プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty 作:悪役
(こそこそ
「姫様──────デートをしませんか?」
室内で唐突に大量のイベントが発生した。
まず最初にベアトリスの為に鍵開けの為に工具を取り出そうとしていた、ドロシーは足を引っかけ、突き出していた指が傍に置いてあった紙に偶然触れ、その結果、指の先が切れてしまい、手指を逆の手で抑える結果になった。
次に教えを受けようとしていたベアトリスは主犯の方に振り返ろうとして振り返り過ぎて、首をごきり、と鳴らし、更にそのせいで足をもつれさせ、後頭部から転倒。
その結果、喉の機械を打ってしまったのか。
あいたぁ! という声が、とんでもなく野太いおっさんの声で発生される結果になってしまった。
ちせはその直前に、勉強中で、うっかりペンを窓の方に落とし、それを追いかけている最中にそれを聞き、結果として足が引っかかり、更には運悪く、窓の目の前だった為、派手に転んだ少女はそのまま窓を突き破って落下する事になった。
アンジェは本を読んでいる最中であったから、特に派手なリアクションを取らずに済んだが、それ故に即座にアドルフに飛びかかり、その後、腕を拘束し、最後に変装しているかどうかを確認した後
「…………………偽物なのに変装していないとは………」
自分の事を棚に上げながら、現実を知る。
そして原因である少年は押し倒されながら、思わず憤慨の色を乗せて
「何ですか皆さま──────そんなに私がデートの誘いをするのがおかしいですか?」
「超」
アンジェ、ドロシーの二人が声を揃えて、当たり前だ、と頷き、ベアトリス様は依然、恐ろしい程野太い声であわあわ、と声に出しているからちょっと反応に困る。
「しかし皆さま──────男が女の人を誘って外に出るというのはデートという事になるでしょう?」
「…………………デートの意味分かってる?」
「勿論ですとも───────まぁ、実は恋愛的な意味でのデートではないので冗談になるのですが」
なぁんだ─────と皆、思うわけがなく、直ぐにアンジェは再び顔を、ベアトリスは額を、ドロシーは拷問用に色々と物を集めていた。
「…………………中々剥がれないマスクね………………実は双子とか?」
「熱もないです……………そんな………もう……………」
「さぁ、吐け。今までの鬱憤も含めて、存分にヤル準備がこっちにはある」
「ははははは、さては皆様、虎視眈々と私の命を狙っていましたね?」
ド失礼な事ばかりを言われまくるが、ドロシーはともかく、アンジェ様とベアトリス様に手を上げるわけにはいかないのが、無念である。
でも、それはそれとして
「勿論、姫様の都合がよ─────」
「さぁ、行きましょうアルフ! 準備万端よ!」
はや!! とドロシーの叫び声を聞きながら振り返ると、確かに準備万端な姫様がそこに立っていた、
そういえば、さっきからノーリアクションだと思っていたが、準備をしていたらしい。
流石の行動力の塊に、アンジェ様から流石ね…………という独り言が漏れたので、全く同意見です、と思いつつ
「よ、よろしいのですか? 途轍もなく唐突且つ宿題などは───────」
「今、私の大事はデートであり、宿題は帰って来てからも出来るけど、デートは今しか出来ないわ!」
「いやデートも別に明日でも───」
「さぁ、行きましょう?」
「いけぇーーーーーーー?」
こちらの言葉を断ち切る勢いで、私の手を握って引っ張っていく少女に付いて行く形になる。
あ~~~、と人攫いに連れ去られる気分に陥るが、でもまぁ───────
ちなみに途中で頭にたんこぶが出来たちせとすれ違ったが、逆にどうやってあの程度の怪我で済ませたんだ、とちょっとツッコミたかった。
そうして何時もの変装をした私は、街の中、隣を歩く少年に当たり前の事を訪ねた。
「で? アルフ? まずはどこに行くのかしら?」
すると、少年は至極真面目な顔で顎に指を当てて、数秒、黙り、その後に、とても穏やかな笑みを浮かべて
「姫様が今、欲しい物や行きたい所はありますか?」
「つまりノープランなのね」
私のカウンターに即座に胸を押さえる少年を見ながら、まぁアルフならこの感じよねーーと笑って納得する。
