「いきなりどうしたんですかベムラーさん?」
「私にもワンチャン、あるよな?」
「そんなキャラしてましたっけベムラーさん?」
服装よし、髪型よし、持ち物も抜かりない。携帯のバッテリーも満タン、電車に遅れもない、カギの閉め忘れもない、ちょっと気分を変えてヒールの靴も履いてきた。それなのに、妙に気分が落ち込むのはなぜでしょうか?ペガッサ星人こと平賀サツキの心には楽しみに半分、不安が半分積もっている。
「こら押すな!」
「よく見えないよブラックちゃーん。」
「お前ら静かにしろ。」
それはすぐ後ろの物陰に皆さんがいるせいでしょうか?皆サングラスや帽子で変装しているけど、バレバレです。
「あの、皆さん一体何を?」
「や、やーナンノコトカナー?」
「心配だから見に来たのだ。」
「やだノーバちゃん隠そうともしない。」
「心配?」
「ブラックちゃんたら、ペガちゃんがシンちゃんに篭絡されてGIRLS堕ちしないか心配してるんだよー?」
「なんですかGIRLS堕ちって?!そんなことなりませんよ!」
まるで見守る親かのように、ブラックスターズの皆さんがいる。
「まあシンジ君も既に我々の仲間だから、その点については心配ないが、リーダーとしては隊員の動向を知っておくのは当たり前であってだな!」
「素直に気になったからついてきたって言えばいいのにー。」
「そんなデリカシーのないことが言えるかー!」
「デリカシーのないことはするんだな。」
「ぐぬっ・・・だからこうしてバレないようにコッソリとだな!」
「もうバレてるんだってブラックちゃん。」
どこかズレたテンションなのも相変わらずで、安心できるのやら、恥ずかしいような。
「もう!でも、で、デート・・・中は何もしないでくださいね!」
「おーうぺがちゃんデートだってさー?」
「買い物に付き合ってもらうだけとか言ってたのに。」
話の発端は少しさかのぼる。海の家の一件があった後、いつもの秘密基地で。
「諸君、我が神ブラックスターの恵みを受け取れぃ!」
とブラックさんが、シンジ含めたその場にいる全員に茶封筒を渡してきた。
「なんですかこれ?」
「この間の海の家のバイト代だ!」
「とうとうバイトと言っちゃったよ。」
「資金稼ぎじゃなかったのー?」
「いらないのなら返してもらうぞー!」
「さすがブラックちゃん太っ腹ー!」
「えっ、これ結構な額じゃないですか?」
「こんなに貰っちゃっていいんですか?」
「もちろんだ!私は一度行ったことは訂正しないぞ!」
それは、学生の短期アルバイトと見比べれば多い方な金額だった。もっとも、ペガッサにはそのへんの勘定がよくわからないが。
「私、お給料もらったの初めてなので、ちょっと感激です。」
「おー、ペガちゃんの初任給だね!」
「ブラックスターズは給料を出さないからな。」
「大学のサークル活動の延長みたいな・・・。」
「ええいうるさいぞ!徴収するぞー!」
「「「わー。」」」
どたどたと幼稚園児のようにさわぐ4人を尻目に、ペガッサは一人手に持った封筒を見つめていた。
そうして夕方、ペガッサとシンジは共に帰路についていた。
「家が案外近かったのも驚きだね。」
「はい、まさかでしたね・・・。」
こうして並んで歩くことも珍しくないのが最近の習慣だった。一緒に帰ってるところ噂されたら恥ずかしいなんてこともない。
「そういえば、ペガッサさん。」
「なんですか?」
「自分が怪獣娘だってこと、ご両親には言ってあるの?」
「え、そ、それは・・・。」
「もし、言いにくいんだったら、僕も一緒に報告についてくよ?」
「いえ!そんなお手数おかけすることは!」
「そういうのが仕事だから、遠慮しなくていいよ?僕これでも一応GIRLSだし。」
「確かにそうなんですけど・・・。」
ちょっと立ち止まって、ペガッサはしり込みする。
「・・・悪の組織に入ってるってことが、言いずらい?」
「・・・はい、うち、親が公務員と教師で厳しいので。」
「公務員かー、うちの親父にもその爪の垢を煎じて飲ませたい。」
「え?シンジさんのお父さんって?」
「怪獣娘の研究者だけど、一回も顔合わせたことない。今まで生きてきて。」
「ええっ!?」
「いやホントの話。常に海外を飛び回ってて、声を聴いたことすらないんだよ。・・・一応顔は見に来てるらしいんだけど。」
それもつい最近・・・とボソッとシンジはこぼすが、ペガッサはそこに気づかないほど気が気でなかった。
「ホント無茶苦茶だよ、いきなりバディライザーを受け取りにこいとか、いきなり妹を送り付けてきたりとか。」
「妹?!」
「うん、アイラっていうんだけどね。ちょっと前に大騒動起こして大変だったりした。」
「あ、それちょっと調べました。うちインターネットも禁止なので、学校のパソコンを使ったんですが。シンジさんも、すごい有名人だったんですね。」
「まあね。それはそれとして、親に言い辛いってのはわかるよ。敵に立ち向かうのには勇気がいるけど、身内に立ち向かうのにはもっと勇気がいるし。」
「立ち向かう、って・・・。」
「けど、子供っていつか親の元を巣立つし、その先はなんでも自分で決められるし、決めなきゃいけなくなる。ペガッサさんの場合は、それが今ってだけじゃないかな?そしてそう出来る力ペガッサさんは持ってる。」
「もう持ってる?」
「今日貰ったバイト代が、その一つだと思う。参加は強制じゃなかったし、ペガッサさんが自分の意志で稼いだお金だよ。接客の経験も積んだ。学校の勉強じゃなくて、自分の行動から生まれた結果だよ。」
「そっか、私、お金を稼いだんですね!私にも出来たんですね!」
「そうそう、その意気!自信持って!」
ペガッサの目の前がぱぁっと明るくなる。自分の気づかないところで、自分は大きく成長していたのだと気づかされた。
「あ、でも・・・。」
「ん?なに?」
「私、友達と遊びに行くって言って海の家に行ってたので、嘘ついてアルバイトをしてたってことに・・・。」
「あー・・・たしかにそれはちょっとマズいかも?」
「ど、どうしましょう?」
「いや!娘の成長に喜ばない親はいないよ!たぶん。箱入り娘がこんなに成長するなんて、って思ったら僕だったら泣くね!たぶん。」
「多分!?」
「いや、泣く。ホント泣く。なんなら今泣く、ほら泣くぞ。」
「はわわ、泣かないでください!」
「そうだ、あの!シンジさんいいですか?」
「なに?」
「このお金で、私両親にプレゼントを買いたいと思ってるんです。」
「お、いいじゃん。親孝行。」
「その買い物に、一緒に行ってくれません、か?」
「ああ、OKだよ。」
「即答?!」
「前、いつでもOKって言ってたし。」
「それじゃあ、お願いします!」
そして現在に至る。
「諸君!次なる使命はペガッサのデートをサポートだ!」
「やめて!」
どこで聞きつけたのか、特に言っていなかったはずなのにこうして着いてきている。
「そもそも、サポートできるほどブラックちゃんに経験あるのー?」
「なっ!?あ、当たり前あろう!私を誰だと思っている!」
「喪女?」
「行き遅れじゃないわい!」
「誰が行き遅れだ失礼な。」
「あれ、ベムラーさん?なんでここに?」
「なぜか着いてこられたのだ。」
「あっ、シンちゃんだおーい。」
そこへベムラーさんを連れだったシンジがやってくる。
「いや、『たまたま』朝バッタリ会って、『偶然』行先も同じというから、一緒に歩こうってなっただけだよ?」
「うわーすごい偶然だねー。」
「うむ。」
ひょっとしてこの人たち示し合わせてた?!
