「諸君!次なる作戦を発表するぞ!」
そんなとき、我らのリーダーブラック指令がこの次の指令を伝える。
「我らのチームを守るための重要な指令だぞ!資金稼ぎだ!」
「おぉ!とうとうブラックちゃんがグラビアデビューしてガッポガッポしちゃうの?」
「しない!」
「じゃあペガちゃんやる?」
「え、ええ?!私、ブラックさんみたいにスタイルよくないですし・・・。」
「大丈夫だ、そういう需要も世の中にはある。」
「やめなさいよあんたたちは。」
7月に入って暑苦しい日々が続くが、このボロアパートの一室はエアコンすらつけていない。そんな苛立ちの中、ノーバさんのゲームに横から茶々を入れていたシンジが愚痴を漏らす。
「未成年になんてことをさせようとするあなたは、本物の悪人になろうとしてるんじゃないでしょうね?」
「なに!私は元から悪人だ!」
「その悪人はどんなあくどい方法で儲けるつもりで?場合によっては止めますよ?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた!その方法とは!」
「方法とは?」
「らっしゃいませー!こちらのお席へどうぞー!後で注文窺いまーす。」
1週間後、とあるビーチの海の家、その看板には『海の家ブラックスター』の文字。
「ただのアルバイトじゃん!」
「文句を言うではなーい!これが結構稼げるのだ!」
「せっかく海に来たんだから、海に行きたいなー。」
「あんなしょっぱくてザラザラするもののどこがいいのか。」
「ノーバさんゲームしてないで手伝って!シルバーさんも作った端から食べないで!」
最小限の単価で、最大限の収入を見込めるのだから確かに実入りは大きいだろう。だがその分大変だ、暑いし疲れるし、変な客は多いわで。
『お姉さんカワイイねー、後で一緒に遊ばない?』
「ふぇっ!?こ、困ります?!」
「ペガッサさん、ここやっておくから食材の在庫チェックお願い。」
「あっ、はい!」
うら若き少女がチャラい男の毒牙にかかろうとしているのは目に毒だ。
「そういうシンちゃんこそナチュラルスケコマシじゃない?」
「シンちゃんゆ-な!焼きそばとカレーだよ!」
「あいよー。」
「あらノーバさん触手が器用。」
「この程度の注文、復活の呪文を覚えるのよりも簡単だ。」
ただ単に女の子と一緒に仕事をすることが多くて、距離感がつい近くなってしまうってだけだ。タブン。
そんなこんなで数時間後、休憩中。
「ペガッサさん、アルバイトとか経験ないの?」
「うち、結構そういうの厳しいので、やったことないんです。」
「そういえば結構いいとこのお嬢さんだったねペガちゃん。」
「そんないい子をこんなところに連れ出していいんかい。」
「あっ、許可は貰ってきましたから、大丈夫です!」
「そうじゃなくってさぁ・・・。」
「ペガッサも大分馴染んできたな。」
「こんないい子を道から外そうなんて、やっぱりあんたら悪だわ。」
「ふふふっ、ようやく我らの恐ろしさを理解できたようだな!」
「褒められてないよブラックちゃん。」
以前のシンジなら、このペガッサ星人のような怪獣娘こそ、GIRLSにいるべきなのにと思っていたろう。
「まあ、逆にペガッサさんがいないとブラックスターズはダメダメになるかもしれないし。」
「ええっ?!そんなこと・・・ある・・・かもしれません?」
「そーそー、ペガちゃんみたいにマジメな悪の組織をやってくれる人がいないとダメだよねーブラックちゃん?」
「うむ、ペガッサ参謀長は大事な仲間なのだからな!」
つまり、ブラックスターズの理念がどうとか関係なく、ただブラックさんのことが好きだから集まってる、ということか。
「あれ、ノーバちゃんどこ行くの?」
「かき氷が切れた。」
「じゃあ、ブルーハワイとってきて!」
「私は宇治金時を頼む。」
「お前らは自分で取りに来い。」
「わ、私が皆さんの分までとってきます!」
「あーわかった、僕が行く。」
「はいは~い、じゃあ私も行こうかな~♪」
「なっ・・・ならリーダーの私が行こう!」
「「「どーぞどーぞ。」」」
お約束な流れから、パシられるリーダーというものを初めて見た気がする。多分ナチュラルでやっているのだろうけど、ブラックさんはこんなにも単純なのか。見れば見る程悪人とは思えなくなってくる。
「ところで、シンジさんさんこそ何のために私たちに付き合ってくれているんですか?」
「悪の組織を放っておくわけにはいかないけど、それ以上になんか気になるからかな。」
「どの辺が気になるの?」
「ペガッサさんみたいないい子が下手を掴まされてたらと思うと。」
「えー!ペガちゃんのことは大切にしてるよアタシたち?」
「ペガッサさんに無茶ぶりしたりしてない?」
「むしろペガッサの存在が私たちを律している。」
「あれ、意外とやり手だったのペガッサさん?」
「そんなことないですよぉ!?」
いや、キワモノぞろいだからこそ、マジメなペガッサさんは輝くのか?
