怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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語るは『拳』

 『さあみなさんお待ちかね!これが正真正銘最後の戦いです!勝つのはどっちか!』

 

 「待ちかねたぜ!あんまりにも長いんで昼寝でもしようかと思ってたところだ!」

 「こっちも準備は万端ですよ!」

 

 思えば長い一日だった。朝早くから準備をして、現在日もくれたゴールデンタイムに突入している。雲行きも怪しくなってきたので一雨来る前に退散したいところだが、まだまだヒートアップしそうだ。

 

 「っていうかメッチャ暑くない?」

 「レッドキング、いやさEXレッドキングの高熱の体温のせいだろう。まるでサウナにいるようだ。」

 

 梅雨にはまだ早いけど、蒸発した水やらなんやらで不快指数も上がっている。フィールドに立っていないたちの額にも汗が滲み始める。

 

 「オルァッ!」

 「てりゃー!」

 

 その熱風の渦中にぶつかり合う二つの影あり。片や、バッファローの膂力を持つカプセル怪獣ミクラス、片やマグマの力を宿したどくろ怪獣EXレッドキング。拳と拳が克ち合うたびに衝撃が熱波となってバラまかれる。それをもろに喰らっても2人とも平気でいられるのは、2人とも熱に強い体質のおかげである。

 

 「うわー!髪がコゲるコゲる!」

 

 無事でない者が約一名。若干伸び始めていた髪の毛がチリチリに焼かれ、アフロ一歩手前の状態になっている。そんなシンジは慌てて遮蔽物に身を隠し、直接熱波を喰らわないように心がける。

 

 「塹壕でも掘っておくか・・・。」

 

 スコップもツルハシも無いよ?一応、先ほどまでの戦闘の余波でフィールドにはあちこち穴が開いているので、それらを繋ぐだけで一応は塹壕の体を保てる。熱風の直撃は防げるし、敵の視界から消えられるのは実際オトクだ。割れた岩の破片やらを拾ってエンヤコラと腕を振るう。

 

 「オラオラァ!威力が落ちてきてるぞミクラスゥ!!」

 「くぅっ・・・まだまだぁ!!」

 

 純粋なパワーでならミクラスも決して負けてはいなかっただろうが、レッドキングの剣幕に気圧されてか、徐々に押し負け始めていた。

 

 「タックルで足元掬えミクラス!」

 「そうかっ!」

 

 『ミクラス選手、レッドキング選手のマウントを取ったぁ!』

 

 レッドキングの不意を突いての、下半身へのスピアータックルが功を制す。

 

 「スピニングトゥーホールドだ!脚にダメージを集中だ!」

 「いつもかけられてるやーつ!」

 「ちぃっ、小癪な!」

 

 EXとなったことで腕が発達しているが、反面下半身とのバランスが悪くなっている。まずは脚を攻撃することでそのバランスを崩す作戦だ。

 

 「このっ!いつまでもやられてばっかじゃねえぞ!オラオラオラ!」

 「ぐはっ!ぐぅっ!ぎゃんっ!」

 

 しっかりと脚を固めるミクラスに、レッドキングの撞木のような拳が突き刺さる。1発、2発と耐えるが、3発目でミクラスは音を上げる。

 

 「爆熱、ラリアァアアアット!!!」

 

 『レッドキング選手、強烈なカウンターだぁ!』

 

 剛腕がミクラスを掻っ攫い、勢いよく吹き飛ばす。一瞬気を手放したミクラスの手が地面を掴むと、少し引きずって立ち直る。

 

 「まだまだぁ!『フレイムロード』!」

 

 レッドキングが勢いをそのままに大地へと拳を振り下ろすと、地割れが走ってマグマが噴出する。

 

 「やばっ!」

 「! ミクラス、その場で待機!!」

 「え?ら、ラジャー!」

 

 バリバリと広がる炎の道筋がミクラスに向かってくるが、それらは全て標的から逸れていく。

 

 「おー、シンジったら、ナイスセコンドじゃん。」

 「やっぱり頭脳労働の方があってるようね。」

 「わたしがそだてた。」

 「はいはい。」

 

