矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第19話

 

 

「――ウチとエリチも、ラブライブに出場する事にしたんよ」

 

 

 

 

 東條が言ったその言葉に、俺は驚きを隠せなかった。どうやらにこも同じなようで、大きく目を見開いて絶句している。

 

 

 絢瀬と東條、2人はにこと同じくμ’sの元メンバー。その2人がラブライブに出場するという事は、にこにとっては強力なライバルの出現にと言えるだろう。

 

 

「え、何で!? アンタ達、大学ではアイドルは続けないって言ってたじゃない!」

 

 

 噛み付くようににこが吠える。

 確かに、以前秋葉原で出会った時も2人はアイドルをしているとは言ってなかった。というか、その手の話をしていない。

 

 

 にこの言った通り、絢瀬と東條が大学でアイドルを続けないと言ったとすると、何故今になってラブライブに出場しようと思ったのか気になるところだ。

 そんな俺の疑問を汲み取ってはいないだろうが、絢瀬が答えてくれた。

 

 

「それがね、希が急にラブライブに出たいって言い出したのよ」

「ちょっ、エリチ! それは言わんといてって言ってるやん!」

「まあまあ、別に隠す事でもないじゃない」

「もう……意地悪なんやから」

「なんだ、そういう事だったのね」

 

 

 照れ隠しをするように東條はポツリと呟いた。と同時に、チラッと俺の方を見てきた。

 

 

 ……なんだろう、今の視線は。

 

 

「そう。それで、海未に作詞、真姫に作曲、ことりに衣装を作ってもらおうと思って今日ここにやって来たというわけなのよ」

「ああ、なるほど。納得したわ」

 

 

 にこが納得したように、今の絢瀬の説明には俺もなるほどと納得した。

 

 

「いいなぁ、にこも真姫ちゃんに曲作ってもらいたかったなぁ」

「おいにこ、俺泣くぞ」

「嘘々、冗談よ」

 

 

 俺の曲じゃ満足出来ないと言われたように感じで思わずツッコんでしまうが、にこは笑いながら冗談だと言って舌を見せる。

 よかった、本気だったらマジで泣いていた。

 

 

「でも、言ってくれれば作ってあげたのに。そうよね、海未?」

「そうですね。にこの曲となれば喜んで作詞します」

「え、本当!? 今からでも間に合う?」

「はい。でもにこには、音坂さんがいるようですので、私達の出る幕は無さそうですね」

「そうね。ちょっと妬いちゃうかも」

 

 

 そういえば以前、南にも同じような事を言われたな。

 

 

 μ’sという繋がりを持つ彼女達にとっては、俺という存在は完全に部外者でしかない。

 にこの曲を作る俺に嫉妬するというところに、彼女達の繋がりの深さをつくづく感じさせられる。

 

 

「そういえばその、えっと……音坂さん? 自己紹介をまだしてなかったにゃ! 凛の名前は星空凛(ほしぞらりん)って言います。よろしくにゃ!」

 

 

 あぁ、そういえば自己紹介をまだしていなかったっけ。する暇が無かったのもあるが、いいタイミングなのでここでしておこう。

 

 

「初めまして、音坂譜也です。にことは同じ大学で、にこの曲を作ってます。よろしく」

「よろしくお願いしますにゃ!」

「わ、私は小泉花陽(こいずみはなよ)って言います――」

 

 

 そこからはまだ自己紹介していない人達の自己紹介タイムとなった。

 

 

 今現在2年生なのが星空凛、小泉花陽、西木野(にしきの)真姫の3人。彼女達もμ’sの元メンバーだった。

 

 

 そして1年生の高坂雪穂(ゆきほ)と絢瀬亜里沙(ありさ)

 名前で分かるように雪穂は高坂――穂乃果の妹で、亜里沙は絢瀬――絵里の妹との事だった。

 

 

 苗字で呼ぶと紛らわしいので両姉妹の事は下の名前で呼ぶ事になったのだが、そこからどうしてか全員の事を名前で呼ぶという流れに話は進んだ。

 

 

 結局それを断る事が出来ず、()()()()()()()()()()()()()()()。嫌だもう、恥ずかしいのに。

 

