プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty 作:悪役
先に言わせて貰いましょう
────堀川公が空気を読んでさえくれれば………!
日本と言えば、と姫様に問われたので自分が知っている知識をアルフは忌憚なく言ったのを思い出す。
「確か、チョンマゲーー、ハラキリーー、トッタドーーなどが有名だったような………」
「最後は聞いた事がないわね………何を取ったのかしら…………?」
前二つも十分に謎なのだが、追及されても困る気もするので思い浮かんだものを順に出していく。
「ワフク? だったと思いますが、確か日本式の服も中々有名ですね。まぁ、これはこちらの洋服と同じようなものなのでしょう。そういう意味では先程のチョンマゲも髪型だとか。やはり文化と文明の違いは意識した方がよろしいかと思われます」
「そうね。個人的には和服には興味あるのだけど女性用のとか貰えるかしら? アルフもどう?」
「そうですね。機会があれば着てみるのも有りかと思いますし、姫様に似合う物があれば交渉してみるのもいいかもしれませんね」
「日本人は黒髪がほとんどらしいけど、私のような髪でも似合うかしら?」
「姫様ならどんな衣装でも似合うかと」
実はかなり本心の御為越しを姫様はありがとう、とくすくす笑ってくれる。
笑われるという事は冗談と思われているのだろうか、とは思うけどそこもまた追及されても困る。
「後はそうですね………色々ありますが、大きなものを語るなら礼儀正しい国であるとか」
「あっ、そういえば聞いた事があるわね。何でもお願いするだけで両膝を地面につけ、頭を地面に擦り付けるように陳情する……………土下座、だったかしら?」
「そうらしいですね………まぁ、それも含めて文化の違い、という事でしょう。無論、向こうもそれについては理解しているでしょうし、余り向こうに合わせようとするのではなく姫様が姫様らしく接すれば、日本の人達にも通じますよ」
そうよね、と奮起する姫様で以上、回想終了である。
回想を振り返ると自分が如何に若かったのかがよく理解出来る。
世の中には想定外の事が多い、という事はかなりあるというのを忘れていたのである。
─────と、目の前で王室専用列車を用意されたのに集団で土下座をしている光景から逃避しながら若かりし頃(数日)の過ちを恥じていた。
背後にいるメイド3人が
「あれが土下座………」
「噂には聞いたいたけどこれが日本…………」
「もしも日本にいたらアドルフ様もちょんまげになっていたのでしょうか…………」
と、上からドロシー、アンジェさ………アンジェ、ベアトリス様のコメントである。
密かにベアトリス様のコメントが一番怖いのだが、止めて欲しい。
流石にあんなヘンテコな髪型になるのは御免被る。
そして自分の前でアルフ、どうしよう…………と珍しく弱気な意思を見せている主に対して、やらなければなるまいとちょっと引いていた心を前に押し出して、足を動かしながらとりあえず思った。
─────これが日本か。
今回の日本の使節団の目的は先の条約の不平等の改善の為の提訴である。
ドロシーはメイドとして日本人の使節団と接しながら意識の奥に入っていく。
それに関しては別にどうでもいいが、その件の接待役にプリンセスが指名されている事で思った事は一つだ。
ああ、本当にこの姫様は特に重要視されていないんだな、だ。
如何に外国の要人とはいえ容易く自国の姫を案内人にする。
それだけならまだ良いかもしれないが、一応自国の王女であるプリンセスに対しての護衛の人数が、衛兵が別の列車に乗っているとはいえ、公的にはアドルフとベアトの二人だけである。
別に同情したわけでは無いのだが、ここまで分かり易いと流石に呆れてくる。
だが、逆にそうなると分からないのはその姫様自身である。
このプリンセスは恐ろしい事に噂と見た目が完全一致している完璧な王女様だ。
つまり、頭は悪くない。
そんな人間がどうして女王に成りたいなどと馬鹿な事を言うのかが理解出来ない。
無茶無理無謀。
他の言葉も別に並べてもいいが、プリンセスが願う事がこの類である事くらいは理解しているだろう。
政治的なバックもない、立場だけの王女が目指すには余りにも厳しい現実の壁だ。
ポーカーでブタの手札で勝負し続けるようなものだ。
無論、スパイなりに幾つか理由は考えてはみた。
一番分かり易いのは実は二重スパイでした、だ。
