怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 今回はシンジ視点。主人公があんまりなんでもかんでも出来すぎてしまうのも考え物である。


ヘヴンズキャッスル②

 『カップめんばかりじゃなく、3食しっかり食べろ。』

 

 『いい仕事と美容に悪いから、夜更かしはするな。』

 

 『髭は毎日剃って、寝癖も整えろ。』

 

 まるでお母さんのようなことをよく言われていた。実家の母に対しては手間のかからない子として振舞っていたつもりだったけど、一人暮らしをするようになってボロが出たらしい。指摘されるまで爪を噛む癖の事なんて考えたことなかった。

 

 「ほう、八相の構えか。」

 

 八相の構え、それは日本剣道の伝統的な構えのひとつである。得物を肩に担ぐ形で、重量による負担を軽減する。さらに左手を前に構えることで、籠手で首元の防御も出来る。まあ今持ってるのは刀じゃなくて傘なんだが。

 

 「朝雨が降った日の下校中の悪ガキみたいだな。」

 

 良い子は傘を振り回して遊んではいけません。刀と違って傘には刃が付いていないため、柄以外も持ち手として機能するという利点がある。

 

 「タイマンでの防御には十分すぎるということ!」

 「私の教えた技術でか!」

 「それだけじゃないさっ!」

 

 加えて護身術の一通りも教え込まされた今なら、どんなものでも武器に転用できる。例えば柄を相手の腕や脚に引っ掛けたりとか。見せびらかすようなものでもないけど。

 

 「ちっ、探偵にステッキ術で挑むなんて、いい度胸してるじゃないか。」

 「鍛えてますんで!」

 

 『紳士のたしなみバリツ・ジツですのねー!』

 

 「なるほど、借りているのは力だけではないようだな。」

 「借金はこさえてませんよ?」

 

 それがどうやらNGワードだったらしく、ベムラーさん眉間が狭まったのがちょっと見えた。後が怖い。

 

 「ほーぅ、なら打ってこいよ。それほどの自信があるというのなら。」

 

 うわーコワイ。どうやら一番怖いパターンを引いてしまったようだ。自信の鼻を真正面から圧し折りにくる、実力の差を嫌でも感じさせられるから。

 

 「ならばこちらも、一点集中の奥義でシメる!」

 

 腰を落とし、右手で構えた傘に左手を添え、真っ直ぐとベムラーの正中線を狙う。

 

 「チェストォオオオオオオオオ!!」

 

 半歩踏み出した右脚で加速をつけると、右手を思いっきり突き出してブレイク・エースを獲りに行く。

 

 「・・・見えたッ!!」

 

 すぅっと一呼吸ついたのが見えたかのその一瞬、捕えようと想定したものとは異なる手応えが右手に走る。

 

 「なんッ・・・?!」

 

 目線を得物に移し替えた時には、それがもう丈の半分ほどがアケビのように割れている最中であった。無論反応など出来る余地もないほどの一瞬の出来事に過ぎない。

 

 「うっそだろ・・・。」

 「聞きかじっただけの技術を実戦で試すものじゃないな。」

 

 あとには時間が経って真っ黒になったバナナの皮のような無残な姿になった傘と、ビスビスと火花の散る柄だけが残っていた。それもベムラーさんの蹴りの一発で宙に放り出されて爆発四散する。

 

 改めてベムラーさんの神業的技巧を、骨の髄まで教え込まれた。自分の持てる技術と心意気を込めた『一本』が、たった指二つ分の『一撃』で破壊されてしまったのだから。

 

 とまあ放心している暇もない、破られたならの次の策を用意するだけだ。

 

 「ならば、サチコでどうだ!」

 

 『サチコって呼ぶなー!』

 

 次なる札は牙の生え揃った口に赤い目、そして大きな翼を携えたコウモリのような姿の怪獣。

 

 「羽ばたけ!『ザンドクロス』!」

 

 ベムラーさんの攻撃をガードし、衝撃を後ろへ吹き飛ぶことで打ち消すと、その勢いで腰から黒い翼を開く。それと同時に先端が結晶で出来た槍があらわれる。

 

 「飛行能力か、シンプルに強いな。」

 

 相対者が決して自分に声をかけてきたわけではないということはわかる。あれはどうやって狩ろうか、という算段を付けている眼差しだった。敵の上方をとれるアドバンテージは十二分に知っているが、それだけで勝てる相手でもないとも理解している。空飛べるだけで勝てるならキングジョーさんが勝ってる。

 

