不定期更新です。
2075年、人類は依然として争いの種を孕んでいた。
今にもその種は発芽し、争いという醜い花を咲かせようとしていた。
経済的な格差、宗教による憎しみ合い、人種差別。きりのない憎しみの根元は未だ解消されることはなく、ただひたすらに戦いの火蓋が切って落とされる瞬間を待ちわびているかのように見えた。
今日もどこかの国では戦いの火が上がる。
どこかの国では罪なき子どもが命を散らす。
どこかの国では絶望に打ちのめされる人がいる。
いつの時代も変わらない。
戦いを、止められない。
これは、人の性質なのだろうか。
その答えは今のところ、誰かによって解明されることはない。
そんな人類を長きに渡って見守ってきた1つの目があった。
その目は地球から遥か遠い宇宙に存在する。
宇宙の深淵から蒼き惑星、地球を監視し、実質的な地球の支配者たる人類を見守ってきたのだった。
その目の名前は、『トゥテラジアス』というらしい。
トゥテラジアスは地球を監視するために生み出された人工知能を軸とするシステムそのものであった。
いつ、誰が造り出したのかは定かではないが、1つだけ確かなことはトゥテラジアスは長い期間に渡って人類の監視し続けてきたということである。
しかし、長きに渡ったこの監視という仕事にも、ピリオドが打たれる時がきた。
2075年1月1日。
その日、トゥテラジアスはこう言った。
『悔いて滅びよ、人類。』
それは、見守ってきた人類という生き物に対する唐突な死刑宣告であった。
「う、んん...。」
小さなカプセルの中、何も身に付けていない状態で目が覚めた。
同時に、脳内に膨大な情報量が流れ込むのを感じる。
まず、自己の認識に必要な情報である。
コードネーム=No.1000。
トゥテラジアスの計画を実行するために造られた人造人間。
これが自分を定義付ける必要最低限の情報であった。
トゥテラジアスとは、という疑問に突き当たった時には既に、足りない情報が脳内で整理されている。
トゥテラジアスは己を生み出した人工知能及び地球を見守る監視システムの総称らしい。
トゥテラジアスは時に人類を間近で観察するため、人造人間を生み出しては地球に送り込んだ。
そして自分は、トゥテラジアスが生み出した1000人目の人造人間と言うわけだ。
次に入ってきた情報は、トゥテラジアスの計画についてだ。
その内容は『悔いて滅びよ、人類。』その一言に集約されている。
つまりは、人類を滅ぼす。
これがトゥテラジアスのご意向だ。
どうやらトゥテラジアスは長きに渡って監視してきた人類に対して絶望したらしい。
憎しみ合うことを止めず、殺し合う悲しい生き物。
その人類の歴史に終止符を打つ、これが自分に与えられた最初にして最後の大仕事なのだ。
脳内で情報を整理しているうちに、ようやく視界が安定してきた。
薄暗い部屋、見ると前方或いは左右に自分が入っているカプセル状のベッドと同じものが3つある。
その中には自分と同じような経緯で生み出された3人の人造人間。
コードネーム=1001、1002、1003。
そのうち奇数の2人は、膨らんだ乳房といった身体的特徴から女性タイプの人造人間だとわかる。
残る1人は自分と同じ男性タイプ。
「異性の裸をじっくり見るのはどうかと思うんだけど。」
小さく息を漏らしたのはNo.1001。
愛想の無さげなロングヘアー、識別するための特徴を確認しただけなのだが。
見ていたこちらの視線を勘違いしたようである。
「すまない。」
短く謝罪すると、今度はNo.1002が口を挟む。
「しっかし初対面が全員服着てないのは笑えるなぁ。」
「だよね!わたし女の子なのに!」
後に続いたのはNo.1003。
小柄なツインテール、No.1001とは性格的に反対だと言えそうだ。
ほぼ第一印象で識別できるだけの情報を整理する。
