「ちょっと体調が悪くて、筆が乗りませんでした。」
「違うでしょ?本当の理由はもっと別にあるんじゃないかなぁ?」
「ダークソウルにハマっていました。」
「寝る間も惜しんでやることではないわよね?」
「その通りです。」
「なんで怒られてんだアイツ?」
「森で狩人を狩りまくってソウルを荒稼ぎしてたからじゃないかな?」
ゲームにしろなんにしろ、現実の生活に支障をきたすほど没頭するのはやめようね!
それはともかく怪獣娘黒公開おめでとう!舞台挨拶にも行きますよ~。
「え、ゼットンさん棄権?」
「ええ、さっきジェーン・ドゥズの2人も棄権したらしいですけど。」
「ゼットンさんに一体何が・・・。まさかアギの身に何か?!」
「ボクが、なに?」
「なんだ無事じゃん。」
「なにが?なんの?」
どうやらしゅわしゅわコーヒーは全部捌けたらしいアギラとウインダムと合流し、インターバルの時間を潰す。
対戦カード的には、次はガッツさんたちのジェミニィと件のジェーン・ドゥズのはずだったが、そのジェーン・ドゥズが棄権してしまっては自動的にジェミニィの不戦勝だ。
で、さらにその次はAブロック準決勝のシンジとミクラスのミラクルナンバーズとベムラーとゼットンのブルースフィアのはずなのだが・・・。
「ベムラーさんも棄権するのかな?」
「そうじゃなくても、さっき戦ったばっかりだもんねぇ。まだ回復してないと思うけど。」
「ってことは、アタシたちも不戦勝かな?じゃあ次は決勝じゃん!」
「決勝なぁ・・・。」
「そうだよ!いよいよレッドキング先輩と戦えるんだー!」
まだ不戦勝と決まったわけでもないのに随分気が早い。それだけ興奮しているということだろう。
「シンジさん、どうかしたの?」
「ん、いやー大したことじゃないんだけど。」
「不安?」
「不安、っていうか・・・なんだろ。」
「釈然としない?」
「そう、多分それ。」
「どうしてー?ここまで来れたのはシンジさんのおかげじゃん!」
その言葉に余計に唸る。
「・・・なんと言うか、場違いじゃない?」
「場違い?」
「だって、ルーキーファイターと『人間』だよ?」
「いつから自分が人間だと錯覚していた?」
「残念ながら学芸会では草の役どころか裏方の小道具作りだったぐらいあがり症なんだよ!」
「うわぁなんか似合ってる。」
一人黙々と花の飾りつけと照明器具作りをやってた。花はともかく照明は結局使われなかった。
「恥ずかしいとかいう話なら、もう今更じゃないですか?」
「確かに。」
「そうじゃないんだよ・・・なんというか今すぐ帰りたい。帰ってテレビを見ていたい。空もなんか曇ってきたし。」
「えー!やだー!絶対決勝行くのー!」
「・・・もしかして、アタシと組んで出るのホントはイヤだった?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。」
「そういうの、シンジさんの悪いとこ。」
「え?」
「煮え切らなくて奥歯に挟まったような言い方。人を傷つけないために気を使ってるのかもしれないけど、かえって傷つくよそういうの。なんか前にも言ったような気がするけど。」
「ぐぬぬ、そういうアギは歯に衣着せないよね。」
相変わらずこの寝ぼけ眼にはまるっとお見通しらしい。
「なんていうかもう、僕は目的達成しちゃった感があるんだよ・・・。」
「最初はゴモたんと戦うつもりだったのかな?」
「うん、ガッツさんたちとも戦えたらなーとか思ってたけど、決勝ではどうかな。」
「いやー、レッドキング先輩が勝つと思うけどなー?」
「それで燃えつきちゃったと。」
「うん、もうクタクタ。」
「そんなー、せっかくここまで来たのにー!大会だって盛り上がってきたとこじゃん!」
「正直一番の盛り上がりを見せたところだと思う。」
「準々決勝まで来てチーム一つが抜けて、さらにゼットンさんまで抜けて、こっからどう盛り上がれと?」
「それにどうあったってどうせ最後は主人公のチームが勝つんだから!」
「何の話?」
「まあそれを含めて今精査してるんじゃないですか?」
「帰りたいなぁ・・・。」
「もー!あとちょっとだからがんばってよ!」
「おうちかえる!」
結局、ゴネるシンジをさらにゴモラやベムラーまで動員して宥めるのに30分ほどかかったという。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「決勝はサバイバルマッチ?」
「そうでーす☆」
「バトルロイヤル形式か、考えたな。」
「えへへ~照れちゃいますよぉ♪」
「別にあなたが考えたわけじゃないでしょう?」
(盛り上がりに欠けるからヤケクソになっただけじゃないの?)
