プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty   作:悪役

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case6:醜い鏡

 

プリンセスは堀川公に色々言われている小柄な少女と、その子に対して強く睨む親友を見ながら微笑みは絶やさなかった。

 

 

ちせ、という少女らしい。

 

 

アルフやアンジェが言うにはかなりの手練れであるとの事だが、今みたいな風景やその小柄な体型を見ているととてもじゃないがそうは見えない。

身長もベアトとそんなに変わらないから見た目だけを除いたら普通の少女にしか見えないし、少女の故郷では正しくそうだったのだろうと思われる。

その少女が叫ぶような意志を放つのだ。

 

 

 

藤堂十兵衛を討ち果たす、と。

 

 

初対面の人間だ。

絶対とは言わない。

でも、その言葉には義務以上の感情が籠められているのと私は判断した。

否、そうでも無ければ極東の島国からしたら未だ未開としか思えない異国に来る事など出来ないだろう。

生まれてからずっとアルビオン王国にいる自分には理解してはいけないモノかもしれないけど、それでもその力強さに自分は判断を下した。

 

 

 

アンジェとバディを組んで、と。

 

 

その事に振り返った人間が二人いるのに頼もしさを感じる。

勿論、一人は言われたアンジェなのだが。

アンジェ自身は身元不明の人間を私と同じ列車に居させるわけにはいけない、ととても嬉しい事を言ってはくれるのだが、当然、それではちせさんの感情が抑えられるわけがない。

だからこその折衷案であり、そしてその後に続いた言葉がそうすれば私も安心できる理由だった。

 

 

 

その方が危険なら、信頼できる人に監視させたいわ

 

 

と。

一瞬、口を噤んだアンジェを可愛いと内心で思い出しながら

 

「で? アルフはどうしてそんなにご機嫌斜めなの?」

 

「全く気のせいで御座います、姫様」

 

嘘吐き、と全く隠せていない感情をお互い小声で囁きながら

 

「貴方も反対なの? ちせさんの事」

 

「当然です。一切信頼も信用も出来る要素の無い人間を姫様の傍にいさせるなんて正気の沙汰ではありません」

 

やっぱり怒っているじゃない、とは思うけど、それが自分を心配しての事なのだから当然、自分には怒る理由も立場ではない。

でも、だからと言って決してちせさんに同情したから、とかいう理由だけでそう言ったわけでは無いのだ。

 

「ちせさんのあの様子を見る限り、何もするなとか言っても無駄でしょうし、最悪、どこかに拘束するにしても脱出する可能性があるのでしょう? だったらやっぱり信頼できる人に預けるのは間違ってはいないとは思うけど?」

 

「……………それは確かにその通りです」

 

頷いてはくれたけど、随分と含みがあるその通りだわ、と苦笑する。

分かっている。

自分が甘い判断をしている事を。

その事を知りながら、それでも咎めないでいてくれている事も。

 

「アンジェじゃ不安?」

 

「────まさか。それは無いです。人選なら間違いなく姫様は最適な人を選びました」

 

 

……………ふーーん

 

ちょっと。うん、多分、ちょっとだけ。きっと、少しだけ一瞬、ピクリと何かが動いた気がするのをプリンセスは抑えたという事にした。

 

「アンジェの事を信頼しているのね」

 

「? 当然です────無論、それはベアトリス様もですが」

 

ふーーーーん、とちょっと長くなったふーーんが心の中で呟かれる。

密かに一人、全く名が上がらなかったが、今はそこを突っ込む余裕はない。

勿論、ベアトとの信頼関係は知っているからそっちは別にいい。

ただ、アンジェとは彼女が言っていた記憶を含めてもアルフとは余り関りは無かった、と聞いている。

なのに、再会した二人はとっても信頼し合っている。

 

 

 

とってもいい事だ

 

 

私も喜ぶべき事だ。

だから、私は少年にそれを告げようと口を開き

 

 

 

「─────やっぱり元の二人に戻りたい?」

 

 

と、意味の分からない言葉を口から出していた。

思わず、口を塞ぐが致命的に遅い。

だから、直ぐに少年から視線を逸らすように顔を背けるが、少年の視線がこちらを見ているのを理解出来るため、居心地が悪い。

今のは完全に自分のコントロールを間違えた。

ダメダメ、と心の中で繰り返す、

この程度で感情を乱していたら女王になれるものもなれない、と頭を冷やそうとしていると、唐突に少年が

こちらの耳元まで腰を曲げて

 

