プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty 作:悪役
このご都合主義を許してぇ!!(今回のテーマ
「──────プリンセスがいない?」
アンジェは朝早い時間に、心臓を破りかねない事実を、必死に隠しながら、目の前の全く隠せていない侍女の顔を見ていた。
「は、はい! あ、いえ……………その、正確には書置きだけを残して、姫様がいなくなっていたっていうのが正確なんですが……………」
そう言うと置手紙と思わしきものを差し出すので、それを見るとそこには
"ちょっと自分探し? をしてみます。探さないでね?"
などと、文面は非情にふざけた事を書いているが、まぁ、確かにプリンセスの字なので本人の意思で外に出たのだろう。
問題は今日は平日であるという事──────つまり、あの真面目で繰り返す事を常にしていた親友が、自分から歯車を狂わしたという事だ。
「……………この事は誰かに?」
「えっと……………一度、居ないかと思って寮の門辺りに向かった時、アドルフ様にはもう…………その後、即座にカバンを捨てて探しに向かわれて……………」
ああ、何でベアトがカバンを二つ持っているのかと思ったらそういう事か。
流石はプリンセスに関してならば、あらゆる事象と人物を後回しにするアドルフのフットワークである。
見習いたくはなるけど、同じ人間だけが集まれば穴も同じ事になるので、私はこれでいい、と思いつつ
「…………分かったわ。ベアトも出来れば探しに行って。私は学校にプリンセスとベアトの体調不良を伝えておくわ」
本当ならば自分も即座に探しに行きたい所だが、プリンセスの今まで必死に保ってきた努力を失わせるわけにもいかないだろう。
アドルフの分もやってあげたいが、流石に女子で、且つ、学校内では一応部活以外では知り合いでは無い私が伝えるのは周りに不審を与えるだろう。
そして後はドロシーとちせは信じられるとは思うが、一応周りにプリンセス不在がばれないように工作をしなければならない。
何なら一日、私が変装するのも有りだが、今度はそうなるとアンジェが不在、という事にもなるから、どうにかしなければいけないわね、と思う。
チーム白鳩には協力を願うしかあるまい、と思う。
そして最後に思うのは
…………プリンセス
あの子が今、どこにいるのか。
自分の意志だからと言って途中で誘拐される可能性もあるのだ。
無事でいて欲しい、とアンジェは表には一切出さないまま、切に願った。
プリンセスは本当に適当に歩きながら…………最後は見覚えのない、寂れた公園のような広場に辿り着いた。
「…………………やってしまったわ」
最低限の変装で帽子と眼鏡はかけてきたが、それ以外はもう何か無茶苦茶で出てきてしまった。
間違いなくアンジェとアルフとベアトは物凄く心配して、多分、色々と駆け回ったり、問題を解決したりしてくれる。
己の立場が今、どれだけ不安定か、理解しているはずなのに、こんな不用心な事をしてしまうなんて、それこそプリンセス心配だ。
溜息を吐きたくなるが、本当に吐きたくなるのは迷惑をかけた皆だろう、と思うと、溜息すら出すのが図々しく感じる。
「帰らないと……………」
そう口には出すのだが、足が今、座っているベンチから全く動こうとしない。
動こうとしない理由は分かっている。
怖いのだ。
アルフと会うのが。
もしも、今、出会ったら、アルフはきっと怒るよりも前に──────心底良かった、という顔を浮かべる。
それを見たくない。
夢の彼の死に顔と重なってしまうから見たくないのだ。
「…………………馬鹿みたい」
分かっていたはずだ。
この道を選んだら、最悪、大事な人が失われるかもしれないという事は。
それには当然、アンジェやベアト、アルフも入る。
己だけが失われる対象では無いのだ。
分かっていた。
否、分かっていたつもりだった。
拳を胸に当てて抑える。
そして一番、分かっていたつもりになっていたのは自分の感情だった。
あの藤堂十兵衛による暗殺事件でアルフに命の危機が迫った時、どうしようもなく胸が痛くて、代われるものならば代わりたいとと切に願った。
そして最後に、アルフに抱きしめられ、想いが籠められた一言を囁かれた時、自分の感情を制御していた自分を壊されたのだ。
結果が、病室。
欲しい。
とっても欲しいのだ。
億万の宝石があったとしても、少年の全てに比べれば石ころ以下であると断言出来るこの気持ち。
