プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty   作:悪役

17 / 24
case16:あなたの隣で

 

 

プリンセスは息を切らして、寮に辿り着いた。

無意識で歩いた道だったから、多少迷いはしたが、出来る限り早く帰ってきたつもりだが、ちょっと日が暮れている。

どれくらい走っていたかな? とは思うが、そんな事はどうでもいい。

直ぐに私は寮の入り口に入り、走り、自分の部屋に向かった。

 

 

 

確信があった。

 

 

そこにいるんだ、という絶対的な確信が。

 

 

 

何故ならば親友だからだ。

 

 

 

それだけで全て事足りる。

だから、自室の扉を開けると自分の姿をした人間がいる事には特に驚きもしなかった。

ただ向こうの私──────アンジェはこちらの姿を見るなり、心底安堵した顔でこちらに駆け寄る。

私も扉を閉めて、直ぐにアンジェに駆け寄り、お互い手を握りしめ合った。

 

 

 

 

「───────心配した」

 

 

スパイとなった少女の第一声は最大の親愛と安堵を伴った言葉だった。

だから、私も心底の礼と申し訳なさを含めて

 

 

 

「ごめんなさい……………」

 

 

と、告げた。

それに、無事だったらいいの、と首を振って笑ってくれる親友に、どれ程の幸いを感じているか。

だけど、少女は少しだけ複雑そうに

 

 

 

 

「……………逃げてくれても、構わなかったのに」

 

 

 

冗談ではなく、本気で一人逃げてくれても良かった、と私と同じ顔をした…………いや、それとも私が彼女と同じ顔をした、という方が正しいのだろうか。

かつてシャーロットと名乗り、この国の王女であった少女は心底から今の言葉を吐いていた。

今、私がいなくなれば貴女自身がどうなるかも分からないのだろうに、と思いつつ

 

 

 

「逃げるわけないじゃない………」

 

「私は何も気にしなかったわ」

 

「私が気にするのよ─────大体、私が同じ言葉をシャーロットに言ったら貴女もそう返すでしょう?」

 

「う……………」

 

 

罰が悪そうに顔を逸らすシャーロットを私は微笑んで見つめる。

何時もはあんなにも嘘が上手いのに、私の前では本当に普通でいてくれる。

それを大事にして貰っている、と思うか、私の前でしかそうでいられない、と思うかどうかは難しい所だけど……………でも、何時かは誰かの前でも微笑む貴女にしてあげたい、と思いつつ

 

 

「逃げないわ……………だって貴女が望んで私が望んだ事だもの」

 

「……………」

 

私の返事に、シャーロットは困ったような顔になるだけ。

優しい友達の事だ。

昔の自分の言葉で私が縛られているようにも見えて、気にしなくてもいいと思っているのだろう。

確かに最初の頃はそうであった事は否めないけど、今は自分から望んでいるのだから気にしないでいいのに、と思うが、そう簡単に伝えるのも難しい仲だ。

だから、私は敢えて話を切る──────私がしたい話。

 

 

 

 

あるいはそれこそ、シャーロットを裏切るかもしれない話だ。

 

 

 

正直、恐怖は抜けないけど、それでも一歩を進もうと、あのお婆さんの話を聞いてそう思ったのだ。

正確には話を聞いて、そう私がしたいと欲張ったのだ。

影響を受けやすいのかしら、と内心で苦笑しながら、額同士をくっ付けて、私はシャーロットに語りかける。

 

 

「シャーロット─────私、貴女に話したい事があるの」

 

「? それは……………?」

 

目の前にある自分の顔が疑問に首を傾げる。

その顔がどんな表情に揺らぐのか、怖いけど、叱咤するように相手の手を握りしめる。

それに戸惑うような感覚はあったが、それでも優しく握り返されるその感触に最後の勇気を貰い──────伝えた。

 

 

 

 

 

「私──────アルフの事、愛しているの」

 

 

 

 

目の前の美しい青色が大きく開かれる。

人生で初の本人ではないとはいえ他人に対する愛を告げる行為に、流石に顔が赤くなり、心臓がうるさく鳴り始めるが、今はそれは置いとく。

 

 

 

 

 

