矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第17話

 

 

「譜也!」

 

 

 教室を出ようとしたところ、後ろからにこに呼び止められた。その場で足を止めて振り返る。

 

 

「なんだ、テストは出来たのか?」

「バッチリよ!」

 

 

 小さくガッツポーズをしてにこが答える。

 今日は中間テストの最終日、今のテストを最後に全てのテストが終了した。

 

 

「アンタ、この後暇よね? ちょっと付き合いなさい」

「何でいちいち上から目線なんだよ。まぁ暇だけど」

 

 

 よっぽどテストの出来に自信があるのか、にこはいつも以上に上から物を言ってくる。

 

 

 まったく、誰のお陰だと思ってるんだ。今日まで全ての教科の勉強を俺の家でやって来たというのに。

 

 

「暇なのね、今暇って言ったわよね! じゃあさっさと行くわよ、にこに付いてきなさい!」

 

 

 にこは俺の服をグイグイと引っ張り連行しようとする。

 おいやめろ、そんな楽しそうな顔で人の服を引っ張るな。

 

 

「分かった分かった。行くからまず手を離せ、服が伸びてしまう」

「あ、ごめん」

 

 

 そう指摘してやるとにこはパッと服を掴んでいた手を離した。

 

 

「ほら行くわよ! さっさと歩く!」

「行くって、どこにだよ……」

「それは、着いてからのお楽しみよ!」

 

 

 そう言ってどんどん先に進んでいくにこは、やっぱり楽しそうな表情をしていて、どこか浮かれているようにも見える。

 

 

「遅い! 置いてくわよ!」

「おいにこ、待てって!」

 

 

 駆け足でにこに追いつく。

 すると鼻歌が聞こえてきた。にこのやつ、これは相当浮かれているな。

 

 

 にこが鼻歌で奏でているのは、俺が作った曲だった。

 ……やばい、嬉しいんだけど。

 

 

「……何よ、ニヤニヤして、気持ち悪い」

 

 

 怪訝な目をしてにこは俺を見る。どうやら俺はニヤニヤしていたらしい。

 

 

「お前もニヤニヤしてたけどな」

「嘘っ!?」

「本当だって。鼻歌も歌ってたし」

「うわ……全然気付かなかったわ」

 

 

 気付かなかったって、無意識に鼻歌で俺が作った曲を歌っていたというのか。

 やばい、ますます嬉しくなってきた。自然と口角がつり上がってしまう、抑えないと。

 

 

「もう譜也! さっさと行くわよ!」

 

 

 しびれを切らしたように言って、にこは足早に教室から出て行こうとする。

 どこに行くのか全くもって検討つかないが、付いて行かないと煩いんだろうなぁ。

 

 

 俺はにこの後ろを付いて行くように教室を後にした。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 大学を出た俺とにこは、その後電車に乗って移動した。

 電車の中でもにこは終始浮ついている様子で、やっぱり楽しそうな顔をしていた。

 

 

 そんなにこを時々横目で見ながら電車に揺られ、着いた先は秋葉原。

 

 

 大学から秋葉原までは電車で1時間程かかるのだが、最近の俺はよく秋葉原に行く事が多い気がする。

 大学に入学してからこれで3度目だったと思う。アキバ好き過ぎかよ。

 

 

 そういえば、にこと秋葉原に来るのは初めてだ。

 

 1度目は俺一人で来たところで東條と絢瀬、南と出会った。

 2度目はにこが練習で踊っている動画を南に渡すため。

 

 そして今日はにこと。

 

 

「なあ、アキバのどこに行くんだ?」

 

 

 堪らずにこにそう聞いた。

 するとにこは満面の笑みを浮かべながら、人差し指を口元に当てて、

 

 

「内緒よ」

 

 

 うわぁ、似合わねえ。

 しかし決して口には出さない。何をされるか分からないから。

 

 

 しかし、内緒か。秋葉原で電車を降りたという事は、目的地は近くにあるのだろう。

 

 

 そういえば、にこの家って秋葉原だったよな。

 まさか行き先って、にこの家!?

 

 

 なるほど。それなら今日の異様な浮かれ具合にも納得がいく……いや、出来ないだろ。

 

 

 しかし、行き先が本当ににこの家だとすると、どうして俺を連れ込むのだろう。

 まさか、今まで募っていた俺に対する鬱憤を晴らそうとしてるんじゃ……。

 

 

 出会った時は名前を間違えたし、事あるごとにイジってきたし、他にも色々エトセトラ。

 やばい、俺は今から復讐されるのか。

 

 

「なあにこ、俺帰っていい?」

「はぁ!? 何言ってんのよ、ダメに決まってるでしょ!」

「……だよな」

 

 

 そうだ、逃げるなんて良くない。

 俺が今までしてきた事の報いは、受けなくてはいけないんだ。覚悟を決めろ、音坂譜也!

 

 

 パチン!

