じゃあ、死のうか。(絶望
人生語れるほど長生きしてないけど、多分人生の中で一番お金をつぎ込んだと思う。お金の問題というわけではないけど、やっぱショックだわ・・・。
「そろそろ反撃といこうかねぇ?お遊びはここまでだ!」
ずわっ!と身に滾らせた気力を発散させながら拳を打ち鳴らし、岩のような表皮のどくろ怪獣が眼を光らせる。
「何人だろうがどんな作戦だろうが、やることは変わらねぇ!全部叩く!」
弦が弾けるように素早く突き出た膝が分身の一体を蹴り飛ばし、肘打ちからの流れるような背負い投げで後方のもう一体を投げ飛ばす。
「この『手』の届く距離だ!『ローリング・ラリアート』ォ!」
両腕を広げ、足を主軸にバレエのように回ると、側面から近づいてきていた残る2人を絡めとる。
「っしゃぁ!片付いたぜ!」
よーし、今度はオレが助けてやるぜ!と息巻いて相棒の方を見やる。
「『エレキングコレダー』!」
そうするともう済んでいた。
「私の相棒なら、あと30秒早く行動してほしいわね。」
「やっぱりお前戦闘向きだろ。」
やる気満々のキメ顔が、たちまち苦笑に変わる。まるっきり涼しい顔で、難しい問題を事もなく完璧にこなしてしまうのだから、つくづく質が悪い。模範的というか優等生というか。レッドキングとはまるで逆。
「まあいいや、これでやつらの作戦もご破算だな。」
「これで終わりだと思う?」
「いいや全然?相手が完全に『まいった』と言うまで油断はしないぜ。」
その言葉通り、ガッツたちは立ち上がる。ここまで仕掛けに行っていたのはガッツったちだったが、競り負けているのもガッツたちである。精神的なダメージによるアドバンテージは大きいはずだ。
「どう?まだ行ける?」
「誰に言ってんのそれ?」
「平気そうね。」
どうやらその算段はこの2人には当てはまらない模様。
「負けてらんないのよ・・・アイツともう一回戦うまでは!」
「おーおー、お熱だねぇ?彼が気に入ったの?」
「バカにしてんの?」
「ぜーんぜん。」
こんなに土つけられてぜんぜんスマートじゃないけど、そうまでして勝つための理由と動機がマコにはあった。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「ボクだって・・・怪獣娘なんだから!」
「うっ?!出来るっ!」
マコの攻撃に対して、アギラはツノによる突進で迎え撃つ。以前ならばほぼ太刀打ちの出来なかった相手であるが、アギラだって日々成長を遂げているのだ。
「つったって出来ることと言えばツノで突く攻撃ばっかりでしょーにっ!」
「うるさーい!!なんなら味わってみるー?!」
「いらない!」
『やることがワンパターン』というのが玉に瑕だが。
「じゃあ、側面からなら!」
「ぐぬぅ・・・そう来られると辛い・・・。」
強力とはいえガッツはどっかのパワー馬鹿ではない。柔軟に戦法を変えられるだけの器用さもある。どちらかと言うとパワータイプ寄りなアギラにはこういう手合いは苦手だ。
「ガッツー!」
「なに?」
「いや、マコの方じゃなくて・・・。」
「アタシの方でしょっ!『ビームバインド』!」
一瞬気をとられたマコにミコの拘束光線が当たり、自由を奪われる。
「くっ!し、しまった!」
「じゃ、あとよろしくー?」
「まかせて!『ダイノダッシュ』!」
カプセル怪獣が弱いと誰が決めた?必殺技が決まればキチンと強いのである。
「どぉっせぇええええい!」
「ぎゃんっ!」
「アギっ!」
そうは問屋が卸さないのが世の常。両手で地面を叩いて腕のバネを使ったシンジのニードロップがアギラのツノを打つ。
「やっぱりそう上手くいかないかぁ・・・。」
「ドンマイアギ!今度は2人纏めて喰らわせてやろうよ!」
「むしろこっちのダメージが大きいんですけど!いでで・・・。」
プロテクターをしていた膝が痺れる。ゆっくりと曲がった膝を戻しながら呻いているが、その顔はむしろ笑っていた。
「・・・なにがおかしいわけ?」
「え?そりゃおかしいでしょ、攻撃したほうがダメージ受けてるなんて。」
「そうじゃなくて、なんで笑ってられるわけ?」
しかめっ面でマコが問いかけてくる。
「んー?怒っててもしょうがないし?よく言うじゃん『泣いて暮らすも一生、笑って暮らすも一生』って。」
「よく言わないわよ。」
「ミカならよく言うんだけどなぁ。まあとにかく、怒ってエネルギー消費するよりも、笑ってストレスも発散したほうが賢いでしょ?ってこと。」
「・・・意味もなく笑ってなんていられなわよ。アンタの彼女みたいに。」
