「すまない、待たせたかな。」
「いえ、全然。」
あの激闘から数日後、GIRLS本部のサロンで、シンジはベムラーさんと会っていた。今回は以前と違って、眉間に皴が寄るような雰囲気ではない。
「また父のことでなんやかんや聞かれるのかなーと。」
「まあ、そんなところだ。もっとも、今回は私が言う側だが。」
連日、GIRLSのお偉いさんやら好奇心旺盛そうな怪獣娘さんやらに同じような事を聞かれては、曖昧な受け答えしか用意できない現状に辟易としていたところだった。ロクに答えられなくて申し訳ないという意味で。
その中で疑いの目や奇異の目に晒されることもあったが、そんな中でもミカやアギさん達の存在は救いだった。
「少しフォローをしておきたかったからな。」
「フォロー?僕なにかやらかしましたか?」
「いや、君は悪くないんだ。」
既に色々やらかしてしまっているような気はするが。ベムラーさんが持ってきてくれたコーヒーをずずずっと啜って自問する。
「あ、それとも父のことはもう関わりたくないと思っていたりは?」
「大丈夫です、もう覚悟決めましたから。」
「なら、なおさら聞いておいて欲しい。」
あくまで可能性の話なのだが・・・と小さく呟きつつ、鞄から書類を取り出して渡してきた。
「これは?」
「君のお父さんの調査結果だ。元々はGIRLSから依頼だった。」
「そのために、あの時僕と接触したってことですか。」
「そういうことだ。君に対して個人的に興味も沸いたのだけれどな。」
「えっ?」
ふふっと意味深げに笑うベムラーさんに一瞬気を取られるが、すぐに元の表情で見つめ返してきたので慌てて書類に視線を落とした。
以前ピグモンさんから説明されたことと、大体一致していた。GSTEのこと、フリドニアのこと。以前無かった情報としては、顔写真があったことだろうか。
「これが、父の顔・・・。」
「20年近く前の写真になるがな。それしか手に入らなかった。」
シンジはじぃっとその古ぼけた写真を見つめた。なんとも、不服そうな、むすっとした不愛想な表情で写っている。言われてみれば、少し自分に似ているかもしれない。20年前となると、今の自分より少し上ぐらいの年頃だったんだろうか。
「当時は『二階堂』という名前で、若くして古生物学、生態学のスペシャリストとして大成し、学会でも注目されていたが、ある時追放された。」
「怪獣のことを研究していたから?」
「そう、怪獣を蘇らせ、操る事を可能だと発表したんだ。元々プライドが高く群れることを嫌い、浮いた存在だったこともあって、学会からは危険視された挙句追放というわけだ。」
「・・・むしろそんな危険人物を、野に放つほうが間違いだったんでは?」
「私もそう思う。が、当時としては『ありえない』と思われていたんだろう。まだ『怪獣娘』の存在が明らかになる前のことだったから。」
と、当のその本人が言う。シンジは口を一文字にしてページをめくった。
「それから表舞台から姿を消し、しばらく行方をくらませていた。しかしある時、そんな彼に手を差し出すものがいた。」
「それが、GSTE。」
「そう、怪獣娘の存在が明るみになり、その力を悪用しようとする者たちが現れ始めた。その中でもGSTEは、学会を追放された天才に目を付けた。」
「そして、バディライザーは作られた・・・。」
コトッと机の上にその機械を置いた。あれから、何度か起動することに成功している。その度に入念な検査が行われているが、今のところ僕にもミカにも問題は出ていない。力はまた付いてきているが。
「ここまでがGIRLSの依頼に関する話だ、何か質問はあるかな?」
「えっと、GSTEは壊滅したんですよね。たしかフリドニアごと。」
「そうだ。これも調べたところ、どうやらGSTEが原因らしい。」
「自分たちで自分たちの拠点を壊したんですか?」
「ああ、GSTEは怪獣娘たちを使って非人道的な実験を行っていたらしい。その怪獣娘の力が暴走した結果、巡り巡って全てを破壊したらしい。」
「その怪獣娘さんは?」
「それも消息不明だ。目撃情報を照らし合わせた結果、『ジラース』に似た怪獣である可能性が高い。」
「ジラース?」
えりまき怪獣 ジラース
身長:45m
重さ:2万トン
イギリスのネス湖に生息していた恐竜の一種。口から吐く青い熱線が武器だ。
「へー。」
「岩のような黒い体や、青い熱線が目撃されていた。しかし気になることに『えりまき』が無かったそうだが。」
怪獣図鑑を見て感嘆の声を漏らす。怪獣っていろんなのがいるんだなと。