「まあそれはそれとして、行こうかペガッサさん。」
「まさかのスルー?!」
「怪獣娘さんと付き合ってたら、もういちいち驚いてらんないから。」
「慣れてらっしゃる?!」
「ペガッサさんもそのうちそうなる。」
なりたいような、なりたくないような。シンジさん、最早ブラックさんたちはいないものとして扱うように歩きだしてしまった。
「ちょっ、マジでスルーするのか!?」
「じゃあこれで気兼ねなくストーキングできるね!」
「それはストーキングと呼んでいいのか?」
「ならもう一緒に買い物しに行っていいんじゃない?」
「あんなこと言ってますけど?」
「邪魔にならないならいいんじゃない?」
「ええ・・・。」
「スルースキルとは無視することじゃなく、気にしないことを言うんだよ。」
並んで歩くペガッサとシンジの後ろを、ぞろぞろと4人も歩いている姿は異様に映っただろう。これはこれで恥ずかしい。
「それで、ペガッサさんは何かプレゼントのアイデアとかある?」
「そうですね・・・やっぱり日用的に使えるものがいいでしょうか?」
「紳士用のプレゼントならハンカチとかかな。あと、暑いから扇子とか。」
「なるほど。」
「けど、ハンカチはまだいいけど、外で使うものなら柄とかに気を使った方がいいかも。」
「センスだけに?」
「なんか言った?」
「いえ・・・。」
「結構貰ったとはいえ、学生のアルバイト代で買えるものは限られてくるね。というか、自分のは何か買わないの?」
「私ですか?私は・・・とくに欲しいものとか無いですし。」
「そう、ペガッサさんって欲薄い?」
「欲がないというか何も知らないだけだと思います・・・流行りとかも全然わからないですし。」
「ふーん。」
とりあえずプレゼントは決まって、ショッピングモールのフードコートでドリンクを啜り、他愛のない話で盛り上がる。
「じゃあ、こういうところもあんまり来ない?」
「はい、セルフサービスなんて、なんだか学食みたいですね。」
「学食なんて、カレーかラーメンしか食べなかったなぁ。」
「席とるのも大変ですよね。」
「さて、目的も果たしたし、ちょっと遊んでいこうか。」
「あ、はい。でも遊ぶって、どんなことするんですか?」
「そりゃあもう、ショップめぐりしてウィンドウショッピングよ。」
「えっ、買わないんですか?」
「欲しいと思ったものを、次来た時に買おうって遊びに来る理由にするためだよ。」
「なるほど、次のために・・・。」
それから、適当に雑貨屋やアクセサリー店を巡って回る。
「さすがにランジェリーショップに入ったりはしないよね?」
「そ、そんなことできませんよ・・・///」
「だよね?それが普通の反応だよね?」
少し含みのある言い方に、ペガッサは内心で小首をかしげる。
「ほらほら~ブラックちゃんこういうの似合うんじゃない?」
「な!私はそんな派手なの着けないぞ!」
「たしかに普段穿いてるのはババ臭い・・・。」
「なんか言ったか!」
後ろでなんか楽しそうにしてるけど気にしない。
「そういえば、シンジさんって、GIRLSの人たちとは普段どんなことを?」
「別段特別なことはしない、かな?一緒に特訓したり、遊んだりもするけど、それ以外は普通。」
「普通に、デートとか、ですか?あのゴモラさんとか。」
「ん、そうだね。ミカとはよく一緒に遊ぶというか、遊ばれるというか。」
「そうなんですか・・・。」
当たり前だけれど、やっぱりシンジさんってGIRLSの人たちと一緒にいることのほうが多いんだ。仲のいい人たちもいっぱいいるんだろうな。
(私とのお出かけも、その延長線上なのかな?)