 「ってことで、そろそろ助けて2人とも!」

 「えー、まだイケるんじゃないのシンちゃん?」

 「いいから手伝って!そんな甘い相手じゃないんだよ!」

 「いいよーそろそろアタシも、体動かしたかったし!」

 

 ここで息を整えさせた2人を投入する。タイミングとしてはここら潮時だろう。2人ともパワーファイターだが、じっくりベムラーさんの戦い方を学ぶことが出来た。敵を知れば百戦危うからずと兵法書にもある。

 

 「押し切るぞー!」

 「ガンバルゾー!」

 

 バッサバッサと大きな音を立てて、上空から威圧をかけながら隙を窺い、一撃加えたらすぐさま飛び立つイヤな戦法を用いる。魔界村に出てくるレッドアリーマーみたいな動きだから実際ツヨイ。

 

 「くそっ・・・ペイル・・・!」

 「させなぁい!」

 

 口を開いたベムラーさんの顎をミクさんが無理矢理閉じさせると、ミカは自慢の尻尾をボディに叩きつけ、そこへさらにシンジは槍で叩く。囲んで棒で叩く、マッポーめいた所業であるが、数で押す戦法は人類史が始まる遥か以前より用いられてきていたため、これも実際ツヨイ。

 

 「ツヨイにツヨイを加えて2ツヨイ!さらに下準備を重ねて2倍の4ツヨイ!さらに3倍の底力を加えれば、ベムラーさんを上回る12ツヨイだ!」

 「どんな計算だ、どんな単位だ。」

 

 そして再び、大技を決めるチャンス!さらに高く飛翔し、槍を宙空へと放り投げるとムーサンルトしながら脚でキャッチ。

 

 「『バッドスクリュージャベリン』!!」

 

 翼が螺旋状に絡まり、ドリルのように標的を穿ちに行く。

 

 「これは・・・ならば、『ブルーコメット』!」

 「おわぁっ!」

 

 直撃は免れないと悟ったベムラーは、青い彗星となって迎え撃ってくる。変身の余波に吹き飛ばされたミクラスとゴモラには、空中で火花を散らす円錐と球を見守るしか出来ないでいた。

 

 「おっ、でもイケるんじゃない?シンジさんが押してるよ!」

 「いけいけー!そんなボールなんか割っちゃえー!!」

 

 

 

 

 その声通じたか、青い球体には徐々に罅が入り始める。

 

 

 

 

 

 「うっおおおおお!!貫けぇええええええ!!!!」

 

 この機は逃さない、気合を込めなおすのに呼応してドリルの回転も上がる。漏れ出す高揚感を抑えもせずに、ただ一心にこの一撃に賭ける。

 

 

 

 

 

 「おぉー!!」

 「や、やった!」

 

 ついに、ついに必殺の一撃が彗星を砕いた!!

 

 

 

 

 「勝ったッ!トーナメント編、完!」

 

 

 

 

 

 『ほーお、では一体誰がブルーコメット(事務所)を引き継ぐのか?』

 

 

 

 

 

 意識の逸れた一瞬、その声が脳に直接響いてくるようだった。

 

 

 『ピタッとな。』

 

 「ピタ?」

 

 否、脳ではなく頭蓋骨に触れられている。

 

 「うわぁっ!シンちゃん上、上!」

 「上?」

 「乗られてる!」

 「ふあ?」

 

 空中で静止し、言われるがままに視線を上へと向ける。

 

 「黒い羽根に無骨な槍、ずる賢さもあるとは、まるで悪魔のような子だな君は。」

 

 いた、ベムラーさん。大したダメージを受けているように見えなければ、逆にエネルゴーに滾っているようにも見えた。

 

 

 「ならばこちらも、本物の悪魔(デビル)の力を見せることにやぶさかではない!」

 

 

 冷たい炎のようなオーラが怒髪天を衝く。その全貌を人々が目の当りにする暇もなく2人は墜落する。

 

 「まさかこれは?」

 「ひょっとしてひょっとするの?」

 

 「そのまさかさ、これからは『デビルベムラー』とでも呼んでもらおうか?」

 

 もうもうと立ち込める煙の中に立つ影には、悪魔めいた一対のツノが生え、全身の棘が青い光を放っていた。

 

 かつて、宇宙の平和を乱す悪魔と呼ばれた宇宙怪獣ベムラーの、その強化態である。

 

 

 

 「んもー!みんなみんなパワーアップしすぎだよー!せっかくEXは私の専売特許だったのにー!」

 「やっぱスターたるもの変身のひとつ持ってないとねー。」

 

