睦月の頃1
やっとB級になったのでとりあえずトリガーを弄りたい。俺もデコ助みたいに盾張って安全確保しながら撃ったり村上くんみたいにロマンブレード使ってみたい。そういや風間くんのあのスケベトリガーはA級特権なのだろうか。
正直そんなことすらもよく知らないので見たことのあるエンジニアを捕まえてセットしてもらった。
年は近くて、俺の1個上。やや小太りで愛らしい見た目をしている。寺島雷蔵さんである。
使いたいトリガーは? と聞かれたのでロマンブレードを真っ先に出したらバッと手を握られあの魅力が分かるのか。と言われた。
どうした、急に目がガチになったぞ。家にたまにくる宗教勧誘の人みたいな目になってる。
とりあえずすすすっと手を抜いて、あれいいですよね。変形するし硬いし。しかもジェットとかロマン過ぎる。みたいなことを言ったら俺の肩をガシッと掴んで「セットは俺に任せろ」サムズアップ。
なんでこんなにノリノリなんだ。この人。
太ってる雷蔵さんがウキウキしながら歩くと顎の辺りがポヨポヨしてゆるキャラみたいになってる。
とりあえず開発室の雷蔵さんのデスクでトリガーの説明を受ける。思ってたより色々あるんだなぁ。
「レイガストは? メイン?」
いや、サブで。俺も一応射手扱いなんで。みたいなやり取りをちょいちょい挟みながらも無事トリガーはセットしてもらう。
レイガストへの執着がすげぇよ、なんなんだこの人。とか思ってたら実はレイガストの開発者だったらしい。どうにも不人気な武器なので使ってくれる人がいたら嬉しい。そしてもっと広まってほしいのだと。
……そんなこと言われたら使わねぇ訳にはいかないじゃないか。
雷蔵さん。レイガストをメインでセットしてくれ。俺が広めてやるよ。こいつの魅力ってやつをな!
雷蔵さんは無言でトリガーを弄ってセットを変える。そして静かに立ち上がり俺の手にトリガーを握らすと
「任せたぜ。相棒」
とキメ声で言った。
よーっし。そうと決まれば今夜は祝杯だ! 焼き肉いこうぜ!
「応!」
という熱い友情を結んだ俺たちはその後焼肉屋で有り金以上に肉を食べてしまい冷や汗をかいていたところたまたま店にいた風間くんに土下座して金を借りるという一幕があったのだがまぁそれはいいか。
ただあんなに冷たい目は見たことがなかったということはここに記しておく。
睦月の頃2
すまん、相棒、レイガストに未来ないかもしらん。
デコ助にランク戦挑まれたからC級の時でさえ勝ってたんだしB級に上がったら楽勝ですわ。とか煽ってたらボコボコにされた。そりゃあもうぐうの音もでないくらい。30:0だぞ。30:0。
デコ助に「散々バカにしてた相手に負けるってどういう気持ちなんですか? ねぇ今どんな気持ち?」と煽り返された。あんなにイキイキとしたあいつの顔見たの初めてだちくしょう。
敗因はまぁ分かっている。レイガストがすっげぇ重い。今回初めてだったから慣れてないってのもあったがそれを差し引いても酷いもんだった。デコ助の早さに全くついていけなかった。周りからごりごり削られて焦って斬りかかったらカウンター食らって終わり。
もはや途中からアタッカー運用は諦めて村上くん的に盾にしてたからな。重くて動きづらいことは変わらんかったが。
スラスター使いながら立体起動装置みたいにしてたけど行く方向がバレやすいんだよなぁ。デコ助にも読まれてたし。
あいつの「バレバレですよ」って言ったときのドヤ顔を俺は忘れない。絶対許さんぞ。
最終的にはもうクナイみたいになってたからな。スラスターオンでレイガストをぶん投げると結構な早さで飛んでいくのだ。甘えたシールドくらい叩き割るが単純な動きのため避けられやすい。
それにデコ助はガンナーだ。距離を取ればとるほどあれは避けやすくなってしまう。
とりあえずこんなことを相棒に報告するわけにもいかないので風間くんのところにアドバイスを求めに行ってみた。
「お前は機動力を生かしたシューターじゃなかったのか。強みを殺してどうする」とマジレスされてしまった。そんなもん男の約束の前にはちっぽけなもんだぜ。風間くんの身長くらいな。痛い痛い。アイアンクローしないで。
いや、本気で悩んでるんだよ。相棒の手前使わない訳にもいかないし。
「さぁな、お前の強みはもう教えた、後は自分で考えろ」
クールぶりやがって。これだから厨二は。
しかし俺の強みねぇ。あ、なるほど。その手があったか。
睦月の頃3
デコ助に16:14で勝った。やったぞ相棒! くぅー、デコ助は強敵でしたねぇ。
とりあえず「今まで1度も負け越したことない奴に負け越すってどんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち?」とおもくそ煽ってきた。大人げない? はっ、好きなだけ言うといい。やられたらやり返す……倍返しだ!
こんな感じで勝ち誇っているとデコ助は肩をプルプルと震わせながら次は絶対勝ちますから!と今まで聞いたことないような声をビンタと一緒にプレゼントしてくれた。不条理。
まぁ俺も煽りすぎたところもある。次からはもう少し優しくしてやろうと思わないでもない。反省も後悔もしていないことは内緒。
ちなみにどうやって勝ったかというと。スラスターの出力を最大限まで上げて片手にブレードを展開していない状態のレイガストを握り引っ張られるようにして動き、機動力を上げて、バイパーやら、メテオラで吹き飛ばしたりした。
俺はトリオンは結構あるらしいのでさほど残量も気にせず使えた。
いくらデコ助が早いとはいえ風間くんみたいにスケベトリガー使って隠れて移動するわけでもないし捉えるのはさほど難しくはなかった。ホントは結構ギリギリでヒヤヒヤしてたのは内緒。
その後相棒に勝利の報告をしたら軽く小躍りしそうな勢いで喜んでた。なんならしてた。あんなに軽快に動けたのかよ。
だがあんまり剣として使ってなくてほぼ移動手段としてしか使っていないことは言えなかった。だって……こんなに嬉しそうなんだもの。レイガスト使用者が俺を含めて3人だけしかいないなんて悲しすぎる。
結構優秀な性能だと思うんだけどなんで流行らないんだろうなぁ。
レイガストにはまだまだ遊び甲斐があると思う。個人的にはかなり気に入ってる武器の一つですね。