制御しようとしても制御出来ず、無視するには日増しに巨大になっていく。
どうして彼だけをそこまで想うの? と理性が問う。
どうして彼を想わないの? と感情が答える。
何て自儘な感情。
己の物なのに、まるで他人みたいに自分を振り回すなんて。
ずっと自覚はしていた。
だからこそ、制御出来ると思ったのに、今まで少年に無理矢理封じさせていた想いを聞いた瞬間に呆気なく崩れ去るなんて。
これからが大事な時だというのに………………何て愚かしい馬鹿娘。
はぁ、と今度こそ溜息を吐き出してしまうと
「おやおや………………どうしたんだいお嬢ちゃん? こんな所で一人、溜息を吐くなんて」
え? と思うと、何時の間にか目の前には少しだけ腰を曲げたお婆さんが立っていた。
何時の間に、とは思うが、さっきまでの自分の事を考えると他人の気配に気付ける状態では無かっただろう、と思うから不思議ではない。
故に、出来る限り、直ぐに表情を取り繕い、笑みを浮かべる。
「いいえ…………ちょっと散歩で遠出したので疲れたんです…………あ、お婆さんもここを座りに?」
「そう畏まらなくてもいいさね。公園のベンチは公園に来る者の共通の椅子さ。先に座っている事に文句を言う権利なんて私には無いさ」
見た目は普通のお婆さんなんだけど、言葉の節々に強気な所が出ているのに、むしろ好感を持てる。
きっと言葉に宿る
一切、後ろ向きの感情が籠められていない、素の言葉はどんな音色よりも美しく聞こえる、と思うのは依怙贔屓だろうか、と思いつつも、その意見を変えない。
「隣、座っていいかい、お嬢ちゃん」
「はい。ここは皆さんの共通の椅子ですから」
ほほっ、と快活に笑って隣にお婆さんは座られる。
自分よりも年上の人と接する事など多々あるが、こんな風に温かみがある接し方は経験が少ない、と苦笑していると
「それで? どんな男の子に泣かされたんだい?」
非情に鋭い核心を告げられて、思わずお婆さんの方を見ると、お婆さんはははっ、と笑い
「可愛い女の子が泣いている時は大抵、面倒な男が空気を読まなかったか、七面倒なプライドを振りかざした時だよ」
などととても力強い確信と共に告げられる物だから、ついそうなのですか? と問うと、そうなんだよ、と笑って答えられた。
「男っていうのはどうにも格好つけたり、女を一ミリであったとしても傷付けるのは良くないって考えたりして、余計傷付けたりするんだよ。あんたら一体何時そんなの学習したんだ、もしかして男だけでどっか別の学び舎に行っているんじゃないかって若い時は本気で疑ったねえ」
そうなのだろうか、とは思うが、結構共感できる。
何せアルフがそんな感じだ。
殺し合いは一度しか見ていなかったが……………そうでなくても普段の彼の守り方が自分一人が傷付けばいいから、私は無事でいてくれ、という形だからだ。
てっきりアルフだけの特性なのかと思ってたけど、お婆さんの言う事を信じるのならば、男子の習性なのだろうか?
少し本気で感銘を受けたが、でも、それでも顔は苦笑で首を振り
「違わないわけではないのですが………………むしろ私のせいで苦しめているのが……………」
辛くて、という言葉を飲み込む。
初対面の人に話す内容でも無ければ、自分を悲劇のヒロイン扱いしているのが許せなかったからだ。
しかし、状況としては唐突に口を噤んだだけなので、お婆さんはどう思ったのか、ふむ、と小さく頷き
「言いたくない事は余り聞かないようにしているんだけどね。だけどこれだけは聞いておこう──────お嬢ちゃんはそのままで大丈夫なのかい?」
大丈夫なのか、という言葉。
聞き慣れた言葉だ。
ベアトにアンジェ、アルフに何度も言われる言葉であり、私はその言葉に対して何時もこう告げていた。
大丈夫、と。
だから、私は何時も通り貼り付けた笑みでその言葉を言おうとして
「───────」
呼気だけで、言葉にならなかった。
それが答えなのだと、理解すると手が震えだす。
思わず、お婆さんから顔を背け、沈黙を貫くが、お婆さんも何も言わずにただじっとしている。
貴女の望む事をしなさい、と無言で問われているようで、私は口を閉じるべきだと思った。
初対面の、というのもあるが、それ以上に、これ以上を喋れば己の、プリンセスである事に繋がるかもしれない。
だから、ここで謝罪を告げて、立ち去る事が賢明な判断なのだ。
だけど──────
