プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty   作:悪役

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ころすってなぁに?



殺すというのはいらないモノや邪魔なモノを壊すという事だ


case20:誰かのお話

 

 

 

「──────で、ベアト? アドルフの状態はどうなんだい?」

 

 

ちせはドロシーが足を組んでソファに座って、ベアトに聞くのを聞いた。

かく言う私は腕を組んで壁に背中を預けて、同じように聞いているのだが、ベアトからしたらまるで興味なさげに聞いているような態度に思えるだろうか、と思いつつ、しかし姿勢を崩す理由も無かった。

 

 

 

「…………はい。正直、ナイフで刺された傷自体は奇跡的なのか狙ったのかは知らないんですが…………見た目ほど重くは無かったんですが…………麻薬を刺された事と、身体の状態の悪さが祟って…………」

 

「つまり、とりあえず良くはないってわけか」

 

それは残念だ、と漏らすドロシーの口調は明らかな他人事のような使い方であった。

故にベアトも少しだけ顔を歪め、何かを言おうとするのだが、しかし途中で止めた。

ベアトがどうして止めたのかは分かる。

ドロシーがわざわざ薄情な言い方をしたのもだ。

 

 

 

何故なら我らは利害関係はあっても、友情だけを優先出来る程、温かい関係ではない。

 

 

アンジェとドロシーはスパイとして共和国側として王国側を出し抜くことこそが第一であり、私はこの裏の争いによってどちらに利があるか見極めるため。

そして、ベアトとプリンセスとアドルフはプリンセスが王位を継ぐために、国を売る事。

一見、同じ目的を持った同志に見えるようでいて、その実、横を見ない関係だ。

決して、全てを助け合う同志ではないのだ。

 

 

 

その事実に、ちせは少しだけ残念だ、と生まれた思いを…………否定できないまま、しかし受け止めるしかなかった。

 

 

 

「それにしても…………アドルフ程の男がたかだか殺人鬼に後れを取るとはな」

 

 

だから、ちせは敢えて二人の会話を聞いていなかったように振るまった。

ベアトも当然だが、ドロシーとて人間であるのは理解している。

スパイというのが日本の忍びのように過酷な生業である事は知っているが、心を持たぬ死人ではない事も知っている。

ドロシーが口で言う程、酷薄でもなければ、チーム白鳩のメンバーに対する感情に義務以外の感情を持ちつつあるくらいは察している。

だから、露骨ではあるだろうが、そうして無理に悪い空気でいる必要はないという風に話題を変える。

それに、提案した話題に関しても無駄であると思っていない。

 

 

「…………ま、そりゃな。事、荒事っていうならあんたやアンジェと同レベルのプリンセスラブがたかだか殺人鬼に負けるっていうのはねぇ」

 

「でも…………アドルフ様は体調不良だったんですよ? それも意識が混濁するくらいの。それなら…………」

 

「あの男が風邪程度で素人に負けるような意識をしているとは思えんがな」

 

 

そういう部分ではあの男は父に似ている。

一度解き放たれ、刀を抜けば、最早人斬り包丁であり、意識は人間のそれではなく、殺害の獣になる。

最早、それは人ではなく武器のそれ。

そんな風に鍛えられている…………と思っていたのだが、それはこちらの考え過ぎだったのか…………それとも

 

 

 

そうであった自分が人間に戻るような何かが起こったのか

 

 

 

義兄であった人の姿を思い出す。

最後の最後に義妹の声に促され、壊れた自分から人間に立ち戻った兄。

アドルフにももしもそれがあるとすれば、プリンセスの事だけだ…………と思うのだが

 

 

 

「…………さて」

 

 

そこら辺はどうだろうか、と目を瞑って嘆息する。

何故なら、そんな事を理解出来る程、私達は歩み寄ってもいないのだ、とちせは自分の中で話を戻している、と自分にツッコむのであった。

 

 

 

 

 