「父もGSTEと運命を共にしたんでしょうか?」
「いや、そうとも言い切れない。フリドニアの壊滅と、バディライザーが日本へ送られてきたタイミングはほぼ一致している。危険を察知して、いち早くバディライザーだけを君の元へと送ろうとしたのかもしれない。」
「もっとデータを集めさせるために?」
コツンコツンと指でバディライザーを叩く。せめて説明書のひとつでもつけてくれれば、こんなに苦労することもなかったのだけれど。
「で、だ。ここから先は『探偵』としての話。」
「探偵として?」
「濱堀ソウジへの、個人的な解釈意見を述べさせてもらう。キミは、父のことをどう思っている?」
「・・・最低の人間だな。誰にも彼にも迷惑ばっかりかけてるし。」
「ほう?」
「僕が生まれる前に、家を出て音沙汰無し、母はいつも苦労していました。家は貧乏だし。」
「そうか・・・。」
こうして今はその理由がわかったが、マイナスがさらにマイナスになっただけである。
「濱堀博士がGSTEに入ったのも、ちょうどその時だろう。しかしここに疑問点がある。」
「どんな?」
「当時使っていた名前だ。二階堂という名前で博士号をとり、GSTEにも参加していた。しかし、彼の本名は『濱堀』だ。なぜ偽名を使っていたのか?そして使い続けていたのか。」
「単純に身元が割れないようにするためでは?実際情報がほとんどなかったんでしょう?」
「そう、『身元を割れさせなかった』。そこにひとつの『答え』があるんじゃないか?」
「つまり、どういうこと?」
ぴくり、とシンジの指と眉が動いた。
「あえて偽名を使っていたのは、君たち家族のことを隠すためだったんじゃないか?そう私は思える。」
「隠す?」
「研究に何かがあった時、君たちにも危害が及ぶ可能性を危惧していたんじゃないか。例えば人質にされたりとか。」
「自分の弱みになるから?」
「そう思うなら、最初から作らなければよかった。そのはずだろう?」
「たしかに。」
「それに、バディライザーを君に託したということ。君の事を信じていた、と言うことなんじゃないだろうか?」
「心配してるんなら、そんなものよこすなって思います。」
「君に継いで欲しかったんじゃないだろうか、自分の夢を。」
「怪獣娘を使って、世界を滅ぼすことを?」
「本当にバディライザーが、怪獣娘を暴走させるだけの機械なんだろうか?暴走させるこっとが目的なら『それだけでいい』はずだ。なのに、バディライザーの使用条件は・・・」
「怪獣娘と、心を通わせること・・・。」
「そう、今使いこなすことが出来るのは君だけだろう。そんな不確かなシステムを、支配するために使うだろうか?」
「・・・よく、わからないです。」
「じゃあなにか?父は僕を愛していたと?」
「そうだ、とも言いきれないが、そうかもしれない。」
窓から入る日差しが、強く2人を照らしていた。その火照りに促されるように、会話もヒートアップしていた。
「さっきも言いましたが、本当に愛していたならこんな危険なものを送ってくるのはおかしいんじゃないですか?」
「さっきも言ったが、自分の後を継いでも欲しかったんだろう。両方だ、その矛盾する両方なんだ。」
「危険に巻き込みたくないけれど、継いで欲しい・・・。」
「だから、君に手紙を出したんだ。『遺産を継いで欲しい』という手紙を。そして、君は来た。」
あの時の手紙をは、今も上着の内ポケットに入っている。頭を抱えたくなった。
「・・・でもそれも、ベムラーさんが言ってる事全部、想像の話ですよね?」
「そうだ、あくまで私の頭の中の空論だ。可能性があるというだけだ。」
「いや、きっとそれが最大限、最善の可能性なんでしょうね。」
「事実は小説よりも奇なりとも言う、もっと斜め上の真実かもしれないし、もっともっと最悪の真実かもしれない。けれど、空想する分にはタダだ。どう『思っていても』いい。」
「そこになんの意味が?」
「ない。ただ、どう思っていてもいいなら、少しでもいい方を選んでいたいだろう?箱を開けてみるまでどっちが正しいかはわからないが、どっちであってほしいか願うことは出来る。ただの人生の先輩としてのアドバイスだ。」
泣いて暮らすも一生、笑って暮らすも一生、か。
「話はこれだけ。付き合わせて悪かったな。」
「いえ、少し気持ちが軽くなりました。」
「ならよかった。困ったことがあれば相談しに来ると良い。力になる。」
「はい、ありがとうございます。」
「それと、これをあげよう。」
「これは?」
ピンク色のこの駄菓子は・・・すもも漬け?