 

 

「─────私が傍にいる、と約束したのは姫様ですが」

 

 

 

 

と完璧な奇襲を受けた。

思わず振り返るが、もうそこには天井の方を向いてわざとらしく顔を逸らしている少年の姿。

 

……………もう。

 

「何時もの仕返しのつもり?」

 

「…………皆目見当がつきません」

 

自分でやっておきながら照れている辺りが実に可愛らしい。

ああ、でもこんな事をされているだけで許しそうになっている辺り、私、ちょっと軽い女扱になってないかしら…………。

そう考えると少し悔しいのでやっぱりこっちも仕返す事にした。

 

「さっきアンジェの事、信頼出来るって言ったけど」

 

「ええ…………」

 

何か急に警戒して後退りしようとしている所を見ると、私を何だと思っているのだと少し女として怒って良い所だろうという免罪符を手に入れた私は躊躇いを消して言った。

 

 

 

「─────貴方の事も信頼しているわ──────私だけの騎士様」

 

 

 

ぐっ……………と呻く声が聞こえたので私の大勝利♪ と笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

「…………ベアト。その、あの二人、ええと、ツッコミ待ちか? いや、小声で喋っているからいいんだが、いや良くは無いんだが……とりあえず良いのか?」

 

「いえ…………あの二人は何時も大体こんな感じなんです………あ、でも今回はアドルフ様が珍しく攻勢に出ましたけど、普段は姫様の圧勝です! 今回も姫様の逆転勝利ですから流石は姫様です!!」

 

「……………駄目だこりゃあ」

 

 

 

 

アドルフは嫌な予感を抱えていた。

先程、自分達がロンドンに向かうまでの唯一の停車駅。

そこで一切の襲撃が無かった。

恐れをなした……………などというご都合的な事は考える事は残念ながら悲観主義である自分には不可能事であった。

藤堂十兵衛というのがどれ程の暗殺者かは知らないが、それは少なくとも日本での話だ。

ここはアルビオン王国。

ただでさえ目立ちそうな日本人が、そんな自由に物や人を動かせれるはずがない。

だから、少し悩みはしたが、別の車両の見回りに再び行こうとするアンジェ様とちせ……目当てはちせだが、少し引き止めて聞きたい事を聞いた。

 

 

 

藤堂十兵衛という人間はどんな人間なのだ、と

 

 

 

返ってきた言葉は最悪であった。

 

 

 

少なくともここで引くような人間では無い。

 

 

 

ならば、やっぱりおかしい。

そうであったならばやっぱりねらい目は先程の停車駅だけしかないのだ。

これまでもここからも何かをするには外国人には難しい領域のはず。

嫌な予感は膨れるばかりだ。

 

「それに藤堂十兵衛も恐ろしいが、もう一人彼に従っている男も手強い」

 

「男? 否、手強いという事は強い、という事でしょうか?」

 

「強い。名が知られているわけでは無いが、間違いなく藤堂十兵衛が率いる中でなら右腕と言って良い人間がいる」

 

嫌な話が積み重なるものだ。

ちせが日本においての標準的な戦闘スタイルならばただでさえ自分には圧倒的経験不足の戦場になりかねない。

何せ日本刀という剣と戦う事など流石に無い。

相手は大抵ピストルかナイフだったから、長物というわけではないが、今までとはまた違うリーチを持つ相手とやらなければいけないのにそこに手練れが増えるというのならば最悪でしかない。

最悪はアンジェ様がCボールで姫様と一緒に脱出という方法があるからマシだが。

 

「興味は無いですけどその者の名は?」

 

「─────一絆(いずな)。剣の才ならば十兵衛に匹敵しかねない男だ」

 

ポジティブに考えるならば事前にそういった敵がいるという事を知れたのは良い事だ、と思う事にしながら、最後に一つ思った事を聞いた。

 

「……………何故そこまで相手の事を知っているのですか。藤堂十兵衛はそちらでは有名みたいだからいいですが、そのいずな? という人間は無名だというのに」

 

「あぁ……」

 

問われた少女は至って無表情。

その顔も目も一切、揺るぐ事はないまま、声色も一切揺るがずに答えを告げた。

 

 

 

 

「────────その二人は私の父と義兄(あに)を殺したからな」

 

 

 

「─────────そうですか」

 