「他の誰よりも愛しているの。私が持っているモノを全て捧げてでも、彼の全てが欲しいの」

 

 

 

拙い言葉を、必死に伝えた。

上手く伝えれたかどうかは自身が無いが、それでも自分の想いを伝えたのだと思う。

完全に伝えた。

ここからは、後はアンジェの反応次第だった。

一人だけまるでどこにでもいる少女の夢を追いかけているのだ。

何を言われても覚悟は当然しておかないといけない、と思っていた。

だからか、呆然とした少女の顔が、唐突に微笑の吐息が漏れた事に、少し対応出来なかった。

 

 

 

 

「───────今更?」

 

 

 

くくっ、と笑う少女にえ? と流石に思う。

 

 

 

「い、今更? そ、そんなに分かり易かった!?」

 

「むしろ隠しているつもりだったのね…………お生憎様。プリンセスの演技は完璧なのに、恋している事を隠すのは下手ね、プリンセス」

 

 

クスクス、と笑う少女の顔には一切の虚偽も無ければ、むしろ呆れの意味も多分に込められた揶揄いの笑みが灯っていた。

分かり易い………そう、私、分かり易かったのね……………いや、うん、完全完璧に隠せている自信は無かったけど……………もしかしてベアトは良いとしても、ドロシーさんやちせさんにも気付かれているのかしら。

 

 

 

 

……………うん、でも確かに普通に隠せていない気がする………。

 

 

 

自分を誤魔化す事はしても他人を誤魔化すまでは目が回っていなかったと思う。

ならば、確かにシャーロットに笑われるのは必然だったか、と思い、ちょっと反省の意味の吐息を吐きながら

 

 

 

 

「いいの? シャーロット……………アルフは………………貴女の傍付だったのよ?」

 

 

私の言葉に対して、シャーロットはちょっと首を傾げ、でも直ぐに私の言葉を理解し

 

 

 

「じゃあ、返してって言ったらプリンセスは返すの?」

 

「え………………だ、駄目って言って良い?」

 

「ご馳走様」

 

 

あ、今、私、完全に揶揄われている、と理解すると流石に頬が膨れるが、シャーロットはそれを理解したかのように少し微笑んで

 

 

 

 

 

「何も問題無いわ。確かにアドルフは私の傍付だったけど…………それだけだったわ。今はただの共犯者で─────貴女の大事な傍付だわ」

 

 

 

 

貴女の大事な、という部分に少し顔をまた赤らめるが、シャーロットの微笑みには一切の虚飾が無いと判断出来た私は少しホッとするけど

 

 

 

 

「……………いいの? 私だけが幸せになって」

 

 

 

こうしている今も彼女は己の姿なのに、それは偽りの姿とされる。

名前も、姿も、親も、生活ですらも私に全てを奪われた様な形だ。

更にはスパイという、人を騙し、落とし、一つ間違えばどんな目に合うか分からない生き方をする事になって。

幸福な人生というには、余りにも遠い生き方をする事になってしまったのだ。

そんな友達を置いて、一人、幸福になってもいいのだろうか、という疑念はやはり残る。

しかし、それに関してはシャーロットは一度首を横に振り

 

 

 

 

「……………私は確かに人並みの幸福というものは知らないし、正しいモノの見方も出来ているとは言い難いけど、それでも分かる事はあるわ」

 

「……………?」

 

 

何を言うつもりなのか、という疑念は酷く真面目で────でも暖かな瞳から告げられる言葉に、全てを引っ繰り返された。

 

 

 

 

「──────友達の幸福を、喜ばないのは間違っている」

 

 

 

スパイとなり、人を騙し、人を傷付ける事になってしまった少女の口から放たれた言葉は──────何よりも正しい真実に感じ、瞳から涙が零れてしまった。

その滴に、差し伸べられるように、支える様に零れる涙を指で取りながら、シャーロットは苦笑する。

 

 

 

「今日のプリンセスは泣き虫ね」

 

「シャーロットが口が回るのよ」

 

 

泣きながらも、そんな事が言える自分に安堵する。

そして同時に幸福も。

裏切られたと罵られても仕方がない、と思っていた。

シャーロットが優しい女の子だという事は知っていたが、それに甘えているだけでは無いのか、と勝手に思い込み、負のスパイラルを生んでいたが……………でもその通りだった。

