矢澤にことのキャンパスライフ!   作:ゆいろう

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第7話

 

 

 秋葉原への道を教えて欲しい。

 そう言った俺に対し東條はこう答えた。

 

 

「ウチもアキバに向かう途中やったから、折角やし一緒に行こうや」

 

 

 彼女にとっても迷惑だろうと最初は断っていた俺だったが一歩も退かない姿勢を見せる東條に、俺は最終的に折れてしまった。

 

 

 そして現在。俺は東條と並んで秋葉原までの道を歩いていた。

 俺が今まで歩いてきた道を辿っていく。どうやら俺はさっきまで秋葉原とは真逆の方向に歩いていたらしい。

 

 

 自分の方向音痴っぷりに恥ずかしさを覚えながらも、ゆっくりと隣を歩く東條に歩幅を合わせながら歩いていく。

 

 

「音坂君は、今いくつなん?」

「俺? 19歳だけど」

 

 

 秋葉原を目指して歩きながら、ふと東條が俺に質問をぶつけてきた。

 

 

「ウチの1つ上やね。じゃあ大学二年生?」

「いや、一年浪人したから一年生」

「そうなんや。じゃあウチと同じやね」

「東條も大学一年生なんだ。年上だと思ってた」

「もう……こないだまでウチ高校生やったんよ?」

 

 

 そんな他愛もない会話をしながらゆっくりと歩みを進める。

 

 

「音坂君は大学どこなん?」

「〇〇大学。ここから少し離れた所の」

「あそこなんや! ウチの友達もそこ通ってるんよ!」

「じゃあどこかですれ違ってるかもな。そう言う東條はどこの大学なんだ?」

「ウチ? すぐそこの△△大学よ」

「ああ、あそこね。良い所じゃないか」

 

 

 なんか、お互いの情報を聞き出している会話になってるな。まあ別にいいんだけど、初対面の女性とこういう会話をするのはお見合いのようで少し照れくさい。お見合いした事ないけど。

 

 

 そういえば。にことはこんな会話した事なかったな。あいつ多分俺の事同い年だと思ってるだろうな、舐めた態度とられてるし。

 

 

「あ、そろそろ着くよ」

 

 

 東條がそう告げる。もうすぐ秋葉原に着くようだ。

 

 人の多い通りに出る。

 そこからまた少し歩いていくと、ふと前方から声がした。

 

 

 

「希っ!!」

 

 

 

 前から駆け足でやって来たのは、金髪をポニーテールに結んだスタイルのいい女性。

 透き通るように白い肌とブルーの瞳。外国人……いや、ハーフかな。まるでモデルみたい綺麗な人だ。

 

 しかしこの人も東條と一緒でどこか見覚えがあるのだが……ダメだ、思い出せない。

 

 

「あ、エリチ。お待たせ」

「もう30分も遅刻よ。何かあったのかと心配したじゃない!」

「あはは、待たせてゴメンな」

 

 

 どうやら東條とエリチさんは友人同士で、待ち合わせをしていたようだ。

 東條が遅れて心配するエリチさん。いやー、いい友情だなぁ。

 

 

「あら? 希、そちらの男性は? ま、まさかボーイフレンドじゃないでしょうね!?」

「そんなんじゃないってば。彼は音坂君。ウチが車に轢かれそうになった所を助けてくれたんやで」

「車に轢かれそうになった!? 希、大丈夫だったの!?」

「うん、音坂君が助けてくれたって言ったやろ?」

「は、ハラショー……」

 

 

 何やら訳が分からない言葉を呟いてエリチさんは俺の顔をマジマジと見つめる。

 

 

「えっと、音坂君でいいかしら。希を助けてくれてありがとう。ハラショーよ」

「いえいえ。……ハラショー?」

「エリチはお婆さんがロシア人のクォーターなんよ。ハラショーはロシア語で素晴らしいって意味」

「そ、そうなんだ」

 

 

 クォーターのエリチさん。なんだか不思議な人だ。

 

 

「私は絢瀬絵里(あやせえり)。希とは高校からの親友なの」

「あ、どうも。音坂譜也です」

 

 

 絢瀬絵里。東條にはエリチと呼ばれている。

 よし、覚えた。

 

 