その答えにこちらも特に言葉に色を乗せずに返した。

特に深入りする仲でも無ければ、興味も無い事柄だからだ。

だから、自分はそれだけ聞いてちせとアンジェ様を見送る。

だけど、少しだけ歩いたらちせは立ち止まり、数秒迷ったような時間を置いたかと思えば、先程よりは少し人間味のある無表情で

 

「────貴殿はいずなに似ている」

 

「は? ……………はぁ、余り嬉しくも無いですが、どの辺がでしょうか」

 

 

 

「───────たった一つしか見ていない所が」

 

 

 

と、何か不思議な言葉だけを告げられて、日本の少女はアンジェ様と一緒に別の車両に向かった。

思わず何となくベアトリス様と目を合わせるが、聞いていたベアトリス様も首を傾げるだけだった。

唐突にそんな事を言われる謂れも、繋がれも無い人に言われる言葉を言われても中々受け止めるのは難しい。

だけど、一つ疑問に思う事があるとすれば

 

 

 

今のは褒めたのだろうか? それとも貶したのだろうか?

 

 

まぁ、どっちであっても確かにその通りだ(・・・・・・・・)、とその言葉を心に収めて置いた。

 

 

 

 

故に嫌な予感は確信へと至(・・・・・・・・・・)()

 

 

 

 

 

唐突な爆発音と振動がベアトリスを襲った。

 

「きゃあ!?」

 

振動に対する準備を怠った為、尻餅をついてしまうが、即座に考える事は

 

……姫様は!?

 

と思って姫様の方を見るとアドルフ様が覆い被さるように守っている光景であった。

状況が状況だから私は赤面する余裕が無かったが、しかしそれでもベアトリスは見た。

 

 

 

覆い被さられている姫様が少しだけ顔を赤くしているのを。

 

 

 

流石は姫様です!!

 

 

意味不明の感嘆を覚えながら、直ぐに立ち上がる。

鈍感な私でも流石に今の状況がどういう意味かくらいは理解している。

襲撃だ。

爆発音が響いた所に日本人の人が向かっていった。

その後部車両には確か、アンジェさんやドロシーさん、さっきのちせさんもいたはずだけど……3人を心配はするが、やはり一番は姫様だ。

だからその姫様を守る事に長けた人に声を掛けようとして─────ヒュ、と喉から情けない息が漏れる。

 

 

 

 

酷く冷たい生き物がそこにいた。

 

 

 

その表情は殺意に埋め尽くされ、人の顔では表現できない故に無表情で代行し、瞳には一切の温かみが含まれていない。

世界を憎んでいる顔と言われたら信じてしまいかねない憎悪の表情(カタチ)

 

 

 

何一つとして許さないと叫ぶ人間(イノチ)がそこにいた。

 

 

 

それでも、ベアトリスは動いた。

何故なら今は非常事態で、姫様を守ろうとする人間は私と彼しかいなかったからだ。

 

「ア、アド、ルフ様…………?」

 

口から漏れた声はどうしようもなく掠れた声だが、効果は抜群であった。

悪夢を形にしたような冷たさは瞬間的に溶けていき、あっという間に人の顔に戻る。

それに思わず、もう修羅場を潜りぬけた気分を味わうが、浮かべていた本人は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら、しかし直ぐに

 

「姫様。部屋の隅に」

 

と言って失礼のないように手を貸して立たせる。

姫様も今が緊急事態なのを理解しているのだろう。直ぐに立ち上がって、アドルフ様の言う事を聞いて部屋の隅に向かっていく。

その事に自分はどうすればいいでしょう、と思っていると

 

「ベアトリス様」

 

アドルフ様が小声でこちらに声を掛けるので、そちらに振り向く。

 

「ベアトリス様は姫様と一緒に──────いざという時は…………」

 

行動の指針をくれたお陰で自分が為すべき事を考えれたので、アドルフ様が何を言おうとして口を噤んだのかを理解した。

理解した上で私は懐から取り出した。

ピストルを。

その物がどういう意味を持つ物なのかを知った上で私は出来る限り普段の笑みを浮かべるよう心掛け

 

 

 

「はい! 姫様をお守りします!」

 

 

 

そう叫ぶ私に、アドルフ様は何故か眩しい物を見たかのように目を細め

 

「──────貴女には逆立ちしても勝てそうにないですね」

 

