『ベムラー選手撃沈!残る壁はあと一人、されどその一人が物凄く高い!』
「どうしマス、ゼットン?降参スルなら今の内デスよ?」
「降りる気なんて、さらさらない。」
「デハ、フルボッコデース!」
キングジョーは死刑宣告と共にランチャーを振りかぶって銃身で叩きつける。が、それはゼットンのガードに防がれ、逆に手刀の反撃を受ける。
「お姉さま!」
「Ⅱ!ナイスアシストデース!」
2対1の挟まれた形でゼットンは攻防を繰り広げるが、背中に目があるかのようにそれら全てをさばき、逆に防御をかわして攻撃を的確に打ちこんでいる。
『やっぱ全部ゼットン一人でいいんじゃないかな?』
『そんなことはないよ、きっと・・・たぶん・・・おそらく。』
「聞こえてるぞ少年よ。」
やられて一旦アリーナの端に移動させられたベムラーさんが呟く。悔しいが、これ以上自分に出来ることはない。だがやることはやった、あとは果報を寝て待つだけだ。あの子にあんな風に言われてしまっているのは少々癪だが。
「ムゥ・・・さすがゼットン、全くヘコたれてないデスね。」
「まだ勝機はあるから。」
「やる気満々デスね!こっちだってノリノリデスからね!」
キングジョー2人は同時にバックステップすると、その中間へ目がけてデスト・レイを同時に放つ。が、それもゼットンにはシャッターで防がれる。
「Ⅱ!ココはお願いしマス!」
「はいっ!」
土煙の向こうからの接近を警戒して身構えるゼットンの眼前に、Ⅱの鉄拳が迫る。キングジョーは少し距離を置いて、Ⅱはその間ゼットンの気を引き続ける。
「『こっち』の試射はマダでしたが、今テストを始めまショウか。マズは10%、イヤ20%・・・30%、いや40%・・・やっぱり50%・・・。やっぱ・・・70、いや80%にしまショウ。」
そう言って目を輝かせながら、ランチャーからコードを伸ばすと、腰のジョイントに接続する。
「エネルギー、チャンバー内で正常に加圧中。ライフリング回転開始・・・。」
これまでとは違った音を立てながら、ランチャーが拍動を始める。キングジョーも新しい家電を試すようなワクワクとした心持だ。
『あっ、キングジョーさん『アレ』試すのかな?』
『アレって?』
『・・・バリアが保つといいんだけど。』
歓声の片隅でシンジはそそくさと地下へと避難、もといラボへと報告に向かった。多分、大丈夫だと思うが、念のため、バリアの補佐へ向かったのだ。
(これ私も逃げた方がいいんじゃないか。)
「ちらっ。」
(わかってる、パートナーを置いて逃げるわけにはいかないもんな。)
たとえどんな攻撃が来ようとも負けるはずがない。なにせ私が選んだパートナーなのだから。
「アタック。」
「くっ・・・やっぱり強い!」
現に今、ゼットンはⅡを圧倒し続けている。むしろⅡの方がゼットンに喰らいついていっているという方が正しいか。キングジョーの『とっておき』のために精一杯時間を稼げているのだから、この場合Ⅱの方こそ優勢というべきか。
「ヨシ!エネルギー充填完了!Ⅱ!」
「はいっ!」
「・・・。」
キングジョーの声を合図に、Ⅱがタックルでゼットンの脚を止める。そこへ目がけて奇怪な音を立てるランチャーの照準があわせられる。
「シアー解放、『ハイパーペダニウムバスター』!いっけぇええええ!!」
射撃、砲撃というにはあまりにも重すぎるエネルギーの津波。それがたったひとりの怪獣娘に目がけて放たれる。
『すごい光!?』
『いくらなんでもこれはやりすぎじゃないですか?!』
「サングラス持ってきておいてよかった。」
観客席にいたアギラたちもその光景に目と視界を奪われる。眩しすぎて何も見えない。辛うじてなにかがぶつかったかのような音は聞こえたが。
「クゥう・・・反動がスゴいデスね・・・。ちゃんと狙えなかったデス。」
徐々に視力が戻ってきたころ、ゼットンがシャッターを張って防御していたのが見えた。が、それ以上に目を引いたのは、その周囲の有様だった。