基本、傍付としての仕事には文句は無いのだが、実はそこから外れるとこの少年のポンコツ具合は凄まじいのである。
具体的に言えば、ピアノで連弾しましょう? と誘って、一度は断った後に断り切れなくなった少年が弾けないピアノを見て、しかし頑張って合わそうとしてあわあわしている光景は鼻血モノである。
ちなみに出した。
全神経を傍付の仕事に注いだ不器用少年の結果が、傍付以外ではポンコツ可愛い少年になるのだ。
正しくこれは神の試練。
神はあの時、私に人間でいるかケダモノになるかを試していたのだ……………
当時はよく耐えた私、と褒め称えていたが、今となっては何故、耐えた私である。
時の流れは実に容易く人を変えるわね、と頷きつつ
「じゃあ、今日のコースはとりあえず楽しもうって感じね?」
「─────そうですね。それがいいですひ、と………お嬢様」
危うく姫様、と言いかけた言葉を言い直して微笑む少年に、私も微笑みながら、欲望に従って少年の腕を取って組む。
えっ? と驚く少年の顔を記憶しながら
「デートなんでしょう? 腕位組んでもおかしくないわよね?」
「おかしいです………!! 立場的に!!」
そんな事を言いながら、気を遣って全く抵抗できない事は知っているので、実に無駄な抵抗である。
ふふん、とわざとらしく腕に体を寄せると引き寄せた腕が石化するように硬直するのを感じたので大成功である。
先日以来、もう諦めなくていいと知ったので、待った無し、となっているので、本当ならば私から告白をしてもいいとは思うのだけど…………やっぱり得るのならば全てを得たいのだ。
故に存分にアピールして、アルフから私を欲しい、と言ってくれた方が嬉しい。
勿論、その時は私をあげる代わりにアルフの全てを貰うのだけど、とクスリ、と内心で笑って
「ほらほら、アルフ。時間は有限よ? ─────やれる事は早くしましょう?」
そう言って、彼の腕を引いて行きながら────一つ、聞きたいことを聞いてみた。
「ねぇ、アルフ────何かしたい事ある?」
その言葉に、アルフはまるでそんな言葉、知らなかったという風に首を傾げ────直ぐに笑みを浮かべて、言葉を吐き出した。
姫様が行きたい所でいいです、と
私は、そう、と答えた。
「姫様………………下手したら不敬罪で処刑されても文句が言えない言葉を使って問いかけてもいいでしょうか?」
「んーー? 今は誰も見ていないし、私が泣きそうな言葉じゃなかったらいいわよ?」
「では失礼ながら─────正気ですかこれは!!」
プリンセスの正面には今、侍女服を着て、プルプル震えている少女(?)がいる。
まぁ、直ぐにネタ晴らしをするが、アルフである。
そう、わざわざエクステを着けさせて、且つ女装させたアルフである。
入った服飾店で、侍女服らしい服を見つけ、そこをひ、げふん、お嬢様が侍女服を着るだなんて洒落になってないので、止めてください、なんて言うモノだから、じゃあアルフが着て、と言った結果である。
今も必死にスカートを押さえて、駄目、これは駄目、と涙目でこっちを見るものだから、もうぞくぞくするしかない。
「勿論、正気で本気よ。前々からアルフを女装させたかったのよね。いい顔して、且ついい顔をしてくれそうだから」
「前々から!? そんな恐ろしい事を……………!?」
プルプル、と羞恥で赤面しているアルフを、間違いなく世界で最高の笑みを今、私は浮かべていると自負出来る表情で彼を見ているだろう。
ちなみにどうやって着せたか、というと着ないと脱がす、と脅したら受け入れてくれた。
どっちでも美味しかったので全く問題ない。
「ほらほらアルフちゃん? そんな膝を曲げて、プルプルスカート押さえているだけじゃ動けないわよ? お陰で美味しいわ」
「そ、傍付虐待案件ですこれは……………!!」
言われてみると結構冗談にならないツッコミではあるけど、正気に戻ったらそれこそアレなので無視する事にする。
「いいからアルフちゃん! スカートめくるわよ!!」
セクハラですぅーーーー、と器用に小声で叫ぶ辺り余裕があるんだから、いいじゃない、と思うけど正直楽し過ぎて気にしなかった。
これだけ笑って、楽しめるのも何時以来だろうか。
前回の幽霊屋敷の時も存分にやったけど、途中でお酒が入っちゃったから、正直、やり切った感がなかったから、今は最初から最後まで本気で楽しめている。
