矢澤にことのキャンパスライフ! 作:ゆいろう
高坂、南、園田、そしてにこの4人に囲まれて俺は音ノ木坂学院の校舎内を歩いていた。
今現在は放課後という事もあって残っている生徒の数は少ないが、それでも少なからず生徒は残っていた。
来校者カードをぶら下げて歩いている音ノ木坂学院は、女子校である。
そこを見知らぬ男が歩いていると、さてどうなるでしょう?
答えはジロジロ見られる。
すれ違う女生徒からの、まるで珍獣でも目撃したかのような視線が痛い。
俺の目の前を歩いているにこ、南、園田、高坂。4人は思い出話に花を咲かせているのだろう、和気あいあいと楽しそうに談笑しながら廊下を慣れた様子で歩いていく。
そんな彼女たちの後ろをなるべく目立たないように、存在感を無くすように俺は付いて行っている。
今日は人の後を付いて行くのが多い日だな。
なんて他愛もないことを考えていると、前を歩くにこ達の足が止まった。
「……懐かしいわね、卒業してまだ3ヶ月しか経ってないのに」
感慨深げににこは呟く。
ここはにこが3年間通った高校。今ここに立ってそう呟いたにこは、まるで大切な思い出を一つ一つ確認しているかのようだ。
にこ達が立ち止まっているのは一つの扉の前。見るとそこには『アイドル研究部』と書かれていた。
もしかすると……いや、もしかしなくてもここはにこが所属し、μ’sとして活動した部活動、その部室なんだろう。
「にこちゃんと音坂さんはここで待ってて! みんなを驚かせたいんだ!」
「いいわねそれ! じゃあにこと譜也はここで待ってるわ!」
橙髪の高坂が言う。そしてにこがそれを二つ返事で承った。
今日は全体的にテンション高めのにこだが、やはり母校に帰って来たという事で浮かれているのだろう。気持ちはよく分かる。けど俺は校舎内を歩くと突き刺さる視線に心労がマッハなんだ。
「何しんどそうな顔してんのよ、シャキッとしなさいシャキッと!」
「……そういうにこは楽しそうだな」
「当ったり前でしょ! これからみんなと会えるんだから!」
「そのみんなって言うのは、μ’sのメンバーか?」
「そうよ。この扉の向こうにみんないると思うとワクワクするわよね! あ、でも希と絵里はいないんだったわね」
ワクワクするわよねって、同意を求められても困るんだが。
確かμ’sは9人のメンバーだったはず。そのうちの一人は言わずもがな今俺の隣にいる矢澤にこ。
そのにこと同級生なのが東條希と絢瀬絵里。
2人ともにこと同じく卒業しているため今日はいないだろうが、それ以前に俺は東條と絢瀬とは顔見知りだ。
東條と絢瀬と会った日に同じくして出会ったのが南ことり。
μ’sの衣装を作っていたという彼女に、俺はにこの衣装作成を依頼し、南はそれを快く引き受けてくれた。
そしてさっき校門前で出会ったのが南と同級生だという高坂穂乃果と園田海未。
何でも南を含め3人は幼なじみで、この学校の生徒会だという事をさっき案内されている中の会話で出てきた。
ここまで俺が出会ったμ’sのメンバーは6人。となると、扉の向こう側にいるのは未だ出会っていない3人のメンバーという事になる。
ガチャリ。
扉が静かな音立てて内側から開かれた。
「2人とも、入っていいよ」
南がひっそりと小さな声でそう言う。
ていうか何だよ、このクラスに転校生がやって来ましたみたいなノリは。
「ほら、行くわよ」
にこが先導して部屋の中へと入っていく。俺もにこの後ろを付いて行くように、部屋の中へと入る。
「あっ、にこちゃんにゃー!」
「にこちゃん……久しぶり」
「まったく、来るなら連絡しなさいよね」
「にこさん、お久しぶりです」
「ハラショー! 本物のにこさんだ!」
「みんな久しぶりね、元気にしてた?」
そこにいる女の子たちが、口々ににこを歓迎する。にこはその輪の中に加わって、それぞれから熱い歓迎を受けていた。
そして、そこにはいないと思っていたはずの人たちもいた。
「あ、にこっちやん。久しぶりやね」
「にこ、卒業式以来ね。それに音坂君もいるじゃない、ハラショー!」
