「シンちゃん、作戦ある?」
「ある!」
「さっきは無いって言ってたのに?」
「後を全部ミクラスに任せていいのなら、ある!」
もーシンちゃんったら、出し惜しみなんかしてたらこの先生きのこれないってのに。
まっ、そういう慎重な性格だって知ってたけどね。
「それ私はなにすればいいのかな?いや、やっぱ言わなくていいや。」
「ああ、そういうことだ!」
軽く視線を交わすと、すぐに真意がわかった。ちょっと難易度が高いけど、これぐらいのリクエストに応えられてこその人気者だよね!
「もうキミにはEXになる活力も残っていないだろう、これ以上どう戦う?」
「ふっふーん!こっちにだって『可能性』があーるっ!」
「その通り!」
ちょっと変わったのが、今度はシンちゃんも積極的に前に出てきてるってトコ。
「へーっ、間近で見るとそれなんかキラキラしててキレイだね?」
「うん、パワーの増減で月みたいに形も変えれるんだ。」
「それって私のこと意識しちゃってくれてるとか?んもーシンちゃんってばー!」
「別にそんなわけじゃ・・・。」
「このこのー!」
「イチャついてるんじゃあないぞ若者!!」
痺れを切らしたというかキレたベムラーさんが襲い掛かってきた!ワーコワイw
「ベムラーさんってシンちゃんのことスキなの?」
「ドワァー?!」
「隙だぁ!」
「あぶねぇ!ミカタにも当たる口撃はやめるんだミカ!」
「爆弾発言だけにね!」
「なにを言うかと思えば、私は別に年下趣味でもないぞ!」
「ウッソだー!シンちゃんを見る目がハートになってるくせにー!アギちゃんと同じく!」
『んもー!言わないでってばー!』
「ええい、なんという範囲攻撃だ!」
「無差別にもほどがあるぞミカ!」
「そういうキミこそ、そんなにライバルを増やしまくって何が楽しいんだ?」
「楽しいよーみんなを巻き込むのは!一緒になってシンちゃんをイジるのも!」
「ファッ?!」
「そんなキミのところではシンジ君もかわいそうだろう?私がもらってやろう!」
「ファッ?!」
「独り占めは禁止ー!」
この一連の発言に、一切の遠慮も嘘もない。闘志をむき出しにした戦いに、自分とベムラーさんのお互いの、その心の中身まで表面に出てきていると感じられる。
「ほらシンちゃんもなんか言ってあげて!」
「急に振るな!」
「これ以上何も言わせんぞ!死ねぇ!」
「死ぬか―!まだ何も言ってませんっての!」
ベムラーから繰り出される鋭利な手刀と、シンジの持つ三日月の刃が鎬を削るが、ベムラーの力によってえそれが押し切られ、返す刃で逆に切られる前にゴモラが割って入る形。ここにきて、2人の連携はさらに高まっている。
「人間、死ぬ気でやればなんとかなるもんだ!」
「その意気だよシンちゃん!私のパートナーの強さをみせてやってよ!」
「ああ!ミカこそ置いてかれるんじゃないぞ!」
「へっへーん!もうシンちゃんを追っかけるちっちゃなミカちゃんじゃないんだよ!」
「だからイチャつくな!」
ゴモラがシンジの肩の上に飛び乗ると、シンジはそれを両腕のカタパルトで打ち出す。
「ひっさーつ『メガトンテール!!」
「ぬんっ!!効かぬわっ!」
「シンちゃーん!私を受け止めてー!」
「おっしゃ!」
跳ね返ってきたゴモラと腕を組んで、その反動を利用して独楽の様に廻す。
「「名付けて『メガトンテール・ツヴァイ』!!」」
不意の反撃に判断が遅れ、ベムラーは咄嗟の防御を強いられる。
「ぐっ!なんという重さ!」
「これが友情パワーだ!」
「愛情じゃないの?」
「まだ違う!」
「だからイチャつくな!」
ベムラーも負けじと尻尾を振り回してくるが、これをシンジとゴモラは上半身を反らせて回避し、バネのような跳ね返りパンチを放つ。これも寸分違わぬタイミングでベムラーにヒット!面白いようにポコチャカ当たる。
「ええい鬱陶しい!そうやって私の注意力を散漫させるつもりかもしれないが、私は注意力を散漫させたりしないぞ!」
「既に語彙力が落ちているのを見るに、ちょっと効いてるっぽい。」
「これが漫才の力だ-!」
「夫婦漫才てやつ?」
「イヤン、夫婦だなんてシンちゃん気が早い・・・。」
「イ チ ャ つ く な !」
怒号と共に青色熱線がベムラーの口から飛び出す。すっと前に立ったシンジが、スティンガーを振るうと、炎が一瞬止まる。そこへまたすかさずゴモラが助太刀に入り、超振動を浴びせて熱線を打ち消す。攻撃によし、防御によし、回避によしと超振動波は超便利波。
「そして今回は、この便利さに賭ける!」
「どうやるのさ?」
「僕の超振動とミカの超振動、二つで一つ!」
「あいわかった!」
2人のコンビネーションに、余計な言葉すら必要ない。それは今までの動きで証明されている。あらかじめセットアップしていあわけじゃない、少なくとも『今日』は。
「ではなぜ、ここまで動きを合わせられる?!」
「「パートナーだからさ!」」
『パートナーに合わせる』のではなく、『パートナーの考えを先読み』するのが真のパートナーシップだ!
