師走の頃1
3週間ぶりくらいにボーダーにいったら村上くんがB級になってた。お兄さんさみしい。
しかしそこは俺も大人である。笑顔をつくり激励の言葉を送ってやった。ほめてほめて。
その後村上くんと模擬戦したらこれまたすっげぇ強くなってんだけど。なんか超硬い盾持って孤月で斬りかかってくるんですけど。
だがどうやら接近戦しかないようなので盾を持ってた側に回り込み続けてたら盾が剣になった。気づいたら真っ二つだった。
聞いてみれば弧月より重くて切れ味は少し落ちるが盾に変化する剣なんだと。スラスターもつけられてジェット斬りもできるとか。
なにそれロマン、俺も使いたい。
まぁB級に上がらなきゃそれも無理なんですけどね。はいはい、頑張りますよ。とりあえず今日もランク戦してみたのだがやっぱり誰も相手してくれない。ワンチャン狙いのやつはもういらねーんですよ……。
睦月の頃2
最近ランク戦ブースにボーダーに入りたての新人やポイント2000以下のルーキーとばかりランク戦をしてポイントを稼ぐ「新人狩り」と呼ばれるやつがいるらしい。しかも一戦終わった後に確実にもう一戦しようとしてくるとか。
えっなにそれこわい。
睦月の頃3
ブースにいたデコだし少年に「お前が新人狩りか」と言われた。
違うよ。怖いよね、君も気を付けるんだよと言っておいた。
睦月の頃4
昨日いた少年にいきなり「なぜ嘘をついた」と絡まれた。
なんの話だ? あれか、子ども特有の思考の飛躍か。とりあえず目線を合わせて「なんの話かな?」と言ってみたところ少年は何かが気に食わなかったらしく「まだとぼけるのか」とか言いながらトリガーを取り出した。
そして鋭く俺を睨み付けて「5本勝負だ。それでお前が【新人狩り】かどうか分かる」と言ってきたから違うので断ると言っておいた。
睦月の頃5
今日も少年に勝負を挑まれた。妹の迎えに来ただけだからと断っておいた。
睦月の頃6
今日も少年に勝負を挑まれた。妹の買い物について行くからと断っておいた。
睦月の頃7
今日も少年に勝負を挑まれた。ねぇしつこくない?なんでそんなに俺と勝負したいの? さてはあれか、君もワンチャン狙いか。
正直ポイント貰えないし今日疲れたんだよなぁ。そう思っていたらいつからいたのか視界の端の妹とその友達の子がいた。ふと目があったら頑張って♪と両手でガッツポーズをしてきた。なんだあれかわいい。
うぅむ、しゃーねぇ。妹のかわいすぎる姿に免じて勝負してやろう。そう言いながら俺は少年の頭をポンポンと叩きながらブースに入るのだった。少年はすごく嫌そうに俺の手を振り払った。照れやがって少年よ。
少年は転送された瞬間からすーっと透明になった。なんだ、召されたのか?とパニックになってたところ俺の首にスコーピオンが突き刺さった。もうパニック。なに、C級じゃねぇのかよ?なんでそんなチートみたいなトリガー持ってんだよ。くっそ、ずりぃ。
とりあえず透明になった瞬間バイパーをばらまく。しかしあっさりとかわされスコーピオンが突きささった。
なんつー早さだよ。デコ助より早ぇんじゃねぇかこれ。
その後も何度かチャレンジするがまったく当たらん。俺はマイラブリーシスターが見てる前で負けるわけにはいかんのだ。
とりあえず冷静になってバイパーを超低速で散らしてみたり弾幕でシールドもどきを作ったり背後から撃ち込んだりと必死の防戦で粘る。その時の粘りといったらもう納豆越えてトリモチみたいになってた。まぁその粘りあってこそ引き分けに持ち込めたんだがな。
まさか少年も自分の身体をブラインドにしてそのまま撃ち抜くとは思ってなかったみたいだね。