こんな風に一緒にお出かけなんて経験ないからわからないけれど、『遊ぶ』ってそういうものなんだろうか?ちょっとガッカリ。
「・・・って、わぁペガッサさん!」
「えっ?・・・あっ!今の無しナシ!」
気が付くと目の前に小さな黒い孔が開いていた。慌てて心に沸いた感情を否定して消す。
「ふぅ・・・びっくりした。」
「す、すみません!私、ネガティブになると勝手にこうなっちゃうみたいで・・・。」
「ネガティブか・・・、ぶしつけで申し訳ないけど、どんな風に思ったの?能力の発現にはちょっと興味がある。」
「ふぇえ?!そんななんだか、申し訳ないです・・・。」
「あー、ごめん。失礼だったか、忘れて。」
言い方によっては、『あなたと居ても楽しくないです』という風になりかねないので、口が裂けても言えない。
「・・・ちょっと休憩しよっか、甘いもの食べたくない?」
「甘いもの・・・ですか?」
「そうそう、ここのクレープ結構おいしいんだよ。」
「クレープ?」
甘いものは嫌いじゃない、けどちょっと意外な提案だった。
「はい、イチゴスペシャル。僕はバナナカスタード♪」
「あ、ありがとうございま。あの、お金・・・。」
「いいのいいの、奢りオゴリ。」
「シンちゃーん、私たちにも奢ってー?」
「バイト代出たでしょあんたたちは。」
「ちぇー、ペガちゃんだけには甘いんだー?」
「そりゃペガッサはいい子だからな。」
いつの間にか背中合わせのベンチにシルバーさんとノーバさんが居座っている。
「あれ、ブラックさんは?」
「ベムラーと飲みに行った。」
「昼間っから?」
「うん。」
やけに意気投合していたようだったけど。
「じゃあじゃあ、次はカラオケでも行っちゃうー?」
「もう普通に混ざるつもりなんですね。」
「一緒に遊んだほうが楽しいってー!」
「一理ある。」
と、言うことで、ここからは一緒に遊ぶことになりました。
「おーノーバちゃんうまーい!ペガちゃん何歌うー?」
「私、最近の歌とか知らないですよ?」
「僕もアニソンぐらいしか知らないかな・・・。」
ふと気づいたけど、やっぱりシンジさんとは何かと共通点が多い。だからか、なんだか気が合う。
「ほれほれ~、ペガちゃんとシンちゃんも何か歌いなよ~♪」
「また無茶ぶりを・・・。」
「はわわ・・・。」
「じゃあ、僕がリードするから、ペガッサさんコーラスをお願い。」
「ええっ?!」
「おーおー、思いっきり声張り上げちゃえー!」
選んでくれたのは、熱いコーラスを歌うだけでいい曲。簡単にノれて助かる。
「ペガちゃんイイヨー!」
「グッジョブだ。」
「僕には何もないの?」
けどなんだか、とっても楽しく遊べた気がします。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「じゃあねまた明日ー♪」
「アディオス。」
一日中遊んで夕暮れ。シルバーさんたちはブラックさんを迎えに行くという。
『結局二人で、とはならなかったね。」
「そうですね・・・楽しかったですけど。」
「楽しかったならいいけど。」
シンジはペガッサさんとまた一緒に歩いている。今日一日一緒にいて、その性格や人物像を分析していた。
(欲が薄いというより、世間知らずって感じかな。悪いやつらに騙されなきゃいいけど。)
もう騙されている、ということを忘れつつある。
「今日はお付き合いしていただいて、ありがとうございます。」
「ううん、気にしないで。僕も結構楽しかったよ。・・・そうそう、これを。」
「なんですか?」
これを、と渡したのは小さな細長い箱。
「これって・・・?」
「さっきペガッサさんが見てたネックレス。」
「いいん・・・ですか?」
「今日付き合ってくれたお礼、かな?何かあげたかったし。」
ウィンドウショッピングしていた時、ペガッサさんが注目していたのをこっそり買っておいたのだった。
「キザったらしい行いだって自覚はあるけど、まあよかったら受け取って。」
「・・・嬉しいです!ありがとうございます!」
どうやら喜んでくれたようだ。
「大切に・・・しますね・・・。」
「泣くほど?!」
「ちょっと、驚いちゃって・・・。」
そんなに喜んでくれたなら、成功かな?
「じゃあ、また明日。プレゼント渡すの頑張ってね!」
「はい!また明日・・・!」
「お、シンちゃんおかえりー!」
「ただいまーって、なんでシルバーさんたちが?」
「ブラックがここで飲んだくれているからだ。」
「ああ、お邪魔しているよ?」
「人の家で宅飲みしてんじゃね-よ!」
家に帰ってビックリ。家が乗っ取られていた。リビングに入ると、ブラックさんがソファーで一升瓶を抱えて泥酔していた。
「うーわ酒臭っ!人の家でなにやってんですかあなたたちは!」
「いやー、ブラックが途中から君の家を見たがっていてだな。」
「だからって案内までした挙句、酒盛りまでやるかフツー?!」
「ブラックが真っ先に君のベッドの下を調べようとしていたからな。」 「・・・なら仕方ない?」
「大丈夫、ブラックちゃんに変わって私たちがしっかり調べといたよ!」
「全然大丈夫じゃねえわ!」
「なかなかグッジョブな趣味してる。」
「よくねえよ!」
ノーバさんはゲームしてるし、シルバーさんは勝手に飯食ってるし。
「ほれほれー、シンちゃんも飲み明かしちゃえー!」
「認めてしまった方が楽になる。」
「お前らもう帰れー!」
こうして結局深夜までどんちゃん騒ぎが続いた。
そして翌日。
「頭痛がする・・・吐き気もだ・・・。」
「シンちゃんおっはー☆」
「おっはー・・・ってまだいたんかい。」
「今日もペガちゃんと遊ぶからねー♪」
「だからねー、じゃねえよ。なんでウチに来るんだよ。」
「お前の家が存外近かったからだ。」
「何する気?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれたな。今日はペガッサの家にお宅訪問をしようというわけだぁ!」
「やめてさしあげろ。」
すっかり回復したブラックさんが上座に座っている。
「ただでさえペガッサさん悩んでるのに、これ以上悩みの種を増やす必要ってある?」
「だから、我々の手で不安の芽を摘み取ろうというのだよ!」
「そういうの、おせっかいって言うんじゃない?」
「えー、シンちゃんペガちゃんのこと心配じゃないのー?」
「そりゃあ気になるけど、ペガッサさん自身で解決しないと意味ないんじゃない?」
「確かに。」
「それに、どうせならペガッサさんに頼られるまで待った方がいいと思う。ペガッサさんに他人に頼ることを覚えてもらいたい。」
「それはいいねー!じゃあ朝ごはんにしようー!」
「帰れ!」
「やあおはよう。どうしたんだい、そんなに大きな声出して?」
「ベムラーさん、あなたまで・・・。」
すごい薄着のベムラーさんがリビングにやってきた。この人まで泊まってたのか。
「しかしリーダーとして、何もしないというのはなぁ・・・。」