「音坂君はどうしてアキバに来たん?」

「いや……ちょっとアイドルについて勉強しようと思って」

 

 

 東條の質問に、俺は少し躊躇ったが正直に答える。

 美人な二人にアイドルオタクと思われるのは中々キツいものがあるけど、偶然東條を助けただけで明日からは会う事はないだろう。

 

 

「それやったら、ウチらがアキバを案内してあげるよ!」

「え、いいのか?」

「もちろん! 音坂君には助けてもらった恩があるからね。エリチもそれでいい?」

「構わないわ。希の恩人だから、しっかりエスコートしてあげないとね!」

 

 

 正直、迷子になっていた所をここまで連れてきてくれただけで十分助かっている。

 でも折角だからここは東條と絢瀬にアキバを案内してもらうとしよう。また道に迷うかもしれないし。

 

 

「それじゃあ、お願いします」

「決まりやね。どこから行こっか?」

「アイドルの勉強といったら、やっぱりあそこじゃないかしら」

「そうやね。じゃあ行こっか」

 

 

 そう言って東條と絢瀬は歩き始めた。2人に置いていかれないように、俺は慌ててその後を付いて行く。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「着いたわ。ここよ」

 

 

 アキバの街を東條と絢瀬という美女2人と並んで歩いていくと、とある場所に辿り着いて、絢瀬は誇らしげな顔をして言った。

 

 

 道中、やけにすれ違う通行人からチラチラと見られていたが、おそらく嫉妬か羨望の視線のどちらかだったのだろう。

 東條と絢瀬みたいな美女2人を連れて歩いている男がいれば、気に食わないのは当然といっていい。俺だって他人が美女と歩いていたら気に食わない。

 

 

 そんな周囲の羨望や嫉妬といった視線を浴びて、いつか刺されるんじゃないかとヒヤヒヤしながらやって来たとある店。乱雑に並べられた商品が店の外まで溢れていて、正直言ってあまり中に入りたくない。

 

 

「ここのアイドルショップは、スクールアイドルを専門に扱っているのよ。さあ、入りましょう」

 

 

 店の外観に呆気にとられていた俺に、絢瀬はそう説明してアイドルショップの中に入っていく。

 

 

「こんな所で立ってても仕方ないし、店の中入ろう」

 

 

 更には東條も俺を促す。

 本気で入りたくないのだけど、わざわざ案内してもらっておいてそう言うのは不義理にも程がある。

 

 

「ああ、そうだな。入るか」

 

 

 先に入っていった絢瀬を追うように店の中へと入っていく。

 店内にはスクールアイドルと思われる人の写真や、プリントが施されたグッズの数々が所狭しと並べられていた。

 

 

 絢瀬は店の一角で立ち止まって、キョロキョロと店内を見渡していた。

 

 

「ここも、変わってないわね」

「そうやね。みんなと来た時もこんな感じやった」

 

 

 どこか遠くを見つめながら2人はそっと呟いた。まるで過去を懐かしんでいるような、そんな目をしている。

 頻繁に秋葉原に来ているであろう彼女達のそんな表情を、俺は不思議に思いながらジッと眺めていた。

 

 

 その事に気が付いて慌てて絢瀬と東條から視線を逸らす。見ている事に気付かれたら恥ずかしいなんてものじゃない。

 

 

 しかし、そうして逸らした視線の先が悪かった。

 

 

 目に飛び込んできたのは一枚の写真。

 

 

「これは……」

 

 

 その写真を手にとる。

 写っているのは、9人の少女達。

 

 

 

「――μ’s」

 

 

 

 つい最近知った、既に解散したスクールアイドル。

 

 

 写真の中には同じ大学のキャンパスアイドル、矢澤にこも写っている。

 

 

 そこには今一緒にいる東條と絢瀬の姿もあった。

 ……なるほど。2人に感じていた既視感の正体はこれだったのか。

 

 

 

 東條希と絢瀬絵里。

 

 2人は矢澤にこと同じ、スクールアイドルμ’sの元メンバーだった。

 

 

 2人共どこかで見た事があると思っていたが、それはμ’sの動画だったとは。完全に失念していた。

 

 

「音坂君、何見てるん?」

 

 

 東條が背後からひょっこり顔を出す。

 

