怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 スマブラやってました。


怪獣大進撃!②

 ゴングが鳴る10分ほど前に針を戻そう。

 

 「エレ、お前の方はどうだ?」

 「問題ないわ。チブルが用意してくれたわ。」

 

 「だからそのポーズで腕はこう!」

 「どっちでもいいじゃない。」

 

 他のみんなはもう出し物が決まっているというのに、ウチの班(シンジたち)はまだ形にもなっていない。

 

 「シンちゃんミクちゃーん、進捗どう?」

 「全然(ぜーんぜん)、全く。」

 「おうちかえりたい。」

 「んもー、またホームシック発動させちゃってー。」

 「ゴモたんなんかいいアイデアなーいー?」

 「んー、そうだなー、例えばシンちゃんを放り投げて入場するとか?」

 「放り投げる意味は?」

 「着地地点でキャッチしてワーみたいな。」

 「おもしろそう!」

 「却下でお願いします。」

 

 入場パフォーマンスまでに命を賭けたくはない。

 

 「やぁ、どうした?」

 「あっ、ベムラーさんおかえり。」

 「どこ行ってたんです?」

 「修理中だったマシンを受け取ってきた。」

 「あれ、修理のために大会に参加してたんじゃ?」

 「ローンだ。これで来年度の事務所の予算はゼロだ。来年度があればの話だが。」

 「火の車かー。」

 

 ヒーローがローンなんてなんとも世知辛い。

 

 「まーたシンちゃんがホームシックなの!」

 「やれやれ。シンジ君、お客さんが外で待ってるよ。ミクラスも。」

 「お客さん?」

 

 誰だろう?と見に行く2人を見送って。

 

 「それで、あの子のホームシックについてひとつ、私にいい考えがあるんだが?」

 「いい考え?」

 「ああ、それにはここにいる全員の協力が必要になる。」

 「アタシも?」

 「なーに、悪い話じゃないさ。」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「おや、誰かと思ったら?」

 「アギちゃんウィンちゃん!」

 「それにナックルさんにチブルさんに、ゴルザさんにバリケーンさん?」

 

 つまり、いると思ってた人全員。

 

 「私たち、決勝に向けてお二人への最後の激励に来ましたのよ!」

 「私たちから勝利を奪ったからには、しっかり戦ってくれないと困るしな。」

 「せやでせや!こんなチャンス滅多に無いんやから、逃したらアカンで!」

 「お前たちならきっとやれる。大怪獣ファイターの勘だ。」

 

 「みんな・・・!ありがとね!」

 「てっきりまたシンジさん怖気づいてるんじゃないかと思ってたけど?」

 「いや・・・さすがにここまで言われちゃあ・・・やっぱりしっかり戦わないとダメだよね!」

 「お二人なら大丈夫ですよ!普段通りやれば!」

 

 水道管も凍るようなガッチガチの氷点下の中で、暖かい毛布とコーヒーを与えられたような感覚だった。優しさが脊髄まで染み渡る。

 

 「そういえば、パフォーマンスはもう決めたの?」

 「そうだ、その問題があったんだった!」

 「何かアイディアとかは無いんですか?」

 「無いんだよー・・・どうしよっかなぁ?」

 

 うーん、と消沈する2人に対して、ゴルザが一歩前へ出て提言する。

 

 「じゃあ逆に聞こう、何ならやりたい?」

 「逆に?」

 「自分がやりたいことをやらなければ、結局納得のいく結果にも至らない。『納得』は全てにおいて優先する。」

 

 「でもそう言われてもピンと来ないよ。」

 「あんたら2人に共通するとことか、なんかあらへんの?」

 「そういえば2人とも、マッスルマンがお好きですよね?」

 「マッスルマンの・・・何か!」

 「あ、アタシあれやりたいな。ウェスタンのやつ!ちょうど前にカウボーイハット貰ってたし!」

 「じゃあ、私のポンチョ貸してやるよ。あとガンベルトも。」

 

 お、いいぞ、話が進んできた。けど、恰好だけじゃ正直物足りない。

 

 「バリケーンさん。」

 「なんです?」

 「馬とか、持ってる?」

 「いやそれはさすがに・・・。」

 「いますわよ?」

 「いるの?!」

 「ちょうど今朝江ノ島まで遠乗りに来ていましたの!すぐに呼んできますわ!」

 

 お金持ちバンザイ。すぐさま10歳ほどの見事な白毛のサラブレッドがやってきた。これに跨れたら、さぞかし痛快であろう。まるでローン・レンジャーになった気分だ。

 

