矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第33話

 

 

 駅前で希と偶然出会い、夕食に誘われた。

 

 

 真姫と海未に言われた、希が俺に好意を持ているかもしれないという事。

 その事があって俺は希の提案に数秒ほど悩んだが、ここは夕食を共にした方がいいだろうという結論に至った。

 

 

 希の誘いに乗り、俺たちは駅のすぐ近くにあるファミレスにやって来た。ファミレスには何度も来た事があるが、女の子と二人でというのは初めてで少し緊張してしまう。それが自分の事を好きかもしれないという女の子なら尚更だ。

 

 

 ファミレスに入ると奥の方の禁煙席に通された。俺と希は軽くお互いの近況報告を交えながら、メニューを眺めて注文する料理を決めていく。

 

 

「譜也君、注文決まった?」

「ああ、この明太子のパスタにしようと思う」

「ふふっ、ウチと一緒やね。あ、すいませーん」

 

 

 嬉しそうに笑いながら、希は近くにいた店員を呼んで注文をする。

 注文を受け取った店員が去っていくと、再び希が俺に話を振ってきた。

 

 

「真姫ちゃんの家で作ってる曲って、やっぱりにこっちの?」

「ああ。希と絵里に言われて再びにこの曲作りを始めたんだけど、どうにも上手くいかなくて。それで真姫と海未に協力してもらってるんだ」

 

 

 俺が再びにこのために曲を作ろうと思えたのは、希と絵里のおかげだ。二人には感謝している。

 

 

 二人が俺ににこを何とかしてほしいと言った事は、言うなれば敵に塩を送るような形になるのだけど、彼女達からすればにこは敵ではなく仲間なのだろう。

 

 

「良かった。譜也君、前より活き活きしてる」

「俺が……?」

 

 

 にこの事ではなく俺について話す希。前より活き活きしてるというその言葉に、俺は頭にハテナを浮かべた。

 

 

「うん。学園祭の時の譜也君は、何だか辛そうだったから」

 

 

 そう……なのだろうか。

 いや、おそらく希の言う通りなのだろう。

 

 

 にこに曲を作らなくていいと言われ、その事を不本意ながら了承した。

 

 

 自分から切り離しておいて辛そうで苦しそうなにこを目の当たりにして、俺は何も出来ない事が苦しかったのかもしれない。

 

 

「確かにそうかもな……ありがとう、希」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 

 希は笑顔を見せて素直に俺からの感謝の言葉を受け取る。

 

 

 丁度そのタイミングで注文した料理が運ばれてきて、会話が一旦中断された。

 

 

「パスタ美味しそうやん! 譜也君、食べよ食べよ」

「そうだな。いただきます」

「いただきまーす」

 

 

 俺も希もお腹が空いていたのか、しばらくは先程とは違う軽い会話をしながらパスタを食べていく。

 

 

「ん〜〜美味しい」

「値段の割になかなかイケるな、これ」

 

 

 そんな感想を言い合いながら箸……もといフォークは進んでいく。

 

 

 

 そしてお互いに半分ほどお皿を空けた頃だろうか。

 

 

 希が手を止めて真っ直ぐに俺を見ていた。

 

 

 俺は手を回してパスタをフォークに巻きつけながらも、その視線を怪訝に思っていた。

 

 

 すると希は数秒ほど目を閉じたのちに、決心したように目を開けてその事を口に出した。

 

 

「なあ、譜也君。ウチが譜也君のこと好きやって言ったら驚く?」

「あ、ああ……」

 

 

 突然のその問いに、パスタをフォークで巻いていた俺の手が止まる。

 

 

「あれ? あんまり驚かないんやね」

「いや……驚いてるよ」

 

 

 それはもう、言葉が出ないほどに驚いた。

 真姫と海未が言っていた事。希が俺を好きだという事が見事に的中していたのだから。

 

 

 希の口からその言葉が出てきて、想像ではなく現実の出来事となっている。

 

 

「そうなん? まあもう一度言うね。ウチは譜也君のことが好き」

「……」

「譜也君、ウチと付き合ってください」

 

 

 希は真っ直ぐに俺を見て言う。

 その言葉に、俺は何と返したらいいのだろう。

 

 

 希は魅力的な女性だ。

 だけど、俺は彼女についてあまりにも知らなさすぎる。

 

 

「……って、急に言われても困るよね」

「え、いや……」

 

 

 そうじゃないと言おうとしても、今まで何も言葉が出てこなかった事実が、俺にそう言わせなかった。

 

 

「ううん、分かってる。だから今はまだ、返事はしなくてええよ。でも、考えておいてね」

「……分かった、考えておく」

 

 

 希の返事はしなくていいという言葉を、ここは素直に受け取っておく。

 

 

 ただ単に後回しにしただけなのかもしれないが、今の曖昧な状態で返事をするのも失礼な気がする。

 

 

 それに、今は恋愛よりもにこの曲を完成させる方が先決だ。全てが片付いて落ち着いたら、改めて希の告白に返事をしよう。

 

 

「ごめんな、ついつい告白しちゃって。あ、パスタ冷めちゃうやん、食べよ食べよ」

 

 

 何とも形容しがたい微妙な空気が流れつつも、希はパスタを口に運んでいく。

 

 

「……なあ、一つ聞いていいか?」

「ん?」

 

 

 一つ気になる事があったので、希に尋ねてみる。

 

 

「どうして、今俺に告白したんだ?」

 

 

 希が俺のことが好きだという事は分かった。なぜ好きになったのか、今は聞かない。

 それより、どうして今このタイミングなのか。

 

 

「……カードがな、ウチにそう告げたんや」

「カード?」

「ああ、譜也君に言うのは初めてやったね。ウチ占いが趣味でな、タロットカードにそう出てたんよ」

 

 

 占いが趣味。

 

 それは、今まで知らなかった希の新しい一面。

 

 

「――っていうのは冗談で」

「えっ?」

 

 

 占いの結果じゃないのか。だとすると、それは……。

 

 

「本当は、今日言うつもりなんてなかった。譜也君とは偶然会っただけやし、にこっちの事で大変なこの時期に、言うつもりはなかった。でも――」

 

 

 一旦言葉を区切り、深呼吸をする希。

 

 

 そして、言葉の続きを口にした。

 

 

 

「でも、後悔したくなかった。気持ちを伝えないままモヤモヤしてるなら、気持ちをハッキリ伝えた方がいいんじゃないかって。これは占いの結果なんかじゃなく、私の意志」

 

 

 

 自分の意志で、希は俺に告白した。

 

 

 だから、俺も中途半端ではいられない。

 

 

 返事は今のところどうなるか分からないけど、真剣に考えて答えなくてはならない。

 

 

「分かった、言ってくれてありがとう」

 

 

 だからまずは、今取り組んでいるにこの新曲。

 

 

 にこがもう一度輝きを取り戻すことができるように、それを完成させなければならない。

 

 

 考えるのはそれからだ。

 

 

 しっかりと考えて結論を出した上で、希の告白に返事をしよう。

 

 

 

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