矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第30話

 

 

 もう一度、にこの為に曲を作る。

 

 

 そう決意した俺は、再び曲作りに取り組んだ。

 

 

 未だにことは関係が解消された状態が続いているけど、そんなのは関係ない。

 

 

 今、にこは苦しんでいる。

 ラブライブに負けた事で、過剰なまでの責任を感じている。

 

 

 にこなりに考えて、俺からの楽曲提供を受けないという選択をとったのだろう。

 

 

 これ以上、俺の時間を奪うわけにはいかない。にこはそう理由付けた。

 

 

 にこがそう言うならと、俺はにこの提案を受け入れ、関係は解消されたが。

 

 

 それからのにこは、今まで以上に苦しんでいる。それは出会った当初よりも、よっぽど酷いものだった。

 

 

 そんなにこを、このまま黙って見ているだけなんて、まっぴらごめんだ。

 

 

 大学祭の日。

 にこのライブを希と絵里と共に見た。

 

 

 にこが大好きであるはずのμ’sの曲を踊っているというのに、にこの表情はどこか釈然としなかった。

 

 

 その時、希と絵里に頼まれた。

 

 

 

『にこっちを、助けてあげて』

 

 

 

 初めは、にこにもう曲を作らなくていいと言われていたので、どうすればいいのか分からなかった。

 

 

 苦しんでいるにこに何もしてあげられない無力な自分が、もどかしかった。

 

 

 そんな折、希が俺に問うた。

 

 

 

『譜也君は、どうしたいん?』

 

 

 

 答えは簡単だった。

 

 

 

 ――にこの曲を作りたい。にこが本当のアイドルになる、その手助けをしたい。

 

 

 

 希と絵里の助言もあり、俺は再びにこの曲を作る決意をした。

 

 

 にこが俺の曲は要らないと言おうが、関係ない。その時は、にこが折れるまで曲を作り続けるまでだ。

 

 

 そう決意して、曲を作っているのだが……。

 

 

 

 

 

「ダメだ、全く進まねぇ……」

 

 

 曲作りは難航していた。

 

 

 今まで作っていたような、そんな曲ではダメ。それだとにこを納得させることなんて出来ない。

 

 

 何かを変えないといけない。そんな思いが俺の中に強く渦巻いていた。

 

 

 にこだって、変わろうともがき苦しんでいる。

 

 

 そんなにこの苦しみが伝染したかのように、これから作ろうとする曲の方向性というものが、全く見えないでいた。

 

 

 音楽に答えはない。

 正解か不正解かどうかなんて、そう易々と判断できるものではない。

 

 

 それでも、今のままではダメなんだということは、ハッキリと分かる。

 

 

「……ダメだ、休憩」

 

 

 作曲作業を行っていたパソコンの前から離れ、移動する。部屋に置いてあるアコースティックギターを手に取り、音を奏でていく。

 

 

 既存の曲はなぞらない。即興で、感情の赴くままにコードを進行させるだけの時間。

 

 

 こうして何か新曲に使えそうなメロディーを探っていく。しかし、そう簡単に見つかるものでもない。

 

 

 部屋にただ、ギターの旋律だけが響き渡る。

 

 

 弦を弾きながら、俺はとある手段を実行に移すべきかどうか、考えていた。

 

 

 それは果たして俺を――ひいてはにこを、出口の見えない迷路から、抜け出す術となり得るのだろうか。

 

 

 分からない。

 教えを乞うことによって、何かが劇的に変わるかどうかなんて。

 

 

 けれども。このまま停滞したままでは、きっと時間がかかりすぎる。

 

 

 現状維持のままでいいのか。

 

 いや、違うだろ。

 

 このままではにこの力になれない。

 

 だったら、どうするべきか。

 

 

 自問自答を繰り返す。

 俺自身が、何をしたいのか。

 

 

 にこを、このまま放っておくわけにはいかない。

 

 

 なら何をするべきなのか、答えは簡単だった。

 

 

 このまま俺一人だけで作曲を続けていては、埒があかない。いつまで経っても、迷路から抜け出せない。

 

 

 気がつけば、ギターを弾く手は止まっていた。

 

 

 スマホを手に取り、電話帳を開く。予め連絡しておこうと思ったのだが、連絡先に()()()の名前は無かった。

 

 

「あれ、連絡先交換してなかったっけ……」

 

 

 連絡先を知っている彼女に用件を伝えてもらう事もできたが、こういう事はなるべく本人に直接伝えたかった。

 

 

 大学の時間割を見る。

 明日は午前の講義だけしか履修していなくて、丁度よかった。

 

 

「……行くか、明日」

 

 

 そう決意する。

 いきなり訪ねると迷惑かもしれないが、今の俺には彼女達の力が必要だった。迷惑かけるのを承知で訪ねるしかない。

 

 

 そうと決めると、俺は再びギターを手に取り、音を奏でた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 昼には大学の講義が終わった俺は、夕方の電車に乗って秋葉原にやって来た。

 

 

 夕方。高校でいうと放課後にあたる。

 

 

 少し早めに目的地に到着し、通行する人達に目を配らせる。その人達に会うためには、こうして待っているしかなかった。

 時折訝しげな視線が通行人から送られてくるが、何とか耐え抜いてやり過ごした。

 

 

 しばらくの間、そうして通報されない事を祈りながら待ち続けていると、目的の人達の姿が遠目に映った。

 

 

 彼女達の中の一人が俺に気づき、駆け寄ってくる。

 

 

「譜也さん、こんにちは。こんな所でどうしたんですか?」

 

 

 南ことりはペコリと俺に挨拶をして、ここにいる俺に疑問をぶつけてきた。

 

 

「いや……君達にちょっと話があって来たんだけど……」

「そうなんですか? それなら連絡してくれればよかったのに。わざわざ校門の前で待たなくても」

 

 

 そう。ことりの言うように、俺はずっと彼女達が現れるのを、音ノ木坂学院の校門前で待ち続けていた。

 

 

「あ、譜也さん! こんにちは!」

 

 

 ことりに続いて穂乃果が俺のところにやって来た。元気よく挨拶をする彼女を見ていると、何だかこっちまで元気をもらえるような気がする。

 

 

「こんにちは。他のみんなも、こんにちは。ラブライブの打ち上げ以来だね」

 

 

 穂乃果とことりの後ろには、他のアイドル研究部の面々が揃っていた。彼女達に向かって、俺は挨拶をする。

 

 

「それで、私達に話って……何ですか?」

 

 

 先ほど言った言葉をことりが拾い上げる。

 

 

 これだけの人の前で言うつもりはなかったのだけれども、一度決めた事だ。覚悟を決めて言うしかない。

 

 

「えっと、みんなにっていうより、海未と真姫に話があるんだ」

「私と真姫に、ですか?」

「なによ、話があるならさっさと言ってよね」

 

 

 海未はまさか自分に話があるとは思わなかったように驚き、真姫は面倒くさそうな態度で話を急かしてきた。

 

 

 二人を直視する。

 覚悟は出来た。あとは言葉にするだけ。

 

 

 話があるというより、これはただのお願いだ。

 

 

 ワガママで自分勝手な、ただのお願い。

 

 

 二人がそれを聞き入れてくれるかどうかは分からない。というか、断られる確率の方が高いと思っている。

 

 

 でも、言葉にしないと何も始まらない。

 

 

 俺は二人に頭を下げる。そして――

 

 

 

 

「海未、真姫。俺に曲を……μ’sの曲の作り方を、教えて下さい!」

 

 

 

 

 変わるための言葉を、口にした。

 

 

 

 

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