何だかそれが嬉しくて、眼尻から嬉し涙が零れそうになりそうなのを必死に誤魔化すようにアルフに声を掛ける。
「ほら、アルフ。じゃあ、衣装に沿ったアクションでお・ね・が・い」
「う、う、うぅ…………」
顔を俯かせ、スカートをぎゅっと握る仕草がもう最高である。
無論、アンジェがやっても最高なのだが、アルフがやっても最高である。鼻血を我慢しなくてはいけないのが難だが、ああ、何故カメラの携帯性は未だ上がらないのだ………写メりたい……思わず造語作っちゃう。
ちらちら、と密かに許しの目線を送るものだから、つい、だーーめ、と笑みを浮かべ続けていると、遂に観念したのか。
スカートの端を振るえる手で握って持ち上げ
「お、お許し下さい…………お、お嬢様……………」
と心臓に最高の一撃を届けられる。
震えた仕草と震えた声から言われる言葉は正しくハートブレイクショット。
もしも、アルフが凄腕の暗殺者ならば間違いなく、完璧な仕事をしたわ、と微笑しながら一番、プリンセス。このヒロインを攻略します、と内心で宣言し
「アルフ可愛いーーーーーー!!」
と、思いっきり、目の前のヒロインにダイブする。
あわあわヒロインはこちらの勢いを止めれず、さりとて躱すわけにはいかないで受け止め、そのまま私に押し倒されるような結果になる。
いーーやーーでーーすーーと器用に小声で叫ぶが気にせず、頬をする。
…………余談だが、確かに顔つき云々ではアドルフは多少童顔ではあるから女装自体に問題は無いのだが、体つきなどは鍛えている故にどう見ても女性の骨格ではないのだが、プリンセスアイ(固有スキル)に現実は敗北したとの事らしい。
「しぃ……!!」
「ふぉう……………!?」
アドルフはガタイのいい男と組んでいた手を机に叩き付けて、何とか勝利をもぎ取った事に安堵の吐息を吐いた。
はぁ~~~、と一息を吐いている間に周りの野次馬と司会者の人間がうわっ、と声を上げ
「これで挑戦者が4連勝ーーーー!! リーチ掛かってきたぞぉーーーー!!」
周りの騒ぎに辟易としていると
「凄い! アルフ! 格好いいわ!」
と、直ぐ傍で我が事のように喜んでいる少女を見ると即背筋が伸びてしまう辺り、どうしたものか、と思うが、いや姫様が喜ぶのならばいい事だと理論武装が完了する。
現在、自分達は路上でやっていた腕相撲大会に出場している所である。
何故そんな物に参加しているかと言えば、腕を組んでいた姫様のなぁに、あれ? →腕相撲大会? →面白そう! 後、アルフの格好いい所を見てみたぁい、という川の流れのようなシークエンスから参加が決定された。
……………はっ! 俺、ちょろ過ぎないか!?
今更気付くが、後の祭り且つ気付いていても変えられるのならば、もう少し姫様に対して強気で接する事が出来た気がする。
切ない…………そして一番の問題はそれでいいと思っている自分しかいない事である。
ともあれ、そう大きな大会でも無いし、勝ったとしても商品がそう豪華ではない腕相撲大会だ。
お陰でそう困る相手ではなかったし、五連勝で終わりという事だから残り一人だ。
この調子だと勝てるだろ、と思って、笑みを浮かべていると
「よし! 坊主! 最後は俺が相手だ!」
と、快活な声に視線を上げるとそこにはマッスルが立っていた。
「─────」
これがまたいい体格で、体を鍛えているのか、それとも職業からそうなったのかは知らないが、実に鍛え上げられた筋肉のせいで物凄く大きく見えるおっさんであった。
そして、コキコキと何やら首を鳴らしたと思うと
「すぅーーー───────ふん!!」
と全身に力を巡らせ、体を膨らましたかと思ったら、その膨張率で上半身の服が引き千切られるのを見た瞬間に
「不埒者ーーーー!!?」
とツッコミと同時に姫様の目に手を伸ばして、隠すのに間に合う。
姫様も目の前に奇行に驚いたのか、特に抗わずに隠されていると
「あんた─────誰がその服を縫うと思ってんだい」
と、何やら奥さんらしい人が出てきて、後頭部を叩かれる事態になったのだが
「いや……………はい………」
もう何をどう見ても体格差があり過ぎる。