「やっぱ2人でいると心地いいんだ!しっくりくる!」
「私も!シンちゃんといるとすっごい楽しいよ!」
趣味はあんまり合わないし、性格も方向が違う、時に不協和音な2人。けどいつも一緒にいることが当たり前。理解とは、違いを受け入れること。
そんな2人がステップを踏んで、時に背中合わせで、時に横に並んで、剣戟がハーモニーを奏でる。
「これが・・・人間と怪獣娘のパートナーシップの力・・・!」
追い込まれているにもかかわらず、ベムラーは心なしか嬉しそうな声を漏らす。かつてのベムラーには、到底思い至らなかった光景であるから。
最後のステップが踏まれる。横方向に体を傾けて『英雄のポーズ』のようにスティンガーを突き出すと、その肩に手を着いて空中側転でゴモラがベムラーの背後に回り込む。
「この状況から挟み撃ちを!?」
「「これが
背中からのゴモラの突進でベムラーが前へ押され、差し出されたステェインガーに押し込まれる。シンジは前から、ゴモラは後ろから、
「「『超振動波デュオシュート』だぁあああああ!!!」」
ちょうどベムラーの心臓が中心となる点に、二つの超振動の波動が
「ぐぅおおおおおおおお???!!!」
超振動がベムラーの体内で暴れまわり、そこら中を破壊しつくす。さしもの強化態であろうと、内臓まではカバーしきれない。
「こうなれば・・・奥の手!!」
ベムラーの背中が発光し、再び熱線を吐く前兆が見える。しかしその対象は密着しっているため、このままでは当たらない。
「苦し紛れぇ!」
「いや、これはまさか!」
「その通り、私は苦し紛れなんてしない!」
その宣言通り、喉まで出かかった青色熱線をベムラーは『飲み込んだ』。
「『体内放射』ァ!」
シンジの腕と、ゴモラのツノに衝撃が襲い掛かってくる。
「『超振動波』を・・・跳ね返された?」
体内で青色熱線のエネルギーを心臓で爆発させ、超振動波もまとめて送り返してこの窮地を脱する。
「くっ・・・この手ごたえ、ゴルザちゃんの時と同じっぽい?」
「『リアクティブアーマー』か・・・。」
「リアクション芸?」
「違う、例えば爆風をわざと起こして、攻撃を逆に吹き飛ばして防御する装甲のことだよ。ゴルザさんも、ミカの超振動波をマグマエネルギーで打ち消していたんだ。」
「私のはその発展型さ、打ち消すだけでなく、利子まで乗せて返させてもらった。」
無論ダメージはゼロというわけにはいかない。波動と熱線を心臓の鼓動で増幅させたために、心臓に大きな負荷がかかっている。
「ベ、ベムラーさんがこんな捨て身の作戦に出るなんて思わなかった・・・。」
「私のキャラじゃなかったか?私も驚いているよ、ここまでハングリーになれるなんてな。」
「そんなに・・・シンちゃんが欲しいの?」
「うん、欲しい。」
「即答!」
「助手にな、あくまで助手。」
うぇっ!といううめき声が聞こえた。モテる男の悩みってやつ?イヤよイヤよと言いながら、内心まんざらでもないんでしょ?って言いたくもなるのを今は飲み込む。
「でも、ベムラーさんも相当キツいはずだよね?」
「そうとも言えない。こうして強化変身を解いてしまえば、その分を体力の回復に回せる!」
「な、なんだってー!それじゃあ・・・。」
「私の方があと一歩、長く歩けたようだな。」
ツノを消し、青い発光も止めながら、ベムラーは歩を進めてきた。要塞の防御は攻略できた。決して小さな犠牲ではなかったが、それを補ってあるほどの成果を得られたので重畳といったところだ。驚いたゴモラの顔を見るに、それで『詰み』だと確信できたので、いよいよもって制圧を開始する。
「まさか・・・こんな・・・。」
「なんだ?今更その程度のロックでは揺るがないぞ!」
至近距離まで近づいたところで、ゴモラが足を掴んでくる。最後のあがきか。軽く蹴散らすことも出来たが、ベムラーはそうしなかった。
「ここまで上手くいくなんて思いもしなかった!いやー、まさかシンちゃんがここまで考えてたなんてなー!おどろいたなー!」
「えっ、あっ、うん。全て計算どーり!」
否、そう
「何を・・・した・・・?!」
ベムラーは、自身の体の異変、突然身動きとれなくなったことに驚愕した。すぐさまその元凶と思われる方に目を向けると、案の定だった。
「本当は、ゼットンさんへの切り札として用意してたものだったんだけど、温存すら出来ないってわかったからには切らざるを得ないよね・・・。」
「だから出し惜しみはなしだって言ったじゃん!んもー、シンちゃんこれで抱え落ちしてたら一発芸じゃ済まさなかったからね!」
「それはもっと怖いな。『無重力弾』、作っておいてよかった。」