「まあまあブラック、まずは自分でやらせてみて、それからフォローしてあげるというのも上司の務めだろう?」
「うぬぅ、それも・・・そうか。」
それからややあって、ひとまず解散とあいなった。
「ではまたなシンジ君にベムラー君!」
「じゃねー。」
「アディオス。」
「さて、今日は誰とデートするのかな?」
「別に毎日デートしてるわけじゃないですよ?」
「そうかい?今も外で幼馴染を待たせているんじゃないのかい?」
「え?マジ?」
見れば窓の外にすごい形相のミカがいた。
「シンちゃん~?」
「ちょっとまって。」
破壊される前に窓を開けると、のっそりのっそりとミカは歩を進めてくる。
「一体どういうことかな?」
「どうって?」
「ベムラーちゃんにそんな恰好させて、昨日はお楽しみでしたね?」
「ぶほっ。」
「ああ、シンジ君は随分うまくなったよ?」
「ほう?」
「麻雀の話だからな?!」
「お姉さん、スッパ抜かれてしまったよ。」
「脱衣麻雀?」
「違う!」
「で、昨日は結局なにやってたのかな?」
「別に、両親へのプレゼント選びを手伝ってあげただけ。」
「ふーん、それってあのペガッサ星人の子?」
「そう、主任と同じペガッサ星人だけど、別のペガさん。」
「それはわかるよー。けどなにシンちゃん、実はああいう後輩系タイプが好みなの?」
「違う。」
「そうだろう、キミのタイプは年上お姉さん系だろう?」
「それもなんか違う。まあとにかく、何もやましいことはしてないよ今回。」
「ふーん。ときにシンちゃん。」
「なに?」
「このババ臭い下着、誰のかな?」
「ぶっ!?」
「?・・・なんかスースーするな。」
「ブラックちゃん酔って脱ぎまくってたからねー。」
「さて、今日は私と遊んでくれるんでしょ?というかあそぼー!」
「まあ、怪我が治るまでは待ってあげな。」
「ベムラーさんも止めなかったですね・・・。」
「人の恋路に手を出すと、噛みつかれそうだったんでな。」
笑顔だけど目が笑ってないぞミカ。
と、そんなことをしていると、インターホンが鳴った。
「はーい、どちらさまー?」
「家主に代わって出るのか・・・。」
『えっ?!あの、濱堀シンジさんのお宅ですよね?」
「おっとー、シンちゃん年端も行かない女の子を家に呼ぶなんて、やるやん?」
「だから誤解だっての!」
「少なくともこの惨状は見せるわけにはいかんだろうな・・・。」
そうして
「は、はじめまして?」
「初めましてではないかな?私はゴモラ!GIRLSの人気者で、シンちゃんの幼馴染だよ!」
「ペガッサ星人です、ブラックスターズで参謀やってます。」
「おー、参謀なのかー頭いいんだね!よろしくねー!」
かなりミカが食い気味に見える。
「圧迫面接じゃないんだから、なにも全員この場にいる必要ないんじゃない?」
「えー、私ヘンなことしないよー?ヘンなことするのはシンちゃんでしょー!」
「圧がすごいんだよ、なんか今日のミカは!」
「あわわ・・・なんだかタイミングが悪かったでしょうか?」
「気にするな、この二人に関してはいつものことだ。」
半分は惚気で出来ているのだから、見せられているほうからすればたまったものではない、と。
「それで、ペガッサさんはどうしてここに?秘密基地の方じゃなくて。」
「それは・・・その・・・。」
「私たちはいないほうがいい?」
「いえ!ゴモラさんあベムラーさんに聞いてもらえたらいいとも思ってます。その、迷惑でなければ・・・。」
「他人のほうが気兼ねなく話せるものだ、聞くよ。」
「実は、昨日両親から怪獣娘としての活動について聞かれてしまいまして・・・。」
ゆくゆくはGIRLSの一員として活動していくだろう?と言われて、何も答えることができなかった。
「予想はしていたことだったんですが、いざ言われてしまうとどうしても・・・。」
「そうだろうねぇ。」
「そもそもGIRLSですらないのに。」
「GIRLSは公的機関なのでまだいいんですけど、ブラックスターズは絶対ダメだって言われそうで・・・。」
「そうだろうねぇ。」
さてどうしたものか、考えていた通り書類やなんやらを偽装して所属しているフリにはできるけど、それもいつかボロが出るだろうしなぁと¥、シンジが思案していると、それより先にミカが口を開いた。
「ふーん、ペガちゃんもシンちゃんも、肝心なこと忘れてない?」
「「肝心なこと?」」
「そ。そもそも、GIRLSに所属することは怪獣娘の義務じゃないってこと。GIRLSの外で活動してる子もいっぱいいるよ?」
「それはそうだけど・・・。」
「それに、もう一つ忘れてることがある。特にシンちゃん。」
「え、僕?」
「そうだよ。そもそもペガちゃんは怪獣娘である前に、一人の女の子だってこと。」
ズバリ、とミカは言い切った。
「女の子なんだから、やりたいこといっぱいあるよ。それを怪獣娘だからってだけで我慢することはないと思うな。ペガちゃんのやりたいことが、一番大切なことだよ。そこにGIRLSもブラックスターズも関係ないよ。」
「じゃあ、どうしてゴモラさんはGIRLSに?」
「私は、アイドルやるのも好きだし、なによりみんなと一緒にいるのが楽しいから、かな?他にもあるけど。」
「ミカはそれだけでいいんだな。」
「それだけってなにさ、私にとっては一番大切なことだよ!」
「わかるよ、別にGIRLSが絶対ってわけじゃない。所属するかしないかは個人の考えだ。・・・フリーランスのほうが色々と楽だ。」
「だから、まずGIRLSに所属するかどうかは一旦置いといていいよペガちゃん。」
「はい!」
これで一つ問題が解決した。
「で、問題はもう一つの方。」
「悪の組織に入りたいですってもしも子供が言って来たら泣くね。もう入ってるんだけど。」
「こればっかりはもうどうしようも・・・。」
「なにも正直に言うことないんじゃない?青少年健全育成のボランティアしてますってでも言っておけば。」
「どうだかな、ブログにペガッサの顔と名前載ってるから、そのうちバレるだろうし。」
「えっ、ブラックスターズブログあるの?」
「シルバーが勝手にやってる感はあるがな。」
主にブラック指令のオモシロ写真が載っている。本人が知っているのかは定かではない。
「娘の名前でエゴサしてこれが出てきたら嫌だなぁ。」
「あわわ・・・いつの間にこんなものが?」
「まずは彼女たちとの相談が必要かもしれんな。」
「てかペガちゃんさー、なんでシンちゃんのとこにまず来たの?」
「えっ、それはその・・・。」
「おやおや。」
「ほうほう?」
心なしか赤面するペガッサを見て、ミカとベムラーはニヤニヤする。
「まあその辺のことは一旦置いといて・・・どうする?やっぱり直談判するしかないかな?」
「なんにせよ説明が必要だな。取り付く島があればいいが。」
「ウチ、厳しいですから・・・。」
「でも、一番大事なのはペガッサさんの意思だよ?