「おいしいぞ。」
「はぁ・・・?」
「ではな、アリーヴェデルチ。」
そうして、ベムラーさんは去って行った。
「・・・どれを選ぶかは、自分で決められる。」
べりっと封を開けて口に入れる。この後は、GIRLSのお偉いさんの教授に会う約束がある。見習いのバイトじゃなく、本格的にGIRLSで働くための面接のようなものだ。
「どんな圧迫面接でも負けるつもりは無いけど!」
食べ終わったゴミを捨てると、よっしと気合を入れる。空が眩しい。雨男が嘘のようだ。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「ネタの解説ほど野暮なものもないよね。」
「何よ突然。」
「いやさ、せっかくボケたのに笑ってもらえなくて、笑いどころを説明しなきゃいけないのってミジメだよね、お笑い芸人として。」
「ミカお笑い芸人だったっけ?」
GIRLSの仮身分証や『ニコニコ生命保険』のパンフの入ったカバンを脇に置いて、鉄板越しにミカと向かい合っている。他人の金で焼き肉が喰いたい!ということで、今日はミカに奢ってもらうこととなった。2人でGIRLSの合格祝いと言ったところだ。アギさんたちからも誘われたので、明日もみんなでやる。
「それでどんな話したの?」
「シフトの話と、保険の話と、ちょっと世間話だけ。」
「私も大概そうだったかなー、意気込みとか聞かれた?」
「うん、そんなところ。」
金網の上でジュウジュウと音を立て、脂と香ばしい薫りを出す様はとてもおいしそうだ。何故客観的な物言いなのかと言うと、シンジが焼いた端から、ミカが食べていってるから。
「シンちゃんどんどん食べなよ。せっかくの私のおごりなんだからさー。」
「そういってミカ、さっきは野菜しか焼いてなかったじゃん。肉焼こうよ。」
「こういうのには順番があるんだって!」
好きなものを好きな順番で食べて何がいけないというのか。
「シンちゃんは調査課に入るのかな?」
「うん、新しい人を見つけて、仲良くなるのが仕事かな。結構余裕があるから、他のとこの応援にも行くだろうけど、」
「そっか、じゃあまた私のマネージャーやれるんだね!」
「うん、いいよ。ミカの頼みならなんでも。」
「そこは一回でも『えー?』とか言うところじゃないかなぁ?ノリ的に。」
「僕がミカのお願いが聞けないと思う?」
「うっ、そんなハッキリ言われるとハズカシイ・・・。シンちゃん、この短期間でちょっと成長しすぎじゃないかな?」
「それもミカのおかげだよ。」
「はキュン・・・♡」
ミカの箸が止まった。今がチャンスだ、食べごろのお肉をかっさらえ。
「ま、まあこれからのシンちゃんの成長に期待だね。わかってる?これからが大変なんだよ?」
「ん?たとえば?」
「体を鍛えなきゃいけないし、知識も付けなきゃいけないし、あとコミュ力も重要になってくるよ!」
「ミカは全部揃ってるね。」
「いやいや、私だってまだまだだよ。弛まぬ向上心こそが、日々の未来を作っていくんだよ!」
「ほへー、まあなんとかなるっしょ。」
「よーし気分がノッてきたー!もう一軒いこー!」
「え、僕もうお腹いっぱいだよ。」
「じゃじゃ、カラオケ行こ!カロリー消費できるし体力もつくよ!」
「明日も早いんじゃなかったっけ?」
「明日からは、またみんなと一緒だから・・・今日だけは、離したくないかな。ダメ、かな?」
ちょっとうるんだ瞳で、いつもと違う雰囲気で、イイ感じに火照った頬を染めて、薄暗い道でそんなこと言われちゃったら、断れません。
「・・・ちょっとだけね。」
「やったー!シンちゃん大好きー!」
どうやら、シンジはミカには一生勝てない性を背負っているようだ。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「ミクさんは切り込みつつ前進を!」
「ほいさー!」
「アギさんはミクさんの援護を!」
「おっけー!」
「ウィンさんは撃ち漏らしの迎撃を!」
「はい!」
次の日、お祝いパーティーの最中に警報が鳴った。シャドウ出現の報せだ。当然これに駆り出される一行は、2手に別れてシャドウの巣食うビルへと進軍する。その一方、いつもの3人ことアギラ、ミクラス、ウィンダムに同行することとなったシンジは、遠くから指示を飛ばす任に着いた。
「ミクさん!上からも来てます!一旦ストーップ!」
「へーきへーき!ってわぁ!」
「ミクさん!」
「シンジさん!」
「うん!バディライド!」
スパーク!アギラさん、パワーアップ!