──────名を失った少女は、決して原因となった事件も、少女についても憎んではいない。
それだけは絶対の真実である。
そしてとある少年が己を支えてくれた事に感謝している事も事実だ。
だけど、それでも、そうであっても──────ただの一度も、己の内に積もった無数の澱を吐き出したくない、などと思わない筈がなかった。
それすらも己だけが救われるという罪悪感に変わるのだとしても………………一度だけは、と弱音を漏らす事をプリンセスでもない、どこかにいた少女は泣くように口を開いた。
「成程ねぇ……………」
お婆さんはこちらの話を全て聞いた後、そんな風に、しかし真剣に考えている表情を浮かべてくれた。
とは言っても話した内容は、かなりぼかしたし、正直、辻褄が合っていたとは全く言えない。
ただ、一番重要なのは、私には大事な人がいるが、私にはやらなければならない、否、やりたい事があり、しかし、それは危険な道であり、それに巻き込むのが怖い、という事だけをとりあえず曖昧に、しかしそれだけを伝えたくて口にしたのだ。
正直、話を作り過ぎだ、と言って頭がおかしい少女だ、と言われる覚悟もしていたのだが、お婆さんは決してそんな顔も声も出さず、本当に真面目に受け止めてくれた。
その事に感謝しつつ、だけどやはり、言ってしまった、という罪悪感に苛まれながら、口だけは動いてしまう。
「このままでは彼を……………死なせてしまうかもしれない。それに…………私はやるべき事に身命を捧げると誓ったのに…………こんなにふらふらとして…………情けないです…………」
誰にも言わなかった事を本当に吐き出してしまった、と思うが、やはり、思うのは清々した、というよりやってしまったという後悔だ。
今更やり直しは効かないが、本当に悲劇のヒロインのつもりか、と自嘲する事は止めれなかった。
だから、瞳を閉じ、己に失望の闇を見せて
「──────お嬢ちゃんの事情はまぁ、知りはしたよ。だからこそ、一つ疑問だね。どうして両方を得ようとしないんだい?」
とても強欲な問いを問い返された。
え? と思って瞳を開き、お婆さんの方を見るが、お婆さんの方は決してお茶らけているとか、適当に返事をしているとかではなく、真剣に、どうして二つ共を選ぶのはいけないのか、と質問していた。
「勿論、これはお嬢ちゃんがぼかした部分を知らずに吐いた他人事の言葉だけどね。だけど、聞いている限り、お嬢ちゃんは勝手にどちらかだけを取らないといけないって選択肢を狭めているって聞いてて思ったのさ。やりたい事がある。大事にしたい人がいる。じゃあどっちも取ればいい。やりたい事をやりつつ、大事な人と一緒にいる。それじゃダメなのかい?」
やりたい事と大事な人がいるのならば両方を大事にすればいいじゃないか、とお婆さんは真剣に告げていた。
それらは決して間違っていないんだよ、と優しい目と真剣な表情が私をどうしようもなく肯定していた。
「で、ですが……………私のやりたい事は……………」
「大事な人を危険な目に合わせるかもしれない。確かにそれは怖い事だ。でもね、お嬢ちゃん─────それは日常でも同じ事なんだ。人は余りにも脆く、一分一秒だって生きている事は奇跡に等しい。戦場の兵士さんと比べたら失礼だけどね…………でも私達だって十分に儚いのさ」
人は呆気なく死ぬことがある、とお婆さんは達観であると同時に、何故かとても広い心を持って、その無残さを肯定した。
「でも……………」
だけど、どうしてもその結論を簡単には受け入れられなかった、
お婆さんの言っている事が分からないというわけではない。
ただ、その結論を受け入れると……………私は私を許してしまいそうになって怖いのだ。
己の全肯定だなんて醜い所業なのではないか、と。
そう思っていると、お婆さんはふむ、と頷き
「じゃあお嬢ちゃん。ちょいと退屈な昔話を聞いて貰っていいかい? 今時の若い子にはつまらない話かもしれないけどねぇ」
唐突な提案故に、流石に少しどういう事なのかとは思ったが、結局、私は首を縦に振った。
ありがとねぇ………とお婆さんは嬉しそうに笑い─────お婆さん曰く、昔話を語った。
「私がお嬢ちゃんよりも少しだけ上位の年齢の時でねぇ…………いや勿論、今でも十分に若いから少しだけ! 少しだけなんだけどね!!」
「分かります。女性に年齢は通じません」
お婆さんと硬く握手をして、頷く。
そこら辺をアドルフがもしも言ったら、躊躇いなく無包装ルートである。