 

 その流れで全員が俺の事を名前で呼ぶという話になり、もうどうにでもなれと思いつい了承してしまった。

 女子高生の集団意見って怖い。

 

 

「そうだにこちゃん。頼まれてた衣装、作ってきたよ」

「本当!? 流石ことりね、仕事が早いわ!」

「今日にこちゃんが来るって聞いてたから、頑張って仕上げたの」

 

 

 南――いや、ことりは部屋の中にハンガーで吊るしてあった衣装を持ってきてにこに手渡した。

 

 

「可っ愛いー! イメージ通りよ!」

「えへへ。ありがとう、にこちゃん」

 

 

 にこが衣装を自身の身体に当てて、鏡でその姿を見る。

 にこの言う通りことりの作った衣装は可愛くて、曲のイメージにもピッタリだった。

 

 

「早速着てみるわね!」

 

 

 そう言ってにこは着ていた私服に手を伸ばす。

 

 

「ちょっ、にこっち!」

「ん、何よ?」

「音坂く――譜也君おるんやで」

「あっ……」

 

 

 上に着ていた服に手をかけ、腹部の肌色が少し見えたところでにこは手を止めて固まった。

 

 

「何でアンタがいるのよー! さっさと出て行きなさいよー!」

 

 

 お前が連れてきたんだろうがー!

 

 

 ……理不尽だ。そう思いつつ、俺はトボトボと部屋から出て行った。

 

 

 何なんだよ、もう。

 いきなりにこに付いて来いと言われて辿り着いた先は音ノ木坂学院で、今さっき何でいるんだと言われる始末。

 

 

 ……はぁ。

 タバコでも吸おうと思ってポケットに手を伸ばしたが、ここが高校の校舎内だという事を思い出して踏みとどまる。

 

 

 

 

 しばらく部室の外の壁にもたれ掛かって待っていた。部屋の中からはワイワイと楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 

 元々俺は部外者なんだから寂しいなんて思ってないけど、10分程待っても声が掛からないので、もしかしたら忘れられてるんじゃないかと不安になる。

 

 

 すると、部屋の扉がガチャリと音を立て開かれた。そして何故か、全員が揃って出てきている。

 

 

「どうしたんだ? みんな出てきたけど」

「折角全員揃ってるんだから、久しぶりにμ’sで踊らないかって話になったのよ」

「ああ、そういう事」

 

 

 俺の疑問ににこが答えてくれた。

 μ’sのメンバーは全部で9人。卒業したにこ、絵里、希がいる今、全員が揃っている。

 

 

 ――昔の仲間ともう一度踊りたい。

 

 

 なんか良いな、そういうの。ささやかな同窓会みたいな感じで。

 

 

「さぁ屋上に行くわよ、付いて来なさい!」

 

 

 にこ達の後を付いて行くようにして、屋上へと向かって行った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「屋上! 久しぶりだわー!」

「せやね。みんなでここで、練習した」

「まだ1年前なのに、随分と懐かしいわね」

 

 

 屋上にやって来るなり、大学生組の3人がそれぞれ感慨深げに言葉を漏らした。

 

 

 ここで練習したという希の言葉。さっきの“アイドル研究部”もそうだけど、この学校には沢山の思い出が詰まっているのだろう。

 母校とは、そういう場所なんだろう。

 

 

 俺も2年前までいた母校を思い出すが、あまり大した思い出がなかった。

 登校して授業が終わるとすぐ帰宅し、自作の曲を作っては動画サイトにアップする日々の繰り返しだった。

 

 

 にこ達を見ていると、もっと高校時代に出来る事があったんじゃないかと思ってしまう。

 けどそれは、考えても仕方のない事。

 

 

 ブンブンとかぶりを振って、さっきまで考えていた事を消し飛ばす。よし、気分転換完了。

 

 

 俺がそんな事をしている間、彼女達はワイワイと思い出話に花を咲かせていた。

 

 

「それじゃあ、みんなで踊ろう!」

 

 

 思い出話に満足したのか、穂乃果が先頭に立ってそう言う。

 他の元メンバーもそれに賛同しているようで。何となく、穂乃果がリーダー的存在だったのだろうなと思った。

 

