットショーのようだ。

 

 「再び、捕まえたぁ!」

 「くっ!こんのぉしつこい!」

 

 将を射んとすればまず馬を射よ。マガバッサーの戦闘力はその大きな翼に起因する。背中に取り付いたシンジは、バックパックからアイテムを取り出す。

 

 「必殺、本結び!」

 「翼がっ!」

 

 先ほどおもちゃと言ったヨーヨーを巧みに操り、一対の翼を固めて羽ばたけなくさせた。これでもう自由に空を飛ぶことは出来まい。

 

 「そして、これで決まりだ!」

 

 そのままマガバッサーの体を後ろへ反らせ、脚を脇に挟んで、されに腕を掴んで固定し、そのまま垂直落下する!

 

 「人も建物も焼き払う、『カンパーナ・エアレイド(釣鐘爆撃落とし)』だっ!!!」

 

 『おおーっ!あの技はっ!!』

 

 思わずミクラスも感嘆の声を挙げる。この高度から決まればまさに必殺の一撃!

 

 「させませんっ!!」

 「なにっ!?」

 

 そのまま地面に激突して、大きな衝撃がもたらされると思っていたのに、帰ってきたのはボヨヨ~ンとした柔らかい感触。そのままトランポリンのように跳ねて地面に落ちた。

 

 「いてて・・・これは一体!?」

 

 シンジが目にしたのは、巨大なボールのような物体。向こう側に透けて見えるのは、もう一人の魔王獣の少女の姿。

 

 「泡だ!この泡がクッションになったのか!」

 「えへへ・・・うまくいきました!」

 

 あの一瞬のうちに、マガジャッパはクッションを用意していたのだ。その間ゴモラは一体なにをやっていたのか?

 

 「すぴー・・・。」

 「寝てるんじゃねーよ!何故・・・ふわぁ・・・なんだか僕も・・・。」

 

 このフローラルな香りのせいだ。疲れが吹っ飛ぶどころか意識ごと持って行かれる・・・。

 

 「ふにゃ・・・もうだめだ・・・。」

 

 こうして、新人2人は初めての模擬戦に勝ち星を飾った。空には風と水の力によって、祝福の虹がかかった。

 

 「・・・。」(ドヤッ

 

 「エレ、今一瞬ドヤ顔したろ?」

 「してないわ。」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「いやー参った参った。まさかあんな能力があったなんてねー。」

 「はぅうう・・・ごめんなさい・・・。」

 「いやいや、おかげでよく眠れたよ。マガジャッパにはヒーリング効果があるんだね。」

 「一家に一台マガジャッパちゃん!欲しいなぁ~!!」

 「はわわっ!」

 

 むぎゅっとミカは変身解除したマガジャッパちゃんに抱き着き、その匂いをかいでいる。たしかにフローラルな香りがしている。マガジャッパちゃんの雰囲気とも合わせて、とても強力な癒し効果があるに違いない。

 

 「で、どうだった大怪獣ファイトは?」

 「すっげー楽しかったです!もっともっと戦いたいです!」

 「それならよかったぜ、こいつら相手で手ごたえが無さ過ぎたんじゃないかと思ってたところだ。」

 「ちょっとレッドちゃんひどくなーい?」

 「お前らあっさりやられすぎなんだよ。大怪獣ファイターの期待の星がこんなんじゃ、新人に舐められちまうぜ。」

 「むむっ、それは聞き捨てならないなー!今度はレッドちゃんと勝負だ!」

 「へっ、望むところだぜ!」

 

 お昼寝して元気いっぱいになったミカが今度はレッドキングさんと模擬戦を執り行う至りとなった。

 

 「まーけたー。」

 「また強くなってやがったな、EXもほぼ使いこなせてるみたいだし・・・。」

 「すごいねミカ、いつの間にあんなに強く?」

 「ふっふーん、戦うものは日々進化しているのだよ!」

 

 短時間ながら地力でEX化して、一時はレッドさんを圧倒していた。すぐにパワーダウンを起こしていたが、あのまま続いていたならきっと倒せていたはずだ。

 

