学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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探し求めていたもの

「どうした、凜堂。さっきから上の空みたいだけど」

 

「あん? いや、別に何も無いが」

 

 隣を歩く英士郎に凜堂は肩を竦めて見せる。

 

「そうか……なら、別にいいけどさ。昨日から少し様子が変だぜ?」

 

「少し、俺の人生って何だろうって哲学的なことを考えててな。んなことよりジョー、早いとこ教室に行かないと遅刻だぜ、俺ら」

 

「慌てることはねぇさ。この時間なら滑り込みでセーフだ」

 

 英士郎の言うとおり、ホームルームが始まる寸前に二人は教室に辿り着いた。

 

「大体、お前は何で二度寝なんかするんだよ。おかげでギリギリになっちまうし」

 

「いや。遅刻しかけた理由の半分はお前が俺を起こすのにエルボードロップしてきたってのもあるんだからな?」

 

 凄い綺麗に決まったぞ、と英士郎は顔を顰めながら鳩尾の辺りを撫でる。

 

「もうされたくないなら二度寝は止めろ。次はギロチンドロップだからな」

 

「プロレス技をかけないっていう選択肢は無ぇのか!?」

 

 無い、とはっきり答えながら凜堂は席につく。隣の席のユリスに挨拶するが、何やら手紙を読んでいる最中で返事は無かった。

 

「おい、リースフェルト?」

 

「あ、あぁ、お早う高良」

 

 凜堂に気付くと、ユリスは少し慌てた様子で手紙を机の中に入れた。

 

「あん?」

 

「おら、席につけガキ共ー。出席とんぞー!」

 

 ユリスの挙動不審な態度に首を傾げる凜堂だが、匡子が釘バット片手に教室に入ってきたため、それ以上の会話は出来なかった

 

 授業中も時々、ユリスの方を見てみるが、凜堂の視線に気付く気配は無い。授業にも集中できてないみたいで、終始上の空といった様子だった。

 

「どしたリースフェルト? 変なもんでも食ったか?」

 

 放課後、声をかけたが、ユリスは凜堂を見もせずに手早く荷物を纏めて席を立った。

 

「……すまないが、今日は用事がある」

 

「あ? そうなのか」

 

 凜堂の声に何も答えず、ユリスは足早に教室を出て行く。凜堂はユリスが通ったドアを不思議そうに見ていた。

 

「あらら。昔のお姫様に戻ったみたいだな」

 

「昔?」

 

 あぁ、と英士郎は頷く。

 

「あのお姫さん、お前が来る前はいっつもあんな感じだったんだよ。頑なに「私に関わるな」ってオーラ振りまいてさ。お前のお陰で少しは親しみやすくなってきたのにもったいねぇな」

 

「ふ~ん」

 

 かなり気になったが凜堂はユリスの後を追わず、クローディアに昨日のことを報告するために生徒会室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいす~」

 

「あら、凜堂。ごきげんよう」

 

 生徒会室に入ると、柔和な笑みを浮かべたクローディアが凜堂を迎えた。

 

「今日はどのようなご用件で?」

 

「あ~。昨日、ちょっとな。レヴォルフの馬鹿を使って連中がちょっかいかけてきてな。その事についての報告」

 

「えぇ、話だけは聞いています。ユリスとのデート中に大変でしたわね」

 

 デートじゃねぇよ、と凜堂は苦い表情を浮べながら頭を掻く。

 

「ま、確かに色々と大変だったな。見返りもあったけど」

 

「と、仰いますと?」

 

「犯人の目星がついた」

 

 寸の間、クローディアは凜堂の言葉に目を見開くが、すぐに視線を鋭くさせた。

 

「それは本当ですか?」

 

「多分、間違いないと思うぜ」

 

 凜堂は昨日の出来事と、犯人に関する根拠について話した。凜堂の話にクローディアは顎に手を当てて考え込む。

 