『な、なんとぉ!キングジョー選手の放った一撃で、アリーナの壁や地面が大きく破壊されてしまったぁ!』
『抉られたというよりも、融解してしまったというべきでしょうね。』
ゼットンがいた場所以外の岩や土は高熱で真っ赤なマグマになり、グツグツとシチューのように沸騰し、キングジョーの威力を物語っている。
「ヤハリ、銃身を切り詰めすぎマシたか・・・こうなったら、Ⅱ!手伝ってくだサイ!」
「はい!」
呼ばれたⅡも、追加のコードを腰のジョイントに挿し込む。
「エネルギーの逆流があるかもしれまセン、オーバーロードに注意してくだサイ。」
「わかりました、タイミングは私に、トリガーはそちらに。」
「OK!」
粛々と、第二波の用意が進められていく。その間ゼットンはなにをしているのかっというと、何をするわけでもなく、ただじっとその様子を窺っていた。
「チャージ・・・完了。」
「あいつも
そうではない。ゼットンもまた大技の準備に入っていたのだ。ゼットンが個人で持つ中では、最大級の大技。
「撃ちあいデスか・・・もらいまシタね!」
対するキングジョーの方は2人。2人なら威力は二乗の4倍になる!
「シアーの解放、いつでも撃てます!」
「パワー120%で行きマスよ!」
充填されたエネルギーが解放の時を待ち望んでいる。その源であるⅡの心に、もはや迷いは一切ない。あるのは勝利への渇望のみ。それを盤石なものにせんと、キングジョーはしっかりと照準を支える。
「「『ペダニウムハリケーン』!当たれぇえええええええ!!」」
放たれた光は尾を引いて、大気を焦がしながらゼットンへと肉薄する。
「『トリリオン・バースト』・・・!」
小さく呪文を唱えるように名前を呼んで、小さく圧縮された太陽を放つ。
互いの
「クッ・・・まだマダ・・・!Ⅱ!気張れマスか?!」
「はい!回路直結させます!」
ランチャーへとエネルギーが矢継ぎ早に注ぎ込まれ、光線は威力を増していく。砲身が焼け付きそうになって悲鳴を上げているが、どうせ試作品だから思い切って使いつぶす。後で一緒に作ってくれた友達が泣きを見そうだが。
『キングジョー選手とⅡ選手、なお勢いが止まらない!対するゼットン選手は不動で貫録を見せつけている!』
『火球は一度放ってしまうと、後から継ぎ足しが出来ないですからねぇ。』
まあゼットンほどの技量なら、火球で火球を後ろから押すことぐらい余裕だろうけど。それをしないのは、さらなる策を巡らせているからということ。
『あれは、『吸収』を考えているのか?』
『力で押し切るよりも、カウンターを選んだようね。』
『なんでそこでオレを見る?』
『さあ、誰かさんと違って彼女は頭も廻るようだってね。』
『オレだってそれぐらい考えつくわい!実際今もそう思ってただろ!』
もはやお馴染みと化した漫才はさておき。レッドキングたちの推測も当たっていた。ゼットンが持つ最大の能力の一つ、『光線吸収能力』。ありとあらゆるエネルギーを吸収し、反射することができる。まさに攻防一体の最強の『矛と盾』である。
『でもあれを吸いきれるかどうかは別ね。』
『シャッターでも防ぎきれないだろうしな。』
一兆度の火球は寿命が尽きる寸前の恒星のように膨張を始めていた。燃え尽きるのも時間の問題だろう。
「火球を破ったら、パワー全開で行きマスよ!」
「はいっ!」
その兆候にキングジョーは勝利を確信した。こちらにはまだ余裕がある。とすると、ここは押し切るよりもタイミングを待つのが得策だ。
「焦らズ、慎重ニ、獲物に悟られぬよう慎重に糸を手繰るヨーに・・・。」
ブレる照準をしっかりと正し、冷却機能やチャンバーの様子を確認する。戦い方は大雑把でも、こういう精密な作業はキングジョーも得意だ。怪獣娘として生まれ持ったコンピューターを動員し、着実に処理をこなしていく。おかげで非常に安定したまま、最終局面まで保っていけている。
