学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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危機

 あれを受け取った凜堂が矢の様に生徒会室から飛び出したその頃、ユリスは再開発エリアにある廃ビルの内の一つを訪れていた。

 

 解体工事中のそこはまだ夕暮れ時であるにも関わらず、逢魔が時の薄闇に支配されていた。一部の壁や床は所々朽ち果てており、陰気な雰囲気のそこを広く感じさせる。また、随所に廃材が置いてあり、死角になりうる箇所も多かった。

 

「……」

 

 無言でユリスは奥へと進んでいった。躊躇う素振りは微塵も無い。傾いた日が作り出す不気味な影模様も相まって、その表情は非常に険しく見えた。

 

 一番奥の区画へ足を踏み入れたその時、吹き抜けになった上階部分から大量の廃材が落ちてきた。星脈世代(ジェネステラ)であっても、少女一人を押し潰すには十二分な量だ。

 

「……咲き誇れ、隔絶の赤傘花(レッドクラウン)

 

 慌てるどころか、視線すら上げずにユリスは頭上に五角形の花弁を傘のように顕現させ、落下してきた廃材を跳ね除けた。弾かれた廃材はけたたましい音を上げながら地面へと散らばる。その際に発生した土埃が舞う中、ユリスは目元を険しくしてある一点を睨む。

 

「……こんな手紙まで寄越して私を呼び出したんだ。小細工は止めて、腹を括って出て来い。サイラス・ノーマン」

 

 屋上まで貫いた吹き抜けからは薄っすらと月光が降り注いでいる。立ち込める土埃に月の光が当たり、少しだけ神秘的に見えた。そんな中、その雰囲気にそぐわない少年が一人歩み出てくる。

 

「これは失礼。ちょっとした余興にでもと思ったのですが」

 

 口を動かしながら少年、サイラスは仰々しく頭を下げた。その仕草、妙に芝居がかっている。

 

「それにしても、僕が犯人だとよく分かりましたね」

 

 サイラスの言葉にユリスは嘲笑うように鼻を鳴らした。

 

「自分でも気付いてないのか? 愚かな奴だ。昨日、貴様自身が語ったではないか。自分が犯人だとな」

 

「昨日? そんな記憶はありませんが」

 

 一瞬、不愉快そうに表情を歪めるもサイラスは余裕を見せながら首を捻る。ユリスは感情の無い声で淡々と語った。

 

「商業エリアでレスターが私達に絡んできた時だ。高良がレスターを挑発しただろう? レスターはまんまと挑発にのって高良を殴り飛ばした。その時、お前はレスターを止めるためにこう言った」

 

『そ、そうですよ! 決闘の隙や話している最中を狙って攻撃するなんて卑怯な真似、レスターさんがするはずないってみんな分かってますから!!』

 

 一つ聞くぞ、とユリスは指を立てる。

 

「貴様は何故、襲撃者が決闘の隙を突いて襲ってきたことを知っていた?」

 

 凜堂とユリスの決闘。それ自体はともかく、その決闘の最中にユリスが狙撃されそうになったことは報道されていない。

 

「でも、二回目の襲撃はニュースになってたじゃありませんか。僕も見ましたよ」

 

 サイラスの言うとおり、二回目の襲撃はテレビで放送された。恐らく、アスタリスクのほとんどの学生がそのことを知っているだろう。

 

「あぁ、そうだな。確かにニュースになっていた。だが、そのニュースで報道されたのは私が襲撃者を撃退したということだけだ。沙々宮の名前はおろか、彼女が現場に居た事さえ伝えられなかった。だというのに、貴様は話している最中、と言った……何故、私と沙々宮が話していたことを知っている」

 

「……」

 

 サイラスは口を噤む。が、その事柄が示す事実は二つだけしかない。

 

「私と沙々宮が話していたことを知っているということは、あの時の現場を直接見たか、知らされたかのどちらかだ。いずれにしろ、犯人かその仲間しかありえん」

 