「要するに、ヒマなのだなお前も。」
「えっ、シンちゃんってニート?」
「違う!・・・と言いたい。」
仕事はしてないけど、一応大学にはまだ在籍している・・・ハズ。
「いつかGIRLSに戻っちゃうんですか?」
「最近はフリーでもいいかなと思ってる。」
「じゃあこのまま仲間になっちゃおうよ!」
「それは考えさせて。」
先行き不安な組織に身を置くというのはちょっと・・・いや、逆に立派な組織になるよう尽力するというのもいいかも。目指すところが悪の組織だということに目をつぶれば。
「そういう点では、ペガちゃんと似てるかもね。」
「思った。ペガッサさんも周りに流されやすそうだし。」
「否定しない。」
「うぅ・・・やっぱり私ってそういう風に思われてますか?」
「ペガちゃんはいい子だよ~よしよし。」
ああ、同族の匂いを感じたからかな。妙に居心地がいいのは。
「諸君!ビーチボールをするぞ!」
「唐突だなぁ。」
我らがリーダーがどこからかビーチボール大会のチラシを持って帰ってきた。
「これは天啓だ!我らの力をこのビーチのリア充どもに見せつけよというお告げに違いない!」
「でもこれ、2人組で参加だよこれ?」
「はーい2人組作ってー。」
「ぐはっ?!」
「な、なんだこのダメージは!?」
何気ない2人組作ってが、シンジとペガッサを傷つけた。
「そ、それよりも、観客にジュースを売った方が利益になりませんか?」
「おぉー、ペガちゃんナイスアイデア!」
「店放置するわけにもいきませんしね。」
と、言うことで。
「そらぁ!」
「ブラックちゃーんナイスサーブ!」
ブラックさんとシルバーさんが大会へ、残ったメンバーで売り子を担当することとなった。
「というか、シルバーさん撮影してばっかり・・・。」
「ブラックさん、無駄に運動神経いいんだな。」
「あれでも怪獣娘だからな。」
怪獣娘のためのスポーツのレギュレーションもあるが、こういったところまでその手が届いているとは限らない。図らずも、ブラックさんの唱えたリア充どもを潰すという作戦が成功しようとしている?
「ナーッハッハッハッ!恐れよ、崇めよ!」
「むしろ盛り上がってるように見えるが。」
「あはは、ブラックさんらしいですね・・・。」
さて、あっという間に決勝戦に進んだ。もう一方のチームの試合は見ていなかったが、はてさて。
「ぬっ・・・!」
「どうしました、ノーバさん?」
「・・・ちょっと席を外すぞ。」
(飲み過ぎかな?)
間違ってもそんなこと口に出せないが、すぐにそういう理由ではないとわかった。
「ククク・・・もはやここまで来れば勝ったも同然!作戦は成功だ!」
「露骨なフラグだねブラックちゃん!」
「残念ながらそれはビッグミステイクだ。」
「得物を目前にして舌なめずりをするのは三下のすることです。」
現れたのは、同じ黒でも青と金髪の美女2人。シンジには物凄く見覚えがあった。
「げぇっ!?ベムラーさんとマグマさん?!」
「知り合いなんですか?」
「あの2人も怪獣娘だ・・・。」
それもかなり武闘派の。
「ふっ、誰が相手であろうと負ける気がしない!ナーッハッハッハッ!」
「貴様か、『私』のシンジ君を悪の道に引きずり込もうとするのは?」
「ハ?」
「おー、シンちゃんの関係者?」
「濱堀氏には多大な借りがある。それを返すまで、彼には正しい道を歩んでいて欲しい。」
そして。
「散れっ!!」
「ウギャー!!」
「死ねよやー!」
「アバーッ!」
強烈無比なスパイクがブラックさんを襲う!
