プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty   作:悪役

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新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。


新年初の投稿ですが、文字数とか何やらの関係上、この愉快なお話はもう一話必要になりましたーー。




case12:楽しいお話

 

アドルフは典型的な幽霊屋敷の入り口に入りながら、周りのメンバーを見ていた。

アンジェ様は最早語るまでも無いし、ベアトリス様はいない。

 

 

故に見るのはドロシーとちせの事であった。

 

 

別に女性として見ているとかいうわけではない。

単にこの二人が自分にとってはそこまで接点も無ければ、存在を重きに見ていない二人なだけである。

人としては間違いなく正しくない見方であり、正直に言えばクズの視点なのは承知している。

だけど、そんな俺の理論を語る事を許されるのならば────この二人は正直、状況によっては何時敵になるか分からない二人なのだ。

ドロシーはコントロール直属のスパイ故にコントロールの采配次第では裏切る可能性が十分にあるし、ちせだって日本国の命令次第ではどう出るか、という所だ。

 

 

 

勿論、姫様第一の俺からしたら非常に迷惑だが…………流石にそれを攻めるのは筋違いである事くらいは分かっている。

 

 

ドロシーが何故スパイになっているかは知らないが、それでもスパイになる理由があって且つ、そう生きると決めたからなのだろう。

そしてちせはそれこそ自分が愛した父や義兄を斬ってでも国に仕えるべきだと誓ったのだろう。

どちらも客観的に見れば正しくは無いかもしれないが、でも間違ってはいないんだろうと俺は思う。

むしろ姫様に関わる事で無ければ、間違いなく何もおかしな事で無いのだろう、と普通に納得していた事だ。

己の融通が利かない性格には、自分で自分に呆れを抱いてしまうが、呆れは抱いても治す必要が無いと思っているのが困ったものである。

それでも、姫様が特に何かをしようとする立場では無いのなら良かったのかもしれないが、そうではないからこそ、自分も変化まではなしなくても許容はするべきなのだろう、と思う。

 

 

だから、行動してみる。

 

 

 

 

 

「ちせ殿、ドロシー」

 

ちせは珍しい人間から声を掛けられたので、思わず少しだけ目を何時もより大きく開いて振り返った。

見れば隣にいたドロシーも似たようなもので、同じタイミングで且つ目を少しだけ大きく開けている。

だが、これに関してはドロシーと深く同意したい。

短い付き合いだが、アドルフ、という人間がどんな人間かは察している。

 

 

 

要は主君第一主義だ。

 

 

正直に言えばドロシーはどうだか知らないが、私からしたらむしろ好ましく、また理解出来る性格だ。

主君を第一とし、主の為ならば命を懸ける。

武士道の極みだ。

侍として見れば、素直に敬意の念を得てもいい。

だが、それ故に少年がこちらに警戒の念を常に抱き続けているのも気付いていはいた。

 

 

 

まぁ、当然であろうな。

 

 

こちら風に言えば騎士だったか。

その騎士からしたら何時裏切るか分からない存在が主君の傍にいるのだ。

警戒はしても安堵は出来ないだろう。

故にこちらも最低限の付き合いで接するべきかと思っていたのだが………

 

 

「何用だ。アドルフ」

 

「………まぁ、こんな時に話す事では無いのでしょうが………正直、何時までもお互い疑りあいながら警戒するのは効率もそうだし、味方を作る事が出来ないと思って」

 

「味方? あんたらしくない事を言うなアドルフ。それにちせはともかくスパイのあたしに味方を言うのも結構なブラックジョークな気がするがねぇ」

 

 

スパイの事情はどうだか知らないが、確かにこの少年に味方、という言葉は似合わない。

いや、一応、ベアトリスと……何故かは知らないがアンジェは味方扱いにはしているから欠片もいないわけではないか、とは思うが、その単語を私達に当て嵌めるのは似合わない、としか言いようがない。

だが、そう思っていると少年が首を振り

 

 

 

 

「勘違いしないで欲しい。私には味方はいりませんけど────姫様には少しでも多くの味方がいて欲しいのです」

 

 