 ふふん、と誇らしげにベムラーが胸を張る。

 

 「頭に血が上ってるようで、案外クレバーな戦い方するねレッドちゃん。」

 「クレバーな人はフレンドリーファイアしないと思うわ。」

 「エレちゃんまだ根に持ってる?」

 「べつに、怒ってなんていないわ。呆れてるだけよ。」

 

 むすっとエレキングが不満そうにしているのを、珍しくゴモラは宥めに回る。気分が高揚しているせいか、普段のクールな態度とは打って変わってちょっと子供っぽい仕草をしている。そんな珍しいエレキングにゴモラはニヤニヤ。

 

 「これは、明確な勝ち筋は見えなくても、対処法はいくつかあるかも?」

 「そんなもん、すぐに見えなくさせてやるぜ!」

 「あいにくメガネはいらないぐらい目はいいほうなんで!」

 「すかさずブローック!」

 

 引き続きミクラスが戦うことに変わりはないが、ちょくちょくシンジが茶々もとい指示を出すようになった。これによって40%の効率アップを見込めるだろう。

 

 「その数字の出どころはなに?」

 「あの子の前髪が跳ねてる確率。」

 「へー。」

 「興味深いわね。もっとないのそういうの?」

 「おっとぉ、エレちゃんが乗ってきたぞぉ?」

 

 この後謎の協定が布かれたことはさておき。

 

 「うぉおおお!爆裂パンチィ!」

 「なんの、ドロップキィイック!」

 

 激しくぶつかり合う力!シンジはただ震える、到底及びもしない領域に。

 

 「めちゃくちゃだ、どっちも!」

 

 やはり人間にはついていけない。マグマ煮えたぎる火口のようなリングで生きられうような怪獣も決して多くはないだろうが、それにしたって熱すぎる。即席の塹壕から上半身だけを乗り出して様子をうかがっているが、汗をかく暇もないぐらいにに辟易とし始めている。

 

 「うだらぁ!くたらばれぁ!!」

 「ぐわー!」

 

 『ミクラス選手吹っ飛ばされたー!』

 

 「うぉおおおキャッチ!」

 「ナイスシンジさん!」

 「まとめて吹き飛べよやぁ!『フレイムロード』!!」

 「「うわぁああああ!」」

 

 今度は完全に焼き尽くすために放たれた炎の道が、折り重なったシンジとミクラスを襲う。

 

 「なんか、違うなぁ。」

 「なにが?」

 「いつもレッドキング先輩と違う。」

 「そりゃ違うでしょEXなんだから。」

 

 地を駆ける炎の道は、塹壕の方向へと誘導され、わずかに2人をかすめただけで済んだ。

 

 「チィッ、どこ行きやがったぁ?引き吊りおろして細切れにしてやらぁ!」

 

 「ね?違うでしょ?」

 「うん、ちょっとヒールをエンジョイしすぎだわ。」

 

 2人は物陰から怨嗟の叫びを耳にして震え上がる。厳しさの中にも相手を見極める優しさがあった先輩の姿は見る影もない。そこにいるのは冷酷に血を求める獣である。

 

 「そこかーっ!」

 

 「違うんだなぁ。」

 「とうとう判断力すら失ったのかしら?」

 「あれはおそらくプレッシャーをかけているんだろう。性格の豹変ぶりはさておき。」

 

 「あわわ、どうする?」

 「ちょっと休もうよ、こっちのことまだ見つけてないみたいだし。」

 「アタシはまだまだ平気だよ?」

 「気づかないところで結構消耗してると思うよ、あの熱量に至近距離でいると。」

 

 機関車と相撲を取るよりもさぞかし苦労しただろう。パワーだけでなく、触れることすらままならぬ炎の塊に触れるなど愚の骨頂。まったくクールじゃない。

 

 「ほい、タオルいる?」

 「うん、けどシンジさんのほうがヤバそうだよ?顔真っ赤だし。」

 「マジ?・・・そうか、こういう手もあるか。」

 「おっおっ、どんな手?」

 

