矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第15話

 

 

 秋葉原で南と会った日から1週間程が経った。

 

 

 カレンダーは一つ捲られ6月。

 月日が流れるのは早いもので、大学生になってもう2ヶ月。言い換えると、俺とにこが出会って2ヶ月という事。

 

 

 この言い換え、必要だったか?

 

 

 とまぁ6月に突入したわけだが。ここ数日、怪しい空模様が続いている。

 曇天が続き、時折雨が降ってくる毎日は、こっちの気分まで落ち込ませる。

 

 

 雨が好きだという人は農家の皆さんぐらいで、大学生という身分の俺にとっては、恵みの雨とは決して言えない。

 ここ最近の俺は、水を表す色のような気分で過ごす事が多くなっていた。

 

 

 やる気が出ない。

 学生の本分である勉強にしても、にこに頼まれたラブライブ本戦用の曲作りにしても。

 

 

 6月に入った途端に訪れる五月病。それはもう六月病と言うべきなんじゃないだろうか。

 

 

 絶賛六月病の俺に追い討ちをかけるかの如く、大学のスケジュールに組み込まれている悪夢のような行事があった。

 

 

 そう、中間テスト。

 

 

 大学生に限らず、テストというものは全ての学生に嫌われているんじゃないかと思う。

 かくいう俺も、高校生の頃はテストが大嫌いだった。ろくに勉強をせず、音楽に打ち込んでいた。

 

 

 その結果、大学受験に失敗。

 1年の浪人をする事となったのだが。

 

 

 浪人の末、合格した大学でアイドルを目指す少女――矢澤にこと出会った。

 

 

 2ヶ月。

 にこに振り回されることが多かった2ヶ月だが、それなりに充実している日々だった。

 

 

 

 

 そんな事を考えながら、俺はベッドの上でゴロゴロしていた。

 

 

 大学の講義が終わって即帰宅。

 勉強しようと思っていたのだがやる気が出ず、こうしてベッドでゴロゴロしながら考え事をしているという訳だ。

 

 

 ――ゴロゴロ。

 

 

「おおっ」

 

 

 外で雷鳴が轟いた。

 決して、俺がベッドでゴロゴロしていた擬音ではない。いや、実際ゴロゴロしてるんだけど。

 

 

 そういえば、今朝は晴れていたから洗濯物を干していたんだった。

 

 

 ベッドから起き上がり、ベランダに出て干していた洗濯物を慌てて取り込む。

 

 

 洗濯物を全て取り込み終えると同時に、空からポツポツと雨が降ってきた。

 

 

「ふーっ、間一髪だったな」

 

 

 この様子だと、これからかなり降ってきそうだ。早いうちに取り込んでおいて大正解。

 

 

「……一服するか」

 

 

 折角ベランダに出たので、本格的に降り出す前に煙草を1本吸っておこう。

 

 

 机に置いてある煙草の箱とライターを持って、再びベランダに出る。

 

 

 黒色のボックスから1本取り出し、フィルター部分のカプセルをプチっと潰す。

 口に咥えてライターで火をつけスッと煙を吸い込むと、煙草の味とともにメンソールの香りが漂う。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 肺まで吸い込んだ煙を吐き出す。

 あぁ、落ち着く。

 

 

 その間にも雨は段々強まっていく。庇の下にいるので濡れることはないが、こうも強く降られると良い気分ではない。

 

 

 再び煙を吸う。ツンと鼻をつくようなメンソールが妙に馴染んで心地良い。

 

 

「……はぁ」

 

 

 ため息と一緒に煙を吐き出す。

 フィルターに届くまで吸い尽くした煙草を灰皿で揉み消し、俺は部屋の中へと戻った。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 それから特にやることもなかったので、仕方なく部屋でテスト勉強をしていた。

 

 

 英語のテキストを机の上に広げ、講義を受けた範囲を復習していく。

 英語は得意な分野である。曲を作る時に英語の歌詞を入れたいが為に、中学の頃から単語を中心に覚えてきた。

 

 

 得意とは言ってもテストでは何が起こるか分からない。こうして復習しておいて損はないはずだ。

 

 

 ルーズリーフにカリカリとペンを走らせる。さっき一服した事で、心なしか集中できている気がする。

 

 

 いい感じに集中し始めたそんな時。

 

 

 

 ピーンポーン、ピーンポーン。

 

 

 

 インターホンが鳴った。

 誰だよ……折角集中していたのに。

 

 

 居留守を決め込もうか迷ったが、インターホンは何度もしつこく鳴る。

 仕方なく腰を上げて、俺は玄関に向かいドアを開けた。

 

 

「はーい、どちら様ですか?」

 

 

 そこには――

 

 

「譜也! 傘貸して、傘! あとタオル!」

 

 

 髪から服から、何から何までずぶ濡れになった矢澤にこが立っていた。

 

 

「おいにこ! お前ずぶ濡れじゃねえか!」

「分かってるわよ! それよりさっさとタオルを貸しなさい!」

 