成程、と呆れた声でドロシーが応答し、私も苦笑で頷く。

それならば確かにこの少年らしい言葉に変わる、と思っての苦笑を浮かべてしまうのは許して欲しいものだ。

 

 

 

 

「なら私の方も勘違いされないように言わせて貰おうか────私は正直、国の威信だとか忠義とかそういうのは堅苦しくてどうでも良くてね。ま、だからと言ってスパイなんだから、そう簡単に鞍替えをする気も無い……………ただまぁ、プリンセスの方針がそのままで変わる事が無いって言うならコントロールと方針は変わらないだろうから、そういう意味では私次第っていうよりそっち次第って所だ」

 

 

 

続いて、本心……………というより意見に近い感想を述べるドロシー。

この言葉が本当にドロシーの立場を表しているという事なのだろう。

あくまで自分は一スパイ。

そちらの味方が欲しい云々で靡くわけにはいかないが、逆にそちらが味方であり続けるなら、多分、こっちも協力を続けるのだろう、と考えを告げているのだ。

ある種の仕事人気質があるな、ドロシーは、と思いつつ、しかしそれに関しては

 

 

 

 

「私も似たようなものだ。そちら次第では最後まで付き合おう。その間ならば私の力は存分にお主達の為に振るおう。まぁ、日本で何か大事件などが起きたら別の話だが」

 

 

 

無論、場合によってはプリンセス側を斬って、アルビオン王国側に就く事も有り得るのだが、そこまでを言えば意味は無い。

ただ、去っていくくらいと思ってもらった方が得だろう。

とは言っても、正直、読まれている可能性もあるのだが、流石にそれはどうしようもない。

いざという時はこの鬼のような武士と殺し合わなければいけないと思うと体が冷えるような感覚と同時に、この刃が通じるか、という熱に等しい高揚を感じてしまうのは性分か、と思う。

とりあえず、アドルフはふむ、とこちらの話を聞いて、頭の中で何やら纏めたのか。

 

 

 

 

「つまり、姫様が成功するのならば味方ですか────なら、問題無かったですね」

 

 

などと、聊か能天気に聞こえる言葉を普通に告げてくるのである。

さて、今ので何故、こんな解答に至ったのやら、とは思うが、この少年の思考体系は正直、普通のそれとは大きく隔てているというのは理解しているので、考えるだけ無駄か、と思い至る。

だが、一つはっきりしている事は─────今までよりは聊かマシな関係は築ける、という事でいいのだろう。

 

 

 

 

「なら、私からも一つ言わせて貰いたいんだが─────その無駄に堅苦しい言葉遣い止めてくれないか? 正直、聞いていて肩が凝って来るんだよこっちは」

 

 

 

ドロシーが提案する事にアドルフはむっ、と眉を顰めながら

 

 

「…………こっちとしては姫様の傍付である以上、私の無礼は姫様の傷に繋がりかねないから、この様に心掛けているのですが……………」

 

「じゃあ、誰も見ていない場でならいいだろ? なぁ、ちせもそう思うだろ?」

 

「む? ……………まぁ、職務であるならば無理は言えないが、否定も出来ない」

 

 

むぅ…………とアドルフは少しだけ唸って、考えつつ

 

 

 

「────まぁ、その条件ならばそうしとこう」

 

 

と、一息漏らした後、敬語を崩したのをドロシーがやれやれ、と苦笑して、少しだけ前を歩いているアンジェに追いつこうとし、自分もそれに習おうとして

 

 

 

 

「────ちせ。お前は俺を恨んでいないのか?」

 

 

と、小さいが、でも聞き逃すには少々重い質問に再び振り向かされた。

少年の視線も態度も変わらない。

あたかも恨まれようが憎まれようが、知った事ではないという態度のまま口でも

 

 

 

 

「俺はあの馬鹿を殺した事には一切反省も無ければ、後悔も無い。もしもあの瞬間にもう一度戻ったら、と問われたら、何度だって藤堂いずなを殺しているだろう。そういう意味では、正直、憎悪されていたとしても、俺からしたら知った事か、と言えるものだが…………………しかし、それとこれとは別なのが復讐だろうしな」

 

 

