矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

37 / 51
第37話

 

 

 大学でのラブライブ予選から、早くも一週間ほどの時間が経った。

 

 

 予選ライブの結果、前回に引き続きにこが本大会へと進むことが決まった。

 

 

 ライブで最も観客から歓声を受けていたのがにこで、最も盛り上がっていたのもにこのライブの時だった。

 にこがラブライブ本選へと出場するのは、当然ともいえる結果だった。

 

 

 今は日曜日の夜。

 特に何も予定が無い俺は、この休みをフルに活用して曲作りを進めていた。

 

 

 昨日から続けている新曲作りもいよいよ終盤に差しかかり、今はラストスパートの真っ最中。

 

 

 イメージは出来ている。

 にこにピッタリの、誰しもが笑顔になれるようなとびきり可愛い曲。

 

 

 ポチポチとマウスでパソコンの画面に映る楽曲ソフトを操作していく。

 

 

 暖房を付けていない部屋で寒さに打ち震えながら、最後の仕上げへと突入する。

 

 

 音を打ち込んでは再生する。イメージと違っていたら変更する。この繰り返し。

 

 

 それから三十分ほど作業を続けていき。

 

 

 そして遂に。

 

 

 

 

「出来たーーーー!!」

 

 

 新曲が完成した。

 

 

 確認のため、完成した曲を流す。

 

 

 ヘッドホンから流れる音楽に耳を傾けながら、おかしいところは無いか何度もチェックする。

 

 

「よし……大丈夫だ」

 

 

 問題ない。

 ようやく、にこの新曲が完成した。

 

 

 来月、アキバドームで開催されるラブライブでにこはこの曲を歌う。その事を想像すると胸が躍った。

 

 

 喜びに打ちひしがれていると、スマホが突然着信を告げた。

 

 

 画面に表示されるのは『にこ』の二文字。

 

 

 スマホを手に取り、電話に出る。

 

 

「もしもし」

『あ、譜也? まだ起きてる?』

「寝てたら電話に出ないだろ。それで、何の用だ?」

 

 

 いちいち起きてるか確認するにこに呆れながら、こんな夜遅くにわざわざ電話をしてきた用件を尋ねる。

 

 

『今日ことりから衣装が届いたんだけど、何か知ってる? ことりに聞いたらアンタに聞けって言うのよ』

 

 

 おそらく、ことりに頼んでいた新曲の衣装だろう。もう完成したのか。

 ことりの仕事の早さに感心しつつ、ついさっき新曲が完成したタイミングの良さに驚く。

 

 

「ああ。それ、新曲の衣装だよ」

『そう新曲の……って新曲!?』

 

 

 にこのノリツッコミ的な反応の良さに思わず笑ってしまう。アイドルもそうだけど、お笑い芸人の才能もにこにはありそうだ。

 

 

「ああ。ちなみに曲もついさっき出来たぞ」

『え、うそ、ほんとに? 頼んでもないのに?』

「嘘ついてどうする……」

『本当なのね! ちょっと今すぐ聴かせなさいよ!』

 

 

 電話越しに新曲を聴かせろと要求するにこ。いち早く聴きたい気持ちは分かるが、いくらなんでも早急すぎる。

 

 

「まあ落ち着け。明日大学で聴かせてやるから」

『本当ね!? 嘘ついたら承知しないわよ!』

「だから嘘じゃないって。明日ちゃんと持っていくから」

『絶対よ、絶対だからね! 約束よ!』

 

 

 声を荒げて興奮しているのが電話越しに伝わってくる。きっと電話の向こうのにこは今、身を乗り出しているに違いない。

 

 

「分かってるよ。それじゃあ切るぞ」

『いい、絶対に新曲聴かせるのよ! それじゃあ、おやすみ』

「おやすみ」

 

 

 最後まで俺に念を押して、にこは電話を切った。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 翌朝。ヘッドホンから流れるにこの新曲を聴きながら、大学に向かって歩いていく。

 

 