これは本当に分かり易い。
これならば当然、危険ではあるがそれこそ同じスパイとして理解もし易い。
正しく、余り重要な人物とは思われていない空気姫がやるにはピッタリだ。
完全に納得ができる理由だ。
だが、これ以外だと正直難しい、と思う。
他には現実何て見ずに綺麗事しか考えれていない、実はただの脳内花畑のプリンセスだったとか、一応、仮にも王家ではあるからの責任感だとか考えてみたがどれもピンとは来ない理由だ。
もっと分かり易く言えば、どれも命を懸けるには割に合わない理由だと思う。
個人的な意見ではあるが、私は命を懸ける、というのはそうでなければ生きれないからだ、と考えている。
スパイが何を言っているんだ、と言われるのは重々承知だが、私とてスパイにならなければ生きられなかったからスパイになっているのだ。
天職ではあったかもしれないが、少なくともスパイをやり始めた理由はこれだし、継続している理由も生きる為である事は変わってはいない。
そこら辺、アンジェは謎だし、ベアトとアドルフに出会ってからは価値観が揺さぶられつつあるが、まぁ、それはそれで。
だから、まぁ、私はプリンセスに対して思うのだ。
───────
他人の為に生きなければ生きていられない、と思うような人間なのか、と。
流石に狂人と組むのは面倒だなぁ、と思うし、決めつけるのはスパイであったとしても無礼ではあろうと思うくらいの道徳心くらいはある。仕事で捨てる事が多々あるが。
まぁ、でも狂人ってここら辺、線引き不明なのだが。
理解不能の努力というのも一つの狂気に見える物なのだから。
同期で天才のスパイの少女とか─────つい最近知り合ったばかりの傍付の少年の雰囲気とか、と思い浮かべながらドロシーはメイドとしての自分に入り込む、現実に意識を戻すのであった。
アドルフは姫様の傍に控えながら、とりあえず堀川公という人物が姫様に対して敵意が無い事を確認していた。
姫様の客観的な立ち位置を知っているのか知らないのかは分からないが、姫様に対しても礼をもって接している。
その後も度々土下座をして来るのが困ったものではあるのだが、それでも適当に頭を下げているわけでは無いとは思いたい。
無論、それで絆されるつもりは一切無いが、少なくとも現時点で問題が無い事のは良い事だろう。
「シャーロット姫。こちらの彼は?」
思考をしていると堀川公からこちらについて問われる言葉を知覚したので、姫様がええ、と笑みでこちらに手を向けるのに合わせて一礼をする。
「私の傍付のアドルフ・アンダーソンです────私の自慢の傍付です」
うぐっ、と口の中で呻くがそれを表に出すわけにはいかない。
こんな国際的な現場で揶揄うのは止めて貰いたいのだが、とりあえず今度のご飯時にニンジンを割り増しに出すのは決して復讐心からでは無い事だけは知って貰いたい。
「傍付のアドルフ・アンダーソンです」
自分の立場ならそれだけを告げれば問題ないだろう。
特に何かを言える権限も無ければする気もないからだ。
他の3人と違って傍付としての役目がある為、プリンセスの一番近くにはいるが、流石にそればかりは相手が日本だろうが何だろうが譲るつもりはない。
そう思っていると堀川公は何やらこっちの顔をじっと見た後に
「これは姫様────良いお供をお持ちで」
と何やらいきなり褒められた。
余りにも唐突で俺ははぁ………、と少し失礼になりそうな答えを返しそうになって危うく口を噤んだが、姫様が何やらとってもいい笑顔になって実に嬉しそうな顔で
「ありがとうございます───差し支えなければ何故そう思いになったかお聞きしても?」
止めて欲しい、と切に願うが、この場の自分に発言権は無い。
確かに自分がこんな風に評価される事なんて初めての事だから奇異に映るのは理解しているが、かと言って真正面から聞きたいと思うわけでは無いのだ。
せめて服装や礼儀などが立ち位置的に相応しい出で立ちをしているとかそんなんで収まってくれればと思っていたら、堀川公は
「私個人の経験則みたいなものなので自慢出来るような物では無いのですが────覚悟を抱いた眼をしていらしゃる。我が国ではそのような瞳をしている者は忠義者。つまり、主に尽くす者なのです」
笑顔でこんなに年上の人に褒められたのは流石に生まれて初めてなので、流石に本気で驚いた。
流石に顔に出すのは避けれたとは思うが、そういえば姫様やベアトリス様以外の人に褒められたのなんて最後は何時だっただろうか?