無論、己とて鍛えてはいるが、別に力だけで打ち勝とうなんて思っていないので、当然だが、そういった方面のみを鍛えている人を相手にした場合、勝てるかどうかはそれこそ体格だろう。
「………むぅ」
ちらりと自分の体を見る。
そこにはまぁ、鍛えているから程々には引き締まった体をしているのだが………男らしいと言うにはもう少し体格を大きくしたり、とかもう少し太くならないものだろうか…………。
肥え太りたいわけではないが、もう少し固く、ついでに背も伸びれば、更に姫様の盾として実用的にもそうだが、見栄えもよくなると思うのだが、現実は非常である。
いや、しかしこれが殺し合いとかならばルール無用でヤるのだが、こんな平和的な事でそこまでしたくないから、つまり、詰みかなぁって思っていると
「何だか最後は凄い人ね」
そう言って、姫様が顔を寄せて耳元で囁くものだから、思わず背筋を震わせてしまう。
姫様はもう少し、自分の外見に関しても気にするべきだ。
帽子と眼鏡でもうばっちり顔を隠した、と思っているようだが、全然、整った顔は隠しきれていないし、仮に顔を見なくてもシルクなんて塵のようにしか思えないサラサラな金髪や近づいたら、香水……………いや、それとも男には永遠に分からない、女性特有の甘い匂いが───────
「アルフ? 机に頭突きなんてしてどうしたの? 自傷なんて一番やってはいけない事よ?」
何でも無いです。自分ではなく本能を攻撃しただけです。
しかし、姫様にも分かってもらいたいものだ。
こうしているだけで、周りは既に可愛らしいカップル、とか絵になる二人だなぁ、とか勝手な事を言っているのだ。
これでその片割れが、この国のプリンセスとか知ったら、今度は身の丈に合わない男だなぁって思われるのだろうけど。
「勝てそう?」
姫様が小首を傾げる姿は実に可愛らしいが、その質問に対してはどう答えたものか。
向こうのマッチョ具合を見ているとええ、楽勝ですよ、と頷くのは流石に虚偽である。不敬である。
だからと言って、余りはい、勝てません、と言うのは……………何か嫌である。
いや、ここは傍付きとしては事実を述べるべきだと思うのだが……………ともあれ、どう答えたものかと思っていたら、姫様が何故かクスリと笑って、くっ付くほどに耳元に寄ってきたかと思ったら
「────────アルフの格好いい所、見たいわ」
絶対にわざとだと思われる可愛い声でそんな事を言うものだから、背筋が本気で震えた。
思わず恨めしい目で、つい姫様を見てしまったが、姫様は手を重ね合わせて、頬に寄り添わせて首を傾げてきた。
ちくしょう、可愛い、と思わず、唸ってしまうが、反撃手段が無いのを考えれば、俺の負け決定である。
がはは、と笑う相手のマッチョ旦那さん、まぁ、程々にね、と奥さんの姿を見ると、案外、自分達も普通なのかと思いつつ、頑張ってね、と笑みで告げる少女
全く、と嘆息する。
頑張る。これはいいとしよう。
俺とてただ負けるつもりは無いし、仮にも応援された身なのだ。必死くらいには頑張る事くらいはする。
だが、そんな勝ってる姿を見たい、なんて言われても困るのだ。
こちとら別に怪力自慢になるつもりで鍛錬をしているわけではないのだ。
そこらの男に比べれば力はあると思っているが、本当にそれくらいであり、それ以上ではないのだ。
だから、こうして手を組み、審判がこちらの手の上に乗せ、スタートと手を離した瞬間
「せぇい!!!」
開幕フルパワーを使って、力を入れる暇もなく相手の手を机に叩き落すくらいしか出来ないのだ。
ぐわぁ! という相手の悲鳴とうぉぉぉぉぉ! と周りの歓声が体を打つが、そんなのはどうでもいい。
肝心の少女に振り替えると姫様は両手を合わせて喜んでいる姿があった。
「…………ふぅ」
あくまでやれやれな態度を捨てる事無く、とりあえず少女が喜んでくれる結末を作れた事に安堵した。
大会と名は付けられていたが、実際はただのお遊びであった集会を終わらせたアルフはとりあえず、姫様が身バレしないように出来るだけ隠しながら、よくやったーーという声援から逃げるように手を振っていると
「ねぇ、アルフ。楽しかった?」
と姫様がそんな事を聞いてきた。
それに対してアドルフは一呼吸だけ間を空けながら、しかし答えを発した。
「────────姫様が楽しそうで何よりでした」
それに、姫様はそう、と答えた。