「話は聞かせてもらった!!」
「なに?」
「銀色のレイダー!シルバーブルーメ!」
「赤きスナイパー!ノーバ!」
「漆黒のリーダー!ブラック指令!」
と、いつもの調子で冷蔵庫や床下収納など部屋のあちこちから登場してきた。
「いつから隠れてた!?」
「気にするな。」
「ペガちゃんーん!どうして相談してくれなかったのー?!」
「み、皆さんに迷惑かけたくなかったので・・・。」
「それぐらいの悩みがなんだ!我々はチームじゃないか!一人の悩みは皆で共有すればいい!」
「そういうことを惜しげもなく言えるのは、本当にいいところだと思うよブラック。」
「で、具体的にはどうするつもりなのブラックさん?」
「当初の予定通り、ペガッサ君の家に凸撃だあ!」
「そういうところがキミのダメなところだぞブラック。」
「じゃあまずは、ブラックスターズのいいところのプレゼンやってみようか。」
「私たちのいいところってどこかな?」
「休みはたくさん出るな。」
「それはそれで不安。」
「笑顔溢れるアットホームな職場だぞ!」
「不穏だなぁ。」
ああでもないこうでもない、と話は難航した。
「というか、むしろペガッサに職場改善していってもらいたいぐらいだ。」
「あはは・・・そのつもりではあったんですけど・・・。」
「そんなところに娘をやれるかー!って言われるかもね。」
「ところで、お母さんは教師なんだったっけ?」
「はい、そうですけど?」
「妻が母親であることを辞めて、女でいることを選んで、旦那もそれを認めた家庭でなければいいのだけれど。」
「な、なんですかそれ?!」
「それペガちゃんが宇宙人扱いされるパターンでしょ。」
「ペガッサ星人は宇宙人だろう?」
そうしているうちにだんだんとゴールを見失い、膠着状態に陥った。
「あーあ、どうしたもんかねー。」
「ぷはーっ、シンちゃーん、コーヒーおかわりー。」
「あー、それ私のマグじゃんー!かえしてよシルバーちゃーん!」
「真面目に考えろよ!ブラックさんもビール開けないで、っていうかなぜビールがある?」
「ああ、それ私が冷やしておいたやつだ。」
「ベムラーさんまでなにやってんですか・・・。」
「騒がしいな。」
「あーっ!ノーバちゃんなにやってんのさー!」
「ゲームをしている。」
「なんで僕の膝の上に座ってゲームしてるのかって聞いてるんだと思いますよ。」
「お前の懐は妙に心地いい。」
「ぐぎぎ・・・私だって週に3回しかやってもらえないのに!」
「・・・。」
その時、不思議なことが起こった。
「あれっ・・・これは・・・?」
「わぁあああダークゾ-ンだぁ!」
だらけ切った空気にペガッサの怒りは頂点に達し、部屋にいた全員がダークゾーンに飲み込まれた!
「まだだ、まだ終わらんよ。」
約一名、赤いてるてる坊主だけは脱出に成功していた。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「・・・はっ!?ここは?うっ、体が重い・・・。」
「ひゃあっ?!そこはわたしの・・・。」
「イヤン、シンちゃんったらデリカシーない♡」
「そう思うんなら上からどいてほしいんですけど!」
「シ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛ンンンンンンン???!!!」
「どう見ても冤罪だろ!」
どこを触ったかは想像に任せる。ともあれミカのとばっちりでブラックは吹き飛ばされ、壁にぶつかりながら宙を舞う。
「ここダークゾーンみたいだけど、ペガちゃんどこ行っちゃったのかな?」
「ほーん、ここがそうなんかー。」
「広さがどれぐらいあるのかもわからんし、そういえばノーバは?」
「一人逃れたようだ。彼女なら心配ないだろう。」
「そうだね、ノーバちゃんならなんとかしてくれると思う。」
周囲を少し散策してきたベムラーも戻ってきた。が、どうやら近くにはペガッサはいないらしく、外に出る方法も現状無い。ダークゾーンから出るには、ペガッサ星人の力が不可欠である。
「どこ行っちゃったんだろうねー、ペガちゃん?」
「能力を暴走させてないといいけどねー。」
「ペガッサが暴走?ありえんな!」
「根拠は?」
「ペガッサだからだ!」
「でも大人しい子ほどキレるとヤバいって言うよ?」
「そもそも、私たちがここにいること自体がもう力の暴走なんじゃないか?」
「ペガッサさんの能力の発動条件は?」
「ペガちゃんがネガティブなこと考えると、ダークゾーンが出てくるんだけど?」
「あの場の空気が、ペガちゃんを追い込んじゃったんじゃない?」
「くっ、我々ではペガッサの力にはなれなかったのか?」
「家庭問題は、難しい問題だしなぁ。」
「それよりも、今はこっから出る方法を探そう。」
「最悪ここで暮らすことにもなっちゃうかもね?」
「えー、食料とかどうするの?」
「・・・シンちゃんを食べちゃおうか。」
「食べないでくださーい。」
『・・・ジメに・・・』
「ん?ブラックちゃん今なにか言った?」
「私?私は何も。」
「腹の虫じゃない?」
「たしかにブラックちゃんの最近のお腹周り事情を鑑みると?」
「うひゃあ!そんなことないわ!」
『・・・マジ・・・』
「マジでなんか聞こえてこない?」
「私にも聞こえたな。」
「聞こえてないのはブラックちゃんだけだよ。」
「ヴェッ?!」
『マジメにやってくださ~~~~い!!!』
地面などない異次元空間のはずなのに、空間が揺れているのを全員が感じ取った。
「な、なんだぁ?!」
「あーっ!なんだあれ?!」
「デカーッ!」
上空と呼んでいいのか、全員の上方に、幾何学模様のように折り重なったか円錐状のドローン軍団が現れる。
「その声、ペガッサか?!」
