矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第35話

 

 

 にこに完成した曲を渡したその日の夜に、スマホのメッセージアプリでにこからのメッセージが届いた。

 

 

『いい曲だったわ、ありがとう』

 

『また次のラブライブもよろしく』

 

 

 短く簡素なメッセージ。だけどそれだけで、にこの伝えたい事は十二分に伝わった。

 

 

 また俺が、にこに曲を作ることを許されたのだ。正直今回断られていたとしても引き下がるつもりはなかったので、一発で受け入れてくれて何よりだった。

 

 

 そして、俺が曲を作っている間に次のラブライブの開催が決定していた。

 

 

 時期は予選が12月、予選後に行われる本選が年が明けた後の1月となっている。予選の形式等は前回と同じ、各大学にて代表のキャンパスアイドルを決める事となっている。

 

 

 それに向けて、また曲を作って欲しいとにこは言った。

 

 

 およそ一月後に開催される予選ライブでは、俺がついさっきにこに渡した曲を使うだろう。

 

 

 つまり、本大会に向けてもう一曲作らなければならない。

 一曲作ってからまださほど時間は経っていないが、今の俺からは創作意欲が溢れて止まらなかった。

 

 

 にこの返事を聞く前から勝手に新曲は作っていたのだが、にこからの返事を受け取った今となっては躊躇いなく曲作りに打ち込める。

 

 

 しかし、時間はもう深夜。

 曲作りを中断して、今日の所は大人しく眠りについた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 朝起きて大学へと向かう。

 今回にこの為に作った新曲をヘッドホンで聴きながら、大学への道を歩いていく。

 

 

 曲が三度ほどリピートしたところで、大学にたどり着きそのまま一限目の講義が行われる部屋へと向かう。

 

 

 たどり着いた講義室。いつもより早く家を出たせいか、席に着いている人はまだ少ない。

 

 

 だけどその中に、見慣れた黒髪ツインテールの姿を見つけた。俺は一直線に彼女のもとへと向かい、椅子を一つ空けた席に立つ。

 

 

「おはよう、にこ」

「譜也……おはよう」

 

 

 挨拶をすると、矢澤にこは普通に挨拶をいつも通り返してきた。曲を作らなくていいと言われ、お互いに離れていた以前のように。

 

 

「隣、いいか?」

「いいか……って、もう座ってるじゃない。勝手にすれば」

「じゃあ、遠慮なく」

 

 

 そこで俺は腰を下ろして、一マス空けたような状態でにこの隣に座った。

 

 

 隣のにこに視線を向けると、偶然にこも俺に視線を向けていた。

 するとにこは俺と目が合った事に気付き、何故かパッと反射的に目を逸らした。

 

 

「おい、なんで目を逸らす」

「な、なんだっていいじゃない」

「まあ、いいけどさ……」

 

 

 視線を逸らされた事に若干傷つきながらも、なるべく気にしない方向で考える。

 

 

 もしかしたら、一度曲を作らなくていいと言った手前、もう一度俺に曲を作ってもらう事に罪悪感を感じているのかもしれない。

 

 

「なあ、もしかして悪い事したとか思ってる?」

「はぁ? 何が……ああそういう事ね。別に、悪いとか全然これっぽっちも思ってないわ。しつこく曲を聴いてくれって言ってきたのは譜也の方なんだし」

 

 

 清々しいまでににこは悪いとは思ってないと言う。確かにその通りなんだけど、そこまで堂々と言われると、そう思っていて欲しくなかったと思っていた感情を返してくれと口にしたくなる。

 

 

 しかしにこはそこで「でも……」と言って言葉を区切り、続けた。

 

 

「まあ、感謝はしてるわ。やっぱり私には譜也の曲が必要なんだって、気付かせてくれたから」

「……そうか、ありがとな」

 

 

 そう思ってくれていた事に、素直に礼を言う。

 

 

 にこが本当に俺の曲を必要ないと思っていなくて、本当に良かった。

 

 

「あーあー! 今の無し! 嘘だから、忘れなさい!」

「はいはい」

「“はい”は一回でいいでしょ!」

「ほら、教授来たぞ。静かにしろ」

「うっ……後で覚えてなさいよ」

 

 

 にこに鋭い目で睨まれて、視線を逸らす。

 

 

 講義室には教授がやって来たのと同時に、学生もちらほらと席に着いていた。

 

 

 講義が始まる時間になり、俺はラブライブ以前のように、にこの隣で講義を受けた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 今日の講義が全て終わると、俺はいち早く大学をあとにした。

 にこの練習を見ていこうかとも思ったが、それよりも先にやるべき事があった。

 

 

 自宅ではなく駅まで歩いて向かい、タイミングよくやって来た電車に乗る。

 

 

 一時間ほど電車に揺られてやって来たのは、秋葉原。

 改札を通り抜けると、そこには俺が呼び出していた人物が待っていた。

 