もしもシャーロットが好きな人が出来て、私と同じようにその人が好きなのだ、と伝えられたら、私は間違いなく誰よりも祝福するだろう。

なのに、自分の事だけは除外して、そんなネガティブに考えるなんて馬鹿みたい。

どれだけ自分は空回りをしていたのか、と溜め込んでいたつまらない罪悪感を涙で流しながら、笑みを浮かべる。

 

 

 

何を恐れる事があったのだろうか。

 

 

 

こんなに誇れる友達がいて……………こんなに欲しいと願う人がいる。

例え、明日、世界が滅びるのであったとしても──────私が幸福であったという事実は確かに永遠だ。

誰にも崩せないし、誰にも壊せない。

欲張る事はいけない、と思っていた昨日の自分に聞かせてあげたいくらいだ。

もうこれ以上は何もいらない、と思っていたが、今はもっと皆と一緒に居続けたい、と願いが生まれた。

 

 

 

親友が誰の前でも笑えるようになり、私が彼と一緒に歩けるような世界。

 

 

 

ああ、そうだ。最初から、私はそんな世界を夢見て女王になりたいと願ったではないか。

そう、始まりに思った願いを抱いて、シャーロットに改めて笑みを浮かべ

 

 

 

 

「ありがとう、シャーロット─────本当に、貴女に出会えて良かったわ」

 

 

 

そうして返って来るのは小さいけど、確かな微笑。

かつて、私が好きであった、少女の笑みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────で? 直ぐに告白するの? プリンセス」

 

「ぅ」

 

暫く笑い合っていると、やはり突かれるのはそこであった。

シャーロットの顔には今までの好奇心とか悪戯心は鳴りを潜めて、普通に告白をするの? と聞いているだけであった。

確かに、あれだけ啖呵を切ったのだ。

場の流れ的にはそのまま告白に行ってもOKみたいな感じではあるけど……………何というか、何というか。

 

 

「こ、こういうのって……………女の子から、告白するのも………ありよ、ね?」

 

「まぁ、別にどっちかがやるべきってしきたりは無いと思うわ」

 

 

 

実際、お婆さんの話では、お婆さんから告白をしたみたいだし、と思うけど……………思うけどぅ…………

 

 

「………………変な所でプリンセスは臆病且つロマンチストね」

 

「うっ」

 

思わず、胸を押さえるが、放っておいて欲しい。

元々、そんなリアリストでも無ければ、器が大きい人間では無いのだ。

王侯貴族に夢を見る事はお陰様で無くなったが、色恋沙汰くらいは夢見る自由は残してもいいと思う。

 

 

 

 

──────王女の立場でスパイをしている時点で行動力はおかしいと思うのだけど、と親友が小声で呟いたのは聞かない振りをして

 

 

 

 

 

 

 

「………………まぁ、でもアドルフから動いて欲しいっていうのも理解出来なくは無いけどね」

 

「そ、そう! そうよね! アルフって私に対しては何時も気を遣うから!」

 

アンジェは親友がそんな風に拳を握って熱弁するのを可愛い、と思いつつも呆れた吐息を吐く。

まぁ、実際、アドルフの立場からしたら姫を相手にしている事を考えれば、十二分にプリンセスの事を考えつつ、息抜きも許しているのだから、余り責められないのだけど………私はプリンセスの絶対的な味方なので、アドルフ寄りの思考はとりあえず、そこらのゴミ箱に捨てとこう。

うん、予め、私はプリンセスを優先する、と言っていたので、特に裏切りでも何でもない。

アドルフはプリンセスの幸福の礎になっていいと思う。

それによく考えれば、プリンセスの恋人になるのだから、十分に役得だ。

それはそれでむかつくから今度、アドルフの部屋に罠を仕掛けておこう。

思考が横に逸れた。

今もあたふた、と色々と言い訳に聞こえる惚気を吐いているプリンセスを見て

 

 

 

………………仕方がないわね。

 

 

と思う。

どういう形であれ、プリンセスが、友達が幸福の為の一歩を踏み込みたいと願ったのだ。

一肌脱ぐのが、親友としての務めだろう、と思う。

 

 

 

 

要は、プリンセスが絶対的な確信を持てばいいのだろう。

 

 

 

貴女の恋は形になるのだ、と。

長い付き合いでそこら辺が鈍感になっている少女に、改めて実感させればいい。

実は少年は無意識的に、常に貴女に告白(プロポーズ)に近い接し方を何時もしているのだと。

 

 

 

 

 

 

 

アドルフは息を切らしながら、女子寮の門前に立っていた。

その内心んは心底の不甲斐なさで一杯だった。

 

 

見つけられなかった………………!!