不戦勝で勝ち上がったガッツたちを含めて、合計4チームの試合を同時に行おうというのだ。これなら一気に華やかさも出るし、一人だけになってしまったベムラーにもワンチャンあるということだ。
「でもさー、合計7人って中途半端じゃない?」
「七人の侍とか、鋼鉄の七人とか7人はいい数字だと思うけど?」
「けど、奇数だと誰か1人があぶれる形にもなるわね。」
「エレキングさん、そこはせめて1対2になるって言ってあげて。」
「相手が何人だろうと全部倒しゃあいいのよ!」
「さすがっす先輩!力こそパワー!」
決勝進出者が一部屋に集まってピグモンからその説明を受けていた。今日はあまり顔をあわせなかった人もいるが、思えば残って然るべきというメンツが揃っていた。なぜかその場にミカもいるという点に目を瞑れば。
「はいはーい!提案ていあーん!そこに敗者復活枠も入れない?」
「それせめて準々決勝敗退者に割くべきじゃない?」
「えー、だってみんな『私はいいや』って言ってたよ?言質もとったし。」
「手回すの早っ!さすがゴモたん!」
「はーい許可しまーす☆」
「ピグモンさんも話はっや!」
「誰か異論ないの??」
「誰が相手だろうと負けるつもりはないわ。」
(それ考え方レッドと同じなんじゃない?)
(マコさんも割と脳筋。)
なんやかんやで、決勝戦は8人になった。
「よかったねシンジさん、これでやる気も出たでしょ?戦いたいって思ってた相手と纏めて相手できるし!」
「こんなの纏めて相手にできるわけないでしょ!スイーツバイキングじゃないんだから。」
「えー、スイーツならいくらでもいけちゃうじゃん!シンジさん甘いの好きでしょ?」
「好きは好きだけど、胃に穴が開くわ。ダイエット中だし。」
「アンタ結構女々しいね。」
「女々しいってことはないでしょ?こないだの休みだってお店でレッドキングさんに・・・。」
「シンジィ!」
「はい?たわばっ!」
パコーンッとテニスボールが弾けるような軽快な音と共に、シンジの頭は壁に埋まった。
「これ場外乱闘じゃないの?」
「ジャッジー。」
「あぁ!?すまんシンジ!やっちまった!」
「やれやれ・・・。」
この場面で一体誰が悪かったのかはさておき。
「それで、みなさんにはそれぞれ入場パフォーマンスをしてもらいまーす!」
「入場パフォーマンス?」
「プロレスのアレでしょ?」
「本当は決勝戦に進んだ2チームだけが用意するはずだったんですが、今回は全員にやってもらいまーす!」
「次の試合何分後だったっけ?」
「30分後でーす♪」
「無理じゃない?」
「それじゃ、がんばってくださーい♪」
「いそげみんなぁ!」
急に慌ただしくなってきた。上の急な方針転換に振り回されるのは現場の方だと実感させられた。
「これもうみんな一斉に手を繋いで入場した方が平和じゃないか?」
「そんな幼稚園のお遊戯会じゃないんですから。」
「アンタと手なんて絶対繋いでやんないんだからね!」
「地味にショックになるからやめて!」
シンジは、キャンプファイヤーのフォークダンスで、手を繋いだ女子に嫌そうな顔をされたのを思い出した。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
『さてご来場の皆さんに一つお知らせがあります。Bブロック2回戦第2試合に出場予定だったジェーン・ドゥズが棄権し、また先ほどの試合で激闘を繰り広げたゼットン選手も棄権しました。それによって、この後予定されていましたプログラムが変更となります。』
会場からはブーイングがあがる。
『ということで急遽予定を変更し、これより第一回大怪獣ファイト・タッグマッチトーナメント、決勝バトルロワイヤルを行います!!』
その落胆の声を押し返すように、強く大きなアナウンスが流れる。
グランドフィナーレを彩るアゲアゲなテンションのミュージックが弾かれる。まだ日暮れには早いというのに夜のような暗さの空の下、スポットライトを浴びて一番手の入場局を任されたのはザンドリアスとノイズラーのバンド。
「いきなりこんな大舞台任されちゃっていいんですかー?!」
「いいともー!!」
『まずはこの方々!予選9位通過!大怪獣ファイト元祖チャンピオンと、GIRLS調査部の麗しきお姉さま!レッドキング&エレキングの『R/L』!!』