 「でもシンジさん、馬乗れるの?」

 「アメリカ留学中に一通り覚えたから大丈夫。それにしても大人しい子だね。」

 「この子は『流星号』ですわ!わたくしが子供の頃からの付き合いで、人にも慣れてますのよ。」

 

 と、なんやかんやあって準備は上手くいった。

 

 「シンジさん、もう大丈夫なの?」」

 「うん。勇気凛々、パワーを貰っちゃったからね。それに、こんなに応援してくれってるんだもん、もう逃げるわけにはいかないよ。」

 「おう!絶対勝つんだから!」

 

 勝った者は、負けた者の想いを背負って戦う。それを今こうして、頭ではなく心で理解できた。

 

 「・・・で、・・・というわけだ!」

 「なーるほど、そりゃいいかもな!そしたらよ・・・で、・・・だろ?」

 「そういうことなら、やってあげてもいいわ?ただし、・・・の・・・は・・・アタシがやるから?」

 「えー、それは私がやりたいなー!だってマコちゃん・・・でしょ?」

 

 さて、控室に戻ったら、何やら全員が集まってひそひそ話をしていた。断片的に聞こえてくる内容から察するに悪巧みのようだ。

 

 「あっ、シンちゃん帰ってきた。どう調子は?」

 「えっ?別に悪くはないけど・・・。」

 「よーし!じゃあハリきって行こうかー!」

 

 なにやら戦いの(ゴング)が鳴る前に、奇妙な同盟が結ばれたらしい。

 

 このおかげで初っ端から地獄を見る羽目になるが、その顛末は4行ほど下から話そう。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「先手必勝!」

 「うわっ!いきなり来た!!」

 「貰った!」

 「ちょっ、なんで全員こっち来るの?!」

 

 正確には全員ではない。ゴモラ、ミコ・マコ、ベムラー、エレキングの5人が同時にシンジに向かってきた。

 

 『おおっとシンジ選手、いきなり集中攻撃にあっているぞぉ!』

 

 「喰らいなさい!」

 「あでぇ!助けてミクさん!」

 「来いミクラス!お前の実力見せてみろぉ!」

 「はい先輩ィ!」

 「うわああああああ!!」

 

 パートナーはあっさりとレッドキングの挑発に乗って一人で行ってしまうし。せっかくやる気になっていたというのに、これじゃあ逃げ出したくもなる。

 

 「教えてください、僕がなにしたって言うんですか?!」

 「集中攻撃を受けて必死になれば、ホームシックのことなど忘れるだろう。ってベムラーさんが。」

 「これが大人のやることかよ!」

 「名案だと思ったんだが。」

 「たった今帰りたくなったわ!」

 

 シンジは涙を流しながら背中に目が付いているんじゃないかと思いたくなるほどの機敏さで猛攻を逃げ回る。こんな塩展開には観客もブーイング。

 

 『がんばってくださいシンジさーん!』

 『勝負はまだ一回の表でしてよー!』

 

 「一回の時点で既に濃霧でコールド試合寸前だわ!!」

 「ちょこまかと逃げ回ってんじゃないわよっ!」

 「うひー!!」

 

 身を翻して横に転がると、さっきまで眼前にあった岩が砕け散った。

 

 「そこぉ!」

 「このっ・・・!やられてばっかだと思うなよ!」

 

 着地の隙をついてミコがパンチを繰り出してくる。が、シンジこれを掴んで背負い投げで返す。

 

 「それー!」

 「なんのっ!」

 

 続いてゴモラが突進してくるので、ローリングソバットで打ち返す。

 

 「さすがだよシンジ君、獅子奮迅だね!」

 「正直、ベムラーさんとはあんまり戦いたくない。」

 「だろうな。誰が君に技を教えたと思っている?」

 

 お互いに距離を測りつつ、出方を窺うように構える。

 

 「もらった!」

 「おっと!させない!」

 

 今度はマコが殴りかかってきた。返す手で頭を掴むと、そのまま自分の額をぶつけて頭突き、さらに怯んだ隙にココナッツクラッシュを喰らわせて切り抜ける。

 

 「今ならどうかな?」

 「狙ってたとしか思えない!」

 「まあな!」

 

 そもそも、この状況自体がベムラーさんの仕組んだシナリオだとしか思えない。確実に一人を狙わせられる、有利な流れを築きたかったと考えれば筋が通る。さすが探偵口が上手い。

 