「まぁ、そん時は私も元気出ねえ…………学校には行っていたけど、どうも蓮っ葉な性格なもんだからあんまり好かれるような人間でも無ければ、自分で選んだ生き方なんだから気にする方が馬鹿だと思っててねぇ」
今でもそのケがあるんだけどね、と笑って言うので、純粋に尊敬の意味で頷く。
このお婆さんの性格のまま、若いというのならば、とても強気な女性だったのだろうか、と思う。
周りにはいないタイプだけど、お婆さんはそう言うけど、実は影では人気があったのではないのだろうか、と思う。
お婆さんの顔立ち自体も皴は有っても、元々あった美しさも、気高さも未だ顔に残っているから。
「こりゃ、私の代で家は終わりかねぇ、と笑っていたものさ。なら、自由気ままに生きるのがいいだろう、と思っていたらね─────とーーーってもひょろひょろで頼り甲斐なんて皆無の男に惚れちまってねぇ」
ははっ、とお婆さんは心底馬鹿らしそうに─────幸せそうに笑った。
馬鹿な事をした、と口で語りながら──────でも後悔はしていない、と清々しく笑っていた。
思わず、素直に綺麗、と内心で呟いた。
そうやって綺麗な笑みを浮かべれるお婆さんに心底の羨ましさと感嘆を込めた本音であった。
「惚れた時は自分の性癖を疑ったねえ。私にしては色々とぐだぐだ悩んだものさ。でも、悩んでも惚れた事実は取り消せないしね。どのぐらいかかったかねぇ……………それで直ぐに振り切ってそのまま告白したんだけどねぇ」
考え無しだねぇ、私! と笑いながら、こちらに何かを真摯に伝えようとしながらも、過去の楽しさと美しさに純粋に面白がっているお婆さんに、私も何時かこんな風に、誰かに今を伝える日が来るのだろうか、と思いながら、私も楽しくて笑みが零れた。
「でもね─────そしたら真面目な顔をして振られちまってねぇ。あの時は振られるとか全く考えていなかったものだから、思わず折れそうな首元を掴んで危うく殴りそうになって……………過去の私め。そこで何故殴らない!」
悔しそうに唸るお婆さんにまぁまぁ、と落ち着かせながら…………でも、確かに意外に思う。
お婆さんの気質がそう思わせるのかもしれないが、何となくこの人が求めた人に袖にされるようなイメージが湧かなかったのだ。
「で、ま、思わず聞いたのさ。何で私じゃダメなのかってね。そしたらもう今でも本当に殴りたくなるような言葉を真面目に言うんだよ───────"僕では君を幸せに出来ない"ってね」
「それは……………」
己と同じ言葉を吐くその人に、どうしようもない程の共感を覚えながら、話の先を望む。
「そっからはもう私が理由を言うまでしつこく付き纏ってね。あっちもあっちで意地になるもんだから半年くらいはよく言い争いをしていたよ。でもまぁ、そこで根気負けして遂に吐いてくれたよ──────自分は酷く体が弱く、何時死んでもおかしくないってさ」
「───────」
どーりで無駄に痩せてひょろいわけだ、とお婆さんは笑うが……………当時のお婆さんもそれを笑えたのだろうか。
何時離別するかもしれない、終わりの影ばかりが見える相手。
笑い飛ばすにも、その事実は重いと、私は思う。
現に私が正しくそれを重たく受け止めている事実だから。
だから、私はお婆さんが何を選んだのか、気になって
「………………どうしたのですか?」
死を背負った男を前に、受け止めたのか。諦めたのか。
それとも逃げてしまったのだろうか、と。
それに対してお婆さんはああ、と前置きをし
「───────じゃあ、死ぬ前に私を幸福にしろって叩きつけてやったよ」
「───────」
息を呑む。
それは私には思いつきもしなかった答えだった。
限りある命を憐れむのでも無ければ、拒むのではなく、その少ない命を欲しいと叫んだのだ。
ともすれば強欲に繋がりかねないが……………私にはそれこそ祝福の言葉のように聞こえた気がした。
「簡単に言わないでくれ、とか最初は駄々をこねたけど、もう後はじゃあそんな小難しい理屈じゃなくて好きか嫌いかの二択で追い詰めたらあっという間にタジタジになってね。最後は私に告白させるまで追い詰めてやったよ!」
ははは! とお婆さんは年月による衰えさえも笑い飛ばす声を出した。
呵々大笑に。
己の人生を満足するに値する生き方をした、と笑っていた。
「そ、それから…………どうなったのですか?」
だけど、肝心の結末がまだ語られていない。
相思相愛になり、遂には付き合う事になった。
でも、その先は?
