矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第26話

 

 

 土曜日。

 今日は希と絵里のラブライブ優勝を祝うため、ささやかな打ち上げが開かれる。

 

 

 参加するのは音ノ木坂のアイドル研究部メンバー達。主役の希と絵里。

 そして、ラブライブで惜しくも優勝を逃した――矢澤にこ。

 ことりからはそう伝えられている。

 

 

 昼過ぎに秋葉原の駅でことりと落ち合い、今日の打ち上げが開かれる目的地へと連れて行かれる。

 その時の俺は打ち上げをどこでやるのか知らされていなく、どこに連れて行かれるのかと不安になりながらことりと歩いていた。

 

 

 目的地を知らずにどこかへ連れて行かれるのは、にこに連れられて初めて音ノ木坂学院を訪れた時を思い出す。

 

 

 だから俺は不安になりながらも、音ノ木坂のアイドル研究部の部室に行くのだろうと思っていた。

 

 

 しかし、ことりに連れられて辿り着いた先は――

 

 

「……でっけぇ」

 

 

 超が付くほどの大豪邸。

 一体どんなお金持ちが住んでいるのか。

 

 

「あの、ことりさん。ここは……?」

 

 

 あまりの大きさに、ついつい敬語で聞いてしまった。

 もしかして、ことりの家だったりして。

 

 

「ここはですね……真姫ちゃんの家です!」

「真姫……ああ、あの子か」

 

 

 言われてすぐには顔が思い出せなかったが、何とか想像の中で顔と名前を一致させる事が出来た。

 

 

 西木野真姫(にしきのまき)

 燃えるような赤髪で、気の強そうなツリ目が印象に残っている。少し高飛車でツンツンしてそうな女の子。

 

 

「譜也さん、入りましょうっ。みんなもう来てるみたいです」

「ああ、そうだな」

 

 

 俺とことりは、西木野邸へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「あっ、来た来た! ことりちゃーん! 譜也さーん!」

 

 

 ことりと雑談しながら広大な屋敷の中を歩いていき、リビングらしき場所にやって来ると、俺達を見つけた穂乃果が声を上げてブンブンと手を振った。

 

 

「えっ!? 譜也君も呼んでたん!?」

 

 

 そう声を上げて驚いたのは希だった。

 

 

「えへへ、希ちゃんと絵里ちゃんには内緒で呼んじゃった。ダメだったかな……?」

「ううん、嬉しいよ。ありがとうなことりちゃん」

「私も譜也が来て驚いたわ。これは、ことりに一本取られたわね」

 

 

 嬉しそうに言う希と、感心したように呟く絵里。

 俺は彼女達のもとへと歩み寄り。

 

 

「希、絵里、優勝おめでとう」

「うん、ありがとう譜也君!」

「ありがとう、譜也」

 

 

 にこは負けてしまったけど、ここは素直に二人を称える。

 

 

「さて、これで全員揃ったわね」

 

 

 場所を提供している真姫が、腕組みをしながら言った。

 

 

「そうですね、にこが来れなくて残念ですが」

 

 

 真姫の隣にいた海未が、表情を曇らせながらそう呟く。

 

 

 いや、待ってくれ。にこが来れない……?

 そういえば、この場に来てからにこの姿を見ていない。

 

 

「えっ、にこ来れないのか?」

「ええ、どうやら風邪を引いたみたいで……」

「そ、そうか、ありがとう」

 

 

 俺の質問に答えてくれた海未に礼を言う。

 

 

「ええっ!? にこ先輩、風邪引いちゃったんですか!?」

「うん亜里沙、心配だね」

 

 

 大きく驚き、心配そうに言う亜里沙。それに雪穂も同意した。

 

 

 しかし、にこが風邪だと?

 何とかは風邪引かないっていうあの言葉は嘘だったのか?

 

 

 冗談はほどほどにして、にこが風邪を引いた。

 亜里沙と雪穂が言うように、心配だ。

 

 

「にこちゃん、ラブライブで頑張ったから疲れが溜まってたんだと思います」

 

 

 そう俺に声をかけたのは、大人しそうな印象の花陽だった。

 

 

「きっとかよちんの言う通りにゃ! にこちゃんの事だからすぐに元気になると思うし、心配いらないよ!」

 

 

 花陽に続いて活発そうな凛が、猫語を巧みに駆使して俺に言葉をかける。

 

 

「うん、そうだな。二人ともありがとう」

 

 

 おそらく花陽と凛の言う通りだろう。

 

 

 にこは今まで一人で頑張ってきた。

 あの小さな身体で必死に練習をしてきたのだ、やはり疲れはあったのだろう。

 

 

「譜也君は本当ににこっちの事が心配なんやね。妬けるなぁ……」

「だから、俺とにこはそういうんじゃないって」

「ホンマに? そうは見えないんやけどなぁ」

「本当だって、前にも言っただろ」

「そ、そうやね、ごめんな譜也君」

「あ、いや、謝られても困るんだけど……」

 