「なるほど……分かりました。こちらでも調べてみます。これでうまく解決できればいいのですが……」

 

 凜堂の憶測とはいえ、事件に進展があったというのにクローディアの表情は浮かないものだった。言葉尻もどこか濁っている。

 

「何か気になるのか?」

 

「このことはユリスに話しましたか?」

 

「いんや、話してない。でも、気付いてはいると思うぜ」

 

 ユリスは聡明だ。凜堂が教えずとも、昨日のやり取りで既に犯人に気付いているだろう。

 

「ユリスは今どこに?」

 

「知らん。用事があるとかでさっさと帰った……おいおい」

 

 ここに来て、凜堂はクローディアの懸念を悟った。ユリスの性格上、犯人の目星がついたら他人に任せる訳が無い。自身の手でけりをつけようとするはずだ。

 

「……これは、少々まずいかもしれませんね」

 

「いやいや、いくらリースフェルトでも直接問い詰めるようなことはしないだろ。証拠は無いんだぜ?」

 

「いえ、犯人はもう三回もユリスの襲撃に失敗しています。ユリスが自分から出てくれば、それこそカモがネギを背負ってきたとばかり……」

 

「……確かに、本格的にまずくなってきたな」

 

 思い当たる節があるようで、凜堂も表情を険しくさせていた。

 

「あいつ、今朝、手紙を見てたんだ。かなり真剣な様子で読んでたし、もしかしたら犯人から届いたもんだったのかも」

 

 クローディアの顔色が変わる。

 

「ともかく、今はユリスを探しましょう」

 

「探すったってどこを?」

 

 人工の島だが、アスタリスクの広さはかなりのものだ。その中から特定の人物を見つけ出すのは文字通り至難の業だ。クローディアは真剣な表情で空間ウィンドウを開き、アスタリスクの地図を表示させる。

 

「まず、寮に戻っているか確認します。もし、犯人がユリスを呼び出したのだとしたら、出来るだけ人目のないところを選ぶでしょう」

 

 それならある程度は場所を絞れる。空間ウィンドウを操作するクローディアに何か手伝えることはないか聞こうとしたその時、凜堂の携帯端末が軽快な音を奏で始めた。

 

「誰だよこんな時に……」

 

 小さく悪態をつきながら凜堂は端末を取り出した。もしかしたらユリスからかかってきたのかも、と考えたクローディアは手を止めて凜堂の手元に注目する。開かれた空間ウィンドウに表示されたのは僅かに眉を顰めた紗夜の顔だった。

 

『……凜堂、助けて』

 

「サーヤ? どした、そんな困り顔で?」

 

(困り顔?)

 

 空間ウィンドウに映し出された紗夜の顔を見ながらクローディアは小首を傾げる。少なくとも、彼女の目に映った紗夜の顔は困ってるように見えなかった。

 

『道に迷った』

 

 シンプルかつ切実な答えだった。

 

「本当にブレないなお前は……悪ぃ、今はお前を回収しに行ってる暇は無い。リースフェルトのほうで手一杯」

 

『……リースフェルトなら、ついさっき見かけたような』

 

 紗夜の言葉に二人は顔を見合わせる。

 

「本当か?」

 

『……うん、あの薔薇色の髪は間違いなくリースフェルト。どこかに急いでるみたいだった』

 

「サーヤ。リースフェルトを見たのはどの辺りだ? ってか、お前どこにいるんだ!?」

 

 凜堂の問いに紗夜は可愛らしく頬を膨らませる。

 

『それが分かってたら迷ったりしない』

 

 ぐぅの音も出ない正論だった。言葉に詰まった凜堂に代わり、クローディアが空間ウィンドウを覗き込む。

 

「失礼、凜堂。沙々宮さん周囲の景色を映してもらえますか?」

 

 不思議そうに首を傾げるが、紗夜はクローディアに言われたとおり、周辺の景色を映した。

 