「どっらぁあああああ!!」
『レッドキング』の文字がデカデカと描かれた壁を突き破って、本人が登場する。
「・・・もっといいものが無かったかしら?」
エレキングがその後ろを優々と歩きながら指を鳴らすと、パッとネオンが灯って2人の入場を彩る。2人の性格やスタイルの違いが見て取れる。
『続いて、予選7位通過!白と黒、表と裏のダブルフェイス!常勝無敵の双子星!ガッツ星人姉妹の『ジェミニィ』!』
パパパッと会場の照明が落ち、代わりにスポットライトが6カ所を照らす。
「むんっ!」
「はっ!」
それぞれに白と黒のガッツ星人3人ずつがファッションモデルのようにポージングを決め、それらがまたパッと煙のように消えると、派手な花火の爆発と共にアリーナに姿を見せる。
「なかなか決まったんじゃない?」
「こういう時能力があると便利ね。」
自分の能力をアピールしつつ、芸術的な演出も兼ね揃えた、まさに完璧なパフォーマンスである。
『次は期待の予選3位通過!今大会最大のワイルドカード!勝利の女神は微笑むのか・嵐渦巻くリングに、奇跡の勇者が生まれた!シンジとミクラスの『ミラクルナンバーズ』!』
他の選手よりも一言長い口上が綴られ、入場ゲートにライトが向けられる。
「ハイヨー!シルバー!」
「いっけぇー!!」
そこから現れたのは、なんと馬。ライトの反射も眩しい白馬である。その
「そーれ!サービスサービス!」
「ひゅーひゅー!なかなかキマってるじゃん!」
そのままアリーナを一周し、景気づけに空砲を放つとヒラリと馬から降り、バサッとコスチュームを脱ぎ捨てる。お馬ちゃんはコスチュームを回収してゲートから帰っていく。おりこうさんめ。
『さて、次のチームの紹介の前に、もう一人!敗者復活枠!皆さんご存知、大怪獣ファイトの期待のルーキー!無限の可能性を秘めた人気者!その名は『古代怪獣ゴモラ』、『Gボーン』より逆転に賭けて!』
「体、ふわりと、夜空に~♪ってわわわわっっとぉ?!
「うわっしょぉおおおおおおおおおい!!!」
アリーナの中央で歌っていたザンドリアスの真下の地面が盛り上がり、そこからゴモラが叫びをあげながら登場する。哀れザンドリアスは夜空の星となった。曇ってるけど。
「あれ?マイク?あーあー!」
「歌ってただけなのにひどくないっすか?!」
『そしてトリを飾るのは、予選通過1位!まさかのハプニングにも、この人の闘志は揺るがない!果たして叶うか、単独優勝!『ブルースフィア』より『宇宙怪獣ベムラー』!』
観客席のさらに上、天井か鉄の獣の唸り声がこだまする。直射されればたちまち燃え上がりそうなほどの強烈な眼光が灯る。
「さぁ、振り切るぜ!」
振り絞られたアクセルが一層強い雄叫びをあげ、黒一色に染められた空に跳び上がる。切り裂くような青い肢体を輝かせながら。
「ハッ!」
乱暴にランディングし、土煙をあげながらアリーナをひとしきり駆けまわると、スラリと伸びた脚を見せつけるように降車する。それに見とれたのは一人だけではあるまい。
「シンちゃーん?」
「まだなんにもやってないでしょ!」
かくして、決勝戦進出者は出揃った。誰が勝つかは一転地六の賽の目次第、一回きりのこの瞬間への緊張感が高まる。
『それでは!大怪獣ファイトタッグマッチトーナメント決勝戦、レディイイイ・・・』
「うっしゃぁ!勝つのはオレたちだぜ!」
「ここに来て空回りしなければいいのだけれどね。」
「さて、さてさて、ここまで来ちゃったからには?」
「優勝あるのみ!」
「シンジさん、算段ある?」
「勿論、勝てない勝負はしないよ。」
「んっふっふ~♪楽しくなってきたぁ!」
「・・・待っていろよ。」
考えていることはそれぞれ違えど、向かうべき目標は皆ひとつ。心が一つになる瞬間。
『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
さぁ、賽は投げられた!
怪獣娘黒、公開初日に観に行ってきました。1期全話分くらいの尺があるなんて、まぁ贅沢!
それから、作品への評価ありがとうございます!感想にしろなんにしろ、反応がくるということは見てくれているということで、作者としてなによりも嬉しい限りでございます・・・。