禍根があるならば聞きはしても、受けるつもりは無いが、と実に身勝手な言葉を言う始末。

だが、これが少年の出来る精一杯の誠意のつもりなのだろう、という事は理解出来た為、込み上がりそうになった物を飲み下しながら、

 

 

 

 

「………………確かに。思う所が無いといえば完全な嘘だな」

 

 

 

父を殺したのは自分だが、義兄を殺したのはこの男。

義兄上はあの時はともかく、家では何時も私を守ろうと、助けようとしてくれていたし、同時に何時も自分が家族でいいのか、と悩んでいるような不器用な人であった。

 

 

 

優しい姿も、不甲斐ない姿も、頼もしい姿も全て覚えている。

 

 

だから、思う所が無いとは言えなかった。

だが

 

 

 

「─────元々、私が殺さなければいけなかったんだ。もしもあの時、お前が殺されていたなら、次は私が義兄上を殺していた」

 

 

どちらにしろ義兄上は詰んでいたのだ、と思う事にしている。

現実逃避しているだけではないか、とも思うが、それでもやっぱり、義兄はあの時、もう死んでいたのだ。

 

 

 

 

私が父を殺した時、あの人の残った心を殺したのはやっぱり、私なのだ。

 

 

 

アドルフは残った肉体を殺しただけ。

なら、罪を負うのはやはり、私であり、この少年は恨む対象でも無ければ、憎むつもりにもなれなかった。

だから

 

 

 

 

「───思う所があるのは捨てきれんが、やはり、貴様を恨むつもりにはならない」

 

 

 

 

暫く、視線を合わすだけの時間が続く。

鉄のような碧眼と穏やかな海のような黒目が、互いを見る。

それはほんの数秒の間の出来事だっただろうけど、瞳を閉じて頷いたのは碧眼であった。

 

 

 

「なら、いい。もしもこの先気持ちが変わって恨まれたとしても、恨まれるのはどうせ慣れているからな」

 

 

そんな事を、何の感慨も無く語り、そのまま去ろうとする背中を見ながら、ふと沸き上がった疑問をぶつけてみた。

 

 

 

 

「もしも私が今直ぐにでも殺したい、と言っていたら、アドルフはどうするつもりだったのだ?」

 

「それは勿論─────さっきの会話のちせの分が無駄に終わったなって思うだけだ」

 

 

などと、全く一切変わらぬ口調でそんな事を言うのだから、冷血漢にしかなれぬのだろうな、と再認識する。

 

 

 

 

逆にここで冷たい口調にでもなった方が、とても人間味があるというのに、というのは流石に己の役目でも無ければ、関係でも無い。

 

 

 

 

アンジェは3人が何やら会話をしているのは気付いていたが、敢えて気付かない振りをして色々と屋敷を見ていた。

屋敷は3階建て。

古い建物なのか。

見かけ以上に結構、所々腐ったり、割れていたりしているが、埃っぽくはない所を見るとプリンセスが律儀に掃除したのかもしれない。

そこら辺は本当に生真面目な子ね、と呆れを多分に含めた吐息を漏らしながら、ようやく3人がこちらに合流したのを感じたので、アンジェはとりあえず一足先に見つけておいたものを顎で指した。

何だ? と3人が3人、そちらを見ると

 

 

 

 

「……………"ちせさんの大事なモノは地下にあるのでそちらに"」

 

 

と、ご丁寧に張り紙をされた紙がある事に、アドルフが肩を落とすのを見るが、実にしょうがない事である。

 

 

 

「私はこっちか」

 

 

ちせもちせで小さく吐息を吐いて、やれやれ、といった感じでそのまま足を地下室に向かう階段に向ける。

 

 

 

「ちせぇ。怖くなったら付いて行ってやろうか?」

 

「無用だ。あの姫の事だ。命の危険になるような罠は仕掛けておるまい。ぬか漬けを取り戻したら、適当に楽しむか帰るかをさせて貰う」

 

 

そのまま特に怯えるような素振りを見せずに、地下を降りていくちせをつまんねー、と言いつつ頭の後ろで手を組むドロシー。

地下にちせが行ったのならば、私達は地下よりも広いだろう、二階より上を探すしかあるまい。

階段を登りながら、しっかしまぁ、とドロシーが前置きをしながら

 

 

 