「ピンチヒッター、シンジ隊員!」
「僕に振らないで!」
「シンジ君!そんなところにいないで戻ってきなさい!私の元へ!」
なんだなんだ修羅場か?と観客はまた大盛り上がり。
「あ、あのっ!」
「む?」
「ぶ、ブラックさんたちのこと、悪く言わないでください!」
勇気を出してペガッサさんは二人に反論する。
「ブラックさんは私の大事なお友達なんです!それ以上ブラックさんを攻撃するなら、わ、私が戦います!」
「おー、ペガちゃん勇気あるー!」
すでにコートから出て観客モードなシルバーさんも囃し立てる。
「こうなったらしょうがない、シンジ君来るんだ、直接叩きのめして目を覚まさせてあげる!」
「手合わせ願います。」
「どうしてこうなった。」
こうして、シンジ&ペガッサVSベムラー&マグマの闘いが始まった。幸いなことに、ブラックさんを叩きのめすことに集中していて点差はついていない。
「ペガッサさんはうまい具合に拾って。僕がなんとかして打ちに行くので。」
「あわわ、私運動音痴なのに巻き込んでしまって・・・。」
「気にしない気にしない!ちょっと遊びたくなってたところだったから!」
こういう時、ミカのポシティブシンキングが羨ましくなる。なんだかんだミカには引っ張られっぱなしだったとつくづく思う。
(やめやめ、誰かと比べるのも、ここにいない人間の話をするなんてのも。)
「容赦はしないぞ!」
「手加減とお慈悲を!」
「手を抜くのは無礼だと心得ております!」
「うひゃー!」
啖呵を切ったものの、強烈な無慈悲なスパイクが飛んでくる。ボールが割れないことが不思議なほどの威力だが、シンジはそれをなんとか上へと打ち上げる。
「ペガッサさーん拾ってー!」
「あわわっ!?」
綺麗な山なり軌道で、ペガッサの頭上をスルーしていく。
「あうぅ・・・ごめんなさい・・・。」
『ペガちゃんドンマイ!』
『がんばってくれペガッサ参謀長!』
「うぅっ・・・プレッシャーが・・・。」
背後からは声援が聞こえてくるが、前方からは強烈な視線を感じる。どうやらベムラーさんたちはペガッサさんにも注目しているらしい。
「どうやら君も怪獣娘のようね?」
「えっ、そ、そうですが?」
「まさか君も脅迫されて道を踏み外そうと?」
「そんなことないです!」
「ならもっと堂々とするることね。自分に正直にならなければ、能力は身につかないわ。」
「能力?そっか!」
「あのシンジさん、私が前に出ます!」
「何か作戦があるんだね。OK、今度は僕が拾いに行く。」
「えっ、いいんですか?何も相談しなくて。」
「ペガッサさんのやりたいことなら、それが答えなんでしょ。さすが参謀長。」
「! はいっ!ありがとうございます!」
やりたいようにやらせてみる、GIRLSで学んだことだ。能力を把握するのも、指示をするのも、まずやらせてみる。
「そらいくぞぉ!」
「あだぁ!ペガッサさん!」
「よぉし・・・ダークゾーン!」
弾道の着地地点で待ち構えるペガッサが手を伸ばすと、黒い空間が現れてボールを吸い込む。
「なん!?」
「ですと?!」
スポッと相手コートの地面にボールが落ちる。
「ちょっとズルかったかな?」
『ペガちゃんナイスー!』
「おお、これなら勝てる!」
にわかに光明が見えてきたが、それを塗りつぶすレベルで殺気が立つ。
「ほう、そう来るか・・・なら今度こそ手加減は無用だな。」
「真面目な戦い、打たせていただく。」
こういう時ゼットンシャッターが欲しい。防御力さえあればシンジはK.Oされずに済んでいた。
「ビーチボールにK.Oなんてあるか!」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「あーあー、惜しかったねー。まさかあんなのが出てくるなんて思わなかった。」
「うぅ・・・ごめんなさい。」
「何を言うか、今回は負けてしまったが、次回は必ず我らが勝つのだ!」
「もうにどとさんかしない。」
夜、場所は一行の宿泊する民宿の一室。
結局シンジがやられた後、ブラックさんも復帰させられたのだが、そこでも結局同じ轍を踏むこととなった。それでも一切泣き言を言わないブラックさんはすごい。
なお、隣の部屋にはガタノゾーアちゃんが寝ている。こんな大騒ぎをしているのにスヤスヤとしているのはさすがというか。
「それより、ノーバはどこへ行ったんだ?」
「お昼、大会の途中でいなくなってからまだ帰ってきてないんです。」
「晩御飯には戻ってくると思ったのになー。」
「まあ、子供じゃあるまいしそのうち戻ってくるだろう。」
多分マグマさんがいたから顔を出しにくかったんじゃないかなとシンジは思っていたが、それでも今いないのはこっそり会いに行っているのかな?