「ペガちゃーん!どうしてそんなに大きくなっちゃったのー?」
『みなさんが悪いんです・・・皆さんがマジメにやってくれないからぁ!』
ペガッサの叫びと共に、ずぉおおおっと軍団が津波のように押し寄せてきた。
「わーこっち来たー!」
「ブラックちゃん説得お願い!」
「ま、まかせ・・・無理だわこれ!」
この軍団を操っているのはペガッサと見て間違いないが、ブラック指令の催眠術は、相手の顔が視認できないことには使えない。今見えているのは、軍団であって、ペガッサ自身ではないから。
「ウッ?!近づいただけでこの違和感・・・まさか超重力の力?」
「見た目と質量が比例していない?」
「とりあえず逃げろー!」
加えて、軍団は直接ビームなどは放ってこそしないものの、まっすぐとこちらに向かってくる質量攻撃をしかけてきている。近づくことすら危険なのでは、手の出しようもない。
「ええい、なぜだペガッサ!なぜ我々を攻撃してくるのだ!」
『攻撃・・・なんかじゃありません!「
「オシオキだと?!」
『そうです!悪い子には指導が必要なんです!』
すると突然、軍団のスピードが増してシルバーブルーメを取り囲んだ。
『まずシルバーさん!!いっつも見てばっかりで、自分は食べてばっかり!少しは節制してください!30点減点!』
「グワー!お、重い・・・。」
軍団が30個、シルバーブルーメにのしかかる。
『次はゴモラさん!』
「えっ、私今日あったばっかじゃん!・・・そうでもないか。そうでもなかったね、うん。」
『ゴモラさんは人前でベタベタしすぎです!50点減点!』
「えぇーっ!そんなこと私してないよー!ぐへー!」
「いや、してるしてる。」
今度は50個、ゴモラにのしかかる。
『次はベムラーさん!・・っていない!』
「逃げたのか?!」
「まさか自力でダークゾーンから脱出を!?」
いつのまにか、ベムラーは忽然と姿を消していた。
『じゃあ、連帯責任でブラックさん!』
「わ、私はなにもやましいことはしていないぞ!」
『してるじゃないですか!最近は昼間からお酒飲んだり、人を付け回したり!ベムラーさんと合算で120点減点!』
「まさか、120個ぉ?!」
のしかかるという生易しい表現ではなく、滝のようにブラック指令に雪崩れ込む。
「あれ、これ僕もヤバいパターン?」
『そうです!シンジさん!』
「なんで!僕こそ悪いことしてないでしょ!」
『シンジさんは・・・いっつも一歩引いたような立ち位置で、人目もはばからずイチャイチャするし、挙句デートなんかに誘って、プレゼントまでしてくる、風紀紊乱で1億点減点!』
「ケタがおかしくないか!」
数の問題でなく、空間そのものが迫ってくると、シンジをあっという間に藻屑に変えた。
『ふん!ふん!!』
「ペガちゃん一体どうしちゃったのー!」
「ひどいよー!」
「ペガッサ!我々をどうするつもりなん・・・ぐっへぇ・・・。」
『皆さん反省するまで、そうしていてください!』
「でもさー、ペガちゃん!ペガちゃんのやりたいことって、きっとこういうのじゃないでしょ!」
「そうだ!きみはこんなことをして喜ぶ人間じゃないはずだ!」
「目を覚ましてー!」
ぐっ、とペガッサは狼狽える。大体、こうやってオシオキをした後、どう収集をつけるのかもきっと考えちゃいないのだから。
『どうにもできません!だって私にも、どうしたいのかわかんないんですから!』
「とにかく今は落ち着いてー!」
「私たちを解放しろー!」
「いや、むしろ思いっきり吐き出したほうがいいかも?ペガちゃん、今は思いっきりやっちゃってイーヨ!」
「なーっ?!なんてこと言うんだゴモラー!そりゃあお前はパワータイプだからいいかもしれんが、我々はもっとか弱いんだぞ!」
「うるさーい!ブラックたちだって怪獣娘なんだからこれぐらい平気でしょー!」
無事でないものが約一名
『そんなこと、わかんないですぅううう!』
まるで叱られた子供が癇癪を起こしたかのように、ペガッサはパニックになってダークゾーンを揺らす。
「あわわ?!」
「ちょっと、これマズいんとちゃう?」
「お前が全部吐き出せとかいうからだぞゴモラ!」
「なにをー!ブラックたちが情けないからいけないんじゃんか!」
ドローン同士がくっつき合い、一つに戻ろうと胎動し始める。
「つ、つぶれ・・・。」
「むぎゅう・・・あっ、ブラックちゃんのいいとこはっけーん・・・♪」
「お前、こんなときまで・・・って、こっちにはシンジ君。」
「んもー!シンちゃんまでこんな時に・・・ぐぅうう・・・。」
誰の声も届かないダークゾーンで、一塊の墓標が出来上がりかけていた。
『あれ・・・わたし・・・一体何をして・・・。』
「うぉおおおおペガッサぁ!能力を止めろぉ!変身解除だぁ!」
『えと、ソウルライザーは・・・どこ?というか私、今どうなってるんです?』
ようやく正気に戻りかけてきたペガッサだったが、その様を見ていることしかできなかった。すでに力を、心の底の感情を抑えきれなくなっていた。
変身解除しようにも、自分が今どうなっているのもわからないということに気が付いた。ただ出来るのは狼狽えることだけ。
「あっ・・・これマジでヤバいね。」
「今頃ぉ?」
「どうしようシンジ君息をしていないぞ!」
『えっと・・・あれ・・・私・・・どうしたら・・・。』
その時、心の奥の底の底、自律心に押し込められていた心の叫びが、ようやく口を開いた。
『誰か、助けてぇええええええええ!!!』
「助けます!」
『えっ?』
ここにいる誰でもない、誰かの声がダークゾーンに響くと、軍団の拘束が解けて、ブラック指令達は放り出される。
「ぐぅ・・・今の誰だ?!」
「あれって、ペガちゃん?でもなんか雰囲気違うような・・・?」