 「さて、次はマガジャッパちゃんのリクエストを聞こうかな?」

 「わ、私のことはいいですよぉ・・・。」

 「いいからいいから、今日はマガちゃんたちのことを知るための日なんだから!なんなら今日は私がジャッパちゃんを持って帰って検証してみようかな??」

 「ふぇええ!?」

 「ゴモラ、パワハラは見過ごせないわよ?」

 「ジョーダンだって、ジャッパちゃんの好きな物ってなーに?」

 「えっと・・・お風呂が・・・お風呂に入る事が好きです。」

 

 「まさかGIRLSが温泉旅館まで持ってたなんてねー。」

 「もっぱら職員の慰安用みたいだけど。」

 

 これほど大きな組織なら、こういったレジャー施設のひとつやふたつ持っていても珍しくはないが。まだ少々陽は高いが、今日はここに泊ることとなった。

 

 「んじゃ、さっそく温泉にいこー!露天風呂もあるよ!」

 「あの・・・すいません、私のわがままで・・・。」

 「いいのいいの、たまにはじーっくりお風呂に浸かって骨休めするのも悪くないよ。」

 

 戦いで傷ついた体を癒すのにもつながる。命の洗濯だ。

 

 「で、シンちゃんはどっちの入るのかな?」

 「変な選択を迫るんじゃない。」

 

 左は青の暖簾が、右は赤の暖簾がかかっている。別に露天風呂は混浴というわけではない。個室には家族用やカップル用のもあるみたいだが。

 

 「ほら、行くわよゴモラ。」

 「あーエレちゃんちょっとまってよー。シンちゃん、寂しかったら私が塀を乗り越えてきてあげるから、いつでも言ってね?でもこっちを覗いちゃダメだよ?」

 「誰が呼ぶか!誰が覗くか!」

 

 お盛んな修学旅行生じゃあるまいし。他にこの旅館に泊まってる人はいないみたいだけど、よそ様に迷惑をかけるようなことはあってはならない。

 

 「じゃあシンジさん、また後でね。」

 「うん、じゃあね。」

 「ここレトロなゲームもいっぱいありますねぇ!」

 「マガバッサーちゃん、ゲームも好きなんだ?」

 「チョー好きっす!最近は・・・。」

 

 さて、皆を見送ったところでシンジも男湯に入っていく。そこでちょっとした出会いがあったのだが、それは本筋ではないので今のところは省略。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「ふぅ~!いい気持ち!」

 

 露天風呂の外から眺める景色も絶景で、気分も爽快!顔に当たる涼しい風が、湯船の熱さと相まって心地いい。

 

 「一人だけだと、だら~んとできていいな~。」

 

 誰もいないのをいいことにカエルのように平泳ぎしてまわる。『湯船を泳ぐなぁ!』というお怒りの声が飛んできそうだが。それに、まだ陽のあるうちに入るお風呂というのも格別だ。キラキラと水面に反射する日光と、湧き立つ湯気のコントラストがこれも美しい。

 

 「あぁ・・・極楽極楽・・・。」

 

 ひとしきり泳いだ後は仰向けになって水面に浮かぶ。これも家の風呂では出きないことだ。水面下に沈んだ耳には、自分の心臓の鼓動だけが聞こえる。

 

 「はぁ・・・。」

 

 さて・・・これからどうしようか。与えられた力を、どう扱うのか。今すぐに答えを出す必要も無いけれど、シンジの性格上常に考えてしまう。ゆっくりと漂っている雲を見つめながら、じーっと思案に明け暮れる。

 

 『・・・・・・!・・・?』

 

 「・・・ん?」

 

 ぼーっとしていたら、誰かの声を聴きそこなってしまった。大方、塀の向こう側にいるミカの声だろうと察しは付くけど。体を起こして声に応えようとする。

 

 『シンジさん、まだ入ってないんじゃない?』

 『そっかなー?よっこせ・・・やめてよエレちゃん、足をひっぱるのは。』

 『あなたこそやめなさい、壁を乗り越えようとするのは。』

 『私にとって壁は乗り越えるためにあるものだけど!』

 『冗談はいいから、迷惑になるからやめなさい。』

 『向こうにいるのがシンジさんとも限らないでしょ?』

 『むっ、そう言えばそうか。』

 

 どうやら、こちら側の存在には気づいていないようだ。今のシンジは、わざわざ声をかけるような気分でもなかったので、放っておくことにした。

 