 違うか? と問うユリスをサイラスは底の見えない目で見つめる。

 

「成る程、そういうことですか。僕としたことが迂闊でした。とすると、あの時、彼がレスターさんを挑発したのもわざとですか」

 

「だろうな。あれは道化を装っているが、実際は相当に優秀だからな」

 

 と、何故か自慢げにユリスは胸を張る。

 

「となると、彼に狙いを変えたのは正解だったようですね。あなたを狙う上で彼はとても邪魔でしたから」

 

「……貴様!」

 

 事実、サイラスが凜堂に狙いを変えたのは成功だった。凜堂が狙われたという事実がユリスを誘い出すことを成功させたからだ。

 

「そう怖い顔をしないでください。あなたがわざわざここに来たのもそうさせないためでしょう?」

 

 余裕を見せるサイラス。その神経を逆撫でするような口振りにユリスは歯を噛み鳴らす。

 

 今朝、ユリスの机に入れられていた手紙には「これからはお前の周囲の人間を狙う。それが嫌ならこの場所に来い」という旨が書かれていた。

 

「ならば、さっさと済ませようではないか」

 

「そう焦らないで下さい。短期は損気ですよ? 僕としては話し合いで片付くのならそれに越した事はないと思っています」

 

 だからユリスをここに呼んだのだ。

 

「今更、何をほざいている。話し合いで済むと思っているのか?」

 

「ですから、話し合いで片付くならそれに越した事はないと言ってるじゃありませんか。僕としても真っ向からあなたと戦いたくは無いので」

 

 星辰力(プラーナ)を高めながら吐き捨てるユリスに対し、サイラスは余裕を崩さない。油断無くサイラスを睨みながらユリスは頭の中で考えを巡らせる。

 

 ここに来る前に簡単に調べたが、サイラスは序列外公式序列戦に参加したこともない。よって、記録が全く無いのでその実力は完全に未知数だ。それに加えて、襲撃者は最低でも三人はいた。その内の一人がサイラスでも、他に二人の仲間が居るという事になる。

 

「……よかろう。話だけは聞いてやる」

 

 ここは相手の出方を見るべきと判断し、ユリスは星辰力を収めた。

 

「それはよかった。実を言いますと、僕もあなたと同じ目的、お金を稼ぐためにここに来たのですよ。ですから、あなたとは気が合うと思いました」

 

 サイラスの言葉にユリスは殺意すら覚えたが、どうにか胸の中に押さえ込んで黙って話を聞き続ける。

 

「こちらの条件はあなたの『鳳凰星武祭(フェニックス)』の出場の辞退です。加えて、今回の一件で僕が無関係だということを証言していただけると嬉しいのですが」

 

「こちら側のメリットは?」

 

「あなたと高良凜堂くんの身の安全でどうでしょう?」

 

「寝言は寝て言え」

 

 ばっさりと斬り捨てた。

 

「そんなもの、今この場で貴様を丸焼きにすればいいだけのことだ。仮に私が黙っていたとしても、生徒会は貴様に辿り着いているはずだぞ」

 

 何せ、あのクローディアが生徒会長なのだからな、とユリスは口の中で囁く。基本、クローディアのことを苦手としているユリスだが、彼女がどれ程優秀なのかは知っていた。

 

「そっちはどうとでもなりますよ。僕がやったという証拠はありませんからね」

 

「大層な自信だ」

 

「事実ですから」

 

 涼しい声でサイラスが答えたその時、

 

「……こいつはどういうことだ、サイラスっ!!」

 

 低い声音に怒りを含ませながら割り込んできた大柄な人物にユリスは見覚えがあった。

 

「レスター?」

 

 大股にやってきたのはレスター・マクフェイルだった。反射的にユリスは身構えるが、レスターの怒りはユリスにではなくサイラスへと向かっている。

 