 

「あ、譜也さん! こんにちは!」

「こんにちは、時間取らせて悪いな。ことり」

 

 

 南ことり。

 彼女に会いに来たのは言うまでもなく、にこの衣装を頼むためだ。

 

 

「いえ、全然大丈夫ですよ」

「そうか。それじゃあ行こうか」

「はい!」

 

 

 ことりと秋葉原の街を歩いていき、やって来たのは前にことりに衣装を頼んだ時にも訪れた喫茶店。

 

 

 俺はコーヒー、ことりは紅茶を注文し、それが運ばれて来て早速本題に入る。

 

 

「これ、今回にこに作った曲。この衣装を頼みたいんだ」

 

 

 曲の入った音楽プレイヤーをことりに渡す。ことりは俺から差し出された音楽プレイヤーをまじまじと見つめ。

 

 

「分かりました、にこちゃんの曲ですよね?」

 

 

 曲も聴かぬまま、あっさりと了承した。

 

 

「……いや、聴いてから決めなくていいのか?」

「はい」

 

 

 とびっきりの笑顔を見せてことりは答える。正直、何とも予想外な展開だ。

 

 

「じゃあ、よろしく頼む」

「はい、任せてください!」

 

 

 以上で、今日秋葉原にやって来た目的が達成された。いやいや、早すぎるだろ。

 

 

 そういえば。

 

 真姫の家で曲作りをしていた時に、ことりも俺の事が好きかもしれないと真姫が言っていた事を思い出した。

 

 

 こんな事、本人に聞くのはどうなのかと思うが……希の事も考えなくてはいけないし、ややこしくなる前にハッキリさせておいた方がいいのではないか。

 

 

「なあ、ことり。正直言って俺の事どう思ってる?」

 

 

 あえて遠回しに、そう尋ねてみる。

 

 

 ことりはキョトンと首を傾げる。そして笑顔を見せて。

 

 

「譜也さんのことですか? 好きですよ?」

 

 

 ……結果はなんと、真姫の言っていた通りだった。まさか今までモテた事なんて一度もなかった俺がこんな事になるなんて。

 なんとも言えない表情を俺はしていただろう。

 

 

 すると、ことりがハッと表情を変えて慌てて言葉を紡いだ。

 

 

「あっ、好きってそういう恋愛的な意味じゃなくて、人としてって事です! ことりは、にこちゃんの為に頑張ってる譜也さんが好きって事です」

 

 

 弁明するように言うことりの言葉は、恋愛的な好きではない。ラブではなくライクだというものだった。

 

 

「にこの為に、頑張っている俺?」

 

 

 にこの為と言うより、俺がやりたいからにこに曲を作っているのだけど。ことりから見れば、俺はそういう風に映っているようだ。

 

 

「はいっ! 誰かの為に一生懸命頑張れる人って、素敵だと思うんです! だからことりは、譜也さんのこと応援してますよ!」

「そっか……ありがとうな、ことり」

 

 

 応援していると言われて嬉しくない筈がない。今作っている新曲も、ことりの言葉でより頑張ろうと決意が膨らんだ。

 

 

 そうだ、新曲。

 

 目の前のことりを見つめる。

 

 

 衣装を作るのが好きで、にこの衣装製作を快く引き受けてくれることり。彼女の言葉を借りるなら彼女もまた、誰かの為に一生懸命頑張れる人なんだろう。

 

 

 本人は自分がやりたいからやっているだけなんだけど、周りの人が見ればそれは誰かの為に頑張っているという事で。

 

 

 俺とことりは、似た者同士なのかもしれない。

 

 

「……そうだことり。もう一つ頼みを聞いてくれないか?」

「何ですか?」

 

 

 だから、ダメで元々ではあるがもう一つ依頼をしてみる。

 

 

「さっきの衣装とは別に、にこに一番似合うと思う、とびっきり可愛い衣装を作ってくれないか? さっき頼んだのは次のラブライブの予選で使って、今頼んでいるのは本大会で使いたいんだ」

 

 

 今作っているにこの新曲。その衣装を今ここで、ことりに頼んでいる。

 

 

「わあ、素敵です! もう曲は出来てるんですか?」

「いや、今作ってる途中だ。だけど――」

 

 

 まだ曲は完成していない。にこは俺が新曲を作っている事を知らない。

 

 

 だけど、にこを真のアイドルにする為に、俺は。

 

 

「本大会までに、にこにピッタリな最高の曲を作ってみせる!」

 

 

 そこまで言って、俺はことりを見る。

 

 

 胸の前で両手を握り、キラキラと目を輝かせていることりは、身を乗り出して口を開いた。

 

 

 

「分かりました! ことり、にこちゃんに似合うとびっきり可愛い衣装、作ります!」

 

 

 

 

 

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