矢澤にことのキャンパスライフ! 作:ゆいろう
休日。にこの実家情報からヒントを得た俺は、秋葉原に行こうと今日を迎えた。
テレビを点けると朝の情報番組がやっている。その音を聞き流しながら、俺は寝巻きから外出用の服装に着替える。
『続いては、本日の星座占いのコーナーです!』
テレビから聞こえたアナウンサーの声に、俺はふと視線をテレビに移す。
普段はこういう星座占いなんて信じないんだけど、今日はなんとなく耳に入り、目を向けてしまった。
11位から順に星座占いの結果が発表されていく。2位まで発表されて、俺の星座はまだ出ていない。
ちなみに俺の誕生日は4月28日。おうし座だ。
やがて残ったのは1位と12位だけになった。自分の星座が残っているだけあってなんだがドキドキしている。
『12位はふたご座のアナタ。外出すると不運に遭うかもしれません』
「おっ。じゃあおうし座は1位か」
おうし座が言われなかった事で、この番組での星座占いで俺は1位となった。ちょっぴり嬉しい。たまには星座占いも悪くないかもしれんな。
しかしふたご座の人。外出すると不運に遭うとか可哀想すぎるだろ。今日は外に出るなってか。
『そんなふたご座のアナタにオススメのアイテムがこちら。タロットカードです! これを持って外出すれば不運は免れるかも』
タロットカードとか、そんな物持ってる人いないだろ。これは巧妙なタロットカードのステマかな。
『そして1位はおうし座のアナタ。今日は素敵な出会いがあるでしょう!』
「素敵な出会いねえ……」
俺が曲を作ると約束したキャンパスアイドル――矢澤にことの出会いは素敵とは程遠かった。むしろその真逆。
いきなり彼女が俺にぶつかってきて、何故か俺が文句を言われるという出会いだった。
しかし今ではにことビジネスパートナーのような関係になったというのだから不思議なものだ。ただ、出会い方はもう少し素敵な方が良かった。
準備を終えてテレビを消す。
にこの為に作る曲のヒントを得る為に。ついでに素敵な出会いとやらを期待して、俺は秋葉原へと向かうのであった。
* * *
電車で1時間かけて秋葉原にやって来た。今日も今日とて良い天気に見舞われており、絶好のお出かけ日和となっていた。
秋葉原駅の改札を通り抜け初めてやって来た秋葉原の街に、心が浮つき自然と足取りも軽くなっていた。
だからなのか。俺、音坂譜也は――
「……迷った」
道に迷っていた。絶賛迷子中である。大学生にもなって道に迷うとか恥ずかしいったらありゃしない。
駅を出ると、あまりの人混みに耐えられず少し道を外したのがいけなかった。
細い路地に入ってしまい、曲がり角に来ると適当に曲がる。それを繰り返していたら、どっちが秋葉原の方向か分からなくなってしまった。
立ち止まっていても秋葉原には辿り着けない。そう思って俺は知らない道をひたすら歩き続けていた。
誰か人を見つける事が出来ればその人に道を尋ねようと思っているのだが、これまで歩いてきて人とすれ違う事は無かった。
閑静な住宅街をまっすぐに歩いていく。
すると、遠く前の方からこちらに向かって歩いている人の姿が見えた。遠目からなのでよく見えないが、おそらく女性だ。
よかった、やっと人に会えた。気分は第一村人発見といった感じ。ここ都会だけど。
ホッと一息つく。その人に秋葉原までの道のりを尋ねようと、俺の足は心なしかその歩みを速めいった。
信号のない交差点。そこで俺は一旦立ち止まった。正面から歩いてくる女性も交差点の手前まで来ている。
スマホを片手に眺めながら歩く女性は交差点に差しかかり、そのまま立ち止まらずに交差点を渡ろうとした。
キィィイイイイッッ!!!
車のブレーキ音が突如として鳴り響く。
横から交差点に進入しようとする一台の車が、目の前の女性に迫っていた。
「…………えっ」
女性は横に視線を向け、自分に迫って来る車を見つめて動こうとしない。いや、恐怖で体が動けなくなってしまったのか。
「――危ないッ!!」
俺は咄嗟に交差点に飛び込んで、女性を助けようと駆け出す。
車が止まる気配は無く。すぐそこまで迫って来ていた。
間に合えッ!!
タックルするように女性の体に飛びつき、勢いそのままに交差点の向こう側に飛び込んだ。
女性の体を庇うように体を捻り、アスファルトに俺は女性を抱えながら背中から倒れこむ。
「はぁ、はぁ、間に合った」
間一髪で女性が轢かれるのを防ぐ事が出来た。
「す、スピリチュアルやん……?」
「おい、大丈夫か?」
訳が分からないことを呟く女性に問う。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
僅かに体を震わせながら女性は答える。よっぽど怖かったのだろう。
「そうか、良かった」
「あ、あの……」
「ん?」
女性は顔を赤くしながら、俺の目をじっと見つめて意味ありげな視線を送ってくる。
……近い。
若干緑がかった大きな瞳が、すぐ近くにあった。
「この体勢のままやと、ちょっと恥ずかしいかなぁ」
言われて俺はようやく気が付いた。彼女を助ける時に抱きかかえて倒れこんでいる現状。俺と女性の体は密着と言っていい状態にあった。
そういえばさっきから何か柔らかい感触が……。
「わ、悪い」
見ず知らずの男と密着しているのは女性も嫌だろう。俺は女性の背中に回していた腕を離した。
「あ、ありがとう」
女性は立ち上がって俺に向かって手を差し伸べてきた。俺はその手を取って起き上がる。
そこで初めて俺は女性の姿を見る。
まだ20代前半、もしくは成人前かもしれない顔立ち。紫がかった長い髪は肩の辺りで可愛らしい髪留めで結ばれている。
そしてどうしても目についてしまうのが彼女の胸。一言で言うとデカイ。果物で例えるならメロンである。
メロンの事は一旦置いといて。
女性は全体的に落ち着いた雰囲気を保っていて、包容力のありそうな印象だ。
なんだかどこかで見た事のある人なんだけど、うまく思い出せない。
「あのっ、助けてくれて本当にありがとうございます!」
腰を直角に曲げて女性は俺にお礼を言ってきた。
真っ直ぐに向けられる感謝の言葉に、俺はどう答えればいいのか戸惑ってしまう。
「いや、無事で何よりだよ」
無難にそう答える。これが無難なのかは甚だ疑問ではあるが、変に恩着せがましくするよりはマシだろう。
「あの、お名前を聞いてもいいですか?」
女性は縋るような目で俺に問いかける。まあ言って困るような事でもないし、ここは素直に答えよう。
「音坂譜也です」
「音坂さん。さっきはウチのこと助けてくれて本当にありがとうございます」
「いいって、そんな大したことしてないし。それより敬語をやめてほしいかな。多分キミの方が年上だろうからむず痒くて」
おそらく年上の女性に敬語で話されるのは何だか背中が痒くなる。
「そう、ですか。じゃあ敬語はナシにするね。それとウチの名前は
東條希さんね。
……って18歳!?
嘘だろ年下なのかよ。年上だとばかり思ってたわ。
「あの音坂君っ! 助けてくれたお礼に、ウチに何かさせてほしいな。ウチに出来る事なら何でもするよ」
ん? 今何でもって。
それじゃあ――
「秋葉原への道を教えて下さい!」