「ヒューッ!すっごいねー!あっという間にバーッと片づけちゃったよ!」
「この調子で、先を急ぎましょう!」
「うん、一気に決めよう!」
「ちょっ、置いてかないで・・・。僕、足はそんなに速くなってないから。」
RPGで例えるなら、ミクラスは壁役にもなる剣士、アギラはアタッカーの格闘家、ウィンダムは遠距離攻撃の弓使い、シンジはブースト役の魔法使いだろうか。ならば攻撃魔法なども覚えておきたい。
「ついた!」
「おっ、アタシたちが一番じゃない?まだ先輩たち来てないよ!」
「競争じゃないんですから、急ぐべきではありますけれども!」
「ちょっと・・・待って・・・。」
道中現れるシャドウをちぎっては投げちぎっては投げの快進撃で歩を進め、わずか2分で目的地まで到達出来た。辺りには不穏な空気が立ち込めており、今にも何かが飛び出してきそうだ。
「心臓が飛び出しそう・・・。」
「大丈夫ですかシンジさん?」
「皆元気よすぎ・・・。」
「アタシたち元気がとりえだからねー!」
これだけでヘタレる自分が情けないと思う反面、女の子に体力で負けたくないとは常々思う。彼女たちは強い怪獣娘だけど、本質は普通の女の子だ、と言う前提があるから。
「っと、そろそろ来るんじゃない?ボス。」
「そうだね、今までのパターンから察するに。」
「私たちだけで大丈夫でしょうか?」
「へーきへーき!今のアギちゃんなら何も怖くない!」
「フラグやめて!」
その言葉を皮切りに、待っていたかのようにビルの壁を破壊して巨大なシャドウが姿を現した!
「よっしゃー!いっけーアギちゃん!」
「ボク任せ?」
まずアギラが先手をしかけ、隙をついて2人が攻撃する。シミュレーション通りだ。この戦法は幅広く応用がきいて、シミュレーションでも実用性が高かった。
そう、シミュレーション上では。
「いっくぞ・・・あれ?」
「どうしたの?」
「なんか・・・力が・・・。」
「あれ?あれれ?」
「どうしたんですか?」
「バディライザーが・・・待機状態に戻っちゃった。」
『グルルルルルル・・・』
「まさか、」
「時間制限が、」
「あったの!?」
「知らなかった・・・。」
『ギャアアアアアアアアアアアアアン!!!!』
「やっば。」
不測の事態だ。まわりにはちっこいシャドウもウヨウヨ湧いてくるし、目の前にはでっかいのもいる。もしかしなくても孤立無援のやべー状態だ。
「シンジさーん!もう一回バディライドできないのー?!」
「やってるけど反応しない!」
「どどどどどうするんですか!いくらなんでもこの数はまずいですよ!」
「一旦退避しよ・・・うっ・・・。」
「アギちゃん!」
一気に体力を失ったアギラが、膝をついてしまった。
「アギさん!」
「シンジさん危ないよ!」
自分のせいでこうなったんだ、せめてこれぐらい、命張らさせて欲しい。
「シンジさん、来ちゃダメ・・・。」
「うぉおおおおおおおおおお!!」
無防備な彼女の、命の盾ぐらいにはなれる!せまる炎に背を差し出し、歯を食いしばって覚悟する。
「・・・熱くない?」
「これは・・・!」
いつまでたっても痛みを感じないので、ゆっくりと振り返ってみれば、そこには透明な壁があって、僕たちを守ってくれていた。
「バリアー?」
「ゼットンさんだ!」
気が付くと、周囲に異変は起こっていた。小さなシャドウたちが次々に倒れていく。速すぎて目で追えない何かが、片っ端から叩きのめしているようだった。
「あっ、あそこ!」
「どこ?」
「上だよ上!」
ようやくシンジはその姿を捉えた。黒いボディのクールビューティ、噂に聞いていた最強の怪獣娘、ゼットンさん。
「あれが・・・。」
新たな標的を見つけた威嚇か、それとも仲間たちを倒されて怒ったのか、それともビビったのか、吠えるシャドウビースト。地面も空気も揺らさんその咆哮に、普段の僕たちなら身じろいでいただろう。しかし、今は全然そんなことはなかった。