「それよりも、さっそくだが今日の売り上げで飲むぞー!」
「早速散財していいの?」
「かまうものか!明日からもがっぽり稼ぐのだからなー!ナーッハッハッハッ!」
「よーっ大将太っ腹!」
ブラックさんは大量のビールを空け、シルバーさんもつまみを食べまくっている。
「シンジさん、ケガ大丈夫ですか?」
「もう治ってるよ。結構体は丈夫な方だから。」
「そう、なんですか?」
「怪獣娘と一緒にいる間に、そういうのが移ったみたい。」
「えっ、そういうものなんですか?」
「普通はそういうものではないかな。」
それは僕がちょっと特別だっただけ。
「シンジさんって、すごい人だったんですね。」
「そんなことはない、僕もあの子たちに会う前は普通の人間のはずだた。」
「どんなきっかけで出会ったんですか?」
「会ったのは偶然だったけど、出会うことは運命だった。」
「「はぁ・・・?」
その出会いで一瞬に世界が変わった。説明するのも難しいがその最たるものが手元にある。
「これ、この『バディライザー』待っていた。」
「『ソウルライザー』と似ていますね?」
「ペガッサさんたちのソウルライザーは、GIRLSのとはちょっと仕様が違うみたいだけど。まあさておき、バディライザーは怪獣娘と共に生きることを願ったマシンで、怪獣娘と繋がるツールなんだ。」
「怪獣娘と繋がる?」
取り出して見せてみる。壊して直してを繰り返した結果、原型から比べて大分スマートになってきているし、中身も色々と追加されている。
『ああ、おはよ。音声認識しろこんにゃろー。』
「あれっ?!喋った!」
「ああ、サポートロイドが入ってるんだ。あさつき、ロック解除して。」
「あさつき?」
「AIの名前。」
『他所の子に私を渡すなんて、後でゴモラに言いつけんぞバーロー。』
「僕のほうがブラックスターズに入っているから、ペガッサさんは他所の子じゃないよ。」
『ふーん、じゃあいっか・・・ってなるかこんにゃろー。』
ブツン、とへそを曲げたのか画面が消える。
「ちょっと?あさつきさん?おーい。ごめん、いつもの人見知りだ。」
「あはは・・・恥ずかしがり屋さんなんですか?」
「そうなの、他の人にはなかなか心を開いてくれなくって。」
果たしてAIにそんな機能が必要なのか?と疑問になるだろうが、この子、いやこの子たちは怪獣娘たちの性格データを元に生まれた。つまりはこの子たちとの付き合いも遠からず怪獣娘たちとのコミュニケーションに繋がるのだ。多分。
「あさつきさんあさつきさん、そろそろ帰ってきてください。」
「おっ??なんだなんだ、楽しそうなことをやっているじゃあないか!!」
「ブ、ブラックさん、酒臭っ!」
「おうペガッサ参謀長も飲みたまえ!今日は私のおごりだぞー!」
「私未成年ですー!」
「よいではないかーよいではないかー!私の酒が飲めんのかー?!」
そこへすっかり出来上がったブラックさんが乱入してきた。
「おうシンジ君!腹を割って話そう!」
「腹を割って話すようなことなんて何もないですが。」
「そういうな!誰にだって人に言えないような悩みがあるだろうチミィ!」
「酒臭っ!あったとしてもそんなに気軽に話したくない!」
「じゃあいつ話すんだ?今だろ!さあ吐けェ!オエッ!」
「吐くなー!」
酔っぱらいを振りほどくよ、それは狂ったように笑い転げる。それを見ていた者は、大人になっても酒は飲まないと心に誓った。
「ぬっふっふっふ、ならば私の催眠術で・・・。」
「てい。」
「うばぁ!」
「うひひ、今のうちにブラックちゃんのあられもない写真を・・・。」
「・・・僕らはちょっと外の空気吸ってきますね。」
「いってらっしゃーい♪」
酔っぱらいに絡まれる二人を救ったシルバーさんもどっちもどっちだった。
「外は涼しいですね。」
「風が結構あって肌寒いくらいかも。」
潮の香をのせた風が、海から力強く寄せてくる。ペガッサの長い髪がなびく。
「へくちっ!」
「んっ・・・はい、これ着て。」
「えっ、でも・・・。」
「外に誘ったのは僕だし。意外と寒いのは誤算だった。」
夜とはいえ、真夏の空の下とは思えないほどに空気はひんやりとしていた。
「風邪ひかないように。」
「ありがとうございます・・・。」
向かい合って上着を羽織らせると、自然と視線も重なる。あまりにごく自然なそぶりでそうされてしまった、異性に対して免疫のない箱入り娘ナペガッサは思わず赤面してしまうが、シンジのほうはにべもなく視線をそらした。
「綺麗だね。」
「ふぇっ!?そ、そうですか・・・?」
「都会から結構離れてるから、空気も澄んでるし、星もよく見える。」
「あっ・・・いい、景色ですね。」
お約束的な思わせ振りのセリフだって吐いちゃう。
(はわわ・・・私、どうなっちゃうんでしょう・・・?)