ここにいる計4人の人造人間は、トゥテラジアスの計画を実行する1つのチームである。
たった4人で、全ての人類を消し去る。
「まあ、別に裸でも私たちには問題ないけどね。問題なのは、この4人でどうやって人類を消すかってこと。」
至って冷静なNo.1001は早々に計画の話へと矛先を向けた。
「トゥテラジアスの命令は簡潔すぎだ。具体的な手段が指示されてない。」
悔いて滅びよ、人類。
その一言でどうしろというのだろう。
「単純に武力で殺っちゃおうよ。スバババーン!って感じで。」
「俺はいいぜぇ。暴れて殺す、上等じゃねぇか。」
No.1003と1002は、それぞれの意見を主張する。
滅ぼすには手っ取り早い方法かもしれないが、果たして全人類相手に可能なのだろうか。
当然、反撃もあるだろう。
こっちの兵力は僅か4人だというのに。
「戦力差から考えると不可能だ。本計画の兵力はたったの4人だぞ。」
と、そこでNo.1001がふと思い付いたように口を開いた。
「小規模な国家なら、勝算はあるよ。」
彼らの最初の標的となったのは中東の小さな国家、マカフスタン。
人口はおおよそ1000万人とされる。
古くから宗教紛争が絶えない地域で、今もなお小規模な紛争が各地で突発的に発生しているという。
「作戦概要を説明するから、聞き逃さないで。」
No.1001の説明を聞きながら、彼らはトゥテラジアスから地球へと向かっていた。
たった4人で国家を1つ消す作戦。
それは至極単純なものだった。
こういった不安定な政権は、トップが倒れれば必然的に崩れていく。
つまりは、現政権のトップを暗殺或いは強襲するというものだ。
「相手の兵力はどうやって捩じ伏せる?」
「タクティカル・オプションを使うわ。武力でのゴリ押し、ね。」
タクティカル・オプション。
トゥテラジアスによって造られた人造人間は基本スペックからして通常の人間を遥かに凌ぐ身体能力を有している。
しかし、裏切り防止のためにその身体能力は制限されている。
必要時にトゥテラジアスに申請することで一定時間のみ身体能力のリミッターを解除することができる、これがタクティカル・オプションである。
また、彼らには標準装備として攻撃予測プログラムが内蔵されている。
謂わば、最強の矛と盾を持っているも同然であった。
「あくまで武力を用いて人類を滅ぼせるかの実験だから。」
実験、という名目で滅ぼされる国家には同情するが、トゥテラジアスのご意向である。
彼らにとってはトゥテラジアスこそが神であり、絶対者なのだから。
彼らが地球へ舞い降りた数か月後。
地球からマカフスタンという国は消え去った。
政権のトップが何者かに殺された後、内紛が激化。
かつてない大規模な争いがマカフスタン中心部で勃発し、その戦いでマカフスタンという国家は滅亡したという。
これが世界的に報道された内容であるが、その裏にはトゥテラジアスが送り込んだ彼らの姿があった。
「大規模な内紛の後処理で残党を皆殺し。よくできたシナリオだな。」
淡々と、No.1000は呟いた。
政権のトップを暗殺し、内紛を呼び起こす。
大規模な内紛は彼らが用意した処刑場に他ならない。
タクティカル・オプションでリミッターを外した彼らが内紛に乱入、圧倒的力量差を以て政治的実力者を殲滅したのだった。
「凄かったねー!死ぬかと思ったよぉ。」
「小さな国家を消すのに数ヶ月、効率が悪いね。」
ため息をつくNo.1001。
武力を用いて直接手を下すのはあまりに効率が悪すぎた。
「別の案が必要だな。」
死体の山を見つめながら、彼らは計画実現へと思いを馳せる。
マカフスタンの悲劇は序章に過ぎない。
彼ら4人は人類を滅ぼすべく、本格的に歩み始めたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
不定期更新ですが続けていきたいなと思います。