なにせ、既に必殺技の体勢に入ったゼットンさんがいるんだから。
「一兆度の炎、体感してみる?」
『ギャアアアアアアアアアン!!!』
哀れ爆殺。シャドウビーストは見せ場の一つもなく退散してしまった。
「ゼットンさん・・・。」
「アギラ、平気?」
「はい、ありがとうございます。」
「そう・・・。」
アギラの無事を確認して、ゼットンさんはワープで去って行った。少し微笑んでいたようだった。
「行っちゃった・・・。」
「アギちゃん、シンジさん、大丈夫?」
「うん。」
「あれがゼットンさんなんだね・・・。強いなぁ・・・。」
「うん、ボクもまだまだだね。きっとバディライドしてても、まだゼットンさんに敵わないと思う。」
「アギさんなら、いつかなれると思うよ。僕がいなくても。」
「そう・・・かな・・・。」
「シーンー・・・ちゃぁああああああああああん!」
「おわっ!」
「大丈夫だったシンちゃん?アギちゃんも平気?」
「う、うん、ゼットンさんが来てくれたから。」
「相変わらずはええなぁ。」
「レッドキングさん、お疲れ様です。」
「おう、調子はどうだシンジ?」
「あやうく命を落としかけました。」
「えぇー!シンちゃん大変じゃん!!!」
「苦しいから・・・今まさに失くしそうになってるから・・・。」
ミカもこんな調子だけど、心配してくれてたんだ。自分のことも、それから仲間の事もみんな守るためには、バディライザーをもっと使いこなす必要があるし、もっと強くならないといけない。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「僕も・・・もっと強くならないと。」
「その意気だぜ!特訓したいならオレも協力するぜ!」
たしかに僕はあの時そう言った。けど・・・。
「こんな命がけの特訓なんて知らないよ!」
「逃げるなー!車に向かってこーい!」
「やーだーむーりー!!」
なんか仮面のヒーローとか5色の戦士とかが戦ってそうなどっかの採石場に、ブロロロロ~!と鉄の獣の唸り声が響く。
現在は、レッドキングさん指導の元、その弟子のザンドリアスと共に、根性をつけるための特訓中である。
「やめてください!!レッドキングさん!!」
「泣き言を言うな!お前の涙でシャドウを倒せるか!!」
「どわー!」
あやうくジープに轢かれかけるところを飛び退いてかわせた。まだザンドリアスが逃げ続けているのを、死んだ魚のような目でぐったりとしながら見つめている。
「休憩は済んだか?じゃあ次いくぞ!」
「やめてください、今度こそ、本当に死んでしまいます。」
「いやー!ママー!」
「いよっ、やってるねレッドちゃん!」
「ようゴモラ。」
「あっミカ助けて!」
「おい、お前もか!これじゃオレが虐めてるみたいじゃねえか!」
「やっぱり虐めてるようにしか・・・。」
「差し入れ持ってきたんだよ!」
ミカ他、いつもの3人が来てくれた。神の助けか、地獄に仏か。
「愛の鞭ですね先輩!」
「喰らってる方からしたら痛いだけなんだけどなぁ。」
「そうそう、鞭だけじゃなくてアメもそこそこあげないとね。」
「なかなかシビアなこというじゃないかミカ。」
「よーし、じゃあここで一個アメちゃんをあげようってことで、一発ギャグいってみよー!シンちゃんが!」
「どう考えても鞭じゃないか。」
「レッドキングさんの鞭と、どっちがいい?」
「・・・正直、どっちも嫌。」
結局どっちもやらされたシンジであった。
「ってぇ、わたしのことは無視ぃ!?」
「ごめんごめん、タコ焼き食べる?」
「いただきまぁす!」
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「もしもし?お母さん、元気?」
「うん、元気だよ。こっちの生活にも結構慣れたし。」
「うん、うん、大丈夫だよ。友達もたくさんできたし、ミカ覚えてる?子供の頃一緒だった。そうそう、あのミカ。」
「うん、すごい変わってたよ、色々と。それが一番うれしかったかな。」