「あれは・・・ウチのペガッサちゃんだ!」
ダークゾーンに穴を開けられるのはペガッサ星人だけ、しかしペガッサ星人はもう一人いる。それが今ここに、助けに来た。
「どうやら間に合ったか。」
「ノーバ!」
「ウチのペガッサちゃんを呼びに行ってたんだね!」
「それと、ベムラーのマシンも持ってきた。」
「ああ、助かる。やはり愛車があると気分が違う。」
「って、ベムラー今までどこに居た?!」
「潜航モードで隠れていた。全滅するわけにはいかなかったからな。」
「ホントはただ逃げてただけと違う?」
「ナンノコトカナ?」
『ペガッサ星人さん・・・?』
「ええ、あなたと同じ。だから、私ならあなたの気持ちになれる。」
「シンジさん!バディライザーを貸してください!」
「シンちゃん息してないの!」
「ほいっ!」
「キャッチ!っと。」
ペガッサ主任の呼びかけに、ベムラーがシンジの腰からバディライザーを取って放り投げることで応える。
『よっ、主任。なんか用?』
「あさつきさん、緊急コード、プロテペロペロリンガ!」
『あー、うん、オッケー。限定解除。』
「ちょっとガマンしてねペガちゃん!みなさん、そのドローンをバラバラにしてください!」
「バラバラ?攻撃すればいいの?」
「そうです!今はそうしてください!」
「うぬぬ、なにか作戦があるのなら仕方がない、総員攻撃開始だぁ!」
「うっ、吐きそう。ダメダメ、ダメよ。」
「それで、これからどうするの?」
「ペガッサさんの姿が見えたら、バディライザーを使って変身解除させます。」
「ソウルライザーじゃダメなの?」
「おそらくキャパシティオーバーになるかと。それに、力を制御するならこっちのほうが向いています。」
「抑え方を覚えさせるのね。」
「そうです!」
主任はカードを一枚取り出す。それはペガッサ星人の、自分のカードである。
「同じ宇宙人同士なら、これで繋がれる!」
「なるほどな。」
「超振動波ー!」
「チェリースプラッシュー!」
『いったー!』
「おい、思いっきり痛がってるじゃないか!?大丈夫なんだろうな!」
「ちょっとガマンしててね。あとは、ベムラーさん!」
「私の愛馬は狂暴だぞ?」
「かまいません、追い付かれないように飛ばしてください!」
攻撃を受けた軍団は塊から分離していく。それらをベムラーの後ろに乗ったペガッサ主任が誘導する。精神的にリンクすることで、一時的にペガッサさんの力もコントロールできるようだ。
「聞こえてますか、ペガッサさん?」
『は、はい!聞こえてます!すみません、私のせいでこんなことに・・・。』
「怪獣娘にはよくあることよ!それよりもどこか辛くない?」
『平気です!みんなが私を助けようとしてくれること、感じてますから!』
「ならもう少し辛抱していて!あなたの王子様はまだ目覚めないみたいだけど。」
『お、王子様?!』
「彼、すぐ人をその気にさちゃうから、きっと余計に気を使わせちゃったんでしょう?そのせいもあると思う。」
『うぅ・・・それは・・・。』
「恥ずかしいことじゃないわ、人を好きになるって素敵なことだから。その好きを、もっと広く持つべきなのかもしれないわ!」
『広く、ですか?』
「そう、そういうときはこう言うの。『お友達から始めましょう』って!」
塊が離散されつくして、それらすべてをペガッサ主任が制御下に置いた。それらを並び替え、一枚の正しい形に作り替える。
「ペガッサ・・・!」
「全部、ペガちゃんだったんだ!」
ドットアートで表されたペガッサの姿が完成させられる。そこへ向けて、やりきった表情のペガッサ主任がバディライザーを向ける。
「私とも、友達になってくれる?」
『はい!よろしくお願いします、ペガッサさん!』
「ふふ、よろしく、ペガッサさん。」
眩い光があたりを包むと、ダークゾーンも同時に消滅していった。
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「う、うーん・・・あれ、私・・・?」
「おおペガッサ!気が付いたか!」
「みなさん・・・戻ってこれたんですね。」
気が付いたペガッサの目に入ってきたのは、他所の家の天井と、心配そうに見下ろす仲間の顔。シンジの家に帰ってきたのだった。
「みなさんに、とんだご迷惑を、ごめんなさい!」
「いいよいいよ、なにはともあれ、最小限の被害で済んでよかったよ。」
「そうだそうだ、失敗なんて誰にでもあることなのだから。」
「ブラックちゃんは失敗してばっかりだけどねー♪」
「プッ、たしかに。」
「お前らー!」
場を和ませるつもりなのか、それとも素なのか、ブラックスターズはいつもの調子に戻った。しかしペガッサの顔はまだ暗い。
「まあ、なんだ。ペガッサなら大丈夫だろう。もうこんなアクシデントには見舞われない、ハズ。」
「そうも言ってられないだろう?暴走する不安というのをいつまでも抱えているわけにはいかないだろうし。」
「ではどうすればいい?」
「ブラックにもわかっているだろう、あとは本人の意思次第だ。」
「グゥ・・・。」
本当はとっくにわかっていた。ただ一歩を踏み出す勇気がなかった。本当にそれでいいのか、決めあぐねていた。
「ペガッサさん?」
「なんでしょうか、えっと、ペガッサさん?」
「そうん、どっちもペガッサじゃあ紛らわしいし。私は『沢中イズミ』、イズミでいいですよ。」
「あ、私は『平賀サツキ』です。イズミさん、ありがとうございました。」
「よろしくね、サツキさん。」
「サツキさんは、自分がGIRLSに入るべきだ、と思っているのよね?」
「はい・・・それが賢明で、最善の手だとは思っているんです。けど、それはブラックスターズの皆さんを裏切ることになるんじゃないかって・・・。」