まぁ結局その勝負が一番よかったかな。集中力が切れたのと少年も本気でかかってきてたし。シールド細かく分割して身体に纏うんだぜ? ズルすぎないかそれ。割っても割ってもすぐ再生するしよ。重戦車かお前は。
しかし強いなぁ。まだ小学生くらいにしか見えないのに。そう言ったら少年は思いっきり頭をぶん殴ってきた。俺トリオン体じゃないからちょっとは手加減してくれないかなぁ。
あぁ、愛しのシスター、看病しておくれ。寄ってきた妹にすり寄ると無言でぺいっと振り払われてしまった。優しくしてよぉ。お兄ちゃん今結構傷ついてるからぁ。小学生にボコられるのけっこうキツいからぁ。
ん? なんでそんなに苦笑いして俺から離れるの?後ろ? なんだ、ちょっと怖い顔した少年しかいないじゃないか。
これはあれだよ、勝って嬉しいけどクールを装いたい中2病の開始症状みたいなもんだよ。
若いっていいなぁ、少年。と後ろを振り向こうとした瞬間、へたりこんでいる俺の頭はがっとつかまれギリギリと後ろに回された。。いやいや、死んじゃうから。俺の首180°回らないから。
慌てて後ろを向くとそこには能面みたいな顔をした少年が。でも子どもだから怖くはない。
すっと手を差しのべてきた。お、握手か。出来た子だな感心感心。と手を握ると少年は俺の手を握り潰さんとばかりに握ってきた。思わず変な声でちゃったじゃないか。
お、おい、少年、手が取れそうだから離してくれないかな。
顔をうかがうと少年は能面のような顔をピクリとも変えず衝撃の言葉を放った。
「風間蒼也。20歳だ。よろしくな。
後輩という部分をやたら強調して風間くんの言葉を俺は受け入れられず思わず「うっそだぁ」といってしまった。記憶がとんだ。
どうみても小学生じゃんとは言わなかったんだから許してくれたっていいじゃんな。
睦月の頃8
この間あったことをまんまデコ助に話したらすっごい勢いで罵倒された。そんなに怒らなくていいじゃんな。だって知らなかったんだもの。
そう言ったらデコ助は余計にため息をついた。放っておけば「あんたバカァ?」とか言い出しそうな雰囲気だ。俺はアスカ派じゃないのでチェンジで。
件の風間くんだがどうやらホントに20歳らしい。絶対みんな騙されてるわ。まぁ俺がビックリしたのはそこじゃない。風間くんはどうやら現A級4位風間隊の隊長だというのだ。ちなみにA級というのはB級に上のランクでボーダーに10%くらいしかいないとかなんとか。詳しくは忘れた。とにかくすごく強いのだ。なるほど、あの強さはそういうことか。なんかチートトリガー持ってたしな。
俺が一人で納得しているとデコ助は深くため息をついて「私たちの努力が……」とかなんとか言ってた。
どうしたのか聞いたら「もう知りません。一生C級のままでいればいいです」と何気に酷いことを言われた。
なんか怒らせるようなことしたっけな、最近怒らせたのは風間くんだけなはずだが……。
俺がうんうんと唸っているといつの間にか風間くんがおなじテーブルに座ってパックの牛乳をちゅうちゅうしていた。かわいい。
今日も元気そうだね。風間くん。と言ったらソッコー「さんだ」と言われた。サンダー? あぁ、サンダー受けてちっちゃくなってんの?
そう言おうとしたがやめた。これを言ったら怒られるかなぁと思ったのが2割。残りはデコ助が風間くんに話しかけたからだ。デコ助は話しながら百面相している。
不安そうに聞いたり、年相応に笑って喜んだり。こいつ笑うとちゃんとかわいいんだよな。いっつも澄まし顔だからあんまり見れんが。子どもはもっと笑うべきなんだよ。
ぼんやりその光景を眺めているとデコ助がいい笑顔でこっちを向いた。お、おぉう、びっくりしたぁ。どうしたんだよ急に。
「ついにB級昇格ですって! やりましたね!」
…………は?