「じゃあ、またかけるから。じゃあね。」
「え?大丈夫だって。うん、じゃあね。」
命の危険を感じた時、脳内をよぎったのは優しい母の顔であった。別にザンドリアスのように叫んだりこそしてないが、心の中には浮かんでいたので自分も同類か。ところで、戦場で恋人や女房の名前を呼ぶ時と言うのは、瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞だそうだ。
「シンジ様、コーヒーをお持ちしました。」
「ありがと、そこ置いといて。」
「先ほどの電話のお相手は、マユミ様ですか?」
「うん、久しぶりに話した。」
チョーさんの淹れてくれたコーヒーは、温度も砂糖の量もちょうどいい。正確さを求めるならやはり機械に任せるのが一番だ。
ほぅと一息吐きながら思い浮かぶのは母の事。女手一つで自分をここまで苦労して育ててくれた大切な親。
あんなに優しい人を、どうして父は置いていったのか。いや逆か、母は何故そんな父を選んだのか。と言うか、どこで出会ったのか。気が向いたら聞いてみるのもいいだろう。それよりも自分は目下勉強中。
「機械工学に、量子力学、それにまつわるエトセトラ。どれだけ覚えても足りるということが無いよ。」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきます。」
「頼りにしてるよ。」
GIRLS調査部がこの家と、この家に隠された研究施設に本格的に立ち入り、天井裏から床下までひっくり返して調査を行った。
「ベッドの下まで探られなくて本当に良かったですね。」
「やめれ。」
その結果、数々の研究データが見つけられた。かつての怪獣の出現記録から割り出された、怪獣の眠りを呼び覚ます音波の周波数。怪獣を手懐けるにおい。そして、怪獣の力を利用する兵器。まるで本物の怪獣が現れることを想定していたかのような内容であった。
「少なくとも今の時代では使えないような代物ばかりだった。」
これから先そんな時代が来ないとも限らないがさておき。しかし怪獣娘さんたちのために利用できないこともない。そしてその父の研究を引き継げるのは、息子であるシンジしかいないと、自分で名乗りを上げた次第だ。
そしてそれは受け入れられ、今に至る。あとは努力を続けていくだけだ。
覚えれば誰にでも出来たことかもしれない。けれど、誰にも真似できないレベルまで高めれば、それは自分だけにしか出来ない個性となる。
「よーし、がんばるぞ・・・!」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「んにゅ・・・?朝・・・?」
いつの間に眠っていたんだろう、足が痺れて口の中が渇いている。
「朝ごはんは何かな・・・ん?」
窓の外に影を見た。まさかシャドウか?
「おっはよー!シンちゃん!」
「玄関から入れ!」
人影の、正体見たり幼馴染。
「もう10時だよー、今頃起きたの?」
「昨日も遅くまで勉強してたから・・・。」
「だろうね、顔に書いてあるよ?」
「何が?」
「数式。」
鏡を見ると、たしかに顔に数式が描いてあった。
「ノートに突っ伏したせいか・・・。」
「とりあえず、顔洗ってきたら?それまで待ってるよ。」
「待ってる?何を?」
「んもー!今日デートする約束だったでしょ?」
「・・・そうだっけ?」
「そうだって!ほら行った行った!」
とりあえず大人しくコーヒーでも飲んでてもらうとして、いそいそと支度をする。
「ちらっ。」
「いやんバーガー。」
用意された朝食をとって、さっそく出かける。行き先は、また映画館でいいか。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってくるねー。」
「はい、いってらっしゃいませ。」
ガチャっとドアを開く。眩しい光が目に飛び込んでくる。
今日も、いい天気だ。