 「マジでどこ行きやがったー・・・!ぜぇ・・・ぜぇ・・・うぉらっおらっ!」

 「ここだー!『バッファフレイム』!」

 

 『ミクラス選手、レッドキング選手に炎を浴びせかけるー!』

 『炎に炎をぶつけるとは一見無意味な攻撃に見えますがこれは・・・?』

 

 「火は火をもって制す!シンジさんのよく言ってるやーつ!」

 「火が効くかぁ!オレは火を飲み込むマグマじゃけえ!」

 

 ブンブンと腕を振り回してレッドキングは熱戦を払うが、おかまいなしにミクラスは砲撃を続ける。

 

 「どれだけ熱せられようが無駄だぜ!俺は熱さを感じねぇ!」

 「そこが落とし穴だ!ミクラスは休んで!」

 「タッチこうたーい!」

 

 ひとしきり吹きかけ終わるとミクラスは身をひるがえし、陰で待機していたシンジと入れ替わる。

 

 『おっと今度はシンジ選手が前に出るようです?』

 

 「ヘッ、シンジなんかに負けるレッドキングじゃないぜ!喰らいやがれ!」

 「それはどうかなっ!」

 「なん・・・だとっ?」

 

 『レッドキング選手投げ飛ばされたー!』

 

 「たしかにあなたは強い、しかしそのパワーアップに完全についていけていない!」

 「なんだとぉ?」

 「その証拠にあなたは今『汗をかけていない(・・・・・・)』!」

 「それが・・・どうした・・・?」

 「汗をかけなきゃ、体内に熱がこもって不調をきたす。日本じゃそういうのを『熱中症』っていうんだよ!」

 

 「ねーエレちゃん、『熱中症』ってゆっくり」

 「言わないわよ?」

 

 ビシッと指摘してみせると、レッドキングの体は膝から崩れ落ちる。指摘されて初めて、自身の体の変調に気づいたのだった。

 

 「オ、オレとしたことが・・・そんな初歩的なスポーツの基本を見落としていたなんて・・・!」

 「それでも変身は解除しないのを見るに、リスクを押してでも力押しに来ると見た!」

 「ここまで来て、止まれねえんだよ!」

 「ミクラス、チェンジ!」

 「おーけぇい!」

 

 そこからはシンジとミクラスが代わる代わるレッドキングに波状攻撃を浴びせる。

 

 (これは勝ったな、完全に流れ来てる。)

 

 勝利を悟ったシンジは、中途まで辿り着いて歩調を緩めたメロスのように力を抜いた。決して油断はしていない・・・とは言い切れないが、それでも重圧から解放されようとしている最中なので、知らず知らずのうちに腕の力を抜いてしまっていたのだった。

 

 「スキだらけだオラァ!」

 「ぐわっ、しまった・・・。」

 「舐めてんじゃねえぞ、『タワーブリッジ』ィ!!」

 

 そうして見事に捕まるであった。頭上に掲げられて、背骨がミシミシと悲鳴を上げる。

 

 「ぎぇえええ!ミクラス助けをぉおお!」

 「おつけい!」

 

 やる気満々にミクラスが援護に回る。殺る気にまかせてまとめて吹き飛ばされないことを祈る。

 

 その警戒の薄い姿を見て、レッドキングがニヤリと笑う。

 

 「消えかけの炎には火の用心だぜ、『バックドラフト』ォ!!」

 

 シンジを放り投げると、両腕を胸にたたきつける。そこを中心として、突如強烈な爆風が広がり、2人をの悲鳴と意識をその渦で飲み込む。

 

 『な、なにが起こったんだ・・・?』

 『バックドラフト現象が起こったようですね・・・密室で酸素不足により消えかかっていた炎が、新鮮な空気を浴びたことで急激に勢いを取り戻す現象です。』

 

 「こ、こんな方法で切り抜けてくるなんて・・・。」

 「それだけじゃないんだぜ?」

 