 「呑気してないで助けて欲しいんですけど!」

 「とりあえずココナッツクラッシュ。」

 「ぐへー!」

 

 墜落してから足蹴にされていたシンジは、堅実かつ凶悪な技の一撃を貰った。とりあえずビールの感覚で脳を揺らさないでいただきたい。

 

 

 「すまないが、もう手加減はしてあげないぞ?サービス期間終了のお知らせだ。」

 「へ-んだ、一回目無料で釣ろうなんてそうはいかないよ!タダより高いものなんて無いんだから!」

 

 

 と言いつつもミカの反応はいたってクレバーだった。オーラが変わったことを人一倍感じ取っているのもまたミカだったから。かくいう自分自身も、喰らってみて一切手加減されていなかったと痛感した。すごい痛くて動けない。

 

 

 「来ないのなら・・・こちらから攻めるぞ!」

 「ぶへぇ!」

 

 

 シンジが腹に鈍重な衝撃を喰らってサッカーボールのように蹴り飛ばされるのをミカとミクラスは予定調和のようにキャッチしに行く。

 

 「うわっ!思ったより重いっ!」

 「どわっとととぉ!」

 

 2人の手に返ってきたのは想像を超える威力だった。この判断に、ミカは冷や汗を垂らした。

 

 

 「君ら全員、ちょっとばかし戦いを舐めちゃいない?」

 

 

 

 剛腕を振り下ろすと、大地を切り裂く衝撃が、態勢の崩れた3人へ向かっていく。

 

 

 「これって・・・?!」

 「レッドキング先輩の『アースクラッシャー』!?」

 

 その技の本質を理解したときには、打ちあげられて空の上だった。1人空中で一回転して、反撃に移ろうとするミカにベムラーさんの黒い尻尾が巻き付く。

 

 「あぎゃー!エレちゃんの『エレクトリックテール』?!」

 

 「まさか、デビルベムラーさんは全ての怪獣の技が使えるのか?!」

 「なんで?」

 「原初にして頂点だから、じゃないかな?」

 「なにそれかっこいいじゃん!」

 

 なんともアバウト設定だが、そうでもなければ説明がつきそうにない。アースクラッシャーはともかく、エレクトリックテールに使う電気はどこから生み出しているというのか?

 

 「ぐぬぬ・・・たとえ真似されようと、本物のパワーには勝てないハズ!『超振動波』!!」

 「おっしゃー!『エレクトロホーン』!!」

 「ライザーショット・・・あっ、弾ないや。」

 

 いつの間にか愛銃の残弾を使い切ってしまっていたために、一斉砲火に参加できなかった。一応もう一丁ぶら下げているわけだけど、こっちはまだ使い時(・・・)ではないと考えて温存している。まあ抱え落ちなんかしたら洒落にもならんのだが。

 

 ともあれミカとミクラスの攻撃は次々と命中していく。だがそれらすべてがツノに吸収されていく。

 

 

 「燃え尽きろ、『ハイパーペイル熱線』!!」

 

 お返しとばかりに青色熱線のリボンで巻かれてプレゼント。

 

 「つっよー!!ベムラーさんつっよい!!」

 「しかし、この熱線のパワー・・・まるで!」

 

 まるで黒き王(ゴジラ)となった従姉妹(アイラ)を思い出す。

 

 (ひょっとしたら、技に必要な器官もその場その場で『作っている』のか?ゴジラの進化のように・・・。)

 

 脳裏にひとつビジョンが浮かんだが、すぐにそれを棄てて現実に向き直る。もうデビルベムラーの姿は目の前にまで迫っている。

 

 「シンちゃん、なんか作戦ある?」

 「・・・ない!」

 「じゃあ、力尽くだぁ!」

 

 力尽くで上手くいくなら最初からそうしている。力や技でどうにかなる問題を明らかに超えてしまっている。

 

 「ええい、こうなったら破れかぶれだ!ミカ、奇襲かけて!」

 「おけーぃ!」

 

 一応攻撃のセオリーには則っておく。死角、弱点を突くである。

 

 「ミクさん!押さえて!」

 「まかしてー、そーいっ!!」

 

 「ほんで私が後ろからド-ン!」

 

 「ミエミエだ、『鉄山靠熱線(てつざんこうねっせん)』!!」 

 「ぷべー!」

 「う、後ろからも熱線を・・・?!」

 

 剣山のような背中の棘からも弾幕の如き熱線が噴出し、ミカを吹き飛ばした。いよいよもって手立てがなくなってきた。前も後ろもにっちもさっちも行かなくなった。

 