 

一日中、様々な場所に向かったのだが、姫様を見つける事が出来なかった。

無論、人に聞いたり、路地裏に屯っているチンピラ共を殴ったり、ぶつかって骨が折れたんですぅ、とか言ってくる馬鹿相手に本当に折ってやったり、迷子の子供に遭遇して無視しようとしたら周りから凄い冷たい目で見られたりしたが、姫様は見つからなかった。

 

 

「姫様………………」

 

思い当たる所は全部行ってみた。

他、思い当たる場所で行ってなと言えば、王宮くらいだが、流石にあそこに一人で向かっているとは思えな~選択肢から除外したが、いざという時は連絡するしかあるまい。

思わず脳内で最悪をイメージするが、直ぐに首を振ってイメージを消す。

今は一度、女子寮にいるベアトリス様かアンジェ様辺りに話を聞いて、姫様が戻ってないかを聞こうと思ったのだ。

戻っているのならばいい。

心配を掛けさせた事には流石に怒らないといけないが、それでも無事でいるのならば何も問題無いのだ。

ただ、もしも戻ってきていない場合は……………再びノルマンディー公が何かをしてきたのではないかと思ったので、殺しに向かう事も辞さないつもりだった。

途中で野垂れ死んでも構わないが、その隙をアンジェ様が何とかしてくれたら、と思う。

勿論、これは最終手段だし、そもそもまだ一応、ノルマンディー公が犯人とは決まったわけでは無いのだ。

ただ、その場合は相手がそっちになるだけだが。

 

 

 

……………先に帰っているかを確認しないと。

 

 

茹でった思考の中、とりあえず女子寮に取次ぎを頼むか、と思っていると

 

 

 

「アドルフ様ーーー!」

 

 

即座に呼ばれた方を見ると、こじんまりとした体格を持った少女─────ベアトリス様がこちらに向かって手を振りながら走って来ていた。

窓から見ていたのだろうか、と思いつつ、ベアトリス様が目の前まで来て、息を整えるのを待つ。

 

「はぁーーっ………はぁーー………あ、あの、その………」

 

「はい。息を整えてからでも大丈夫です」

 

「い、いえ! ご心配しているでしょうし………! あ、あの! 姫様は御無事です。少し前に帰ってきました!」

 

その報告に思わず、思いっきり息を吐いて、膝を着きたくなる所であった。

道端で且つ、ベアトリス様の前で良かったと思いながら、しかし安堵の吐息と笑みを浮かべ

 

「そうですか………良かったです。姫様は今、部屋に?」

 

「あ、いえ、その……………その事でもアドルフ様に伝言が」

 

予想外の続きに、思わず首を傾げるが、ベアトリス様は一回だけ深呼吸をした後に

 

 

 

 

「───────学校の屋上にアドルフ様だけ来て欲しいとの事です」

 

 

 

学校の屋上に? と余計に顔をしかめる。

意図が全く読めないし、何か話したい事があるのならば、別にそんな所に行かなくても、とは思うが、ベアトリス様に聞くのは違うだろう。

そこに姫様がいるというならば、どうせそこに向かわなければいけない。

 

 

「分かりました。今直ぐ向かいます。ベアトリス様はどうかご自愛を」

 

そこまで言い、即座に足を向けて、走り出そうとした所、あの! とベアトリス様に声を掛けられ、足を止める。

何だろうと振り返ると、ベアトリス様は酷く真剣な顔でこちらを見上げ

 

 

 

「あの……………今回の件、あんまり、姫様を責めないでください…………きっと、姫様も色々な事を考えてたんだと思います……………」

 

 