 前後不覚のままよろよろと立ち上がったシンジの両肩に、重い衝撃が喰ってかかる。

 

 『なんと、レッドキング選手健在!逆に足枷となっていたEX化も解けている!』

 

 「今のでエネルギーを全部解き放っちまったんでな、おかげで今は体が軽いぜ!」

 「ば、爆風消火の要領で・・・?!」

 「なんだそれ?あー・・・うん、そうだ。それな爆風消火。」

 

 レッドキングは無意識のうちにやっていたようだが、体に停滞していた余剰エネルギーをバックドラフトですべて吹き飛ばしたことにより、強制的にEXも解除したのだった。

 

 「さて、もういいか?今までさんざん好き放題やってくれたからな、今度はオレがかわいがってやるぜ!」

 「やだもー!なんかこんな役回りばっかり!」

 

 女の子に抱き着かれるなんて役得じゃないか!と文句があるやつがいるなら、今すぐ代わってやりたい。ベアハッグでまたも背骨がミシミシと悲鳴を上げ、肺から空気が圧迫されて息もできない。

 

 「ごぁあああ・・・がっはぁ・・・。」

 「まだまだ気をやるんじゃねぞ?でなきゃオレの気が収まらねえからな!」

 「シンジさん・・・、くっ・・・。」

 

 頼みの綱のミクラスは、まだ立ち上がれていない。となれば自分でなんとかするしかないが、締め上げられている状態ではペチペチとしたチョップしか出ない。同時に意識も遠のいていく。

 

 (あ、これマジで死ぬんじゃねえの?)

 

 これはあくまで試合であるが、そう思えてならない。明らかに手加減とかを忘れ去った目をしている。軽く判断能力が飛んでいるのかもしれない。

 

 「ごっ・・・。」

 「まだか?まだくたばらねえかオイ?!」

 

 脳に血が廻らずに、上半身がへにゃりと後ろに折れ曲がる。その虚ろな目には跪くパートナーの姿が見えた。なんかしてる。

 

 「ぬっ・・・おぉおおおおおおおおりゃああああああああ!!」

 「ぐわっ?!いってぇ・・・これは!?」

 「ミク・・・ラス・・・のツノ?」

 

 白く、やや曲がった槍のようなツノが、レッドキングの腕を崩している。が、その端には本来あるべきミクラスの頭が見えない。

 

 「お前・・・まさか自分でツノを?!」

 「折ったの?ツノを?」

 

 一目瞭然、ミクラスの片方のツノ、折れかかっていたのを応急処置したツノが無くなって、代わりにレッドキングの腕に刺さっている。

 

 その瞬間レッドキングの腕から力が抜け、その隙にシンジは抜け出す。攻撃を受けた痛みではなく、ミクラスの思いがけない行動にあっけにとられたことが大きい。

 

 「ミクラス・・・お前・・・。」

 「ミクラス!なんてことを!」

 「へへ・・・シンジさんやられてるの見てたら居てもたってもいられなくって・・・。」

 

 「友達を助けるための傷なら勲章ものだよ!よく言うじゃん、『救うために傷つくのが友情だから』って!それに、レッドキング先輩の相手をするのはアタシだったはずだよ!」

 「・・・半分呆れてるんだよなぁ。」

 「なんでー?!」

 

 ミクラスのもとへ駆け寄ったシンジの耳元に、ブンッという風を切る音が響く。その音源をミクラスが手を伸ばして掴む。

 

 「お前の覚悟とガッツ・・・確かに見たぜ。」

 「そうっすか?いやぁ照れるなぁ!」

 「けど、だからこそ俺は手を抜かねえぜ!」

 「オウ!アタシだってまだ燃え尽きてませんよ!」

 

 勝手に盛り上がって燃え上がってくれている。熱すぎてついていけないシンジは、駆け出すミクラスに渡されたツノを握りしめて問いかける。

 

 「僕に、何ができる・・・?」

 

 違う、それじゃあ自分の限界を超えられない。自分を傷つけても構わないほどの信頼、それに応えられるものは自分の中には無い。

 