 『まあそれはそれとして、マガバッサー。お前、いい体してるな、大怪獣ファイターにならないか?』

 『え、マジですか?!』

 『ああ、今日の戦いもすごかったしな。お前ならすぐ一流ファイターにもなれるぜ!新しいファイターは大歓迎だぜ!』

 『よっしゃー!マガジャッパもやろーよ!』

 『ええっ?!わたしは・・・その・・・。』

 

 たしかにマガちゃんたちの能力はすさまじい。並の相手じゃビクともしない強さがある。人材としてはどこからでも引っ張りだこになることだろう。

 

 『それにしても、レッドキングさんもスゲー体ですね!筋肉すっごい!』

 『お、触ってみるか?』

 『ヒュー!みろよレッドキングさんの筋肉を・・・まるでハガネみてえだ!』

 『あはは、くすぐったいぜ。』

 『それでいてこっちのほうも立派なんだから羨ましいよレッドちゃんは~!』

 『お、おいゴモラぁ!そんなとこまで触るんじゃねえよ!』

 

 シンジ、鼻の下まで湯船に浸かるが、聞き耳はしっかり立てている。

 

 『レッドキング先輩の体すごいよね!鏡の前でポージングとかもしてるんでしたっけ?それも裸で!』

 『ミクちゃん・・・。』

 『だ、誰がそんな・・・いや・・・そ、そうだな・・・アハハ・・・。』

 

 レッドキングは渇いた笑いを浮かべる。一方シンジは両手で顔を覆った。

 

 『そういうアギちゃんの方は・・・どりゃっ!』

 『うひゃあああん?!ミ、ミクちゃんなにすんのさ!』

 『ふむふむ・・・これは将来有望ですなぁ!さてさて次はウインちゃんにロック、オーン!』

 『ふわっ!?や、やめてくださいぃ・・・。』

 『これもなかなか・・・。』

 

 女湯の方はなにやら楽しい雰囲気になってきていた。シンジは一旦大浴場の方に戻ろうかとしたが、すぐに腰を降ろした。

 

 『んもー、ゴモたんそのへんにしときなってー?』

 『ガッちゃ~ん?そういうガッちゃんは余裕そうだねぇ?』 

 『ん?そりゃあアタシは無敵のガッツ星人ですし?スタイルにだって自身はありますけどぉ?』

 『・・・アホくさ。』

 『なにおー!そんなこと言うガッちゃん達は2人まとめてー!』

 『ひゃううん・・・えっちー!』

 『やめっ・・・やめろぉ・・・ひゃううん・・・。』

 『おおー、さすが双子だ、サイズもそうだけど反応も似てますなぁ?』

 

 あー、いい天気だなー。シンジは現実逃避を始めた。

 

 『んもー、ゴモゴモったらー、そんなことしちゃダメですよぉ?」』

 『はぁん・・・んん・・・やめ・・・っ!』

 『そんなこと言いながらピグモンちゃんもレッドちゃんをわしわししてるじゃん!』

 『嫌がってなんかないですもんねー?ねーレッドー?』

 『そ、それは・・・ひゃん!』

 

 シンジ、放心状態。

 

 『さて・・・あとわしわしされてないのは・・・?』

 『はぁ・・・いい加減になさい!』

 

 ざばぁっ!と大きな飛沫を立ててエレキングさんが言い放つ。それと同時に、エレキングさんのそのご立派ァ!な双頭が・・・。

 

 『うわぁ、すっごい揺れてる!』

 『湯船では静かになさ・・・ひゃぁああん?!』

 『そういうエレが一番大きいんじゃないの?声もこっちも。』

 『ガッちゃんナァイス!』

 

 グッとミカは親指を立て、それにミコも応える。

 

 ザバァアン!

 

 「およ?男湯の方がなんか・・・シンちゃーん?」

 

 精神的動揺が大きいのか、エレキングさんは咎めることも出来ず、ミカは塀にジャンプして掴まって向こう側を覗く。

 

 「シンちゃー・・・んわっ!?」

 

 果たしてそこにあったのは、真っ赤に染まった湯船に浮かぶシンジの水死体であった。

 

 「あっち側の温泉は鉄分豊富だったのか。」

 「たぶん違うと思いますよ!?」

 

 男湯は決して赤湯ではない。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「・・・ぶはっ!」

 「おっ、起きたシンちゃん?」

 「シンジさん大丈夫?」

 「あ・・・あぁ・・・頭が痛い。」

 

