矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第21話

 

 

 大学でのラブライブ予選から数日が経ち、7月も中旬を迎えた。

 

 

 ライブの翌日には結果が発表され、うちの大学からラブライブ本選に出場するのは、矢澤にことなった。

 にこが選ばれるのは、正直言って当然の結果であったと言えるだろう。

 

 

 他のキャンパスアイドル達も精一杯検討していたが、観客が一番盛り上がっていたのがにこの出番の時だった。

 客観的に見て、ラブライブ本選に出場するのはにこで決定的だった。

 

 

 

 

 めでたく、にこのラブライブ本戦出場が決まってから数日後の今日。

 

 

 俺は家でラブライブ本戦で使用する曲作りに追われていた。

 

 

 ラブライブまであと1ヶ月と少し。

 しかし、最後の最後で曲作りは難航していた。

 

 

「ダメだ……少し休憩しよう」

 

 

 パソコンの画面をそのままに、俺は椅子から立ち上がってベランダに出る。

 

 

 煙草を一本取り出し、それを加えてライターで火をつける。

 すうっと煙を肺まで満たすと、それと同時にメンソールの清涼感が気管を通っていく。

 

 

 溜めていた煙を吐き出す。さっきまでの切迫感が、幾分か和らいだように感じた。

 それでも、その先へ進むことが出来ない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 さっきより深く煙を吸い込み、溜め息と共に紫煙を吐き出す。

 大気中に揺蕩う紫煙の行方を、ただ意味もなくジッと目で追ってしまう。

 

 

 煙草を一本吸い終えて部屋に戻る。

 さて、曲作りを再開しようかと思っていると、机の上に置いていたスマホが震えていた。

 

 

 しばらくマナーモードのバイブレーションが震えていた事から、それが電話の着信であると知り、慌ててスマホを手に取った。

 

 

 東條希。

 

 

 電話を掛けて来た相手は、にこの友人である彼女だった。

 

 

 何の用だろう?

 そう疑問に思いながらも、俺は通話開始のボタンを押した。

 

 

『あ、やっと出た。音坂君で合ってるよね? ウチ、東條希』

「ああ、合ってるよ。それで、いきなり電話なんてどうしたんだ?」

 

 

 希とは連絡先を交換した。だからお互いの電話帳にはお互いの名前で登録されている筈だ。

 それをわざわざ確認するという事は、緊張しているのだろうか?

 さっきから希の声が、いつもより上ずってる気がしないでもない。

 

 

 彼女とは実際に二度会っているけど、電話で話すのはこれが初めてだ。

 

 

『あ、うん。音坂君、明日って何か予定ある?』

「明日……無いけど」

『本当っ!?』

 

 

 予定が無いことを正直に言うと、希は声を一層大きくした。

 電話口でそんな大きな声を出さないでくれ、耳がキーンとなっている。

 

 

『じゃあ、明日ウチとアキバに行けへん? あ、エリチもおるよ』

 

 

 一拍置いて、希からそんな誘いを受ける。

 

 

 希と絵里と三人で秋葉原。

 そんな状況を想像してみると、自然と彼女達と出会った日の事を思い出す。

 

 

 浮かび上がった記憶を一旦隅に追いやって、明日の事を考える。

 

 

 お誘い自体は、まぁありがたい。

 それに丁度曲作りに行き詰まっているところだし、気分転換にもなるだろう。

 

 

「あぁ、構わないよ」

『本当!? じゃあ明日、アキバに来てな。詳しい事はメールで伝えるから』

「オーケー」

『あ、分かってるとは思うけど、にこっちには内緒にしといてな。それじゃあ、また明日』

「え、あ、うん。また明日」

 

 

 用件だけを端的に言われて、電話は切られた。

 

 

 にこには内緒にしてほしいと希は言ったけど、一体どういう意図があっての事なんだろうか。

 分かってるとは思うけどと言ったって、俺には何の事だかさっぱり分からない。

 

 

 でもまぁ、そう言われたからには、にこには伝えない方がいいのだろう。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 そして迎えた翌日。

 前日にメールで伝えられた場所に、指定された時間よりやや早く到着する。

 

 

 そこにはもう既に、希と絵里が到着していた。

 

 

「悪い、お待たせ」

 

 

 待たせた詫びを含めて声をかけると、二人が俺の姿に気がついた。

 

 

「ウチらも今来たところよ」

「そうよ。それに音坂君も時間より早く来てるじゃない」

 