 「どぅりゃあああ!!」

 「どうした!さっきまでの勢いがねえぜ!」

 「そんなはずなぁい!アタシには仲間がいてくれてる!」

 

 ミクラスはそんなシンジの考えの上を行っていた。ただいてくれるだけでいい、それだけで力が湧いてくるのだと。

 

 「自分に何ができるかではなく、友達のために何ができるかを考えるのが友情である。」

 「By,私。」

 「おーベムラーちゃんが言うと深みがあるねぇ。」

 

 自分のツノを折って投げるという行為は、最適解ではなかったかもしれない。けど、苦しむ友を助けるためには、最善の行動だったと思うし、そこに一切の後悔は無い。

 

 ならば自分も、持てる力のすべてを振り絞れる。友達のためにやれる行動なら、最大限のことが思いつけるから。

 

 「ぬんっ!!!!『ウルトラ念力』・『モーフィングパワー』全開!!

 

 受け取ったツノを握り、指を畳んで印を組み、力を集中させる。にわかに額が熱くなると、包帯代わりに巻いていたリストビュートにもそれが伝わり、ツノにも光が集まり始める。それを粘土をこねくり回すように形をイメージし、固定化させる。

 

 「できた!」

 

 それは古来より狩猟武器として使われてきた。木でできていることもあれば、獣の骨が使われていることもあった。左右非対称が生み出す揚力と回転のエネルギー。

 

 「ミクラスのツノでできた『ブーメラン』だ!受け取れぇ!」

 「ぃってぇ!」

 

 放り投げたブーメランは、大きく弧を描いてレッドキングの後頭部にぶつかる。思わぬ奇襲攻撃に成功するが、かえってレッドキングの怒りを買ってしまった。

 

 「これでも喰らって寝てろ!」

 「グワー!」

 

 「あちゃー、シンちゃん途中までかっこよかったのに。」

 「それがあの子のいいところでもある。」

 

 飛んできた岩になすすべなく押しつぶされたシンジをよそに、ミクラスはブーメランを受け取って闘志を燃やす。

 

 「アタシのツノー?!がびーん!」

 

 闘志を燃やしている。

 

 ともかく、自分の体の一部から作られた得物は、よく手に馴染んだ。拳と拳をぶつけあう、というわけにはいかなくなったが、優位性を十二分に発揮できているのは間違いない。

 

 「うぉおおおおりゃああああああ!!エレキの力だぁ!!」

 「こっちだって、バーニングだぜ!!」

 

 レッドキングもさることながら、腕に炎をまとわせて応戦する。未だに優勢を保ち続けるその猛威に心底震える。

 

 「もう一押し、あともう一押しほしい・・・。」

 「シンジー!!!」

 「マコさん?」

 「んっ!んっ!!」

 「左手?」

 

 まだあるか、もうないかと自問自答するシンジは、左手を示すマコを見て、自分の左手を見やる。そこには先ほどマコに巻かれた包帯代わりのハチマキ。それをほどいてみると・・・。

 

 「なるほどそうか、力を貸してくれるんだね。」

 「貸しだからね!」

 「お返しは10倍?いいよ、なんでもしてあげるよ!」

 

 さっきはしっかりと見ることができなかったけど、百聞は一見に如かず、実際に体験してみればもっとわかる。ハチマキに巻かれた力を抜き放つ。

 

 「『手札・十一式(カード・イレブン) 柳に小野道風(レインブリンガー)』!!」

 

 掲げられたのは、ガッツ・ブロッサムの力。図らずもがなベムラーとの戦いでは傘を使っていたシンジと同じく、傘を差した詩人を表している。これはシンジとも相性がいい、なぜならすっかり忘れていた設定だけど、シンジもまた『雨男』だったから。

 

 「雨のパワーでエレキは強化、炎はパワーダウンだ!」

 「なんとぉー!さすがシンジさん!考えてるー!」

 「そしてもう一つ。」

 「へきしっ!」

 「湯冷めで風邪をひかせる効果!」

 