一切、記憶には無い。
「…………ありがとうございます」
とりあえず、それだけは返しておいて、つい言葉の内容を考える。
覚悟を抱いた者
さて、覚悟とはどれの事を指されたのだろうか。
主に尽くす覚悟だろうか。
主の為ならば邪魔者を排除する事だろうか。
それとも全部だろうか。
どれも一応、覚悟ではあるし、それを指摘されたならば無論、と答えれると思っている。
ああ、でも、個人的な願望が出るのだが
──────少女の為に死ねる覚悟を指摘されたのならば…………………少し
何故ならそれは少女に対して最後の瞬間まで傍にいれたという事だから。
それは少女との約束を守れたという証であり、自分の願望が叶った証だ。
この無駄な命が少しでも少女の為になれたというのならば、とても誇らしい。
そう納得していると
「────」
屋根から音が聞こえる。
即座に全ての思考が滅却し、響いた音についての理解を進める。
信じられない…………とはアンジェ様のCボールを知った後には言えない事実─────屋根の上に人が降りてきたのだ、という事を悟る。
それも恐ろしい程に気配を消して、しかも一人だ。
普通の潜入手段ならともかく、さっきまでは間違いなく気配が無かった場所に現れたのならばアンジェ様のようにCボールのような物を使ったか────素で飛び降りたかだ。
どっちにしろ手練れであろう、と推測できる。
考える事は自分が行くか、周りを唆すかだ。
一番現実的なのは間違いなく前者だ。
何故なら周りの日本人は何も気付いていない。
素人では無いけどプロというのは余りにも手緩い雰囲気を感じてはいたので、並みであるけど凄腕では無いのだろう。
下手したら上の一人だけに倒されるかもしれない、と考えると意味がない。
最悪最後の場合はせめて姫様の盾くらいになって貰いたいモノである。
なら、やはり自分が行くべきだと思い、姫様に一言を言って離れようとしようとすると、少し離れた場所で待機していたアンジェ様が動くのを見た。
思わず、自分が動く、と告げようと思ったのだが
「─────」
視線に宿った強さがこちらの行動を停止させる。
忘れたのか、と。
貴方はプリンセスの為だけに動きなさい
そう告げる様にこちらに振り返るスパイになってしまった王女の視線に何も応える事が出来ない。
確かにこの場で自分が守りたい者だけを守りたければどれかの優先度を下げなければいけない。
当然、一位は姫様だ。
だけど、そうだ。
では、二番手はどうすればいいのだ?