デコ助のテンションに全く追い付けずにいると風間くんがフォローしてくれた。
どうやら色んなC級隊員から苦情があったそうだ。
苦情……ちょっと心当たりがいっぱいあって分かんないなぁ。
まぁいいや、要はC級という場にそぐわないほど強いのでさっさと上げてくれということだ。
そんな事で簡単に上げていいのかと思ったが実際に俺みたいな目にあったやつが過去何件かあったらしい。ボーダーとしても優秀な隊員が腐っているのはもったいない。C級からはいなくなってくれてありがたいでwinwinらしい。
そういう場合にこの間みたいに正隊員が直接戦って審査して上げるかどうかを会議にかけるんだと。まぁA級が来たのは今回が初めてだったらしいが。
つーかそんなんだったらもっと早くに来てくれよな。そう言ったらお前が断っていたんだろう。と一蹴された。そりゃあ事前に知らされないで小学生にストーカーされたら怖いじゃん。あ、痛い痛い。太ももをつねらないでください。
まぁとにかくB級に昇格は確実だそうだ。近々正式に呼び出しがあるらしい。
ついに俺もB級か。なんか感慨深いなぁ。そんな事を考えているとデコ助は「やっとこれで対等ですね!」とか言ってはしゃいでた。なんでお前が俺よりうれしそうなんだよ。
でも確かにやっとだよな。村上くんにも報告しなきゃ。
これで俺もこいつらのようにたくさんの武器が持てる……。ふふふ、見てろよ。今までやられてきた分を百倍にしてかえしてやるわ。
SIDE風間蒼也
安達とじゃれあいながら年相応の笑顔を見せる木虎を見ながら風間蒼也は思い出す。
実のところ、安達がこうして昇格したのは特例中の特例でボーダー始まって以来のことである。
風間は本部長室に呼び出された。風間隊は城戸司令の直属の部下である。たまにこうして直接任務を受けることがある。
今回の任務はというと。
「安達圭一との模擬戦……?」
「あぁ、彼はC級内で孤立してしまっているらしくてな。聞けば非常に高い実力を持っているらしい。そんな人間をC級で腐らせておくには惜しい」
「……自分が戦ってB級に値するかどうか審査してこいということですか?」
「そういうことだ」
確かに安達圭一という名前は聞いたことがある。今期の新人で有望な一人だったはずだ。しかし、そこまでするほどの才能なのだろうか。
「こんな特例措置までとって昇格させるほど強いんですか?」
「強いのだろう。それにこれを見ろ」
言いながら忍田は2枚の紙を渡してきた。それは嘆願書であった。今現在彼がおかれている状況。そして客観的な評価や戦績。それらを鑑みてB級への昇格を勧める嘆願書だった。出し主の名前は【木虎藍】に【村上鋼】
この二人に、しかもB級のトリガーを持った相手にC級トリガーだけでこの戦績は驚くべきことである。軽くB級に中位クラスはあるだろう。
それに、こんな嘆願書などを作ってくれるこの友人たちが彼の人格を保証している。
きっと推薦しても大丈夫なはずだ。
と、まぁそんな風に思った自分を今は殴りたい気持ちでいっぱいだが。
確かに戦闘センスというかトリガーの使う発想には非凡なものがある。しかし風間への敬意が一切ないのが問題である。ボーダーの中でこうも自分をなめているのは諏訪と安達くらいである。あまりに子ども扱いするものだからスコーピオンだけで模擬戦をするつもりがフル装備で思いっきり戦ってしまった。反省はしていない。
まぁそれでも風間が油断していたとはいえ引き分けまで持ち込むのだから将来有望だろう。
「そういや風間くんはこれから暇?」
「そうだな、あと【さん】な」
「風間くんはこれから暇さん?」
「そこにつけるバカがいるか」
「まぁいいじゃないか。それよりどう?暇?」
「一応暇だな」
「じゃあ夜ご飯食べに行こうよ。俺のB級昇格祝いに
さ」
俺が上がれたのも風間くんのおかげだしさ。と屈託なく笑う。こういうところに木虎は心を許したのかもしれない。このフレンドリーさも長所とも言えないこともないのかもしれない。
そんなことを思いながら風間は頷いたのだった。
ラーメン屋にて
「すいませーん、チャーシュー麺とお子様ラーメン。あと小皿もくださーい。ちょっと待った。箸は危ないから、好きなの頼んでいいから」
「チャーシュー麺ください、トッピング全部のせで」
「人の奢りをいいことに……」
「あ、あと餃子も二皿下さい」
「ごめんって、謝るから許してください」
「…………やっぱりたまごもう1個追加でお願いします」
「ごめんってばぁぁぁ!!!」