結局、訪れたのは男の人の余りにも速い死による離別だったのではないのだろうか?
そんな現実的で、儚い終わりしか迎えられなかったのではないだろうか?
そう思って、身を乗り出す私に、お婆さんは待ってました、と言わんばかりに楽しそうな顔を浮かべて
「亡くなったよ───────たった4年前に」
思わず手で口元を覆う。
それは、つまり
「奇跡が……………起きたのですか?」
思わず呟いた言葉を、いや、とお婆さんは笑って否定し
「奇跡じゃないさ。ただ死ぬかも、と思ってうじうじしていたのを止めて、生きたいと願った結果だろうさ」
奇跡では無い、とお婆さんは告げた。
ただ、生きていたい、と願ったからそんな結末を手繰り寄せた、と。
─────それこそが私にはとても尊い奇跡の物語を聞いているようだった。
「いいかい、お嬢ちゃん。もしかしたら婆の昔話はお嬢ちゃんには全く的外れない話だったかもしれないし、単なる幸運と偶然に引き寄せられただけの自慢話にも聞こえるかもしれないけどね」
そう言ってお婆さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
「あ……………」
そんな温かみのある触れ合いなんて、大人の人にされた事がないから、思わず身を竦ませる。
だけど、その手はいいんだよ、と告げるような優しさで
「───────諦めなくていいんだよ」
望む事を、得ようとする事は、悪ではない、と。
ただ一人で、私の事情を理解したわけでも無いけど─────大事な人を望むその
「───────」
その事実に、私は何かを言おうとして─────ただ震えるだけの口と瞳から零れるモノに言おうとした事を全て忘却して顔を伏せた。
お婆さんはそんな私の頭を何時までも撫でてくれた。
そんな在り来たりな温かさに、私は甘える事しか出来なかった。
どれ程、泣いたか。
十分位は泣いていたのかな、と思いつつ、私はその勢いで立ち上がり、お婆さんに頭を下げた。
「ありがとうございます、お婆さん─────私、行かないと」
「男の子の所かい?」
「いえ─────先に友達の方に。きっと、今も私を心配してくれる親友の所に」
そうかい、とお婆さんは詳細を一切聞かずに、笑って、いってらっしゃい、と告げた。
そんな風に送り出される事実に、再び涙を流しそうになりながら─────そういえば名前を聞いていなかった事を思い出し─────やっぱり止めた。
名前を尋ねたら、私も名を告げなければいけない。
でも、この人相手には余り、シャーロットと告げたくないから。
だから、私は出来る限り精一杯の、演技では無い笑みを浮かべ
「いってきます」
そう告げ、私は走り出した。
向かわないといけない場所がある。
会いたいと願う人がいる。
手を取って欲しい人がいる。
あれ程、嫌だと思っていた事なのに今は足が羽のように軽い。
己の現金な性格に、微笑しながら、私は走る。
会いたい人が、いるから────────
今回はある意味で原作に対する挑戦でもありますねーー。
姫様というよりチーム白鳩のメンバーにはまとも、というか優しくしてくれる両親が、いや、せめて必要な時に手を差し伸べる人がいなかったメンバーばっかりです。
だから、これはある意味で途轍もないご都合主義である事は理解しているのですが…………それでも一度くらいずっと嘘を吐き続けていた少女に在り来たりな温かさを、という事なのです。
だから、今回は少女達の話ではなく子供と大人の話を貫かせて貰いました。
後、まぁ白の人間はいない、灰色の人間しかおらんっと言った言葉に対する作者なりの攻撃です。
灰色の人間でも、否、灰色の人間だからこそ当たり前を与えれる事もあるのだ、という。
……………まぁ、灰色の人間ばかりというのは悪役も理解する言葉なのですが、まぁ、そこはそれで。
ともあれ、話に関しては賛否両論でしょうが、どうか温かく見守っていただければ、と思います。
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