(食べたかったなぁ、冷やし中華。)
別にどうもしない。シンジにとってはいつものことなので、別段ペガッサを気に掛けること自体は特別でも何でもないのだったから。
「おや、そこにいるのはシンジ君かい?」
「あっ、ベムラーさんとマグマさん、お昼ぶり。」
「どうも。」
「私は帰ってきた。」
「ノーバさんも一緒ですか?えっと・・・、初めまして。ペガッサ星人です。」
「どうも初めまして、ベムラーだ。私立探偵をしている。こっちは助手のマグマ星人。」
「初めまして。」
「ベムラーさんたち、なぜここに?」
「君に会いに来た。というのは冗談で、休暇だ。マグマに一般人らしい感性をつけるためでもあるが。」
「そうだってんですか・・・。」
「というのも建前で、本当はブラックスターズを調べるために来た。」
「ええっ?!」
「はっきり言っちゃうんですね?」
「隠しても君たちは賢いから気づきそうだったし。」
「それで、ベムラーさんにはどういう風に見えましたか?」
「ふむ、君たちを外道に堕とそうとする悪であれば、昼のうちに壊滅させていただろう。」
「そうではないと?」
「まだ断定はしていないがね。だが昼間の感想からすると、君たちのリーダーは行動力のあるバカだと思える。」
「まあ否定はせん。」
「だが、不思議と人の心を引き寄せる力があるようだな。・・・それが悪い方向に転がらなければいいだけだ。」
「悪い方向、ですか?」
「けど、その心配もないと思う。君がいるから。」
「えっ、私ですか?」
「私もそう思います。」
「私もだ。」
「僕も。」
「ええっ!?みんなして一体?!」
急な展開にペガッサは気圧される。
「ペガッサはブラックスターズの良心だからな。」
「いざっていう時の発想力と行動力は素晴らしいと思うよ。」
「そんな・・・私なんて・・・。」
「まあそういうことで、注意はすれど問題はないだろうというのが私からの見解だ。」
「では、私たちは失礼するよ。夜更かしするんじゃないぞ?」
「それでは、また明日。」
「おう、またな。」
「また。」
「えっと、ありがとうございました!」
コンビニのビニール袋を片手にぶら下げたベムラーさんたちは去っていった。
「あっ、おかえりー。あれ、ノーバちゃんも一緒だったんだ?」
「おう、旧友と会っていた。・・・それにしても酒臭いな。」
「うわっ、ブラックさんなんて格好で寝てるんですか!」
「ぐっへへへ・・・これで世界征服でゃ・・・。」
「僕外で寝るわ。」
その方がマシなくらいひどい有様だった。ブラックさんは一升瓶抱えて寝てるし、また何も着てないし。多分ベムラーさんたちのところへお邪魔させてもらった方が気持ちよく眠れると思ったが、さすがに自重した。
「みなさん!片づけて寝ましょう!明日も早いんですから!」
「はーい班長ー。」
「かしこまー。」
「委員長です。」
ピシッと指示を出してくれるペガッサさんが頼もしい。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
翌日。
「お待たせしました、ラーメンとカレーライスです!」
「ペガちゃーん、4番テーブル注文上がったー!」
「はいただいまー!」
「ペガちゃん、すっかり慣れたみたいだねー。」
「それだけじゃなく、精神的にも成長したんじゃないかな。接客業って神経使うし。」
「まったく頼もしい限りだ。」
最初は注文一つとるのに焦って手間取っていたのが、今は周囲をよく見て、テキパキと行動できるようになっている。さすが優等生。
「8番テーブルオーダーです!」
「はいよろこんでー!」
「やってるようだねシンジ君。」
「あっ、ベムラーさんいらっしゃい、マグマさんも。今日はなんだか涼しいですね。」
「ああ、日は照っているのに、水も冷たいぐらいだ。温まるものがいいな。」
「昼間っからビールですか?」
「いいや、カレーライスとコーヒーを。」
「私もそれを。」
「はいよー、オーダーでーす!」
ベムラーさんの言う通り、今日はなんだか肌寒い風が吹いている。おかげでお店も繁盛している。
「うわっ、厨房あっつ!」
「ふふふ、昨日はいつの間にか眠ってしまっていたが、おかげでお告げもいただいた!『ラッキーアイテムは鉄板焼き』と来た!」
「ただの占いじゃん。」
「ともかく、ガンガン熱くしてジャンジャン焼くのだ!」
確かに今日は熱いものに需要があるため、占いは当たっているのかもしれない。