「別に彼女ってわけでも・・・幼馴染ですし。」
ちょっと言葉が濁ったが、今はそれはいい、重要じゃない。
「その、上手く言えないけど、誰かと一緒にされるのも、比べられるのも嫌でしょ?」
「はぁ?いきなり何言ってんのさ?」
「そういうことで悩んでるんじゃないかって、思ったから。」
「! アンタには関係ないでしょ!」
その言葉が神経を逆なでたのか、ムッとしたマコがそっぽを向く。
「待って!行かないで!お願いだから話ぐらいさせて!」
「アンタの声なんか聞いてたら耳が腐るわ!」
「ひでぇ!」
「なにやってんだろあの2人。」
「ちょっと、まかせてみようか。」
「アタシは『影』なの。
「マコさんの事、誰かと同列におもってたりはしないよ?そりゃミコさんとは双子かもしれないけど、双子だからってなんでもかんでも一緒にするのはなんか違うし。」
「違うのは双子って認識だよ。」
「おあいこでしょ?」
「ふざけてんの?」
「ふざけてはない。待って行かないで。」
無視して戦いに戻ろうとするマコの手を掴んで制止する。少し顔をしかめたようだったが、突然のことに動きが止まる。
「影だとか一部分だとか、それってミコさんにも言えることでしょ?本当はミコさんの方が
「それが何?離してほしいんだけど?」
「話したいよ、マコさんともっと。」
「月並みなセリフだけど、マコさんと会えてよかったって思ってるし、マコさんともっと仲良くなりたいって思ってるよ!」
「なんか論点がズレてるんですけど?」
「違う!そうじゃない!そうなんだけど言いたいのはそういうことじゃなくってだ!」
「めんどくさいのよアンタは!」
痺れを切らしたマコのパンチが飛ぶ。が、シンジそれを掴んで逆に組み伏せる。
「なにやってんのあの2人は?」
「ボクにもわかんない・・・。」
「アンタ、なにがしたいのよホントに・・・。」
「マコさんと、もっと一緒に居たい、です。」
「そうじゃなくてさ・・・はぁ、もういいわ。」
脱力したマコを見て、手の力を緩めたシンジの下腹部に鈍い衝撃が走る。
「ぐっはぁ?!」
「アンタから先に片付けてやるわよ!」
「どうして・・・こうなった・・・?!」
「ホントどうしてこうなんのよ。」
「うーん・・・でも、ひょっとしたら。」
この拳に
「このっ!おとなしくつぶれた風船のようになりなさいよ!」
「どんなパワーで殴るつもりだよ!」
「無論、死ぬまで!」
お断りだぁ!とするりと避け、さっきまでいた場所にあった岩が粉々に砕け散る。あきらかに人間に対して使っていい力じゃないのだ。
「まあ痛みは一瞬だろうし、人道的ではあるかも?」
「その行為そのものが人道から逸れると思うんだけど・・・。」
さて、ひょんなことから命の危機に見舞われたが、実戦ではそういうこともあるだろう。リハーサルの内に起こってくれるならそれはそれでいい。
「黒いガッツはダーティファイトだよね。」
「荒いよねー、一体誰の影響なんだか。」
アギラの観察眼の通り、マコは荒々しく強気に踏み込んでいる。守るよりも攻めることに重きを置く性格のようだ。だが攻める手を増やすということは、カウンターを受けえることも多くなるということである。
「なら得意分野じゃないか!」
「ふっ、アタシには
ガッツ星人の分身以外の能力、瞬間移動。ゼットンほどではないけど、攻撃をかわしたりするのには十分に使える。投げられても、地面に着く前に体勢を立て直せる器用さもある。
「ノーマルなテクニックしか持ってないアンタには、勝てっこない相手ってわけよ!」
「ならばアメイジングなアビリティをお見せしよう!」
右脚と左脚を代わる代わるのステップで回転。アイススケートのキャメルスピンのように距離を詰めながら攻勢にかかる。
「そんな見た目だけの攻撃!」
「見た目以上だよ!」
「なにっ?!銃をいつの間に!」
運命のトリガーをルーレットの回転に乗せて。水平方向に伸ばした手に握られたライザーショットが時計の針のように回りながら、じわりじわりと追い詰める。
「さらにっ、こんな手もある!」
「踵からも銃撃が?!」
「これで『蹴り撃つ』!」
カカトを3回鳴らせば家へ帰れるように、つま先を2回ノックすれば『ヒールショット』が起動する。手数を増やすための方法をいくつも考えた内のアイデアのひとつだ。
「アンブラの魔女かな?」
「言わないであげて。」
「これぞ格闘攻撃と、射撃攻撃の、融合!」
「ふたつでひとつてわけ?」
「いやさ、2人が2倍で、合計4倍ってこと!」
タイミングをずらしながら、相手に隙を見せない波状攻撃で矢玉を浴びせる。