思わず、成程、と素直に頷きそうになるのを止めながら、しかし頷く事だけは行う。

確かにその通りなのだろう。

一国の王女がスパイとして動いているのだ。

その心労は私程度では察する事も出来ない重圧なのだと思われる。

例え、それが望んだ結果によるものだったとしても、否、望んだからこそ誰にも言えないストレスが生まれたのかもしれない。

ならば、確かに責める権利は私には無いだろう。

だから、ベアトリス様の言葉には頷きながら…………しかし苦笑し

 

 

 

「でも、あんまり姫様を甘やかす事もしてはいけないので。姫様は何時も背負い込む人なので…………口に出さないと、笑って誤魔化すんです」

 

「…………分かります。凄く」

 

 

侍女と傍付で同じ人の事で苦笑しながら、己の主の不器用さを尊び、だけど今度こそ向かおうとして一礼をし

 

 

 

 

「───────姫様の事を、どうかお受け止めて下さい、アドルフ様」

 

 

 

 

と、厳粛な一礼と共に、頼まれた。

分からないが、その真剣さに頷くだけ、頷き、自分は走り出した。

走り出して、考えるのはやはり、今、さっきの言葉。

 

 

 

「受け止める………?」

 

 

ニュアンスの違い程度ならば別にいいのだが……………受け止める、というのは何か今まで聞いた事が無い言葉に聞こえる。

良く分からないが………でも姫様の命令自体は何であっても聞くつもりなのだ。

それが誰かの殺害だろうか、自害を命ずるものであっても聞き届けるつもりだ。

 

 

 

でも、何故か………………彼女が言いたい事はそういう事ではない、とアドルフは感じ取り

 

 

 

「………………分からない」

 

 

思わず、本音のような戯言を呟いた。

 

 

 

 

 

 

アドルフアはそれから15分程で、学校に辿り着き、そこから3分ほどで屋上に入れる扉に辿り着いた。

流石に全速力で走った為、息が荒れるのを鎮める為に、もう一分、時間を置かせて貰う。

もうすっかり夜になってしまったが、姫様は体を冷やしていないだろうか、と思うと、一分ではなく20秒にしようと心に決める。

そうして息を整えて、襟を正し─────扉を開けた。

 

 

 

 

扉を開けた先には───────夜空を背景に、二人の少女が並んで立っていた。

 

 

 

 

同じ顔、同じ金髪、同じ瞳の色。

知らぬ人間が見たならば、双子なのだろう、としか言えない同一性。

違いがあるとすれば片方は制服を着、何故か片方はドレスを着ているくらいだ。

知っている自分でも思わず、感嘆なのか驚嘆なのか分からない吐息を吐いてしまうのだから流石だ、と思うが

 

 

 

 

「………………姫様に、アン………シャーロット様?」

 

 

途中で名前を正しい呼び方に変えるが、予想外の出来事だったのだから許して欲しい。

てっきり、姫様だけなのだと思っていたのだから。

でも、任務外なのに、シャーロット様が変装をしているのは珍しいを通り越して奇妙だな、と思いつつ、とりあえず一歩を踏み出すと──────二人が黙ってこちらに手を差し伸べた。

 

 

 

「……………え?」

 

 

どういう意味だろう、と首を傾げるが、二人は黙したまま何も語ろうとしない。

ただ、黙って手を差し出すだけだ。

まるで自分の手を取って、と示すかのように二人はこちらに手を刺し伸ばし続ける。

数秒してようやく気付いた。

 

 

 

ああ…………ゲーム、なのかな?

 

 

どっちが姫様なのかを当ててみて、みたいな?