 目が覚めた時には陽はすっかり暮れていた。夕陽の見えるテラスで、涼風に当たりながらまたしてもアギさんに膝枕されていた。相変わらずの寝心地のよさだ。

 

 「ほい、シンちゃんのコーヒー牛乳!ひえひえだよ?」

 「ひやっこい!」

 

 冷蔵庫から出してしばらく経って結露した牛乳瓶を火照った頬に当てられ、思わず驚嘆の声をあげた。体を起こして受け取ると、フタを開けてグイっと呷る。

 

 「うん、おいしい。」

 「それでシンちゃんはなんで倒れてたのかな?」

 「・・・のぼせてた。」

 「シンちゃんのスケベ。」

 「まだなんも言ってないだろ?!」

 「どうせ私たちの話を聞いてたんでしょスケベ。」

 「あんなでかい声で騒いでたらいやでも聞こえるわい!」

 「やっぱり聞いてたんじゃないか。」

 「しまった。」

 

 誘導尋問に引っかかってしまった。まさかミカがこんなに頭が回るとは。

 

 「ほれほれ~一体誰の声に興奮したのかなぁ?」

 「誰だっていいだろ・・・ところで、みんなはどこに行ったの?」

 「みんな遊んでるよ。レッドキングさんとエレキングさんは卓球してるし、ミクちゃんたちはゲームコーナーに。」

 「2人はいかないの?」

 「んもー、シンちゃんを置いて行けるわけないじゃん。」

 

 こつん、とげんこつでシンジの頭を小突いて、ミカはよいしょっと立ち上がった。

 

 「でもまー、シンちゃん元気そうでよかったかな、私も卓球してくるねー。すぐ来れば、エレちゃんのポロリもあるかもよ?」

 「・・・行かないぞ?」

 「その割には一瞬足が動いたね。まだもうちょっとゆっくりしてなよ。アギちゃんも、ね?」

 「・・・うん。」

 「そいじゃ、後は若いお二人で~。」

 

 ばいばーいと手を振るミカを見送って、アギさんと2人。陽はもうすぐ地平線に隠れようとしている。

 

 「・・・いいところだね、ここ。」

 「う、うん・・・そうだね。」

 

 当たり障りのない会話。せっかく避暑地に来たのだから、もっと特別な会話をするべきだろう。

 

 「・・・。」

 「・・・。」

 

 しかしいざ会話してみようにも言葉が見つからない。お互い前々から言いたいことはあったはずだけど、なかなか切り出せない。

 

 「「あのっ・・・どうぞどうぞ。」」

 

 「お笑いやってんじゃないんだから。」

 

 「なんで見てんだよ、はやく行けよ。」

 「はいはい、おジャマ虫は退散しますよ~だ。」

 

 今度こそミカはどこかへ行った。まだいそうな気もするけど。

 

 「それで、何シンジさん?」

 「あー・・・じゃあ僕が先に言わせてもらうね?」

 

 少し恥ずかしそうに頬を掻きながら、シンジはゆっくりと口を開いた。

 

 「なんというか・・・アギさんとは『運命』みたいなものを感じている。」

 「いきなり、ナンパされた・・・。」

 「違う違う、そうじゃない。」

 

 あーっと声を吐き出して、もっと別の言葉を探す。

 

 「そのつまり・・・アギさんと出会えてよかったってこと。」

 

 「アギさんと出会ったあの日から、何もかもが変わったって気がして。その、いい方向にね。」

 

 脳裏に甦るのは、在りし日の思い出。初めて怪獣娘を目の当りした時、ミカと再会したとき、初めてバディライドした時のこと。

 

 「ミカもそうだけど、いっつもアギさんが僕の傍に居た。僕が落ち込んだ時も、アギさんは励ましてくれた。辛い時にいる僕を、見つけてくれた。」

 

 「だから、アギさんは僕にとって・・・大切な人、とても。」

 

 「それだけ。次、アギさんの番。」

 「雑っ!ボクは・・・ボクはね・・・。」

 

 かなり乱暴にパスを回したが、しっかりアギさんはキャッチしてくれた。

 

 「ボクにとっても、シンジさんは特別な人だよ・・・例えるなら、本当に『運命』って言葉しか見つからないくらい。」

 