 「そろそろギブアップの時間だ。Are you ready?」

 「ノゥ!絶対にノゥ!」

 「なら・・・。」

 

 片手で掴んでいたシンジが投げ飛ばされ、ミクラスは片方のツノを掴まれる。その光景を見て、ミカは鳥肌が立った。

 

 「やばっ、ゴルザちゃんの技じゃん!」

 「なにっ、『角折り刑』か?!」

 「ぎえっ!?ヤダヤダー!折られたくなーい!」

 

 意図を理解した者たちが止めに入るが、無慈悲にも処刑人の斧が振り下ろされる。そこには目を覆わんばかりの惨状が・・・、

 

 「ちっ・・・完全には決まらなかったか・・・。」

 「いっだーい!!」

 

 広がってはいなかった。半泣きになったミクラスが転がり込んでくるのをシンジが受け止めると、すぐにそのわけが理解できた。

 

 「ギャッ!!シビれ、シビれるぅうう!!」

 「あっ、ゴメン・・・折られると思ったらつい放電しちゃってた。」

 「さっすがミクちゃん、持ってるじゃん!・・・半分ぐらい折れてるけど。」

 「ガーン!ホントだ!」

 

 見ればベムラーさんも恨めしそうに手をひらひらとさせている。熱々のストーブに手を置き続けるよりもキツいダメージを喰らっただろう。

 

 「・・・ミクさん、ちょっと休んでて。」

 「え、アタシまだイケるよ?」

 「ミクちゃんの本命はレッドちゃんでしょ?ベムラーさんは私たちでなんとかするから、ミクちゃんは温存しといて!」

 

 小さな蝋燭のような希望かもしれないが、暗闇の中でなら何よりも有り難い光明が見えた。

 

 「これは、『流れ』来てるかもよ?シンちゃん。」

 「そう?余計に火に油注いだだけかも。」

 「なら燃やし尽くすだけだよ。」

 「どっちが燃え尽きるのが先になるかな?」

 「おっ、シンちゃん燃えてるじゃん!」

 「焚きつけられちゃったからね。」

 

 この大会の中では、いつも逆転の一手を打ってくれて来たのはミクさんだ。今度は僕の方がしっかりしないとカッコがつかない。

 

 「あっ、そうだ。ミクさん、ツノ見せて。」

 「ほえ?どう?どんな感じなってる?」

 

 と、先立つ前にひとつだけやっておくことがある。リストバンドをほどいて、中から合成繊維のカートリッジを取り出すと、指でこねて折れたツノをさする。

 

 「はい、これでギプス完成。これで少しは安心でしょ?」

 「えっ、でもいいの?リストビュートが・・・。」

 「いいの、もう在庫少なかったから。あとはなんとかするから、それじゃあミクさん。」

 「うーん・・・あのさぁ。」

 「なに?」

 「それやめない?『ミクさん』っての。今はパートナーなんだし。」

 

 そう言われてみればそうだ。ついさん付けにして呼んでいたが、特に憚る(はばか)理由もない。あえて言えば癖だ。

 

 「オッケー、ミクラス!行ってくる!」

 「うん、がんばってシンちゃん!!」

 「シンちゃんゆーな。」

 

 でも僕をちゃん付けするのは許さない。ハズカシイから。

 

 「用意はいい?シンちゃん?」

 「ねちっこく言うなねちっこく。」

 「またまたー、ハズカしがってシンちゃんかわいいなぁ?」

 「集中!」

 「ハイハイ。」

 

 「ところでミカ。」

 「なに?」

 「ここまで勝ちフラグ立てておいていざ負けたら、」

 「負けたら?」

 「思いっきり泣くからその時は慰めてくれる?」

 「いいよ!いい子いい子してあげる!」

 「じゃあ安心した、行くぞぉおおおおい!」 

 「おーっ!怪獣特攻作戦だー!」

 

 




 話しの区切りをセリフで絞めるってどうなんだろ。いよいよ自分の文才とかを危ぶみだしてきたけど私は元気です。

 一応この作品としては次の題材でひと区切りがつくのですが、そろそろオリジナルの執筆もしたいところ。いつアイデアが陳腐化するかわからんからなるべく急ぎたい。

 そもオリジナルならここ以外であげた方がいいんだろうか?承認欲求というのは創作活動において重要なファクターとなるので、モチベーションが保たれる形が望ましい。

 感想、評価などもお待ちしています。

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