 「バカは風邪をひかないはずでは?」

 「まあレッドちゃんパワーバカだけどバカではないからね。」

 「そこー!バカにしてんじゃねーぞ!」

 

 実際レッドキングさんはバカではないと思う。

 

 「でも個性豊かすぎるメンツの中では、むしろ無個性とまで言えるレベル!その埋没さ加減がレッドキングさんの弱点だー!」

 「殺されてえかお前はぁ!!」

 

 レッドキングさんファンの皆さんごめんなさい。

 

 さて、シリアスをポイしたことで勝負の流れはわからなくなってきた。初代チャンプ、先輩としてレッドキング勝つか、それともチャレンジャー、この流れの上での主人公のミクラス勝つか。

 

 「これで・・・今度こそ・・・最後っす先輩!」

 「来やがれ!オレの最大の一撃喰らわせてやるぜ!」

 

 ミクラスはブーメランを真上に放り投げる。

 

 レッドキングは拳を打ち鳴らす。

 

 「エレキ・・・最大!!」

 

 「燃やすぜ・・・闘志!」

 

 ブーメランはあるべき場所に戻り、そこへ雷が落ちる。

 

 心に燃える火が、拳に乗って炎になる。

 

 

 

 

 「「うっおおおおおおおおおおおお!!!!!」」

 

 

 

 叫ぶ、無心の叫び。オーラとなってあふれ出した怪獣ソウルが共鳴しあい、ぶつかり合い、スパークする。乱反射する気迫は、まるで暴風のようにフィールドを駆け巡る。

 

 「純粋な闘争の中にこそ、怪獣ソウルは強く輝く!」

 「見ててなんかウズウズしてきちゃったー!」

 「参加してよかったわね。」

 「ええ、けど次はアタシたちが勝つからね?」

 「もう次の話?」

 

 

 ソウルの高鳴りが頂点に達したとき、2人はまさしく燃えていた。炎を纏いながら何も言わず、何もせずに佇んでいる。

 

 「「・・・。」」

 

 誰もがその行く先を固唾を飲んで見守っていた。世界全てもが止まったかのような錯覚を受ける程に空気が張り詰めていた。

 

 「「・・・っ!」」

 

 お互いに何も言葉は交わさずとも、まったく同じタイミングで走り出した。心と心、ソウルとソウルで繋がりあっているかのように、わかりあっていた。

 

 「『ヴォルカニック・・・インパクト』ォオオオオオオオオオ!!!」

 

 「『ミクラス・・・ダイナマイト』ォオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 閃光が、視界を支配していた。どれほどの時間そうしていたのか、測っている人間もいない。永遠にも感じられる刹那を、誰も皆が共感していた。

 

 「どっち?どっちが勝った?」

 「うぅ・・・目が・・・。」

 

 岩石が蒸発するような熱と光の中に、どちらか勝者がいる。

 

 『ううっ・・・果たして勝ったのは・・・?』

 『あっ、あれは!?』

 

 片方は膝をつき、もう片方は仁王立ちするシルエットがうっすらと見えてくる。跪く影は粉々に砕け散った得物を前にして涙を流しており、一方対面の影はクルクルの髪と尻尾の先のリボンが焦げているのが見えた。

 

 『立っているのはレッドキング選手!』

 

 「レッドちゃんの勝ちだ!」

 「ふっ、矢張りやれると思っていたわ。」

 

 『ここに!今決まりました!第一回タッグトーナメントの優勝チームは・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいミクラス、いつまでそうしてんだ?」

 「うっ・・・ぐずっ・・・だって・・・だって・・・。」

 「お前は本当によくやったよ。もうなんも言うことねえってぐらいによ・・・。」

 「でもアタシ・・・。」

 「勝負に『でも』なんかあるかよ、ここにある結果がすべてだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おめでとう、ミクラス・・・。」

 

 視界が暗転する。気づけば空には星が広がっていた。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「レッドキングさんは、立ったままK.Oされていたんだ・・・!初代王者としての、先輩としての気力と意地が、体を奮い立たせていたんだ!」

