矢澤にことのキャンパスライフ! 作:ゆいろう
希の告白を断ってから数日が経った。
俺はにこの事が好き。
その事をハッキリと希に告げると、最後にこう言われた。
『にこっちはウチの大事な親友やから、絶対に幸せにしてあげてな』
告白を断った俺に対して希に言われた言葉。
どこまでも優しくて他人を思う希から言われたその一言を、俺は重く受け止めなければならない。
にこを幸せとは何なのかを考える。
まず第一に思い浮かぶのは、にこが自身の理想とするアイドルになる事。それがにこの夢であり、にこにとっての幸せだろう。
その為に俺は、曲を作ればいい。
今までもそうやって、にこに協力してきたのだから。
そんな決意を胸に秘めながら、俺は部屋のパソコンの前に緊張しながら座っていた。
緊張している理由は他でもない、ラブライブの結果発表があと少しで行われるから。
優勝はおそらく、にこかのぞえりのどちらかだろう。それ程までに二組のライブはかつてない盛り上がりを見せていた。
時刻は昼過ぎ。
結果発表の時間が、刻一刻と迫っている。
緊張から喉が渇く。何か飲み物を取ってこようかと考えたが、結果発表はあと少しなのでその場に留まった。
そして。
「きた!」
結果発表がされる予定の時間を迎えた。
あらかじめ開いておいたウェブサイトを更新して、結果を待ち構える。
アクセスが多いのか更新には時間がかかり、なかなか更新されない事に焦りが募っていく。
そして、ウェブサイトが更新された。
ラブライブ結果発表と書かれたリンクをクリックして、また別のページに飛ぶ。
そのページをスクロールしていく。
早く見たいという気持ちと、もしにこが優勝できていなかったらという怖さから、スクロールをゆっくりと進めていく。
ここで足踏みしていても仕方ない。そう思って一気にページを下へスクロールさせた。
そこには――
ラブライブ!
キャンパスアイドル部門
優勝
矢澤にこ
「……」
何度も瞬きをする。
ページをもう一度更新してみる。
スクロールさせて再び見る。
そこに映っていたのは、矢澤にこの四文字。
頬を
頬が痛い。
夢じゃない――
「夢じゃ、ない……?」
目の前に映し出されるそれは、紛れもない現実だった。
「――っしゃあああああああああ!!」
気が付けば俺は、柄にもなく部屋の中で一人叫んでいた。
優勝したのだ。
にこが、矢澤にこが、ラブライブで。
「そうだ、電話!」
俺は慌ててスマホを手にとり、にこに電話をかける。
いち早くおめでとうと伝えたい。そしてにこと喜びを分かち合いたい、その一心で。
しかし、耳に届くのはツーツーという機械音。
「通話中か……」
他の誰か、おそらく元μ’sの誰かに先を越されたのだろう。にこにおめでとうと言うのは一番最初にしたかったので、少し残念だ。
「また後でかければいいか」
そう思い再びパソコンの画面を見つめる。
優勝、矢澤にこ。
その文字列を見るだけで嬉しくなる。
「そうだ」
記念に写真を撮っておこうと思い、スマホのカメラを起動させる。
パシャリとシャッターを切る音がして、撮れた写真を確認する。写真は綺麗に撮れていて、今度はスマホに映るそれをジッと見つめた。
すると、スマホから着信音が響いた。
急な事にスマホを落としそうになったが、何とかキャッチする。
画面には、にこの二文字。
通話ボタンを押し、電話に出る。
「もしもし?」
『あ、譜也? 今電話大丈夫?』
電話越しに聞こえるにこの声。
わざわざ大丈夫か確認するあたりが彼女らしい。
「大丈夫じゃなかったら電話に出てないって。それより、ラブライブの結果見たか?」
『ええ、見たわ』
どこか淡々としているにこの声。正直、優勝したのだからもっと喜んでいるのかと思っていたが、意外とドライなところがあるようだ。
「そうか。にこ、優勝おめでとう」
『ありがとう』
やはり、にこの声は淡々としている。というよりも、どこか元気がないように思えた。
「どうした? なんか元気なくないか?」
『そう? いつもこんな感じじゃない?』
「いや、絶対元気ないって。何かあったか?」
『別に……何もないわ』
何もないとにこは言うが、本当に何もないとは思えなかった。
「何もないって本当かよ」
『ねえ譜也』
俺の言葉を無視して、にこは俺の名前を呼んだ。
『今から会えない? 会って直接話したいの』
突然の誘い。
あまりにも突然すぎて驚いたし、何よりにこの口からそんな言葉が出てくる事に驚いた。
「ああ、分かった。俺がそっちに行けばいいか?」
『そうね……いや、私がアンタの家に行くわ』
「分かった、待ってる」
そんな約束をして、電話は切られた。
にこの口調から察すると、ただ世間話をしたいという訳ではなさそうだ。
きっと何か、大事な話があるのだろう。
もしかすると、前回のラブライブ直後のように、曲を作らなくていいと言われるのかもしれない。
もちろん、俺の考えすぎかもしれない。
どちらにせよ、大事な話があるのは間違いないだろう。
何を言われても大丈夫なように心構えだけはきちんとして、俺は部屋でにこを待った。
* * *
一時間ほどにこを待っていると、インターホンが鳴った。玄関に向かいドアを開けると、そこにいたのはやはりにこだった。
「ごめんね、急に会いたいなんて……」
「いいって。それより寒いだろ、早く中に入れって」
「そうね。お邪魔します」
にこを家の中へと招き入れる。
やはり今日のにこはいつものような元気がない。ラブライブに優勝したのだから、俺みたいにもっと浮かれていてもおかしくないのに。
「何か飲むか?」
「そうね……ホットココア」
「了解」
炬燵に入ったにこにそう尋ねる。
クリスマスイブにもにこは俺の家に来たので、何が置いてあるのかは大体知っている。
台所でリクエストのココアを二人分作り、炬燵のある部屋へと持っていく。
「ほい、ホットココア」
「ありがと」
俺からココアを入れたマグカップを受け取ると、にこはそれに一口だけ口をつけた。
「それで、話って何なんだ?」
俺も炬燵に入り、にこに尋ねる。
にこは持っていたマグカップを置いて下を向く。
そして、顔を上げた。
「譜也。にこね――」
一拍置く。
そして――
「――プロに誘われたわ」