 

 疑いの眼差しで俺をからかってきた希に、ついつい素っ気無い言葉を返してしまう。

 それを怒っていると勘違いしたのか、平謝りする希に困惑した。

 

 

「希と譜也もイチャついてないで、そろそろ始めるわよ」

「なっ……! ちょっと真姫ちゃん!」

「どこがイチャついてるんだよ……」

「はいはい、始めるわよ。グラス持って」

 

 

 俺と希の反論を華麗にスルーして、真姫はグラスを持つように言った。

 グラスなんて持っていない俺は、グラスを探そうとオロオロと周囲を見渡す。

 

 

「譜也さん、これどうぞっ」

 

 

 するとことりが両手に飲み物が入ったグラスを持って来て、その片方を俺に差し出した。

 

 

「ことり、ありがとう」

 

 

 ことりからグラスを受け取る。

 

 

「みんな準備出来たようね。それじゃあ……希、絵里、ラブライブ優勝おめでとう!」

 

 

 真姫の言葉に合わせて全員が希と絵里に「おめでとう!」と揃えて言った。

 

 

「ハラショー! ありがとうみんな!」

「うん、ありがとうな!」

 

 

 全員からの祝福を受け、希と絵里は顔を綻ばせる。

 

 

「希と絵里のラブライブ優勝を祝して――乾杯っ!」

『乾杯ーっ!』

 

 

 グラスを掲げながら、全員で乾杯を言う。

 希と絵里を音ノ木坂の後輩達が囲んでいき、口々に二人を祝福する。

 

 

 俺はその様子を少し離れた場所で眺めていた。

 後輩達に囲まれて楽しそうに談笑している希と絵里を見て、彼女達も愛されているなあと感じる。

 

 

 それと同時に、この場ににこが居ないという事に違和感と寂しさを感じてしまう。

 

 

 でも、にこが今この場にいたとして、みんなのように笑顔でいられるのだろうか。

 この前電話した時の様子からして、笑顔でいられるという保証は無い。

 

 

 ――もし。

 もしも、ラブライブで優勝していたのがにこだったら、きっとあの輪の中心にいるのはにこだった。

 

 

 にこを優勝させる事が出来なかった自分の力の無さに、やるせなくなる。

 

 

 俺の作った曲は、にこの魅力を上手く引き出せていなかった。

 希と絵里が披露した曲――『硝子の花園』は、二人の魅力を最大限に活かしていた。

 

 

 にこの敗因はそこにあると、俺は分析している。

 

 

「譜也君? 難しい顔してどうしたん?」

 

 

 希の声で、現実に引き戻される。

 

 

「あ、ああ、ちょっと考え事」

「そう……ほら料理来たよ、食べよ食べよ」

 

 

 テーブルを見ると、そこには見るからに高級そうな料理が並んでいた。

 みんな椅子に座り、それぞれ料理に舌鼓を打っている。

 

 

「……そうだな」

 

 

 希と一緒に、みんなが座る食卓へと移動する。

 

 

 それから、みんなで食事に舌鼓を打っている時だった。

 希が、思い出したように言葉を放った。

 

 

「そうや、みんな聞いて聞いて。ウチとエリチな、プロに誘われてん」

 

 

 一瞬の静寂。

 俺を含めて、その言葉を飲み込むのに時間がかかった。

 

 

『ええぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 

 そして、この場にいる全員が一斉に驚いた。

 

 

「希ちゃんと絵里ちゃん、プロになっちゃうの!?」

 

 

 穂乃果が机に身を乗り上げる勢いで尋ねる。

 

 

「ならないわよ。その話はきちんと断ったわ」

「そうなんだ〜」

「でも、何で断ったの?」

 

 

 ホッと胸をなで下ろす穂乃果の後に、真姫が尋ねた。

 その質問に、希が答える。

 

 

「ウチらはプロになりたくてラブライブに出たわけじゃないからなぁ。またにこっちと一緒にライブがしたかっただけなんよ」

「ふーん、そうだったのね」

 

 

 その理由を聞いた真姫の反応は素っ気なかった。

 

 

 にこと一緒にライブがしたかった。

 それだけの理由でラブライブに出場し、優勝してしまう希と絵里は凄いのだろう。

 

 

 そして、二人に曲を作った真姫と海未も。

 

 

 やはり、自分の力の無さを痛感してしまう。

 

 

「この話はここまで! 今日はみんなといっぱい楽しむで!」

 

 

 希が話を無理やり切り上げた。

 

 

 それからは、彼女達と談笑したりしながら、楽しい時間が続いた。

 

 

 

 

 ただ一つ。

 この場ににこが居ない違和感だけが、俺は終始拭えないでいた。

 

 

 

 

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