矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

12 / 51
第12話

 

 

「――ラブライブよ!」

 

 

 扉を開けて家の前に立っていた人物は、俺のよく知る人物だった。俺が大学に入ってから、最も関わったと言っていい人物。

 

 

 特徴的な黒のツインテールをしたそいつは、無い胸を張って威勢良くそう言った。

 

 

「すいません、矢澤ラブライブさんはお引き取り願えますか」

「誰が矢澤ラブライブよ! にこはそんなふざけた名前してないわよ!」

「いや、だって……」

 

 

 インターホンを押したらまず名前を名乗るというもの。

 それを開口一番に『ラブライブよ!』なんて言われたら、名前をラブライブに改名したと思うじゃないか。え、思わない?

 

 

「そんな事より、ラブライブよ! ラブライブが開催されるのよ!」

 

 

 興奮した様子でにこは何度もラブライブと口にする。

 

 

 なんだか、話が長くなりそうな予感。

 

 

「まあ落ち着け。とりあえず、上がってくか?」

「そうね。お邪魔するわ」

 

 

 にこは特に迷う様子もなく、俺の家にお邪魔する事を選択した。

 

 

 普通、女の子って男の部屋に上がる事にもう少し遠慮というか、抵抗感みたいなものがあるんじゃないのか?

 

 にこはそういった迷いを見せず、ズケズケと部屋に上がっていく。

 信頼されているのか、単に男として見られていないのか。まあ後者の場合、俺もにこの事を女として見てないからいいんだけど。

 

 

「それで、ラブライブが何だって?」

 

 

 にこを部屋に上げて、椅子に座らせたところで尋ねる。

 

 

「だから、ラブライブが開催されるのよ!」

「それはさっき聞いた。でもラブライブって、スクールアイドルの大会だろ。キャンパスアイドルは関係ないんじゃ」

 

 

 ラブライブ。

 一年前から始まったスクールアイドルの大会。

 

 

 以前、にこに言われてμ’sの事を調べるにあたって、ラブライブの事は嫌でも知る事となった。

 

 

 第二回ラブライブ。

 その優勝グループがμ’sなのだから。

 

 

「はぁ、アンタ馬鹿なの!? にこ達キャンパスアイドルも、今年からラブライブに出場できるようになったのよ!」

「そうなのか。良かったじゃん」

「なによ反応薄いわね! もっと喜びなさいよ!」

「いや、俺が出るわけじゃないし……」

 

 

 思ったより俺が食いつかない事に、にこはため息を吐いて肩を落とす。

 そして、ラブライブについて説明しだした。

 

 

 

 曰く、ラブライブに新たに大学生――キャンパスアイドル部門が設けられた。高校生――スクールアイドルとは別部門となる。

 あのアキバドームでおよそ3ヶ月後に開催され、それまでに各大学は1組の代表を決め、大学ナンバーワンアイドルを決めるという。

 

 

「各大学につき1組ってことは……うちはにこが代表になるのか?」

 

 

 にこはうちの大学で唯一、特待生としてキャンパスアイドルをしている。

 順当に考えると彼女が代表になるのが自然なことだが、にこは「アンタ馬鹿ぁ?」と言って話を続けた。

 

 

「何の審査も無しににこが代表に選ばれたら、他のキャンパスアイドルの人達が納得いくわけないでしょ」

「それもそうだな。つまり、大学で何らかの審査を行うって事か」

「そうよ。大学内でラブライブ出場者を決めるライブが2ヶ月後に開催されるわ」

 

 

 2ヶ月。準備期間として妥当かどうか俺には判断できないが、今日見たにこの練習からすると心配は無用だろう。

 

 

「そのライブが実質、ラブライブ出場をかけた予選というわけよ」

「それを知らせるために、わざわざ家に押し掛けてきたと」

「そうよ! 電話帳を探しても譜也の名前が見つからないから、こうしてにこが来てあげたのよ!」

「ああ、そういえば連絡先教えてなかったな」

「なんで今まで教えてくれなかったのよ! ああもう、良いから連絡先を教えなさい!」

 

 

 若干苛立ちを見せながらにこは言う。

 

 

 なぜ今まで連絡先を教えなかったというと、教えてくれと言われなかったからとしか言いようがないのだが。

 

 

 ひとまずそんな事は置いておき、お互いに連絡先を交換する。

 同じ大学で初めて連絡先を交換したのが彼女となったことに、改めて自分の交友関係の狭さを実感する。

 

 

 俺の連絡先を手に入れて、にこは可愛らしいデフォルメのされたスマホを見て、満足そうな顔を浮かべていた。

 

 

「これでやっと連絡がとれるようになったわね。いい? にこからの電話には1コール以内に出なさいよ!」

「そんな無茶な……」

 

 

 相変わらず無茶なことを言うにこに、俺は深くため息をついた。

 まあでも、彼女のこういった無茶ぶりは冗談であることが多いので、軽く聞き流していればオーケーだ。

 

 

 出会ってまだ四半期も経っていないけど、少しだけ、彼女のことが分かってきた気がする。

 

 

「それで、ここからが本題なんだけど……」

 

 

 にこは改まって言う。背筋をピンと伸ばし、真剣な眼差しで見つめられる。

 

 

「譜也。もう一曲、作ってほしいの」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 思わず耳を疑った。

 え、本気で言ってる?

 

 

「だから! 譜也にもう一曲、曲を作ってほしいのよ! お願い、この通りだから!」

 

 

 にこは顔の前で手を合わせて懇願する。

 

 今度ばかりは冗談ではない。彼女は本気で頼み込んでいる。

 

 

「一応、理由を聞いてもいいか?」

 

 

 ただ単純に、曲を作ってほしいという事ではないのは分かっている。

 でも、あまりにも唐突なその要求に、理由を求めずにはいられなかった。

 

 

「ラブライブ本戦では、違う曲を披露した方がいいと思うのよ」

 

 

 慎重に、言葉を選ぶようににこは口を開いた。

 ラブライブ本戦。そこでは今ある曲とは違う、別の曲を披露した方がいいという事。

 

 

 それはつまり――

 

 

「大学での予選ライブは、通過できる自信があるってことか?」

 

 

 その言葉を待っていたかのように、にこは得意げな顔で自信を覗かせた。

 

 

「当然よ! にこに掛かれば大学での予選ライブ通過なんて朝飯前よ!」

 

 

 無い胸を張ってにこは言う。

 自信満々なその表情。彼女は本気で、自分なら予選を勝ちあがれると信じているのだろう。

 

 

 だったら、俺は。

 

 

 

「……わかったよ」

 

 

 

 そう答えるしかない。

 

 

 ――にこの為に曲を作る。

 

 

 夕焼け空の下、海岸で交わした約束。

 その時から俺は、彼女の為に曲を作ると決めたのだから。

 

 

「譜也……ありがとう。絶対、ラブライブで優勝してみせるわ!」

 

 

 拳を握りしめ、にこは決意を固める。

 

 

「ああ。にこなら、優勝できるよ」

 

 

 根拠はない。他のキャンパスアイドルなんて見たこともない。

 

 

 だけど俺は、にこなら優勝できると信じて疑わなかった。

 俺には曲を作る事と、彼女を信じる事ぐらいしか出来ない。

 

 

 なら俺はにこを信じて、曲を作るしかない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。