矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第11話

 

 

 今日も今日とて全ての講義が終了。

 にこの曲を完成させ、ひとまずのやるべき事が無くなった俺は、大学の図書館にやって来ていた。

 

 

 音楽以外では本を読むことが好きで、何より静かで落ち着ける図書館は俺のお気に入りの場所である。

 本の中では物語のあるものが好きで、漫画やライトノベル、小説などを時間を見つけては読んでいる。

 

 

 ガラス張りの壁際、夕日が差し込む座席に陣取って小説を読む。

 静寂に包まれる館内に、ページを捲る音だけが微かに聞こえる。

 

 

 まさに至福のひと時。

 

 

 これで珈琲の一杯でも飲めれば最高なんだけど、ここの図書館は飲食禁止だった。

 

 

 時間も頃合い。

 読んでいた小説もちょうど区切りのいいところまで読み終えた。栞を挟み、カウンターで貸出の手続きをする。

 

 家に帰ってゆっくりと続きを読もう。

 そう思って図書館を後にする。

 

 

 完全に建物の外に出ると、少し冷たくなった空気が全身に浴びせられた。

 

 五月の下旬。昼間は暖かいが、日が落ちると途端に冷え込んでくる。

 

 

 さっさと家に帰ろうと思い歩いていくと、横の方から音楽が流れ、地面を蹴る小気味良い音が聞こえてきた。

 

 

 その方向に視線を向ける。

 

 

 ――矢澤にこ。

 

 

 図書館のガラス張りの壁を鏡代わりにして、にこは体を動かしていた。

 ステップを踏み、腕を伸ばし、体を捻り、回転させ、踊っていた。

 

 

 大きめのCDラジカセから曲が流れる。俺がにこに作った曲だ。

 

 

 肩を大きく見せる紅色のシャツ、その下からはグレーのタンクトップがのぞき見える。そして桃色の短いスカートを着こなしている。

 全体的に明るい服装で、にこはダンスの練習をしていた。

 

 

 俺は立ち止まり、練習をするにこを眺める。

 

 

 にこが動くたびに、夕陽に反射した汗がキラキラと光りながら飛び散っていく。

 

 

 ひらひらとスカートが揺れ、健康的な太ももに自然と目がいってしまう。

 ……って、何を見ているんだ俺は。

 

 

 視線を上げる。

 

 

 真剣な顔で踊るにこ。

 小さな体を目一杯使って踊るその姿に、思わず圧倒される。

 

 

 そんな彼女の一挙一動に、俺は気が付けば言葉を失っていた。

 

 

 

 

 CDラジカセから音楽が鳴り止んだ。

 ふうっとにこは一つ息を吐き、そして体を俺の方に向けた。

 

 

「……なにジロジロ見てんのよ。もしかしてストーカー?」

 

 

 ジトッとした疑いの眼差しを向けてくる。どうやら俺に見られていた事に気付いていたようだ。

 

 

 しかしストーカー発言には黙っているわけにはいかず、俺は慌てて弁明した。

 

 

「んなわけねぇだろ! 図書館から出てきたらたまたまお前がいたから、少し見ていただけだよ」

「……やっぱりストーカーじゃない」

「ねえ、俺の話聞いてた?」

「ふふ、冗談よ」

 

 

 疑いの眼差しがフッと消え去り、にこは笑みを浮かべた。

 彼女はCDカセットの近くに置いてあるスポーツドリンクのペットボトルを手に取り、それをゴクゴクと飲んでいく。

 

 

「にこのダンス、どうだった?」

 

 

 唐突にそう聞かれる。

 

 

「ダンスの事はよく分からん。けどまぁ、上手に踊れてたんじゃないのか?」

「なによ、ハッキリしないわね」

 

 

 にこは腰に手を当てて、困ったようにため息を吐いた。

 

 

「しょうがないわね……もう一回踊ってあげるから、しっかり見てなさいよ!」

 

 

 威勢良くにこは言って、ダンスの準備をする。

 俺はにこがよく見える位置、正面のやや斜めに移動した。

 

 

 すると、曲が流れ始める。

 俺自身が作った曲に合わせて、にこは踊り、そして歌い上げる。

 

 

 力強くもよく通る、女の子らしい可愛げのある歌声。

 それと同時に見せつけられる華やかな踊り。

 

 

 自分で作った曲にアイドル――矢澤にこの色が加えられて、単純に凄いとしか思えなくなっていた。

 

 彼女が踊り、歌う。

 それだけ。たったそれだけの事で、曲が全くの別物に思えてくる。

 

 

 俺は言葉を失い、ただ黙ってにこを見ているだけだった。

 

 

 

 

 曲が終わり、にこは最後の決めポーズをとる。

 あれだけのダンスをしながら歌っていたにもかかわらず、にこは涼しい顔をしていた。

 

 

「それで、どうだった? にこのダンス」

 

 

 額に少しだけ掻いた汗をタオルで拭いながら、にこは俺に尋ねた。

 

 

「凄かったよ。自分で作った曲なのに、全く違うものに思えるぐらいに」

 

 

 本当にそう思った。

 

 

 その言葉を聞いたにこは、何故か俺から顔をそっぽ向けた。

 

 

「当然よ! このスーパーアイドル、矢澤にこにかかれば、それぐらい造作もないわ!」

「そうだな。スーパーアイドルだな」

「なっ! うっさい譜也!!」

 

 

 にこは持っていたタオルを、思いっきり俺に投げつけた。

 

 しかし、離れていたためタオルは届かず、俺とにこの間にあえなく着地してしまう。

 

 

「もう! さっさと帰りなさい、練習の邪魔よ!」

 

 

 えぇ……自分から練習を見ろと言っておいて、その言い草はないだろう。

 けど、本当に練習の邪魔になっているのかもしれない。

 

 

 にこの方に少しだけ歩いていき、落ちたタオルを拾い上げる。

 

 

「そうだな。もう日も暮れそうだし、大人しく家に帰るわ」

 

 

 タオルをにこ目掛けて投げる。宙を舞うタオルを、にこは器用に掴み取った。

 

 

「練習、頑張れよ」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 家に帰って晩飯を作る。

 今日はパスタ。一人暮らしの身としては、パスタのように手軽に作れる料理は重宝している。

 

 

 茹でたパスタを皿に盛り、ミートソースをかけて完成。

 

 

「いただきます」

 

 

 テレビで適当なバラエティー番組を見ながら、作ったパスタを食べていく。

 

 うん。パスタだな。

 何の工夫もない、変哲なミートソースの味。

 

 

 ピーンポーン。

 

 

 バラエティー番組でお笑い芸人のトークに耳を傾けながらパスタを食べていると、インターホンが鳴った。

 

 

 また変な宗教の勧誘か何かかな。とりあえずこういう予定にない来客は無視だ。ああ、パスタうめぇ。

 

 

 ピーンポーン。ピーンポーン。

 

 

 再びインターホンが鳴る。今度は2回。

 ああもう、しつこいな。

 

 

 立ち上がって、玄関に向かう。扉を開けて、しつこくインターホンを鳴らす輩に文句の一つでも言ってやる。

 

 

「すいません。勧誘は結構なんで――」

 

 

 家の前にいたのは、よく知っている人物だった。

 

 

 そして、その人は勢いよく言い放つ。

 

 

 

 

 

「――ラブライブよ!」

 

 

 

 

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