 

 なんでこんな上から目線なんだよ。貸してほしいならそれなりの態度をだな……まぁいいや。言ったところで改めないだろうし、にこの上から目線はいつもの事だし。

 

 

「分かった分かった。貸してやるから、ちょっとそこで待ってろ」

「さっさと持って来なさいよ! 風邪引いたらどうすんのよ!」

 

 

 知らねぇよ。馬鹿は風邪引かないって言うから大丈夫だろ、多分。

 にこが馬鹿なのか賢いのかは知らない。講義は前の方の席で真面目に受けてるけど、普段の言動が馬鹿っぽいから多分馬鹿だろう。

 

 

 一度玄関から部屋に戻って、バスタオルを持ってずぶ濡れのにこの待つ玄関に戻る。

 

 

「ほら、タオル」

「さんきゅ。まったく……朝は晴れてたから傘を持たずに来たのに。帰り道に降るんじゃないわよ」

 

 

 そう愚痴を零しつつ、受け取ったバスタオルでにこは濡れた顔や髪を勢いよく乱暴に拭いていく。

 

 

「譜也、何してたの?」

 

 

 トレードマークのツインテールを解き、真っ直ぐに下された髪の毛を拭きながら、にこは俺にそう尋ねてきた。

 

 

「勉強だよ」

「勉強? 譜也が?」

 

 

 む、何だか馬鹿にされた気がする。

 

 

「そうだよ悪いか。来週からテスト始まるだろ。その勉強だよ」

「…………あっ」

 

 

 髪を拭いていたにこの手がピタリと止まった。

 

 

「まさか……忘れてたんじゃないだろうな」

「わ、忘れてなんかないわよ! にこに掛かればテストなんて余裕なんだから!」

「へぇ、そうなんだ。ふーん……」

「な、なによ! 信じてないわね!」

「いやいや、俺はにこを信じてるよ」

「アンタねぇ……!」

 

 

 からかわれていると知ったのか、にこはキッと睨みをきかせる。

 にこはこうした反応が面白いから、ついついからかってしまいがちだ。

 

 

「ちなみに、何の勉強してたの?」

「英語。一発目のテストだからな」

「げっ……それって本当!?」

 

 

 それを聞いたにこはあからさまに狼狽え、視線を宙に泳がせた。

 やっぱり馬鹿だコイツ。

 

 

「本当だよ。テストのスケジュールが掲示板に貼り出されてただろ。見てないのか?」

「見てないわよそんなの!」

 

 

 やっぱりテストがある事、忘れてたんじゃないか。それに勉強ができるというのも嘘だろう。

 勉強ができる人は、きちんとテストの日を把握しているものだと思う。

 

 

「譜也って、英語できるの?」

「まぁ、得意な方ではあるけど……」

 

 

 そう答えると、にこはバスタオルを頭に被せた状態で、手を顎に当てて考え込む仕草を見せる。

 

 

「お願い譜也! にこにテストの勉強を教えて!」

 

 

 にこに手を掴まれて懇願される。

 おい手を掴むな。まだ濡れてるじゃないか。

 

 

「別にいいけど……いつだ? 明日か?」

 

 

 とりあえずにこの手を振りほどいて、逆にいつやるのか提案してみる。

 さっきまで張っていた見栄を捨てて頼んできたという事は、本気で教えてほしいのだろう。

 

 

「今からよ!」

「はぁ!?」

 

 

 今からって、冗談だろ。冗談だよな?

 しかし、にこの目は本気だ。

 

 

「今からってお前、まだ濡れてるじゃねぇか」

「じゃあシャワー貸しなさい!」

「じゃあって! どういう思考回路したらそうなるんだよ! それに着替えは!?」

 

 

 相変わらず突飛な発想をするにこに、そう言わずにはいられなかった。

 

 

 するとにこはその場で180度クルッと回って、背負っていた鞄を俺に見せてきた。

 

 

「着替えなら鞄の中に練習着があるわ。さっきまで練習していたから少し汗臭いかもしれないけど、無いよりはマシよ。それにさっきからビショビショで気持ち悪いのよ!」

「あるのかよ……」

 

 

 正直、このまま傘だけ貸して追い返したいところなんだが……。

 

 

「というわけだから、シャワー借りるわよ。どこ?」

 

 

 こういう風に、どうせ押し切られるに決まってる。なら最初から抵抗はしない。

 

 

「はぁ……そこだよ」

 

 

 ワンルームのアパートだ。玄関から入ってすぐの場所に浴室がある。

 

 

「じゃあ借りるわね。ほら、さっさと部屋に戻りなさい! 言っとくけど、覗くんじゃないわよ!」

「覗かねぇよ……」

 

 

 落胆しながら部屋に戻って、そこの扉を閉める。

 

 

 まったく。一度こうだと決めたら、決して曲げないんだから。

 

 

 はぁ……一服しよ。

 

 

 

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