「やぁ、お待ちしていましたよレスターさん」

 

「ユリスが決闘を受けたと聞いたから駆けつけてみれば……今の話は本当か? 手前がユリスを襲っていた犯人だったのか?」

 

 さきのやり取りを聞いていたようだ。商業エリアの時と言い今と言い、妙にタイミングの良い(悪い?)男だった。レスターの怒気を孕んだ視線を受けて尚、サイラスは余裕を崩さない。

 

「えぇ、そうですが。それが何か?」

 

「何でそんな真似をしやがった!?」

 

「何でと言われましても。依頼されたからとしか僕には答えようがありませんね」

 

「依頼だと?」

 

 怒りに驚き、そして混乱と目まぐるしく表情を変えるレスター。一つため息を吐き、ユリスは百面相を浮べるレスターに説明してやる。

 

「こいつはな、どこぞの学園と内通して『鳳凰星武祭(フェニックス)』にエントリーしていた有力候補を襲っていたのだ。知っている……訳はないか」

 

「……」

 

 言葉も無いレスターを見て、ユリスはま、当然かと小さく呟いた。知っていれば、レスターはいの一番にサイラスを殴り飛ばしにいくだろう。そういう男だ。そんなレスターを嘲るようにサイラスは肩を竦める。

 

「僕は貴方方と違って、馬鹿正直に真正面からぶつかり合うような愚かな真似はごめんなんですよ。もっと安全、かつスマートな方法があるならそちらを選択するのが普通でしょう?」

 

「それが同じ学園の仲間を売ることであってもか?」

 

「仲間? ご冗談を」

 

 愉快そうにサイラスは笑った。

 

「ここにいる者は皆敵同士ではありませんか。チーム戦やタッグ戦で一時的に手を組むことがあるとはいえ、基本的には誰かを蹴落として這い上がろうとする。貴方方序列上位の方はそれをよく知っているでしょう? 血と汗を流してそれなりの地位を掴んでも、今度はその立場を付け狙われる。僕はそのような煩わしい生活、ごめんなんですよ。同じくらい稼げる方法があるなら、目立たずひっそりとやれるほうが余程賢い。そうは思いませんか?」

 

「……まぁ、貴様の言うことも一つの真理だな。確かに我々は同じ学園に所属しているとはいえ、仲良しこよしのグループではないし、名前が知れ渡れば鬱陶しいのが湧いてくるのも事実だ」

 

「おい、ユリス……!」

 

 心当たりありまくりで顔を顰めるレスター。レスターを無視し、ユリスは続ける。

 

「だが……決してそれだけではない」

 

「おや、これは意外。てっきり、貴方は僕に近い人間だと思っていましたが」

 

「ほざけ。貴様のような下種と一緒にするな」

 

 心底不愉快そうにユリスはサイラスを睨む。

 

「ぶちのめす前に聞いておくぜ、サイラス。何でこの場に俺様を呼び出した? まさか、俺様がお前に味方するとでも思ったのか? お前はそこまでの馬鹿じゃねぇはずだ。何が目的だ?」

 

「貴方は保険ですよ、レスターさん。もし、ユリスさんとの交渉が決裂したら誰か代わりに犯人役をやってもらう人が必要ですからね」

 

「……手前、頭でも打って馬鹿になったのか? 俺様がはいそうですか、なんて引き受ける訳ねぇだろ」

 

「心配後無用ですよ。二人揃って何も喋られなければ、後は適当に筋書きを書けばいいだけの話です。そうですね……決闘で二人仲良く共倒れ、というのが最も無難でしょうか」

 

 その台詞でレスターは完全に切れたようだ。

 

「面白ぇ……手前のちんけな能力で俺様を黙らせられるっていうなら、是非ともやってもらおうじゃねぇか」

 

 そう言いながらレスターは煌式武装を取り出す。現れるのはレスターの巨体に負けず劣らずのサイズの戦斧、『ヴァルディッシュ=レオ』だ。

 