 

「雪穂と亜里沙ちゃんは見てるだけになってゴメンね」

 

 

 バツが悪そうに穂乃果は言う。

 1年生でμ’sのメンバーでは無かった雪穂と亜里沙だけど、穂乃果の言葉にブンブンと首を横に振った。

 

 

「いえ、むしろμ’sのダンスをこんな近くで見られるなんて、光栄です!」

「そうだよお姉ちゃん。気にしないで」

 

 

 亜里沙はキラキラと目を輝かせてそう言い、雪穂は姉を気遣うしっかりとした妹といった感じだ。

 

 

「譜也さんも、見てるだけになるけどいいですか?」

「いいよ、全然。むしろ見てみたいって思ってるから」

 

 

 男でダンスの教養もない俺が参加するのは無理だろうし、見てみたいっていうのも偽らざる本心だ。

 

 

 にこが居たというスクールアイドル――μ’s。

 動画では何度も見た事があるけど、生で見るのはこれが初めてだ。内心、とても楽しみにしている。

 

 

「そうだ、アレもやろうよ! いつものやつ!」

「いいわね! ナイスよ穂乃果!」

 

 

 穂乃果の曖昧な提案に、にこが大袈裟に反応する。他の人も“アレ”が何なのか理解しているようだ。

 

 

「雪穂、悪いけど音楽お願いね」

「うん、分かってる」

 

 

 穂乃果の頼みに雪穂が頷く。雪穂は屋上に来る時にCDラジカセを持ってきていた。

 

 

 やがて自然と、誰が指示するわけでもなく、彼女達は輪になった。

 

 

 そして――

 

 

 

「それじゃあいくよ! ――1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

 

 

『μ’s、ミュージック――スタート!!』

 

 

 綺麗に揃った掛け声をすると、彼女達はそれぞれの配置に着く。準備が終わったのを見て、雪穂がラジカセの再生ボタンを押した。

 

 

 

 優しくも力強さも感じるピアノのイントロ。

 それだけで俺は曲名が分かった。

 

 

 

 ――START:DASH。

 

 

 

 にこが大学の入学式の日に披露した曲で、俺はそれに一瞬にして魅了させられた。

 

 

 数々のμ’sの曲を聴いた中でも、俺が最も好きな曲はこれだった。この曲だけはもう、数え切れないほど聴いている。

 

 

 それを今、目の前でμ’sが歌って踊っている。

 

 

 今この瞬間、μ’sが復活している。

 それをこんなに間近で見られるなんて、こんなに贅沢な事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曲が終わった。

 彼女達――μ’sは最後のポーズをとる。

 

 

 気が付けば、俺は自然と拍手を送っていた。同じく見ていた雪穂と亜里沙も、俺より大きな拍手を送っている。

 

 

「すごいすごい! やっぱりμ’sはすごいね、雪穂!」

「そうだね。私達の憧れだもん」

 

 

 自己紹介で聞いたのだが、雪穂と亜里沙は2人でスクールアイドルを結成している。

 自分達の姉がそのメンバーだったのだから、その分憧れも強いのだろう。

 

 

『イェーイ!』

 

 

 μ’sのメンバー達が、それぞれ一人一人とハイタッチをする。まるで喜びを共有するように、新しい思い出を刻み込むかのように。

 

 

 にこは、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 それだけで、彼女にとってμ’sがどれだけ大切な物なのかを思い知る。今までの言動からもその事は充分伺えたけど、今の表情はまた一段と輝いている。

 

 

 にこが最後に、希と絵里とハイタッチをする。

 

 

 パチンと乾いた音が響いた後、にこは力強く宣言した。

 

 

 

「ラブライブ、負けないわよ! にこは絶対に大学の予選を勝ち抜いて本戦に進むから、アンタ達も本戦まで来なさいよ!」

 

 

 

 宣戦布告。

 今までは同じグループだった仲間が、戦友(ライバル)となる。

 

 

 

「もちろん、そのつもりよ!」

「せやね、ウチらも負けへんよ!」

 

 

 

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