「ああっ!ノーバさんが茹でタコに!」
「ころすぞ?うぅ・・・まるで電子レンジに入れられたダイナマイトのようだ・・・。」
「わははー!もっともえろー!もっとあつくなれよー!」
「あかん、ブラックさんも脳がオーバーヒートしてる!」
まだアルコールが抜けてないのかと疑いたくなるが、たぶん脳が溶け始めている。元から半分溶けているような人だったが、このままでは焼きそば製造マシーンになりかねないので休ませることにした。屋内でも熱中症にはなるので注意だ。
「おっ、シンちゃん厨房立つの?」
「鉄板とコテの扱いなら、ミカとよく行くお好み焼きで鍛えてる!」
「おー、素早い手さばきさっすがー!」
こうしてなんやかんやでピークを乗り越えた。
「う、腕が・・・。」
「シンちゃんおつかれー、ほれモミモミ~。」
「ペガッサもグッジョブだ。」
「えへへ・・・。」
お客も捌けた昼過ぎ。ベムラーさんたちも交えて休憩タイム。
「あの、ベムラーさん、あんま近づかれると食べにくいんですけど?」
「それなら私が食べさせてあげようか?」
「おー、アツアツだねシンちゃん?」
「そういうのいいですから!」
「ほれほれ、もっと食べ給え、今日は私が奢っちゃおう!」
「やけに太っ腹だな。」
「なに、昨日の敵は今日の友だ!」
昨日の試合のこともあって、相席するのは憚れるかと思ったが、ブラックさんは寛容な人物だった。
「それにしても、シンジ隊員の知り合いで、しかも探偵とはな!あれかい、殺人事件とか扱ったりしているのかい?迷宮入り事件を解決したり!」
「そういった事件にはあったことがないかな。」
「そうか・・・。」
「なんだか、期待に沿えなくてすまない・・・。」
あったとしても機密事項で言えないのだろうけど、こういうテンションが高すぎる人の相手をするのほあ、ベムラーさんには胃に穴が開きそう。
「こうして会ったのも何かの縁だ!乾杯といこうじゃないか!」
「すごい、まるで酔っぱらいのようなセリフ。」
「ブラックは常に酔っている。」
「たしかに夢に酔ってる。」
「それにしても、今日は本当に涼しいね。27℃くらい?」
「日も照ってるのに。これはちょっと異常だね。」
天気予報ではこんな異常気象は報道されていない。
「ということは、ここいら周辺だけの局地的なもの?」
「何かが起こっているんでしょうか?」
「何かって?」
「それは・・・超常的な力を持った、怪獣娘とか?」
ペガッサのその言葉に、ピクッとシンジが反応する。それを見たベムラーが口をはさむ。
「この世界で起こる不思議なことは、なにも怪獣娘だけじゃないさ。」
「と言うと?」
「そう、例えば・・・。」
ちょうどその時、海のほうから大きな叫び声が聞こえてくる。外からは一層冷たい海風が吹き込んでくる。
「な、なんだぁ!?」
「海が凍ってる?!」
「あ、あれ見てください!」
凍える海の向こう、大きな三角形の帆のようなものが見える。こんな近場にヨットが寄せてきた、というわけでもない。
「でっかいイカ?!」
「違う、シャドウビーストだ!」
怪獣娘と双璧をなす、この世界の超常、シャドウの出現だ。それが姿を現しただけで、冷気は一層強くなる。
「この寒さはあのイカが原因だったのか!」
「あんまりおいしくなさそう。」
「残念ながら食用ではないし、バカンスを楽しみに来たわけでもなさそうだ。」
「濱堀氏、交戦許可を。」
「戦う前に、逃げ遅れた人を救助しないと。ノーバさんとシルバーさん、頼めます?」
「わかった。」
「おっけー!」
「ブラックさん、催眠術で人を誘導したりとかできます?」
「私の催眠術は一人ぐらいが対象だから無理だ!」
「誇らしげに言うなよ・・・。」
「そもそも自分にもかかっちゃうからダメだね。」
「じゃあその無駄に通る声で避難誘導を!」
「あいわかった!ブラックスターズ出動だ!」
「「「了解!」」」
「まあ今回は従っておくことにしよう。」
「マグマさんは?」
「もう行った。口より体を動かそうか。」
一足飛びで、凍った海面を足場にシャドウビーストに挑みかかるマグマさんの姿と、それを援護しに行くベムラーさんを背景に、ブラックスターズによる救助活動が始まった。
「しかし、悪の組織が人助けするなんてなぁ。」
「ブラックさんたちは、悪い人たちじゃありませんから。」