そういえば先程も質問は違えど似たような答えを返して、同じ反応をされた事を思い出す。
質問の内容も、返された言葉も特におかしなものではない。
行きたい所は無いか、と問われ、姫様の行きたい所を、と答え、そう、と答えられる。
楽しかったか、と問われ、姫様が楽しそうで何より、と答え、そう、と答えられる。
何もおかしな所なんてない。
おかしくはない────────が。
そんな風に素っ気無く返答されるのは────────何故か少し嫌だった。
夕闇に染まった空を見上げながら、プリンセスは空を見上げていた。
服飾店から始まり、腕相撲大会から様々な所に向かい、楽しんだデートの時間は御伽噺のようにあっという間に過ぎていった。
プリンセスは素直に楽しかった、と思う自分を許した。
もう不謹慎だなんて思わない。
偽物の王女であっても、短命であったとしても己の望む先を求める事を、強欲だとは思っても、罪深いと思わない。
そうして生きるのが人生だと気付き、実践していこうと決めたからだ。
夢のような日々を、覚めて消えるだけのものにしないと決めたのだ。
「……………」
今までの空気と流れを壊して、二度と己が望んだ世界を見る事が出来なくなる選択肢なのかもしれない。
間違っているとは思わないが、正しいとも思わない。
己のエゴで一人の人間の心を突くのだ。
しかも誇れるお題目からの行為ではないのだ。
ただ少年を愛しているから、その痛々しい姿を見たくない、という自分勝手な想いからだ
それで守って貰ってきた癖に愛を理由に今更少年を否定するのだ。
手のひら返しと言われても、全くその通りだ、としか言えない動機。
そう思うと、やはり少し怖いと思う気持ちが生まれる。
止めてしまえばいい、という弱い気持ちが強くなる。
しかし、その度によぎるのはあの夜の思い出。
ずっと一緒にいてくれる? という子供の我が儘のような願望を、どこであっても、どこまででもと答えてくれた永遠のような刹那の夜。
勝手な事だ、と思う。
あんな縋るような言葉に対して、否定できるようだったらこうはなってないのだ。
しかし……………
あの時、少年は自分とずっと一緒にいたい、と言ったのだ、と
そうだ、と思う。
これは自分勝手で都合のいい思いであり、解釈だが……………どういう形であったとしても少年も同意したのだ。
私は遊び半分、
必ず達成したいという思いと、必ず達成して欲しいという願いを込めて告げた。
それを届いていないなんて言わせない。
それこそ10年も付き合ってきたのだ。私が本気で言っているくらいは理解している筈だ。
だからこそ───────
生きる事を捨てないで欲しい
だから、例え壊れるのだとしても、言うべきだ。
消えかけていた勇気を燃え上がらせる。
星を見上げていた私は視線を落とし、背後に立っている少年に振り返る。
そこには何時も通り、決して離れる事無く、くっ付く事もない距離を保って控えている少年。
────────この
「今日は楽しかったわね、アルフ」
夕闇が闇に代わる時間に、姫様は振り返って、そんな事を告げた。
その言葉に良かったです、と笑みで頷きながら、内心でホッとする。
先日、唐突に家出みたいな事をしたから、やはり、現状が相当なストレスになっているのではないか、と思い、少し無茶な流れだとは思ったが、外に連れ出してみたのだ。
上手く行ったかは知らないが、こうして楽しかった、と告げてくれたのならば、成功したかな、と思える。
それならば本当に良かった、と安堵の吐息を内心で隠していると
「────────アルフは楽しかった?」
と、問われた。
つい、首を傾げる。
何故なら、そんな事、聞かれるまでも無いからだ。
だから、アドルフは
「はい────────姫様が楽しそうで良かったです」
と答える。
そこまで返して、これが今日一日繰り返してきた質問の系統である事に気付く。
なら、またそう、と返されるかと思っていたら
「………………私が楽しそうで、ね」
と、予想から外された言葉で──────少女には似合わない重さが込められた
思わず、足を止める。
目の前には最早、見慣れたとしか言えない金髪を遊ばせたか弱い少女の後ろ姿。
…………なのに、何故か、まるで見知らぬ誰かを見ているような感覚が全身を濡らすように芽生えてしまう。