 

「あっ……ウチらの写真。エリチエリチ、音坂君μ’sの写真見てるよ」

「あら、懐かしいわね」

 

 

 絢瀬もやって来て、俺の横に立つ。美人の2人に挟まれて変な緊張が走るが、それよりも今は驚きの方が大きく俺を支配していた。

 

 

「2人共、μ’sの元メンバーだったんだな」

「そうなんよ。もしかして気づいてなかったん?」

「ああ。動画では見たことあったんだけど、思い出せなかった」

「そういえば音坂君の行ってる大学に、にこっちいてるやろ?」

「そうなの!? ハラショー、にこは元気にしてるかしら」

「ああ、元気にアイドルしてるぞ」

「よかった。アイドル特待生の話もらって、にこっちはウチらと違う大学を選んだから」

 

 

 そういえば東條と秋葉原まで歩いている時、大学の話になったな。

 その時に東條の友達が俺と同じ大学に通っていると言っていたけど、あれはにこの事だったのか。

 

 

「その様子だと、音坂君はにこと親しいのかしら」

「親しいかどうかは分からないけど、一応にこの曲を作るって約束したからな。今日はそれで勉強がてらアキバまで来たんだ」

「音坂君、曲作れるんやね。それやったらにこっちと親しいやん」

「そうか?」

 

 

 東條はそう言うけど、自分ではよく分からない。俺はにこの事、ほとんど知らないのだから。にこもまた、俺の事なんて知らないだろう。

 知っているのは、にこがアイドルを目指しているという事。逆ににこは俺について、曲を作っている人ぐらいの認識だろう。

 

 まあ、出会ってまだ一月も経っていない互いの認識なんてこんなものだと思うけど。

 

 

「……にこっちの曲を作るなんて、よっぽど信頼されてるんやね」

 

 

 東條は俺を見て微笑みながらも、まるで独り言のようにそう言った。

 

 それはアイドルに対する未練なのか。頑張っている友人に思いを馳せているのか。もっと違う別の何かなのか。

 

 

 不思議な人だ。

 

 

 柔和な雰囲気を漂わせているのに、どこか秘匿的というか、ミステリアスさを東條からは感じてしまう。

 

 

「あれ、エリチがおらんね」

 

 

 キョロキョロと周囲を見渡す東條。その言葉で俺も視線を巡らせてみるが、絢瀬の姿はどこにも無かった。

 

 

 もしかして迷子になったのか!?

 

 

 いやいや、それは無いだろう。まだ狭い方の店内で迷子になるなんてあり得ない。

 

 

「あ、戻ってきた。エリチ、一人でどこ行ってたん?」

「ふふっ、これを探してたのよ!」

 

 

 戻って来るなり絢瀬は手に持っていた物を、自慢気に俺と東條に見せてきた。

 

 

「これは……μ’sとA-RISE(アライズ)のCDやね」

「その通りよ希! 音坂君は曲作りの勉強でアキバに来たのよね。ならこのCDを買えばバッチリよ!!」

「そ、そうか。ありがとう。ところでA-RISEって?」

 

 

 なぜかドヤ顔で言う絢瀬に少し戸惑ってしまう。

 そして出てきた『A-RISE』というワード。この店にCDが置かれてるって事はアイドルグループの名前なのかな?

 

 

「A-RISEとウチらμ’sはライバルみたいな関係やったんよ。第一回ラブライブはA-RISEが優勝。第二回はウチらμ’sが優勝したんやで」

「ライバル……なんか良いな、そういう関係」

 

 

 互いに競い合い、高め合う存在。ありふれたようで、なかなか得ることができないものだ。

 

 

「今A-RISEはプロのアイドルとして活躍しているのよ。だからきっと役に立つと思うわ。私達の曲は……にこの曲のどこかに、少しだけでもμ’sの何かを残してほしいっていう個人的な感情ね」

 

 

 

 優しげな顔をして絢瀬は言う。

 

 友人を思っているその表情は、まるで母親が我が子に向けるそれのように、優しさに満ち溢れていた。

 

 

「分かった、参考にさせてもらうよ」

 

 

 絢瀬が薦めてくれてCDを購入して、俺達はアイドルショップを後にした。

 

 

 

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