「レスター、迂闊に仕掛けるなよ。何をしてくるか分からんぞ。奴も『魔術師(ダンテ)』なのだろう?」

 

 気の許せる仲ではないが、無視するわけにもいかずユリスは忠告する。

 

「あいつの能力は物体操作だ。そこらの鉄骨を振り回すので精一杯だろうよ。それよりもユリス、手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

 

 言うや、レスターは地を蹴ってサイラスに肉薄する。瞬きする間にサイラスとの距離を詰めると、巨大な光の三日月斧を振り下ろした。

 

「くたばりやがれっ!!」

 

 だが、光の刃がサイラスに届く寸前、

 

「何っ!?」

 

 前触れなしに吹き抜けから降ってきた黒尽くめの大男が二人の間に割って入り、ヴァルディッシュ=レオの一撃を受け止めていた。それも素手で。

 

「何だこいつは!?」

 

 更に驚くべきはレスターが渾身の力を込めているにも関わらず、大男がびくともしないことだ。力なら星導館学園随一と自負しているレスターにとって衝撃的だったし、その威力を知っているユリスも目を見張らざるを得なかった。驚きの表情を浮べながらレスターは一度、大きく距離を取る。

 

「へっ、そいつがご自慢のお仲間か!」

 

「仲間? いえいえ、違いますよ」

 

 サイラスが指を鳴らす。すると、大男に続いて黒尽くめの二人が姿を現した。

 

「こいつらは僕の可愛い人形ですよ」

 

 男達が衣服を脱ぎ捨てる。その下にあったのは人形と呼ぶに相応しい造詣のものだった。顔は双眸部分だけに窪みがあり、それ以外は口も鼻も無い。目を埋めてしまえば、完全にのっぺらぼうだ。関節は球体で繋がれていて、強いて言えばマネキンに近い。

 

「人形……成る程、そういうことか。それが貴様の本当の能力と言う訳か」

 

 何故、襲撃者の気配をギリギリまで感じ取れなかったのか。その答えは目の前にある。その襲撃者が無機物(にんぎょう)だからだ。最初から殺気も敵意も発してないのだから、感じ取りようがない。

 

「サイラス、手前、隠してやがったのか!? 自分じゃナイフを操るのが関の山だとほざいてやがったくせに……!」

 

「まさかそれを信じていたのですか? 冷静に考えてみてくださいよ、レスターさん。わざわざ、手の内を見せる馬鹿がどこにいるんですか?」

 

 出来の悪い生徒に諭すようにサイラスは言う。

 

「レスターさんの言うとおり、僕の能力は印を刻んだ物体に万能素(マナ)で干渉して操作すること。それが無機物である以上、どんなに複雑な構造をしていても自在に操ることが可能です。まぁ、このことを知っている人間はこの学園にいませんがね」

 

 サイラスの自分が犯人だとばれない自信の根拠。ユリスにもそれが理解出来た。

 

「ターゲットを人形どもに襲わせていたか。貴様の能力のことを知らなければ、誰も貴様に辿り着く事は出来ないな」

 

 凜堂の話を思い出す。サイラスには完璧なアリバイがあり、襲撃することは不可能だと。しかし、この能力があるのなら話は別だ。どれ程の距離まで能力が有効かは分からないが、状況さえ掴んでいれば現場にいる必要はない。人形にカメラを仕込んでいればどうとでもなる。

 

「くだらねぇ!! そんなもん、この場で手前をぶちのめして風紀委員なり警備隊なりに突き出せばそれで終わりだ!!」

 

「それは貴方達がここを無事に出られればの話でしょう?」

 

「いいぜ、次は本気でいかせてもらう……!」

 

 レスターが星辰力を高めると、ヴァルディッシュ=レオの刃が二倍ほどに膨れ上がった。ユリスにも見覚えがある。レスターの流星闘技(メテオアーツ)だ。

 