「希、絵里……そうね、久しぶり。そういえばアンタ達とことりは譜也の事知ってるのよね」
「ああ、アキバでの事聞いたんや。やっぱり仲良いんやね」
「誰がよ! 別に仲良くなんてないわよ!」
その様子をただ見守る俺。こうしてしばらく会ってない友人と再会するのは、いいものだなぁとつくづく思う。
何だか俺も、地元の友人に会いたくなってきた。
「ねぇにこちゃん、そっちの男の人は誰なんだにゃ?」
女の子の中の一人、オレンジ色の短髪をした子がにこに聞く。なかなか特徴的な語尾をしている子だ。
「ふっふっふ……」
にこは腰に手を当て、よくぞ聞いてくれましたという感じで不敵に笑う。まるでどこぞの悪役のようだ。
南とその幼馴染の高坂と園田、そして絢瀬と東條は既に俺の事は知っている。
知らないのは、にこの周りを取り囲む5人の女の子。
彼女たちは、いかにも興味深々といった様子でにこの言葉を今か今かと待っている。
そんな彼女たちの期待に応えるべく、にこは堂々と言い放った。
「彼は――にこのパートナーよ!!」
『え、ええぇぇええええええ!!!』
にこの発言には俺を知らない5人だけではなく、知っている人たちまで驚きの声を上げた。
おい、なんでそんなに驚く。にこは何も間違った事は言ってないだろう。
「に、にこちゃん大人だにゃ〜」
「はわわわわ……!」
「ちょっとにこちゃん、どういう事なのよ!」
「にこさん……凄いです! さすが大学生ですね!」
「ハ、ハラショー……!」
「にこちゃん……大人になったんだね!」
「にこは魅力的な女性ですからね」
「そ、そうだったんだー。ことり、知らなかったなー……」
「さっきは仲良くないなんて言ってたけど、やっぱりそういう事だったのね」
「ちょ、にこっち、それホンマなん?」
各々がにこの発言に反応を見せる。しかし、彼女たちが言っている事が俺にはよく理解出来ない。
それは、にこも同じだったようで――
「え、ちょっ、何、どういう事?」
堪らずにこが聞く。すると、おっとりした印象の茶髪の女の子がそれに答えた。
「だってパートナーって、そういう事だよね?」
パートナー。さっき言ったにこの言葉。
それは何も間違ってはいない。俺はにこの曲を作る協力者。パートナーと称するのも納得できる。
しかし、問題は彼女たちの反応。
全員が全員同じような反応をして、大人になったという者もいた。
ここまで来ると、流石に理解できた。
どうやら彼女たちは盛大な勘違いをしているようだ。
にこを見ると、ハッとした表情をして、次いで顔を真っ赤に染めた。あぁ、どうやらにこも気付いたみたいだ。
「ち、違うわよ! 誰があんな奴なんかと……! そうじゃなくて、譜也はにこの曲を作ってくれてるの! そういう意味でパートナーって言っただけなのよ!」
慌ててにこはそう弁明する。実際、本当に曲を作っているだけで、彼女たちが思うような恋愛関係はこれっぽっちもない。
それはきっとにこも同じだろう。そうでないとノコノコと俺の家に入ってきたりなんかしないだろうし。
「まったく……それならそうと早く言ってよね」
「
「パートナーとだけ言われれば、誰だって勘違いするわよ」
「そ、それもそうね……」
あぁ、やっぱり勘違いしてしまうものなのか。そして今にこと話している赤髪の女の子は真姫っていうのか。おそらく下の名前だろう。
「ってか、希と絵里はなんでいるのよ?」
「あら、私たちがいたらダメだったかしら?」
「そうは言ってないでしょ。ただ単純に、なんでいるのかって思っただけよ」
まぁ絢瀬も東條も、卒業生なんだからここにいる事は大して不思議ではない。おそらくにこと同じで後輩の顔を見に来たんだろう。
「それはな、真姫ちゃんと海未ちゃん、ことりちゃんに頼みがあって来たんよ」
「真姫ちゃんと海未とことり?」
「ええ、にこも出るんでしょう? 大学生のラブライブ」
「そうね。……ってまさか!」
大袈裟に驚くにこ。
そして次の瞬間、東條は思いもよらぬ宣言をした。
「――ウチとエリチも、ラブライブに出場する事にしたんよ」