「あのプリンセスは何時もこんな事をしているのかい? アドルフ」

 

「流石に何時もこんな事はしていない。というかここまでハッちゃけたのは久しぶり…………というか確か…………何かあった時に……………」

 

 

うーーーん、と唸る少年を他所に、二階に到達する。

それについてやっぱり、ドロシーがなぁんだ、という感じで

 

 

 

 

「それにしてもトラップとか何とか言っていた癖に、全く仕掛けないじゃないか。流石にプリンセスにはその手のは難しかったかねぇ」

 

 

 

と、階段を登り切った先、踊り場でそう呟いて、そのまま先を行くドロシーを見ていて、そうね、とアンジェとして頷こうとし

 

 

 

「────え?」

 

 

瞬間、ドロシーの姿が視界から消えた。

しかし、直ぐにドロシーの赤みがかかった髪の色が視界の下側に映ったから、そのまま自動的に下を見て見ると

 

 

 

廊下の床を突き抜け、下半身が埋まっているドロシーの姿であった。

 

 

 

「………………」

 

 

思わずアドルフと一緒に無言になる。

見事に上半身しか見えない少女(二十歳)は向こうを向いているから顔は見えないが、髪の毛から見える耳が髪の色に負けないレベルで赤くなっているのを見ると相当な羞恥を感じているようだ。

そして、次にわざとらしくゴホン、ゴホンと咳をし

 

 

 

「………………まさかこんな見事な罠を作っているとは………ちょいと教え過ぎたかねぇ…………」

 

 

頑張って強がりを吐いているが、声が震えている事くらいスパイらしく取り繕うべきではないか、とは思うし

 

 

 

「…………ここにまた無駄に丁寧に"ちょっとここら辺の床は腐っていて危ないので、ジャンプしたりしてはいけません"って張り紙があるな」

 

 

アドルフがどうでも良さげな口調で、そんな追い打ちをかけるので、ドロシーは沈黙する。

自分が踏み抜いたのがトラップではなく墓穴である事を悟ったスパイの女がぷるぷると震えている。

一応、同性としては同情する部分が多分とあるのだが、普段、身体的特徴で煽って来る報いだと思えば、自業自得である。

 

 

 

だから、アドルフと一緒に思わず、鼻フンする。

 

 

 

「し、仕方が無いだろ!? こ、こっちは、ほら! アンジェと違って胸が器に沿って大きくなっていて!」

 

「悪いけど、私も別に無いわけじゃないから」

 

 

胸とは決して大きさだけでは無いのだ。

形が美しい事も十分に強さとなるのだ。多分。

傍付の少年があーー、と唸りながら、この話題に関しては目を逸らし、耳を閉じていたが、これは単に元王女であった私に対する配慮であって、ドロシー一人だったら気にせず再び鼻フンだったんでしょうね、と思う。

 

 

 

 

「あーーーもう。いいからとっとと引っ張────」

 

 

言葉を言い終わる前に、ドロシーの顔面が赤く咲いた。

比喩表現だが、実際に比喩では無い現象だ。

文字通り、ドロシーの顔面は赤面だとかそういった言葉で飾るには、余りにも赤く染まっていたからだ。

そう思った瞬間、即座にアドルフと一緒に壁際までバックステップで避難する。

すると

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいーーーーー!!」

 

 

 

と、何やら実に聞き覚えのある声と共に、何かカコン、という音と共に風を切る音がしたと思ったら、床に生えているドロシーの上半身を連続して何かが着弾する音が聞こえた。

ぐちゃ、ばしゃ、ぐちょ、などと色々と生々しい音が途轍もなく響くのを聞きながら、アドルフはわざとらしく首を振って

 

 

 

「逝ったかドロシー…………束の間の共闘、楽しかったZ」

 

「Z、じゃねぼふぁ! あ、ちょ、やめ、がぼっ!」

 

 

赤く染まった顔面でツッコむが、もう一つのツッコミは一切やむ気配がないまま、ドロシーの顔やら体に赤いモノが飛び散っていく。

勿論、血では無い。

最初から気付いていたから、普通にドロシーを見捨てたのだ。

 

 

「トマトを大量に投げつけるなんて…………アルビオン王国の奇祭にあったかしら」

 