「ぶっ飛べ! 『ブラストネメア』!!」

 

 裂帛の咆哮と共に放たれた一撃は人形三体を纏めて吹き飛ばした。豪快な破砕音を上げて柱に激突し、人形と柱の破片が散らばり、砂埃が舞い上がる。人形三対を受け止めた柱には幾つもの亀裂が走っている。

 

 『ブラストネメア』を受け、人形の内二体は完全に壊れたようだ。手足が千切れ、あり得ない方向に捻じ曲がっている。もしこれが人間なら相当悲惨な光景になっていただろう。

 

 そんな中、大男型の人形は何事もなかったかのように柱から体を引き剥がし、レスターと相対した。ボディに罅こそ走っているが、それ以外のダメージは無さそうだ。

 

「ほう、丈夫な奴もいるみてぇだな」

 

 レスターは戦斧を肩に担ぎながらにやりと笑う。

 

「そいつは対レスターさん用に用意した重量型ですからね。そんなにやわじゃありませんよ。体格も武器も貴方に合わせてあります」

 

「いざって時、俺様に罪を着せるためか。ってことは、そっちの人形にはクロスボウを持たせてランディに仕立てるつもりだな」

 

「そんなとこですね」

 

「そいつはご苦労なこった。でも、残念だったな。そいつは無駄になるぜ!!」

 

 もう一撃、レスターは重量型に叩き込もうとするが、

 

「っ!?」

 

 新たに柱の影から現れた二体の人形がクロスボウ型の煌式武装を構え、レスターに光弾の雨を浴びせた。

 

「ぐあああああっっ!!」

 

「レスター!」

 

 見ているわけにもいかず、ユリスは飛び出したが、それを阻むように新たな人形が二体飛び出てくる。

 

「貴方はそこで大人しくしててください。そうそう、そいつらも特別仕様でしてね。貴方用に耐熱仕様にしているんですよ」

 

 ユリスを包囲するように更に三体の人形が現れる。その手には剣型の煌式武装が握られている。ユリスも細剣『アスペラ・スピーナ』を起動させた。

 

「ぐぅ……汚ぇ不意打ちくらいしか出来ねぇみたいだな」

 

 一方、不意打ちを受けたレスターは苦しげな表情でサイラスを睨んでいた。咄嗟に星辰力を防御に回したらしく、無傷とまではいかないものの致命傷は免れたようだ。未だに闘志は萎えておらず、メラメラと燃え上がっている。

 

「こんな木偶の坊共が何体かかってこようが、俺様の敵じゃ」

 

「やれやれ……レスターさん。貴方は何も理解していない」

 

 次の瞬間、レスターの目の前に人形が一体降ってきた。吹き抜けから飛び降りた人形に続き、一体、また一体と増えていく。レスターは忌々しそうな表情でその光景を見ていたが、その表情は驚愕、そして恐怖へと変わっていった。それはユリスも同様だった。

 

「こいつら、何体いるんだ……」

 

 現れた人形の数は十や二十ではない。

 

「何体かかってきても? なら、お望み通りにしてあげましょう。僕が操れる最大数、百二十八体でね」

 

「ひゃく、にじゅう……」

 

 絶望の表情を浮べるレスターを見下ろしながらサイラスは満足そうに頷く。

 

「その表情、そういった貴方の顔が見たかった。では、御機嫌よう」

 

 サイラスが腕を一振りすると、人形達がレスターに殺到する。

 

「止めろ!!」

 

 ユリスは強引に囲みを突破しようとするが、数の差がそれを許さない。一対一ならともかく、連携されるとどうしても防御に回らざるを得ない。

 

 酷薄な笑みを浮かべるサイラスの背後からレスターのくぐもった悲鳴が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。

 

「ご安心を。もうしばらく息をしてもらわないと困りますからね。レスターさんを倒したのは貴方という事にしないといけませんからね。適当に火種を」

 