と言われ、え? と思うが、もうアドルフ様はさぁ、と姫様の方を視線で向けるのでタイミングを逃す。

聞きたいと思う気持ちはあるけど、当然そんな状況ではない。

だから、直ぐに姫様の傍に侍ろうとし─────また大きな音が響く。

今度は爆発音とかそういうのではない。

ある意味で列車に乗れば普段は響く音だ。

だから、そちらに思わず振り返ると窓の向こうにはこちらに走ってきた貨物列車が並走してきた。

故に、ベアトリスも理解できた。

 

 

敵が来たのだ、と。

 

 

 

 

砲弾が発射される音と破壊の音で意識のスイッチが切り替わる。

粉砕の音は攻撃の証。

我等の敵を殺した音を己の起動音とする。

堀川公達が乗っている王族お達しの列車には見事な穴が開いており、そこには標的の堀川公の姿と共に少女たちの姿も見れる。

 

「あれがノルマンディー公が言っていたシャーロット王女か」

 

隣にいる藤堂十兵衛……………己の義理の父がポツリと漏らす。

伝手の無いアルビオン王国で我らがここまで物資を得て攻撃出来たのは確かにあのノルマンディー公という人間のお陰ではあるが、義父の言いたい事も分かる、

 

 

 

あの男は信用も信頼もするには危険すぎる。

 

 

仕事のみならば何も問題の無い男かもしれないが、あの男の目的に関わる事に触れたら感情を廃絶した合理的な判断で切り落とされる─────そんな視線(いろ)が見えた。

つまり、この我らの暗殺にあの少女達を巻き込んだのはその目的と合理的な判断から下されたのだろう。

酷く血生臭いが、それに乗っかっている時点で我らが糾弾する権利も無いのを承知しているからこそ、義父もそれだけなのだろう。

仲間がロープを打ち込みました! と報告するのを見て、そちらを見ると相手の列車に確かに打ち込まれているが、その内の一つが室内に嵌まっている。

 

 

あれでは即座に斬られかねない。

 

 

その事を理解したのか。

義父は無言で刀を左手で持ち上げるのを見て、その前に口をはさむ。

 

「義父上──────自分が行きます」

 

義父が無言でこちらを見てくるが、構わない。

義父は我々の御旗にも等しいのだ。

後ろに義父がいるのだ、と思えば、周りの皆も希望を持てる。

最悪、義父だけでも生き残ってくれれば、とは思うが、義父がそんな事を出来るような器用な性格では無い事を知っている自分はここで必ず成功させるしかないという不退転の覚悟を胸に秘める。

それを瞳にも出していたからか、父は小さく頷き

 

 

 

「───────任せる。無理は、するな」

 

 

 

その不器用な言葉に小さく笑みを形作り、はっ、と頷き──────即座にロープを渡った。

正しく綱渡りをする中、敵側に動きが生まれた。

敵襲の混乱から立ち直った一人がこのロープを斬ろうとしているのだ。

既に場所は中間点。

引くには余りにも遠く、どうにかするには手足ではとてもじゃないが届かない場所で自分は即座に懐に手を伸ばし─────取り出した飛針で斬ろうとしている人間に投げた。

飛針は見事に敵の脇腹に刺さり、斬ろうとした動作が止まっている間に己を列車の中に移動させ─────苦しむ敵に抜刀を叩きこんだ。

 

 

 

肉と骨を切り裂き、命を奪った感触が脳と体に刻まれる。

 

 

 

何度何回繰り返しても余りにも重い感覚を唇を噛み締めながら、言い訳無しに殺したのだ、と思って刀についた血を振り払う。

鞘には納めるがそれは決して引く気が無いという意味では無い。

室内にいるのは数人。

その中に堀川公の姿があるのを見て取れたので

 

 

 

 

「藤堂いずな──────一身上の都合により貴方達の命を頂戴す」

 

 

 

目的も信念も言い訳には使わない。

何故なら自分はそういったモノの為に(・・・・・・・・・・)生きれる人間ではなか(・・・・・・・・・・)ったから(・・・・)

故に己の欲望を持って他者の命を奪う殺人鬼であるのだ、と認めながら敵を伺い

 

 

 

─────酷く気持ちの悪いモノを見た。

 

 