 「正直言うと、最初はちょっと無謀な人だなって思ってた。東京タワーの時とか、ボクを助けようとした時も。・・・今もそんなに変わってないかもだけど。」

 

 「そんなシンジさんだから、ついつい見守らないとって思うようになっちゃって。そしたら、今は自然とシンジさんのことを目で追いかけるようになっちゃった。」

 

 「それをゴモたんに指摘されて、やっとわかったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 「これが、『恋』ってものなんだって。」

 

 

 

 アギラは、いやアキは照れるようにくすっと笑って言った。

 

 「ホント、笑っちゃうよ。本当なら恋敵になるはずのゴモたんに、背中を押されちゃうんだから。」

 「アギさん、それって・・・。」

 「黙って聞いてて。」

 「うん・・・。」

 

 「こんな風になってからというもの、毎日がすごく生き生きしてるよ。『誰かを愛する』ってことが、こんなに楽しくて、嬉しくて、夢中になれるなんて、思ってもみなかったから。」

 

 「これが『生きてる』ってことなんだなって。」

 

 「だから・・・その・・・シンジさんの心は、ゴモたんの方に向いてるのかもしれない。だから、これはボクのワガママ。」

 

 

 

 

 

 

 「シンジさんのこと、『好き』でいさせて・・・。」

 

 

 

 

 ぎゅっ・・・とシンジの腕を抱いて身を寄せる。そのアキの頬にそっと手を添える。

 

 「アギさん、ちょっと卑怯だよ・・・顔を見て言ってくれないと、なんて言えばいいのかわからないじゃないか・・・。」

 「なにも言わなくていいよ・・・今はこうさせてて・・・。」

 

 体と体が密着し合って、ドキドキしている。だが後ろめたさは感じない、むしろ暖かくて、安心を感じる。

 

 「アギさん・・・。」

 「シンジさん・・・。」

 

 

 

 

 「あそこで見てる連中は何やってるんだろうか?」

 「へ?!」

 

 「あは☆バレてた?」

 「丸見えだよ、何人いる?」

 「みんなみんな一緒ですぅ☆」

 「あわわ・・・///」

 

 テラスの出入口から出るわ出るわ、ミカを始めとしてぞろぞろと全員が姿を現した。

 

 「みんないるじゃないか!エレキングさん以外?」

 「エレちゃんもいるよー、こっち側に。」

 「別に聞いていたわけじゃないわ、聞こえただけ。」

 「そんなこと言ってー、一番最初に張り込んでたじゃん。」

 「いやー、アギちゃん一世一代の告白だったんじゃない?アギちゃんの笑顔をはアタシのものなのだー!」

 「も、もぉー!みんなひどいよ!」

 「また無視された!」

 「今まで散々自分の気持ちに嘘ついてきた罰ゲームだと思って、ね?」

 

 珍しくアギさんはぷんすかと怒ってみせるが、全然怖くない。ピグモンさんといい勝負だ。

 

 「でもミカ、なんでアギさんの事を焚きつけたわけ?」

 「だってアギちゃん煮え切らないんだもん。私のこと気を使ってるつもりなんだろうけど、シンちゃんを見る目がハートになってるし。それならいっそハーレムにしちゃったらどうかって思って、シンちゃんの。」

 「僕は別にハーレム願望無いよ?」

 「そういうところだよー、シンちゃん。」

 「なにが?」

 「そういう口では『僕関係なーい』って言っておきながら、実のところ下心満載なんだから、このむっつりスケベ!」

 「はぁ?」

 「だからいっそのこと、シンちゃんを囲い込もうと思って。エレちゃんがね。」

 「しっ。」

 「なにさー!言い出したのエレちゃんじゃないかー!」

 「エレキングさん・・・あなた一体なにを?!」

 「(さか)しいだけのあなたが、何を言うの?」

 「(かしこ)くて何がいけないというの?!」

 「私は好きでもない男性とカフェになんて行かないわ。」

 「わかった、これまた夢見てるんだ。」

 「いだだだだだ。」

 「ふむ、痛いということは夢じゃない。」

 「なにすんのさ!」

 「あいだっ!」

 

 隣にいるアギさんの頬をつねってみて、逆に殴り返されて現実だと悟る。

 