 

 そうは言っても、女性を待たせてしまったという事実に変わりはない。

 けど二人は全く気にしていない様子でいるから、俺もなるべく気にしない方が二人に気を遣わせないで済むだろう。

 

 

「そういえば、にこっちはラブライブ出場決まったって聞いたよ。おめでとう」

 

 

 何の前触れもなく、希がその話題を切り出した。

 

 

「ありがとう。にこから聞いたのか?」

「そうよ、にこから電話が掛かってきたの」

「またにこっちと同じステージに立てるなんて、夢みたいで素敵やん」

 

 

 また、と希は言った。

 

 

 希と絵里は二人でコンビを組み、キャンパスアイドルとしてラブライブ出場を目指している。

 それは一月程前、音ノ木坂学院に行った時に聞いたものだ。

 

 

 だとすると、彼女達も。

 

 

 

「二人も、ラブライブ出場が決まったのか?」

 

 

 

 にこと同じステージに立てるという事は、そういう事なんだろう。

 

 

 

「ええ、そうよ」

「まさか出場できるなんて、思ってなかったけどな」

 

 

 

 絵里と希はそれを肯定した。

 

 

 やはり彼女達も、ラブライブ出場を決めていた。

 μ’sの元メンバーである彼女達なら、ラブライブ出場はある意味当然の結果と捉えていいだろう。

 

 

 それはにこにも同じ事が言えるが、彼女達が再び同じステージに立つというのは、μ’sのファンならこれ程嬉しい事は無い。

 

 

 同じメンバーとしてではなく、ライバルとして出場するという違いはあるけど。

 

 

「すると今日は、わざわざその事を伝える為に俺を呼んだのか?」

「ううん、音坂君を呼んだんはそれとは別」

 

 

 俺の疑問を、希は首を横に振って否定する。

 そうだと思って言ってみたけど、どうやら違ったみたいだ。

 

 

「音坂君には、私と希の買い物に付き合ってほしいの」

 

 

 買い物、英語で言うとショッピング。

 まぁ早い話、荷物持ちがほしいという事だろう。

 

 

「買い物って、何を買うんだ?」

 

 

 一応そう尋ねる。重い物を持たされる状況に備えて覚悟はしておかないと。

 

 

 すると希は、キョトンと不思議そうな顔をして。

 

 

「あれ、音坂君知らないん?」

「知らないって……そりゃあ、何を買うか聞いてないし」

 

 

 メールにも、今日買い物に行くとは書かれて無かった。俺は今日の事に関しては何も知らされてない。

 

 

 全く訳が分からず困惑していると、絵里が話に割って入ってきた。

 

 

「えっと、そういう事じゃなくてね音坂君。もうすぐにこの誕生日だって知らないの?」

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 思いもよらない絵里の言葉に、俺の口から間の抜けた声が出てしまった。

 

 

 

 

「だから、にこの誕生日プレゼントを買いに行くのよ」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 7月22日。

 この日がにこの誕生日だと、希と絵里から聞かされた。

 

 

 今日からあと一週間程で迎えるにこの誕生日に贈るプレゼントを、二人は買いに来たのであった。

 

 

 昨日の電話で希が言っていた“にこには内緒”という言葉の真意が、今ようやく理解出来た。

 誕生日プレゼントを買いに行くのに、それを本人に知られるのを避ける為だ。

 

 

 もっとも、俺はにこの誕生日プレゼントを買いに行くなんて知らなかったので、あまり意味はなさなかったが。

 

 

 そんな訳で俺達はにこの誕生日プレゼントを選ぶ為に、とある雑貨店にやって来ていた。

 

 

「なぁエリチ、これにこっちに似合いそうやない?」

「そうかしら、私はこっちの方がにこが喜ぶと思うけど」

 

 

 希と絵里の女性二人は、それぞれにこのプレゼントを選別しながら互いの意見を交換しあっていた。

 

 

 目についた物を手に取っては、にこに似合いそうだの何だのと言ってプレゼント選びを楽しんでいる。

 

 

 知らない間柄では無いとはいえ、女性二人の空間には居づらい。

 俺は二人からは少し離れた場所で、にこに贈るプレゼントを探していた。

 

 

 もうすぐにこの誕生日だと知り、折角プレゼントを買う予定の希と絵里に付いて来たのだから、俺もここでプレゼントを選ぼうという魂胆だ。

 