アンジェは病室でアドルフに付き添っているプリンセスを見守っていた。

病室には当然、私とプリンセスと寝ているアドルフのみ。

そのアドルフも怪我の治療…………というだけではなく、まるで犯罪者のように縛られている。

麻薬によって暴れまわった時用の物だ。

傷としては想定よりはマシではあったのだが、風邪もそうだが麻薬を注射された事で最悪、傷口を開く事が有り得るかもしれない、という事で縛る事になったのだ。

唐突にそうなる、という事なので目を離すのも難しい、という事らしい。

ただ、一つだけ、プリンセスの要望で片腕だけは拘束せずに放置している。

理由は余りにも身勝手。

 

 

 

手を握るには拘束されていたら、難しいからだ。

 

 

医者はその事に少し考えたが…………直ぐに見ている時だけを条件に許した。

どこかで聞いた声色であった。

 

 

 

諦めている人間特有の人が出す熱の籠っていない言葉であった

 

 

その事に憤慨する事を忘却した私が言える事でも無いが。

だから、今、大事なのはアドルフの手を取って握りしめている親友の事であった。

プリンセスは彼の手を祈るように握りしめ、そのまま自分の額につけていた。

熱が途切れぬようにと、終わりが訪れないように祈る姿が思わず聖女のようだ、と冗談になりそうでならないような事を思いつつ

 

 

 

「…………プリンセス。貴女も少し休まないと…………ずっと気を張っている」

 

 

私の言葉に、しかしプリンセスはいいえ、と首を振る。

そうされると私も無理強いし辛い。

だけど、医者の言葉が本当ならば、アドルフは何時、麻薬による暴走が起きるか分からないのだ。

同類とは言わないが、それでも共犯者である以上、アドルフがもしもここで自分に伝える事がある、と言うのならば、そんな姿は見られたくないし、万が一にも姫様を傷つけたないなどと言うだろう。

だから、引き離せれないかと思ったのだが、件の少女が離れようとしない以上、どうにも出来ない。

どうしたものか…………と悩んでいると

 

 

 

「大丈夫…………大丈夫…………だって…………まだ温かいもの…………」

 

 

そんな声が少女の口から漏れるのを聞いてしまった。

思わず、内心で手が温かいだけでは大丈夫とは言えない、なんて酷く下らない現実を紡いでいる自分に嫌悪する。

そんな事、この聡明な少女だって理解している。

理解した上で、その温かさに希望を作っているのだ。

まだ温かいから大丈夫、と強がって、必死に迫り寄る絶望から目を背けているのだ。

 

 

 

人として正しくて美しいのがどちらかと問われたら、一目瞭然であった。

 

 

 

その事に唇を噛んで、思わず、目を逸らすとそこには少年の寝顔─────否、そこには薄く目を見開いた少年の顔があった。

思わず、目を覚めたのか、という思いを、今度こそ現実的な自分が否定した。

つまり

 

 

 

「あ、あ、────────────あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!1」

 

 

唐突に叫び始め、体を酷く滅茶苦茶に扱い始めたのだ。

ギシギシ、と拘束するベルトとベッドを軋ませる。

そのままベッドもベルトも壊せるのではないか、という暴れ具合に思わず、私はおろか覚醒を夢見ていたプリンセスですら硬直する。

故に、次の言葉を聞いた瞬間に、思わず二人して顔を歪ませるのであった。

 

 

 

 

 

「あああああああああ!!! いやだ!! いや! お願いです! 殺したくないんです! 嫌なんです! 殺したくない! 殺したくないよぅ! あああ、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんんさい! 暗いのはいや! 何もないのは嫌! 静かなのはいや!! ごめんなさい! 殺します! 殺しますから! ここから出して! します! なんでもしますから! いや、いやいやいやいや!! 暗い! 暗い! 何も聞こえない! 何も見えない! 出してぇ!! ここから出してぇ!! 殺すから! 殺すから! 出て殺すから! お願いします殺させてください! 殺すからころ、ころころろこころころころす!! 殺すから──────もうころしてぇええええええええええええええぇええぇぇぇえぇ!!!!」

 

 

 

 

