矢澤にことのキャンパスライフ! 作:ゆいろう
大学生になって、二度目の春を迎えた。
春休みが終わって早くも二週間もの時間が経ち、鮮やかに咲いていた桜も今ではすっかりその影を潜めていた。
「ふぁぁ」
自室で大学に行く準備をしていた俺は、眠気のあまりあくびを一つ漏らす。
準備を終える。まだ家でゆっくりする時間はありそうだ。
コーヒーを淹れてそれをチビチビと飲みながら、ここ二週間の大学を思い出す。
大学が始まって二週間、にこは大学に姿を見せていない。
それもその筈、にこはプロのアイドルとして活動していた。
ラブライブで優勝したキャンパスアイドルという肩書きを引っさげ、にこは数々のテレビ番組に出演している。
新人アイドル達のトーク番組、お笑い芸人主体のバラエティー番組、大物司会者のクイズ番組。そして、歌番組。
歌番組でにこはプロの手がけた曲を歌っていた。その時のにこは楽しそうな顔をしていて、プロのアイドルという夢が叶って良かったと思う。
その反面、にこに会えなくて寂しいという思いも強く持っていた。
砂浜で誓いを交わしたあの日から、俺はにこと一度も会えないでいた。
テレビでにこの姿を見る事ができるし、にこの出演する番組は全て録画しているので他所寂しさは紛れているが、それでもやっぱり実際に会いたいというのが本音だ。
だけど、今は我慢の時。
あの時にこに誓った言葉。プロのソングライターになるという事。
俺は今それを叶えるため、曲作りに励んでいた。
既に何曲かは完成させレコード会社に持ち込んでみたが、返事は良くなかった。
その時は落ち込んだけど、翌日には新しい曲を作り始める。そしてまた出来た曲をレコード会社に持ち込む、その繰り返しの日々を過ごしていた。
昨日も夜遅くまで曲を作っていた。おかげで少し寝不足である。
眠気を解消しようとコーヒーを口につける。いつもより少し濃くいれたそれを飲むと、少し目が冴えた気がする。
時計を見る。
そろそろ大学へ向かわないといけない時間になっていた。
ピーンポーン。
インターホンが鳴った。
こんな朝早くから訪ねてくるなんて、一体誰なんだ。というか、こんな朝から俺を訪ねてくる人物に心当たりがない。
さては、変な宗教の勧誘だろうか。
とりあえず大学へ行く準備を済ませて玄関へと向かう。
ピーンポーン、ピーンポーン。
インターホンがしきりに押される。
靴を履き、玄関を開ける。
そこには――
「――遅い!」
小さな身体。
黒髪ツインテール。
聞き慣れた声。
見慣れた顔。
俺の好きな人。
「……にこ?」
矢澤にこが、そこにいた。
「おはよう、譜也!」
ここ最近はテレビでしか見てなかった笑顔。
間違いない、にこだ。
「にこ、お前……どうしてここに?」
プロのアイドルになったにこ。
しばらく会えないと思っていたのに、今こうして目の前にいる。
「プロになっても、大学には籍を置いていいんだって。それで今日は仕事が入ってないから、大学に来たってわけ!」
まるでイタズラが成功したようににこは笑みを浮かべる。
よく見ると、にこは去年まで大学に来ていた時に身につけていたバッグを持っている。
「はは……なんだよそれ……しばらく会えないと思ってた」
「その辺は……にこの勘違いだったみたい」
驚きと戸惑い。
だけど、喜びの方が大きい。
しばらく会えないと思っていた彼女に会えたのだから。
「それよりほら、早く大学に行くわよ! 急がないと遅刻しちゃうじゃない!」
「あ、ああ。行こうか」
玄関を出てドアに鍵を掛ける。
にこは少し先の方まで進んでいて、そこで俺を待っていた。
「ほら早く! 急がないと本当に遅刻しちゃうじゃない!」
「待てって、今行くから!」
にこに向かって走り出す。
にこに追いつき、肩を並べて大学へと向かう。
しばらく会えないと思っていた。
だけど今こうして隣ににこがいる。
プロのアイドルになった、俺の好きな人。
「それで譜也、プロになるって約束は進んでるの?」
「ああ、何曲か作ってレコード会社に持ち込んだ。結果はダメだったけど、絶対にプロになってみせるさ」
一緒にいられる時間は去年より少なくなるだろう。
だけど、にこの仕事がない日は今みたいに一緒にいられる事ができる。
「そっか……頑張ってね、待ってるから」
その日はきっと楽しい日になるだろう。
「ああ、待っててくれ」
これからも、少しはありそうだ。
にこと一緒にいられる日々が。
――矢澤にことのキャンパスライフが。