 

「なぁ音坂君、これどうかな? にこっちに似合うと思うんやけど」

「違うわ希、にこはこっちの方が喜ぶって言ってるじゃない」

 

 

 気が付けば二人が俺のところにやって来て、それぞれ選んだ物を持って俺に意見を求めてきた。

 

 

 希はオシャレなポーチ。

 絵里は美容グッズ。

 

 

「俺に聞かれても分からないんだけど……」

「でも大学生になってから、にこっちと一緒にいる時間は音坂君が一番多いやん?」

 

 

 まぁ俺とにこは同じ大学で、希と絵里とは違う大学だからな。

 大学生になってからにこと共にした時間でいえば、俺の方が多いのも当然だろう。

 

 

「それはそうだけど、今までにこと過ごした時間は君達の方が多いだろ? それに俺よりにこの事を知ってるだろうし」

 

 

 俺の目から見て、μ’sのメンバーはとても仲が良いように映る。

 一月前にこに連れられて訪れた音ノ木坂での一幕を見て、俺はそのように感じた。

 

 

 μ’sは解散して、にこ、希、絵里の三人は大学生になった。それでも、彼女達は固い絆で結ばれている。

 

 

「君達から贈られる誕生日プレゼントなら、それだけで嬉しいと思うよ」

 

 

 希と絵里から誕生日プレゼントを貰い、大喜びするにこの姿が容易に想像できる。

 

 

 

 俺の言葉を聞いて、希と絵里は再びプレゼント選びに戻っていった。

 

 

 遠目からその様子を見ていると、二人共真剣な表情をしてプレゼントを選んでいる。

 

 プレゼントならそれだけで嬉しいだろうと俺は言ったけど、それでも尚にこへ良いプレゼントをしたいという想いが現れている。

 

 

 大丈夫。

 彼女達があれだけ真剣に吟味して選んだ物なら、きっとにこは喜ぶだろう。

 

 

「さて、俺もにこの誕プレを探さないと」

 

 

 気を取り直してプレゼント選びを再開する。

 

 

 それから店内を歩き回って見ていくと、一つのモノの前で足が止まった。

 

 

 その場でしばらく考え込み、そして結論を出した。

 

 

 手に取ったのは、淡い水色のリボン。

 

 

 確かにこは、いつも赤色のリボンでツインテールを結っていた。

 対照的な色の物は最初どうかと思ったが、それよりも俺は個人的な感情を優先させてしまった。

 

 

 水色のリボンをレジに持って行き、プレゼント用の包装をしてもらった上で購入する。

 

 

 

 

 それからしばらく店の外で待っていると、希と絵里もにこへのプレゼントを購入し、店の外に出てきた。

 

 

「ごめん、お待たせ」

「全然待ってないから、気にしなくていいよ」

 

 

 まるで今日の待ち合わせの時のようで、思わず笑みが溢れてしまう。あの時とは立場が逆ではあるけど。

 

 

「そうだ音坂君。にこの誕生日、にこの家でみんなで誕生日パーティーをするのだけど、よかったら来ないかしら?」

 

 

 絵里からそんな誘いを受ける。みんなと言うのは、μ’sのメンバーの事なんだろう。

 

 

「いいのか? 俺が行っても」

「多分大丈夫よ。それに音坂君も来るとにこも喜ぶと思うわ!」

「じゃあ音坂君が来るのはにこっちには内緒にしない? サプライズって感じで!」

「ハラショー! 最高だわ希!」

 

 

 俺が入る余地も無くトントン拍子に話が進んでいく。

 まだ行くとは一言も言ってないんだけど。

 

 

「それじゃあ音坂君。7月22日、アキバに来てな。ウチとエリチで迎えに行くから」

「あ、あぁ……分かった」

 

 

 今更やっぱり行かないなんて言える雰囲気ではなく、俺はその誘いを受けた。

 

 

 女性ばかりの空間に居るのはあまり居心地が良くないのだが、にこの誕生日なんだから折角なら祝ってやりたい。

 

 

 それよりも、にこの家って事は……にこの家族もいるって事だよな。

 

 

 にこの家族構成は聞いた事が無いので知らない。

 女性ばかりの空間にいるより、にこの家族と顔を合わせる事の方が緊張するのは必然だ。

 

 

 

 ――7月22日、か。

 

 それまでには、曲を完成させないといけないな。

 

 

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