ぎっこんばったん、と暴れまわれながら叫ぶ言葉は酷く支離滅裂な──────恐怖と絶望の叫びであった。

恐らく彼の認識では時間軸が安定していない。

過去、現在…………もしくは妄想による記憶と幻覚が今、彼を追い詰めていた。

プリンセスは親友ですら横で硬直するのを他人事のように見ながら、己も思考を停止していた。

確かに麻薬の影響によって暴れたり、情緒不安定になるやもしれない、とは説明されていた。

その影響は性格が強がりとか、格好いいとか、そういうのは無視して己を追い詰めたりするものなのだろう、とは理解していた。

 

 

 

 

 

だけど、麻薬の影響によって浮き出たのは────────────泣き叫ぶ子供の悲鳴であった

 

 

 

 

ただの幻覚によって引き起こされた妄想による絶望とは思わない。

何故なら、この悲鳴には余りにもリアルが宿っていた。

自分で作った物に追い詰められている際に出す悲鳴ではない。

これはかつて経験した自分を吐き出している悲鳴であった。

 

 

 

私はアドルフの過去を特に求める事はしなかった。

 

 

何故なら、少年も己の過去を求めなかったし、聞けば当然、次は己を曝け出さなければいけない事を考えれば、聞く気も無くなるし、何より過去よりも現在と未来を求めていたから。

 

 

 

 

その事については後悔はしていないのだが──────生まれて初めて、この手で殺したくなる、というのを知ってしまったかもしれない。

 

 

しかし、握っていた手がすっぽ抜けしまったら、一瞬だけよぎった殺意を忘却して、暴れようとする腕を止めるのに体ごと腕を縛るしかなかった。

腕に体重をかける事になるが、それでも重傷を負っている腹に触れさせるよりかはマシだと思ったからだ。

女の体とは言え、流石に全体重をかければ片腕だけではどうしようも出来ないのだが、そんな事、気付かずに少年は腕を振り回して、殺す(ころして)と叫び続けていた。

アンジェがドクターや皆に力添えを求める為に部屋の外に向かうのを見届けつつ

 

 

 

「お願いだから泣かないで…………!」

 

 

分かっている。

この言葉は現実的にも、そして過去の彼にも届かない。

過去の彼がどんな結末を迎えたかまでは分からないが、どうであっても私は貴方と出会わなかったのだ。

故に無駄であり、無意味であり、無価値な願いだ。

どれ程の奇跡があっても、過去を改変する事なんて想像か夢でしか果たしえない。

でも、意味がないと分かっても言わずにはいられなかった。

 

 

 

「貴方は一人じゃないから…………」

 

 

救う事も、触れる事も出来ない過去(あなた)

だから、私の言葉も自己満足でしかない事は承知だ。

だけど、言わずにはいられなかった。

だって、この悲鳴は、救いを求めているようで救いを求めていなかった。

もう、何もいらないから(ころす)と嘆きながら、何もいらない(ころして)と泣き喚く絶望であった。

その事にどうしようもない空虚を抱きながら、私は彼の嘆きと暴走を受け止めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

最初に裏切ったのは■■■■だ

 

 

何をどう嘆こうが、何をどう同情しようが、何をどう言い訳しようが、きっと■にとっては関係のない裏切りだっただろう。

 

 

 

例え、何も知らない幸福というのを甘受出来ていた子供が、ただの暗闇に放置され、己を殺していたのだとしても。

 

 

それでも裏切ったのは■■■■だ。

それを他人事のようにしか感(・・・・・・・・・・)じ取れない(・・・・・)アドルフであったとしても、罪が誰にあるのかはよくわかった。

だから、■■■■という子供は死に、アドルフという自動人形が生まれた。

もう、それでいいと思っていた。

大事なものを作らず、自動的に、機械的に、何かを壊し続けるだけの破壊装置。

それで終わるべきだ、と思っていた。

 

 

 

でも──────とても綺麗な少女と出会った

 

 