「────ねぇ、アルフ。ずっと聞こうとして、逃げ続けた疑問があったの」
「何を──────」
という言葉を、振り返る少女の視線が遮った。
反射的に一歩引こうとする体も、少女から手を取られて、止められる。
振り解くのは簡単だ。
手を思いっきり振れば、簡単に引き離せれるだろう。
もしくは逆の手で無理矢理引き剝がしたら、簡単に振り解ける。
だけど、力を使うには余りにも華奢な印象と柔らかさから躊躇われる。
何時もそうだ。
この人は自分が弱い事を何時も無意識に利用する。
自分の手足がどれだけ脆いかを少女は知らない
自分の手足でどれだけ壊せるかを少女は知らない
自分が少し力を入れれば簡単に壊せるというのに少女はまるで自分が何も壊さないと思って平気で触ってくる。
青空のような瞳が真っ直ぐにこちらを向いてくるのも辛い。
見られれば見られる程、少女の瞳を汚しているような感じがするからだ。
だから、自分は少女の手を振り払う事も出来なければ、目を合わせる事も出来ない、情けない姿で────────少女の問いを聞いてしまった。
「────────どうしてアルフは、何時も命を
「────────」
一瞬、頭をよぎった感情を握り潰す。
それは例え、偽物であっても皇族の人に向けていい
"お前の意思も肉も命も、全てアルビオンに捧げよ────────"
嫌な雑音が脳内で再生され、即座にその思考を己の内で叩き潰す。
だが、そうするとよぎった感情が再生される事になり、それを必死に振り払おうと思って首を振ろうとして
「────────どうして?」
その余りにも無垢な声が、理性を切り払い、本能の背中を押し
「そんなの……………!! 姫様にだけは解って────────」
プリンセスは初めて自分に対して怒声を上げた少年が、直ぐに口を手で抑えるのを見た。
その事も驚く事では勿論、あるのだが、それ以上に
私には……………?
解って、で言葉は止まった。
文脈と口調からでは解って欲しかった、とも解って欲しくない、とも取れる言葉だ。
どっちなのかを読み解くには、今までの絆だけでは不可能である事を知って愕然とした。
だって、私はこんな風に取り乱す彼を知らない。
私はまだ────────彼を知らないのだ、と知ってしまったからだ。
「アルフ……………?」
思わず、放してしまった手をもう一度伸ばすが、少年は後退って離れるだけ。
恥ずかしがって断る事自体はあっても、決して離れる事は無かった少年がまるで怖いものが触れてくる、というように逃げられて絶句する。
しかし、それを気付いたのか。
アルフは私の伸ばされた手を見直して、青褪めていた表情を更に青くし、しかし、その上で口を抑えながら
「な、何でもないです………………し、失礼しました………………」
と、明らかに何でもないなんて言えない口調でそんな事を言うのだ。
思わず、もう一度手を伸ばそうと体が動きそうになるが──────今度は無理矢理押し止めた。
これくらいは覚悟していたことだ。
私は新たな関係を築こうとして、今の関係を壊そうと思ったのだ。
痛みがあるのは当然だ。
正しい事をしているとは思っていない。
むしろ間違った事をしていると思っている。
だけど………………このままでは少年が何時か、夢みたいに私を庇って死ぬような事があるかもしれないのだ。
本当はそれも悪い事ではないのかもしれないのだけど………………どうせバッドエンドに終わるのならば、出来れば彼と一緒に死にたいというのは聊か重い発想だろうか。
まぁ、それは置いといて、やはり知ってほしいのだ。
自分が彼を必要としているのだ、と。
貴方を見捨るなんて事はしたくないのだという事を知ってほしいのだ。
どちらか片方だけが生き残る、というのは酷く辛いのだ、と。
それだけなの………………
それだけを──────どうか守ってほしい。
それが例え────────────離れる結末になってしまうのだとしても、失うよりはマシだと思うから
それだけを思い、プリンセスは胸に手を当てながら、少年に縋った。
だけど、少年は青褪めた顔のままであった。
やはり、そんな顔を見るのは辛い、と思うのは、虫が良すぎるだろうか、という思いだけは何とか封じながら──────あの日、照らしてくれた夜は、ただ暗いだけであった。
こそこそ