「そうだね。そのうちGIRLSも来てくれるし、それまでは僕たちが正義の味方をやっていようか。」
「え、いつの間に通報を?」
「さっきあさつきさんに通信してもらっておいた。」
こういう時を見越して、自律行動してくれるサポートロイドを用意していたのだ。シンジとペガッサは後方から指示を飛ばす役を担っている。
「避難かんりょー!で、次どうする?」
「もちろん、あれを倒す!ブラックスターズは敵をよけない!」
「どうやって?」
「どうするペガッサ参謀長?」
「ええっ!?」
「よし、ブラックさんを餌にしてイカ釣りをするというのはどうだろう?」
「いいなそれ。」
「ちょっと待てーい!」
水中は敵のホームグラウンドなら、そこから誘い出すのが得策だろう。
「ノーバさんがブラックさんをそこまで誘導するので、ブラックさんは催眠術で操って丘に揚げてください。」
「無茶を言ってくれる、が、頼られたからには応えるしかあるまい!なにせ私はブラックスターズのリーだぁあああああああああ!!!」
「行っていーよ。」
ブラックさんが言い切るより前に、ノーバによって祭りのぼんぼりのように吊り下げられる。
「寒っ!」
「何しに来た?」
「まあ見てろ、あなたはだんだん浜に揚がりたくなる・・・。」
触手の攻撃が飛んでくるが、それをマグマとベムラーはブロックする。そうしている間に、シャドウビーストはのっそりと移動を始めた。
「動き出したぞ!」
「溺れる!溺れるー!」
「彼女は何をやっているんでしょう?」
「・・・わからん。」
自分にも陸へ上がりたい暗示がかかって溺れているがさておき。
「で、こっからどうするの?」
「デカいやつなら、切り取って小さくする。」
「ノーバちゃん詳しいね?」
「まあな。」
「それにしても、遠近感沸かないからわかりにくいけど、とんでもない大きさじゃない?」
シンジは今まで見たことなかったかもしれない。以前東京タワーで戦った繭型ビーストと同じくらいかもしれないが、目の前にいるイカはさらに自由に動くことができる分驚異的だろう。しかしどうやってあんな大きさまで成長できたのか?
「ほらほら来たよきたよー!」
「近づいてきたら余計に寒くなってきたな・・・。」
ザバザバと砂浜にまで上がってきたシャドウビーストと対峙する。よく見ると体は半透明で、軟体というよりはゼリーのようにプルプルしていた。
「水の塊なのか?」
「うぇっ!よく見たら中身ゴミでいっぱい!」
イカというよりはクラゲ、そして波間を漂うゴミ袋のようである。半透明な体表の向こうに見えるのはゴミ、ゴミ、ゴミの山、プラスチックや空き缶のような、自然の力では処理できないようなものがいっぱい。
「なるほど、ゴミを溜めて質量を確保していたのか。」
「じゃあ、ゴミを分別しちゃえばどんどんちっちゃくなるんじゃないでしょうか?」
「海まで来てゴミ拾いかぁ。」
「シンジさん、こういうの好きだったんじゃないですか?」
「ペガッサさんもなかなか言ってくれる。」
どちらにしろ、ゴミをそのままにして帰るわけにはいかない。お掃除の始まりだ。
「ぬんっ!」
「ちぇりーすぷらーっしゅ!」
攻撃で、シャドウビーストの体から袋に穴を開けたように水が漏れ出し、少しずつ小さくなっていく。
「シンジ君!ペガッサ君を守れよ!」
「了解!」
「一軍人として、民間人や悪の組織に負けるわけにはいきません。」
攻撃は断続的に行われているが、しかしいくら切っても叩いてもシャドウビーストは平気そうにしている。
「こいつ、ダメージ受けていないのか?」
「核となる存在がどこかにいるはずだけど、こうも大きくちゃ・・・。」
「えーいまどろっこしい!もっとまとめて、一網打尽にできる方法はないのか!」
「一網打尽・・・。」
その言葉を反芻して、ペガッサとシンジは頭を巡らす。
「電気を流すのはどうでしょうか!」
「そうだ、海水ならよく電気を通す!」
電線は、防波堤を乗り越えた先の道路にあった。
「! そうだ、ラッキーアイテムは鉄板焼き!」
「そっか!日光で熱くなったアスファルトで焼けばさらにダメージが!」
「「ということで。」」
「またかぁー!」
当然囮はブラックさんが行く。心なしかノーバも楽しそうにしている。
「ええい、ままよ。お前はだんだん道路に上がりたくなれ!」
ズシンズシンとシャドウビーストは天然の鉄板の上に誘導され、ジュウジュウと音を立てて蒸発を始める。
「ワオ、ナイススメル。」