金髪碧眼の形をした自分とそう年が変わらない少年がこちらの前に出て来た。

堀川公や少女が何か叫んではいるが、耳に入らない。

両の手に手袋をして向かってくる少年。

服に隠れてはいるが、腰にはナイフに……ピストルと思わしき装備をしているのに銃に手を出さないのは距離とこちらの力量を察しての上か。

徒手空拳でこちらに向かってくるのはそれでこちらを殴り殺せるという自信か。

だが、そういった意味で少年を気持ち悪いと思ったのではない。

何か途轍もなく気持ちが悪い。

 

 

 

何というか……………水面を見ると映る姿が勝手に動いたり、喋ったりするような感覚。

 

 

何故か殺意が勝手に立ち上がる。

先程、殺人に対する嫌な手応えを語ったばかりなのに、この少年相手ならば罪悪感を感じなくていいと無意識にそんな事を思い始めていると

 

「いずな殿! 見事! 我々も微力ながら助太刀いたす!!」

 

己が使ったロープから仲間が何人か来る。

その事に変な思考に囚われつつあった己に気付き、振り払う思考をしていたが故に仲間の一人が少年の方に向かうのを止めれなかった。

 

「斬り捨て御免!」

 

即座に刃を抜き、上段から斬り捨てに行こうとする戦闘思考はどうしようもなく正しいが、嫌な予感が待てと叫ぼうとするが遅い。

気合の叫びを上げて振り折ろうそうとしていた刃を、金髪碧眼の少年は特に何の感慨も抱かずに

 

 

 

 

「やかましい」

 

 

 

浮かび上がる人体を見る。

後頭部を背中にくっ付けるのだと言わんばかりに仰け反った姿勢は、少年が刀を振り下ろされるよりも早く踏み込み、膝を曲げ、そこから打ち上げる様に振り上げた拳を顎に諸に受けてしまったのだ。

悲鳴の一つも上げれぬまま、そのまま床に転ぶ仲間の姿に敵味方関係なく息を吞む。

倒れた仲間は不自然な形に顎が歪んでいる。

完全に顎が砕かれた上に…………何か硬いモノを押し付けられたかのような後が刻まれている。

あの手袋は手甲みたいなものか、と冷静に判断しながら、敵を見る。

やはり先程の気持ちの悪い感覚を得ながら、しかしそれを抑えて問う。

 

「名は?」

 

「言うまでも無し」

 

名など無用。

そう言わんばかりの不遜な態度を持って殺意しか宿らぬ瞳を見る。

まるで本当に自分には名など無用とでも言わんばかりの態度だ。

 

…………本当に嫌だ。

 

こちらはこんなにも我慢しているというのにあちらはそんなのどうでも良いと言わんばかりの殺意しか込められていない瞳と声が腹立たしい。

その底なし沼のような殺意を浴びていると素で殺したくなる。

 

「…………皆さん、あの少年は私が相手します。他をお頼み申す」

 

周りの仲間が頷くのを見て、己は抜刀態勢に移る。

ふぅ、と一つ息を吐く。

 

 

 

──────感情を破棄して一振りの刃になる為に。

 

 

意味が分からない嫌悪感を感じる少年と敵対する事になったが、どっちにしろやる事は変わらない。

 

 

皆殺しだ。

 

 

気持ちの悪い少年だろうが、怪物だろうが獣だろうが何であろうとこもこの場にいる敵を皆殺しにすればいい。

元よりそう覚悟した身。

己を拾ってくれた人の力になる事だけを目的とした人生。

今、それを燃やし尽くすのみである。

故に今こそ己を殺意の思考に身を任せ

 

 

 

 

「──────参る」

 

 

 

最後に人間の感情を吐いて──────身体も刃として突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 




砂糖は暫く無いです。流石に。

今回はオリキャラの登場回ですな。
ちせ回におけるアドルフの敵として登場させました。

立ち位置はちせの義理の兄で当然、十兵衛の義理の息子です。
え、いきなり? とは思いますでしょうが、どうかお付き合いをお願いします。
無論、エピソードも後で出すのでもう少しどういうキャラなのかは待ってください!

次回……次々回もかな? 多分、暫く戦闘回です。
流石に少しブラックが続きますが、読者の期待には応えるつもりです(真顔)。

今回、ある意味でアドルフがメインキャラ以外に対してはどんな人物なのかが少し出た感じかなぁって思います。
ただ、今回はそれがメインじゃないですからいずなの視点によって結構、微妙に偏見が入ってますけど。

ちなみにアドルフのバトルスタイルは基本、某封印指定絶対殺すウーマンスタイルです。
でもナイフとかピストルとかも使えるので結構、万能タイプではありますね。

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