「そして、すかさず!」
「踵落とし?!」
「『スタンピング・バレット』と呼んでもらいたい!」
踵落としのパワー、プラス銃撃のパワー!ガッツ星人のガードも貫く威力だ。
「ってぇ・・・。」
「よっとと、どうよ?」
「ぜんっ・・・ぜん響いてこないし!」
手をブラブラとさせて余裕ぶってみせているが、結構堪えているようだ。
「てか、武器使うとか姑息じゃない?」
「今更だね。生憎だけど、これが僕の唯一な戦い方だから。」
「卑怯な技で勝ちまくるのが?」
「違う、心技体揃った戦い方!」
「邪心、裏技、死に体?」
「断じて違う!」
「自分一人じゃなにも出来ないどころか、足手まといにしかならないって自覚がある。だからこそ、僕にしか出来ることをやる!これが『自分の色』だ!」
「自分の色?」
「だからマコさんも自分の色、見つければいいじゃん。白でも黒でもない、自分の好きな色を。」
そう、こういうことが言いたかった。なんか適当にいいことを言って丸め込もうとしたら戦いになってしまった。
「じゃあまず、マコさんの好きな色は?」
「・・・赤かな?」
「赤!いいね赤!」
「じゃあまず、赤く染まろうかしら?」
「アンタの血でなぁ!!!」
「ぬわーっ!」
「こうして、ガッツは自分を見つめなおしたのでした。」
「ちゃんちゃん♪」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
『おっとガッツ星人選手、まだ攻撃を仕掛けるようだー!』
「へっ、なにが来ても打ち返してやるぜ!」
今度こそはと猛るレッドキングに、横目で見ながら溜め息を吐くエレキング。総じて余裕そうだが、ガッツはまだまだ諦めてはいない。
「作戦、まだある?」
「・・・『アレ』で行く!」
「まだロクにテストもしてないのに?」
「今からテストすんの!いいから打ち合わせ通りやりなさい!」
「オッケー、マコがやれって言うなら、マコが本当にやりたいってことなんだよね!」
1人で8人分身。ずっとこればっかりやってるような気がして芸が無いけど、今は敵を遮る壁になれ。
「数を増やしてきたな、けどそれはもう通じねえぜ!」
「全く、よく見なさいよ。」
その後ろでマコが一人、目を閉じて意識を集中させている。
「おっと、そうはさせるかぁ!」
「させるっ!絶対に!!」
1人がやられたら、その後ろからさらに2人が、闘志を持って立ちふさがる。
(集中しろアタシ・・・心で感じるんだ、アタシの『色』を・・・。)
脳裏に浮かぶ風景。
それは春先の事、
アタシは別にいいと言った、
けどミコとアギに手を引かれたり、ゴモラに背中を押されたりして結局行った、
桜木立ち並ぶ川の土手。
みんなが待っていた薄桃色の空。
「アタシ色に染め上げろ!ガッツ!」
その手に掴むは、かけがえのない思い出。桜色の
「纏うは花、
自分は確かに、後から生まれた存在、空っぽかもしれない。
けど思い出なら、記憶なら、いくらでも作っていける。
だってアタシは、『一人じゃない』から!
「じゃっ・・・あとヨロシク!」
「ええ・・・まかせといて!」
タッチして入れ替わるミコと、新しいマコ。
『桜色の・・・ガッツ?!』
「アタシの名はガッツ、『
「すっごーい!ガッちゃんいつの間に変身できるように?!」
「生まれ変わったんだな、マコさん!」
混迷極める戦場に、春の息吹が舞い込む。
「ところでアンタ。」
「なんすか?いっちち・・・。」
「んもー、いくらなんでもやりすぎじゃないのマコ?」
「あとでピグモンさんに治してもらおっか?」
「ゴモラとはその、幼馴染なわけよね?」
「そうだけど?」
「それだけ?そのー・・・。」
「なになに?マコったらシンジにホの字なの?」
「はぁ?!何言ってんの!」
「ダメだよー?アギがしっかりマークしてんだから?」
「だから違うってーの!」
「アハハ・・・これから大変だねシンジさん。」
「あーうん、まあ何とかなるよ・・・ところで、やっぱ『ちゃん』付けだとなんかこそばゆいから、呼び捨てでいい?」
「う、うん・・・ボクもなんか恥ずかしいし・・・。」
「おっ?さっそく目の前でイチャついてくれるなんてこりゃ負けてらんないねー?」
「もー!ガッツー!」
「狙える・・・よね?」
ひとしきりボコボコにしたりされた後の閑話。
そうそう、作品評価、感想ありがとうございます。評価に至っては、とうとうゲージが溜まり始めているところで、もうそろそろ全方位ミサイルぐらいなら撃てるころだと思っています。
引き続き、感想評価お待ちしております!