 「アタシもシンジさんのこと好きだよ?何でも頼んだら付き合ってくれるし!」

 「オ、オレもお前の事好きだぜ・・・?」

 「・・・くだらないわ。」

 「そんなん言って、昨日『やりすぎっちゃったかな?』心配してたの誰だったかな?」

 「ピグモンもシンシンのことだ~いすきですぅ!」

 「なんだこの展開は。」

 

 いきなりの告白祭りにドン引きする。

 

 「さぁシンちゃん、今度はみんなの想いに応える番だよ?覚悟しろよォ?」

 「なんでそうなる?何をさせるつもりだ?」

 

 ギシッ、とテラスの手すりに身を寄せる。しかしそれがいけなかった。そこはサスペンスドラマの断崖絶壁ばりに危険な場所なのだ。

 

 バキッ!

 

 「あっ。」

 

 あー、また落ちてら。時間にしては一瞬のその間に、遠きアメリカの血に置いてきた妹の姿が蘇る。

 

 「助けて、アイラ・・・。」

 

 バゴォッと鈍い音ともに再び意識を手放した。出来るなら、これで夢からも目覚めて欲しい。決して嫌な夢じゃないけれど、これはこれで悪夢だ。

 

 「大丈夫ですかシンジさん?!」

 「あっ・・・ああ、大丈夫。」

 「もう慣れたもんだなお前も。」

 「慣れたくはないですけど。」

 

 気を失っていたのは一瞬。目が覚めると今度はウインさんが顔を覗き込んできていた。

 

 「それはそうと、レイカ、じゃなくてウインさん。」

 「はい?なんでしょうか。」

 「浴衣、似合ってるね。可愛いよ。」

 「えっ・・・///あ、ありがとうございます!」

 「おっとぉ、まさかウインちゃんが一歩リードするとは?!」

 「あなたたち、いつの間にそんな関係に・・・?」

 「そ、そんなんじゃないですぅ!まだ・・・。」

 

 やいのやいの騒がしくなってきた皆の元を離れて、2人で話しているミカとアギさんの元へ行く。

 

 「2人してハメやがったなぁ。」

 「そ、そういうつもりじゃ・・・ごめん。」

 「いやー、まさかこんなことになるとも思ってなかったよ。ゴメンゴメン。」

 「嘘吐け、絶対確信犯だったろ。」

 「たはは。」

 

 「それで、なんでミカはアギさんを焚きつけたわけ?」

 「そうだよ。」

 「うーん、アギちゃんだけじゃなくって、みんなもそうかな。みんなシンちゃんのこと気にしてるし。」

 「まあ、好意があるって言っても、それぞれ形は違うだろうけど。」

 

 ミクさんには体のいいサンドバック程度にしか思われてないだろうし、ピグモンさんに至ってはあれで平常運転だし。

 

 「だから正直、いつシンちゃんのこと盗られちゃうかと心配してたんだぁ・・・アメリカでも相当仲良くなった娘、いるんじゃないのぉ?」

 「うーん、否定はしない。けど浮気したつもりもない。」

 「どうだかねー、人の心って変わっちゃうもんだし、何か変えてるのかもわかんないし。」

 「どうしてボクを見るのさ・・・。」

 「アギちゃんがその典型だから。」

 

 このこの、と指でつつくが、そこに一切の悪意や嫌悪感はない。本当にいい友達が出来た、そうシンジの目には見て取れた。

 

 「だから、いっそのことシンちゃんの周りを囲って、お互いがお互いを監視できる環境にしたいのだよ!」

 「びっくりするほどディストピア。」

 「それでシンちゃんは好きな女の子を囲えるから、これでWin-Winってわけね!」

 「むしろ囲まれてるんですがそれは。」

 

 ああ、逃れられない!

 

 「そういうわけで、これからもどうぞよろしくね。シンちゃん!」

 「あ、うん・・・よろしくね、ミカ。それに・・・アギちゃん(・・・)。」

 「うん、シンジさんこれから大変だね。」

 「あー、他人事だと思って!」

 「ふふふ・・・。」

 

 やれやれ、まさかこんな展開になるなんて思いもしなかったけど、やっぱり今いるこの『世界』が一番楽しい。




 また途中で力尽きてやがりますぜこいつ!どうしちまいやしょうか!?

 まあ待て、次のシリーズまでの辛抱だ。それにこれでようやくタイトルも回収できた!これで万々歳じゃないか!

ぎる。

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