何時も守るにしても姫様か、多くてベアトリス様だけだったから、一人二人増えても対処出来るなどと甘い事を無意識に思っていた。
何を馬鹿な事を、と直面してから気付く自分に間違いなく3桁以上している自己嫌悪を覚える。
自分の腕は二つしか無く、体は一つ、脳に関しては盆暗の自分が大多数の人間を守れるわけがなかろう。
例え、それが片手の手で数えられる人数であったとしても、アドルフ・アンダーソンという人間のキャパシティーでは不可能の領域なのだと。
だって一人でさえ守り切ったなんて言えなかったのだから。
「─────」
一つ小さく吐息をして迷った感情を切り捨てた。
元から無駄な感情を切り捨てるのは得意な事だ。
だから、こちらに視線を向けていた本来ならば守らなければいけない人間の視線に対して、一度視線を合わして直ぐに切った。
無礼である事を承知の行いだが、こうしなければいけない。
何故ならいざという時を考えている自分が、その相手に対して感情的な事を行うのは侮蔑でしかない。
「─────」
だから、アンジェ様が出ていく前に吐息のような音が聞こえたのは気のせいだと思う事にする。
いや、それこそ侮蔑の吐息だと思えばいい、と思えばいい。
そう思っていると
「アドルフ。紅茶のお代わりを貰える?」
公務故に愛称では無く、名で呼ばれたから少し反応に遅れたが、直ぐにはっ、と頷き姫様のコップを手に取ろうとするとその瞬間を狙って
「────アンジェはどうしたの?」
と、小声で問われた。
誤魔化す事も考えはしたが、二人の関係を考えると下手な誤魔化しは効かないか、と思う。
だから、直ぐには返事せずに、コップを手に取って紅茶を注いでから、置く時にわざと姫様の方に顔を向けて
「───上に誰かが来ました」
一瞬、流石にえ? という顔をするのは止めれなかったが、直ぐに封じるのは流石だ。
しかし、刹那の瞬間に作られた感情の中に心配の感情が含まれている事を読み取れる動体視力を持っている事に関しては己に舌打ちをしたくなったが。
堀川公や周りの人間の事を考えると自分が何かを発言するわけにはいかない。
本当に面倒なものだ、と仕事に愚痴を言いたくなるような思いを抱いて
頭上からドーーン、と誤魔化しようのない音が聞こえた。
「……………………」
意外と最近のスパイも過激なのだな、と現実逃避染みた考えが脳内に浮かぶのだが、周りの今の銃声はという視線が何故か自分に集まるのは何故だ。
ああ、姫様が物凄く今の……………という顔をこちらに向けているからか。
ドロシーも何時の間にか外に出ているが、ベアトリス様までもがこちらに困惑の視線を向けているが、正直、自分に向けられても、とは思うが説明責任は果たさないといけない………………のだろう。
「銃声ですね」
と、とりあえず適当にそう言っていると今度はうぉぉぉぉぉぉ!? という悲鳴と同時に投げ飛ばされる音と再び銃声が数発鳴り響いた。
沈黙の重圧と視線が余計に重くなった気がする。
ここで汗を一つも搔かない自分は案外メンタルは強くなったのではないかと考えるけど、今はその強くなったメンタルをどうやって活かすかが問題だろう。
いや、別に他の視線はどうでもいいのだが、流石に姫様のアルフ? という視線にだけは対応しなければいけない。
故に鍛え上げた精神力と今までの経験から生まれた言葉をアドルフは無表情のまま、皆の前で説明する教師のように人差し指を立て、少しだけ小首を傾げ
「修羅場だけに────しらばっくれる、とか」
何故か全員が俯いた。
一部の人間は何故かくっ……! とか呻く始末。
ベアトリス様の方に視線を向けると視線を逸らされる。
ならば、と姫様の方に向けると姫様はこちらから顔を逸らしている………………………が、片腕が口元に覆われ、両肩が震えいている。
よし!
とアドルフはとりあえずこの場での勝利を確信した。
姫様良ければ全て良しである。
今回は流石に甘くするのは無理だと思った悪役です。
よっし! やっぱり悪役はこうじゃないとな! と思った悪役です。
石も砂糖も受け付けません。ただしガチャ石なら受け付けます────かかってこい! 読者の皆さん!!
悪役は逃げも隠れもするぞぉ!?
感想・評価などよろしくお願い致します。