「服の洗濯と素材の事を考えなければ、何だかんだでテンションは上がりそうですね」

 

「お前らぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!! 」

 

叫び声がトマトに飲まれるのを見届けた後、アンジェは顔を出さないまま、廊下の先にいる人物に声を掛けた。

 

 

「ベアト。裏切ったの?」

 

「う、うぅ………姫様が………姫様がぁ!」

 

 

半泣きになりつつも、ベアトが律儀に返事をしてきたので、とりあえず逆らえなかったのね、という理解を得た。

隣でベアトリス様…………と、顔に手を置いて、心底同情している少年はとりあえず置いといて、懐から手鏡を出して、どうなっているのかを見ると何やら廊下の向こう側には投石器の小型版みたいな物を複数置いて、そこから頑張ってベアトが手動でトマトを補充して投げている事が判明する。

 

 

 

「周到ね……………弾切れまで待つのが妥当かしら」

 

「それにしても、一体どこからあんなにトマトを………あ、人参まで飛んできた…………あ!? これ、さては姫様の野菜嫌いを失くそうと思って買い込んでは食べて下さいね? って渡していたベジタブルシリーズ! くっ…………やられた…………!!」

 

 

実はこの傍付、修羅場以外は役立たずなのかしら、という思考を封印しつつ、正直に面倒ね、という気持ちを前面に出し

 

 

 

 

……………ちせの方はどうなっているかしら

 

 

 

と、とりあえず少し現実逃避をする事にした。

あの子がいればどうにかなるというのに。

 

 

 

 

 

ちせは真っ白に燃え尽きていた。

勿論、別段、恐怖に震えていたから、とかではない。

ちせは余にも恐ろしいトラップに引っかかってしまい、絶望で膝を着いてしまったからだ。

 

 

どんな恐ろしいトラップかというと────暗号鍵だ。

 

 

数字を合わせて開く事が出来るというタイプの鍵。

その暗号鍵が私の目的であるぬか漬けが入った瓶を入れたケージに取りつけられていたのだ。

勿論、数字に関してはヒントが張り紙でまたもやご丁寧に説明されていたのだが、正直、ちせは面倒になったので、流石に小事だったから刀までは持ってきていないのだが、袖に隠していた小刀で鍵を断ち切ろうとしたのだが─────切れなかった。というか刃が欠けた。

 

 

 

「…………何という頑丈な物を…………」

 

 

これ程の労力はもっと別の事に使うべきでは無いか、という思考を封じた。

しかし、ならばもう正攻法で挑むしかないか、と思い、先程は適当に読んでいた張り紙に再び視線を向けて─────そこで真っ白に燃え尽きたのだ。

 

 

 

 

"ベートーベンの誕生日は何時でしょう"

 

 

 

べーとーべん? 何だそ奴は。

ベートー弁当の略か? ベートーってなんだ。

一応、フォローを入れれば別にちせの座学の成績が悪いわけでは無い。

そこは当たり前だが、スパイの手伝いをする以上、身体能力だけではなく多少の頭は必要であるのだ。

無学の人間がなれるものではない。

 

 

 

 

そう、確かにちせの頭は悪くは無い─────日本では(・・・・)

 

 

 

例え、ちせが日本では才気あふれる少女であったとしても、流石にアルビオン王国、否、外国に来てからまだ一月も経っていない人間が全ての知識を吸収しているはずがない。

今でも日本の習慣が抜けていなくて、周りからは変人奇人扱いされている事を少女は知らないが、ベアトリスはどうしたものか、と困っているのである。

 

 

 

 

つまり、何が悪いかと言うと─────この問題の出題者が勝ち目のない問題を選んだ、としか言えないのである。

 

 

 

そうしてちせは膝を着きながら、残りのメンバーにエールを送った。

 

 

 

後は頼んだ、と。

 

 

頼んだ仲間の内、一人は裏切り、一人はトマトやら何やらを受けて愉快な瀕死状態になっているのだが、知らない少女は仲間の頼もしさに委ね、絶望に落ちていくしか出来ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きにも書きましたが、新年あけましておめでとうございます。

今年も自分の作品で楽しんで頂ければ幸いです。



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