 「じゃあ予言しよう、ベムラーさんはまず・・・左腕で来る!」

 「正解だ!」

 

 左腕を折り曲げ、肘を突き出す形で向かってくる。ただの肘打ちか?と侮ってはいけない。相手は1000の技を持つと自負しているベムラーだ。

 

 「下?いや正面か!」

 「考えていたら当たるぞ!」

 

 肘ではなく、バネの力ではじき出した裏拳が狙いか。両手で顎を守ると、すぐさま手を下へ降ろす。そこで膝蹴りが待っているからだ。

 

 「ほう、やるな?」

 「お生憎様、手の内読めてるのはお互い様なんで!」

 「そうかい?では、これはどうかな?」

 

 不敵な笑みを浮かべるベムラーの表情に、思わずジリッと身構える。どんな些細な動きも見逃さないよう、じっと目を凝らす。

 

 「・・・ふっ。」

 「なっ、にっ?!」

 

 それが命取りだった。瞬きしたほんの一瞬のうちにベムラーは視界から消え失せ、冷や汗を流したその時にはわき腹にショックを受けていた。

 

 「ぐっ・・・こんな単純な手に・・・。」

 「だから上手くいくんだよ。」

 

 とっさに横転することで距離をとりつつ衝撃を受け流して悶える。やっぱりこの人は一筋縄ではいかないと溜め息の一つもつきたくなるが、代わりに出るのは血の匂いの混じった咳がひとつ。

 

 「そこで倒れていたら私なら見逃すけど?」

 「冗談!」

 「甘いッ。」

 

 両腕で地面を叩いて、体を反転させながら言い返す。が、ベムラーはその単調な蹴りを掴んで身体を一回転させて叩きつけ返す。見事なドラゴンスクリューだ。

 

 「まだいくぞぉ!」

 「うおっ!」

 

 その足を掴んだままグルグルとジャイアントスイングにつなげる。シンジは三半規管と脳みそをシェイクされて、判断力を喪う。

 

 「あっ、いっけね。」

 

 その時、シンジは無意識に手に掴んでいたものを握りしめていた。それは温かく、柔らかかった。

 

 「ん・・・これはいったい?」

 

 虚ろな意識が現実に帰ってくるまで、それが一体なんなのかを確かめるように探りをいれていた。

 

 「なんだか・・・すごく心が落ち着くような・・・。」

 

 そしてどこか懐かしくもある。世界のどこかに必ずあるが、誰もその場所を知らないという桃源郷。それが今まさにここにあると思えた。出来るならずっとここにいたい。

 

 だがそれは叶わない願いだと今自覚した。

 

 「はっ、まさか、これは?」

 「そのまさか、よ!」

 

 顔を上げれば調査部の先輩(エレキングさん)のコワイ顔。どこに自分の頭を埋めていたのかは言うまでもない。

 

 「この・・・俗物がッ!!」

 「ごぉお・・・・ッ!!」

 

 エレキングさん、無慈悲な膝蹴り。得意のムチや電撃でもなく、膝蹴り。それも急所への全身全霊の怒りの籠った、常人とは比べ物にならないパワーを持つ怪獣娘の。

 

 いやー考えたくもない。

 

 「この・・・痴れ者!俗物!阿呆陀羅(あほんだら)!」

 「んもー!こんな時にまで何考えてんのさこのスケベー!」

 「サイテー!女の敵!恥知らず!」

 

 エレキングの強烈なストンピングに、ゴモラとマコも続く。この3人は他のメンツに比べてシンジへの好感度が実は高かったりする。

 

 「僕がなにしたって言うんだ・・・。」

 「あなたは生きていることが罪なのよ。」

 「死んで詫びな!」

 「そこまでは言わないけど反省しろー!スケベー!」

 「不可抗力なのに!」

 

 這う這うの体で逃れようとするシンジに追い打ちがかけられる。もはや乱闘ではなくリンチの様相。

 

 「これも作戦のうちなわけなんですか?」

 「違う、とだけ言っておこう。」

 

 まさかここまでの包囲攻撃になるとはベムラーすらも予測していなかった。彼の普段の行いと、混戦による不確定要素、そして大舞台特有のバッドラックが化学反応を起こしたのだった。

 

 これだから勝負というのは面白い!

 

 

 「お前のパートナーメチャクチャやられてるけどいいのか?」

 「大丈夫ですよ!なんたってアタシのパートナーですから!」

 「パートナーを信頼するその意気やよし!」

 

 「お願いだから助けて!」

 

 


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