無重力弾、という大層な名前であるが、その実はそんな大したものではない。もう一発の弾とワンセットで初めて効果が出るという中途半端な代物である。
「もう一発、『ペンシルロケット』!行けー!」
「来なよー!」
そのもう半分がこの鉛筆のようなロケット弾。この二つは本来観測用、兼、電波受信用の小型衛星を改造したもので、空中で固定させる重力安定装置と、打ち上げるための推進ロケットがそれである。
ロケットはスピードと馬力こそあるものの、炸薬も何も積んでいないため、ぶつかってもちょっとよろめく程度。無重力弾は本来小さな衛星を固定させるもののため、ほんのわずかな間相手の動きを不自由にさせる程度の力しかない。
しかし、その組み合わせでもって、この試合のルールがあれば十分な脅威になりえた。
「バカな!こんなところで捨て身の道連れだと?」
「いいし、私元々敗者復活枠だったし!」
「キミはそうでも私はファイナリストだよ!」
「ゼットンちゃんいないから元々無効だったでしょベムラーさんも!」
「うがー!こんなところで負けたくなーい!」
ゴモラがベムラーを捕まえ、ペンシルロケットが場外へともろとも押し出す。あまりにもあんまりな、あっけない最後だ。
最後のベムラーのもがきも空しく、湿気た花火のように場外通告がなされる。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「終わった・・・すべてが・・・。」
「って、シンちゃんのチームまだ生きてるでしょ?私は今度こそすってんてんだけど。」
「それはそうなんだけど、なんかもう僕は満足しちゃったかな。全部出し切ったし。」
決勝戦はまだ続いているが、
「はいはい、勝って兜の緒を締めよってね。今のミクちゃんによろしく伝えておいてね。」
「うん、ありがとうミカ。」
「勝ったならあとでご飯奢ってよね?」
「はいはい、粉もんでしょ?」
「もっちろん!」
じゃねっ、とミカはサムズアップしながら舞台袖へと転進していく。これ以上の言葉はいらない、あとは背中同士で語るのみ。
「さて・・・とは言ったものの、本当にこれ以上なにも出来ないとは思うんだけど・・・。」
超振動波を押し返された時、モンスアームズも破壊されてしまった。それに銃の残弾ももうない、体もボロボロ、これ以上なにかをしようにも、無い袖は振れない。
「ギュッ、と。」
「あでぇっ!もっと優しく・・・。」
「キツくされるのが好きなくせに?」
「それは誤解だって!」
そんな袖口に包帯代わりのハチマキがまかれる。同時刻、エレキングさんを倒したマコさんだ。
「うん・・・ありがとう、もうちょっとがんばってくるよ。」
「そう・・・がんばって・・・。」
先ほどまでの考えを振り捨てて、ここまで来たならもうひと頑張りしよう。色んなものを背負ってしまったらしい。
「・・・他に。」
「他?」
「他になんか、ないの?」
「なにが?なにを?」
「・・・わかんでしょ?」
「うーん・・・。」
はて、困ったなと。酸素と栄養が脳まで回らないから、旨く言葉を紡げない。ここはありのまま思ったことを、
「ちらっとしか見れなかったけど、さっきのマコさん、すっごいカッコよかったよ!」
「カッコいい・・・?」
「うん、カッコよかった。」
「・・・ていっ。」
「いってー!ナンデ?!」
「胸に手当てて考えてみろっての!って、どこ見てんのよ!」
「アイエエエ!まだ何もしてないのに!」
「鼻の下伸ばしてたでしょ!」
グリグリと傷口を弄られ、さらなる悲鳴を上げるがこれも喝だと受け取った。最後の最後まで気合を抜かずにがんばろう!
「じゃっ、アタシはもう行くから。グッドラック!」
「ラージャ!」
さあ気持ち切り替え、立ちはだかる壁に向き直れ。これが最後の正念場になる。
「シンジさん!」
「ミクラス!調子はどう?」
「勇気凛々!いつでも行けるよ!」
「今のレッドキングさんのパワーは相当上がってるし、熱もすごい。これに対抗できるのは既にミクラスだけだったと思う。」
「うん、ようやくアタシの活躍するだね!」
「負けてもご飯奢ってあげるから、思いっきりやっちゃっていいから!」
「ご飯だけじゃイヤだな!デートもして!」
「オッケー!」
「それに、いくらレッドキング先輩が相手でも、負ける気なんてさらさら無いからね!
「オッケオッケー!」
「あとそれから、今回付き合ってくれてありがと!最高の決勝戦にしてみるよ!」
「オールライト!レッツゴーだ!」
「おぉー!!」
今、本当の最終決戦が始まる!
あと少し・・・あと一編で終わる・・・終わらせられるんだ・・・!こうも間延びする、というか時間がかかるなら、最終決戦のオープニングの部分だけ、一番最初に描写してもよかったかもしれない。真マジンガーの1話みたいに。