「うーん、それは半分間違ってると思うな。」
「半分?」
「そう、今GIRLSに入ったからと言って、これからずっとGIRLSに所属し続ける必要があるわけじゃないよ?GIRLSはゴールじゃない、あくまで通過点ですから。」
「通過点・・・。」
「ああもちろん、そのままGIRLSに在籍していただけるなら歓迎しますよ?」
「いえ!そんなことは!」
「なら、それでいいと思う。」
「・・・わかりました!私、GIRLSに入ります!」
「ってことだけど、いいのブラックちゃん?」
「・・・いいさ、ペガッサが自分で決めたことなら。」
「ブラックさん、すいません。」
「いいんだ!いろいろ勉強して、ブラックスターズの力になってくれ!・・・ついでに、いろいろ持って帰ってきてくれると・・・。」
「それ、横領ですよ?」
「冗談だ、冗談!ナーッハッハッハッ!・・・はぁ。」
これでいいのだ、かわいい子には旅をさせよとも言う。立派になって帰ってきたペガッサを、温かく迎えてやれればそれでいい。と、ブラックは納得する。
「う、うーん・・・あれ?」
「おっ、シンちゃんも起きた?」
「・・・一体なにがあった?」
「もう解決したってことかな。」
「ひょっとして僕、あんまり役に立ってなかった?」
『その通りだよこんにゃろーめー。』
バディライザーは手元に戻ってきていたが、事態はすべて終結していた。
「シンジさん、あの、お話が。」
「ペガッサさん・・・あれ?主任もいる?」
「はい、イズミさんにも勧められて、私GIRLSに入ることにしました。」
「そっか・・・それで?」
「それでその、えっと・・・私、シンジさんのこと好き!でした・・・。」
「過去形?」
「いや、今も好きです!けど、今は私もどうすればいいかわからないので・・・お友達から、初めてくれませんか?」
「僕ら友達じゃなかったの?」
「シンちゃん?」
「あぅ、そうじゃなくって、改めて!改めてお友達になってください!」
「うん、わかった。よろしく。」
「私もよろしくだね!ペガちゃん!先輩としてビシバシ指導していくよー!」
こうして、ブラックスターズを中心に据えた、ペガッサ関連の事件は終わりを迎えた・・・。
「GIRLSは通過点か・・・。」
「どうした、シンジ。」
けど、シンジはまだ問題を抱えていた。
「いや、僕も身の振り方を改めるべきなんじゃないかと思って、ペガッサさんを見習って。」
「っていうと?」
「まさか?!私と正式に付き合っちゃうって公言しちゃうの?」
「えっ、付き合ってなかったの2人とも?」
「そんなことじゃなくって。僕もこのままここにいていいのかって話。」
「今までは、怪獣娘と仲良くなるためにGIRLSにいたけど、GIRLSにいることだけが全てじゃないって、最近思ったんだ。」
「我々のようにGIRLSとは敵対関係にある怪獣娘もいることだしな!」
「そもそもブラックスターズってGIRLSの敵なの?」
「敵だろう?光と闇は決して相容れぬ!」
「まあそんなことはいいとして。」
「そんなこと?!」
「ブラックさん、マジメに聞いてください。」
「ペガッサまで・・・もうすでに親離れが始まっているのか!」
「はいはい。えーっと、どこまで話したかな、そうそう。GIRLSに縛られるということは、それだけ機会を見逃すということかもしれない。ずいぶん前に言ったけど、もしもGIRLSが怪獣娘を守らず、管理するために動くようになったなら、もう僕はGIRLSにはいられないし。」
思い出させるは、一年前の出来事。あれからしばらく昏睡状態となっていたが、そうせざるを得なかったのは自分の力不足が原因だと思うし、考えが甘かったのかもしれないとも思う。もはや自分自身すら信じられなくなった。
それでも、正しいことをしようと思えていられたのは、かけがえのない仲間たちがいたからだと思う。仲間たちの元へ帰るため、その居場所を守るためにこそ、戦えた。そのことに後悔はしていない。
なお、その当人たるリコは現在アイラと共にアメリカに渡っている。いかに凶悪なビーストであろうと、さらに凶悪な怪獣王がそばにいては縮こまるしかないという考えからだ。
閑話休題。要するにGIRLSに頼らず生きていきたい。今度こそ、自分の力だけで大切なものを守れるようにするために。
「だから、これからはフリーで活動していこうと思う。依頼があればGIRLSの元でも働くけど、自分で考えるっていう力を磨きたい。」
「そっか・・・、シンちゃんも自分で選んだんだね。」
「それでもいいと思いますよ。シンジさん、まだまだ若いんですから!博士には私からも説得しますよ。」
「では、これからシンジ君もフリーランスになるということだな?」
「はい、そうですね。ベムラーさんと同じく。」
「ふむ・・・。」
ニヤリ、とベムラーは瞳の奥で笑った。
「では私の事務所に来ないか?報酬は応相談だぞ?」
「あっ、ズルい!それならば我々ブラックスターズに来ないか!」
「それじゃあ何のためにフリーになったのかわからないと思うんですけど!」
「わ、私も、先輩が一人いなくなっちゃうのは寂しい・・・かな?」
「そうねぇ、コーチの役が必要になるっていうのにねぇ?」
「ペガッサさんたちまで・・・。」
「んもー!なに言ってんのさー!シンちゃんは生まれてからずっと私専用のマネージャーなんだから!」
「ミカ、お前まで乗るこたぁないだろう?」
「楽しそうだったからつい。」
「さあどうする?」
「どうする?」
「キミならどうする!」
「・・・どうしよう?」
シンジの受難は始まったばかり。
ということで、区切りもいいので今回で最終回となります。これまでのご拝読、本当に、本当にありがとうございました!