まさか、あれだけ騒がせといてこんな遊びをされるとは………、とちょっと頭を抱えるが、どうしてそれにシャーロット様も乗っかるのやら、と思いつつ、はぁ、と溜息を吐き

 

 

 

 

「────────余り、心配をかけないで下さい、姫様」

 

 

 

と、迷わずに制服を着ている姫様が差し出した手を取った。

 

 

 

 

 

 

プリンセスは手を取ってくれた少年を心底驚きながら、彼を見上げた。

当然、彼が私の手を取ってくれた事もだが、それ以上に、彼の速さだ。

何やら呆れたような吐息を吐いていたが、それ以外に彼がどっちが本当の私かどうかを考えている様子は一切無かった。

それこそ、こちらの意図に気付いて即座に自分に向かい、手を取ったのだ。

どちらが、とか一切考えずにこちらを。

 

 

 

「ど、どうして………………?」

 

 

思わず、驚いて問いかける。

アルフからしたらお遊びに見えたかもしれないが、こっちは一切手を抜いていなかった。

化粧などもそうだが、制服だって何時ものだと服の癖などで理解されるかもしれないと思って、わざわざシャーロットのを借りたりもしたのだ。

声だって、もしかしたら些細な声の違いから分かられてしまうかもと思って、声も出さなかったのだ。

それなのに一切、迷わずに私の手を取ってくれた。

疑問が湧かない方がおかしい。

そんな表情に、少年は首を思いっきり傾げて

 

 

 

 

「え? だってこっちが姫様だったので」

 

 

 

などと理屈になっていない事を言い出すのだ。

だから、その理屈を語って欲しいのだけど、と思うのだが、アドルフもそれを理解したのか、再び首を傾げ─────数秒後にポンと手を叩き

 

 

 

 

「私の姫様はこっちだと思ったので」

 

 

 

流石に顔が赤面した事は許して欲しい。

ほぼ同じ言葉ではあったが、二回も言われたら流石に理解できた。

つまり─────理屈でないのだ(・・・・・・・)

もしかしたら、五感だったり、何だったりで正しい理屈に当て嵌める事が出来るのかもしれないが、アルフからしたらそれを含めて、本当に私が姫様だ、と思ったからこっちを選んだのだ。

血でも無く、顔でも無く、ましてや豪奢な衣装でも無く、"私"だから私を選んでくれたのだ、と。

思わず、ここに来る前にシャーロットに言われた言葉を思い出す。

 

 

 

 

─────言っとくけど、プリンセス。あの子、貴女に基本、ぞっこんよ

 

 

 

何て言われた時は、いや、そんな事は、と思うが、指摘された上で聞くと本当にその通りだった。

アルフは多分、傍付として当然の言葉を吐いていると思っているのだが、正直、そう知っていなかったら、ちょっと理性が千切れていたかもしれなかった。

思わず、親友の手助けを借りようかと思ったが、隣には何時の間にか親友の姿が無くなっていた。

はやっ、と思うが、逆に流石、と思ってしまう辺り、何となく予想していた結末になった気がした。

 

 

 

「全く。余り、誰かに心配をかけるような事はしないでくださいね。窮屈かもしれませんが、やはり、姫様の無事こそが何よりも大事なのですから」

 

 

黙っているとアルフからの小言が言われるが、正直、脳には入らない。

ただ、私の心に宿るのはどうしようもなく選ばれている(大事にされている)、という喜びだった。

もう流石に言い訳も、鈍感になる事も出来ない。

 

 

 

 

私はどうしようもなく──────彼を選んで、そして選ばれているのだ

 

 

 

「ねぇ、アルフ」

 

「──────はい? どうしましたでしょうか」

 

私からの唐突な言葉に、アルフは小言を中断して即座にこちらの言葉を待つ姿勢になる。

その事に、結局、私の事を優先してくれるのね、と笑い───────酷く残酷な言葉を口に出した。

 

 

 

 

「私と一緒に死んで、と言ったら、どうする?」

 

「喜んで」

 

 

 

コンマ一秒すら考えずに答えられた言葉に、流石に少年の顔を見る。

そこにはあったのは破顔であった。

貴女と一緒に死ねるのならば、本望だ、と本心からの言葉と微笑は本当ならば喜んではいけない事だと分かっていても────もう迷わなくていい、と後押しをするものであった。

 

 

 

「ですが、現実ではそうはなりませんよ。姫様には生きて貰わない─────」

 

「───そうなった場合、私の命でお助けしますから?」

 

 

ピタリ、と動きを止めて、汗を流す傍付に、ふ~~ん、と笑って、近付く。

 

 

「私は、そういうのは、止めて、って約束をした記憶があるのだけど、アルフには簡単に忘れ去ってしまうような軽い約束だったのかしら?」

 

「……………怒ってます?」

 