 この新曲は、今まで作ってきた中で最高の出来になったと自負している。

 

 

 およそ三ヶ月前、曲作りが滞っていた俺は真姫と海未の二人を訪ね、曲作りのアドバイスを求めた。

 何の連絡もせず現れた俺に、二人は親身になって協力してくれた。

 

 

 そして真姫と海未の協力のもと出来た曲が、『まほうつかいはじめました!』。ラブライブ予選でにこが歌った曲だ。

 

 

 この曲は真姫と海未がいなければ、完成しなかっただろう。

 

 

 そして、二人に受けたアドバイスを活かして俺一人で作り上げたのが、今ヘッドホンから流れている新曲だ。

 

 

 この曲もまた、真姫と海未の協力がなければ出来なかったものだろう。

 

 

 二人の凄さを改めて感じつつ感謝しながら歩いていると、大学にたどり着いた。

 

 

 そのまま真っ直ぐ建物へと向かい、講義室を目指して歩いていく。

 

 

 講義室の前まで辿り着き、扉を開け中へと入っていく。この時間なら多分アイツも来ている事だろう。

 

 

 

「譜也!」

 

 

 

 講義室に入るやいなや俺の名を呼ぶ声がした。ヘッドホン越しでもハッキリと聞こえた事から、相当な声量だったと思う。

 

 

 声の主はもちろん、矢澤にこ。

 

 

「なんだよ、朝からうるさい……」

 

 

 歩きながら新曲を流していたヘッドホンを外して、にこの隣の席につく。

 

 

「新曲、早く新曲を聴かせなさい!」

「分かったから、落ち着けって」

 

 

 今さっきまでその新曲を聴いていたヘッドホンをにこに差し出す。にこは乱暴にヘッドホンを奪い取るようにして、耳にかけた。

 

 

 俺は音楽プレイヤーを操作して、頭から曲を再生させる。

 

 

 しばらくの間、にこは曲を聴いていた。

 時折身体を揺らしてリズムを取り、フンフンとハミングで口ずさみながら、楽しんで曲を聴いている様子だった。

 

 

 そして曲が終わるとにこはヘッドホンを外して、目をキラキラと輝かせていた。

 

 

「良い……良いじゃない! 今までで一番良い感じよ! まさににこにピッタリの曲ね!」

「そうか、気に入ってもらえたようで何よりだ」

 

 

 曲を聴いたにこの感想は、嬉しいものだった。

 

 

 にこにピッタリの曲。それを目指して曲を作ったので、間違っていなかったのだと自信がついた。

 

 

「今日からさっそくこの曲を練習して、ラブライブで披露するわ! あ、CDに入ってるのとかある?」

「あるぞ、今日から練習するだろうと思って作ってきたやつが」

 

 

 バッグから新曲のみを収録したCDの入ったケースを取り出し、それをにこに渡す。

 今言ったように、にこが練習に使うと言い出すと思い、あらかじめ準備しておいたのだ。

 

 

「気が効くわね、ありがとう」

「どういたしまして。練習、頑張れよ」

「もちろん!」

 

 

 CDの入ったケースを受け取ったにこは、嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

 

 そんなにこを見ていると、本当に新曲を作って良かったと思える。

 

 

 俺がにこに曲を作らなくていいと言われて疎遠になっていた時期は、にこに笑顔が無かった。

 だからこそ、今こうして普通に笑っているにこを見ると何だか安心できる。

 

 

 俺のやってきた事は間違いじゃなかったのだと、そう思える。

 

 

「はい静かに、始めるぞ」

 

 

 いつの間にか教授がやって来ていて、講義の開始を告げた。

 

 

 隣にいたにこから視線を外し、前を向いて講義を受ける体勢をとる。

 

 

 

 

 それからは真面目に講義を受けようとしたのだけれど、どうにも隣のにこが気になって集中出来なかった。今までこんな事は無かったのに。

 

 

 その原因がよく分からず、今日一日はモヤモヤした気持ちで俺は過ごした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。