矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第36話

 

 

 季節はすっかり冬となり、肌を突き刺すような寒さに身体を震わせる日々が続いた。

 

 

 今年ももう最後の月に突入し、少しばかり早いが来年はどんな出来事が待っているのだろうと、期待に身を寄せていた。

 

 

 新曲の制作もいよいよ最後の大詰めを迎え、作っている俺自身完成が待ち遠しい。

 

 

 一旦曲作りを中断し、疲れていた身体をグーっと伸ばす。

 

 

 椅子から立ち上がり、休憩がてら一服しようとベランダへと出る。

 

 

「寒っ」

 

 

 時刻はもうすぐ深夜を回ろうとしており、この時間の冬の寒さが身に染みわたる。

 

 

 ポケットから煙草を一本取り出し、口に咥えてライターで火をつける。

 すぅっと息を吸い込むと、肺が満たされる感覚が訪れる。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 息を吐き出す。

 口から吐き出された紫煙を眺めながら、その先の夜空を見つめた。

 

 

 暗いキャンバスの上に、冬の星達がキラキラと眩い輝きを放っている。

 

 

 星座はあまり詳しくは知らないけど、それでも一つ知っている有名なものを見つけた。

 

 

「オリオン座か」

 

 

 砂時計のようなその特徴的な形は、星座に疎い俺でも知っているほどに有名な冬の星座の代表格。

 

 

「明日はラブライブ予選……」

 

 

 ふうっと吸い込んだ煙を吐き出しながら、独り言を呟く。

 

 

 そう、明日はいよいよラブライブの予選。前回同様、大学でのライブが開催される。

 

 

 あれからにこは俺の作った新しい曲の練習に、今まで以上に頑張って取り組んでいた。

 時々練習を見に行っては、にこは邪魔だと言って追い返そうとしたけど、言うのは最初の一度きりでそれ以上は何も言ってこないのが通例となっていた。

 

 

 そうやってにこは今日まで練習を積み重ねてきた。

 

 

 そして俺は、新曲作りに取り組んでいた。

 

 

 明日は、にこが再挑戦(リベンジ)の機会を得るための再出発(リスタート)のライブ。

 

 

 にこが己の理想とするアイドルになるために踏み出す、新しい第一歩だ。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 翌日。いよいよ大学でのラブライブ予選が開催されようとしていた。

 

 

 平日という事で、全ての講義が終わった後にライブが行われる。

 

 

 本日最後の講義が終わり、隣に座っていたにこが立ち上がりライブの準備に向かおうとする。

 

 

「にこ」

 

 

 その背中を呼び止める。にこは背を向けたまま立ち止まった。

 

 

「ライブ、しっかり楽しめよ」

 

 

 俺とにこが疎遠になっていた期間。学園祭でライブを行っていたにこは、少なくとも楽しめていなかった。

 

 

 だから俺はにこにそう声をかけた。

 お節介かもしれないけど、これが俺にできる予選ライブ前最後の行動だった。

 

 

「任せなさい! 思いっきり楽しんでくるわ!」

 

 

 にこはくるりと振り返って、拳を握りしめながら持ち前の笑顔でそう答えた。

 

 

「じゃあ、行ってくるわね」

「ああ、応援してるから」

 

 

 最後にそんなやり取りを交わして、にこはライブの準備のため講義室を出て行った。

 

 

 ライブが行われるのは、屋外に設営された野外ステージ。講義室を出た俺はそこに向かい、少し離れた後ろの方からステージを眺める。

 

 

 ラブライブの予選とあって、学生だけでなく外部から来た人の姿もちらほらと見受けられる。

 

 

 子供連れの家族。他大学の学生。仕事帰りのサラリーマン。他にも様々な人が、このライブ会場に姿を見せていた。

 

 

 時間の経過と共に太陽は沈み、辺りが暗くなると同時に寒さも増していった。

 

 

 ライブ会場は気が付けば多くの人で溢れかえっていて、その人達はコートに身を包みながらも、寒さに身を震わせていた。

 俺もコートを着込み、マフラーで首元も防寒している。

 

 

 今はこれだけ寒くても、ライブが始まればキャンパスアイドル達がすぐに俺達を暖めてくれるだろう。

 

 

 アイドル達のライブは、そういった熱気を発生させる事を俺は知っている。

 

 

 

 

 会場から、大きな歓声が上がった。

 

 

 ステージには、四人の女性キャンパスアイドルグループ。

 

 

 いよいよ、ライブが開幕する。

 

 

 

 

 ステージから流れる音楽。アイドル達の歌声。魅力的なダンス。

 それらが観客達の歓声と入り混じり、会場は熱気に包まれる。

 

 

 ライブは今までの寒さを感じさせない程、派手な盛り上がりを見せていた。

 

 

 ステージを照らすスポットライトがアイドル達を一際輝かせる。

 ステージを取り囲むように輝く色鮮やかなイルミネーションは、この日の為に設置されたもの。

 

 

 ライブは、前回とは比べものにならないほど盛り上がっていた。

 

 

 そして。

 

 

 観客達の歓声が、今日一番大きなものとなる。

 

 

 先程までステージに立っていたアイドルのライブが終わり、次にステージ現れたキャンパスアイドル。

 

 

 矢澤にこ。

 

 

「みんなー! にっこにっこにー!」

『にっこにっこにー!』

 

 

 観客達がにこの声に応える。もはや恒例となったその呼びかけは、にこが持つ魅力となっていた。

 

 

「今日は寒い中来てくれてありがとう! この寒さを吹き飛ばすぐらいの、熱くて楽しいライブにするわよー!」

 

 

 観客達の歓声は未だ大きくなり続ける。この観客達のほとんどが、μ’sから矢澤にこというアイドルを知った人達だろう。

 

 

 だけど、それでいい。

 

 

 μ’sは矢澤にこを知ってもらう一つのきっかけで。μ’sがあったからこそ、今の矢澤にこというキャンパスアイドルが存在しているのだから。

 

 

「今から歌うのは、私の()()()()が作ってくれた新曲です!」

 

 

 大切な人、とにこは言う。

 

 

 前回のラブライブ予選では“友達”だった。

 

 そして今回は“大切な人”。

 

 

 その言葉が意味するものを、この時の俺はまだ理解していなくて。

 

 

 

「それでは楽しんでいって下さい!

 

 ――『まほうつかいはじめました!』」

 

 

 

 真姫と海未に協力して作った、俺達の新曲。

 

 

 俺一人では絶対に生み出すことの出来なかった、にこだけの曲。

 

 

 にこの笑顔は、魔法だ。

 

 歌を聴いた者を、ダンスを見た者を、矢澤にこというアイドルがファンを笑顔にする魔法。

 

 

 観客達は今までで最高の盛り上がりを見せている。それは、前回の予選ライブ以上だ。

 

 

 そんなライブの様子を最後列から俺は見ている。アイドルに近い前の列もいいが、こうして後ろから見た方が全体がよく見える。

 

 

 それに、今ステージで歌って踊るアイドルは、いつも俺の近くにいるのだから。

 

 

 だから今日のライブは、こうして後ろから眺めていよう。

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

 ライブが終わり、観客達から拍手と歓声が飛び交う。

 

 

 ライブが終わった後のにこは、とびきりの笑顔を見せていた。

 

 

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