『おおっとぉ!ゼットン選手の一兆度の火球が崩壊を始めている!これは勝負あったかぁ?!』
『まるで超新星爆発のようですねぇ、学術的価値も高いかもしれません。』
ざわざわと観客席も賑やかになってきていた。無敵を誇っていたゼットンと、その必殺技が破られようとしている。これは本家大怪獣ファイトでもなかなかお目に掛かれない珍事だ。
『おおおおお!?これ行っちゃうんじゃない?!』
『いやまさか、アイツがこんな簡単に終わるはずがないぜ。』
「その通り。」
火球が限界を迎え、針を刺された風船のように脆くも崩れ始めた。
「今デス!」
「リミッター解放!」
この機に乗ぜよとキングジョーは発破をかけ、Ⅱもそれに応える。裏抜く光は霧散する火の粉を吹き飛ばして、標的を射止めんとする。
「貰いマシた!」
「そうかな?」
「エッ?!」
「何っ!?」
キングジョーたちが勝利を確信したその時、視界の外、それも直上からの衝撃に驚きの声を挙げる。
「では、2個目はどうかな?」
再びの落下物。ここにきてやっとその正体を掴めた。
「コノ青い光ハ・・・まさか?!」
「これだよこれ!これこそが
数刻前のⅡとの戦いの時、弾かれていた青色熱光線は全て上方向へと反らされており、それらが今になって雨となって落ちてきていたのであった!
「これぞ宇宙的悪魔の流星雨、『ベム・ザッパー』だ。」
勿論超合金の装甲に身を包んだ宇宙ロボット2人にはこの程度の威力は屁のつっぱりにもならない。ただほんの少し銃口の向きがブレただけだった。
「で、これでいい?」
「十分。」
沸点を外して波が和らいだペダニウムの光は黒い女神に容易く受け止められる。しかしこのチャンスもビームも掴めたのは、このサポートあってこそだと表情には出さないが心から感謝した。
「・・・っ!第三射、行きます!」
「Ⅱ!無理をシテは!」
「『ゼットンファイナルビーム』・・・!」
かつて光の巨人をも打倒した波状光線を前にして、なおもⅡの闘志は揺るがない。むしろ姉の方が気圧されるほどであった。
『ぶつかるぞ!』
「ぶつけるぞ!」
その瞬間、本日最大級の衝撃波がアリーナを襲った。バリアーは最大出力で稼働し、整備班が泣きを見る羽目になったのは言うまでもないが、誰もがその試合を目に焼きつけ、大いに満足できた。
「やりきりマシたね・・・Ⅱ・・・。」
「はい・・・お姉さま・・・。」
「最後アンナにⅡが攻めていくなんて、意外デシた。変わりマシたね。お姉ちゃんは嬉しいデスよ!」
「あぅっ・・・そんなに抱き着かれたらハズカシいです・・・。」
「一緒におフロに入ってキレイキレイにしてあげマスね!」
向こうでゼットンとベムラーがハイタッチしているのが見える。
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「ルイルイ、とれたデータはどうなってます?」
「べりべりぐーだよぉ・・・キングジョーちゃんちょっとやりすぎだけど。」
「後でランチャーの調整もしてあげないとだし、ホント忙しいっすね・・・。」
いつも陽気なルイも今回ばかりは相当堪えたらしい。ルイだけではなく、大地もマモルも、手伝いに来たシンジも含めて、研究所にいる全員がグロッキーであるが。
「やっと・・・終わった・・・。」
「こっちもオッケーっす・・・。」
「ん、ゴクローさんみんな。さあお茶にしよう。」
「博士、さっきまでずっと寝てただけじゃないですか!」
「休憩をとるのも仕事の内だよ。全く日本人は働きづめでよくない。」
唯一例外な、やや肥満体な博士はヤレヤレとのん気にお菓子を口に放り込みながらコーヒーで喉の奥へ流し込んでいく。しかし明らかに摂取量過多に見えるのに、一向に太る様子もないということはそれだけ脳による代謝がいいということだろうか。