「また濃い海のニオイが・・・。」
「これで終いだ!」
電線を切り落とし、海水でできた水溜まりに電気が流される。たちまち、爆竹に火が付いたかのようにシャドウビーストの体が弾ける。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!」
「あっ、ブラックちゃん逃がすの忘れてた。」
そうしてシャドウビーストは動かなくなると、中心部から黒い塊が飛び出してくる。
「あれが核だな。」
「はい、おしまい。」
ベムラーのペイル熱線に焼かれ、塊が消え去ると、水とゴミで出来た体も動かなくなった。
「勝っちゃった?」
「ああ、我々の勝利だ。」
「ふ、ふはははは!!ブラックスターズにかかれば、朝飯前だ!ナーッハッハッハッ!」
その様子を見ていた、観客からは歓喜と感謝の声援が届く。
『ありがとー!GIRLS-!』
『サイコーだったー!』
「あれ?私たち、GIRLSと間違えられてる?」
「な、なんだとー?!」
「まあ、こうなるわな。」
世間的には怪獣娘=GIRLSと認識されている以上、こうなるとも予想出来ていた。
「お待たせー!って、もう終わっちゃってる?」
「遅いよ。そうだよ。」
「ゲェッ!GIRLS!」
「あーっ!ブラックスターズ!」
遅れてミカたちも到着する。
「お前らー!こんなに道路をゴミで散らかしやがって!さては全部お前らの仕業だな!」
「ノゥ!どうしてこうなる!」
「ゴミ拾い、全部やってもらうからねー!」
「そんなー!」
「では、私たちはこのあたりで失礼させてもらうよ。」
「休暇に戻ります。」
「待てー!ここまで手伝ったからには最後まで付き合ってもらーう!」
この後、やいのやいの言いながらタダ働きさせられるブラックスターズであった。
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「うーん、せっかく海に来たんだから、ひと遊びぐらいしたかったかなー。」
「そうですね、私も海なんて何年ぶりになるかな・・・。」
夕方、片づけも終わって防波堤で佇むシンジとペガッサ。シャドウが現れたとあって、ここの浜辺も一時的に封鎖されることとなり、海の家ブラックスターも撤収となってしまった。
「結局人助けをして海を綺麗にしただけだったねー。」
「ええい、これも全部GIRLSの仕業なのだ!」
「なにはともあれ、ペガッサもシンジも、グッジョブだ。」
「あの2人、なんかいい感じじゃない?」
「何がいい感じなのだ?」
「ブラックちゃん鈍感ー!」
「出来るなら、今度来るときはもっとゆっくりしたいね。」
「えっ、今度、って?」
「学生なら夏休み中でしょ?ならまだ遊ぶ機会はあると思うし。」
「でも、私夏期講習とかありますし・・・。」
「一日ぐらい、のーんびりしてもいいんじゃない?それか、一緒に遊ばない?」」
「ふぇえっ!?わ、私とですかぁ?!」
「うん、ペガッサさんのこと、もっと知りたいし。」
「えぇええええ?!そんな急に言われましても!」
「ああ、スケジュールは君に合わせるから、そんなに焦らなくていいよ。」
(どどどどどどど、どうしましょう!?私、男の子と遊んだことなんて・・・これって、デデデデ、デートのおさそい!?)
どうやらペガッサの夏はまだ終わらない模様・・・今年の夏は、お楽しみがいっぱい。
『チャットだぞー、確認しろバーロー。』
「ん?あ、ペガッサさん、ちょっとごめん。」
「え?あっはい。メールですか?」
「ちょっとね。友達から。」
駆け足でその場を去るシンジの後姿を、ちょっとした好奇心からペガッサは追いかけた。その友達は、すぐ傍まで来ていた。
「あー、シンちゃんおーい!」
「おー、ミカかー。そっちはどう?」
「こっちもあとは引き上げ!あーあー、せっかく海に来たんだからひと遊びしたかったなー!」
「仕事で来たんでしょ?さっさと帰れ。」
「んもー!シンちゃんつれないこというなよー!」
「はいはい、また今度遊んでやっから、ヘソ曲げるんじゃありません。」
「ホントだかんねー!レッドちゃんやエレちゃんとも、たまには遊んであげなよー!」
「わかってるよ。」
「んー♪シンちゃん大好きー!」
「・・・あはは、考えすぎ、だったかな?」
ゆらり、と純粋なペガッサのハートに一筋の影が落ちるが、そのことに気づくものは本人すら含めて、誰もいない。