 

 

 勝負は内容も結果も二転三転するどんでん返しの連続だった。そこへ今度こそ、ピリオドを打つアナウンスが響く。

 

 

 『激闘の覇者は、初代タッグトーナメント優勝者の名は、ミクラス&シンジのミラクルナンバーズだぁ!!』

 

 拍手喝采、万来のカーテンコールを浴びたのは、大怪獣ファイトのルーキーファイターと、パンピー以上怪獣娘未満の人間。新聞なら一面を飾り、ショービズなら大入り間違いなしだった。

 

 だがそんなことは当人たちは気にしていなかった。心底どうでもよかった。

 

 「先輩・・・。」

 「ミクラス・・・ありがとうな。全力で戦ってくれて。」

 「ううん、シンジさんがサポートしてくれたおかげだし、他にもいっぱい。」

 「運も実力のうちだっての。オレだってパートナーには恵まれていたはずだったけど、お前には負けたってはっきりわかるぜ。やれやれ、これじゃあ先輩形無しだぜ。」

 「でも、アタシやっぱりレッドキング先輩を尊敬してます。いつまでもレッドキング先輩はアタシの憧れです!」

 「ミクラス・・・お前みたいな後輩がいてよかったぜ。力で応えることしかできない不器用なオレを赦してくれよな・・・。」

 

 そこには勝者と敗者、先輩と後輩という格差もない、力をぶつけ、競い合ったライバル、互いに研鑽し、高めあう仲間という言葉が似合った。

 

 「よーし、次は絶対負けねえからな!帰ったらさっそく特訓だぁ!」

 「おぉー!」

 「けど覚えておけよ、チャンピオンは腰の温かみをベルトに伝える暇もないんだってことを・・・。

 

 

 

 

 「元気すぎだろあの二人。」

 「めでたしめでたしかな?シンちゃん大丈夫?真っ黒なってるけど。」

 「まだ日焼けにする季節には早いかな?」

 「日焼けというより焦げてるというのが正しい。」

 「こんがりどころかパサパサね。」

 「おいしくなさそう。」

 「食べる気?」

 

 表彰式に一足早く、参加者そろっての懇親会と相成った。主にイジりの方面においての話だが。

 

 「よーし!いっちょここで胴上げしちゃおっかー!ほらレッドちゃーん!」

 「よーし!思いっきり打ち上げてやるからなー!」

 「ちょっとレッドキングさんにやられたらシャレにならにんですけどー?!」

 

 いやあと一人ほど、その場にいない者もいた。今頃どこで何をしているのかというと・・・

 

 「ただいま。」

 「おかえり。すまない、負けてしまった。」

 「いい。あなたも満足できた?」

 「全然していない!ローン返済の計画がパーだ!」

 「そう、がんばって。」

 

 ゼットンも今ここに帰ってきた。相変わらずのポーカーフェイスっぷりにベムラーも肩の荷が下りた心地だった。これで今度こそ全員・・・

 

 「・・・行かないの?」

 「次の現場が待っている。」

 

 人知れず、また最後の一組は夜の闇へと消えていった・・・。彼女たちが何者で、何の目的があったのかは、また別のお話である。

 

 

 

 

 

 閉幕の授与式。壇上でピグモンが祝辞を行い、長いようで短かった一日が終わりを告げる。

 

 「それでは~、優勝したミクミクとシンシンにはトロフィーを授与しま~すぅ☆」

 「わーい!って重いわこれ。」

 「シンジさんちゃんと掲げて掲げて!よいしょー!」

 「うわー!そんなことされたバランスがー!」

 「シンちゃんあぶなーい!」

 

 と、あれよあれよと支える人間が増えた結果、広報には一体誰が優勝者なのか判らない写真が載ったそうな。




 意外と短くなった!今までならかさまししていた地の文とかが少なかったせいと思われる。というかすごく淡々としてない?これじゃあ回想みたいで生きてる感じがしない。とにかくこれで完結だぁ!はりきって次に行こう!

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