「咲き誇れ、呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!!」

 

 サイラスの言葉を最後まで聞かず、ユリスは細剣を振るって魔方陣を描く。そこから熱風が吹き荒れたかと思うと、その魔方陣を食い破るように焔の竜が現れた。

 

「それは初めて見ましたね」

 

 サイラスが感心したように呟くがそれを意に介さずユリスは細剣を振り、焔竜に指示を出す。焔竜は咆哮で大気を震わせながら進行方向にいる人形を纏めて噛み砕いた。

 

「おぉっ!?」

 

 耐熱仕様にした人形も焔竜の圧倒的な攻撃力の前には無力だった。

 

「これは大したものですね。序列五位は伊達じゃない、ということですか……!」

 

 サイラスは慌てずに距離を取り、再び指を鳴らした。

 

「しかし、多勢に無勢であることに変わりはない!」

 

 竜の顎をかわした人形五体がユリスに迫る。

 

「くっ!」

 

 ユリスは細剣で人形の攻撃を防ぐが、竜のコントロールに集中力のほとんどを割いているため、その動きは鈍かった。

 

「舐めるな!!」

 

 一体を蹴り飛ばし、背後から迫ってきた人形の腹部に細剣を突き立てる。だが、その人形はユリスの攻撃を無視してしがみついてきた。

 

「何っ! 捨て身か!?」

 

「人間ではありませんからね。普段と同じ様に戦っているとそうやって足下を掬われますよ!」

 

 サイラスが腕を振る。彼の前に並んだ人形達が銃を構える。

 

「くっ!」

 

 焔の竜を盾にすべく呼び戻すが、光弾がユリスに届く方が早かった。光弾がユリスの太腿を撃ち抜く。痛みにユリスが膝を突くと、間髪入れずに二体の人形が両腕を抱えて壁へと抑えつけた。

 

「貴方の能力は強力ですが、貴方自身の視界までも塞いでしまうのが難点ですね」

 

「流石に、よく観察しているではないか」

 

 痛みに顔を引き攣らせながらユリスは笑みを浮かべてサイラスを見る。

 

「だが、私にも一つ分かったぞ」

 

「なんです?」

 

「貴様の背後にいるのがアルルカントだということだ」

 

 サイラスの顔から笑みが消えた。

 

「この人形共、特別仕様だそうだな。だが、私やレスターの攻撃に耐えられる装甲をどこから調達した? まして、この数だ。技術的に考えて、アルルカンと以外の学園には不可能だろう」

 

「ご明察。ですが、そこまで知られてはいよいよ見逃すわけにはいかなくなりました」

 

「もともと見逃すつもりなどないくせによくほざく」

 

 サイラスは無言でユリスに歩み寄ると、太腿の傷を思い切り蹴り付けた。

 

「ぐぅぅぅっっ!!」

 

「貴方もレスターさんと同じ様にもう少し嬲ろうかと思ってましたが、気が変わりました。さっさと終わらせましょう」

 

 悲鳴を漏らさないように歯を食い縛るユリスに背を向け、離れながら片手を上げる。一体の巨大な人形がユリスに戦斧を向ける。

 

「……っ」

 

 振り下ろされる戦斧。反射的に目を瞑るユリス。その時だ。

 

「色々と大変そうだな。リースフェルト」

 

 涼やかな声がユリスの耳に届いた。目を開けば、ここにはいないはずの少年の顔が視界に映る。

 

「高良!?」

 

 飄々とした笑みを浮かべながら凜堂はよっ、と軽く手を上げた。




どうも、僕からのお年玉です。





はい、すみません調子こきました。腹掻っ捌いて死にます。







まぁ、冗談はさてとして、待っていたという稀有な方がいたら申し訳ございません。ちょっと、色々とありまして投稿遅れました。読んでもらえれば嬉しいです。次は近い内に投稿できるよう努力します。では。









あぁ、それと明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしまっす。

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