「ええ、とっても」

 

 

貴方がいなくなれば、私がどれ程、絶望に陥るか分かってない所とかが特に

 

 

 

本音はジト目で睨む事で代用し、結果としてアルフが目を逸らして逃げたので吐息を吐く。

結局はそこ。

 

 

 

 

彼はどうしようもなく自分には絶望し、どうしようもなく私を祝福する。

 

 

 

少年の悪癖であり、呪いのような生き方を、何時か否定しないといけない。

だけど、今はまだそれでいい、と思いつつ、私は誰も見ていない星空を見上げて、思わず少年に再び手を差し出した。

 

 

 

「ねぇ、アルフ────踊らない?」

 

「はい?」

 

 

唐突なこちらの申し出に、予想通りに何故? という顔で返されるが構わない。

こっちも理屈ではなく、何となく彼と踊りたくなっただけなのだ。

 

 

 

「貴方と踊りたいの」

 

 

観客なんていらない。

ダンスの出来もどうでもいい。

ただ、貴方と繋がって、一緒にいるんだ、という実感が欲しい。

歴史を考えれば、一瞬でしかない刹那を、貴方と二人だけで味わいたい。

 

 

 

 

時よ止まれ、お前は美しい──────そんなご都合主義の時間をどうかください、と願う。

 

 

 

そんな願望に気付いてくれたのか。

アルフはこちらの顔を見、周りを見回し、本当にいいのか、と悩むような顔をするが、再びこちらの顔を見て─────一度迷いを振り払うように、首を振るい

 

 

 

 

「えっと………………お、踊っていただけますか?」

 

 

 

とても不器用な誘いを受けた。

思わず笑いそうになり─────やっぱり堪えきれずに笑う。

少年もそれに少しむっ、とした顔になっているが、耳が真っ赤のは見過ごせない。

だけど、直ぐに声と共に差し出された手を受け取って

 

 

 

 

「喜んで」

 

 

そうして、直ぐに彼の体に預ける様に彼の肩に手を置き、握り、ステップだけのダンスを踊る。

星の光のみが私達を見、輝かせる舞台で、私は幸福に微睡む。

以前のダンスの時とは全然違う。

あの時は恐怖に立ち向かわせる勇気を貰う行いであった。

でも、今は少年だけを見て、求める事が出来た。

他の何であっても替えの利かない相手と時間。

他者が見れば、価値が無い、と笑うような時間こそが私にとっての宝石であり、星のような物だった。

だから、これは間違いなく、少女にとっては永遠(せつな)の光であった。

 

 

 

 

 

夜の闇の中、名を失くした少女と己を捨てた少年が手を取り合う。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アルフ」

 

「何でしょうか、姫様」

 

「──────ずっと一緒にいてくれる?」

 

「………………姫様が望む限りは」

 

「じゃあ────────私達は永遠に一緒ね」

 

「永遠?」

 

「ええ────────だって、私は貴方とずっと一緒にいたいんだもの」

 

「─────死がふたりを分かつまで、とよく言われますよ」

 

「いいえ───────死がふたりを分かとうとしても、ずっと一緒」

 

「………………そう、あれたらいいですね」

 

「貴方も望んでくれる?」

 

「………………」

 

「お願い、答えて」

 

「………………ええ。姫様と一緒ならばどこであろうとも。否、どこまででも───────」

 

「──────そうね。そうだったら地獄であっても───────」

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと幸せ、と少女の影が最後に微笑み、少年の影に踏み込み─────影だけが一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふぅ………最早語る言葉を持たない………


最近では恋や愛における永遠と言う言葉は重たいとかいう認識が多いですが、それが全てでは無いのだと思いたいです。
いや、確かに重たい言葉かもしれませんが、自分の人生を捧げるというのならば重たいのは当然じゃないかなって思う派で。


ただ二人が語る永遠は重い愛というより、本当のずっと傍にいられれば、という子供じみた、でも確かな想いの言葉ではあるのです。


ま、余りつらつら語るのもあれなので


感想・評価などよろしくお願い致します。




そう、実はアドルフの言葉は大抵、本当に告白に近い言葉を使っている件について。ただし、本人は忠節の言葉だと思っているのがあれだが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。