 両手で頬を叩いて決意を固める。

 

 

「……アンタ、何やってるのよ」

「気合いを入れてたんだ」

「あっそ」

 

 

 にこは大きな目を細めて、冷ややかな視線を俺に向けてきた。くっ、報復は既に始まっているというわけか。

 

 

 決して屈服しないという決意のもと、俺は前を歩くにこの後を付いて行く。

 

 

 それから歩くこと10分、ついににこが足を止めた。

 

 

「着いたわ、ここよ」

「でけぇ、ここがにこの家なのか……」

 

 

 そのあまりの大きさに俺が関心していた。

 入口には立派な門があり、そこからやや距離のあるところに建物がある。まるで学校みたいだ。

 

 

「はぁ!? アンタほんと馬鹿ね。にこの家じゃなくて学校よ、音ノ木坂!」

「えっ、学校!?」

 

 

 確かに、門のところにある立派なプレートには『国立音ノ木坂学院』と書かれてあった。

 

 

「音ノ木坂、この字面どこかで見た気が……あっ、俺の苗字か、音坂」

「なにバカな事言ってるのよ。去年までにこが通っていた高校よ」

「あぁ、それだ!」

 

 

 μ’sの事について調べていた時に音ノ木坂って文字を見た気がする。

 

 

 音ノ木坂学院。

 ここが、にこが通っていた学校。

 

 

「ちなみにここ、女子校だから」

「女子校!? 俺が来て大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、ちゃんと話は通してあるから」

 

 

 にこは大丈夫というが俺は心配で仕方がない。

 まさか女子校に入る事が出来るなんて夢にも思わなかったが。

 

 

 

「にこちゃーん!!」

 

 

 

 校門の向こうから声がした。

 明るくて元気一杯な、そんな印象を受ける声だ。

 

 

 視線を向けると、橙色の人影がもの凄いスピードでやって来て、隣のにこに勢いよく抱き付いた。

 

 

「本当ににこちゃんだー! 久しぶりだね!」

「ちょっ、離れなさいってば穂乃果! 暑苦しいのよ!」

「えへへー、にこちゃーん」

「……まったく、しょうがないわね」

 

 

 にこに抱き付いて離れない、穂乃果と呼ばれた少女。なんだか背景に百合の花が咲いてそうな光景だ。

 

 

 そんな光景に場違いさを感じていると、再び校門の方から2つの人影がやって来た。

 

 

「穂乃果。貴方は生徒会長なんですから、もう少し落ち着いて下さい」

「まぁまぁ海未ちゃん。これが穂乃果ちゃんなんだから、仕方ないよ」

「ことり、ですが……」

 

 

 一人は知っている顔――南ことりで、もう一人は知らない顔だった。

 

 

 青みがかった艶のある黒髪ロングのいで立ちは、まさに大和撫子といった雰囲気を纏っている。

 

 

「にこちゃん、久しぶりだね」

「お久しぶりです、にこ。大学はどうですか?」

 

 

 南と大和撫子さんがにこに話しかけるが、にこは依然としてもみくちゃにされていて答えられないでいた。

 

 

「音坂さんも、来てくれてありがとうございます」

 

 

 にこから反応がないと分かるやいなや、南が俺に話しかけてきた。

 

 

「まあ、にこに無理やり連れてこられたんだけどな。ここに来るって事も知らなかったし」

「そ、そうだったんですか。でも、音坂さんがにこちゃんに言ってくれたんですよね」

「いいや、俺は何も」

 

 

 俺がにこに言ったのは南が会いたがっているという事だけ。嘘は言ってないはず。

 それに南も、にこが自らの意志で会いに来た方が嬉しいだろう。

 

 

「あの、ことり。そちらの男性はどなたですか?」

 

 

 大和撫子さんが俺を指さして南に尋ねた。この子と未だににこに抱き着いている子とは初対面だしな。

 それに、女子校にいきなり見ず知らずの男が来れば、戸惑うのも仕方がないと思う。

 

 

「ああー、男の人だー!」

 

 

 にこに抱き付いていて子が今更俺に気づいた様子で、トコトコと俺の前にやって来る。

 

 

 にこは……抱き付かれ疲れてグテッとしている。放っておこう。

 

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。この人は音坂譜也さんって言ってね――」

 

 

 南が2人に俺の事を紹介していく。目の前でそれを聞くのはむず痒いような感覚だったが、南の説明を聞いて早々に2人とも納得してくれた様子だ。

 

 

「音坂さん初めまして! 私は高坂穂乃果(こうさかほのか)って言います!」

「は、初めまして、園田海未(そのだうみ)と申します」

 

 

 自己紹介タイム。

 俺も倣って簡単に自己紹介をする。

 

 

「初めまして、音坂譜也です。2人ともよろしく」

「音坂さんはにこに曲を作っているのですね、すごいです」

「いやまあ、成り行きっていうか」

 

 

 大和撫子さん改め園田にそう言われて思わず照れる。こういう真っ直ぐな言葉にはとことん弱い。

 

 

「それじゃあにこちゃん、音坂さん。案内するね!」

 

 

 元気一杯といって感じで高坂が言う。

 にこもいつの間にか起き上がって復活していた。

 

 

「にこちゃんと音坂さんは、これを首からかけてね」

 

 

 そう言って南から渡された『来校者』と記されたカードのようなもの。

 

 

「それじゃあ行こうか! みんなにこちゃんを待ってるんだよ!」

 

 

 高坂がそう言って先導し、俺は音ノ木坂学院へと案内されていく。

 

 

 

 

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