見た目だけの話ではなく、その在り方を美しいと思う人であった。

傍で存在する事自体が間違いなのではないか、と思ってしまった。

この美しさを守って死ぬだけの存在になれば、自分は許されるのではないか、と思った。

勿論、そんな事はないけど…………無価値に死ぬのならば、この少女を守って死ねば、あの■も■■■■無意味に死んだわけではないのではないかと思った。

だから、アドルフは間違った自動人形のまま、この少女の為だけ生きればいいと思って生きてきて──────しかし、そんな中、有り得なく、そして滑稽な出会いをした少女がいた。

 

 

 

 

「と、唐突に申し訳ないのですけど!! ──────私、貴方の事が好きです!! け、結婚を前提につ、付き合ってください!!」

 

 

 

正しく理解不能な言葉の羅列を聞いて硬直した自分は、世界史上、最高最大の戯言を吐いた少女を見た。

金髪を肩辺りで遊ばせ、アンバーの瞳を揺らがし、整った顔を赤く染める少女は美しいものだったのだろう。

しかし、プリンセスではない、というだけでアドルフからしたら、それは興味を覚える対象でも無かった。

だから、硬直から解放されたら直ぐに適当な笑みを浮かべて、

 

 

 

残念ながら興味ありません、と

 

 

 

スパッと告げて、とっとと立ち去ろうとした。

本当ならば、放課後、直ぐに姫様の護衛にならなければいけないのに、手紙が贈られてきたから不審と思って来てみればこれだったので、時間を無駄にした、と心底から思って背を向けると

 

 

 

 

「そ──────そんな一言だけで諦めるもんですか!!」

 

 

 

 

声と同時に背に飛び掛かってきたと思わしき衝撃と柔らかい感触に包まれるから、即座に後ろから引き留めるように抱えられたと気付く。

危うく反射で拳を振り上げないようにしたのは褒めて欲しいくらいだ。

この少女の生死云々は正直、俺にはどうでもいいのだが、たかがこの程度で人を殺すわけにもいかなければ、姫様の汚名に繋がりかねない。

幾ら殺戮人形とはいえ、何でもかんでも殺す、というのがいいわけではない立場になってしまった、という事くらいは理解している。

邪魔です、鬱陶しいです、さよならと告げて、離れるよう出来るだけ優しく言うが

 

 

 

 

「お、女の一世一代の見せ場を一言で諦めれるなら、生まれてきてないわよ…………!!」

 

 

 

 

知るか。

俺、男だし。

力づくでどかす事も考えたが、一応、一般人である少女に触れるのも躊躇われた。

このままでは埒が明かないと思い、盛大な溜息と共に降参の意味を込めて、動くのを止めた。

少女もそれを理解したのか、息を荒げながらもこちらから手を放して、息を整える。

それを面倒な、という感情を隠しつつ、待っていると少女は整った後、

 

 

 

 

 

「鬱陶しいのも邪魔なのも理解している──────でも、まだ何も見せてもいないのに、はい無理です、なんて言われても納得がいかない」

 

 

 

 

などと身勝手な事を言いだす。

それこそ知るか、と言いたい所なのだが、最悪、姫様と一緒にいる時にも接触されたらうざったい事、この上ない。

だから、もう面倒だからその時は公務がある時以外を条件に好きにしろ、と言った。

すると少女は何が嬉しいのか、よし、と言いつつ

 

 

 

 

「私はナタリー。よろしくアドルフ君」

 

 

 

 

とりあえず、君付けだけは速攻で止めさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やったぁ! 6000で終われたぁ!!

…………いや、まぁ別にわざととかではなく区切るとなるとここら辺にしないとおかしな所で終わりかねないかな、と思っての事ですが。

いやぁ、当たり前ですけど麻薬を使った事など無いから、大分想像入った感があるなぁって思いました。
中々難しい…………リアルこそが一番の想像力の養い方ですが、経験するわけにも経験した人がある人と出会えるわけがないので、仕方がない。


ちなみにまえがきのはかつて、どこかにいた幼い少年が誰かに聞いた言葉です。
敢えて前書きに残しました。


長々とはあれなのでここら辺で。


感想や評価など宜しくお願い致します。
一人増えればとてつもなく嬉しいです!!
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