「ま、ちょっと休憩にしようか。シンジ君もどう?」
「んー・・・そうですね、せっかくですしちょっと頂いて行こうかな。」
「コーヒーなら、これ買ってきたよー。なんか上で流行ってるって!」
「またしゅわしゅわコーヒーか。」
いい加減飲み飽きていたところだけど、出されたからには飲むしかない。
「ところで、さっきの試合シンジ君はどっち応援してたの?」
「僕?僕はベムラーさんのことを。」
「あれ、シンちゃんキングジョーちゃんじゃなかったんだ。ランチャーのテスト手伝ってたんでしょ?」
「それはまあそうだけど、ベムラーさんにはいつもお世話なってたから。」
「ふーん・・・。」
「シンちゃんって、ベムラーさんラブなんだ!」
その発言に、博士を除いた全員がコーヒーを吹いた。
「げっふえっふ・・・一応確認しておくけど、そのラブは、『Love』の『ラブ』なの?」
「それを言うなら、『Like』の『好き』じゃないっすか?」」
「モチロン、L!O!V!E!だよだよ?」
憂鬱など吹き飛ばす若さを讃えるように体全体でLOVEのジェスチャーで示してくるが、シンジは返答に困った。
「いや、そりゃ好きは好きだけど・・・。」
「やっぱりシンちゃんって、ああいう人がタイプだったんだね!」
「まあ、大人の方が好き、かな?いやそうじゃなくて・・・好きか嫌いかじゃなきゃダメなの?」
「YesかNoか、0か1しかない科学と違って、色々答えがあるのが人間の心というものだよ。」
「あーさすが博士いいこと言う。じゃ、そゆことで。」
「あー逃げた。」
「そりゃ逃げるよ。」
こりゃたまらんとシンジは足早に研究室を後にする。
「とにかく、今回は滞りなく終えられそうだね。」
「そうっすね。さすがにこれ以上の衝撃なんて起こらないでしょうし。」
「でもさでもさ、ゼットンちゃん勝ち上っちゃったってことは、まだまだ戦うってことじゃない?」
「いやでもまさか・・・。」
そんな希望的観測を駄弁っていた、その時であった。
「?!何、この反応は!?」
世界の終わりが口を開いた。
「強烈な・・・今まで見た事も無いようなマイナスエネルギーが発生してるっす!」
「その源は・・・太平洋!」
外の景色を映していたカメラを見るとにわかに暗くなってきていた。夜よりも深く、黒い雲が空を覆い始めていた。
「ううむ・・・これはひょっとすると・・・。」
「博士、何か知ってるんすか?」
「一大事かもしれん。」
「どうやら、我々の出番のようだ。」
「・・・。」
いつからそこにいたのか、研究室の入口に二つの影が立っていた。
「き、君たちは?!」
「『ジェーン・ドゥズ』?」
フードを目深に被ったキリエロイドと、赤いマントに身を包んだノーバである。
「・・・君たちが行ってくれるか?」
「ええ、さすがにこんな事態は想定外でしたが。」
「・・・『戦いごっこ』よりは楽しめそう。」
驚くラボメンバーをよそに、入ってきた2人は博士と会話を広げる。全てを承知したように。
「博士、この人たちと面識が?」
「まあ昔な。それより、勝算はあるのか?」
「ゼットンも連れていく。」
「なら安心だな。」
「えー!ゼットンちゃんまだ試合ある・・・ってか、ジェーンちゃんたちもこの次の試合じゃないの?」
「棄権する。元々乗り気ではなかったし、『目的』は十分に果たせた。」
「目的、とは?」
「秘密。」
詳細な位置情報を得ると、2人は振り返りもせず部屋を後にしようとする。
「・・・君たちが動いている、ということは。」
「それ以上言ってはいけない、博士。」
「知らない方が幸せなことが、この世にはたくさんあるから。」
言い聞かせるようにキリエロイド呟く。それをラボチームはただ見送った。
「知らない方が幸せ・・・か。俺たちは知るための努力をしているのだけれど。」
そう思っていた。だが大地には、その時即座に言い返すことが出来なかった。