「再開発エリアの外れ辺りですね。これならかなり場所を限定できそうです」

 

 流石は生徒会長。一目見てどこだか分かったようだ。

 

「サンキュ、サーヤ。助かった」

 

『……なら、私も助けて欲しい』

 

「そういやそうだった。お前、絶賛迷子だもんな……」

 

 困ったように凜堂は頭を掻く。出来れば、急いでユリスの元に行きたい。しかし、紗夜をこのまま放っておくのは彼女が余りにも可哀想だ。

 

「沙々宮さんのことならご心配なく。誰か迎えを手配しておきます。凜堂はユリスを助けてあげてください」

 

「頼んだ、ロディア」

 

 お任せください、と微笑みながらクローディアは次々に該当する場所を地図上にピックアップしていく。目を見張るような速さだ。

 

「にしてもリースフェルトの奴、何か一言くらい教えてくれてもいいのによ」

 

 ユリスの性格上、他人に任せないのは分かる。しかし、凜堂も何回かこの件に巻き込まれている。彼もユリスと同様、この事件の当事者だ。だからこそ、凜堂にもユリスと共に犯人を締め上げる権利があった。しかし、彼女はそうしなかった。

 

「やっぱ、俺みたいな軽薄な奴は信用できんのかね」

 

「逆だと思いますよ」

 

 地図から目を離さず、クローディアは凜堂の呟きに苦笑する。

 

「逆?」

 

「はい。以前にも言いましたよね? あの子、ユリスは自分の手の中のものを守るのに精一杯なのだと。きっと、凜堂もユリスの手の中に入ってしまったのでしょう」

 

「守る……あいつが……俺を?」

 

 出会って間もない、ああ言えばこう言う男を、平然と憎まれ口を叩く高良凜堂をユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは守ろうとしているのか? 他人が彼女の行動を見た時、どう思うのだろう?

 

 他者を守ろうだなんて傲慢だと嘲笑うだろうか。友人でもない者を守るなんてお人よしだと呆れるのか。少なくとも、凜堂はどちらでもなかった。彼の胸中にあるのはユリスへの敬意と憧憬だけだった。

 

 ユリスの気高さを敬い、憧れる。それと同時にある想いが彼の中で産声を上げた。太陽のように燦然と輝くユリスを汚そうとする者への怒りと、ありとあらゆる魔の手から彼女を守りたいという願い。

 

 その願いを自覚した瞬間、凜堂は夜の帳を裂くような光が頭の中に差し込んだのを感じた。

 

「……はは、こんなすぐ見つかるなんてな」

 

 探していたものを見つけた喜びを噛み締める凜堂。そんな主に呼応するかのように右目に宿った無限の瞳(ウロボロス・アイ)が微かに疼いた。

 

「できました!」

 

 声と同時にクローディアから地図が携帯端末に送られてくる。所々にマーカーが浮かんでいた。

 

「っしゃあっ!!」

 

「お待ちください。その前に」

 

 気合いを入れ、矢のように生徒会室から飛び出そうとする凜堂の背にクローディアが制止の声をかける。居ても立っても居られない様子で振り返った凜堂が見たのは女神のように微笑むクローディアだった。女神といっても、戦争や闘争といった類の女神だが……。

 

「あれの用意が出来ています。どうぞ、持って行ってください」




投稿、遅れた上に短くて申し訳ありません。モンハン4に嵌ってました。マジ楽しいあれ。ちなみに使用武器は操虫棍です。そろそろオンラインを始めようかな、なんて考えてます。

アスタリスク第四巻買いました。綺凛ちゃん可愛いよ綺凛ちゃん。膝の上に座らせてひたすら撫で撫でしたい……。どうでもいいけど、ユリスの兄貴のキャラ、どっかで見たなぁ、と思ってたんですがすぐに分かりました。ハイスクールD×Dのサーゼクスだ。

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